弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1社会保険庁長官が平成20年3月24日付けで原告らに対してした遺族厚生
年金不支給決定を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
本件は,原告らが,その長男であるP1が厚生年金保険の被保険者である間
に初診日がある○により当該初診日から起算して5年を経過する日以前に死亡
したとして,遺族厚生年金の受給権の裁定請求(以下「本件請求」という。)
をしたところ,社会保険庁長官(当時)から,P1が厚生年金保険の被保険者
である間に初診日のある傷病と死亡の原因となった傷病との間の因果関係は認
められないとして,遺族厚生年金を支給しない旨の処分(以下「本件処分」と
いう。)を受けたことから,その取消しを求めている事案である(なお,平成
22年1月1日の日本年金機構法の施行に伴い,処分行政庁の地位が社会保険
庁長官から厚生労働大臣に承継された。)。
1関係法令等の定め
(1)厚生年金保険法
ア厚生年金保険法(以下「厚年法」という。)58条1項2号は,遺族厚
生年金は,「被保険者であった者が,被保険者の資格を喪失した後に,被
保険者であった間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して5年
を経過する日前に死亡したとき」に,その遺族に遺族厚生年金を支給する
と定めている。
なお,厚年法47条1項は,「傷病」について,疾病又は負傷及びこれ
らに起因する疾病と定義し,「初診日」について,傷病につき初めて医師
又は歯科医師(以下「医師等」という。)の診療を受けた日と定義してい
る。
イ厚年法59条1項は,遺族厚生年金を受けることができる遺族は,被保
険者又は被保険者であった者の配偶者,子,父母,孫又は祖父母であって,
被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時その者によって生計を維持
したもの(以下「生計維持関係」という。)とすると定めている。また,
同条4項は,同条1項の規定の適用上,被保険者又は被保険者であった者
によって生計を維持していたことの認定に関し必要な事項は政令で定める
と定めている。
(2)厚生年金保険法施行令
厚生年金保険法施行令(以下「施行令」という。)3条の10は,厚年法
59条1項に規定する被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時その者
によって生計を維持していた配偶者,子,父母,孫又は祖父母は,当該被保
険者又は被保険者であった者の死亡の当時その者と生計を同じくしていた者
であって厚生労働大臣の定める金額以上の収入を将来にわたって有すると認
められる者以外のものその他これに準ずる者として厚生労働大臣の定める者
とすると定めている。
施行令3条の10を受けて,厚生労働大臣は,上記の厚生労働大臣の定め
る金額を年額850万円と定めている(平成6年11月9日庁保発第36号
各都道府県知事あて社会保険庁運営部長通知)。
なお,現時点で,施行令3条の10にいう「その他これに準ずる者として
厚生労働大臣の定める者」について規定した厚生労働大臣の定めはない。
(3)生計維持要件に関する通達の定め等
厚年法59条4項,施行令3条の10にいう被保険者又は被保険者であっ
た者によって生計を維持したものであること(以下「生計維持要件」という。)
については,「生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて」(昭
和61年4月30日庁保険発第29号社会保険庁年金保険部国民年金課長・
社会保険庁年金保険部業務第一課長・社会保険庁年金保険部業務第二課長通
知。平成6年2月9日庁文発第3235号による一部改正後のもの。以下「本
件通達」という。)が発せられている。
本件通達は,原則として,以下のア及びイを満たす場合に,遺族厚生年金
の受給権者と死亡した被保険者又は被保険者であった者との間に生計維持関
係があるものと認定するものとすると定めている。
ア生計同一要件
本件通達は,遺族厚生年金の受給権者(生計維持認定対象者)が死亡し
た者の父母,孫又は祖父母である場合には,原則として,以下の生計同一
要件に該当する者は生計を同じくしていた者又は生計を同じくする者に該
当するものとすると定めている。
(ア)住民票上同一世帯に属しているとき
(イ)住民票上世帯を異にしているが,住所が住民票上同一であるとき
(ウ)住所が住民票上異なっているが,次のいずれかに該当するとき
a現に起居を共にし,かつ,消費生活上の家計を一つにしていると認
められるとき
b生活費,療養費等について生計の基盤となる経済的な援助が行われ
ているとき
イ収入要件
本件通達は,以下の場合のいずれかに該当する者は厚生労働大臣の定め
る金額(年額850万円)以上の収入を将来にわたって有すると認められ
る者以外の者に該当するものとすると定めている。
(ア)前年の収入が年額850万円未満であること
(イ)前年の所得が年額655万5000円未満であること
(ウ)一時的な所得があるときは,これを除いた後,上記(ア)又は(イ)に
該当すること
(エ)上記(ア),(イ)又は(ウ)に該当しないが,定年退職等の事情により
近い将来収入が年額850万円未満又は所得が年額655万5000
円未満となると認められること
2前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨
により容易に認められる事実)
(1)当事者等
アP1は,昭和▲年▲月▲日に出生し,P2株式会社等3社での勤務を経
た後,平成15年12月15日から平成18年7月25日まで,P3株式
会社(以下「P3」という。)で勤務しており,その間,厚生年金保険の
被保険者であった。(乙1,5)
イ原告P4及び原告P5は,P1の両親である。
原告らとP1は,千葉県市川市α×番9号で原告P4を世帯主として同
居していたが,P1は,平成12年12月10日,同市β×番5号所在の
γ×号(以下「転居前居室」という。)に転居するとともに,同月21日
の住民届出をもって世帯を独立させた。(乙1)
他方,原告らは,平成13年3月16日,上記住所から同市α×番10
所在のδ(以下「本件マンション」という。)×号室に転居した。(乙1)
また,P1は,平成13年3月23日,転居前居室から本件マンション
××号室に転居した。(乙1)
なお,原告らの二男であるP6は,平成16年9月2日,前住所から本
件マンション×号室に転居した。(乙1)
以上の住民票の記載につき,本件処分時までは,平成▲年▲月▲日にP
1の死亡届出がされた以外に異動はない。
ウ原告P4の平成18年1月1日から同年12月31日までの総所得金額
は,490万1462円であり,給与所得が150万円,不動産所得が3
40万1462円であり,原告P5の同時期の総所得金額は116万40
00円であった。
なお,原告P4の平成18年度の国民年金受給額は年77万4164円
であった。
(以上につき,乙1)
(2)P1の病状及び死亡に至る経緯等
アP1は,平成▲年▲月▲日,左胸部痛を訴え,医療法人P7医院(以下
「P7医院」という。)を受診した。(甲3の1,乙1,3)
その際,P7医院のP8医師は,P1の胸部レントゲンを実施し,医療
