弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

判決 平成15年1月15日 神戸地方裁判所 平成12年(ワ)第2902号 貸
金等請求事件
          主文
 1 被告株式会社甲,被告乙及び被告丙は,連帯して,原告に対し,金1億91
50万円及びこれに対する平成6年4月1日から完済まで年14パーセントの割合
による金員を支払え。
 2 被告株式会社甲,被告乙及び被告丙は,連帯して,原告に対し,金3860
万円及びこれに対する平成7年5月1日から完済まで年14パーセントの割合によ
る金員を支払え。
 3 被告株式会社甲,被告乙及び被告丙は,連帯して,原告に対し,金1700
万円及びこれに対する平成7年5月2日から完済まで年14パーセントの割合によ
る金員を支払え。
 4 被告株式会社甲,被告乙及び被告丙は,連帯して,原告に対し,金1億43
37万9701円及び内金4517万8445円に対する平成12年6月29日か
ら完済まで年14パーセントの割合による金員を支払え。
 5 被告株式会社甲,被告乙及び被告丙は,連帯して,原告に対し,金1700
万円及びこれに対する平成6年10月1日から完済まで年14パーセントの割合に
よる金員を支払え。
 6 被告株式会社甲,被告乙及び被告丙は,連帯して,原告に対し,金1億53
46万3748円及び内金3904万0810円に対する平成12年7月5日から
完済まで年14パーセントの割合による金員を支払え。
7 被告丁は,次の(1)(2)の登記の抹消登記手続をせよ。
  (1) 別紙(1)物件目録一、二記載の土地について,神戸地方法務局宝塚出張所
平成9年6月20日受付第16862号をもってなされた所有権移転登記
  (2) 別紙(1)物件目録三記載の建物について,同法務局同出張所同日受付第1
6863号をもってなされた共有者全員持分全部移転登記
8 訴訟費用は被告らの負担とする。
9 この判決の1項ないし6項は,仮に執行することができる。
          事       実
第1当事者の求める裁判
 1 原告(請求の趣旨)
  (1) 貸金請求
    主文1項ないし6項と同旨
(2) 所有権移転登記等の抹消登記請求(主位的請求-通謀虚偽表示)
   主文7項と同旨
(3) 詐害行為取消し,所有権移転登記等の抹消登記請求(予備的請求)
 ア AとBとの間で平成7年10月5日付けでなされた,別紙(1)物件目録
一、二記載の土地(以下「本件土地」という。)及び別紙(1)物件目録三記載の建物
(以下「本件建物」という。)(共有持分2分の1)についての抵当権設定契約
は,これを取り消す。
イ 被告丙とBとの間で平成7年10月5日付けでなされた,本件建物(共
有持分2分の1)についての抵当権設定契約は,これを取り消す。
   ウ AとBとの間で平成9年6月19日付けでなされた,本件土地及び本件
建物(共有持分2分の1)についての代物弁済契約は,これを取り消す。
エ 被告丙とBとの間で平成9年6月19日付けでなされた,本件建物(共
有持分2分の1)についての代物弁済契約は,これを取り消す。
   オ主文7項と同旨
  (4) 訴訟費用の負担,仮執行宣言
  ア 訴訟費用は被告らの負担とする。
  イ 前記(1)は,仮に執行することができる。
2 被告ら(請求の趣旨に対する答弁)
  (1) 原告の請求を棄却する。
  (2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者の主張
 1 原告(請求原因)
  (1) 貸金請求
ア 貸金等の発生
(ア) 手形貸付等
     a C銀行は,被告株式会社甲との間の平成元年3月30日付け銀行取
引約定書に基づき,被告株式会社甲が別紙(2)手形目録記載一ないし七の手形を振り
出す手形貸付の方法により,被告株式会社甲に対し,合計2億8150万円を貸し
付けた(甲1~8)。上記銀行取引約定書では,遅延損害金は年14パーセントの
約定であった。
b 被告乙(被告株式会社甲の代表取締役社長),被告丙(被告株式会
社甲の取締役専務),A(被告株式会社甲取締役)は,平成元年3月30日付け銀
