弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成28年8月10日判決言渡同日原本受領裁判所書記官
平成27年(行ケ)第10149号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成28年7月6日
判決
原告株式会社光栄鉄工所
同訴訟代理人弁護士小松陽一郎
和田高明
同弁理士田中幹人
被告ミノツ鉄工株式会社
同訴訟代理人弁護士平山博史
林裕悟
都筑康一
同弁理士森本聡
主文
1特許庁が無効2010-800231号事件について平成27
年6月26日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文第1項と同旨
第2事案の概要
1特許庁等における手続の経緯
⑴原告は,東洋建設株式会社(以下「東洋建設」という。)及びタチバナ工業
株式会社(以下「タチバナ工業」という。)と共に,平成16年5月24日,発明
の名称を「平底幅広浚渫用グラブバケット」とする特許出願(特願2004-15
3246号)をし,平成18年11月24日,設定の登録を受けた(特許第388
4028号。請求項の数4。甲37。以下,この特許を「本件特許」という。)。
⑵被告は,平成22年12月14日,本件特許の特許請求の範囲請求項1に係
る発明について特許無効審判を請求し(甲38),原告,東洋建設及びタチバナ工
業は,同手続において訂正請求をした(甲40。以下「第1次訂正」という。)。
⑶特許庁は,これを,無効2010-800231号事件として審理し,平成
23年11月4日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決
(以下「第1次審決」という。)をした(甲91)。
⑷被告は,第1次審決の取消しを求める訴訟(平成23年(行ケ)第1041
4号)を提起した。
知的財産高等裁判所は,平成25年1月10日,第1次審決を取り消す旨の判決
をし(甲92。以下「前訴判決」という。),同判決は,上告不受理の決定により確
定した。
⑸原告は,平成25年7月22日,東洋建設及びタチバナ工業から,本件特許
権に係る持分の全てを譲り受け,特定承継を原因とする移転登録をした(甲93)。
原告は,その後,訂正請求をした(甲94)。
⑹特許庁は,平成26年4月24日,「訂正を認める。特許第3884028
号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決(以下
「第2次審決」という。)をした(甲106)。
⑺原告は,第2次審決の取消しを求める訴訟(平成26年(行ケ)第1013
6号)を提起した。その後,特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目
的とする訂正審判を請求した(甲107)。
知的財産高等裁判所は,平成26年11月11日,平成23年法律第63号によ
る改正前の特許法181条2項に基づき,第2次審決を取り消す旨の決定をした。
前記訂正審判請求については,同訂正審判の請求書に添付された訂正した明細書,
特許請求の範囲又は図面を同法134条の3第3項の規定により援用した同法13
4条の2第1項の訂正の請求がされたものとみなされた(同法134条の3第5項。
以下「本件訂正」という。)。
⑻特許庁は,平成27年6月26日,「訂正を認める。特許第3884028
号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。」との別紙審決書
(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同年7月6日,その謄本
が原告に送達された。
⑼原告は,平成27年7月30日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起
した。
原告は,同年10月22日付けで,特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の
釈明を目的とする訂正審判を請求した(甲111)。
2特許請求の範囲の記載
本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(甲107)。
以下,この請求項1に係る発明を「本件発明」といい,その明細書(甲107)を,
本件特許の特許公報(甲37)掲載の図面と併せて「本件明細書」という。なお,
文中の「/」は,原文の改行箇所を示す(以下同じ。)。
【請求項1】吊支ロープを連結する上部フレームに上シーブを軸支し,側面視にお
いて両側2ケ所で左右一対のシェルを回動自在に軸支する下部フレームに下シーブ
を軸支するとともに,左右2本のタイロッドの下端部をそれぞれシェルに,上端部
をそれぞれ上部フレームに回動自在に軸支し,上シーブと下シーブとの間に開閉ロ
ープを掛け回してシェルを開閉可能にしたグラブバケットにおいて,/シェルを爪
無しの平底幅広構成とし,シェルの上部にシェルカバーを密接配置するとともに,
前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成し,該空気抜き孔に,シェルを左右に
広げたまま水中を降下する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに,シェル
が掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き,グラブ
バケットの水中での移動時には,外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する
蓋体を取り付け,正面視におけるシェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離を1
00とした場合,側面視におけるシェルの幅内寸の距離を60以上とし,かつ,側
面視においてシェルの両端部がタイロッドの外方に張り出すとともに,側面視にお
いてシェルの両端部が下部フレームの外方に張り出し,更に,側面視においてシェ
ルの両端部が下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出してなり,薄層ヘ
ドロ浚渫工事に使用することを特徴とする平底幅広浚渫用グラブバケット(なお,
前記正面視はシェルと下部フレームを軸支する軸の軸心方向から視たものであり,
前記側面視はシェルと下部フレームを軸支する軸を軸心方向の側方から視たものと
する)。
3本件審決の理由の要旨
⑴本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,①
本件発明は,下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)
に,下記イの引用例2に記載された構成(以下「引用発明2-1」,「引用発明2-
2」という。),ウの引用例3に記載された発明(以下「引用発明3」という。),エ
の引用例4に開示された構成(以下「引用発明4」という。),ウからキの引用例な
いし周知例に記載されている周知技術1,ウ,カ及びキに記載されている周知技術
2,オ及びカに記載されている周知技術3,オ,カ,ク及びケに記載されている周
知技術4を適用することによって,当業者が容易に発明をすることができた,②本
件発明1は,下記オの引用例5に記載された発明(以下「引用発明5」という。)
に,引用発明2-1及び2,引用発明3,4並びに周知技術2から4を適用するこ
とによって,当業者が容易に発明をすることができた,というものである。
ア引用例1:特開平9-151075号公報(甲1)
イ引用例2:実願平4-49043号(実開平6-1457号)のCD-RO
M(甲2)
ウ引用例3:実願昭62-128283号(実開昭64-32888号)のマ
イクロフィルム(甲4)
エ引用例4:大旺建設株式会社「650㎥/h6連装トレミー砂撒船『第1
8龍王丸』」第243号「作業船」平成11年5月号10頁から15頁(社団法
人日本作業船協会,平成11年5月発行。甲52)
オ引用例5:特開2000-328594号公報(甲5)
カ周知例1:登録実用新案第3046423号公報(甲16)
キ周知例2:実願昭48-35543号(実開昭49-137262号)のマ
イクロフィルム(甲26)
ク周知例3:東亜建設工業作成のウェブページ(平成15年10月公開,甲4
9)
ケ周知例4:岩田尚生ほか「密閉式水平掘削グラブバケットについて-洞海湾
における汚泥の浚渫処理-」第95号「作業船」昭和49年9月号22頁から2
4頁(社団法人日本作業船協会,昭和49年9月発行。甲84)
⑵本件審決が認定した引用発明等
ア引用発明1(主引用例)
吊支ロープ7で吊下げられる上部フレーム5に上部シーブ11を軸支し,側面視
において両側2ヶ所で左右一対のシェル部1A,1Bを開閉自在に軸支する下部フ
レーム2に下部シーブ12を軸支するとともに,左右一対のシェル部1A,1Bを
それぞれ連結する左右2本の連結杆4A,4Bが,上部フレーム5と左右一対のシ
ェル部1A,1Bをそれぞれ連結しており,一方の連結杆4Aの下端部をシェル部
1Aに,上端部を上部フレーム5に回動自在に軸支し,他方の連結杆4Bの下端部
をシェル部1Bに回動自在に軸支し,該他方の連結杆4Bの上端部を上部フレーム
5に固定し,上部シーブ11と下部シーブ12との間には,開閉ロープ8が巻き掛
けられており,開閉ロープ8を繰り下ろすとシェル部1A,1Bは開き,開閉ロー
プ8を引き上げるとシェル部1A,1Bが閉じられるようにしたグラブバケットに
おいて,/シェル部1A,1Bを爪無しの平底構成とし,かつ,側面視においてシ
ェル部1A,1Bの両端部が下部フレーム2の外方に張り出している平底浚渫用グ
ラブバケット
イ引用発明2-1
側面視においてシェルの両端部がタイロッドの外方に張り出すとともに,側面視
においてシェルの両端部が下部フレームの外方に張り出し,更に,側面視において
シェルの両端部が下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出してなる構成
ウ引用発明2-2
正面視におけるシェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離に相当するアーム4
の軸心間の距離を100とした場合,側面視におけるシェルの幅内寸の距離を60
以上とする構成
エ引用発明3
浚渫用グラブバケットにおいて,シェルの上部開口部に,シェルを左右に広げた
まま水中を降下する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに,シェルが掴み
物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き,グラブバケッ
トの水中での移動時には,外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を
取り付けるという技術
オ引用発明4
側面視においてシェルの両端部がタイロッドの外方に張り出すとともに,側面視
においてシェルの両端部が下部フレームの外方に張り出し,更に,側面視において
シェルの両端部が下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出してなる構成
カ周知技術1
グラブバケットにおいて,左右2本のタイロッドの下端部をそれぞれシェルに,
上端部をそれぞれ上部フレームに回転自在に軸支すること
キ周知技術2
浚渫用グラブバケットにおいて,シェルの上部にシェルカバーを密接配置するこ

ク周知技術3
浚渫用グラブバケットにおいて,シェルの上部に空気抜き孔を形成すること
ケ引用発明5(主引用例)
吊りワイヤ10を連結する機体1に上シーブを軸支し,側面視において両側2ケ
所で左右一対の左右バケット4,5を回動自在に軸支する滑車機構9に下シーブを
軸支するとともに,左右2本の左右アーム2,3の下端部をそれぞれ左右バケット
4,5に,上端部をそれぞれ機体1に回動自在に軸支し,上シーブと下シーブとの
間に開閉用ワイヤ11を掛け回して左右バケット4,5を開閉可能にしたクラムシ
ェルバケットにおいて,/左右バケット4,5を爪無しの平底構成とし,左右バケ
ット4,5の上部に左右バケット4,5の上部の面を構成するとともに,左右バケ
ット4,5を箱形に構成する部材を配置するとともに,かつ,側面視において左右
バケット4,5の両端部が左右アーム2,3の外方に張り出している,ヘドロ浚渫
工事に使用する平底浚渫用クラムシェルバケット
⑶本件発明と引用発明1との一致点及び相違点
ア一致点
吊支ロープを連結する上部フレームに上シーブを軸支し,側面視において両側2
ヶ所で左右一対のシェルを回動自在に軸支する下部フレームに下シーブを軸支する
とともに,左右2本のタイロッドの下端部をそれぞれシェルに,上端部をそれぞれ
上部フレームに連結し,上シーブと下シーブとの間に開閉ロープを掛け回してシェ
