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平成22年3月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ネ)第10003号不正競争行為差止等本訴請求,同反訴請求控訴
事件(原審・東京地方裁判所平成18年(ワ)第23402号,平成19年(ワ)
第24141号)
口頭弁論終結日平成22年3月3日
判決
控訴人兼被控訴人(1審本訴原告兼反訴被告)
株式会社オーベル
(以下「控訴人オーベル」という。)
控訴人兼被控訴人(1審本訴原告)
X1
(以下「控訴人X1」という。)
同所
同X2
(以下「控訴人X2」という。)
同X3
(以下「控訴人X3」という。)
控訴人ら訴訟代理人弁護士
大澤一郎
被控訴人兼控訴人(1審本訴被告兼反訴原告)
株式会社サンベスト
(以下「被控訴人サンベスト」という。)
同所
同Y1
(以下「被控訴人Y1」という。)
同所
被控訴人(1審本訴被告兼反訴原告)
(以下「被控訴人Y2」という。)
被控訴人ら訴訟代理人弁護士
海田麻子
主文
1原判決を次のとおり変更する。
(1)被控訴人Y1及び同Y2は,連帯して,
ア控訴人オーベルに対し,16万5000円
イ控訴人X1に対し,8万2500円
ウ控訴人X2に対し,4万1250円
エ控訴人X3に対し,4万1250円
及び以上の各金員に対するいずれも平成18年10月29日から支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)控訴人らの被控訴人サンベストに対する本訴請求並びに被控
訴人Y1及び同Y2に対するその余の本訴請求をいずれも棄却する。
(3)被控訴人Y1に対し,
ア控訴人オーベル及び同X1は,連帯して,27万5000円
イ控訴人オーベル及び同X2は,連帯して,2万7500円
ウ控訴人オーベル及び同X3は,連帯して,2万7500円
及び以上の各金員に対するいずれも平成20年1月24日から支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)被控訴人サンベストの反訴請求及び同Y1のその余の反訴請
求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,本訴,反訴を通じ,かつ,第1,2審を通じ,これ
を2分し,その1を控訴人らの,その余を被控訴人らの負担とする。
3この判決は,主文1項(1)及び(3)に限り,仮に執行することがで
きる。
事実及び理由
第1申立て
1控訴人ら
(1)控訴人らの控訴及び請求の減縮に基づき,原判決を次のとおり変更する。
ア被控訴人サンベスト及び同Y1の反訴請求をいずれも棄却する。
イ控訴人オーベルに対し,
(ア)被控訴人らは,連帯して,2279万7500円
(イ)被控訴人Y1及び同Y2は,連帯して,550万円
及び以上の各金員に対する平成18年10月29日から支払済みまで年5分の割
合による金員を支払え。
ウ控訴人X1に対し,
(ア)被控訴人Y1及び同Y2は,連帯して,275万円及びこれに対する平成
18年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員
(イ)被控訴人Y1は,55万円及びこれに対する平成20年2月23日から支
払済みまで年5分の割合による金員
をそれぞれ支払え。
エ控訴人X2に対し,
(ア)控訴人Y1及び同Y2は,連帯して,137万5000円及びこれに対す
る平成18年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員
(イ)被控訴人Y1は,27万5000円及びこれに対する平成20年2月23
日から支払済みまで年5分の割合による金員
をそれぞれ支払え。
オ控訴人X3に対し,
(ア)被控訴人Y1及び同Y2は,連帯して,137万5000円及びこれに対
する平成18年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員
(イ)被控訴人Y1は,27万5000円及びこれに対する平成20年2月23
日から支払済みまで年5分の割合による金員
をそれぞれ支払え。
(2)当審において追加された被控訴人サンベスト及び同Y1の請求を棄却する。
(3)訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人らの負担とする。
(4)仮執行宣言
2被控訴人サンベスト及び同Y1
(1)被控訴人サンベスト及び同Y1の控訴及び請求の拡張に基づき,原判決を
次のとおり変更する。
ア控訴人らの本訴請求をいずれも棄却する。
イ控訴人オーベルは,
(ア)被控訴人サンベストに対し,200万円及びこれに対する平成19年10
月4日から支払済みまで年5分の割合による金員
(イ)被控訴人Y1に対し,250万円及び内金100万円に対する平成19年
10月4日から,内金150万円に対する平成20年1月24日から各支払済み
まで年5分の割合による金員
をそれぞれ支払え。
(2)当審において追加された請求
ア控訴人X1は,
(ア)被控訴人サンベストに対し,200万円及びこれに対する平成19年10
月4日から支払済みまで年5分の割合による金員
(イ)被控訴人Y1に対し,200万円及びうち100万円に対する平成19年
10月4日から,うち100万円に対する平成20年1月24日から各支払済み
まで年5分の割合による金員
を,(ア)の200万円については,控訴人オーベルと,うち50万円については,
控訴人X2及び同X3と,(イ)の前者の100万円については,同限度で,控訴
人オーベルと,うち25万円の限度で,控訴人X2及び同X3と,(イ)の後者の
100万円については,同限度で,控訴人オーベルと,うち25万円の限度で控
訴人X2及び同X3とそれぞれ連帯して支払え。
イ控訴人X2は,
(ア)被控訴人サンベストに対し,50万円及びこれに対する平成19年10月
4日から支払済みまで年5分の割合による金員
(イ)被控訴人Y1に対し,50万円及び内金25万円に対する平成19年10
月4日から,内金25万円に対する平成20年1月24日から各支払済みまで年
5分の割合による金員
をその余の控訴人らとそれぞれ連帯して支払え。
ウ控訴人X3は,
(ア)被控訴人サンベストに対し,50万円及びこれに対する平成19年10月
4日から支払済みまて年5分の割合による金員
(イ)被控訴人Y1に対し,50万円及び内金25万円に対する平成19年10
月4日から,内金25万円に対する平成20年1月24日から各支払済みまで年
5分の割合による金員
をその余の控訴人らと連帯してそれぞれ支払え。
(3)訴訟費用は,第1,2審とも,控訴人らの負担とする。
(4)仮執行宣言
第2事案の概要
1原審における請求
本件は,原審においては,控訴人らの以下の本訴請求と,被控訴人らの以下の反
訴請求とからなる事案であった。
(1)本訴請求
①控訴人オーベルが,被控訴人らによる別紙物件目録記載1ないし6の塗料
(以下「被控訴人塗料1」などといい,これらをまとめて「被控訴人塗料」とい
う。)の製造・販売行為は不正競争防止法2条1項1号及び同項13号に該当し,
被控訴人らが同控訴人を誹謗・中傷した行為は同法2条1項14号に該当すると主
張して,被控訴人らに対し,同法3条に基づいて別紙顧客目録記載の者(以下「本
件顧客」という。)への営業行為及び被控訴人塗料の本件顧客への輸出・譲渡の差
止め(ただし,被控訴人塗料のうち別紙物件目録記載1,3,5及び6の塗料の製
造・販売行為の差止めは,不正競争防止法2条1項14号のみに基づくものであ
る。)を求める請求
②控訴人オーベルが,①の不正競争行為による損害として,被控訴人らに対し,
不正競争防止法4条に基づいて5387万2500円及び平成18年10月29日
から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求
③控訴人オーベル並びにその代表取締役であった1審原告訴訟被承継人A(以
下「被承継人」という。)の訴訟承継人である控訴人X1,同X2及び同X3(以
下「控訴人X1ら」という。)が,被控訴人Y1及び同Y2による文書の配布が控
訴人オーベルの信用を毀損するとともに,被承継人の名誉を毀損すると主張して,
同被控訴人らに対し,民法709条に基づく損害賠償として,それぞれ550万円
及び前同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求
④控訴人X1らが,被控訴人Y1の株主総会における発言が被承継人の名誉を
毀損すると主張して,同被控訴人に対し,民法709条に基づく損害賠償として,
110万円及び平成20年2月23日から支払済みまで年5分の割合による遅延損
害金の支払を求める請求
(2)反訴請求
①被控訴人サンベスト及び同Y1が,控訴人オーベルによる本訴提起のうち不
正競争防止法違反に係るものは不当訴訟であると主張して,同控訴人に対し,民法
709条に基づく損害賠償として,200万円及び平成19年10月4日から支払
済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求
②被控訴人Y2が,①と同様に主張して,控訴人オーベルに対し,民法709
条に基づく損害賠償として,300万円及び前同日から支払済みまで年5分の割合
による遅延損害金の支払を求める請求
③被控訴人Y1が,控訴人オーベルの株主総会における被承継人及び控訴人X
1の発言が同被控訴人の名誉を毀損すると主張して,控訴人オーベルに対し,民法
709条に基づく損害賠償として,100万円及び平成20年1月24日から支払
済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求
2原判決及び控訴の提起
(1)原判決は,本訴については,本訴①の請求を棄却し,同②の請求を210
万円及び平成18年10月29日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金
の支払を求める限度で認容し,同③のうち,被控訴人Y1の名誉毀損による損害賠
償を求める請求を合計18万円及びこれらに対する平成20年2月23日から支払