行取引約定書に基づき,被告株式会社甲がC銀行との間の一切の取引に関して負担
する債務について,連帯保証する旨を約した(甲1)。
(イ) 証書貸付等
a C銀行は,被告株式会社甲との間で,別紙(3)金銭消費貸借契約目
録(1)ないし(3)記載のとおりの金銭消費貸借契約を締結し,被告株式会社甲に対
し,合計3億2150万円を貸し付けた(甲25~27)。
b 被告乙,被告丙及びAは,被告株式会社甲が平成元年3月30日付
け銀行取引約定書に基づき,被告株式会社甲が別紙(3)金銭消費貸借契約目録(1)な
いし(3)記載の金銭消費貸借契約によるC銀行に対して負担する債務について,連帯
保証する旨を約した(甲25~27)。
イ 債権者の変更等
  (ア) C銀行は,平成8年1月29日,D銀行に営業の全部を譲渡し,日
本経済新聞及び神戸新聞に公告することにより(甲21),銀行法34条の対抗要
件を具備した。
 (イ) D銀行は,平成11年3月23日,E銀行に対し,前記ア(ア)の手
形貸付による貸金債権,及び前記ア(イ)記載の証書貸付による貸金債権を譲渡する
とともに,同月25日,被告株式会社甲に対し,上記各貸金債権の譲渡通知をした
(甲22)。
 (ウ) E銀行は,平成11年4月1日,株式会社Fとの間で,同会社を存
続会社とする合併をした。そして,同会社は,同日付けで,原告に商号を変更した
(甲23)。
ウ 結論
(ア) 原告が本訴で支払を求める貸金債権の残元本,遅延損害金を整理す
ると,別紙(4)貸金債権目録一ないし一〇記載のとおりである。
    (イ) よって,原告は,被告らに対し,主文1項ないし6項記載のとお
り,貸金元金及びその遅延損害金の支払を求める。
(2) 所有権移転登記等の抹消登記請求(主位的請求)
   ア 本件土地建物の所有者等
(ア) 本件土地はAの所有であり,本件建物は被告丙及びAが各持分2分
の1を所有する共有物件であった(甲12~14)。
(イ) Aが平成12年12月27日死亡した。Aの相続人は,夫の被告
乙,長男の被告丙,長女のGの3人である。しかし,Gは相続を放棄した。
    (ウ) したがって,本件土地は,被告乙及び被告丙が各持分2分の1を所
有する共有物件であり,本件建物は,被告丙が持分4分の3,被告乙が持分4分の
1の割合で共有する物件である。
イ 通謀虚偽表示による所有権移転登記等
    (ア) A及び被告丙は,平成9年6月,原告からの本件土地建物に対する
強制執行を免れるために,被告丙の妻Hの実母である被告丁と通謀の上,同人に対
する同月19日付けの代物弁済を仮装し,同人に対し,次の各所有権移転登記等を
した。
     a Aは,本件土地について,神戸地方法務局宝塚出張所平成9年6月
20日受付第16862号をもって,所有権移転登記をした。
     b A及び被告丙は,本件建物(持分各2分の1)について,同法務局
同出張所同日受付第16863号をもって,共有者全員持分全部移転登記をした。
(イ) したがって,本件土地建物についてなされた上記各所有権移転登記
等は,通謀虚偽表示によるものであり無効である。
ウ 所有権移転登記等抹消登記請求権の代位行使
(ア) Aは,被告丁に対し,本件土地について,所有権に基づく所有権移
転登記抹消登記請求権を有しており,Aの死亡及びGの相続放棄に伴い,被告乙及
び被告丙がこれを相続した。
 また,A及び被告丙は,被告丁に対し,本件建物(持分各2分の1)
について,共有持分権に基づく共有者持分全部移転登記抹消登記請求権を有してお
り,Aの死亡及びGの相続放棄に伴い,被告乙及び被告丙が,Aの有していた共有
持分権に基づく共有者持分全部移転登記抹消登記請求権を相続した。
    (イ) 被告乙及び被告丙は,現在も,原告に対し,別紙(4)貸金債権目録記
載のとおり,元本だけでも3億円を超える負債を負っているが,本件土地建物以外
には見るべき資産を有しない。
(ウ) よって,原告は,別紙(4)貸金債権目録記載の貸金債権を保全するた
め,被告丁に対し,被告丙及び被告乙が有する本件土地建物についての所有権移転
登記等抹消登記請求権を代位行使できる。
エ 結論
     よって,原告は,被告丁に対し,本件土地建物の代物弁済の通謀虚偽表
示による無効を理由に,次の(ア)(イ)の登記の抹消登記手続を求める。