ルを開閉可能にしたグラブバケットにおいて,/シェルを爪無しの平底構成とした
/平底浚渫用グラブバケットである点
イ相違点1
「左右2本のタイロッドの下端部をそれぞれシェルに,上端部をそれぞれ上部フ
レームに連結し」に関し,本件発明においては,「左右2本のタイロッドの下端部
をそれぞれシェルに,上端部をそれぞれ上部フレームに回動自在に軸支し」ている
のに対して,引用発明1においては,「左右一対のシェル部1A,1Bをそれぞれ
連結する2つの連結杆4A,4Bが,上部フレーム5と左右一対のシェル部1A,
1Bをそれぞれ連結しており,一方の連結杆4Aの下端部をシェル部1Aに,上端
部を上部フレーム5に回動自在に軸支し,他方の連結杆4Bの下端部をシェル部1
Bに回動自在に軸支し,該他方の連結杆4Bの上端部を上部フレーム5に固定し」
ている点
ウ相違点2
本件発明においては,「シェルの上部にシェルカバーを密接配置するとともに,
前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成し,該空気抜き孔に,シェルを左右に
広げたまま水中を降下する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに,シェル
が掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き,グラブ
バケットの水中での移動時には,外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する
蓋体を取り付け」るのに対して,引用発明1においては,そのように構成されてい
るか否か不明である点
エ相違点3
本件発明においては,「正面視におけるシェルを軸支するタイロッドの軸心間の
距離を100とした場合,側面視におけるシェルの幅内寸の距離を60以上とし」
ているのに対して,引用発明1においては,そのように構成されているか否か不明
である点
オ相違点4
本件発明においては,「側面視においてシェルの両端部がタイロッドの外方に張
り出すとともに,側面視においてシェルの両端部が下部フレームの外方に張り出し,
更に,側面視においてシェルの両端部が下部フレームとシェルを軸支する軸の外方
に張り出してなり」であるのに対して,引用発明1においては,側面視においてシ
ェル部1A,1Bの両端部が下部フレーム2の外方に張り出しているものの,「側
面視においてシェル部1A,1Bの両端部が連結杆4A,4B(本件発明における
「タイロッド」に相当する。)の外方に張り出すとともに,更に,側面視において
シェル部1A,1Bの両端部が下部フレーム2とシェル部1A,1Bを軸支する軸
の外方に張り出している」か否か不明である点
カ相違点5
本件発明は,「薄層ヘドロ浚渫工事に使用する」ものであるのに対し,引用発明
1は,そのようなものであるか否か不明である点
キ相違点6
「平底構成」及び「平底浚渫用グラブバケット」に関し,本件発明においては,
それぞれ,「平底幅広構成」及び「平底幅広浚渫用グラブバケット」であるのに対
して,引用発明1においては,それぞれ,「平底構成」及び「平底浚渫用グラブバ
ケット」である点
ク相違点7
本件発明においては,「(なお,前記正面視はシェルと下部フレームを軸支する軸
の軸心方向から視たものであり,前記側面視はシェルと下部フレームを軸支する軸
を軸心方向の側方から視たものとする)」とされているのに対し,引用発明1にお
いては,そのようにされているか否か不明である点
⑷本件発明と引用発明5との一致点及び相違点
ア一致点
吊支ロープを連結する上部フレームに上シーブを軸支し,側面視において両側2
ヶ所で左右一対のシェルを回動自在に軸支する下部フレームに下シーブを軸支する
とともに,左右2本のタイロッドの下端部をそれぞれシェルに,上端部をそれぞれ
上部フレームに回動自在に軸支し,上シーブと下シーブとの間に開閉ロープを掛け
回してシェルを開閉可能にしたグラブバケットにおいて,/シェルを爪無しの平底
構成とし,シェルの上部にシェルの上部の面を構成する部材を配置するヘドロ浚渫
工事に使用する平底浚渫用グラブバケットである点
イ相違点8
シェルの上部の面を構成する部材の配置に関し,本件発明においては,「シェル
の上部にシェルカバーを密接配置するとともに,前記シェルカバーの一部に空気
抜き孔を形成し,該空気抜き孔に,シェルを左右に広げたまま水中を降下する際に
は上方に開いて水が上方に抜けるとともに,シェルが掴み物を所定容量以上に掴ん
だ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き,グラブバケットの水中での移動時には,
外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を取り付け」るのに対し,引
用発明5においては,「バケット4,5の上部にバケット4,5の上部の面を構成
するとともに,バケット4,5を箱型に構成する部材を配置する」点
ウ相違点9
本件発明においては,「正面視におけるシェルを軸支するタイロッドの軸心間の
距離を100とした場合,側面視におけるシェルの幅内寸の距離を60以上とし」
ているのに対し,引用発明5においては,そのように構成されているか否か不明で
ある点
エ相違点10
本件発明においては,「側面視においてシェルの両端部がタイロッドの外方に張
り出すとともに,側面視においてシェルの両端部が下部フレームの外方に張り出し,
更に,側面視においてシェルの両端部が下部フレームとシェルを軸支する軸の外方
に張り出してなり」であるのに対し,引用発明5においては,側面視において左右
バケット4,5の両端部が左右アーム2,3(本件発明における「タイロッド」に
相当する。)の外方に張り出しているものの,側面視において左右バケット4,5
の両端部が滑車機構9(本件発明における「下部フレーム」に相当する。)の外方
に張り出しているとともに,更に,側面視において左右バケット4,5の両端部が
滑車機構9と左右バケット4,5を軸支する軸の外方に張り出しているか否か不明
である点
オ相違点11
本件発明は,「薄層ヘドロ浚渫工事に使用する」ものであるのに対し,引用発明
5は,ヘドロ浚渫工事に使用するものではあるものの,薄層ヘドロ浚渫工事に使用
するものか否か不明である点
カ相違点12
「平底構成」及び「平底浚渫用グラブバケット」に関し,本件発明においては,
それぞれ,「平底幅広構成」及び「平底幅広浚渫用グラブバケット」であるのに対
し,引用発明5においては,それぞれ,「平底構成」及び「平底浚渫用クラムシェ
ルバケット」である点
キ相違点13
本件発明においては,「(なお,前記正面視はシェルと下部フレームを軸支する軸
の軸心方向から視たものであり,前記側面視はシェルと下部フレームを軸支する軸
を軸心方向の側方から視たものとする)」とされているのに対し,引用発明5にお
いては,そのようにされているか否か不明である点
4確定した前訴判決について
⑴前訴判決が審理の対象とした第1次訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載
は,次のとおりである(甲40)。以下,この請求項1に係る発明を「第1次訂正
後の発明」という。
【請求項1】吊支ロープを連結する上部フレームに上シーブを軸支し,左右一対の
シェルを回動自在に軸支する下部フレームに下シーブを軸支するとともに,左右2
本のタイロッドの下端部をそれぞれシェルに,上端部をそれぞれ上部フレームに回
動自在に軸支し,上シーブと下シーブとの間に開閉ロープを掛け回してシェルを開
閉可能にしたグラブバケットにおいて,/シェルを爪無しの平底幅広構成とし,シ
ェルの上部にシェルカバーを密接配置するとともに,シェルを軸支するタイロッド
の軸心間の距離を100とした場合,シェルの幅内寸の距離を60以上とし,かつ,
側面視においてシェルの両端部がタイロッド及び下部フレーム並びに下部フレーム
とシェルを軸支する軸の外方に張り出していることを特徴とする平底幅広浚渫用グ
ラブバケット
⑵前訴判決の理由の要旨(甲92)
前訴判決は,第1次訂正後の発明に係る特許無効審判請求が成り立たないとした
第1次審決を取り消したものであり,その理由は,概要,以下のとおりである。な
お,本件における引用例1,2及び5は,それぞれ前訴判決記載の引用例1,3及
び2と同一のものである。以下のア及びイにおいて,引用例は,本件の引用例を表
記している。
ア引用例1に記載された発明からの容易想到性について
(ア)前訴判決が認定した引用例1に記載された発明(以下「引用発明1’」と
いう。)
吊支ロープで吊り下げられる上部フレームに上部シーブを軸支し,一対のシェル
部A,Bを開閉自在に軸支する下部フレームに下部シーブを軸支するとともに,一
対のシェル部A,Bをそれぞれ連結する2つの連結杆A,Bが,上部フレームと一
対のシェル部A,Bをそれぞれ連結しており,一方の連結杆Aの下端部をシェル部
Aに,上端部を上部フレームに回動自在に軸支し,他方の連結杆Bの下端部をシェ
ル部Bに回動自在に軸支し,該他方の連結杆Bの上端部を上部フレームに固定し,
上部シーブと下部シーブとの間には,開閉ロープが巻き掛けられており,開閉ロー
プを繰り下ろすとシェル部A,Bは開き,開閉ロープを引き上げるとシェル部A,
Bが閉じられるようにしたグラブバケットにおいて,シェル部A,Bを爪無しの平
底構成とし,側面視においてシェル部A,Bの両端部が下部フレームの外方に張り
出している平底浚渫用グラブバケット
(イ)第1次訂正後の発明と引用発明1’との相違点に係る容易想到性
a第1次訂正後の発明と引用発明1’との間には,第1次訂正後の発明におい
ては,「シェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離を100とした場合,シェル
の幅内寸の距離を60以上とし」ているのに対して,引用発明1’においては,そ
のように構成されているか否か不明であるという相違点(以下「相違点3’」とい
う。)が存在する。しかし,引用例2には,「シェルを軸支するタイロッドの軸心間
の距離を100とした場合,シェルの幅内寸の距離を60以上とする構成」が開示
されているから,相違点3’に係る構成は,引用発明1’に引用例2に記載された
発明を組み合わせることにより,当業者が容易に想到し得たものである。
b第1次訂正後の発明と引用発明1’との間には,第1次訂正後の発明におい
ては,「側面視においてシェルの両端部がタイロッド及び下部フレーム並びに下部
フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出している」のに対して,引用発明1’
においては,側面視においてシェル部A,Bの両端部が下部フレームの外方に張り
出しているものの,「側面視においてシェル部A,Bの両端部が連結杆A,B(第
1次訂正後の発明における「タイロッド」に相当する。)並びに下部フレームとシ
ェル部A,Bを軸支する軸の外方に張り出している」か否か不明であるという相違
点(以下「相違点4’」という。)が存在する。しかし,引用例2には,「側面視に
おいてシェルの両端部がタイロッド及び下部フレーム並びに下部フレームとシェル
を軸支する軸の外方に張り出している構成」が開示されているから,相違点4’に
係る構成は,引用発明1’に引用例2に記載された発明を組み合わせることにより,
当業者が容易に想到し得たものである。
イ引用例5に記載された発明からの容易想到性について
(ア)前訴判決が認定した引用例5に記載された発明(以下「引用発明5’」と
いう。)
吊りワイヤを連結する機体に上シーブを軸支し,左右一対の左右バケットA,B
を回動自在に軸支する滑車機構に下シーブを軸支するとともに,左右2本の左右ア
ームA,Bの下端部をそれぞれ左右バケットA,Bに,上端部をそれぞれ機体に回
動自在に軸支し,上シーブと下シーブとの間に開閉用ワイヤを掛け回して左右バケ
ットA,Bを開閉可能にしたクラムシェルバケットにおいて,左右バケットA,B
を爪無しの平底構成とし,左右バケットA,Bの上部に左右バケットA,Bの上部
の面を構成するとともに,左右バケットA,Bを箱形に構成する部材を配置すると
ともに,側面視において左右バケットA,Bの両端部が左右アームA,Bの外方に
張り出している平底浚渫用クラムシェルバケット
(イ)第1次訂正後の発明と引用発明5’との相違点に係る容易想到性
第1次訂正後の発明と引用発明5’との間には,第1次訂正後の発明においては,
「シェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離を100とした場合,シェルの幅内
寸の距離を60以上とし」ているのに対して,引用発明5’においては,そのよう
に構成されているか否か不明であるという相違点(以下「相違点9’」という。)及
び第1次訂正後の発明においては,「側面視においてシェルの両端部がタイロッド