済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認定し,同④の請求
を棄却するとともに,反訴請求については,反訴①のうち,被控訴人Y1の請求を
24万円及びこれに対する平成20年1月24日から支払済みまで年5分の割合に
よる遅延損害金の支払を求める限度で認容し,同②及び③の請求をいずれも棄却し
た。
(2)控訴人オーベルは,原判決中,本訴②の請求を棄却した部分を不服として,
また,同控訴人及び控訴人X1らは,同③のうち,被控訴人Y1及び同Y2の名誉
毀損行為による損害賠償を求める請求を棄却した部分を不服として,控訴人X1ら
は,同④の請求を棄却した点を不服としてそれぞれ控訴した。
他方,被控訴人サンベスト及び同Y1は,原判決中,反訴①の請求を一部棄却し
た部分及び同②及び③の請求を全部棄却した点をいずれも不服として控訴した。
3当審における請求
(1)当審において,その後,被控訴人サンベストは,控訴人X1らに対し,会
社法429条に基づく不当訴訟による損害賠償請求として,合計200万円(内訳
は,控訴人X1につき100万円,同X2及び同X3につき各50万円)及びこれ
に対する平成19年10月4日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の
支払を求める訴えを追加し,被控訴人Y1は,同被控訴人の控訴人オーベルに対す
る不当訴訟による損害賠償請求の主たる請求を100万円の支払を求める限度に減
縮した上,控訴人X1らに対し,上記と同様の損害賠償請求として,合計100万
円(内訳は,控訴人X1につき50万円,同X2及び同X3につき各25万円)及
びこれらに対する前同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を
求める訴えを追加するとともに,控訴人オーベルに対する名誉毀損行為による損害
賠償請求について,主たる請求を150万円に拡張した上,会社法429条に基づ
く名誉毀損行為による損害賠償として,控訴人X1らに対し,合計100万円(内
訳は,控訴人X1につき50万円,同X2及び同X3につき各25万円)及びこれ
らに対する平成20年1月24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金,
控訴人X1に対し,50万円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合
による遅延損害金を求める訴えを追加した。
(2)以上の結果,当審において判断が求められている請求は,以下の本訴請求
1ないし5及び反訴請求1ないし7である。
ア本訴関係
以下の本訴請求(当審において拡張された請求を含む。)中,(ウ)と(エ)は互い
に不真正連帯債務の関係に立つ。
(ア)本訴請求1
控訴人オーベルの被控訴人らに対する不正競争防止法2条1項13号の不正競争
行為による同法4条に基づく損害賠償としての2279万7500円及びこれに対
する平成18年10月29日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支
払請求
(イ)本訴請求2
控訴人オーベルの被控訴人らに対する不正競争防止法2条1項14号の不正競争
行為による同法4条に基づく損害賠償としての2279万7500円及びこれに対
する平成18年10月29日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支
払請求
(ウ)本訴請求3
控訴人オーベルの被控訴人Y1及び同Y2に対する名誉毀損行為による民法70
9条に基づく損害賠償としての550万円及びこれに対する平成18年10月29
日から支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金の支払請求
(エ)本訴請求4
控訴人X1らの被控訴人Y1及び同Y2に対する名誉毀損行為による民法709
条に基づく損害賠償としての550万円及びこれに対する平成18年10月29日
から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求
(オ)本訴請求5
控訴人X1らの被控訴人Y1に対する名誉毀損行為による民法709条に基づく
損害賠償としての110万円及びこれに対する平成20年2月23日から支払済み
まで年5分の割合による遅延損害金の支払請求
イ反訴関係
以下の反訴請求(当審において追加された請求を含む。)中,それぞれに対応す
る債務は,(ア)と(ウ)のほか,(イ)と(エ)について(エ)の各自の支払の限度,(オ)
と(カ)について(カ)の各自の支払の限度,(オ)と(キ)について(キ)の限度で,いず
れも互いに不真正連帯債務の関係に立つ。
(ア)反訴請求1
被控訴人サンベストの控訴人オーベルに対する不当訴訟提起行為による会社法3
50条及び民法709条に基づく損害賠償請求としての200万円及びこれに対す
る平成19年10月4日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請

(イ)反訴請求2
被控訴人Y1の控訴人オーベルに対する不当訴訟提起行為による会社法350条
及び民法709条に基づく損害賠償請求としての100万円及びこれに対する平成
19年10月4日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求
(ウ)反訴請求3
被控訴人サンベストの控訴人X1らに対する不当訴訟提起行為による会社法42
9条及び民法709条に基づく損害賠償請求としての合計200万円及びこれに対
する平成19年10月4日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払
請求
(エ)反訴請求4
被控訴人Y1の控訴人X1らに対する不当訴訟提起行為による会社法429条及
び民法709条に基づく損害賠償請求としての合計100万円及びこれに対する平
成19年10月4日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求
(オ)反訴請求5
被控訴人Y1の控訴人オーベルに対する名誉毀損行為による会社法350条,民
法715条及び同法709条に基づく損害金150万円及びこれに対する平成20
年1月24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求
(カ)反訴請求6
被控訴人Y1の控訴人X1らに対する名誉毀損行為による会社法429条及び民
法709条に基づく損害賠償請求としての合計100万円及びこれに対する平成2
0年1月24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求
(キ)反訴請求7
被控訴人Y1の控訴人X1に対する名誉毀損行為による会社法429条及び民法
709条に基づく損害賠償請求としての50万円及びこれに対する平成20年1月
24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求
4前提となる事実関係
控訴人らの本訴請求並びに被控訴人サンベスト及び同Y1の反訴請求に対する判
断の前提となる事実関係は,以下のとおりである。
(1)当事者等
以下の事実は,当事者間に争いのない事実のほか,甲1,2,30,31,91
ないし93,乙1及び弁論の全趣旨によって認められる。
ア控訴人オーベル
控訴人オーベルは,自動車部品の固体潤滑コーティング及び塗料の販売等を行う
会社であり,昭和42年3月に,B(以下「B」という。),被控訴人Y1及び同
人の夫である被控訴人Y2を発起人として設立された有限会社オーベル化学研究所
が,昭和55年に株式会社に組織変更されたものである。
B,C(以下「C」という。),被控訴人Y1及び被承継人は,きょうだいであ
り,年齢は上記記載の順である。
控訴人オーベルにおいては,設立当初から平成9年2月に至るまで,Bが代表取
締役を務め,そのころまでの同社の経営には,Bのほか,被控訴人Y1及び後に加
わったCが当たっていたが,同年3月,BとCが引退し,被承継人が代表取締役に
就任した。
控訴人オーベルの株式については,平成9年から平成10年ころに2度にわたっ
て増資をし,被承継人に割り当てた結果,被承継人が発行済み株式の60%,被控
訴人Y1が16%,Bが16%,死亡したCの相続人であるD(以下「D」とい
う。),E(以下「E」という。)及びF(以下「F」という。)が合計8%を有
していた。
被控訴人Y1は,平成13年8月ころ,被承継人に依頼されて社長代行として控
訴人オーベルの経営に携わったが,同14年3月の株主総会において,社長代行を
解任された。
なお,被承継人の死亡により,本件訴訟の訴訟手続は,その相続人である控訴人
X1らが受継した。また,平成20年7月26日,控訴人オーベルの取締役であっ
た控訴人X1が同社の代表取締役に就任している。
イ被控訴人サンベスト
被控訴人サンベストは,塗料及び塗料機会,器具類の製造,販売を目的とする会
社であり,平成14年4月に設立され,被控訴人Y1が代表取締役に,同Y2が監
査役にそれぞれ就任している。
ウ三洋商事株式会社
三洋商事株式会社(以下「三洋商事」という。)は,塗料及びその他の原材料並
びに塗装機械,器具類の輸出及び販売を目的とする会社である。控訴人オーベルは,
三洋商事から塗料を購入していたところ,三洋商事が経営危機に陥ったことから,
同控訴人は,材料の仕入れ先を安定させるため,昭和60年ころ,三洋商事を買収
して系列傘下におさめた。
三洋商事の代表取締役は,平成9年4月まではBが,同月からは被控訴人Y1が
務めていたが,被控訴人Y1は,平成14年3月の株主総会において取締役を解任
され,以降は被承継人が代表取締役を務めていた。
(2)塗料の概要
以下の事実は当事者間に争いがない。
アザイラン1052
ザイラン1052は,アメリカのウィットフォード社製の塗料であり,我が国に
おいては,岡畑興産株式会社(以下「岡畑興産」という。)が同塗料の独占的販売
代理店であった。
イホスタフロン5875
ホスタフロン5875は,ドイツのヘキスト社が製造・販売していた塗料の名称
