弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決中、上告人らの被上告人らに対する第二次的及び第三次的請求に
係る部分を破棄し、右部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
     上告人らのその余の上告を却下する。
     前項に関する上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 一 上告代理人長戸路政行の上告理由について
 1 上告人らの第二次的請求は、D(上告人A1の父)による昭和三〇年一〇月
三日の本件土地の占有をその起算点とする期間一〇年又は二〇年(昭和四二年一月
初旬に上告人らが占有を承継)の取得時効の成立を理由として、被上告人らに対し、
各持分移転登記手続を求めるものであり、第三次的請求は、上告人らによる昭和四
二年四月三〇日の本件土地の占有をその起算点とする期間一〇年又は二〇年の取得
時効の成立を理由として、被上告人らに対し、各持分移転登記手続を求めるもので
ある。
 原審は、(1) 本件土地の当時の所有者であったE(被上告人B1の夫Fの父、
被上告人B2の祖父)とD(Eの弟)との間で、昭和三〇年一〇月に本件土地とD
所有のa番の土地との交換契約が成立したと認めるに足りないこと、及びDが上告
人らに対し、昭和四二年一月に本件土地を贈与したと認めるに足りないことを理由
に、Dによる昭和三〇年一〇月ころの本件土地の占有の開始が交換契約により所有
権を取得したと認識した上のものであると認めるに足りず、上告人らによる昭和四
二年四月ころの本件土地の占有の開始も贈与契約により所有権を取得したと認識し
た上のものであると認めるに足りないとし、また、(2) D及び上告人らは、本件
土地につき、登記簿上の所有名義がE又はFにあり、Dに移転していないことを知
りながら、その移転登記手続を求めることなく長期間放置し、本件土地の固定資産
税を負担することもしなかったなど、所有者としてとるべき当然の措置をとってい
ないことを総合して考慮すると、D及び上告人らには本件土地を占有するにつき所
有の意思がなかったというのが相当であると判断した。
 2 しかしながら、原審の右判断は、是認することができない。その理由は、次
のとおりである。
 民法一八六条一項の規定は、占有者は所有の意思で占有するものと推定しており、
占有者の占有が自主占有に当たらないことを理由に取得時効の成立を争う者は、右
占有が所有の意思のない占有に当たることについての立証責任を負うのであるが、
右の所有の意思は、占有者の内心の意思によってではなく、占有取得の原因である
権原又は占有に関する事情により外形的客観的に定められるべきものであるから、
占有者の内心の意思のいかんを問わず、占有者がその性質上所有の意思のないもの
とされる権原に基づき占有を取得した事実が証明されるか、又は占有者が占有中、
真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、若しくは所有者であれば当然とる
べき行動に出なかったなど、外形的客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して
占有する意思を有していなかったものと解される事情(このような事情を以下「他
主占有事情」という。)が証明されて初めて、その所有の意思を否定することがで
きるものというべきである(最高裁昭和五七年(オ)第五四八号同五八年三月二四
日第一小法廷判決・民集三七巻二号一三一頁参照)。
 これを本件についてみると、原審の(1)の判断は、D又は上告人らの内心の意思
が所有の意思のあるものと認めるに足りないことを理由に、同人らの本件土地の占
有は所有の意思のない占有に当たるというに帰するものであって、同人らがその性
質上所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得した事実を確定した上
でしたものではない。
 原審の(2)の判断は、D及び上告人らが本件土地の登記簿上の所有名義人であっ
たE又はFに対し長期間にわたって移転登記手続を求めなかったこと、及び本件土
地の固定資産税を全く負担しなかったことをもって他主占有事情に当たると判断し
たものである。まず、所有権移転登記手続を求めないことについてみると、この事
実は、基本的には占有者の悪意を推認させる事情として考慮されるものであり、他
主占有事情として考慮される場合においても、占有者と登記簿上の所有名義人との
間の人的関係等によっては、所有者として異常な態度であるとはいえないこともあ
る。次に、固定資産税を負担しないことについてみると、固定資産税の納税義務者
は「登記簿に所有者として登記されている者」である(地方税法三四三条一、二項)
から、他主占有事情として通常問題になるのは、占有者において登記簿上の所有名
義人に対し固定資産税が賦課されていることを知りながら、自分が負担すると申し
出ないことであるが、これについても所有権移転登記手続を求めないことと大筋に
おいて異なるところはなく、当該不動産に賦課される税額等の事情によっては、所
有者として異常な態度であるとはいえないこともある。すなわち、これらの事実は、
他主占有事情の存否の判断において占有に関する外形的客観的な事実の一つとして
意味のある場合もあるが、常に決定的な事実であるわけではない。
 本件においては、原審は、D又は上告人らの本件土地の使用状況につき、(ア)
 Dは、それまで借家住まいであったが、昭和三〇年一〇月ころ、本件土地に建物
を建築し、妻子と共にこれに居住し始めた、(イ) Dは、昭和三八年ころ、本件
土地の北側角に右建物を移築した、(ウ) Dは、昭和四〇年八月ころ、移築した
右建物の東側に建物を増築した、(エ) 上告人A1と結婚していた上告人A2は、
昭和四二年四月ころ、Dが移築し、増築した建物の東側に隣接して作業所兼居宅を
建築した、(オ) 上告人A2は、昭和六〇年、Dが移築し、増築した建物と上告
人A2が建築した作業所兼居宅とを結合するなどの増築工事をして現在の建物とし
た、(カ) E又はFは、以上のD又は上告人A2による建物の建築等について異
議を述べたことがなかった、との事実を認定しているところ、DはEの弟であり、
いわばD家が分家、E家が本家という関係にあって、当時経済的に苦しい生活をし
ていたD家がE家に援助を受けることもあったという原判決認定の事実に加えて、
右(ア)ないし(カ)の事実をも総合して考慮するときは、D及び上告人らが所有
権移転登記手続を求めなかったこと及び固定資産税を負担しなかったことをもって
他主占有事情として十分であるということはできない。なお、原審は、本件土地の
固定資産税につき、Eらに対していつからどの程度の金額が賦課されていたのか、
D又は上告人らにおいていつそれを知ったのかについて審理判断していない。
 3 以上の次第で、原審の右(1)、(2)の判断は、所有の意思に関する法令の解
釈適用を誤った違法があり、ひいて審理不尽、理由不備の違法をおかしたものであ
り、右違法は、原判決のうち上告人らの被上告人らに対する第二次的及び第三次的
請求に係る部分の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
 論旨は、右の趣旨をいうものとして理由があり、原判決は右部分につき破棄を免
れない。そこで、更に審理を尽くさせるため、右部分につき本件を原審に差し戻す
こととする。
 二 本件上告について提出された上告状及び上告理由書には上告人らの被上告人
らに対する第一次的請求に係る部分についての上告理由の記載がないから、右部分
については適法な上告理由書提出期間内に上告理由書の提出がなかったことに帰す
る。そうすると、右部分についての上告は、不適法であるから、これを却下すべき
である。
 三 よって、民訴法四〇七条一項、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員
一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    河   合   伸   一
            裁判官    福   田       博

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