及び下部フレーム並びに下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出してい
る」のに対して,引用発明5’においては,側面視において左右バケットA,Bの
両端部が左右アームA,B(第1次訂正後の発明における「タイロッド」に相当す
る。)の外方に張り出しているものの,側面視において左右バケットA,Bの両端
部が滑車機構(第1次訂正後の発明における「下部フレーム」に相当する。)並び
に滑車機構と左右バケットA,Bを軸支する軸の外方に張り出している」か否か不
明であるという相違点(以下「相違点10’」という。)が存在する。しかし,前記
ア(イ)のとおり,相違点9’及び10’に係る構成は,いずれも引用例2に開示さ
れているから,引用発明5’に引用例2に記載された発明を組み合わせることによ
り,当業者が容易に想到し得たものである。
5取消事由
⑴引用発明1を主引用例とする容易想到性の判断の誤り(取消事由1)
ア引用発明1の認定の誤り
イ引用発明2-1の認定の誤り
ウ引用発明3の認定の誤り
エ周知技術2の認定の誤り
オ周知技術3の認定の誤り
カ相違点2の容易想到性の判断の誤り
キ相違点3の容易想到性の判断の誤り
ク相違点4の容易想到性の判断の誤り
ケ顕著な効果の看過
⑵引用発明5を主引用例とする容易想到性の判断の誤り(取消事由2)
ア引用発明5の認定の誤り
イ引用発明2-1の認定の誤り
ウ引用発明3の認定の誤り
エ周知技術2の認定の誤り
オ周知技術3の認定の誤り
カ相違点8の容易想到性の判断の誤り
キ相違点9の容易想到性の判断の誤り
ク相違点10の容易想到性の判断の誤り
ケ顕著な効果の看過
第3当事者の主張
1取消事由1(引用発明1を主引用例とする容易想到性の判断の誤り)につい

〔原告の主張〕
⑴引用発明1の認定の誤りについて
本件審決が,引用発明1につき,「シェル部1A,1Bを爪無しの平底構成とし,
かつ,側面視においてシェル部1A,1Bの両端部が下部フレーム2の外方に張り
出している」と認定した点は,以下のとおり,誤りである。
ア「爪無しの平底構成」の認定について
本件審決は,引用例1の【図1】及び【図2】に基づいて上記認定をしたが,特
許図面は,設計図ではなく,特許を受けようとする発明の内容を明確にするための
説明図にとどまり,特許図面のみから各部分の具体的構成が特定されるものではな
い。したがって,特許図面から得られる技術情報は,発明者の意図に加えて当該発
明の具体的課題や技術思想も踏まえて解釈される必要がある。
浚渫用グラブバケットの構成は,当該グラブバケットに係る発明の解決課題との
関係において決定されるべき事項であるところ,引用発明1の解決課題は,「バケ
ットの吊上げ初期の揺れがほとんど発生せず,開閉ロープのロープ寿命も長くなる
浚渫用グラブバケットを提供すること」(【0005】)であり,シェルの底部の形
状及び爪の有無に係る構成とは全く関係ない。引用例1には,シェル部につき,
「平底」及び「爪を具備しない」との構成についての明示的な記載も示唆も存在せ
ず,上記構成が開示されているということはできない。
加えて,浚渫用グラブバケットは,基本的に爪を有しており,爪のないグラブバ
ケットは,特殊な用途に供されるものである。
イ「側面視においてシェル部1A,1Bの両端部が下部フレーム2の外方に張
り出している」との認定について
本件審決は,引用例1の【図1】及び【図2】に基づいて上記認定をしたが,本
件発明において「側面視」は,「シェルと下部フレームを軸支する軸を軸心方向の
側方から視たもの」とされており,これに対応するのは引用例1の【図2】である
ところ,同図面からは,「シェル部1A,1Bの両端部が下部フレーム2の外方に
張り出している」か否かは不明である。
⑵引用発明2-1の認定の誤りについて
ア本件審決の認定について
本件審決は,前記第2の3⑵イのとおり引用発明2-1を認定したが,以下のと
おり,同認定は,誤りである。
引用例2の【図3】には,側面視においてシェルの両端部がタイロッド(アーム)
の外方に張り出しているものの,シェルの両端部は下部フレームと同一の長さに形
成され,シェルの両端部が下部フレームの両端部で支持される構成が示されており,
「側面視においてシェルの両端部が下部フレームの外方に張り出し,更に,側面視
においてシェルの両端部が下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出して
いる」という構成は示されていない。
イ前訴判決の拘束力について
前訴判決の判断の対象は,第1次訂正後の発明であるのに対し,本件審決の判断
の対象は,前訴判決後の本件訂正を経た本件発明である。
しかも,前訴判決は,第1次訂正後の発明中,「側面視においてシェルの両端部
がタイロッド及び下部フレーム並びに下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に
張り出している」構成につき,シェルの両端部と下部フレームとの関係及びシェル
の両端部と下部フレームとシェルを軸支する軸との関係を,正面視から捉えた上で,
これを前提として引用例2から引用発明2-1と同様の構成を認定しており,前記
2つの関係を側面視から捉えた判断は示していない。
本件審決の判断の対象である本件発明においては,第1次訂正後の発明における
前記構成について,「側面視においてシェルの両端部がタイロッドの外方に張り出
すとともに,側面視においてシェルの両端部が下部フレームの外方に張り出し,更
に,側面視においてシェルの両端部が下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に
張り出してなり」とし,また,正面視と側面視の別を客観的な基準をもって明確に
特定した。したがって,本件審決においては,前記2つの関係を側面視から捉えた
上で,これを前提とした認定がされるべきであるから,同認定に前訴判決の拘束力
が及ばないことは,明らかである。
⑶引用発明3の認定の誤りについて
本件審決は,引用例3から前記第2の3⑵エのとおり引用発明3を認定したが,
以下のとおり,上記認定は,誤りである。
ア引用発明3において,シェルカバー部材30は,上部開口部23に沿ってこ
れを上方から覆うように設けられており,その基端部が下部枠24側にピンヒンジ
31により取り付けられ,開閉可能に構成されているのであって(【第1図】,【第
5図】),本件発明における「シェルカバーの一部に形成された空気抜き孔」もこれ
に取り付けられる「開閉式のゴム蓋を有する蓋体」も存在しない。
イまた,引用例3には,「シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内
圧の上昇に伴って上方に開き,」との記載は全くなく,さらに,前記アのとおり引
用発明3のシェルカバー部材30はシェルの上部開口部23に取り付けられて下部
枠24側のピンヒンジ31によって軸支されているので,「シェルが掴み物を所定
容量以上に掴んだ場合」ではなくとも,シェルの掴み物が,シェルカバー部材30
の下部枠24側と反対方向(ピンヒンジ31によって軸支されていない側)の端部
の位置を超えた場合には,シェルカバー部材30が掴み物により浮き上がり,この
シェルカバー部材30とシェルとの隙間からシェル内の掴み物が流出し,その状態
がシェルの水中移動時においても継続することになる。
⑷周知技術2の認定の誤りについて
本件審決は,引用例3,周知例1及び2から前記第2の3⑵キのとおり周知技術
2を認定したが,以下のとおり,上記文献のいずれにも周知技術2に係る構成は開
示されていないから,上記認定は,誤りである。
すなわち,引用例3に開示されている引用発明3は,シェルカバー部材30自体
の開閉により上部開口部23を開閉するものであるから,シェルカバー部材30は,
シェルの上方の全面に固定した状態で配置されていない。
周知例1に開示されているグラブバケットは,【図1】及び【図2】のとおり,
シェルの一部にシェル上壁が存在しない開口部(水抜き口11)を設けるとともに
バケットシェル6の開閉度合に同調して開閉操作される開閉体12を設け,全閉時
には,開閉体12が開口部(水抜き口11)をふさいでバケットシェル6内を密閉
するよう構成されており,シェルの上方の全面に固定した状態で配置されたシェル
カバーは存在しない。
周知例2に開示されているグラブバケットは,【第4図】のとおり,各シェル1
1の上部開口部22をふさぐ上部開口カバー13が設けられているが,この上部開
口カバー13は,シェルの上部開口部22の全面にわたって配置されるものではな
く,全閉時以外は開放されている側面開口部が設けられており,全閉時のみ,上部
開口カバー13及び各シェルの側面開口部をバケットの開閉運動に同期して開閉す
る側面開口カバー21の2つの部材によってシェルの密閉状態が作出される。
⑸周知技術3の認定の誤りについて
本件発明においては,シェルの上方の全面にわたって固定されたシェルカバーの
存在を必須の前提として,空気抜き孔を設ける部材につき,上記シェルカバーの一
部に空気抜き孔を設けることを具体的に特定している。
他方,本件審決は,前記第2の3⑵クのとおり,周知技術3として,「浚渫用グ
ラブバケットにおいて,シェルの上部に空気抜き孔を形成すること」を認定したに
すぎず,シェルを構成する部材のうちどの部材に空気抜き孔を設けるかを全く特定
していない。
この点に関し,浚渫用グラブバケットにおいては,水質汚濁防止の観点から,シ
ェル内の濁水,泥土等の流出防止を基本に据えつつ,グラブバケットを海中で降下
させる際に水が抜ける開口部をシェルの上方に設けることによって,抵抗を減少さ
せてシェルの降下時間を短縮することや,シェル内の空気や海水をシェルの外に排
出して汚泥等の掴み物の量を増大させることが解決課題とされている。そして,本
件審決が周知技術3の認定の根拠とした①引用例5に開示された「バケット4,5
の左と右の背中の面」に設けられた空気抜き口13及び②周知例1に開示されたグ
ラブバケットのシェル上壁13に設けられた水抜き口11は,上記課題を解決しよ
うとする事例の1つであり,③引用発明3のグラブバケット21を海中で落下させ
る場合においてシェルカバー部材30が水の抵抗を受け,バケットシェル21の上
部が開放される構成及び④周知例2に開示された各シェルの側面開口部も,同様で
ある。
しかし,シェルの作動状況に応じてシェル内の掴み物の流出防止及び排出という,
相矛盾する作用効果の双方を実現する上では,開口部の場所及び構成並びに同開口
部について設ける掴み物の排出防止機構の構成によって,上記作用効果は大きく異
なる。本件審決が周知技術3の認定の根拠とした引用例5は,開口部すなわち空気
抜き穴がそもそもシェルの上部ではなく側部に設けられており,周知例1にもシェ
ルの上方の全面にわたって固定されたシェルカバーの一部に空気抜き孔を形成する
という本件発明の構成は開示されておらず,引用発明3及び周知例2についても同
様であり,上記構成は,周知技術ということはできない。
⑹相違点2の容易想到性の判断の誤りについて
本件審決は,引用発明1に,周知技術2及び3並びに引用発明3を適用して相違
点2に係る本件発明の発明特定事項とすることは,当業者であれば容易に想到し得
た旨判断したが,以下のとおり,同判断は,誤りである。
ア前記⑶から⑸のとおり,周知技術2,3及び引用発明3に係る本件審決の認
定に誤りがある以上,これらを副引用例とした上記の容易想到性の判断も誤りであ
る。
イ仮に,周知技術2,3及び引用発明3に係る本件審決の認定に誤りがなくて
も,以下のとおり,相違点2の容易想到性は認められない。
(ア)周知技術2,3及び引用発明3並びに本件審決がこれらの認定の根拠と
した引用例3,5,周知例1及び2のいずれにも,相違点2に係る本件発明の構成,
すなわち,シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成する構成及びその空気抜き孔に
「シェルを左右に広げたまま水中を降下する際には上方に開いて水が上方に抜ける
とともに,シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上
方に開き,グラブバケットの水中での移動時には,外圧によって閉じられる開閉式
のゴム蓋を有する」蓋体を取り付ける構成は,開示されていない。
(イ)周知技術2,3及び引用発明3並びに本件審決がこれらの認定の根拠とし
た上記各文献のいずれにも,周知技術2,3及び引用発明3を相互に結び付ける要
因となる記載も示唆もない。
⑺相違点3の容易想到性の判断の誤りについて
本件審決は,引用発明1において,前記第2の3⑵ウのとおりの引用発明2-2
及び前記第2の3⑵オのとおりの引用発明4を適用して相違点3に係る本件発明の
発明特定事項とすることは,当業者であれば容易に想到し得たと判断したが,以下
のとおり,同判断は,誤りである。
ア引用発明4の適用の阻害事由について
引用発明1は,浚渫用グラブバケットであり,シェルが目視できない対象物に接