    (ア) 本件土地について,神戸地方法務局宝塚出張所平成9年6月20日
受付第16862号をもってなされた所有権移転登記
    (イ) 本件建物について,同法務局同出張所同日受付第16863号をも
ってなされた共有者全員持分全部移転登記
2 被告ら(請求原因に対する認否)
(1) 請求原因(1)(貸金請求)について
ア 請求原因(1)ア(貸金等の発生)について
    (ア) 請求原因(1)ア(ア)(手形貸付等)のうち,次の事実は認めるが,そ
の余は否認する。
     a 同a(手形貸付)
     b 同b(連帯保証)のうち,被告乙が連帯保証したこと
(イ) 請求原因(1)ア(イ)(証書貸付等)のうち,同a(証書貸付)は認め
るが,同b(連帯保証)は否認する。
イ 請求原因(1)イ(債権者の変更等)は認める。
(2) 請求原因(2)(所有権移転登記等の抹消登記請求)について
ア 請求原因(2)ア(本件土地建物の所有者等)について
請求原因(2)アのうち,同(ア)(本件土地建物の前所有者),同(イ)(A
の死亡と相続人)は認めるが,同(ウ)(本件土地建物の現所有者)は否認する。
イ 請求原因(2)イ(通謀虚偽表示による所有権移転登記等)について
請求原因(2)イのうち,下記事実は認めるが,その余は否認する。
 記
     A及び被告丙は,被告丙の妻Hの実母である被告丁に対し,平成9年6
月19日付け代物弁済を原因として,次の各所有権移転登記等をした。
    (ア) Aは,本件土地について,神戸地方法務局宝塚出張所平成9年6月
20日受付第16862号をもって,所有権移転登記をした。
    (イ) A及び被告丙は,本件建物(持分各2分の1)について,同法務局
同出張所同日受付第16863号をもって,共有者全員持分全部移転登記をした。
ウ 請求原因(3)ウ(抹消登記請求権の代位登記)は否認する。
3 被告丁(抗弁)
(1) 関係者間での貸借関係等
   ア Bの被告乙に対する貸金
     B(I興産会長)は,平成2年10月から同年12月までの間に,被告
乙に対し,次のとおり4回にわたり合計2億円を貸し付けた。
(ア) 平成2年10月30日に6000万円
    (イ) 平成2年11月15日に4000万円
    (ウ) 平成2年11月28日に3000万円
    (エ) 平成2年12月10日に7000万円
イ 被告株式会社甲のI興産に対する貸金
     被告株式会社甲は,平成2年11月8日,Jクレジットから1億500
0万円の融資を受け,I興産に対し,1億5000万円を貸し付けた。
   ウ Bの抵当権設定仮登記
     Bは,平成7年10月,被告乙と協議した結果,A及び被告丙の承諾を
得た上で,前記アの貸金2億円を担保するため,本件土地建物に2億円の抵当権を
設定することとし,同月9日,本件土地建物上に2億円の抵当権設定仮登記を経由
した。
エ 被告丁のBに対する貸金
     被告丁は,平成4年6月から平成7年10月にかけて,Bに対し,次の
(ア)(イ)(ウ)のとおり,3回にわたり合計3800万円を貸し付けた。平成9年6
月当時,その元利金が5000万円を越えていたが,端数を切り捨てて5000万
円とした。
    (ア) 平成4年6月7日に700万円(乙28)
(イ) 平成6年4月11日に600万円(乙29の1・2)
(ウ) 平成7年10月26日に2500万円(乙30の1・2)
(2) 本件土地建物の代物弁済
   ア 平成9年6月,被告丁のBに対する貸金について,返済の問題が浮上
し,Bが,被告丁に対し,Bの被告乙に対する2億円の抵当権付債権を譲渡するこ
とにした。
     ただし,被告株式会社甲は,I興産に対し,1億5000万円の貸金債
権を有しており,被告株式会社甲もI興産も被告乙,Bの個人会社であるから,相
殺的処理をすると,Bの被告乙に対する貸金債権は5000万円となる。
     他方,被告丁のBに対する貸金債権も5000万円である。
イそこで,被告丁,被告乙,Bは,Aや被告丙の協力も得た上で,平成9
年6月20日,同年7月30日,本件土地建物に次の各登記をして,貸金債権50
00万円の代物弁済として,Bに本件土地建物を代物弁済し,さらに,Bから被告