であるが,ヘキスト社は,遅くとも平成4年ころ,ホスタフロン5875の製造を
中止し,その技術及び製法をドイツのワイルバーガー社及びアメリカのウィットフ
ォード社に譲渡した。
ヘキスト社が製造していたホスタフロン5875と同じ塗料は,現在,ワイルバ
ーガー社のグレブロン1211,ウィットフォード社のザイラン1075として,
それぞれ製造・販売されている。
(3)過去の紛争の経過
以下の事実は,当事者間に争いのない事実のほか,甲14,30ないし33,4
7,90,乙1,弁論の全趣旨によって認められる。
ア横領による損害賠償請求訴訟
控訴人オーベル及び三洋商事は,東京地方裁判所に対し,平成13年,控訴人オ
ーベル及び三洋商事の経理を担当していたG(以下「G」という。)を被告として,
また,控訴人オーベルは,控訴人オーベルの取引先である有限会社石川工業所(以
下「石川工業所」という。)の取締役であるH(以下「H」という。)を共同被告
として,①G及びHが共謀して水増し又は架空請求をする方法により2120万5
000円を横領した,②Gが不正経理により合計270万9960円を横領したと
主張して,損害賠償の支払を請求する訴え(平成13年(ワ)第27725号。以
下「別件横領関係訴訟」という。)を提起した。
控訴人オーベルとHとの間で,平成14年11月15日,Hが控訴人オーベルに
80万円を支払い,控訴人オーベルがその余の請求を放棄することを内容とする訴
訟上の和解が成立した。
東京地方裁判所は,平成15年2月28日,上記事件について,控訴人オーベル
及び三洋商事のGに対する請求を全部認容する判決を言い渡し,同判決は控訴期間
満了により確定した。
イ退職慰労金支払等請求訴訟
被控訴人Y1は,東京地方裁判所に対し,平成14年,控訴人オーベルを被告と
して,退職慰労金残金,保証料残金,技術料及び社長代行報酬の支払を求める訴え
(平成14年(ワ)第12515号)を提起した後,三洋商事を被告として,被控
訴人Y1が三洋商事の取締役を解任されたことに正当事由がないとして,残りの在
任期間の報酬と慰謝料の支払を求める訴え(平成14年(ワ)第12786号)を
提起した。
三洋商事は,被控訴人Y1に対し,同被控訴人が三洋商事の代表取締役在任中に
支払を受けた技術料,売掛金,弁護士費用及び保険料の積立貯蓄部分の返還,並び
に同被控訴人が前記技術料を受け取ったことによって三洋商事が加算税を課された
ことによる損害賠償の支払を求める反訴(平成14年(ワ)第21525号)を提
起した。
東京地方裁判所は,平成16年3月31日,平成14年(ワ)第12515号事
件に係る被控訴人Y1の請求のうち,社長代行報酬の支払請求については棄却し,
その余の請求を認容し,平成14年(ワ)第12786号事件に係る同請求のうち,
取締役報酬相当額の損害賠償の一部を認容し,その余の請求を棄却し,三洋商事の
反訴請求については,売掛金の返還の限度で認容し,その余の反訴請求を棄却する
判決を言い渡した。
ウ取締役解任請求訴訟
被控訴人Y1は,東京地方裁判所に対し,平成17年,控訴人オーベル,被承継
人及び控訴人X1を被告として,被承継人及び控訴人X1について控訴人オーベル
の取締役を解任することを求める訴え(平成17年(ワ)第7086号。以下「別
件取締役解任請求訴訟」という。)を提起した。
東京地方裁判所は,平成18年9月26日,上記事件について,被控訴人Y1の
請求を棄却する判決を言い渡し,同被控訴人は控訴したが,東京高等裁判所は,平
成19年4月26日,控訴を棄却する判決を言い渡し,被控訴人Y1は上告及び上
告受理の申立てをしたが,最高裁判所は,平成19年9月21日,上告を棄却し,
上告受理申立てを受理しないとの決定をした。
エ賃料支払差止請求訴訟
被控訴人Y1は,東京地方裁判所に対し,平成17年,被承継人を被告として,
株主の取締役に対する違法行為差止請求権に基づき,控訴人オーベルから被承継人
及び有限会社ラーラアヴィスに対する賃料支払の差止めを求める訴え(平成17年
(ワ)第13377号)を提起した。
東京地方裁判所は,平成18年9月26日,上記事件について,被控訴人Y1の
請求を棄却する判決をし,被控訴人Y1は控訴したが,東京高等裁判所は,平成1
9年7月18日,被控訴人Y1の控訴を棄却する判決を言い渡した。
オ特別背任罪による告発
被控訴人Y1は,警視庁に対し,平成16年1月ころ,被承継人を商法上の特別
背任罪で告発したが,いったん同告発を取り下げ,亀有警察署に対し,平成17年
3月3日,同内容の告発をしたが,被承継人は,平成18年12月22日,同告発
に係る被疑事件について,不起訴処分を受けた。
カ放火罪による告発
控訴人オーベルの吉川工場は,平成9年3月5日,火災により焼失した。
Gは,吉川警察署に対して,平成18年8月ころ,上申書を提出して,被承継人
を上記火災に係る放火の罪で告発した。
(4)文書送付行為
以下の事実は,当事者間に争いのない事実のほか,甲16ないし19によって認
められる。
ア本件文書の送付
被控訴人Y1及び同Y2は,Cに対し,同人あての平成15年7月20日付け書
簡(以下「本件文書1」という。)を送付した。
被控訴人Y1は,B及びCに対し,同人らあての平成15年12月11日付け書
簡(以下「本件文書2」という。)を送付した。
被控訴人Y1は,Bに対し,同人あての平成17年3月28日付け書簡(以下
「本件文書3」という。)を送付した。
被控訴人Y1は,D,E及びFに対し,同人らあての平成17年3月28日付け
書簡(以下「本件文書4」といい,本件文書1ないし4の送付行為を「本件文書送
付行為」という。)を送付した。
イ本件文書の文言
本件文書1ないし4には,別紙「名誉毀損文言」記載のとおりの文言が含まれて
いる。
(5)株主総会における発言
以下の事実は,当事者間に争いがない。
ア被控訴人Y1の発言
被控訴人Y1は,被承継人に対し,平成19年11月8日開催の控訴人オーベル
の株主総会(以下「本件株主総会」という。)において,別紙「Y1発言」記載1
(1)ないし(18)及び2(1)ないし(4)のとおりの発言(以下「本件発言1」とい
う。)をした。
イ被承継人及び控訴人X1の発言
被承継人は,被控訴人Y1に対し,本件株主総会において,別紙「A発言」記載
1ないし6のとおりの発言(以下「本件発言2」という。)をし,被承継人及び控
訴人X1は,被控訴人Y1に対し,本件株主総会において,別紙「A及びX1発
言」記載1ないし5のとおりの発言(以下「本件発言3」という。)をした。
5本件訴訟の争点
当審における本件訴訟の争点は,下記のとおりである。
(1)不正競争防止法に基づく損害賠償請求
ア不正競争防止法2条1項13号に基づく請求について
(ア)争点1−1被控訴人サンベストによる不正競争防止法2条1項13号該
当行為の有無
(イ)争点1−2損害
(ウ)争点1−3被控訴人Y1及び同Y2に対する請求の可否
イ不正競争防止法2条1項14号に基づく請求について
(ア)争点2−1被控訴人サンベストによる不正競争防止法2条1項14号該
当行為の有無
(イ)争点2−2控訴人オーベルと被控訴人サンベストの間の競争関係の有無
(ウ)争点2−3損害
(エ)争点2−4Y1及びY2に対する請求の可否
(2)不当訴訟
ア争点3−1本件訴訟提起行為の違法性の有無
イ争点3−2故意又は過失の有無
ウ争点3−3損害
(3)本件文書送付行為による名誉・信用毀損
ア争点4−1本件文書送付行為の違法性の有無
イ争点4−2故意又は過失の有無
ウ争点4−3損害
(4)本件発言1による名誉毀損
ア争点5−1違法性の有無
イ争点5−2故意又は過失の有無
ウ争点5−3損害
(5)本件発言2・3による名誉毀損
ア争点6−1違法性の有無
イ争点6−2損害
第3当事者の主張
前記争点に関する当事者の主張は,当裁判所の判断を示す際に,これを摘示する
こととする。
第4当裁判所の判断
1不正競争防止法違反による損害賠償請求
(1)被控訴人サンベストによる不正競争防止法2条1項13号該当行為の有無
(争点1−1)について
ア控訴人オーベルの主張
控訴人オーベルは,被控訴人サンベストは「ザイラン1052」及び「ホスタフ
ロン5875」と表示した塗料をケーヒンや東邦メッキに販売しているところ,こ
れらの塗料は,それぞれザイラン1052及びホスタフロン5875と異なる成分
の塗料であるから,被控訴人サンベストによるこれらの塗料についての表示は不正
競争防止法2条1項13号にいう「商品の原産地,品質,内容,製造方法,用途若
しくは数量…について誤認させるような表示」であり,被控訴人サンベストによる
これらの塗料についての表示行為及び販売行為は同号の不正競争行為に該当すると
主張するので,この点について検討する。
イ控訴人オーベル及び被控訴人サンベストの取引状況
以下の事実は,当事者間に争いのない事実のほか,甲40(添付資料5),61,
71ないし74,乙32及び弁論の全趣旨によって認められる。
(ア)株式会社ケーヒン
株式会社ケーヒン(以下「ケーヒン」という。)は,本田技研工業株式会社系列
の会社である。
控訴人オーベルとケーヒン(ただし,当時の商号は「株式会社京浜気化器」であ
った。)は,昭和56年,自動車部品取引に関する基本契約(以下「本件基本契
約」という。)を締結し,控訴人オーベルは,同契約に基づいて,コーティング加
工をした自動車部品をケーヒンに納入していた。
ケーヒンのスロットルシャフトについてのフッ素樹脂コーティング加工の仕様書
には,昭和56年ころから,塗料としてザイラン1052を使用することが記載さ
れている。
また,ケーヒンのバキュームピストンについてのテフロンコーティング加工の仕
様書には,昭和57年ころから,塗料としてホスタフロン5875を使用すること
が記載されている。
控訴人オーベルは,岡畑興産からザイラン1052を購入し,これを自動車部品
のフッ素樹脂コーティング加工に使用し,加工済みの自動車部品をケーヒンに納入
するとともに,ヘキスト社からホスタフロン5875を,同社がホスタフロン58
75の製造を中止した後はワイルバーガー社からグレブロン1211を購入するな
どして,自動車部品のテフロンコーティング加工に使用し,加工済みの自動車部品
をケーヒンに納入していた。
また,同控訴人は,ケーヒンに対して,平成16年8月まで,ザイラン1052