触して岩石や廃棄物等を掴むと,想定外の荷重がシェルに掛かることがある。その
ために,引用発明1は,荷重による変形を抑える目的で,シェルの両端部を下部フ
レーム等の強度部材によって支持する構成を採用している。
一方,引用発明4は,土運船で運ばれた砂を砂撒船の6基のホッパーに荷役する
という作業目的に合わせて設計・製造されたものであり,上記荷役に当たって各ホ
ッパーへ均等に砂を供給することを容易にするために,シェルが開いた際に掴んで
いる砂を広範囲に落下させる必要があるので,シェルを幅広の構成とした。その上
で,バケットの重量の増加を抑えるために,下部フレームをシェルよりも短い寸法
にとどめたので,シェルの両端が下部フレームで支持されていないことから,シェ
ルの変形・破損が生じやすく,荷役用グラブバケットとしても強度補強措置が不十
分なものとなっている。
以上のとおり,引用発明4は,荷重による変形を抑える目的でシェルの両端部を
下部フレーム等の強度部材によって支持するという引用発明1に係る構成を採用し
ておらず,引用発明1に引用発明4を適用することは,構造的に不可能である。ま
た,引用発明4は,上記の引用発明1に係る構成を採用していないので荷役用グラ
ブバケットとしても強度補強措置が不十分なものとなっており,引用発明1に引用
発明4を適用すると,浚渫用グラブバケットに求められる荷役用グラブバケットよ
りも高い強度を確保することができなくなる。
イ前訴判決の拘束力について
前訴判決は,引用例2に,シェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離を100
とした場合,シェルの幅内寸の距離を60以上とする構成が開示されている旨認定
したが,前記⑵イと同様に,前訴判決は,シェルの両端部と下部フレームとの関係
及びシェルの両端部と下部フレームとシェルを軸支する軸との関係を,正面視から
捉えた上で,これを前提として上記認定をしたものであり,前記2つの関係を側面
視から捉えた判断は示していない。
本件審決においては,前記2つの関係を側面視から捉えた上で判断されるべきで
あるから,前訴判決による前記認定の拘束力は及ばない。
⑻相違点4の容易想到性の判断の誤りについて
本件審決は,引用発明1において,引用発明2-1及び4の構成を適用して相違
点4に係る本件発明の発明特定事項とすることは,当業者であれば容易に想到し得
たと判断した。
しかし,前記⑺のとおり,引用発明1に引用発明4を適用することについては阻
害要因がある。また,前記⑵のとおり,引用例2には,引用発明2-1の構成は示
されておらず,引用発明2-1に関する前訴判決の認定の拘束力は,本件審決には
及ばない。したがって,引用発明1に引用例2の構成を適用しても,相違点4に係
る本件発明の発明特定事項にはなり得ない。
⑼顕著な効果の看過について
アグラブバケットにおいては,1回の作動当たりの作業量を増やすためにグラ
ブバケットを大きくすれば,その重量が増加して吊支するクレーンの直巻能力の限
界(定格総荷重)を超え,他方,グラブバケットの重量の増加を抑えるために部材の
板厚を薄くすれば,強度が低下することから,グラブバケットの重量を抑制しつつ
強度を確保することが課題となっている。本件発明は,薄層浚渫工事に対応する目
的で,シェルの切取面積を拡大するために,側面視において,シェルの両端部がタ
イロッドの外方に張り出す構成としてシェルを幅広の構成とするとともに,①下部
フレーム及び下部フレームとシェルを軸支する軸をシェルよりも短く形成すること
によって,下部フレームの長大化によるバケットの重量の大幅な増加を回避し,②
シェルの上部にシェルカバーを密接配置することによって,下部フレームでシェル
の両端部を支持できないことによるシェルの強度上の問題を解消した。本件発明は,
これによって,前記課題を解決するとともに,薄層浚渫工事の作業能率を飛躍的に
拡大向上させたという効果を奏した。
イ他方,仮に引用発明1に引用発明2-1を適用したとしても,その場合は,
側面視において,下部フレームをシェルと同一の寸法となるように形成し,基本的
に,左右一対のシェルのそれぞれの両端部各1箇所及び中間部2箇所の合計4箇所
(左右のシェルの合計では8箇所)を下部フレームの両端部及び中間部に軸支させる
ことによってシェルの強度を維持することになるので,グラブバケットの重量が大
幅に増加してクレーンの直巻能力との関係における問題が生じ,前記課題を十分に
解決することができない。
また,引用発明4は,前記⑺のとおり,強度維持の点等から引用発明1に適用す
ることは想定し難く,その組合せによる作用効果を想定することもできない。
ウ以上のとおり本件発明は顕著な効果を奏するものであり,本件審決には,そ
のような効果を看過したという誤りがある。
〔被告の主張〕
⑴引用発明1の認定の誤りについて
ア「爪無しの平底構成」の認定について
争点は,引用例1のシェル部1A,1Bが平底構成か否か及び爪の有無であり,
引用発明1の解決課題及び図面から認められるシェル部1A,1Bの構成とは無関
係である。原告が主張する解釈手法は,具体的構成や具体的部材の有無について用
いるべきものではない。
16世紀に開発された浚渫用グラブバケット及び1902年に発行された英国特
許の明細書に掲載されている浚渫用グラブバケットのいずれも,爪を具備していな
い。このように,浚渫用グラブバケットは,元来は爪無しであり,その後に爪付き
のものが開発されたものである。加えて,通常,この種の汚泥を浚渫するグラブバ
ケットは,爪無しであり,このことは,本件明細書の【図7】及び【図8】に記載
された従来のグラブバケットに爪がないことからも,明らかである。したがって,
原告主張のように,浚渫用グラブバケットは基本的に爪を有するものということは
できない。
イ「側面視においてシェル部1A,1Bの両端部が下部フレーム2の外方に張
り出している」との認定について
本件審決による上記認定に誤りはない。そもそも,本件発明における「側面視に
おいてシェルの両端部がタイロッドの外方に張り出すとともに,側面視においてシ
ェルの両端部が下部フレームの外方に張り出し,更に,側面視においてシェルの両
端部が下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出してなり」との構成は,
引用例4に開示された公知のものである上,それ自体は何らの作用効果も奏しない
ものであるから,同構成が引用例1に開示されているか否かは,本件審決による本
件発明の進歩性欠如の判断に影響を及ぼすものではない。
⑵引用発明2-1の認定の誤りについて
ア引用発明2-1の認定について
引用例2において従来のグラブバケットを示す【図7】には,シェルの両端部が
シェルを軸支する軸よりも外側に張り出している構成が開示されており,本件審決
による引用発明2-1の認定に誤りはない。
そもそも,上記構成が引用例2に開示されているか否かは,前記⑴イのとおり,
本件審決による本件発明の進歩性欠如の判断に影響を及ぼすものではない。
イ前訴判決の拘束力について
前訴判決は,シェルの両端部と下部フレームとの関係及びシェルの両端部と下部
フレームとシェルを軸支する軸との関係を,正面視/側面視に係る構成の全てが何
らの作用効果も奏さない無意味な構成であるとして,引用例2から引用例2-1と
同様の構成を認定しており,この点は,本件訂正後の本件発明においても変わるも
のではないから,前訴判決の拘束力が本件審決に及ぶ。
⑶引用発明3の認定の誤りについて
ア引用発明3において,シェルカバー部材30は,本件発明におけるゴム蓋と
同様の動きをするものであり,本件審決による引用発明3の認定に誤りはない。
イ仮に,原告が主張するとおり引用発明3について水や掴み物の流出という問
題があったとしても,この種の「蓋」を備える浚渫用グラブバケットが海底土砂の
外部への漏出を防ぐというのは,漏れを少なくする程度にすぎず,確実に漏れを防
ぐというものではない。したがって,引用発明3においてシェルカバー部材30の
端部から水や掴み物が流出することを根拠として,シェルカバー部材30の構成及
び作用効果が本件発明の構成及び作用効果と一致しないという原告の主張は,失当
である。
⑷周知技術2の認定の誤りについて
周知例1に記載されたシェル上壁13及び開閉体12並びに周知例2に記載され
た上部開口カバー13,13は,いずれもそれぞれシェルの上部を密閉するもので
あるから,これらをシェルの上部に密接配置されたシェルカバーと認定した本件審
決の判断に誤りはない。
また,そもそも本件発明のシェルカバーは,「シェルの上部に」「密接配置する」
ものであるから,原告が主張するようなシェルの上方の全面に固定した状態で配置
されているものではない。
⑸周知技術3の認定の誤りについて
引用例5には,浚渫用グラブバケットにおいて,左右のバケット4,5の左と右
の背中の面に空気抜き口13と空気抜き扉14を設置することが,周知例1には,
浚渫用グラブバケットのバケットシェルのシェル上壁に開口する水抜き口11を開
閉する開閉体12を設けることが,それぞれ記載されている。したがって,シェル
の上部に空気抜き孔を形成することは周知であると認定した本件審決の判断に誤り
はない。
⑹相違点2の容易想到性の判断の誤りについて
原告は,周知技術2,3及び引用発明3並びに本件審決がこれらの認定の根拠と
した引用例3,5,周知例1及び2のいずれにも,シェルカバーの一部に空気抜き
孔を形成する構成は開示されていない旨を主張する。
しかし,①引用例5の浚渫用グラブバケットには,左右のバケット4,5の左と
右の背中の面の一部に空気抜き口13が設けられていること,②周知例1の【図5】
の浚渫用グラブバケットには,バケットシェルのシェル上壁13の一部に水抜き口
11が設けられており,【図6】の浚渫用グラブバケットには,バケットシェル4
2の上側のシェル壁の一部に水抜き筒43が設けられていることから,空気抜き孔
をシェルカバーの「一部」に設けることは,これらの引用例ないし周知例に開示さ
れた公知技術ないし周知技術であり,よって,原告の主張は失当であり,同主張を
根拠として相違点2の容易想到性を否定することはできない。
⑺相違点3の容易想到性の判断の誤りについて
ア引用発明4の適用の阻害事由について
引用発明4のような荷役用のグラブバケットに係る技術を,浚渫用のグラブバケ
ットである引用発明1に適用する際は,浚渫用のグラブバケットにおいて特に考慮
すべき強度上の余裕を確保することに支障を生ずるか否かについて,十分配慮する
必要があるとしても,相違点3に係る本件発明の構成は,強度とは無関係な構成で
あり,上記の配慮に値しないものである。
イ前訴判決の拘束力について
前記⑵イのとおり,前訴判決は,正面視/側面視に係る構成の全てが何らの作用
効果も奏さない無意味な構成であるとして,相違点3と同様の相違点3’の容易想
到性を肯定しており,この点は,本件訂正後の本件発明においても変わるものでは
ないから,前訴判決の拘束力が本件審決に及ぶ。
⑻相違点4の容易想到性の判断の誤りについて
相違点4に係る本件発明の構成は,強度とは無関係なものであるから,引用発明
4の荷役用のグラブバケットに係る技術を引用発明1に適用する際,強度上の余裕
の確保に係る支障の有無を配慮するに当たり,相違点4に係る本件発明の構成を考
慮する必要はない。また,前記⑵のとおり,引用例2においては,シェルの両端部
がシェルを軸支する軸よりも外側に張り出している構成が開示されている。
さらに,確定した前訴判決は,相違点4と同様の相違点4’につき,容易想到性
を肯定しており,前記⑺と同様の理由により,前訴判決の拘束力が本件審決に及ぶ。
⑼顕著な効果の看過について
原告が主張する効果は,本件明細書による裏付けのないものである。
2取消事由2(引用発明5を主引用例とする容易想到性の判断の誤り)につい

〔原告の主張〕
⑴引用発明5の認定の誤りについて
本件審決が,引用発明5につき,「左右バケット4,5を爪無しの平底構成」と
認定した点及び「側面視において左右バケット4,5の両端部が左右アーム2,3
の外方に張り出している」ことを認定した点は,以下のとおり,誤りである。
ア「爪無しの平底構成」の認定について
本件審決は,引用例5の【図1】から【図4】に基づいて上記認定をしたが,前
記1〔原告の主張〕⑴と同様に,引用例5には,「平底」「爪を具備しない」との構
成についての明示的な記載も示唆も存在せず,上記構成が開示されているというこ
とはできない。
イ「側面視において左右バケット4,5の両端部が左右アーム2,3の外方に
張り出している」との認定について
本件審決は,引用例5の【図1】から【図4】に基づいて上記認定をしたが,本
件発明の「側面視」に対応する【図2】及び【図4】によれば,左右アームの下端
部と支軸部7との関係は不明であるから,左右バケット4,5の両端部が左右アー
ム2,3の外方に張り出しているか否かも不明である。
⑵引用発明2-1の認定の誤りについて
前記1〔原告の主張〕⑵と同じ。
⑶引用発明3の認定の誤りについて