丁に本件土地建物を代物弁済することで,全体の一挙解決を図った。
    (ア) Aは,被告丁に対し,本件土地について,代物弁済を原因とする所
有権移転登記をした。
    (イ) A及び被告丙は,被告丁に対し,本件建物(持分各2分の1)につ
いて,代物弁済を原因とする共有者全員持分全部移転登記をした。
    (ウ) Bは,本件土地建物の抵当権設定仮登記の債権額を2億円から1億
円に変更した上で,被告丁に対し,抵当権移転仮登記をした。被告丁,Bは,これ
らの抵当権仮登記を抹消した。
  (3) 本件土地建物の賃貸借契約
    被告丙は,平成9年7月1日,被告丁との間で,本件土地建物を賃料月額
15万円で賃借する契約を締結し,以後,被告丁に対し,毎月賃料15万円を支払
い,同年6月20日以降も,Aとともに,引き続き本件土地建物に居住していた
(乙39,40)。 
(4) まとめ
    以上の次第で,被告丁に対する本件土地の所有権移転登記,本件建物の持
分全部移転登記は,実体を備えた有効なものであり,強制執行を免れるための通謀
虚偽表示による無効な登記ではない。
 4 原告(抗弁に対する認否)
(1) 抗弁(1)(関係者間での貸借関係等)について
ア 抗弁(1)ア(Bの被告乙に対する貸金)は否認する。
   イ 抗弁(1)イ(被告株式会社甲のI興産に対する貸金)は認める。
ウ 抗弁(1)ウ(Bの抵当権設定仮登記)のうち,Bが,平成7年10月9
日,本件土地建物上に2億円の抵当権設定仮登記を経由したことは認めるが,その
余は否認する。
エ 抗弁(1)エ(被告丁のBに対する貸金)は否認する。
(2) 抗弁(2)(本件土地建物の代物弁済)について
抗弁(2)のうち,次の事実は認めるが,その余は否認する。
   ア Aが,平成9年6月20日,被告丁に対し,本件土地について,代物弁
済を原因とする所有権移転登記をした。
   イ A及び被告丙が,前同日,被告丁に対し,本件建物について,代物弁済
を原因とする共有者全員持分全部移転登記をした。
   ウ Bが,前同日,本件土地建物の抵当権設定仮登記の債権額を2億円から
1億円に変更した上で,被告丁に対し,抵当権移転仮登記をした。被告丁,Bは,
平成9年7月30日,これらの抵当権仮登記を抹消した。
(3) 抗弁(3)(本件土地建物の賃貸借契約)について
抗弁(3)のうち,A及び被告丙が,平成9年6月20日以降も,引き続き本
件土地建物に居住していたことは認めるが,その余は否認する。 
(4) 抗弁(4)(まとめ)は争う。
5 原告(予備的請求原因-詐害行為)
   仮に被告らの抗弁が認められ,本件土地建物所有権移転登記等の通謀虚偽表
示による無効が認められない場合に備えて,原告は予備的に以下のとおり主張す
る。
(1) 平成7年10月5日付け抵当権設定契約の詐害行為性
ア A及び被告丙は,平成7年10月5日,Bとの間で,Bの被告乙に対す
る2億円の貸金を被担保債権として,本件土地建物上に,Bを権利者とする抵当権
設定契約を締結した。
イ A及び被告丙は,平成7年10月5日当時,C銀行に期限の利益を失っ
た6億円以上の連帯保証債務を負担し,唯一の無担保不動産が本件土地建物であっ
た。A及び被告丙には他に資産はない。
     Bは,前同日当時,上記事実を承知しており,A,被告丙及びBは,本
件土地建物についての抵当権設定契約が,A及び被告丙の債権者を害することを知
っていた。
   ウ したがって,平成7年10月5日付け抵当権設定契約は,詐害行為に当
たる。
(2) 平成9年6月19日付け代物弁済契約の詐害行為性-その①
アA及び被告丙は,平成9年6月19日,Bとの間で,本件土地建物の代
物弁済契約を締結し,Bに対し本件土地建物の所有権を移転した。代物弁済の原因
となったのは,Bの被告乙に対する2億円の貸金債権である。
イ A及び被告丙は,平成9年6月19日当時,D銀行に期限の利益を失っ
た6億円以上の連帯保証債務を負担し,唯一の無担保不動産が本件土地建物であっ
た。A及び被告丙には他に資産はない。
     Bは,前同日当時,上記事実を承知しており,A,被告丙及びBは,本
件土地建物の代物弁済契約が,A及び被告丙の債権者を害することを知っていた。