法人P9病院(以下「P9病院」という。)にP1の胸部単純CT撮影及
び画像の読影を依頼した。
イP9病院P10医師は,平成▲年▲月▲日,P1の胸部単純CT撮影を
実施した結果,同人の両肺につき,○があると診断し,その所見として右
中葉,左舌区,左下葉に線状影が認められるとし,他方,その他,両肺の
明らかな○及び○,明らかなリンパ節腫大,胸水,CT描出範囲内の上腹
部臓器の著変の所見はいずれも認められないとした。
P8医師は,上記胸部単純CT撮影結果(別紙CT画像写し①。以下「C
T画像①」という。)を踏まえ,P1につき左胸部の○と診断した。
なお,P1は,平成▲年▲月▲日にP7医院を再診した後,同医院を受
診していない。(甲7の2)
ウP1は,平成▲年▲月▲日,社団法人P11診療所(以下「P11診療
所」という。)において,P12組合主催の定期健康診断(以下「本件定
期健診」という。)を受けた。
P11診療所は,本件定期健診の結果,P1につき,①白血球数が基
準値よりも多かったため,一般的に感染症の場合に白血球数が増加するこ
とから,直ちに病院で医療を受ける必要がある,②尿糖,尿蛋白,空腹
血糖が基準値の範囲外であったため,○の疑いがあると判断し,P1に対
し,①白血球数につき要医療,尿蛋白,糖代謝(空腹血糖)につき要精
密検査となったことから,産業医・主治医等に相談し適切な処置を採るこ
と,②BMI(肥満1度),血圧,肝機能,脂質についても産業医・主
治医等に相談することを求める旨の健康診断結果を通知した。
なお,本件定期健診の結果,基準値の範囲外の数値を示した項目・数値
及びP1の過去の定期健康診断時の項目・数値との対比は,以下のとおり
である。
(以上につき,甲4,乙1,3)
(ア)白血球数(基準値:3900~9800/ul)
平成▲年▲月▲日定期健康診断時8300/ul
平成▲年▲月▲日定期健康診断時8400/ul
本件定期検診時15200/ul
(イ)尿糖
平成▲年▲月▲日定期健康診断時(-)
平成▲年▲月▲日定期健康診断時(-)
本件定期検診時(+)
(ウ)尿蛋白
平成▲年▲月▲日定期健康診断時(-)
平成▲年▲月▲日定期健康診断時(-)
本件定期検診時(+)
(エ)空腹血糖(基準値:109㎎/dl)
平成▲年▲月▲日定期健康診断時105㎎/dl
平成▲年▲月▲日定期健康診断時なし
本件定期検診時179㎎/dl
(オ)BMI(基準値:22.0)
平成▲年▲月▲日定期健康診断時28.9
平成▲年▲月▲日定期健康診断時28.7
本件定期検診時28(肥満1度)
(カ)血圧
平成▲年▲月▲日定期健康診断時126/86
平成▲年▲月▲日定期健康診断時134/90
本件定期検診時146/86
(キ)肝機能(GPT)(基準値:5~35IU/1)
平成▲年▲月▲日定期健康診断時52IU/1
平成▲年▲月▲日定期健康診断時54IU/1
本件定期検診時53IU/1
(ク)脂質(中性脂肪)(基準値:30~149㎎/dl)
平成▲年▲月▲日定期健康診断時301㎎/dl
平成▲年▲月▲日定期健康診断時207㎎/dl
本件定期検診時196㎎/dl
エP1は,平成▲年▲月▲日,医療法人P13病院(以下「P13病院」
という。)を受診し,①3週間前から食事をすると胃の辺りがごろごろ
したり,少し腹が張ったりし,腰の辺りが圧迫されている様な痛みがある
こと,②2か月ほど前から腹部膨満感,両側腰部圧迫感があること,③
その他,心窩部違和感があることを訴えた。
P13病院のP14医師は,同日,P1に対して実施した血液検査,腹
部レントゲン撮影及び上腹部単純CT撮影等を受けて,P1につき,①○
(疑),②○,③○と診断し,更なる精査・加療のため,P15病院を紹
介した。
オP1は,平成▲年▲月▲日,P15病院を受診し,血液検査で黄疸,肝
胆道系酵素の上昇が認められたため,腹部超音波検査及び腹部CT検査(別
紙CT画像写し②。以下「CT画像②」という。)を受けたところ,P1
6医師より,約5㎝大の○であると診断され,P15病院に入院した。(甲
5の1,2,乙1,3)
P1は,化学療法を受け,一時退院してP15病院に外来通院していた
が,病状が悪化したため,平成▲年▲月▲日にP15病院に再入院してい
たものの,同年▲月▲日,○を直接死因として死亡した。
(3)本訴提起に至る経緯等
ア原告らは,平成20年2月19日,社会保険庁長官に対し,遺族厚生年
金の受給権につき本件請求をした。
社会保険庁長官は,平成20年3月24日付けで,原告らに対し,厚生
年金保険被保険者期間中に初診日のある傷病と死亡の原因となった傷病と
の間に因果関係は認められないとして,遺族厚生年金を支給しない旨の本
件処分をし,その旨を通知した。
イ原告らは,平成20年5月23日,本件処分を不服として,千葉社会保
険事務局社会保険審査官に対し審査請求をしたが,同審査官は,同年10
月8日,これを棄却する旨の決定をした。
これに対し,原告らは,平成20年12月5日,社会保険審査会に対し
再審査請求をしたが,同審査会は,平成21年3月31日,これを棄却す
る旨の裁決をした。
ウ原告らは,平成21年9月25日,本件訴えを提起した。(顕著な事実)
(4)収入要件について
原告らの平成18年の収入は,合計849万5626円であり,平成18
年の所得も,上記(1)ウのとおり,原告P4の所得が490万1462円,原
告P5の所得が116万4000円の合計606万5462円である。(乙
1。収入要件につき被告は争うことを明らかにしていない。)
3争点
(1)初診日要件
P1の○の初診日が,平成▲年▲月▲日といえるかどうか。
(2)生計同一要件
ア処分理由の差替えの可否
本件処分時の処分理由となっていなかった生計同一要件の有無を本訴に
おいて主張することの可否。
イ生計同一要件の有無
原告らがP1と生計を同一にしていたといえるか否か。
4争点に関する当事者の主張の要旨
(1)争点(1)(P1の○の初診日が,平成▲年▲月▲日といえるかどうか)に
ついて
(原告らの主張の要旨)
ア厚年法58条1項2号について
厚年法58条1項2号にいう「被保険者であつた間に初診日がある傷病」
とは,被保険者期間中の初診日において,医師が現実に診断した傷病名に
かかわらず,当該医師の診察ないし診療の結果によって客観的に明らかに
なり得る傷病と解するべきであり,「初診日」とは診療ないし治療を受け
た日をいい,当該傷病の具体的治療行為等を要しないと解すべきである。
このように解すべきことは,厚年法47条1項本文,58条1項2号の
文理のほか,そう解さなければ,医師によって正確な傷病名を診断できな
かった場合,誤診により誤った傷病名を診断した場合や傷病を見落とした
場合に,遺族は遺族厚生年金の支給を受けられず,厚年法1条の趣旨に反
することになること,このように解しても,裁定機関の認定判断の客観性
を十分担保し,その認定判断の画一性・公平性を確保することは可能であ
ることから明らかである。
イP1の厚年法58条1項2号の該当性
(ア)P1の平成▲年▲月▲日の傷病について
P1の平成▲年▲月▲日及び同年▲月▲日に撮影されたCT画像によ
れば,いずれにおいても○の存在が認められ,これはいずれも○によっ
て生じたといえる。すなわち,①上記2つの○は局在位置がほぼ同一
であるところ,その大きさが異なるのは,○の進行度合いも考慮すれば,
前者の○が,10か月程度経過して,○の増大に伴い○閉塞を来したこ
とによって二次的に貯留嚢胞が増大し,後者の○になったと考えること