やホスタフロン5875(ただし,ホスタフロン5875の製造が中止された後は
これと同等のものであるザイラン1075及びグレブロン1211を使用した塗
料)を販売していた。
(イ)東邦メッキ株式会社
東邦メッキ株式会社(以下「東邦メッキ」という。)は,自動車部品等の塗装,
コーティングを業とする会社であり,ケーヒンの下請けであったところ,控訴人オ
ーベルと東邦メッキは,昭和57年9月28日,東邦メッキがケーヒンに納入する
スロットルシャフト,チョークシャフト,リンクシャフト,バキュームピストン等
の自動車部品のコーティングに関し,控訴人オーベルが東邦メッキにノウハウを提
供すること等を内容とする契約(以下「本件技術提携契約」という。)を締結した。
同契約においては,控訴人オーベルが東邦メッキに対して提供するコーティング装
置に使用するコーティング材料等について,「本契約の精神に基き別途取決めるも
のとする。」とされていた。
控訴人オーベルは,東邦メッキに対して,平成16年11月まで,本件技術提携
契約に基づいてザイラン1052を販売し,東邦メッキはこれを使用してコーティ
ング加工を行った自動車部品をケーヒンに納入していたが,上記第2の4「前提と
なる事実関係」(1)ウのとおり,三洋商事が控訴人オーベルの傘下に入ってからは,
三洋商事がザイラン1052を販売していた。
また,被控訴人サンベストは,東邦メッキに対し,平成17年1月から同18年
7月まで,被控訴人塗料1を少なくとも毎月40kg,被控訴人塗料4を少なくと
も毎月20kg,それぞれ販売した。
なお,同被控訴人は,平成18年8月以降は,被控訴人塗料1及び4に代えて,
「SBC」の後に番号を付した名称の塗料を東邦メッキに販売した。
ウザイラン1052及びホスタフロン5875によるコーティング
上記イの事実並びに甲3の1ないし8,甲40,71ないし74,104及び弁
論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
控訴人オーベルは,ザイラン1052を使用したスロットルシャフトのフッ素樹
脂コーティングやホスタフロン5875を使用したバキュームピストンのテフロン
コーティングなどの自動車部品のコーティングについての優れた技術を有していた
ため,昭和56年にケーヒン(当時の商号は株式会社京浜気化器)との間で本件基
本契約を締結し,塗料によるコーティングを施した自動車部品を納入していた。
そして,ケーヒンの下請である東邦メッキとの間で締結された本件技術提携契約
は,その後のコーティング塗料の取引の状況に照らすと,コーティング技術につい
てのノウハウを提供することを条件として,コーティングに使用する塗料について
は,控訴人オーベルを通じて購入することを内容とするものであったと理解するこ
とができるのであり,控訴人オーベルとケーヒン及び東邦メッキは,その後の長年
にわたる取引を通じて,オーベルが有する自動車部品のコーティング技術に関すし
て安定した信頼関係を構築してきたものということができる。
また,本件基本契約及び本件技術提携契約が締結された当時,コーティングにつ
いてのケーヒンの仕様書においては,スロットルシャフトのフッ素樹脂コーティン
グの「コーティング材の材質」又は「フッ素樹脂」について,「XYLAN10
52」又は「XYLAN−1052」と記載され,バキュームピストンのテフロン
コーティングの「コーティング材の材質」として「ホスタロン(判決注:ホスタフ
ロンの誤記であると認められる。)−5875」と記載されているが,上記仕様書
には,被コーティング部品の機械加工精度,下地処理,コーティング,防錆処理,
使用条件などについて定められているほか,「コーティング後の部品仕様」又は
「コーティング後の部品の特性」に関して,外観,皮膜硬度,耐ガソリン・アルコ
ール性,耐蝕性,耐湿性,耐摩耗性,皮膜の密着性などの具体的な要求特性が定め
られている。
さらに,ケーヒンにおける平成8年から同12年当時のスロットルシャフトの設
計図面において,表面処理について「ザイラン1052」と記載される一方,既に
ホスタフロン5875の製造が中止された後であることに争いのない平成9年及び
同12年当時のスロットルバルブの図面並びに平成12年及び同15年当時のバキ
ュームピストンの図面に「ホスタフロン5875」を意味すると認められる記載
(「ホススターフロン5875」,「ホスターフロン5875」,「フォスターフ
ロン5875」及び「フォスタフロン5875」)がある。
加えて,控訴人オーベルは,「ザイラン1052」との名称で納入している塗料
についてはザイラン1052とPAIクリアーを特定の比率で混合し,「ホスタフ
ロン5875」との名称で納入している塗料についてはグレブロン1211とザイ
ラン1075を特定の比率で混合して製造しているところ,同製造は,撹拌,粘度
測定,混合,ろ過等の複数の工程を経て行われるものである。
エケーヒン及び東邦メッキに対する塗料の販売
上記ウで認定したところによると,当初本件基本契約に基づいてコーティング加
工した自動車部品をケーヒンに販売していた控訴人オーベルが,下請の東邦メッキ
に対して,コーティング技術についてのノウハウを提供する一方,塗料を販売する
ようになった経過を経て,その後,控訴人オーベルがケーヒン及び東邦メッキとの
間で技術面における信頼関係を構築してきたのであり,このような信頼関係は特殊
な部品であるスロットルシャフトやスロットルバルブのコーティング加工技術及び
その前提となるコーティング塗料の調整に関するオーベルのノウハウを基礎とする
ものであって,上記のような経過に照らし,オーベルはこのようなノウハウを専ら
ケーヒンとその系列会社及び東邦メッキに対してのみ提供していたということがで
きる。
他方,上記ウで認定したとおり,控訴人オーベルが納入している塗料が多くの工
程を経て混合及び調整されたものであって,控訴人オーベルとケーヒン及び東邦メ
ッキの間においては,納入される塗料の名称自体ではなく,塗料によるコーティン
グが最終的に要求特性を満たすことが重要であると考えられることからすると,東
邦メッキとの関係において,控訴人オーベルに求められていたのは,単に特定の塗
料を間違いなく納入するというレベルのことではなく,当該塗料を使用した結果,
コーティング後の部品が仕様書の記載において要求される特性を満たすようにする
ことであったと理解しなければならない。
そして,前記第2の4「前提となる事実関係」(1)のとおり,被控訴人サンベス
トは,控訴人オーベルにおけるこのような塗料についての取引を熟知した被控訴人
Y1が経営する会社であるから,ケーヒン及び東邦メッキがザイラン1052及び
ホスタフロン5875を使用したコーティング加工において求める上記のような内
容についても十分理解していたと推認され,前記第2の4「前提となる事実関係」
(5)のとおり,被控訴人Y1が控訴人オーベルの社長代行及び三洋商事の取締役を
解任されたことについて訴訟に至っている経過に照らすと,ケーヒン及び東邦メッ
キにおいても,被控訴人サンベストが,被控訴人Y1の下で,従来の控訴人オーベ
ルとの取引の内容を踏まえて営業活動を行っていることは十分に認識していたもの
と推認される。
そうすると,被控訴人サンベストがケーヒン及び東邦メッキに対して被控訴人塗
料1及び4を納入していたとしても,ケーヒンや東邦メッキは,これらの塗料につ
いて,従前の控訴人オーベルとの取引と同様,一定の混合及び調整が行われている
ことを前提として取引を行っていたものであり,平成17年1月以降,被控訴人サ
ンベストがケーヒンや東邦メッキに対して継続的に塗料を販売していることからす
ると,被控訴人サンベストによって納入された塗料を使用して加工された自動車部
品はケーヒンや東邦メッキによる検査によって仕様書記載の要求特性を満たすと認
められるものであったと推認することができる。
オ以上によると,ケーヒン又は東邦メッキにとっては,控訴人オーベルのみな
らず被控訴人サンベストも,実質的には,継続的な取引において構築されてきた信
頼関係を基礎として,求められる技術的レベルについて共有することができる極め
て限られた取引先であるということができるのであり,具体的な商品である塗料に
ついて,特定の自動車部品に使用したときの要求特性を達成するためにノウハウに
属する一定の調整が必要となることについても共通認識が形成されていたというこ
とができる。このような状況において,被控訴人サンベストが,ザイラン1052
及びホスタフロン5875をベースとして,ケーヒン及び東邦メッキにおけるコー
ティング加工後に仕様書記載の要求特性を満たすようにこれに一定の塗料を混合し,
調整を施したものについて,「ザイラン1052」及び「ホスタフロン5875」
との名称を付したまま,これらを被控訴人塗料1及び4として,ケーヒン及び東邦
メッキに対して販売したとしても,これによってケーヒン又は東邦メッキにおいて,
そのように調整済みの「ザイラン1052」及び「ホスタフンロン5875」とし
て納入を受けるのが当然で,反対に,ケーヒン又は東邦メッキが自ら調整する前提
で,被控訴人サンベストが,その仕入れた「ザイラン1052」及び「ホスタフロ
ン5875」を調整未了の状態で納入することは予定されていないから,ケーヒン
及び東邦メッキにおいて,その品質等を誤認する余地はないのであり,上記各名称
をそのまま付したとしても,これをもって,不正競争防止法2条1項13号にいう
「商品の原産地,品質,内容,製造方法,用途若しくは数量…について誤認させる
ような表示をし」たと認めることはできないというべきである。また,表示の点に
おいて「ザイラン1052」又は「ホスタフロン5875」と紛れるおそれのない
「SBC」の後に番号を付した名称を表示することが,同号にいう「表示」をした
ものと評価することができないことは当然である。
カこの点に関し,控訴人オーベルは,被控訴人サンベストがケーヒン又は東邦
メッキに納入したザイラン1052及びホスタフロン5875にはFe成分が多量
に含まれていることから,以上の調整にとどまらず,安価なグレブロン1215を
混入させているかのように主張する。
しかしながら,控訴人オーベルがその証拠として提出する甲4の1ないし甲13