   ウ したがって,平成9年6月19日付け代物弁済契約も,詐害行為に当た
る。
(3) 平成9年6月19日付け代物弁済契約の詐害行為性-その②
ア A及び被告丙は,平成9年6月19日,本件土地建物を1億円と評価し
て,Bに対し,本件土地建物を代物弁済したが,被告丁は,同日,Bから,500
0万円の貸金に対する代物弁済として,本件土地建物を取得している。
   イ このように,被告丁は,本来1億円の価値ある本件土地建物を,500
0万円の貸金の代物弁済として所有権移転を受けていること自体から,被告丁の悪
意が推認される。
     また,被告丁は,娘婿である被告丙から,被告乙・B間及びB・被告丁
間の借金を清算するために代物弁済するという説明を受けていたので,A,被告丙
及びBが借金を返済できない状態にあることの認識があった。
ウ したがって,被告丁も,本件土地建物の代物弁済が詐害行為に該当する
ことについて悪意である。
(4) 結論
    よって,原告は,被告丁に対し,本件土地建物の抵当権設定契約,代物弁
済契約の詐害行為を理由に,予備的に,次の各裁判を求める。
 ア AとBとの間で平成7年10月5日付けでなされた,本件土地及び本件
建物(共有持分2分の1)についての抵当権設定契約は,これを取り消す。
イ 被告丙とBとの間で平成7年10月5日付けでなされた,本件建物(共
有持分2分の1)についての抵当権設定契約は,これを取り消す。
   ウ AとBとの間で平成9年6月19日付けでなされた,本件土地及び本件
建物(共有持分2分の1)についての代物弁済契約は,これを取り消す。
エ 被告丙とBとの間で平成9年6月19日付けでなされた,本件建物(共
有持分2分の1)についての代物弁済契約は,これを取り消す。
   オ主文7項と同旨
6 被告丁(予備的請求原因に対する認否)
(1)予備的請求原因(1)(平成7年10月5日付け抵当権設定契約の詐害行為
性),同(2)(平成9年6月19日付け代物弁済契約の詐害行為性-その①),同
(平成9年6月19日付け代物弁済契約の詐害行為性-その②)は,いずれも否認
ないし争う。
(2) A,被告丙,B及び被告丁には,抵当権設定契約,代物弁済契約当時,
A,被告丙及びBの債権者を害する意思(詐害の意思)などなかった。
7 被告丁(抗弁-消滅時効)
(1) 原告が問題としている抵当権設定契約は平成7年10月5日,代物弁済契
約は平成9年6月19日であり,原告は,その直後に,原告が詐害行為と主張する
客観的行為を知るところとなっている。
  (2) 原告は,平成10年1月20日,不動産競売により,被告株式会社甲の滞
納債権を一部回収している。金融機関は,このような特殊回収に先立ち,連帯保証
人の自宅不動産などの調査をしている筈であるから,原告も,遅くとも平成10年
1月20日には,詐害行為の取消原因を覚知している筈である。
  (3) したがって,原告が主張する詐害行為取消権は,民法426条前段(覚知
したときから2年の短期消滅時効)により,平成12年1月20日には時効により
消滅した。
 8 原告(抗弁に対する認否,反論)
(1) 抗弁(1)は否認する。
  (2) 原告は,平成12年5月31日,本件土地建物の登記簿謄本(甲12)を
取得して初めて,本件土地建物について,債権額2億円抵当権設定仮登記や代物弁
済を原因とする所有権移転登記等がされていることを知った。よって,時効は未だ
成立していない。
          理  由
第1 貸金請求について
 1 争いのない事実
次の事実は,当事者間に争いがない。
(1) 請求原因(1)ア(ア)a(手形貸付)
(2) 請求原因(1)ア(ア)b(手形貸付の保証)のうち,被告乙の連帯保証
(3) 請求原因(1)ア(イ)a(証書貸付)
  (4) 請求原因(1)イ(債権者の変更等)
2 そして,証拠(甲1,甲25~27)によると,請求原因(1)ア(ア)b(手形
貸付の保証),同(1)ア(イ)b(証書貸付の保証)が認められる。
3 まとめ
以上によると,原告の本件貸金請求は,いずれも理由があるので,これを認
容すべきである。
第2 所有権移転登記等の抹消登記請求(主位的請求)について
1 争いのない事実
次の事実は,当事者間に争いがない。