が自然であり,前者の○は○の萌芽といえること,②この○の発生原
因としては○,○又は○が考えられるところ,P1が○及び○に罹患し
ていたことはなく,○が発生原因と考えられることからすると,両者の
○はいずれも○によって生じたものといえる。
さらに,P1は,平成▲年▲月▲日の本件定期健診の際には,白血球
数と血糖値に異常値が認められており,これは○による○を生じ,尾側
の○が萎縮したため○内分泌機能の低下を招いた結果である可能性が高
い。
以上からすると,P1は,平成▲年▲月▲日,P7医院を受診した際,
○に罹患していたと認められる。
(イ)平成▲年▲月▲日の「初診日」該当性
P1が,P7医院を受診した際に作成された平成▲年▲月▲日付けの
CT画像と同年▲月▲日の本件定期健診結果は,いずれも客観的に同人
がP7医院受診当時に○に罹患していたことを裏付ける資料であるから,
P1は,同年▲月▲日,P8医師によって○部分も調べられていたと評
価することができ,同日が厚年法58条1項2号の「初診日」に該当す
る。
なお,仮に,厚年法58条1項2号の「初診日」について,受診当時
の医学的資料から死亡原因となった傷病を認定できることに加え,被保
険者の主訴によって医師等が当該傷病を診察したことが必要であると解
した場合であっても,P1は,平成17年夏頃から,原告P5に対して
○の一般的臨床所見である上腹部・腰背部の疼痛,体重減少,食欲不振,
全身倦怠感,悪心・嘔吐等を訴えていたことからすると,平成▲年▲月
▲日の受診の際も,P8医師に○の諸症状を訴えていたというべきであ
り,やはり同日が「初診日」に該当する。
ウ小括
以上のとおり,P1は,被保険者期間中の平成▲年▲月▲日を初診日と
して同人の死因となった○について医師の診察を受けていたのであるから,
原告らにおいて厚年法58条1項2号の遺族厚生年金の受給要件を満たす。
なお,遅くてもP1は本件定期健診を受けた平成▲年▲月▲日当時には
○を発症していた可能性が高いのであるから,この当時P1が○に罹患し
ていたことを否定した本件処分はこの点においても違法である。
(被告の主張の要旨)
ア厚年法58条1項2号について
厚年法58条1項2号にいう「初診日」とは死亡の原因となった傷病に
ついて初めて医師等の診療(具体的な治療行為又は療養の指示)を受けた
日をいい,「被保険者であった間に初診日がある傷病により」死亡したと
は,被保険者であった期間に初めて医師等から傷病に関する具体的な治療
行為又は療養の指示を受け,当該傷病を原因として死亡したことをいうと
解すべきである。
これに対し,原告らは,上記アのとおり,「初診日」とは診療ないし治
療を受けた日をいい,当該傷病の具体的治療行為等を要しないと主張する。
しかし,原告らの上記主張は,明らかに厚年法47条1項本文,58条
1項2号の文理に反するし,裁定機関の認定判断の客観性を担保するとと
もに,その認定判断が画一的かつ公平なものとなるよう,傷病の発症日で
はなく,当該傷病につき医師等の診療を受けた日(具体的な治療行為又は
療養の指示があった日)をもって遺族厚生年金の支給要件とした厚年法5
8条1項2号の趣旨にも反する。
また,厚年法58条1項2号は,死亡原因となった傷病と初診時の診断
名が一致していることまでは要求していないし,原告らが上記アで指摘す
るような正確な傷病名が確定できなかったり,誤診があったとしても,当
該受診時の被保険者の主訴,客観的所見,診療内容等に照らし,医学的経
験則に基づき,当該受診時に死亡の原因となった傷病に関する具体的な治
療行為又は療養の指示を受けたと認め得るのであれば,同号の支給要件は
充足されるので,何ら不都合はない。
事後的,客観的にみて,医師等を受診した際に死亡の原因となった傷病
が生じていたにもかかわらず,当該傷病に対する具体的な診療が行われな
いという事態が生じ得ることは否定できず,その場合,被告主張の厚年法
58条1項2号の解釈では遺族厚生年金の支給要件を充足しないことにな
るが,このような帰結は厚年法が予定しているところである。
イP1の厚年法58条1項2号の該当性
P1の厚生年金の被保険者期間は,平成15年12月15日から平成1
8年7月26日までの間であるところ,P1は,同年▲月▲日,P13病
院を受診した際に初めて,医師から○に関する具体的な治療行為又は療養
の指示を受けたのであって,それ以前の同年▲月▲日又は同年▲月▲日の
時点で,○ないしそれに起因する疾病について,医師から具体的な治療行
為又は療養の指示を受けていたとは認められない。
また,原告らが上記イ(ア)で指摘するように平成▲年▲月▲日及び同年
▲月▲日に撮影されたCT画像に描出された○の位置がほぼ同一であった
というだけでは,同年▲月▲日の○が○の萌芽であったとするには飛躍が
あるし,その他このCT画像や同年▲月▲日の本件定期健診の結果に○の
所見は認められない。
仮に原告らが上記主張の根拠としている平成▲年▲月▲日に撮影された
CT画像上に描出された○が○に起因する所見であり,また,同月▲日,
客観的にP1が○に罹患していたとしても,P1は,同日,左胸部痛を訴
えてP7医院を受診したのであって,○ないしそれに起因する症状により
同医院を受診したのではないから,上記受診がP1の○の「初診日」であ
るということはできない。
また,本件定期健診を受けた平成▲年▲月▲日の時点においても,P1
は要医療の指示を受けた事項は白血球数についてのみであり,要精密検査
の指示を受けた事項は尿糖,尿蛋白及び糖代謝(空腹血糖)についてのみ
であるから,この時点においてもP1が医師から○に関する具体的な治療
行為又は療養の指示を受けたとは認められず「初診日」に当たらない。
ウ小括
以上のとおり,P1は,被保険者であった間に初診日がある傷病により
当該初診日から起算して5年を経過する日前に死亡したとはいえず,厚年
法58条1項2号には該当しない。
(2)争点(2)ア(処分理由の差替えの可否)について
(原告らの主張の要旨)
被告は,争点(2)イにおいて,原告らは生計維持要件を欠き,厚年法59条
1項本文の「遺族厚生年金を受けることができる遺族」に該当しない旨主張
しているが,これは,本件処分,審査請求棄却決定及び再審査請求棄却裁決
のいずれにおいてもその存否について何ら判断がされておらず,本訴提起後
に,被告が初めて主張し始めたものである。
このように,行政庁が第一次判断権を行使していない別の処分理由を主張
して,本件処分を適法とするのは,処分の同一性を害し,取消訴訟の訴訟物
の範囲を超えるというべきである。
また,行政庁は,上記厚年法59条1項本文の実体要件の存否について第
一次判断権を行使する義務に違反していたにもかかわらず,そのような行政
庁において,上記実体要件を充足しないことを新たな理由として主張し,本
件処分を維持することは許されないというべきである。
よって,争点(2)イにおける被告の主張は,排斥すべきである。
(被告の主張の要旨)
処分の取消訴訟の訴訟物は処分の違法性一般であり,単一の処分を正当化
する個々の処分理由は攻撃防御方法としての意味しか有せず,このような攻
撃防御方法の提出は当事者の自由な権能に属するのが民事訴訟の建前である
から,被告は,特別の根拠のない限り,取消しを求められている行政処分そ
れ自体の適法性の根拠となる一切の事実を主張できると解すべきである。
本件において,原告らが生計維持要件を満たさず厚年法59条1項の「遺
族」に該当しないという事実は,本件処分それ自体の適法性の根拠となる事