前記1〔原告の主張〕⑶と同じ。
⑷周知技術2の認定の誤りについて
前記1〔原告の主張〕⑷と同じ。
⑸周知技術3の認定の誤りについて
前記1〔原告の主張〕⑸と同じ。
⑹相違点8の容易想到性の判断の誤りについて
本件審決は,引用発明5に,周知技術2及び3並びに引用発明3を適用して,相
違点8に係る本件発明の発明特定事項とすることは,当業者であれば容易に想到し
得たことであると判断したが,前記1〔原告の主張〕⑹と同様の理由により,上記
判断は,誤りである。
⑺相違点9の容易想到性の判断の誤りについて
本件審決は,引用発明5に,引用発明2-2の構成又は引用発明4の構成を適用
して,相違点9に係る本件発明の発明特定事項とすることは,当業者であれば容易
に想到し得たことであると判断したが,前記1〔原告の主張〕⑺と同様の理由によ
り,上記判断は,誤りである。
⑻相違点10の容易想到性の判断の誤りについて
本件審決は,相違点10についても,引用発明5に,引用発明2-1又は4の構
成を適用して,相違点10に係る本件発明の発明特定事項とすることは,当業者で
あれば容易に想到し得たことであると判断したが,前記1〔原告の主張〕⑻と同様
の理由により,上記判断は,誤りである。
⑼顕著な効果の看過について
前記1〔原告の主張〕⑼と同様の理由により,本件審決には,本件発明の顕著な
効果を看過したという誤りがある。
〔被告の主張〕
⑴引用発明5の認定の誤りについて
前記1〔被告の主張〕⑴と同様の理由により,本件審決による引用発明5の認定
に誤りはない。
⑵引用発明2-1の認定の誤りについて
前記1〔被告の主張〕⑵と同じ。
⑶引用発明3の認定の誤りについて
前記1〔被告の主張〕⑶と同じ。
⑷周知技術2の認定の誤りについて
前記1〔被告の主張〕⑷と同じ。
⑸周知技術3の認定の誤りについて
前記1〔被告の主張〕⑸と同じ。
⑹相違点8の容易想到性の判断の誤りについて
前記1〔被告の主張〕⑹と同様の理由により,相違点8の容易想到性を認めた本
件審決の判断に誤りはない。
⑺相違点9の容易想到性の判断の誤りについて
前記1〔被告の主張〕⑺と同様の理由により,相違点9の容易想到性を認めた本
件審決の判断に誤りはない。
⑻相違点10の容易想到性の判断の誤りについて
前記1〔被告の主張〕⑻と同様の理由により,相違点10の容易想到性を認めた
本件審決の判断に誤りはない。
⑼顕著な効果の看過について
前記1〔被告の主張〕⑼と同じ。
第4当裁判所の判断
1本件発明について
⑴本件発明1に係る特許請求の範囲は,前記第2の2【請求項1】のとおりで
あるところ,本件明細書(甲37,107)の発明の詳細な説明には,おおむね,
次の記載がある(下記記載中に引用する図面については,別紙1参照)。
ア技術分野
本発明は,港湾,河川,湖沼等の浚渫時において,①ヘドロ,土砂等の掴み物の
切取面積を大きくして作業能率を高めるとともに水の含有量を低減させ,含水比の
高い掴み物をバケット内に密閉することにより,掴み物の撹乱や水中移動時及び運
搬船への積込み時の濁り・飛散を効果的に防止し,かつ,②バケットの容量を超え
た掴み物をオーバーフローさせることにより,内圧上昇に起因する変形・破損を引
き起こすことがないようにした平底幅広浚渫用グラブバケットに関するものである
(【0001】)。
イ背景技術
(ア)【図7】は,従来の丸底爪付きグラブバケットを示す正面図であり,【図
8】は,同側面図である。
左右対称構成に係る一対のシェル1,1は,下部フレーム2に軸5を介して回動
自在に軸支されている。左右のタイロッド4,4は,その下端部がシェル1,1に,
上端部が上部フレーム3に回動自在に軸支されている(【0002】)。
下部フレーム2及び上部フレーム3には,それぞれ所定個数の下シーブ7と上シ
ーブ6が回転自在に軸支されており,これらの下シーブ7と上シーブ6との間には
左右対称で2本の開閉ロープが掛け回され,シェル1,1の開閉操作をする。開閉
ロープは,上部フレーム3の上面に配置されたガイドローラ9,9を介して上方
へ延び,浚渫船などのクレーンから吊支される。上部フレーム3の上面には,浚渫
用グラブバケット全体を上記クレーンから昇降自在に軸支するための2本の吊支ロ
ープが,吊環11を介して上部フレーム3に連結されている(【0003】)。
シェル1,1は,軸20,20によって回動自在に軸支されており,丸底爪付き
の構成となっている。通常,グラブバケットの最適バランスを保持させるために,
【図7】のロッド軸心間の距離Aを100とした場合,【図8】の幅内寸Bの距離
は,50程度となっている(【0004】)。
(イ)従来技術として,シェルとロッドとを枢着する軸に,シェル側面の上方の
開口部を覆うようなカバーの一端部を回転自在に取り付け,このカバーの表面とロ
ッドとロッド上の案内及び上下部滑車を経由して開きワイヤーを配設し,カバーの
裏面と下部滑車箱とをシェルを経由して閉じワイヤーを配設し,これらのワイヤー
を介してシェルの開閉運動に同期させてカバーの開閉を行わせるとともにバケット
の全閉状態において対向するシェルの面にパッキンを設けたことにより,掴み物の
流出を防止したグラブバケット等がある(【0005】)。
ウ発明が解決しようとする課題
(ア)しかしながら,従来技術には,以下のとおりの問題があった。
①すなわち,従来の丸底爪付きグラブバケットを利用した浚渫作業は,掘り後が
溝状となってしまうので,非能率的であり,ヘドロ,土砂等を完全に浚渫すること
ができない。特に,近年,土厚20cmから1m以内の薄層ヘドロ浚渫工事が増え
ており,そのような工事においては,グラブバケットによる掴み物以外は水であり,
掴んだヘドロと水を地上に引き上げて分離処理する必要があるので,掴み物中の水
の含有量を減らすことが求められているが,従来の丸底爪付きグラブバケットでは
掴み物の切取面積が小さく,水の含有量を減らすことができない(【0006】)。
②グラブバケットのロッド軸心間の距離Aを100とした場合にシェル1,1の
幅内寸Bの距離は50程度となっていることから,掴み物の切取面積をより大きく
することが困難であり,大きな容量のグラブバケットを得ることができない(【0
007】)。
③グラブバケット内におけるヘドロ等の掴み物の撹乱や水中移動が発生しやすく,
ヘドロ運搬船への積込み時に河川又は海水に大きな濁りを生じる。従来,周辺水域
への濁りの拡散・移流を防止するために汚濁防止膜を浚渫現場に設置する手段が採
用されているが,潮流の早い海域においては,浚渫作業中に汚濁防止膜が流される,
グラブバケットと汚濁防止膜が接触して膜が破損する等の事故が発生し,濁りの拡
散・移流を完全に防止することができないという問題がある(【0008】)。
④シェルを左右に広げたまま水中を降下する際には,グラブバケット自体の水中
の抵抗が増加して降下時間が長くなるという問題があり,さらに,グラブバケット
が掴み物を所定の容量以上に掴んだ場合には,この掴み物の逃げ道がないことによ
りグラブバケットの内圧が上昇し,グラブバケットの変形・破損を引き起こすおそ
れがある(【0009】)。
(イ)そこで,本発明は,上記(ア)の各問題に鑑みて,①ヘドロ,土砂等の掴み
物の切取面積を大きくして作業能率を高めるとともに水の含有量を低減させ,②浚
渫作業時に掴み物の撹乱や水中移動が起きないようにして,ヘドロ運搬船への積込
み時における河川又は海水の濁りの発生や周辺水域への濁りの拡散・移流を防止し,
③グラブバケット自体の水中での抵抗を減少させて降下時間を短縮し,④グラブバ
ケットが掴み物を所定の容量以上に掴んだ場合でも内圧上昇に起因する変形・破
損を引き起こすことがない平底幅広浚渫用グラブバケットを得ることを目的とする
(【0010】)。
エ課題を解決するための手段
本発明は,前記ウの目的を達成するために,本件訂正後の特許請求の範囲請求項
1記載の構成の平底幅広浚渫用グラブバケットを提供する(【0011】)。
オ発明の効果
(ア)本発明によって得られた平底幅広浚渫用グラブバケットによれば,従来の
丸底爪付きグラブバケットに比べて,①シェルを爪無しの平底幅広構成としたこと
によって,掘り後が溝状とならずにヘドロを完全に浚渫することができる。②①の
シェルの構成に加えて,正面視におけるシェルを軸支するタイロッドの軸心間の距
離を100とした場合,側面視におけるシェルの幅内寸の距離を60以上とし,か
つ,側面視においてシェルの両端部がタイロッドの外方に張り出すとともに,側面
視においてシェルの両端部が下部フレームの外方に張り出し,更に,側面視におい
てシェルの両端部が下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出してなると
いう構成を採用したことによって,バケット本体の実容量が大きくなり,かつ,掴
み物の切取面積を大きくして掴みピッチ回数を下げることにより,作業能率を高め
るとともに水の含有量を減らすことができる。特に土厚20cmから1m以内の薄
層ヘドロ浚渫工事のように土厚が少なくなるほど,前記ウのとおり,掴み物中の水
の含有量を減らすことが求められるので,平底幅広浚渫用グラブバケットの有用性
が高くなる(【0013】)。
(イ)シェルの上部に開閉式のゴム蓋を有する蓋体が配設されたシェルカバーを
密接配置したことにより,シェルを広げたまま水中を降下する際にはゴム蓋を有す
る蓋体が上方に開いて水が上方に抜けるので,水中での抵抗が減少して降下時間を
短縮することができる。グラブバケットが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合には,
内圧の上昇に伴ってゴム蓋を有する蓋体が上方に開き,内圧が降下するので,グラ
ブバケット自体の変形・破損を引き起こすおそれはない。グラブバケットの水中で
の移動時には,外圧によってゴム蓋を有する蓋体が閉じられるので,掴み物の撹乱
や水中移動は発生せず,河川又は海水の濁りの発生や周辺水域への濁りの拡散・移
流を完全に防止することができる(【0014】)。
カ発明を実施するための最良の形態
(ア)【図1】及び【図2】中の,図中の1,1は,左右対称構成に係る一対の
シェルである。2は下部フレーム,3は上部フレーム,4,4はタイロッドであり,
左右に1本ずつ2本装備されている。左右一対のシェル1,1は,側面視において
両側2ケ所で下部フレーム2に軸5を介して回動自在に軸支されており,左右のタ
イロッド4,4は,その下端部が軸20,20によってシェル1,1に,上端部が
上部フレーム3に,回動自在に軸支されている(【0015】)。
上部フレーム3には,上シーブ6が回転自在に軸支されており,下部フレーム2
には,下シーブ7が回転自在に軸支されている。上シーブ6と下シーブ7との間に
は,開閉ロープが掛け回され,シェル1,1の開閉操作をする。【図2】に示すよ
うに,開閉ロープ8,8は上部フレーム3の上面に配置されたガイドローラ9,9
を介して上方へ延び,浚渫船などのクレーン(図示略)から吊支される。上部フレ
ーム3の上面には,浚渫用バケット全体を上記クレーンから昇降自在に吊支するた
めの2本の吊支ロープ10,10が吊環11,11を介して上部フレーム3に連結
されている(【0016】)。
(イ)シェル1,1は,軸20,20によって回動自在に軸支されており,爪無
しの平底幅広構成となっている。そして,【図1】の正面視におけるタイロッド4,
4の軸20,20の軸心間の距離A’を100とした場合,【図2】の側面視にお
けるシェル1,1の幅内寸B’の距離は60以上であり,かつ,【図2】に示すよ
うに,側面視においてシェル1,1の両端部がタイロッド4,4の外方に張り出す
とともに,側面視においてシェル1,1の両端部が下部フレーム2の外方に張り出
し,更に,側面視においてシェル1,1の両端部が下部フレーム2とシェル1,1
を軸支する軸5の外方に張り出してなることが構成上の特徴となっている。なお,
本発明において正面視とは,【図1】に示すようにシェル1,1と下部フレーム2
を軸支する軸5の軸心方向から見たものであり,側面視とは,【図2】に示すよう
にシェル1,1と下部フレーム2を軸支する軸5を軸心方向の側方から見たもので
ある(【0017】)。
(ウ)【図3】に示すシェル1,1上に密接配置するシェルカバー12は,左右
対称にシェルカバー上段13,13,シェルカバー中段14,14及びシェルカバ
ー下段15,15とから構成され,シェルカバー上段13とシェルカバー中段14
との間に,空気抜き孔が形成され,その空気抜き孔に蓋体16,16が複数個配設
されており,蓋体16には,開閉式の特殊ゴム蓋17,17が取り付けられている。
【図3】の例では,蓋体16,16が4個配設されているが,この蓋体16の個数
は4個に限定されるものではない(【0018】)。
蓋体16,16は,掴み物がシェル1,1の内側から外側に流出することは可能
であるが,外側から内側に流入することはできない構造となっている。つまり蓋体
16,16はヘドロ等の掴み物の流入と流出を規制する逆止弁を構成している
(【0019】)。