によっては,その検査対象である塗料が被控訴人サンベストによって「ザイラン1
052」又は「ホスタフロン5875」の名称を付されて東邦メッキに納入された
塗料そのものであると認めることができないばかりか,上記説示したとおり,被控
訴人サンベストが納入したザイラン1052及びホスタフロン5875がケーヒン
や東邦メッキによる検査によって仕様書記載の要求特性を満たすと認められるもの
であったと推認されるのであり,その意味において,被控訴人サンベストの行為が
不正競争防止法2条1項13号所定の行為であると認めることはできないというべ
きであるから,控訴人オーベルの主張を採用することはできない。
キしたがって,被控訴人サンベストによる不正競争防止法2条1項13号該当
行為を認定することはできない。
(2)被控訴人サンベストによる不正競争防止法2条1項14号該当行為の有無
(争点2−1)について
ア控訴人オーベルの主張と被控訴人らの反論
控訴人オーベルは,被控訴人Y1と同Y2とは共謀して,別紙営業誹謗行為一覧
表記載のとおり,同一覧表の「対象会社・個人名」欄記載の取引先に対し,同一覧
表の「中傷の内容」欄記載のとおりの事実(ただし,①∼③は,①オーベルは潰れ
る,②Aは横領犯,③社長の逮捕は近い,という内容をそれぞれ意味する。)を告
知し,控訴人オーベルの信用を毀損したと主張する。
これに対して,被控訴人らは,被控訴人Y1は,控訴人オーベルの社長代行及び
三洋商事の代表取締役を解任されたため,取引先を訪問して退任の挨拶をした際,
不当解任であることのほか,今後は,被控訴人Y1が控訴人オーベルの役員として
技術協力はできなくなったことを述べたことはあるが,控訴人オーベル主張に係る
ような事実を告知したことはないと主張して争っている。
なお,別紙営業誹謗行為一覧表には,「対象会社・個人名」欄に「台湾ケーヒ
ン」,「インドケーヒン」及び「その他のケーヒン海外子会社(タイ・南京な
ど)」との記載があるが,控訴人オーベルは,被控訴人Y1及び同Y2の行為につ
いて,上記一覧表記載の営業誹謗行為がいずれも日本国内におけるものであり,不
正競争防止法4条が適用されることを前提として本件訴訟を提起していると解され
るので,いずれも日本国内における行為として,以下,その有無について検討する。
イ控訴人オーベル提出の証拠とその証明力
控訴人オーベルは,その主張を裏付ける証拠として,控訴人オーベルの従業員の
陳述書(甲27,80),被承継人の陳述書(甲28,29,37∼39,81),
行政書士の陳述書(甲36),保険外交員の陳述書(甲70)並びにケーヒンの部
長,東邦メッキの社長及び岡畑興産の従業員の発言の反訳書面(甲75∼77)を
提出する。
しかしながら,上記書証のうち,控訴人オーベルの従業員及び被承継人の陳述書
は,第三者によるものと評価することはできない。また,行政書士の陳述書はケー
ヒンの部長から伝聞した内容を確認した旨の陳述書であって,控訴人オーベル主張
に係る事実の告知があったことについての直接証拠ではない。そして,保険外交員
及び東邦メッキの社長は,一方で陳述書の内容を一部否定する確認書(乙13,2
9)に署名押印しているほか,日研工業株式会社の社長,台湾ケーヒンの従業員,
インドケーヒンの元従業員及びホンダ技研朝霞研究所の研究員も,控訴人オーベル
主張に係る事実の告知を受けたことはない旨の確認書(乙15∼18)に署名押印
している。
以上を踏まえると,ケーヒンの部長を始めとする上記事実の告知を受けたとされ
る者についての証人尋問の申請が一切ない本件において,上記書証の証明力を認め
ることは困難であって,これらをもって控訴人オーベル主張に係る営業誹謗行為が
立証されたとして,同事実を認定することはできないといわざるを得ない。
この点に関して,控訴人オーベルは証人尋問の申請が困難であった事情があった
と主張するが,そのような事情があるからといって,上記書証の証明力を認め得る
ものではなく,他に上記事実の告知を認めるに足りる証拠はない。
したがって,被控訴人サンベストによる不正競争防止法2条1項14号該当行為
は,これを認定することができない。
(3)小括
以上によると,その余の点(争点1−2及び3,争点2−2ないし4)について
判断するまでもなく,控訴人オーベルの不正競争防止法に基づく本訴請求1及び2
はいずれも理由がない。
2不当訴訟
(1)本件訴訟提起行為の違法性の有無(争点3−1)について
ア被控訴人サンベスト及び同Y1の主張
被控訴人サンベスト及び同Y1は,本訴提起行為のうち,不正競争防止法に基づ
く請求に係る部分は不当訴訟の提起であると主張するので,この点について検討す
る。
イ不当訴訟と認められるための要件
訴えの提起は,提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的,
法律的根拠を欠くものである上,同人がそのことを知りながら又は通常人であれば
容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど,裁判制度の趣旨目的に照らし
て著しく相当性を欠く場合に限り,相手方に対する違法な行為となる(最高裁昭和
60年(オ)第122号昭和63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1
頁)。
控訴人オーベルは,本訴提起時において,被控訴人らによる被控訴人塗料の製造
・販売行為は,不正競争防止法2条1項1号及び同項13号に該当し,被控訴人ら
が控訴人オーベル及びその代表取締役である1審原告A(被承継人)を誹謗・中傷
する行為が同法2条1項14号に該当すると主張して,被控訴人らに対し,同法3
条に基づいて本件顧客への営業行為及び被控訴人塗料の本件顧客への輸出・譲渡の
差止めを求めるとともに,これらの不正競争行為による損害として,被控訴人らに
対し,同法4条に基づいて5387万2500円及び平成18年10月29日から
支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めたことは明らかである。
しかしながら,上記不正競争防止法に基づく請求に係る訴えの提起が違法な行為
であるということができるためには,不正競争防止法に基づく差止請求権及び損害
賠償請求権の少なくともいずれかについて,その主張が事実的,法律的根拠を欠く
ものである上,提訴者である控訴人オーベルにおいて,そのことを知りながら又は
通常人であれば容易にそのことを知り得たのに,あえて訴えを提起したなどの事情
が認められる必要がある。
そこで,以下,そのような事情が認められるか否かについて上記請求ごとに検討
することとする。
ウ不正競争防止法2条1項14号に基づく請求
控訴人オーベルの不正競争防止法2条1項14号に基づく請求は,被控訴人サン
ベストによる同号に該当する行為を認定することができないため,理由がないこと
は上記1(2)のとおりである。
しかしながら,本訴提起時において,控訴人オーベルは,上記1(2)イに掲記し
たとおりの証拠を提出しており,これらのうち第三者的立場にある行政書士の陳述
書(甲36),保険外交員の陳述書(甲70)並びにケーヒンの部長,東邦メッキ
の社長及び岡畑興産の従業員の発言の反訳書面(甲75∼77)には,被控訴人Y
1が控訴人オーベルの取引先であるケーヒン,東邦メッキ及び岡畑興産において,
控訴人オーベルがつぶれるなどの事実を告知したことをうかがわせる記載があるこ
とが認められるのであって,当該書証の証明力を直ちに認めるのが困難であること
は前記説示のとおりであるが,これらの陳述書の作成主体又は反訳書面の発言主体
への証人尋問を実施することによって,これらに記載された事実を立証することが
できた可能性があったことは否定することができない。
そして,前記第2の4「前提となる事実関係」(4)のとおり,被控訴人サンベス
トが,東邦メッキに対して,被控訴人塗料1(ザイラン1052)及び4(ホスタ
フロン5875)を販売していたことが認められ,控訴人オーベルと被控訴人サン
ベストとは塗料の販売について競争関係にあったと認められるのであるから,少な
くとも,本件訴訟提起時において,不正競争防止法2条1項14号に基づく差止め
及び損害賠償の請求が事実的,法律的根拠を欠くものであったとまでは認められな
い。
エ不正競争防止法2条1項13号に基づく請求
控訴人オーベルの不正競争防止法2条1項13号に基づく請求は,被控訴人サン
ベストによる同号に該当する行為を認定することができないため,理由がないこと
は,上記1(1)のとおりである。
しかしながら,上記ウのとおり,被控訴人サンベストは,東邦メッキに対して,
被控訴人塗料1及び4を販売していたことが認められるところ,当裁判所は,これ
らの塗料に「ザイラン1052」及び「ホスタフロン5875」との表示を付し,
販売する行為が不正競争防止法2条1項13号に該当する行為でないと判断したが,
それは,上記のとおり,控訴人オーベルとケーヒン及び東邦メッキとの取引の経過
及び特定の自動車部品をコーティング加工するための塗料に求められる特性等につ
いて検討した結果であって,このような事情の検討をするまでもなく明らかに理由
がないと判断するものではないから,同号に基づく差止め及び損害賠償の請求が事
実的,法律的根拠を欠くものであったとまでは認められない。
この点に関し,被控訴人サンベスト及び同Y1は,控訴人オーベルが,被控訴人
塗料1及び4が溶剤以外のものを添加している点をとらえて,このような塗料に
「ザイラン1052」及び「ホスタフロン5875」と表示することが不正競争防
止法2条1項13号に該当することを前提とする主張をしながら,控訴人オーベル
自身が溶剤以外のものを添加した塗料を「ザイラン1052」及び「ホスタフロン
5875」として販売しているとして,控訴人らの本訴提起が不当訴訟であること
が裏付けられるかのように主張する。
しかしながら,本訴提起時において,控訴人オーベルは,被控訴人塗料1及び4
はザイラン1052及びホスタフロン5875にグレブロン1215を大量に混入
させた塗料であるにもかかわらず,これらの塗料に「ザイラン1052」及び「ホ
スタフロン5875」と表示していることが不正競争防止法2条1項13号に該当
すると主張していたものであり,被控訴人塗料1及び4に溶剤以外のものが添加さ