実であり,本件訴訟において,処分理由の追加が認められず,裁判所におい
て判断し得ないとすれば,仮に本件処分が取り消されたとしても,行政庁は,
原告らが厚年法59条1項の「遺族」に該当しないことを理由として再度の
不支給処分を行うことが可能となり,紛争の一回的解決を図ることができず,
妥当でない。
よって,争点(2)イにおける被告の主張の追加は許されるべきである。
(3)争点(2)イ(生計同一要件の有無)について
(原告らの主張の要旨)
ア住民票上世帯を異にしているが,住所が住民票上同一であるときに該当
すること
原告らとP1は,前提事実(1)のとおり,住民票上は住所を別にしている
が,部屋番号が違うだけで,同じ本件マンション内で居住していることに
変わりはなく,同じ住所で生活しているとの認識を有していたし,本件マ
ンションは,もともと原告ら,P1及びP6が4人で同居していた建物を
取り壊して建築された原告P4所有の建物であって,所有者用居室とした
×号室だけでは,手狭であったため同じ所有者用居室である××号室にP
1が就寝のため利用していたにすぎない。
また,原告らとP1は,本件マンション建築工事をしていた際には,転
居前居室で同居して生活していた。
以上の経緯に照らせば,原告らとP1は単に形式上住民票上の世帯を異
にしているだけで,住所が住民票上同一であるときに該当するといえる。
イ現に起居を共にし,かつ,消費生活上の家計を一つにしているときに該
当すること
(ア)原告らとP1が現に起居を共にしていたこと
原告らとP1は,住民票上,本件マンションの居室を異にしていたが,
P1は,就寝するとき以外はすべて原告らの居室で生活していたのであ
り,原告らとP1の居室が異なっていたのも,原告らとしては,P1が
婚姻して独立した場合を念頭においていたものにすぎず,本件マンショ
ン完成時にP1は婚姻に至っていなかったのであるから,P1が世帯を
離れて独立する事情は何ら存せず,現に起居を共にしていたといえる。
なお,P6は,一時的に原告らの居室に居住を余儀なくされたにすぎ
ないため,原告らの居室の物置用の部屋で就寝していたのに対し,P1
は,恒常的に本件マンションに居住する予定であったため,無理に物置
用の部屋で就寝させず,本件マンションの××号室を用意したのであり,
何ら不自然な点はない。
(イ)原告らとP1が消費生活上の家計を一つにしていること
P1は,原告P4が本件マンションの建築資金を銀行から借り入れた
際,P1が連帯保証人となった上,その収入のうちから月収の半額程度
に当たる概ね毎月10万円程度を原告らに手渡して家計に入れており,
家計の支出についても,P1は,食費その他の日常生活上の支出を原告
P5に管理させていたから,原告らとP1は,収入面及び支出面ともに
協力しあっていたのであって,消費生活上の家計を一つにしていたとい
える。
ウ生活費,療養費等について生計の基盤となる経済的な援助が行われてい
ると認められるときに該当すること
以上の事情に加え,原告らの収入額は合計でも年850万円を下回って
いて前記1(3)イの収入要件は満たしており,本件マンション建築に伴う借
入金返済のため月45万円程度の支出を余儀なくされていたから,原告ら
の生計を維持するためにはP1の月10万円程度の支出は欠かせないもの
であるし,実際,P1の死亡後は,原告らの生計の維持は困難となり得た
ところ,P1の生命保険金の支給によって生計を維持できていることから
すれば,P1により原告らの生計の基盤となる経済的な援助が行われてい
ることも認められる。
エ小括
以上のとおり,原告らとP1は,前記1(3)にいう生計同一要件を満たし,
生計を同一にする関係にあったと認められ,収入要件も満たしているから,
原告らは厚年法59条1項本文の「遺族厚生年金を受けることができる遺
族」に該当する。
(被告の主張の要旨)
ア原告らとP1が住民票上世帯及び住所を異にしていること
本件マンションの建築前にP1が居住していた転居前居室について,住
民票を移動したのはP1のみであり,この時点で既にP1は原告らと住所
及び世帯を異にしていたのであるし,本件マンションに入居するに当たっ
ても,前提事実2(1)のとおり,原告らとP1の転居日と転居先は異なって
いる。
以上からすると,原告らとP1は,住民票上,世帯も住所も異にしてい
たことは明らかである。
イ原告らとP1が現に起居を共にし,かつ,消費生活上の家計を一つにし
ていると認められるときに該当しないこと
本件マンションは平成13年3月5日に新築された建物であるところ,
原告らは,同月16日に×号室に,P1は,同月23日に××号室に,そ
れぞれ住民票を移転し居住していると認められるが,他方,P6は,平成
16年9月2日頃,×号室に住民票を移し,居住していることからすると,
家族4名が×号室で就寝するには手狭であったから,P1が××号室を就
寝のために使用していたとの原告らの主張は信用できないし,他の住人も
居住している本件マンションにおいて,1階と3階に居室をそれぞれ別に
して独立した世帯を設けて居住している状態をもって,起居を共にしてい
るとはいえない。
また,P1が原告らに対して金銭交付をしていた事実を裏付ける客観的
な証拠は見当たらないし,仮にP1が原告らにその主張どおり金銭を渡し
ていたとしても,それらの金銭は,上記金額からして原告らの生活費とい
うよりは,P1の食事等に係る費用その他P1自身の生活費に充てるため
のものと解すべきであるし,P1は××号室の光熱費は自身で支払ってい
たというのであるから,原告らとP1が消費生活上の家計を同一にしてい
たとはいえない。
ウ生活費,療養費等について生計の基盤となる経済的な援助がP1から原
告らに行われていると認められるときに該当しないこと
前記1(3)の通達にいう①生計同一要件と②収入要件を充足し,生計維持
関係が認められるには,遺族厚生年金制度の趣旨から,当該遺族が被保険
者又は被保険者であった者の収入から生活費,療養費等の出捐を受け,こ
れが自己の生計を維持するための相当な部分を占め,当該被保険者又は被
保険者であった者の出捐が得られなければ自己の生計の維持に支障を来す
こととなる関係の存在が必要と解すべきである。
これを本件についてみると,原告らは,P1の約2.5倍の収入を得て
いたのであって,仮にP1が毎月10万円程度の金銭を原告P5に交付し
ていたとしても,原告らがP1の収入から生活費,療養費等の出捐を受け,
これが原告らの生計を維持するための相当な部分を占め,P1の出捐が得
られなければ原告らの生計の維持に支障を来すほどの状態であったとは解
されない。
P1の原告らに対する家計支援及び原告らの家計収支状況に関する原告
らの主張には,客観的な証拠は特にないし,かえって,原告らは,P1が
退職して無職となった場合に,P1のために生活上必要な支出に相当する
金銭や入院費用等を支払っていたことからすると,生計維持関係は認めら
れない。
エ小括
以上からすると,原告らの上記(3)のその余の主張もいずれも理由がなく,
原告らは,生計維持要件を欠いており,厚年法59条1項の「遺族厚生年
金を受けることができる遺族」に該当しない。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(P1の○の初診日が,平成▲年▲月▲日といえるかどうか)につい

(1)厚年法58条1項2号が,昭和60年法律第34号による改正前の厚生年