  (1) 被告株式会社甲は,平成2年11月8日,Jクレジットから1億5000
万円の融資を受け,I興産に対し,1億5000万円を貸し付けた。
(2) 本件土地建物の登記等
   ア 本件土地はAの所有であり,本件建物は被告丙及びAが各持分2分の1
を所有する共有物件であった。
   イ Bは,平成7年10月9日,本件土地建物上に2億円の抵当権設定仮登
記を経由した。そして,Bは,平成9年6月20日,本件土地建物の抵当権設定仮
登記の債権額を2億円から1億円に変更した上,被告丁に対し,抵当権移転仮登記
をした。被告丁は,同年7月30日,これらの抵当権仮登記を抹消した。
   ウ A及び被告丙は,被告丙の妻Hの実母である被告丁に対し,平成9年6
月19日付け代物弁済を原因として,次の各所有権移転登記等を行った(別紙(5)身
分関係図参照)。
    (ア) Aは,本件土地について,神戸地方法務局宝塚出張所平成9年6月
20日受付第16862号をもって,所有権移転登記をした。
    (イ) A及び被告丙は,本件建物(持分各2分の1)について,同法務局
同出張所同日受付第16863号をもって,共有者全員持分全部移転登記をした。
  (3) A及び被告丙は,平成9年6月20日以降も,引き続き本件土地建物に居
住していた。
  (4) Aが平成12年12月27日死亡した。Aの相続人は,夫の被告乙,長男
の被告丙,長女のGの3人である。しかし,Gが相続の放棄をした(別紙(5)身分関
係図参照)。
2 事実の認定
前記1の争いのない事実に,証拠(甲12~14,甲36,甲37,乙31
~34〔枝番を含む〕,乙38,証人B〔一部〕,被告乙本人〔一部〕,被告丙本
人〔一部〕,被告丁本人〔一部〕),及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が
認められる。
  (1) 被告株式会社甲の宅地造成事業の失敗等
    被告株式会社甲は,平成2年より,a市b町c地区において,「サンcハ
イタウン」宅地造成・分譲事業に着手したが,事業がうまくいかず,その資金繰り
に窮した。
    そして,被告株式会社甲は,平成5年12月には,C銀行グループに対す
る20億円を越える貸金について延滞するようになり(甲37),負債の圧縮のた
め,上記買収地の転売に努めたが,平成7年にはほぼ転売不能になった(被告乙本
人調書13頁)。
(2) 平成7年10月9日付けの抵当権設定仮登記
ア そこで,被告株式会社甲及びその経営者で連帯保証人である被告乙,
A,被告丙は,何とか事業の存続を図り生き延びるため,C銀行グループに対し,
負債の8割カットの申し入れをすることにした。
   イ しかし,被告乙,A,被告丙らが居住する自宅(本件土地建物)が無担
保の状態であり(甲12~14),C銀行グループに負債カットの申し入れをする
ときは,A,被告丙に対する連帯保証債務で仮差押えされることが予想された。
  そこで,被告乙や被告丙は,旧知の知人で懇意にしていたBに頼み込
み,平成7年10月5日(木曜日),Bから被告乙への2億円の貸金を仮装し,こ
れをAと被告丙が連帯保証したことにして,本件土地建物に2億円の抵当権を設定
して,C銀行グループからの仮差押えに対する備えとした(乙38添付の借用証
書,抵当権設定証書)。
ウ 被告株式会社甲(被告乙及び被告丙)は,平成7年10月6日(金曜
日),C銀行宝塚支店を訪れ,同支店のK支店長及びL次長に対し,負債の8割カ
ットを申し入れた。しかし,同支店長らからは,負債カットの申出を拒否された
(甲36)。
     そのため,被告丙及びAは,C銀行グループからの本件土地建物に対す
る保全措置が予想されたため,早速,平成7年10月9日(月曜日),本件土地建
物にBを権利者とする2億円の抵当権設定仮登記をなし,これに備えた(甲12~
14)。
(3) 平成9年6月20日付けの所有権移転登記等
ア このようにして,C銀行グループからの本件土地建物への仮差押えは回
避できたが,Bは他人であり,63歳の高齢でもあって,万一同人が死亡すれば,
同人の遺族と揉める可能性もあった。
  そこで,被告乙及び被告丙は,被告丙の妻の母である被告丁の名義を借