れていること自体を同号に該当すると主張していたものではなく,同控訴人もその
販売する塗料に溶剤以外のものを添加していることはその前提になっていたと解さ
れるのであるから,被控訴人サンベスト及び同Y1の上記主張は失当といわなけれ
ばならない。
そして,控訴人オーベルの主張に係る事実が認められないのは,上記のとおり,
提出された証拠(甲4の1∼甲13)のみによっては証明が不十分であったという
理由によるものであるところ,同証拠に係る塗料の入手先は控訴人オーベルの取引
先であるケーヒンであって,同社は被控訴人サンベストの取引先でもあるため,一
方当事者である控訴人オーベルに対する更なる協力を得にくいなどの事情が存在す
る可能性があり,上記提出に係る証拠が控訴人オーベルによってねつ造されたもの
であるなどの事情を認めるに足りる証拠もないのであるから,この観点からしても,
控訴人オーベルの同号に基づく差止め及び損害賠償の請求が事実的及び法律的根拠
を欠くものであったとまでは認められない。
オ不正競争防止法2条1項1号に基づく請求
控訴人オーベルの不正競争防止法2条1項1号に基づく請求は,上記エの請求と
選択的併合の関係にあるところ,同請求については,原判決において,控訴人オー
ベルにおいて,「ザイラン1052」及び「ホスタフロン5875」を自己の商標
として使用していたことを認めるに足りる証拠はないなどとして棄却され,同控訴
人は,同請求を棄却されたことについては控訴していないところ,少なくとも,不
正競争防止法2条1項1号に基づく同請求において,「ザイラン1052」及び
「ホスタフロン5875」が自己の商品等表示であるとの事実は,自己の商品等表
示の周知性及び対象物に係る商品等表示の類似性を主張立証する前提となる基本的
事実であるといわなければならないことからして,この点について何ら有効な立証
を行うことができない状態で訴えが提起された同請求は,その事実的,法律的根拠
が薄弱なものであったといわざるを得ない。
しかしながら,上記のとおり,不正競争防止法2条1項13号及び14号に基づ
く請求に係る訴えの提起が不当訴訟に当たるとはいえない本件においては,これら
の請求に係る訴えについては応訴しなければならない筋合いのものであり,同項1
3号に係る請求と選択的併合関係にある同項1号に基づく請求に係る訴えに対する
被控訴人サンベスト及び同Y1の応訴の負担は,実質的に存在しないか極めて少な
いものであることからすると,本件において,同項1号に基づく請求に係る訴えの
提起が,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に当たるとまでい
うことはできない。
カ差止請求の範囲と請求の相手方の選択
被控訴人サンベスト及び同Y1は,不正競争防止法に基づく差止請求の範囲が過
大であること及び同請求の相手方として被控訴人サンベストのみならず同Y1を加
えていることから,過大な部分の請求に係る訴え及び被控訴人Y1に対する訴えの
提起は不当訴訟であると主張する。
そこで,まず,差止請求の範囲についてみると,その範囲は差止めの必要性との
関係で判断されるべき事項であって,訴訟における主張立証の状況によっては請求
の変更によって対応することができる性質のものであり,上記ウないしオのとおり,
訴えの提起自体が不当訴訟の提起として不法行為となるものでない本件においては,
訴状に記載された差止請求の範囲が適切でなかったことによって,訴えの提起自体
が不法行為となるものではないというべきである。
次に,請求の相手方についてみると,会社に対する差止請求が認容されれば,当
該会社の機関である代表者も会社に対する当該判決の効力を尊重して行動すること
が要請されるのであるから,会社に対して請求すれば,代表者個人に対して請求を
する必要はなく,会社に対する訴えの提起が不当訴訟ということができないとして
も,代表者個人に対して訴えを提起した行為が当然に不当訴訟とならないというこ
とはできない。しかしながら,本件においては,上記1のとおり,被控訴人Y1が,
被控訴人サンベストの代表取締役として,被控訴人塗料1及び4の製造・販売に深
く関与していただけでなく,前記第2の4「前提となる事実」(3)のとおりの過去
の紛争の経過において,控訴人オーベルや被承継人を被告として複数の訴えを提起
したり,被承継人を特別背任罪で告発するなど,一連の紛争の拡大について主体的
に関わってきたこと,本件においても,反訴の提起及びその後の請求の追加や拡張
を行うなかで,控訴人オーベル及び被承継人(控訴人X1ら)と被控訴人サンベス
ト及び同Y1との間の紛争という様相を呈していることなどを総合的に考慮すると,
被控訴人塗料の製造・販売等の差止め及び損害賠償を求める不正競争防止法に基づ
く請求について,被控訴人サンベストのほか,被控訴人Y1をも被告として訴えを
提起したことが,事実的,法律的根拠を欠くものとまでいうことはできない。
したがって,差止請求の範囲及び請求の相手方から当該請求に係る訴えが不当訴
訟であるとの被控訴人サンベスト及び同Y1の主張を採用することはできない。
(2)小括
以上によると,本訴提起行為のうち不正競争防止法に基づく請求に係る部分が不
当訴訟の提起であるということはできないから,その余の点(争点3−2及び3)
について判断するまでもなく,反訴請求1ないし4はいずれも理由がない。
3本件文書送付行為による名誉・信用毀損
(1)本件文書送付行為の違法性の有無(争点4−1)及び故意又は過失の有無
(争点4−2)について
ア当事者の主張
(ア)控訴人らの主張
被控訴人Y1及び同Y2は,共謀して本件文書送付行為を行ったものであり,同
行為により,控訴人オーベル及び被承継人の名誉が毀損された。
(イ)被控訴人Y1及び同Y2の主張
本件文書1ないし4はいずれも名宛人への親書であって,他の人物が読むことを
予定したものではないし,本件文書送付行為は,控訴人オーベルや三洋商事の株主
である被控訴人Y1及び同Y2が,株主である名宛人に対して必要な情報を伝達す
るために行ったものであるから,公共の利害に関する事実に係り,公益を図る目的
によるものである。
また,本件文書1ないし4に記載された事実は真実であるか,少なくとも被控訴
人Y1及びY2が真実であると信じたことについて相当の理由がある。
さらに,被控訴人Y1及び同Y2は本件文書1を,被控訴人Y1は本件文書2な
いし4を送付したが,本件文書2ないし4の送付について,被控訴人Y2は同Y1
と共謀していない。
イ本件文書に記載された事実
本件文書1ないし4に記載された文言は,別紙「名誉毀損文言」記載のとおりで
あり,本件文書1には,①被承継人が控訴人オーベル及び三洋商事を私物化し,背
任行為を行ってきたこと及び②控訴人オーベルの技術が低下していること,同2に
は,①被承継人が控訴人オーベルの従業員に命じて塗料仕入代金をごまかし,これ
により得た資金を横領したこと及び②控訴人オーベルは技術低下や水増し請求塗料
の不正仕入等のために経営状態が悪化してきたこと,同3には,①被承継人は,控
訴人オーベルを私物化し,横領又は特別背任等の犯罪行為により7000万円以上
の損害を控訴人オーベルに与えているにもかかわらず,これをGの犯行にすり替え
て告訴するなどして,自己の犯罪を隠蔽したこと及び②被承継人が近々逮捕される
こと,同4には,①被承継人は,平成9年から長期間にわたって横領を行っていた
こと,②横領の方法は,被承継人がHに架空請求を命じ,これを現金で受け取ると
いうものであったこと及び③被承継人は自己の横領行為を隠蔽し,控訴人オーベル
を乗っ取るという計画に基づいて被控訴人Y1を追い出したこと,以上の事実がそ
れぞれ記載されている。
本件文書1ないし4に摘示された以上の事実は,いずれも控訴人オーベル及び被
承継人の社会的評価を低下させるものであると認められる。
そして,本件文書1は,被控訴人Y1及び同Y2の連名による文書であり,被控
訴人Y1が控訴人オーベルの社長代行及び取締役を解任され,その後設立した被控
訴人サンベストの社長となるとともに,被控訴人Y2は同社の監査役に就任してい
るという関係があることに加え,同2ないし4に記載された事実は,同1記載の事
実と重なるものであって,これらをより詳細に記載したものであることからすると,
被控訴人Y1名義の本件文書2ないし4の送付は,被控訴人Y1及び同Y2の共謀
によるものであると推認される。
ウ違法性及び故意又は過失
事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係
り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示された事実がその
重要な部分について真実であることの証明があったときには,上記行為には違法性
がなく,仮に上記証明がないときにも,行為者において上記事実の重要な部分を真
実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される(最高裁
昭和38年(オ)第815号昭和41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5
号1118頁)。
(ア)公共の利害と公益目的
本件文書送付行為は,控訴人オーベルの株主である被控訴人Y1及び同Y2が同
じく株主である名宛人に対して行ったものであって,その内容は控訴人オーベルの
代表者である被承継人による横領の事実等を摘示することにより被承継人による会
社の私物化を告発する内容であり,これらの内容が真実であるとすれば,控訴人オ
ーベルの株主にとって,その経営の在り方を検討するための重要な情報となるべき
ものであるから,来るべき株主総会等の機会に備えて,控訴人オーベルの株主のた
めに,情報を提供することを目的とするものと解することができる。
そうすると,本件文書送付行為は,公共の利害に関する事実に係り,かつ,その
目的が専ら公益を図ることにあったものと認められる。
(イ)真実性の証明
前記第2の4「前提となる事実関係」(3)アのとおり,控訴人オーベルのG及び
Hに対する同人らの横領行為による損害賠償請求訴訟については,Hとの間で和解
が成立し,Gに対する請求を全額認容する判決が確定しているが,同人らによる横