金保険法の定めと異なり発症日ではなく初診日を基準として遺族厚生年金の
支給要件を定めているのは,厚生年金事業を管掌する政府において個々の死
因となった傷病につき発症日を的確に認定するに足りる資料を有しないこと
に鑑み,医学的見地から裁定機関の認定判断の客観性を担保するとともに,
その認定判断が画一的かつ公平なものとなるよう,当該傷病につき医師等の
診療を受けた日をもって遺族厚生年金の支給に係る規定の適用範囲を画する
こととしたものであると解される。
厚年法58条1項2号にいう初診日とは,疾病にかかり,又は負傷し,そ
の疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病(以下「傷病」という。)につき
初めて医師等の診療を受けた日(厚年法47条1項)をいうことがその文理
上明らかであるところ,以上のような文理及び厚年法58条1項2号の趣旨
に照らせば,「初診日」とは,医師等が当該傷病について初めて被保険者を
診察し,医学的知見に基づきその者の当該傷病の病状を判断し(いわゆる確
定診断である必要はない。),又は当該傷病に対し治療(療養の指示を含む。)
を施した日をいうものと解される。そして,医師等が当該傷病の診断をした
ときは,被保険者の愁訴の内容にかかわらず,当該傷病について診療(診察)
をしたといえることは当然であるが,そのような場合でなくとも,当該傷病
について医師等が被保険者を診察したということができる場合は存在するの
であって,そのためには,被保険者が当該傷病に関する症状を医師等に訴え
ていた形跡があり,当該医師等によって,事後的にせよ当該傷病が当該初診
日当時に存在していたことを医学的に判断することができるだけの客観的資
料が収集されていることを要し,かつそれで足りるものと解するのが相当で
ある。
これに対し,被告は,「初診日」とは医師等の診断にとどまらず,具体的
な治療行為又は療養の指示があったことまでを必要とすると主張している。
しかし,一般に「診療」とは診察と治療を意味するところ,厚年法47条
1項の「診療」についても,その字義的意味に照らして,治療の概念も含ま
れるものの,厚年法58条1項2号が初診日を要件とした上記趣旨からは,
少なくとも当該傷病について診察を受けたということができれば足り,被保
険者が当該傷病に関する症状を医師等に訴えていた形跡があり,当該医師等
によって,事後的にせよ当該傷病が当該初診日当時に存在していたことを医
学的に判断することができるだけの客観的資料が収集されていることが重要
であって,それで必要かつ十分といえる。被告の主張するように具体的な治
療行為又は療養の指示があったことを要件とすれば,どの程度の治療行為又
は療養の指示をもって具体的な治療行為又は療養の指示といえるかが明確で
ない事態等も生じ得るから,かえって上記趣旨に反するといえる。
よって,被告の上記主張は採用することができない。
(2)前提事実に加え,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件の事実関係
として,次の事実が認められる。
アP1の病状及び死亡に至る経緯等
(ア)P1の平成17年頃の生活状況
P1は,平成15年12月15日からP3で自動車販売の営業として
休むことなく勤務していたが,平成17年夏頃から,原告らに疲労感を
訴えることが多くなり,同年冬頃からは,本件マンション×号室に帰っ
てきてもソファーに寄り掛かったり,原告P5の調理の際の臭いが気持
ち悪いなどと言うことが多くなった。
また,P1は,この頃,背中や腹をさする動作をしており,食欲も減
退しており,平成17年末には,毎年,友人と出かけていたスキー旅行
もキャンセルして本件マンションで休養していた。
(以上につき,甲14,原告P5本人,弁論の全趣旨)
(イ)P7医院の受診経過及びCT画像①の撮影等
aP7医院の受診経過
原告らは,P1に病院に行くことを勧めたが,P1は,すぐには病
院に受診せず,平成▲年▲月▲日,P7医院を受診し,P8医師に対
し,主として左胸部痛(その位置は○がある上腹部に近接している。)
を訴えた。
P8医師は,P1の胸部レントゲン撮影を実施し,P9病院にP1
の胸部単純CT撮影及び画像の読影を依頼した。
P10医師は,平成▲年▲月▲日,P1の胸部単純CT撮影を実施
し,その結果,CT画像①中の上腹部(○・胃・脾臓の間)に低吸収
値の境界明瞭な○が存在したが,右中葉,左舌区,左下葉に線状影が
認められるとして(その他,両肺に明らかな○,○,明らかなリンパ
節腫大,胸水及びCT描出範囲内の上腹部臓器に著変は認められない
とした。),○があると診断した。
P8医師は,上記胸部単純CT撮影結果(CT画像①)を踏まえ,
再診日である同月▲日までの間に,P1につき○と診断し,再診をし
た後にP1が来院することがなかったため,再診日をもって終診とし
た。
また,平成20年2月12日にP8医師が受診当時の診療録に基づ
き作成した受診状況等証明書には,発病年月日,傷病の原因又は誘因,
発病から初診までの経過等は不詳と記載されている。
(以上につき,甲3の1・2,7の2,11,14,乙1,3,原告
P5本人,弁論の全趣旨)
bCT画像①の追加説明
P10医師は,平成21年4月14日,平成▲年▲月当時は,胸部
単純CTの依頼であったので,胸部CTの報告をしたが,指摘を受け
てCT画像①を見直したところ,P1の上腹部のCT画像中には,○
/胃/脾の間に低吸収値の境界明瞭な○が描出されていると認められ
るも,原因の確定や性状等の詳細については言及できず,造影,CT,
MRIなどにより腹部臓器の検査が必要であったとし,上記病変をチ
ェックすべきところ失念したと報告している。(甲3の3)
また,P16医師は,平成21年4月21日,CT画像①にはP1
の腹腔内に○が描出されているも,○自体はCT画像から指摘するこ
とは困難であるとしている。(甲5の3)
(ウ)本件定期健診の結果等
a本件定期健診の結果
P1は,平成▲年▲月▲日,P11診療所において,本件定期健診
を受けた。
P11診療所がP1に通知した本件定期健診の結果は,前提事実(2)
ウのとおりである。
b本件定期健診の医学的説明
P16医師は,平成20年12月12日に作成した意見書で,P1
の本件定期健診結果で空腹時血糖が179㎎/dlと前年度まで正常で
あった血糖値が突然上昇したのは,○が原因である可能性は否定でき
ないとしている。(甲5の1)
また,本件定期健診を実施したP11診療所のP17医師も,○は,
○が関与するが,本件定期健診の段階で受診したとしても,○の診断
は付け難いとしている。(乙2,3)
(エ)P13病院の受診経過
P1は,平成18年7月26日,体の調子が悪いため,P3を退職し,
本件マンションで休養していたが,原告らに疲れるなどと訴え,ほとん
どソファで横になっていた。
P1は,平成▲年▲月▲日,前提事実(2)エのとおり,P13病院を受
診し,同病院のP14医師は,同日,上記前提事実のとおりP1を診断
の上,更なる精査・加療のため,P15病院に紹介した。
(以上につき,甲10,14,原告P5本人,弁論の全趣旨)
(オ)P15病院の受診経過及びP1の死亡等
P1は,前提事実(2)オのとおり,平成▲年▲月▲日,P16医師から,
5㎝大の○であると診断され,P15病院に入院し,化学療法を受け,
一時退院したが,病状が悪化したため,平成▲年▲月▲日,○を直接死
因として死亡した。