(エ)このような平底幅広浚渫用グラブバケットは,浚渫船による河川又は海域
における浚渫時に,上部フレーム3に連結されている吊支ロープ10,10を浚渫
船のクレーンに吊支して,クレーンから2本の吊支ロープ10,10を昇降させる
ことによって,上シーブ6と下シーブ7間に掛け回された開閉ロープ8を回動して
シェル1,1の開閉操作を行う(【0020】)。
上記の動作時において,シェル1,1が爪無しの平底幅広構成となっていること
から,従来の丸底爪付きグラブバケットに比べて,シェル1,1の実容量が大きく,
実容量が同一の場合でも掴み物の切取面積を大きくすることができる。特に浚渫す
る土厚が一定である場合を仮定すると,1回の掴み作業における切取掴み量を大き
くすることができる。港湾,河川,湖沼等における近時のヘドロ浚渫時には,土厚
20cmから1m以内の薄層ヘドロ浚渫工事が行われるが,土厚が少なくなるほど
本発明に係る平底幅広浚渫用グラブバケットの作業能率が高く,掘り後が溝状とな
らずにヘドロを完全に浚渫することができるとともに,従来のグラブバケットに比
して切取面積が大きいので,掴み物中の水の含有量を減らすことができる(【00
21】)。
(オ)さらに,シェル1,1にシェルカバー12を密接配置したことにより,シ
ェル1,1を左右に広げたまま水中を降下する際には,蓋体16,16の特殊ゴム
蓋17,17を上方に開くことにより,グラブバケット内の水が上方に抜けて水中
での抵抗が減少するので,降下時間を短縮することができる。また,シェル1,1
が掴み物を所定容量以上に掴んだ場合には,内圧の上昇に伴って同様に蓋体16,
16の特殊ゴム蓋17,17が上方に開くので,掴み物の逃げ道ができることによ
り内圧が降下し,シェル1,1の変形・破損のおそれがなくなる。そして,グラブ
バケットが水中を移動するときには,外圧によって蓋体16,16の特殊ゴム蓋1
7,17は閉じられており,したがって,掴み物の撹乱や水中移動が発生せず,ヘ
ドロ運搬船への積込み時にも河川又は海水に濁りを生じることを防止して周辺水域
に濁りが拡散・移流することを完全に防止することができる(【0023】)。
キ産業上の利用可能性
以上のとおり,本発明のシェルを爪無しの平底幅広構成としたことにより,シェ
ルの実容量が大きく,かつ,掴み物の切取面積を大きくして掴みピッチ回数を下げ
て作業能率を高めるとともに水の含有量を減らし,しかも掘り後が溝状とならずに
ヘドロを完全に浚渫することができる上,シェルカバーのゴム蓋を有する蓋体が上
方に開くことによって水中を降下する際の抵抗が減少して降下時間が短縮され,グ
ラブバケットが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合でも内圧が降下してグラブバケ
ット自体の変形・破損が引き起こされず,グラブバケットが水中で移動する際には
外圧によって上記蓋体が閉じられるので,掴み物の撹乱や水中移動が発生せず,河
川又は海水に濁りを生じたり周辺水域に濁りが拡散・移流することは完全に防止さ
れるので,河川や海域で浚渫作業を行う各種の浚渫船に広く適用することができる
(【0024】)。
⑵本件発明の特徴
前記⑴によれば,本件発明の特徴は,以下のとおりである。
ア本件発明は,港湾,河川,湖沼等の浚渫時において,①ヘドロ,土砂等の掴
み物の切取面積を大きくして作業能率を高めるとともに水の含有量を低減させ,含
水比の高い掴み物をバケット内に密閉することにより,掴み物の撹乱や水中移動時
及び運搬船への積込み時の濁り・飛散を効果的に防止し,かつ,②バケットの容量
を超えた掴み物をオーバーフローさせることにより,内圧上昇に起因する変形・破
損を引き起こすことがないようにした平底幅広浚渫用グラブバケットに関するもの
である(【0001】)。
イ従来技術として丸底爪付きグラブバケットがあるが(【0002】~【00
04】,【図7】,【図8】),以下のとおりの問題点があった。
(ア)従来の丸底爪付きグラブバケットを利用した浚渫作業は,掘り後が溝状と
なってしまうので,非能率的であり,ヘドロ,土砂等を完全に浚渫することができ
ない。特に,近年,土厚20cmから1m以内の薄層ヘドロ浚渫工事が増えており,
そのような工事においては,グラブバケットによる掴み物以外は水であり,掴んだ
ヘドロと水を地上に引き上げて分離処理する必要があるので,掴み物中の水の含有
量を減らすことが求められているが,従来の丸底爪付きグラブバケットでは掴み物
の切取面積が小さく,水の含有量を減らすことができない(【0006】)。
(イ)グラブバケットのロッド軸心間の距離Aを100とした場合にシェル1,
1の幅内寸Bの距離は50程度となっていることから,掴み物の切取面積をより大
きくすることが困難であり,大きな容量のグラブバケットを得ることができない
(【0007】)。
(ウ)グラブバケット内におけるヘドロ等の掴み物の撹乱や水中移動が発生しや
すく,ヘドロ運搬船への積込み時に河川又は海水に大きな濁りを生じる(【000
8】)。
(エ)シェルを左右に広げたまま水中を降下する際には,グラブバケット自体の
水中の抵抗が増加して降下時間が長くなる。さらに,グラブバケットが掴み物を所
定の容量以上に掴んだ場合には,この掴み物の逃げ道がないことによりグラブバケ
ットの内圧が上昇し,グラブバケットの変形・破損を引き起こすおそれがある
(【0009】)。
ウそこで,本件発明は,上記イの各問題に鑑みて,①ヘドロ,土砂等の掴み物
の切取面積を大きくして作業能率を高めるとともに水の含有量を低減させ,②浚渫
作業時に掴み物の撹乱や水中移動が起きないようにして,ヘドロ運搬船への積込み
時における河川又は海水の濁りの発生や周辺水域への濁りの拡散・移流を防止し,
③グラブバケット自体の水中での抵抗を減少させて降下時間を短縮し,④グラブバ
ケットが掴み物を所定の容量以上に掴んだ場合でも内圧上昇に起因する変形・破
損を引き起こすことがない平底幅広浚渫用グラブバケットを得ることを目的とする
ものである(【0010】)。
エ本件発明は,前記ウの目的を達成するために,本件訂正後の特許請求の範囲
請求項1記載の構成の平底幅広浚渫用グラブバケットを提供する(【0011】)。
オ本件発明によって得られた平底幅広浚渫用グラブバケットによれば,従来の
丸底爪付きグラブバケットに比べて,①シェルを爪無しの平底幅広構成としたこと
によって,掘り後が溝状とならずにヘドロを完全に浚渫することができる。②①の
シェルの構成に加えて,正面視におけるシェルを軸支するタイロッドの軸心間の距
離を100とした場合,側面視におけるシェルの幅内寸の距離を60以上とし,か
つ,側面視においてシェルの両端部がタイロッドの外方に張り出すとともに,側面
視においてシェルの両端部が下部フレームの外方に張り出し,更に,側面視におい
てシェルの両端部が下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出してなると
いう構成を採用したことによって,バケット本体の実容量が大きくなり,かつ,掴
み物の切取面積を大きくして掴みピッチ回数を下げることにより,作業能率を高め
るとともに水の含有量を減らすことができる。特に土厚20cmから1m以内の薄
層ヘドロ浚渫工事のように土厚が少なくなるほど,前記イのとおり,掴み物中の水
の含有量を減らすことが求められるので,平底幅広浚渫用グラブバケットの有用性
が高くなる(【0013】)。
(イ)シェルの上部に開閉式のゴム蓋を有する蓋体が配設されたシェルカバーを
密接配置したことにより,シェルを広げたまま水中を降下する際にはゴム蓋を有す
る蓋体が上方に開いて水が上方に抜けるので,水中での抵抗が減少して降下時間を
短縮することができる。グラブバケットが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合には,
内圧の上昇に伴ってゴム蓋を有する蓋体が上方に開き,内圧が降下するので,グラ
ブバケット自体の変形・破損のおそれはない。グラブバケットの水中での移動時に
は,外圧によってゴム蓋を有する蓋体が閉じられるので,掴み物の撹乱や水中移動
は発生せず,河川又は海水の濁りの発生や周辺水域への濁りの拡散・移流を完全に
防止することができる(【0014】)。
カ本件発明は,上記オの効果を奏することから,河川や海域で浚渫作業を行う
各種の浚渫船に広く適用することができる(【0024】)。
2取消事由1(引用発明1を主引用例とする容易想到性の判断の誤り)につい

事案の性質に鑑み,引用発明1及び3の認定の誤り,周知技術2及び3の認定の
誤り,相違点2及び3の容易想到性の判断の誤り,引用発明2-1の認定の誤り,
相違点4の容易想到性の判断の誤りの順に検討する。
⑴引用発明1の認定の誤りについて
ア引用発明1の認定
(ア)引用例1(甲1)には,浚渫船のクレーンから吊り下げたバケットを拡開
して水底の土砂をすくい取り,バケットを閉じて土砂を運搬船等に揚荷するための
浚渫用グラブバケットに関する発明として(【0001】),後記⑸イ(イ)のとお
り,バケットの吊上げ初期の揺れがほとんど発生せず,開閉ロープのロープ寿命も
長くなる浚渫用グラブバケットの提供という課題を,上部シーブ,下部シーブ,バ
ケット開閉用の開閉ロープ及びガイドシーブの構成や位置によって,解決する発明
が開示されており,上記発明の一実施形態に係る浚渫用グラブバケットの側面図と
して【図1】が,正面図として【図2】がそれぞれ掲載されている(【0007】。
【図1】及び【図2】については,別紙2参照)。
【図1】及び【図2】において,左右一対のシェル部1A,1Bは,軸3で開閉
自在に軸支され,下部フレーム2に取り付けられている(【0008】)。
【図1】及び【図2】において,シェル部1A,1Bに突起は見られない。
【図2】において,シェル部1Bの底部は平らであり,湾曲,凹凸等は見られな
い。また,シェル部1Bの両端部は,下部フレーム2の外方に張り出している。
なお,シェル部1A,1Bは,対称に構成された一対のものであるから(【000
8】),シェル部1Aの底部及び両端部についても,シェル部1Bと同様の態様を
成すものということができる。
(イ)前記(ア)によれば,引用例1には,本件審決が認定したとおりの引用発明
1(前記第2の3⑵ア)が記載されていることが認められる。
イ原告の主張について
(ア)原告は,引用例1には,シェル部につき,「平底」及び「爪を具備しない」
との構成についての明示的な記載も示唆も存在せず,上記構成が開示されていると
いうことはできないとして,本件審決は,引用発明1につき,「シェル部1A,1
Bを爪無しの平底構成」と認定した点において誤りがある旨主張する。
この点に関し,本件発明の「シェルを爪無しの平底幅広構成とする」の意義につ
いては,特許請求の範囲及び本件明細書のいずれにも明記されておらず,また,本
件明細書中,従来の丸底爪付きグラブバケットを示す正面図とされる【図7】及び
側面図とされる【図8】(【0002】,【0025】)並びに本件発明に係るシ
ェルを爪無しの平底幅広構成としたグラブバケットの正面図とされる【図1】及び
側面図とされる【図2】(【0025】)からは,シェルの底部の形状及び爪の有
無の相違は,明らかではない。
本件明細書中,シェル部の底部の形状に関し,概要,「従来の丸底爪付きグラブ
バケットを利用した浚渫作業は,掘り後が溝状となってしまう」,「従来の丸底爪
付きグラブバケットでは掴み物の切取面積が小さく,水の含有量を減らすことがで
きない」(【0006】),「本件発明によって得られた平底幅広浚渫用グラブバ
ケットによれば,従来の丸底爪付きグラブバケットに比べて,シェルを爪無しの平
底幅広構成としたことにより,掘り後が溝状とならない」,「シェルを爪無しの平
底幅広構成としたことに加えて,側面視におけるシェルを軸支するタイロッドの軸
心間の距離を100とした場合,側面視におけるシェルの軸内寸の距離を60以上
とすることなどの構成を採用したことによって,バケット本体の実容量が大きくな
り,かつ,掴み物の切取面積を大きくして掴みピッチ回数を下げることにより作業
能率を高めるとともに水の含有量を減らすことができる」(【0013】),「シ
ェルの開閉動作時において,シェル1,1が爪無しの平底幅広構成となっているこ
とから,従来の丸底爪付きグラブバケットに比べて,シェル1,1の実容量が大き
く,実容量が同一の場合でも掴み物の切取面積を大きくすることができる。」,
「本件発明に係る平底幅広浚渫用グラブバケットの作業能率が高く,掘り後が溝状
とならずにヘドロを完全に浚渫することができる」(【0021】),「本件発明
のシェルを爪無しの平底幅広構成としたことにより,シェルの実容量が大きく,か
つ,掴み物の切取面積を大きくして掴みピッチ回数を下げて作業能率を高めるとと
もに水の含有量を減らし,しかも掘り後が溝状とならずにヘドロを完全に浚渫する
ことができる」(【0024】)との記載がある。
これらの記載によれば,丸底爪付きグラブバケットと爪無しの平底幅広構成のグ