り,被告丁がかねて被告丙に貸していた貸金をBに対する貸金に流用することに
し,B,被告丁,Aに事情を説明して,内容虚偽の書面を作成して,虚構の登記を
作出することの同意を取り付けた。
イ すなわち,被告丁は,被告丙に対し,乙第34号証に記載のとおり,5
000万円ほどの貸金を有していたが,この貸金をBに対する貸金とすることにし
た。
     そして,Bが,2億円の貸金を有することにして,その代物弁済とし
て,1億円で本件土地建物を取得し,残り1億円の貸金を被告丁に対する5000
万円の貸金の代物弁済として譲渡し,被告丁は,Bから譲り受けた1億円の貸金の
代物弁済として,本件土地建物を取得することにしたのである(乙38添付の代物
弁済契約書,抵当権付き債権譲渡契約証書,甲12~14)。
ウ そして,A,被告丙,B,被告丁は,通謀の上,平成9年6月20日付
け,同年7月30日付けで,本件土地建物について,次のような虚偽の登記を作出
した(甲12~14)。
(ア) Bは,平成9年6月19日一部弁済を原因として,債権額2億円の
抵当権設定仮登記を,債権額1億円に減額する旨の仮登記変更登記をした。そし
て,Bは,平成9年6月19日債権譲渡を原因として,被告丁に対し,抵当権移転
仮登記をした。
    (イ) そして,Aは,被告丁に対し,本件土地の所有権移転登記及び本件
建物(持分2分の1)の共有者全員持分全部移転登記をした。被告丙は,被告丁に
対し,本件建物(持分2分の1)の共有者全員持分全部移転登記をした。
 (ウ) その上で,被告丁は抵当権移転仮登記を抹消し,Bは抵当権設定仮
登記を抹消した。
   エ 上記仮装行為を作出して虚偽の登記をしたことにより必要となった登記
費用や税金は,被告乙,被告丙,Aの方で全額負担し,当然のことながら,被告丁
やBは1円も負担していない(被告丁本人調書39頁)。
  (4) 本件土地建物の占有使用者
    A,被告丙,被告乙は,平成9年6月20日付けで,被告丁に対し,本件
土地建物の所有権移転登記等をした後も,引き続き,従前どおり,本件土地建物に
居住している。被告丁は,平成9年6月20日以降も,引き続き,三重県d市に住
んでいる。
3 前記認定に反する被告丁主張の検討
(1) Bの被告乙に対する貸金2億円について
ア 被告丁の主張
被告丁は,「B(I興産会長)が,平成2年10月から同年12月まで
の間に,被告乙に対し,次のとおり4回にわたり合計2億円を貸し付けた。」と主
張する。
(ア) 平成2年10月30日に6000万円
    (イ) 平成2年11月15日に4000万円
    (ウ) 平成2年11月28日に3000万円
    (エ) 平成2年12月10日に7000万円
イ 検 討
しかし,被告丁の上記主張は,採用できない。その理由は,次のとおり
である。
(ア) 的確な証拠なし
被告丁は,Bが被告乙に貸し付けたという3億円の出所について,ワ
リコー等の現金化であると主張するだけで,何らの的確な証拠も提出しない。
      Bが2億円もの現金を工面したという客観的証拠,Bから被告乙に対
する2億円もの資金移動を示す客観的な証拠が存在しないというのは,2億円とい
う巨額な金額からすると,不自然なことである。
(イ) I興産の借入との矛盾-その①
被告株式会社甲(被告乙が社長)は,平成2年11月8日,Jクレジ
ットから1億5000万円の融資を受け,I興産(Bの個人会社)に対し,1億5
000万円を貸し付けている(当事者間に争いがない)。
それゆえ,Bには,平成2年10月から12月にかけて,被告乙に対
し,2億円も貸し付けるような資金力はなかったといえる。何故ならば,もし,B
には,当時そのような資金力があったのなら,被告株式会社甲から1億5000万
円もの融資を受けることはない筈だからである。
この点からも,Bが被告乙に2億円を貸し付けた事実は認められな
い。
(ウ) I興産の借入との矛盾-その②
I興産は,被告株式会社甲のJクレジットからの借入金1億5000
万円の利息金を被告株式会社甲に支払い(甲33),あるいは,被告株式会社甲に
代わってJクレジットに利息金を代払いしている(甲34)。ところが,Bは,同
じ頃被告乙に貸し付けた2億円については,無利息であったという。そのようなこ