領行為があったかどうかはともかくとして,これらの横領行為が被承継人によって
命じられたものであるなど,被承継人による横領行為があったとの事実が真実であ
ることを認めるに足りる証拠はない。
また,被承継人において背任行為などその他の犯罪行為を行っていたとの事実及
び背任行為や上記の横領行為によって会社を私物化していたか,私物化しようとし
ていたとの事実についても,これらが真実であることを認めるに足りる証拠はない。
さらに,被承継人が本件文書3の作成日である平成17年3月28日から遠くな
い時期に逮捕されたとの事実についても認定することはできない。
したがって,本件文書1ないし4に記載された上記イ記載の事実については,い
ずれもその重要な部分において真実であることの証明があったとはいえない。
(ウ)真実と信ずるについての相当の理由
被控訴人Y1及び同Y2は,別件横領関係訴訟において審理の対象となったGに
よる横領行為が存在したことを前提として,同横領行為が長期間にわたり,公然と
行われたものであるから,社長として経理書類の押印していた被承継人が全く関知
しないというのは不自然であり,被承継人は同横領行為について告訴した平成14
年2月直後に被控訴人Y1を控訴人オーベルから追放し,その後告訴を取り下げて
事件をうやむやにしたことから,被控訴人Y1及び同Y2において被承継人が横領
行為を行ったという事実を真実と信ずるについての相当の理由があったと主張する。
しかしながら,上記主張に係る事実のうち,Gによる横領行為の存在を除く部分
については,いずれも推測に基づくものというほかなく,結局被承継人が横領行為
に関与したという事実を裏付ける証拠は何ら存在しないのであるから,被控訴人Y
1及び同Y2の主張は失当である。
また,被控訴人Y1及び同Y2は,同Y1による被承継人に対する告発が受理さ
れ,捜査が進んでいたことから,被承継人が逮捕され,同人の横領行為が明らかに
なると信じたとも主張するが,告発が受理され,捜査が行われることと,告発に係
る事実が真実であるかどうかとは関係がないから,被控訴人Y1及び同Y2のこの
主張も失当である。
さらに,被控訴人Y1及び同Y2は,控訴人オーベルの平成7年から同20年ま
での決算関係書類について,同一期中において複数の決算書が作成されたことがあ
ること,合計残高試算表と決算報告書の記載が一致しない期があるなど不整合な記
載があることから,被控訴人Y1及び同Y2において被承継人による横領行為があ
ったとの事実を真実と信ずるにつき相当の理由があったと主張するが,同主張に係
る事実が,決算書の記載に不整合があることを超えて,同不整合が被承継人による
横領行為の結果であることを示すものと解することは到底できないから,被控訴人
Y1及び同Y2のこの主張も失当である。
そして,本件文書送付行為当時において,被承継人による横領行為や同横領行為
等による被承継人による控訴人オーベルの私物化の事実,同横領行為等を理由とし
て被承継人が逮捕されるという事実について,これらを具体的に示唆する客観的な
証拠はないのであるから,被控訴人Y1及び同Y2において,本件文書1ないし4
に記載された上記イの事実が真実であると信ずるについての相当の理由があったと
は認められない。
なお,本件文書送付行為の後,本件発言1の当時においては,後記説示のとおり,
その間に,別件横領関係訴訟の判決及び別件取締役解任請求訴訟におけるGの証言
があったため,被控訴人Y1には,被承継人による横領行為の事実を真実であると
信ずるについて相当の理由があったということができるが,本件文書送付行為当時
には,そのような事情がなく,以上の判断が妨げられることはない。
(エ)したがって,本件文書送付行為について,違法性を阻却すべき事情は認め
られず,被控訴人Y1及び同Y2において故意又は過失がなかったとすべき事情も
認められない。
(2)損害(争点4−3)
本件文書送付行為は4回にわたって継続的に行われたものであり,本件文書1な
いし4の記載内容に基づいて,控訴人オーベル及び被承継人の社会的評価を低下さ
せるものであるが,その送付先は控訴人オーベルの株主であり,かつ,社長であっ
た被承継人の親族関係にある者に限定されていることからすると,控訴人オーベル
及び被承継人の社会的評価の低下による被害が甚大であるとまでいうことはできな
いところ,本件文書送付行為による控訴人オーベル及び被承継人の損害の額として
は,それぞれについて各15万円ずつ(ただし,承継人らの内訳については,控訴
人X1,同X2及び同X3について,それぞれ7万5000円,3万7500円及
び3万7500円)と認めるのが相当であり,控訴人オーベル及び承継人らが負担
する弁護士費用のうち,本件文書送付行為と相当因果関係のある損害としては,控
訴人オーベル及び承継人らについて,それぞれ1万5000円ずつ(ただし,承継
人らの内訳については,控訴人X1,同X2及び同X3について,それぞれ750
0円,3750円及び3750円)と認めるのが相当である。
(3)小括
以上によると,本訴請求3及び同4については,それぞれ被控訴人Y1及び同Y
2に対して33万円及びこれに対する平成18年10月29日から支払済みまで年
5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度において認容されるべきであ
る。
4本件発言1ないし3による名誉毀損
(1)当事者の主張
控訴人X1らは,本件株主総会における被控訴人Y1の本件発言1は,被承継人
の名誉を毀損するものであると主張し,被控訴人Y1は違法性及び故意又は過失が
ないとしてこれを争う。
他方,被控訴人Y1は,本件株主総会における被承継人による本件発言2及び同
人及び控訴人X1による本件発言3は同被控訴人の名誉を毀損するものであると主
張し,控訴人X1らは違法性がないとしてこれを争う。
(2)各発言において摘示された事実
本件株主総会における本件発言1ないし3の内容については,当事者間に争いが
ないところ,甲83,乙31及び弁論の全趣旨によると,本件株主総会への出席者
は,被承継人,控訴人X1,被控訴人Y1及び株主の代理出席者であるIの4名で
あったことが認められる。
ア本件発言1
本件発言1は,その内容から,被承継人がG及びHと組んで横領行為を行うなど
して,控訴人オーベルを私物化しているとの事実を摘示するものであり,この事実
の摘示は被承継人の社会的評価を低下させるものであると認められる。他方,本件
発言1には放火に関するものも含まれるところ,ここでは,吉川工場の放火事件に
ついては時効になったとの事実を摘示するものと認められるほか,被承継人が警察
官を脅して捜査を中止させようとしたことについても触れられているが,前者につ
いては,何ら被承継人の社会的評価を低下させるものではないし,後者については
その趣旨は極めて不明瞭であり,被承継人の社会的評価を低下させるに足りるまと
まった事実の摘示と認めることはできない。したがって,本件発言1のうち,更な
る検討が必要となるのは,横領に関するもののみである。
イ本件発言2・3
本件発言2は,その内容から,被控訴人Y1が横領犯人であるとの事実,あるい
は,横領犯人から金銭を受け取っているとの事実を摘示するものであり,これらの
事実の摘示は,いずれも被控訴人Y1の社会的評価を低下させるものであると認め
られる。
また,本件発言3は,その内容から,被控訴人Y1が精神病を患っているとの事
実を摘示するものであり,この事実の摘示は被控訴人Y1の社会的評価を低下させ
るものであると認められる。
(3)本件発言1ないし3の違法性の有無(争点5−1及び同6−1)及び故意
又は過失の有無(争点5−2)について
ア本件発言1(争点5−1及び2)
本件発言1における被承継人がG及びHと組んで横領行為を行うなどして,控訴
人オーベルを私物化しているとの事実については,同事実が真実であるとすれば,
単に犯罪行為が存在することを意味するのみならず,本件株主総会の出席者にとっ
ては,同事実は会社経営のあり方を検討するための重要な事項となるべきものであ
って,同事実に係る発言は,本件株主総会の出席者のために,このような情報を提
供することを目的として行われたということができるから,本件発言1は,その表
現において穏当を欠く点があるものの,なお公共の利害に関する事実に係り,かつ,
その目的が専ら公益を図ることにあったものということができる。
しかしながら,上記3(1)ウ(イ)のとおり,被承継人による横領行為があったと
の事実が真実であることを認めるに足りる証拠はないから,本件発言1に係る事実
が真実であったとの証明があるとは認められない。
そして,本件文書送付行為の当時において,上記事実を真実を信ずるにつき相当
な理由があったと認められないことは,上記3(1)ウ(ウ)のとおりである。
他方,甲78によると,本件文書送付行為から本件株主総会が開催されるまでの
間である平成18年6月27日に,別件取締役解任請求訴訟における口頭弁論期日
においてGの証人尋問が行われ,被承継人とHとが横領行為に関わっていた旨が詳
細に証言されていることが認められる。同証言は,自らが横領行為に関わったこと
を示すものではないが,別件横領関係訴訟において,Gに対する請求を全額認容す
る判決が確定していることは,前記第2の4「前提となる事実関係」(3)アのとお
りであるところ,別件取締役解任請求訴訟の原告である被控訴人Y1が,本件株主
総会の開催時において,別件横領関係訴訟の判決を踏まえた上,別件取締役解任請
求訴訟における横領行為に関するGの詳細な証言に基づいて,被承継人が横領行為
に関わっていたと信じることには無理からぬ事情があったともいうことができるか
ら,本件発言1当時の被控訴人Y1には,被承継人による横領の事実が真実である
と信ずるについて相当の理由があったということができる。
したがって,本件発言1については,被控訴人Y1による故意又は過失が否定さ
れるというべきであるから,その余の点(争点5−3)について判断するまでもな
く,本訴請求5は理由がない。
イ本件発言2・3(争点6−1)
控訴人らは,本件発言2・3は,いずれも4人しか出席していない株主総会にお
ける株主間の口論中にされた発言であるから,損害賠償を求めることができるほど
の違法性を有しないと主張する。