なお,平成▲年▲月▲日に撮影されたCT画像②によれば,P1の腹
腔内に顕著な○が認められる(別紙CT画像写し②)。
イ○に関する医学的知見
(ア)○とは,一般に原発性に○に発生する○の○を指し,外分泌系の腫
瘍が大多数を占め,広義の○は,○,○及び○に大別される。
その原因は,明らかではないが,外部環境因子として喫煙,食習慣,
飲酒,○などとの関係が指摘され,内部環境因子としては,○,○ない
し○,○などとの関連が指摘されているが,明らかな因果関係は立証さ
れていない。
(以上につき,甲12)
(イ)○が○内にとどまる早期には病態生理上目立った変化は見られない。
○における病態は,○や耐糖能異常のほか多くが周囲臓器への浸潤や
転移によって展開されることが特徴であるため,○の早期診断は困難と
されており,閉塞性黄疸,摂食減退,消化器障害等が○に見られる病態
生理の特徴を形成する要因となっており,胆・○管の閉塞による胆汁や
○のうっ滞は上腹部の鈍痛,膨満感や重圧感など愁訴を伴うことが多い。
また,○は特に後腹膜の神経叢に浸潤することにより,耐え難い頑固
な背部痛が出現する。
なお,○は○や○など,何らかの原因で閉塞ないし狭窄した○の上流
が嚢胞状に拡張することによって形成される。
(以上につき,甲12)
(ウ)○の診断としては,黄疸,上腹部や腰背部の疼痛及び体重減少が主
要徴候であるが,比較的小さい早期の○では○や○の発症あるいは増悪
がしばしばその徴候となる。その他,上腹部の鈍痛や膨満感,食欲不振,
下痢,便秘,全身倦怠感,悪心・嘔吐,吐・下血,腫瘤触知などが臨床
所見として一応あるものの,クールヴォアジエ徴候(黄疸例において胆
汁で緊満した胆嚢を触知すること)は黄疸例の半数以下に認められるに
すぎず,○に一致する腫瘤を触れることも少ないため,一般に○の身体
所見は特徴に乏しいとされている。
そこで,○が疑われる場合には,まず,血中○酵素や腫瘍マーカーを
検査すると共に腹部超音波検査を実施することが肝要であるとされてお
り,腹部超音波検査は,○や胆管の拡張,○腫瘤の描出により,○の大
多数で病変の局在を明らかにすることができる。
他方,CTは消化管ガスなどで盲点のある超音波検査の補助として適
宜応用されるにとどまる。
もっとも,このような画像診断所見については,○内の腫瘍描出を基
本とするが,必ずしも,腫瘍が明瞭に描出されるとは限らず,腫瘍によ
る○狭窄や途絶によって○流出障害が生じたため発生する二次的変化
(○拡張や○の嚢状拡張(貯留嚢胞)など)をきっかけに超音波内視鏡
検査や内視鏡的逆行性○造影などの精密検査により○と診断されること
も少なくない。
(以上につき,甲12,13)
(エ)○の予後は一般に不良であり,切除不能な場合は,診断後平均生存
期間は3ないし6か月で1年以内に85%が死亡する。
(以上につき,甲12)
ウP1の病状及び死亡経過に関する医学的説明
P16医師は,平成21年4月21日に作成した証明書で,P1につき,
平成▲年▲月▲日のP15病院の初診時に○及び○による○閉塞を来した
ために二次的に生じた巨大○貯留嚢胞があると診断した上,①上記ア
(イ)aのとおり,同年▲月▲日撮影のCT画像①でP1の腹腔内に○が認
められ,②前提事実(2)ウ(エ)のとおり,同年▲月▲日の本件定期健診結
果で前年度までなかった高血糖が初めて指摘されているところ,①につい
ては,平成▲年▲月▲日には既に○が存在したために貯留嚢胞を形成した
ということができること,また,②については,○により○を生じ尾側の
○が萎縮したため○内分泌機能の低下を招いた結果である可能性が高いこ
とから,P1の○は少なくとも平成▲年▲月▲日以前に生じた可能性が高
いとしている。(甲5の3)
また,P16医師は,平成22年12月6日,①CT画像①及び②に
描出された嚢胞の同一性について,両者を比較すると嚢胞の大きさは異な
るが局在位置がほぼ同一であり,嚢胞の大きさの変化は,○の増大に伴い
腫瘍による○狭窄や途絶によって○流出障害が生じたため発生する二次的
変化(○拡張や○の嚢状拡張(貯留嚢胞)など)のため○嚢胞(○貯留嚢
胞)が増大したと考えるのが自然である,②嚢胞の発生原因としては,
○を考えることができるが,その最大の原因であるアルコール性は,習慣
的飲酒者ではないP1には考えられず,その他の○の原因についてもCT
画像①及び②上,○腫大や○周囲の浸出液など○を疑わせる所見や○など
○を疑わせる所見がないことからすると,P1の○嚢胞は○又は○に起因
したものとは考えにくく,○により生じた貯留嚢胞と考えるのが自然であ
るとの意見を表明している。(甲13)
(3)以上によれば,確かに,P1は,平成▲年▲月▲日時点では,P8医師か
ら○であるとの診断を受けていたわけではない。
しかし,①P8医師の診察の機会にその依頼に基づきP9病院で撮影さ
れたCT画像①には,P1の上腹部の○が描出されていたところ,これは,
後に○との診断を受ける際に撮影されたCT画像②に描出された○により生
じた○と同じ部位にあり,両者は同一の病変といえるから,当該○の萌芽と
いえること,②このCT画像①の○は,その約3か月後に実施された本件
定期健診で前年度にはなかった高血糖が認められたが,P1には○の症状が
特に認められなかったことからすると,○に起因して生じたものと考えて矛
盾がないこと,③P1は,P8医師を受診する約半年ほど前の平成17年
夏頃から疲労感を原告らに訴え,食欲も減退し,腰や背中をさする動作をし
ていて,これを見かねた原告P5がP1に病院への受診を勧め,その後,P
1がP7医院を受診した経緯に鑑みれば,P1はこれらの事情も含めてP8
医師に訴えていたと推認することができる一方,P8医師の診療録上P1の
主たる愁訴として左胸部痛のみが記録されたのはP8医師の診断内容が○で
あったためとも推認することができること,④左胸部の痛み自体が上腹部
○と無関係のものであったと断定するに足りる事情もなく,また,○の原因
も特定はされていないことからも,○又はそれに起因する病変の存在を否定
できないこと(乙8中のP18技官の発言),⑤○は一般的に身体所見に
乏しいことやその他の医学的知見からすれば,P8医師の受診当時,P1に
○が存在したことを否定する事情は他に存在しないことなどが認められる。
これらの事情を総合すれば,P1は○に起因するとみて矛盾しない症状を
訴えてP8医師の診察を受け,P8医師は,遅くとも平成▲年▲月▲日の終
診時において,そのような症状について被保険者であるP1を初めて診察し,
かつ,その直接死因である○又はこれに起因する○が終診時に存在していた
ことを事後的にせよ医学的に判断することができるCT画像という客観的資
料を収集していたということができるから,当該終診の日をもってP1の○
又はこれに起因する疾病に関する「初診日」に当たるものと認めるのが相当
である。
これに対し,被告は,CT画像①の○が○の萌芽であったとするには飛躍
があるなどと主張している。
しかし,上記認定に沿うP16医師らの上記意見書における○の因果的経
過の説明は医学的知見に照らして合理的なものであり,これに反する医学的
知見を認めるに足りる証拠はないこと,上記認定によっても,CT画像①に
現れた○が○に起因するものと医学的知見により蓋然性をもって特定できて
いるのであるから,被告が懸念するような裁定機関の認定判断の客観性や画
一性は阻害されることはないし,むしろ,このような客観的資料があり,こ