とは,考えられないことである。
この点からも,Bが被告乙に2億円を貸し付けた事実は認められな
い。
(エ) 無担保,借用証書なし
Bは,被告乙に2億円を貸し付けるに際し,担保もとらなかったし,
借用証書も徴しなかったという。2億円もの大金を貸し付けるにあたり,担保もと
らず借用証書も徴しなかったなどということは,考えられないことである。
この点からも,Bが被告乙に2億円を貸し付けた事実は認められな
い。
  (2) 被告丁のBに対する貸金について
ア 被告丁の主張
     被告丁は,「被告丁が,平成4年6月から平成7年10月にかけて,B
に対し,次の(ア)(イ)(ウ)のとおり,3回にわたり合計3800万円を貸し付け
た。」と主張する。
    (ア) 平成4年6月7日に700万円(乙28)
(イ) 平成6年4月11日に600万円(乙29の1・2)
(ウ) 平成7年10月26日に2500万円(乙30の1・2)
イ 検 討
しかし,被告丁の上記主張も,採用できない。その理由は,次のとおり
である。
(ア) 的確な証拠なし
被告丁からBへの資金移動を示す客観的な証拠は皆無である。
    (イ) 見ず知らずの人物に貸すことの不自然さ
      被告丁は,Bとは,被告丁が平成4年6月にBに700万円を貸すま
では,見ず知らずの関係であったという(証人B,被告丁本人)。そうだとする
と,被告丁が,いくら娘婿の被告丙から頼まれたとはいえ,それまで全く知らなか
ったBに対し,次々と3回にわたり,合計3800万円もの大金を貸し付けたなど
ということは,にわかには考えられないことである。
しかも,被告丁は,平成4年6月7日に貸し付けた700万円につい
て,Bから1円の弁済も受けていないのに,平成6年4月11日に更に600万円
を貸し付けたというのであり,以上の700万円,600万円について,Bから1
円の弁済も受けていないのに,平成7年10月26日に重ねて2500万円を貸し
付けたという。そのようなことは,到底考えられないことである。
      その上,被告丁は,最後の2500万円は,銀行から借りてまでして
工面した金であるという(被告丁本人調書11頁)。すなわち,被告丁は,見ず知
らずの人物に,銀行から借りてまでして工面した金で2500万円を貸したのだと
いう。そんな不自然,不合理なことはありえない。
以上の点からも,被告丁がBに3800万円を貸し付けた事実は認め
られない。
(ウ) 証人Bの証言と矛盾
Bは,「被告丁からは2500万円を借りた記憶しかない(証人Bの
証人調書14頁),600万円,700万円を借りたことについては,よく覚えて
いない(証人Bの証人調書15頁)」と証言する。
この点からも,被告丁がBに3800万円を貸し付けた事実は認めら
れない。
(エ) 被告丁本人の供述と矛盾
被告丁は,「600万円,700万円,2500万円は,被告丙に貸
した金である。」「被告丙から,以上の貸金合計3800万円の内金500万円の
返済を受けた。」「600万円,700万円,2500万円をBに貸したかどう
か,はっきり分からない」とも供述している(被告丁本人調書25~27頁)。
この点からも,被告丁がBに3800万円を貸し付けた事実は認めら
れない。
4 まとめ
(1) 前記第1の認定事実に,以上の第2の1ないし3の認定判断によると,原
告主張の請求原因(2)イ(通謀虚偽表示による所有権移転登記等),同ウ(所有権移
転登記等抹消登記請求権の代位行使)の事実が認められ,被告丁主張の抗弁は認め
られない。
(2) よって,被告丁は,本件土地建物の代物弁済の通謀虚偽表示による無効を
理由に,本件土地建物所有権移転登記等の抹消登記手続をする義務があり,原告の
被告丁に対する所有権移転登記等の抹消登記請求(主位的請求)は理由があるの
で,これを認容すべきである。
第3 結 論
   以上によると,原告の本件貸金請求,所有権移転登記等の抹消登記請求はい
ずれも理由があるので,これを認容し,主文のとおり判決する。
 
    神戸地方裁判所第2民事部
        裁判官  紙 浦  健 二

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