しかしながら,これらの発言が被控訴人Y1の社会的評価を低下させるものであ
ると認められる以上,これが少数の株主の出席に係る株主総会における発言である
という事情があったとしても,その違法性の程度に影響を与える可能性があること
は格別,これらの発言の違法性が阻却されるとまでいうことはできないから,控訴
人らの主張は失当である。
他方,控訴人らは,本件発言2・3に係る事実について真実性が証明されている
か,真実と信ずるについて相当の理由があるとの主張をするものではない。
したがって,本件発言2・3は,被控訴人Y1の社会的評価を低下させる違法な
ものであり,これらの発言についての承継人及び控訴人X1の故意又は過失が認め
られるところ,これらの発言は,本件株主総会における被承継人及び控訴人X1に
よる発言であるから,いずれも株主総会における取締役としての発言であると認め
られる。
(4)本件発言2・3による被控訴人Y1の損害(争点6−2)
本件発言2・3は,いずれも株主総会における取締役の発言であって,その一連
の発言行為は被承継人及び控訴人X1による共同不法行為であるということができ
るが,本件株主総会の出席者は4名と少人数であったことを踏まえ,同発言の内容
を考慮すると,これらの発言による被控訴人Y1の損害の額としては,本件発言2
について10万円,本件発言3について20万円と認めるのが相当であり,被控訴
人Y1が併せて賠償を求める弁護士費用相当の損害のうち,本件発言2・3と相当
因果関係のある損害は,それぞれ1万円及び2万円と認めるのが相当である。
(5)小括
以上によると,本訴請求5については上記(3)アのとおり理由がなく,反訴請求
5ないし7については,反訴請求5について33万円及びこれに対する平成20年
1月24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度に
おいて認容されるべきであり,このうち11万円及びこれに対する平成20年1月
24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲におい
て被承継人らは,それぞれ控訴人オーベルと連帯支払義務を負い,残部については
控訴人オーベル及び同X1が連帯支払義務を負うものであるから,反訴請求6及び
7については,この限度(主たる請求に関し,本件発言2に係る分について,控訴
人X1,同X2及び同X3がそれぞれ5万5000円,2万7500円及び2万7
500円,本件発言3に係る分について,控訴人X1が22万円の限度)において
認容されるべきである。
5結論
以上の次第であるから,原判決は本判決の主文1項のとおり変更されるべきもの
である。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官高部眞規子
裁判官杜下弘記
(別紙)
物件目録
1ザイラン1052
2SBC1052
3ルブコート202同等品
4ホスタフロン5875
5SBC5875
6ルブコート206同等品
以上
(別紙)
顧客目録
省略
以上
(別紙)
名誉毀損文言
1本件文書1
(1)「35年間苦労して育て上げた『オーベルの将来』を託した心算の創立者達
と貴殿を騙して,Aは三洋まで乗っ取り,完全に両社を私物化」している。(1頁
下から11行∼10行)
(2)「Aは,オーベルの負債を増やし,技術を捨て,客先や銀行からも見放され,
従業員も殆ど新人にしてしまった。」(1頁下から7行∼6行)
(3)「然しその後の調査では信じ難いAの背任行為の事実が次々に明らかになっ
てきています。」(2頁14行∼15行)
(4)「我々に対する詐欺,横領,人権侵害,名誉毀損などのきわめて悪質な行
為」(2頁17行)
2本件文書2
(1)「AとGとが三洋商事からごまかした塗料仕入れ代金の年度別不正金額は次
のようであった。」(1頁の項目2)
(2)「これら不正はすべてA社長がHとGに命じてやらせ,大半の資金はA社長
が横領した…」(2頁の項目1)
(3)「オーベルの経済状態も悪化してきたと聞いている。技術の低下,収益率の
低下,水増し請求による石川工業所への垂れ流し,急増した借入金の返済と利息,
塗料不正仕入れの発覚による中断,などが原因として考えられる。」(2頁の項目
7)
3本件文書3
(1)「警察から漏れ聞くところでは,Aの逮捕が近いようです。」(1頁10行)
(2)「オーベルが横領によって約7千万円以上の被害を受けていたこと」「それ
が,社長であるAによるものであること(特別背任にあたると警察で言われまし
た)」(1頁12行∼14行)
(3)「Gの犯行にすり替えて約2000万円の詐欺横領で2人を告訴し,自己の
横領を隠蔽したこと」(1頁16行∼17行)
(4)「Hを介した5000万円以上の横領が隠蔽されたこと」(1頁19行∼20
行)
(5)「Aは自分の悪行は全て他人のせいにする。」(1頁25行)
(6)「現金40万円をA自身が着服という社長にあるまじき浅ましい犯行をした
事。」(1頁下から5行)
(7)「(Aは金に汚いが,自己防衛の為には会社の金をばらまく)。」(2頁7行∼
8行)
(8)「しかし,Y1に社長になられると,自分のやった横領が露見する恐れがあ
ったのと,会社私物化の計画が続けられなくなる。」(2頁24行∼25行)
(9)「60歳になるまでにあらゆる手段を講じてオーベルを根こそぎ自分のもの
にする計画だったそうです。」(2頁下から9行∼8行)
(10)「オーベルの資金がどんどんAとその家族の懐へ流出しています。」(2頁
下から3行)
(11)「会社はAとその家族役員たちに吸尽くされて抜け殻状態です。」(2頁最
終行)
(12)「Aの気違いじみた強欲,私利私欲に会社が食い荒らされているのを見るの
は本当に辛いです。」(3頁下から7行∼6行)
4本件文書4
(1)「月100万から400万円をHに命じて架空請求させ,現金でAに直接戻
させるという方法で横領していた事が後で判りました。」(2頁1行∼2行)
(2)「その時はオーベルの経営が破綻しかけた原因がまさかAの横領にあるとは
気がつきませんでした」(2頁18行∼19行)
(3)「A(は)当初からの計画であった会社のっとりのシナリオを継続し,平成9
年から実行してきた詐欺横領の隠蔽を図ったことは今になってみれば明白です。」
(2頁下から10行∼8行)
(4)「Aは,平成9年以来の長期間にわたって多額の詐欺横領をしており,その
隠蔽を図るためとその後の不正計画を続けるためにはY1を会社から追い出さなけ
ればならなかったということです。」(2頁下から6行∼4行)
以上
(別紙)
Y1発言
1横領関係
(1)「仕事じゃなくて,泥棒のこと?仕事ってなんのこと」
(2)「警察や検察から言われてっからね。」
(3)「A,あのね。犯人は,何だっけ,Gじゃなかったていうことは我々も知っ
たし,検察からも言われたし,警察からも言われた。それじゃだれなのって言うこ
とでAだろう。ほかにいないんだから,ねえ。」
(4)「取ったのはあんただからさ。」
(5)「A自分でねぇ,お金を取っておいてね。人のせいにしたっていうことをち
ゃんと言う機会が(Gには)あったでしょうと,本当なら。」
(6)「我々はね,Aみたいにぽっぽ,ぽっぽやっていないからさ。」
(7)「こっちはね,自分で働いたお金でね,みんな養わないとなんない。あんた
たちの盗んだお金と違うからさ。」
(8)「ねぇ,GとHさんとAが三人組んでやった詐欺横領事件というのがね。さ
っき,チラッとこれは知ってると言ったの。あれでね。商法違反で有罪ですよとい
うことで」
(9)「お金に名前が書いてないからね。Aのね,通帳の中にはこれだね。これだ
け。」
(10)「えっ,じゃあ,Aが盗んだのなんかすごいね。何億だね。何億になるね」
(11)「Aが盗んだお金をGに転嫁したものを何でこっちが買えるのよ。」
(12)「何でAなんかと手組んで。Hと三人だもの,いえねー,何で一緒にやった
のよ」
(13)「Gがとったなんて嘘をつくんじゃないよ」
(14)「お金も持っていってるけど,これ位全部持って行ってるでしょう」
(15)「きれいにみんなポケットにいれちゃった」
(16)「Gがあんたたちと組んで,ああいうことをやるからがスタートじゃな
い。」
(17)「いや,Aの通帳にもありましたと(警察が被告Y1に)言ってくれたよ。」
(18)「盗んだお金で払ったんだろうからいいけど」
2放火関係
(1)「放火も時効になっちゃったんだってね。」
(2)「ええ,誰かがつけさせたらしいね。」
(3)「私は聞いた」「警察から」
(4)「(Aが放火の点について捜査しないよう警察官のJさんを脅したという点に
ついて中村さんが)あんた(注:A)が脅しに行ったと言ってたよ」
(別紙)
A発言
1(誰が横領犯人かという話の流れで)「うん,Y1でしょう」
2「うんうん,ほおー。まあ,Gから3000万,金取ってるんだから,あれは
もう,いっそ,分けたらいいじゃ。」
3「あんた(注:Y1)が持ってるって,そういうことをさ,一緒にやってるんで
しょう。」
4「だから,Y1が買ったらどう,盗んだのあるでしょう,盗んだのが。」
5「全然盗んでない?(笑)」
6「そうよ,だれか買ってくれる人,だから,おたく(注:被告Y1)でもいいよ。
さっきから言っているとおり,がっぽり盗んだ金があるから。」
以上
(別紙)
A及びX1発言
1控訴人X1「同じことを何回も何回も,何度も何度も病気みたいに言ってき
て。」
2被承継人「病気だよ,これ」
3控訴人X1「病気ですよ。本当に。少し病院に行って見てもらった方がいいで
すよ。」
4被承継人「これはあのね,Kが言ってたよ。これは弁護士の問題じゃなくて,
精神科医の問題だって言ってたよ。」
5被承継人「だれが言ったの,じゃあ。こっちはKが,ねぇ,これは精神科だっ
て言ったよ。」
以上

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弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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時給 当社規定による
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