れを契機として早期のうちに超音波検査等の精密検査を施して○の確定診断
に至った事案(なお,本件においてそのような可能性は存在しなかったと認
めるに足りる証拠はない。)と本件とを対比すれば明らかに不公平を生ずる
といえることに照らすと,被告の上記主張を採用することはできない。
よって,本件請求の初診日要件は満たされているといえる。
2争点(2)ア(処分理由の差替えの可否)について
取消訴訟の訴訟物は処分の違法一般であると解されるところ,一般に取消訴
訟においては,別異に解すべき特別の理由のない限り,被告は当該処分の効力
を維持するための一切の法律上及び事実上の根拠を主張することが許されるも
のと解すべきである(最高裁昭和51年(行ツ)第113号同53年9月19
日第三小法廷判決・裁判集民事125号69頁)。
また,本件処分には理由が付記されているが,行政処分に理由を付記(行政
手続法8条)すべきものとしているのは,行政庁が行政処分をするに際し,そ
の判断の慎重と公正妥当とを担保してその恣意を抑制するとともに,行政処分
の理由を処分の名宛人に知らせることによって,その不服申立てに便宜を与え
ることを目的としていると解され,その目的は,処分の理由を具体的に付記し
て処分の名宛人に通知すること自体をもって,ひとまず実現され,この趣旨を
超えて,一たび裁定書に理由を付記した以上,行政庁が当該理由以外の理由を
取消訴訟において主張することを許さないものとする趣旨を含むとは解されな
い(最高裁平成8年(行ツ)第236号同11年11月19日第二小法廷判決・
民集53巻8号1862頁参照)。
よって,被告の生計同一要件の有無に関する主張は許されるものというべき
である。
これに対し,原告らは,行政庁が第一次判断権を行使していない別の処分理
由を主張して,本件処分を適法とするのは,処分の同一性を害し,訴訟物の範
囲を超えるから,許されないと主張している。
しかし,行政手続法及び厚年法をみても,上記の行政手続法の理由付記制度
の趣旨を超えて,裁定書に付記された理由以外の理由を取消訴訟において主張
することを許さないとする趣旨を含むものとは解されないし,原告らの上記主
張の根拠とする最高裁平成2年(行ツ)第45号同5年2月16日第三小法廷
判決・民集47巻2号473頁は,労働者災害補償保険法施行前に従事した業
務に起因したものであることから,行政庁が業務起因性の有無について判断す
る前提を欠くとして保険給付不支給処分をしたものであって,処分の実体的要
件の存否に関する行政庁の第一次的判断権の行使をおよそ経ていないことから,
行政庁が業務起因性の有無に関する主張を追加することはできないとしたもの
であり,本件のように,実体的要件(初診日要件)の存否の判断を経ていて行
政庁の第一次的判断権が行使されたものとは事案が異なるし,本件訴えにおけ
る訴訟物はあくまで本件処分の違法一般であって,実体要件の一つである生計
維持要件(そのうちの生計同一要件)に関する主張を追加することが訴訟物の
範囲を超えることにもならないから,原告らの上記主張は採用することができ
ない。
3争点(2)イ(生計同一要件の有無)について
(1)厚生労働大臣は,厚年法59条1項本文,4項及び施行令3条の10の規
定を受けて,生計維持関係の認定基準に関し,前記のとおりの内容の本件通
達(関係法令等の定め(3))を定めている。
厚生年金は,労働者の老齢,障害又は死亡について保険給付を行い,労働
者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的としており
(厚年法1条),厚年法59条の生計維持要件も遺族厚生年金の目的が被保
険者の遺族の生活保障にあることから定められたものであり,本件通達の定
めは,その内容からみて,これらの規定の趣旨を受けて,遺族厚生年金の受
給資格に関し生計維持要件の認定基準を合理的に定めたものと解される。
したがって,生計維持認定対象者が死亡した者の父母である場合には,原
則として,これらの者に本件通達に定められた生計同一要件(関係法令等の
定め(3)ア)のうちいずれかの関係(関係法令等の定め(3)ア(ア)ないし(ウ))
が被保険者との間で認められ,かつ,収入要件が認められるかどうかを基準
として判断するのが相当である。
もっとも,生計同一要件は,施行令3条の10に定める「生計を同じくし
ていた」との要件に関わるものであり,諸般の事情を総合考慮したときに生
計維持認定対象者と被保険者とが「生計を維持していた」関係にあったかが
重要であるから,上記の認定基準を基本としつつも,これに常に従わなけれ
ばならないわけではなく,本件通達において,上記認定基準に従うことにつ
き,「ただし,これにより生計維持関係の認定を行うことが実態と著しく懸
け離れたものとなり,かつ,社会通念上妥当性を欠くことになる場合には,
この限りでない。」と定められていることからしても,柔軟な認定も許容さ
れるというべきである。
これに対し,被告は,生計同一要件(ウ)bの「生活費,療養費等について
生計の基盤となる経済的な援助が行われているとき」につき,被保険者の収
入から生活費,療養費等の出捐を受け,これが自己の生計を維持するための
相当な部分を占め,この出捐がなければ,自己の生計の維持に支障を来す関
係が必要であると主張しているが,上記に述べたところからは必ずしもこの
とおり解する必然性はなく,諸般の事情を総合考慮した結果,生計維持認定
対象者と被保険者とが「生計を同じくしていた」関係にあるといえる程度の
経済的な援助をもって足りると解すべきである。
(2)前提事実に加え,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件の事実関係
として,次の事実が認められる。
ア原告らとP1の住民票
原告らとP1の住民票の記載は,前提事実(1)イのとおりであり,原告ら
とP1は,平成12年12月10日にP1が転居前居室に転居するまでは
原告P4を世帯主として千葉県市川市α×番9号を住所としていたが,P
1は,同月21日の住民届出をもって世帯を独立させ,その後平成13年
3月23日に,本件マンション××号室を住所としており,原告らは,原
告P4を世帯主として,同月16日に,本件マンション×号室を住所とし
ている。(乙1)
イ本件マンションの建築
本件マンションは,前提事実(1)イの住所に建築され,平成13年3月5
日に完成したものであるが,原告らがもともと居住していた一戸建て住宅
(以下「建替前住宅」という。)を建て替えた3階建てマンションである。
(甲8の2)
本件マンションは,1階3室,2階5室,3階3室という構造であり,
このうち1階×号室(3LDK。リビング,ダイニング,8畳の寝室,3
畳の仏間,6畳の物置という構造である。),3階××号室(2LDK)
を所有者用物件とし,それ以外の居室は全て1Kであり,いずれも賃貸物
件としていた。(甲9,14)
ウ原告らとP1の生活状況
(ア)本件マンションへの転居前の生活状況
原告らとP1は,上記イの本件マンションの建替えまでは,建替前住
宅で同居していたが,P1は,平成12年12月10日に,本件マンシ
ョンへの建替えのための一時的住居として,転居前居室に転居した。そ
の際,原告らも,住民票を移動することはなかったものの,共に転居前
居室に転居し,P1と同居していた。
(以上につき,甲14,原告P5本人)
(イ)本件マンションへの転居後の生活状況
原告らとP1は,上記アのとおり,平成13年3月に本件マンション