ラブバケットとの大きな相違は,丸底爪付きグラブバケットにおいては掘り後が溝
状になり,掴み物の切取面積が小さいのに対し,爪無しの平底幅広構成のグラブバ
ケットにおいては掘り後が溝状にならず,掴み物の切取面積が大きいことである。
この点に鑑みると,シェルの爪無し及び平底の構成とは,浚渫時に対象とするヘド
ロや土砂等に食い込んで掘り下げる部分,すなわち,本件明細書の【図2】の下底
に相当するシェルの底部が平らであり,引用例3の【第1図】(別紙3)及び周知
例1の【図2】(別紙4)に示されたグラブバケットのようにシェルの底部の端に
突起が設けられたものではなく,また,引用例3の【第2図】に示されたグラブバ
ケットのようにシェルの底部が湾曲したものでもないことを意味するものと解され
る。
前記ア(ア)のとおり,引用例1の【図1】及び【図2】において,シェル部1A,
1Bに突起は見られず,また,【図2】において,シェル部1Bの底部は平らであ
り,湾曲,凹凸等は見られない。この点は,シェル部1Bと一対のものとして対称
に構成されたシェル部1Aについても同様である。よって,引用例1には,シェル
部を平底とし,かつ,爪の無い構成とすることが開示されているということができ
る。
(イ)原告は,引用例1の【図2】からは,シェル部1A,1Bの両端部が下部
フレーム2の外方に張り出しているか否かは不明である旨主張する。
しかし,前記ア(ア)のとおり,引用例1の【図2】自体から,シェル部1Bの両
端部が下部フレーム2の外方に張り出していることは明らかである。加えて,本件
明細書において「側面視においてシェルの両端部が下部フレームの外方に張り出し」
た本件発明に係るグラブバケットの側面図とされる【図2】には,シェルの両端部
が下部フレームの外方に張り出している態様が示されており,この点は,従来の丸
底爪付きグラブバケットの側面図とされる【図8】においては下部フレームの方が
シェルの両端部の外方に張り出していることとの比較からも,明らかということが
できる。引用例1の【図2】についても,本件明細書の【図2】と同様に,シェル
部1Bの両端部が下部フレーム2の外方に張り出していることは,本件明細書の
【図8】との比較からも,明らかである。
⑵引用発明3の認定の誤りについて
ア引用例3(甲4)について
(ア)引用例3の実用新案登録請求の範囲には,以下のとおり記載されている。
掻取口を互いに突き合わせて海底土砂等を掻き取るための一対のバケットシェル
を有し,該バケットシェルの上部に上記掻取口に連通すると共に上方に臨んで開口
される上部開口部を有したグラブバケットにおいて,上記バケットシェルに,これ
を海中等から上方に吊り上げるときに上記上部開口部を閉じるための開閉手段を設
けたことを特徴とするグラブバケット。
(イ)引用例3の考案の詳細な説明には,おおむね,以下のとおり記載されてい
る(下記記載中に引用する第1図,3図から7図については,別紙3参照)。
a従来の技術
例えば,第6図に示すように,グラブバケット1は開閉自在な一対のバケットシ
ェル2を有しており,これらのバケットシェルは,海中を巻き下げられあるいは巻
き上げられて開閉されるようになっている。
b考案が解決しようとする問題点
ところで,各バケットシェル2にはこれに海底土砂を取り込むための掻取口3が
形成されるとともに,掻取口3に連通されて上方に臨んで開口される上部開口部4
が形成される。したがって,互いにバケットシェル2を突き合わせて掻取口3を閉
じた場合には,第7図に示すように,上部開口部4が上方に臨んで大きく開放され,
バケットシェル2内の土砂が海中に露出されることになる。
このため,従来は,海中で海底土砂を収容したグラブバケット1を巻き上げる際
に,上方に臨んで大きく開放された上部開口部4内の土砂が水の抵抗によってバケ
ットシェル2外に流出してしまうという問題があった。また,第6図に示すように,
グラブバケット1が巻き上げられ,バケットシェル2に形成される上部開口部4が
海上に露出したときは,上部開口部4内の土砂と共に持ち上げられた海水が土砂を
巻き込んで流してしまうことになり,海水を汚濁するという問題があった。…
本考案は,一対のバケットシェルを有し,これらのバケットシェルに海底土砂等
を取り入れるための掻取口を有するとともに掻取口に連通して上方に臨んで開口さ
れた上部開口部を有したグラブバケットにおいて,海底から掻き取った海底土砂等
をバケットシェル内に保持することを可能にし,かつ,水の抵抗を最小限にして,
荷こぼれによる海水汚濁を防止し得るグラブバケットの提供を目的とする。
c問題点を解決するための手段
本考案は,上記bの問題点を解決するために,実用新案登録請求の範囲記載のと
おり,開閉手段を設けたものである。
d作用
グラブバケットを海中から海上に抜き出す際には,開閉手段によりバケットシェ
ルに形成される上部開口部が閉じられ…掻き取られた荷は密閉されたバケットシェ
ル内に保持され,海水によって外部に流れ出すことがない。…
e実施例
第1図及び2図に示すように,海底土砂等を掻き取る浚渫用のグラブバケット2
0は,開閉自在な一対のバケットシェル21を有している。これらのバケットシェ
ル21の下部には,互いに突き合わされて海底土砂を掻き取るための掻取口22が
形成され,バケットシェル21の上部には,掻取口22に連通する上部開口部23
が上方に臨んで開口される。具体的には,各バケットシェル21はその基端部が下
部枠に軸支されるとともにロッド25を介して上部枠26に開閉自在に支持される。
…特に本考案においては,バケットシェル21にその上部に形成される上部開口部
23を開閉するための開閉手段が設けられ,この開閉手段は,本実施例においては
鉄板あるいは硬質ゴム製のシェルカバー部材30により構成される。このシェルカ
バー部材30は,その基端部が下部枠24側にピンヒンジ31により取り付けられ,
上部開口部23に沿ってこれを上方から覆うように設けられる。すなわち,シェル
カバー部材30は,鉛直方向に回動自在に支持され,上方に回動したときに上部開
口部23を開放し,バケットシェル21に係合したときに上部開口部23を閉じる
ように構成される。
したがって,第3図に示すように,荷を握持しながら海中でグラブバケット20
(「バケットグラブ21」は,誤記と解される。)を上方に巻き上げるときには,
シェルカバー部材30はその自重と水の抵抗を受けてバケットシェル21に押しつ
けられ,上部開口部23を閉じることになる。…また,シェルカバー部材30によ
り上部開口部23が閉じられ,バケットシェル21内が密閉されることになり,海
底土砂は外部に漏出することなくバケットシェル21内に保持される。したがって,
第4図に示すように,グラブバケット20が巻き上げられて海上に浮上した際には
密閉されたバケットシェル21内に海底土砂が保持されており,グラブバケット2
0と共に持ち上げられた海水が,シェルカバー部材30の上面をその傾斜に沿って
流れ落ち,海底土砂を洗い流すことがない。一方,海底土砂を掻き取るべく,グラ
ブバケット20(「グラブバケット21」は,誤記と解される。)を海水中で落下
させる場合には,シェルカバー部材30は水の抵抗を受け,バケットシェル21の
上部を開放することになる。すなわち,第5図に示すように,バケットシェル21
の掻取口22から入り込んだ海水がシェルカバー部材30を上方に押し上げて上部
開口部23から流出することになり,バケットシェル21にはその下方から上方に
海水が通り抜けることになる。
イ引用発明3の認定
(ア)前記アによれば,引用例3に記載されている浚渫用のグラブバケット20
には,バケットシェル21の上部に形成される上部開口部23を開閉するための開
閉手段が設けられており,同開閉手段は,鉄板又は硬質ゴム製のシェルカバー部材
30により構成される。
そして,海底土砂を掻き取るために,グラブバケット20を海水中で落下させる
場合には,シェルカバー部材30は,水の抵抗を受けて上部開口部23を開放し,
同所から海水が上方へ抜けることになる。なお,上記落下時においては,バケット
シェル21を左右に広げた状態になっている。したがって,シェルカバー部材30
は,グラブバケット20がバケットシェル21を左右に広げたまま水中を降下する
際には,水圧を受けて上方に開き,同所から水が上方に抜けるものということがで
きる。また,引用例3には,シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合のことに
ついての記載はないものの,シェルカバー部材30は,その構造にも鑑みれば,上
記の場合にも,バケットシェル21の内圧の上昇を受けて上方に開くものというこ
とができる。
他方,荷を握持しながら海中でグラブバケット20を上方に巻き上げるときには,
シェルカバー部材30は,その自重と水の抵抗を受け,バケットシェル21に押し
つけられて上部開口部23を閉じ,バケットシェル21内を密閉する。よって,シ
ェルカバー部材は,グラブバケット20が水中を移動する際には,水圧を受けて上
部開口部23を閉じるものということができる。
(イ)以上によれば,引用例3には,本件審決が認定したとおりの引用発明3
(前記第2の3⑵エ)が記載されているものと認められる。
ウ原告の主張について
(ア)原告は,引用発明3においては,「シェルカバーの一部に形成された空気
抜き孔」もこれに取り付けられる「開閉式のゴム蓋を有する蓋体」も存在しない旨
主張する。
しかし,本件審決は,引用発明3につき,シェルカバーそのものとして開閉式の
ゴム蓋を有する蓋体が用いられている旨の認定をしており,シェルカバーの一部に
空気抜き孔が形成されており,それに開閉式のゴム蓋を有する蓋体が取り付けられ
たという認定をしたわけではない。
(イ)原告は,引用例3には,「シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合に
も内圧の上昇に伴って上方に開き,」との記載は全くない旨を主張する。
前記イ(ア)のとおり,確かに,引用例3には,シェルが掴み物を所定容量以上に
掴んだ場合のことについての記載はないものの,シェルカバー部材30は,その構
造にも鑑みれば,上記の場合にも,バケットシェル21の内圧の上昇を受けて上方
に開くものということができる。
(ウ)原告は,引用発明3につき,「シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場
合」ではなくとも,シェルの掴み物がシェルカバー部材30の下部枠24側と反対
方向(ピンヒンジ31によって軸支されていない側)の端部の位置を超えた場合に
は,シェルカバー部材30が掴み物により浮き上がり,このシェルカバー部材30
とシェルとの隙間からシェル内の掴み物が流出し,その状態がシェルの水中移動時
においても継続することになる旨主張する。
前記ア(イ)によれば,引用発明3は,従来,バケットシェルに海底土砂等を取り
入れるための掻取口を有するとともに掻取口に連通して上方に臨んで開口された上
部開口部を有したグラブバケットにおいて,海中で海底土砂等を掻き取ってバケッ
トシェル内に収納した後,掻取口を閉じて巻き上げる際,上部開口部が開放されて
そこから海底土砂等が流出するという問題があったことから,上記問題を解決する
ための手段として,巻上げ時において上部開口部を閉じる硬質ゴム製のシェルカバ
ー部材30により構成される開閉手段,すなわち,開閉式のゴム蓋を有する蓋体を
取り付けることによって,海底土砂等をバケットシェル内に保持するものというこ
とができる。このようなグラブバケットにおいて,シェルが掴む海底土砂等の掴み
物の所定容量とは,通常作業時にバケットシェル内に保持されて外部に流出しない
程度の容量を指すものと解される。
そうすると,原告が主張する,「シェルの掴み物がシェルカバー部材30の下部
枠24側と反対方向(ピンヒンジ31によって軸支されていない側)の端部の位置
を超え,シェルカバー部材30が掴み物により浮き上がる場合」は,掴み物が上記
所定容量を超えている場合にほかならない。したがって,原告が主張する事実をも
って,引用発明3につき,シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合ではなくて
も,開閉式のゴム蓋が開くということはできない。
⑶周知技術2の認定の誤りについて
ア周知例1(甲16)について
(ア)周知例1の実用新案登録の請求の範囲には,以下のとおり記載されている。
【請求項1】上フレーム1と,…全閉状態において下フレーム4と対向する,バケ
ットシェル6のシェル上壁13に水抜き口11が開口しており,/バケットシェル
6に,水抜き口11を開閉する開閉体12と,開閉体12を開閉操作する操作機構
とが設けてあることを特徴とする浚渫用グラブバケット。
(イ)周知例1の考案の詳細な説明には,おおむね,以下のとおり記載されてい
る(下記記載中に引用する図面については,別紙4参照)。
a従来,ヘドロ等の沈泥を浚渫する際にグラブバケットからあふれ出る泥土や