に転居したが,×号室で同居しなかったのは,原告らの長男で跡取りで
あるP1が将来結婚して独立したときのことを考えてのことであり,P
1は,そのために所有者用物件として建築された××号室に入居した。
××号室には,原告らが持っていた古い家具や家電製品が一通り置い
てあり,P1も時折,自炊や洗濯を自らすることがあったものの,朝夕
の食事や,原告らとP1の団らんは基本的に×号室で行われ,P1は×
×号室を就寝するための部屋として利用することが多く,このような生
活形態は,P1が平成18年7月にP3を退職した後も変わらなかった。
原告らとP1は,双方の居室の鍵を共有しており,××号室の掃除や
洗濯などは大半が原告P5がしていた。
なお,P6は,それまでの勤務先を退職し,無職となったため,平成
16年9月2日から,一時的に本件マンション×号室で生活するように
なり,6畳の物置を与えられた。
(以上につき,甲14,原告P5本人)
エ原告らとP1の経済的関係
原告らは,P1の給与収入から月々10万円ほどを家計に入れてもらい,
原告らの勤務するクリーニング店の給与収入約30万円,本件マンション
の家賃収入(入居者が安定しているときで月々57万円程度)があり,平
成16年からは原告P4の国民年金年約70万円の収入があった(平成1
8年度の原告らの総所得は前提事実(1)のとおりである。)。
これに対し,本件マンション建替えに伴う銀行借入れのローン返済は
月々45万円程度であり,生活費やその他の経費(不動産管理会社の管理
委託費が掛かると認められる。)などの支出を上記収入から当てて,原告
らは家計のやりくりをしていた(ただし,×号室の光熱費は,請求書が直
接同室に届けられるため,P1が支払っていた。)。
また,P1は,本件マンション建替えに関する銀行と原告P4の金銭消
費貸借契約につき連帯保証をしていた。
その他,原告P4には,○の持病があり,原告P5には○の持病があっ
た。
なお,P6が平成16年に同居してからは,P6からも一部生活費とし
て家計への金銭的支援があり,原告らは,P1が死亡した際には同人の生
命保険の保険金収入を得ている。
(以上につき,甲9,14,乙1,原告P5本人)
(3)ア以上によれば,①P1の本件マンションの××号室の利用は,基本的
に就寝のみに限られ,その他の食事や家族としての団らんといった就寝以
外の生活は基本的に原告らと×号室で営まれており,原告らとP1は双方
の居室の鍵を共有し,原告P5はP1の居室にも掃除等のために出入りす
ることが多かったというのであるから,P1にとっては,×号室と××号
室が一体のものとして生活の本拠とされていたことからすると,原告らと
P1の生活実態は同一であったと認められ,生計同一要件(ウ)aの「現に
起居を共にし」に該当するということができる。②また,上記(2)エや原
告らとP1の生活実態が同一であったことからすると,基本的に原告ら及
びP1の消費生活上の家計は,××号室の光熱費を除き,一体として原告
P5において管理されていたということができるし,原告らはクリーニン
グ店の給与収入や本件マンションの賃料収入があるとはいえ,月々45万
円の本件マンション建替えのためのローンの返済があり,不動産賃貸業に
伴う諸経費や原告らの持病に伴う医療費も考慮すれば,P1の月々10万
円程度の支援なくしての原告ら家計の維持は困難であったものと認められ,
生計同一要件(ウ)aの「消費生活上の家計を一つにしていた」と認められ
る。
これに対し,被告は,原告らとP1のマンション居住状況や原告らの家
計の収支状況,P1の家計支援状況には客観的証拠がなく,また,原告ら
はP6を×号室に居住させており,P1を×号室に居住させることも可能
であったから,「現に起居を共にし」ていたとは認められないと主張して
いる。
しかし,前記(2)の認定に沿う原告P5の供述は,このうち長男であり跡
取りであるP1のために××号室を用意したとの部分は本件マンション×
号室と××号室の客観的状況に符合するし,原告らの家計の収支状況,P
1の家計支援状況に関する部分も前提事実(1)ウの課税証明書上の記載内
容と矛盾はないばかりか,むしろP6と同居した事情など不利な供述も厭
わず,その他供述内容に不自然・不合理な点は特に認められないから,信
用性が認められる。
そして,P6は,原告らとP1の入居後に単に××号室よりは×号室の
方が構造上広く一時的な間借りとして原告らと×号室で同居したというに
すぎず,P1が×号室ではなくあえて××号室を用意してもらったのも,
長男として,また独立したときのことを考えてのことというのであるから,
これらの経緯に何ら不自然・不合理な点は認められないことからすると,
P1が×号室に同居しなかったからといって,上記の認定に疑いを入れる
余地はないというべきである。
よって,被告の上記各主張は採用できない。
イなお,念のため,生計同一要件(ウ)bの「生活費,療養費等について生
計の基盤となる経済的な援助が行われているとき」についても検討すると,
この点について,仮に,被告主張のように被保険者の収入から生活費,療
養費等の出捐を受け,これが自己の生計を維持するための相当な部分を占
め,この出捐がなければ,自己の生計の維持に支障を来す関係が必要と解
したとしても,上記アの原告らとP1の家計の収支状況やP1の家計支援
状況によれば,マンション賃貸業を営み,それぞれ持病を有する原告らに
してみれば,賃料収入は期待できるものの,その分管理会社への管理委託
費等の諸経費や医療費の支出を余儀なくされるのであるし,P6が同居し
てからは原告らも家計の負担を求めていたことからすると,P1の10万
円程度の家計支援というのは,決して小さいものではなく,原告らの生計
を維持するための相当な部分を占めており,この出捐がなければ,原告ら
の生計の維持に支障を来す関係にあったと認められる。
これに対し,被告は,P1が平成18年7月にP3を退職した後は,原
告らがP1の生活上必要な支出に相当する金銭や入院費用等を支払ってい
たことからすると,上記のような関係は認められないなどと主張する。
しかし,P1がP3を退職してから,死に至るまで約▲か月程度である
ことからすると,あくまでも一時的な支出にとどまるものと認められ,被
告が指摘するような事情をもって,恒久的にP1の家計支援がなくても,
原告らの生計の維持に支障がなかったとは認められない。
よって,被告の上記主張は採用できない。
ウ以上のとおり,原告らは生計同一要件(ウ)a又はbを満たしており,収
入要件についても,前提事実(4)によれば,P1死亡当時の平成18年度の
原告らの収入が850万円未満であったため,満たしている(この点につ
いては特に争いがない。)から,本件請求は生計維持要件を満たしていた
と認められる。
4したがって,本件請求については,初診日要件,生計維持要件のいずれも認
められるから,本件処分は違法であるといわざるを得ない。
第4結論
以上の次第で,原告らの請求は理由があるからこれを認容することとし,訴
訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文の
とおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官川神裕
裁判官林史高
裁判官菅野昌彦

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