濁水により水質汚濁が生じる事態を避けるために,【図6】のとおり,バケットシ
ェル42のシェル壁にダクト状の水抜き筒43を設けて半密閉状に構成したグラブ
バケットが用いられており,そのようなグラブバケットは,沈泥に食い込んだ全開
状態のバケットシェル42が徐々に閉じるように操作することによって,シェル内
の濁水を水抜き筒43から排出しながらバケットシェル42を閉鎖することができ,
したがって,バケットを引き揚げる際の汚水の散逸を抑止することができる。
しかし,バケットシェル42を全閉操作した状態においても,シェル内部が水抜
き筒43を介してシェル外に通じているので,バケット引揚げ時に水抜き筒43か
ら濁水や泥土が流出するのを避けられず,水質汚濁を十分に解消することができな
い(【0002】,【0003】)。
bこの考案のグラブバケットは,上記aの課題を解決するために,【図2】に
示すごとく…バケットシェル42の全閉状態において下フレーム4と対向する,バ
ケットシェル6のシェル上壁13に水抜き口11を開口する。バケットシェル6に
は,水抜き口11を開閉する開閉体12と,開閉体12を開閉操作する操作機構を
設ける(【0005】)。
開閉体12は,バケットシェル6の内部に配置して,シェル内部に設けた軸19
で揺動開閉自在に支持する(【0007】)。
c開閉体12は,操作機構で開閉操作されて,水抜き口11を開放ないし閉止
することができる。したがって,水抜き口11を開放した状態でバケットシェル6
を操作すると,シェル内の濁水を水抜き口11から排出することができ,バケット
シェル6が全閉ないしはその直前の状態になった時点で,開閉体12が操作機構で
閉じ操作されて水抜き口11を完全に閉止することができるので,バケット引揚げ
時に内部の泥土が水抜き口11から外部に流出するのを阻止し得る(【0008】)。
d水抜き口11をシェル上壁13に開口する理由は,①他のシェル周壁に開口
した場合と比べて,バケット引揚げ時にシェル内部の泥土が流出しにくいこと及び
②バケットシェル6で泥土をすくい込む際の泥土の流動作用により,泥土とシェル
周壁との間に存在する濁水を水抜き口11から支障なく排出することができ,水抜
きをより確実に行い得ることである(【0009】)。
e【図1】…は,この考案に係るグラブバケットの実施例を示す(【001
2】)。
(ウ)前記(ア)及び(イ)によれば,①バケットシェル42のシェル壁にダクト状
の水抜き筒43を設けて半密閉状に構成した従来のグラブバケットは,シェル内の
濁水を水抜き筒43から排出しながらバケットシェル42を閉鎖することができる
ものの,バケットシェル42を全閉操作した状態においても,シェル内部が水抜き
筒43を介してシェル外に通じているので,バケット引揚げ時に水抜き筒43から
濁水や泥土が流出するのを避けられず,水質汚濁を十分に解消することができない
という問題があったこと(【0002】,【0003】,【図6】),②周知例1記載の
浚渫用グラブバケットは,①の課題を解決するために,バケットシェル42の全閉
状態において下フレーム4と対向する,バケットシェル6のシェル上壁13に水抜
き口11を開口し,バケットシェル6の内部に,軸19で揺動開閉自在に支持され
た,水抜き口11を開閉する開閉体12を配置するとともに,開閉体12を開閉操
作する操作機構を設けるという構成を採用したこと(【0005】,【0007】,
【0012】,【図1】,【図2】),③②の構成により,水抜き口11を開放した状態
でバケットシェル6を操作すると,シェル内の濁水を水抜き口11から排出するこ
とができ,バケットシェル6が全閉ないしはその直前の状態になった時点で,開閉
体12が操作機構で閉じ操作されて水抜き口11を完全に閉止することができるの
で,バケット引揚げ時に内部の泥土が水抜き口11から外部に流出するのを阻止し
得ること(【0008】),④水抜き口11をシェル上壁13に開口する理由は,他
のシェル周壁に開口した場合と比べて,バケット引揚げ時にシェル内部の泥土が流
出しにくいこと及び泥土とシェル周壁との間に存在する濁水を水抜き口11から支
障なく排出することができ,水抜きをより確実に行い得ることであること(【00
09】)が認められる。これらの事実によれば,周知例1記載の浚渫用グラブバケ
ットは,シェルの上部が密閉されたグラブバケットにおいて,シェル内部の濁水を
排出する手段につき,従来技術の問題点を解決するものであることが明らかである。
イ周知例2(甲26)について
(ア)周知例2の実用新案登録の請求の範囲には,以下のとおり記載されている。
相対向するシエルの中心合わせ面にパッキンを設けると共に各シエルの側面開口
部をバケットの開閉運動に同期して開閉するカバーを備えたグラブバケットにおい
て,各シエル11の上部開口部22をふさぐ上部開口カバー13を設けた全密閉式
グラブバケット。
(イ)周知例2の考案の詳細な説明には,おおむね,以下のとおり記載されてい
る(下記記載中に引用する第4図については,別紙5参照)。
a必要な場合には,シェル1の上部開口部4を第2図及び第3図に示すように
滑車箱5の底面を利用してふさぐようにした全密閉式のグラブバケットも従来から
知られている。グラブバケットは,掴み物によつては必ずしも全密閉式にする必要
はないが,掴み物がヘドロのような流動物質等になると,侵入する水の抵抗によつ
て多くの掴み物が流出するので全密閉式にしなければならない。しかし,上部開口
部4を滑車箱5の底面を利用してふさぐようにしたものにおいては,バケットが大
型になるに従つて,一般的に滑車箱も大きくしなければならないので,バケットを
水中に投入した場合,滑車箱は大きな浮力抵抗を受けることになる。また,従来の
密閉型バケットのシェルは,上部開口部が開いているので剛性が得にくく,外力に
よる変形が生じやすい。このために,従来は,滑車箱を小さくして,シェル側面を
長くし,反対にシェルと下部滑車の連結ピン6のピン間距離を狭くしているが,こ
れによつて,開口部が小さくなり掴み量が低下する欠点があった。本考案は,前述
したような従来のものにおける欠点を除いた全密閉式グラブバケットを得ることを
目的とするものである(2頁2行目~3頁5行目)。
b第4図に示すように,相対向するシェル11,11の上部開口部12,12
に上部開口カバー13,13をシェル11,11の内幅いっぱいに固着するか,又
は,取り外し可能に装着する(3頁8行目~12行目)。
cこの考案においては,シェル上部開口12から水が浸入しないように開口1
2を上部開口カバー13によつてふさぐことにより,流体物質等の掴み物でも流出
を防止することができるので,掴み量の効率が良くなる。また,上部開口カバー1
3は,シェル11の補強にもなるとともに,シェルの形状が従来の匚型から箱型に
なるので剛性を増し,外力による変形が従来のものよりも著しく減少するばかりで
なく,シェルの形を広げてバケットの開口幅を大きくし,掴み量を増大させること
ができる(4頁13行目~5頁4行目)。
(ウ)前記(ア)及び(イ)によれば,周知例2記載のグラブバケットは,シェルが
掴んだヘドロ等の流動物質の流出を防ぐために,相対向するシェル11,11の上
部開口部12,12に上部開口カバー13,13をシェル11,11の内幅いっぱ
いに固着するか,又は,取り外し可能に装着することによって,上部開口部12,
12を上部開口カバー13,13でふさぎ,シェル11,11を密閉するものであ
ることが認められる。
ウ周知技術2の認定について
(ア)本件審決は,引用例3(甲4)に記載されたシェルカバー部材30,周知
例1(甲16)に記載されたシェル上壁13及び開閉体12並びに周知例2(甲2
6)に記載された上部開口カバー13,13は,それぞれシェルの上部を密閉する
ものであるから,シェルの上部に密接配置されたシェルカバーであることは明らか
であるとして,浚渫用グラブバケットにおいてシェルの上部にシェルカバーを密接
配置するという周知技術2を認定した。
(イ)しかし,まず,前記⑵のとおり,引用例3のシェルカバー部材30は,バ
ケットシェル21の上部に形成される上部開口部23に取り付けられた開閉手段で
あり,グラブバケット20が水中を移動するときには上部開口部23を閉じてバケ
ットシェル21内を密閉するが,グラブバケット20が水中を降下するときなどに
は,上部開口部23を開放するものである。
また,前記アのとおり,周知例1記載の浚渫用グラブバケットは,シェルの上部
が密閉されたグラブバケットにおいて,シェル内部の濁水を排出する手段につき,
従来技術の問題点を解決するものである。シェル上壁13は,シェルの上部を密閉
するものであるが,開閉体12は,バケットシェル6の内部に設けられたもので,
シェル内の濁水を排出する手段として水抜きをより確実に行い得るなどの利点から
シェル上壁13に設けられた水抜き口11を,操作機構によって,濁水排出時には
開放し,バケットシェル6が全閉ないしはその直前の状態になった時点で完全に閉
止するものである。
さらに,前記イのとおり,周知例2記載の浚渫用グラブバケットは,シェルが掴
んだヘドロ等の流動物質の流出を防ぐために,相対向するシェル11,11の上部
開口部12,12に上部開口カバー13,13をシェル11,11の内幅いっぱい
に固着するか,又は,取り外し可能に装着することによって,上部開口部12,1
2を上部開口カバー13,13でふさぎ,シェル11,11を密閉するものである。
このように,引用例3のシェルカバー部材30は,バケットシェル21に取り付
けられたものであり,それ自体が開閉する。周知例1のシェル上壁3は,シェルの
上部が密閉されたグラブバケットにおけるシェルの一部を成すものであり,それ自
体は開閉せず,開閉体12は,バケットシェル内部に設けられたもので,シェル上
壁13に設けられた水抜き口11を開閉するものである。周知例2の上部開口カバ
ー13,13は,シェルに装着されてシェル11,11の上部開口部12,12を
ふさぐものであり,それ自体が開閉することは開示されていない。
引用例3,周知例1及び2におけるこれらの各部材が,それぞれ構成及び機能等
の技術的意義を異にすることは,明らかというべきである。したがって,これらが
シェルの上部にシェルカバーを密接配置するという共通の構成を備えるとして同構
成を周知技術と認定することはできない。
(ウ)被告の主張について
被告は,周知例1に記載されたシェル上壁13及び開閉体12並びに周知例2に
記載された上部開口カバー13,13は,いずれもそれぞれシェルの上部を密閉す
るものであるから,これらをシェルの上部に密接配置されたシェルカバーと認定し
た本件審決の判断に誤りはない旨主張するが,前記(イ)のとおり,同主張を採用す
ることはできない。
⑷周知技術3の認定の誤りについて
ア引用例5(甲5)について
(ア)引用例5の特許請求の範囲には,以下のとおり記載されている。
【請求項1】クレーンからの吊りロープによって吊り下げられる機体に上端を軸止
された左右アームの下端部の支軸の回りに回動自在に右バケットと左バケットとを
設け,これらの左右バケットの開口面の内側端縁同士を枢軸で結合すると共に,そ
の枢軸を前記クレーンの開閉用ワイヤで昇降操作することによって,左右バケット
を開閉及び移動させて海底の土砂を浚渫する浚渫用クラムシェルバケットにおいて,
/前記左右バケットの前記開口面以外の部分を密閉構造とし,左右バケットの開口
面の合わせ部にシール用パッキンを取り付け,かつ左右バケットの前記支軸部近傍
に,空気抜き口とこの空気抜き口を開閉する空気抜き扉を設け,左右バケットが開
いているときは前記空気抜き扉が前記空気抜き口を開放する位置にあり,左右バケ
ットが閉じたときは前記空気抜き扉が前記空気抜き口を閉塞する位置にあるように
前記空気抜き扉を構成したことを特徴とする浚渫用クラムシェルバケット。
(イ)引用例5の発明の詳細な説明には,おおむね,以下のとおり記載されてい
る(下記記載中に引用する【図1】~【図4】については,別紙6参照)。
a発明の属する技術分野
本発明は,海底の土砂やヘドロなどをすくい上げて浚渫を行うクラムシェルバケ
ットに関するものである(【0001】)。
b従来の技術
クラムシェルバケットは,バケットの刃先部と左右バケットの底部で土砂を浚渫
して,土運船に取り上げるものである。従来のクラムシェルバケットにおいては,
【図5】に示すように左右のバケット4,5を全開した状態で海底まで落下させ,
開閉用ワイヤ11を操作して左右バケット4,5を閉じ,海底土砂をすくう。次い
で,吊りワイヤ10を操作して【図7】及び【図8】に示すように左右バケット4,
5を閉じたまま引き上げ,土運船上で左右バケット4,5を開いて土砂を積み込む
(【0002】~【0005】)。
c発明が解決しようとする課題
このような従来のグラブバケットにおける問題点は,左右のバケットで土砂を浚
渫して土運船に取り上げるとき,バケットの上部が開放しているので,そこから汚
泥や汚水がこぼれ,海洋汚染を引き起こすことである。そのような事態を防止する
ために,工事区域を囲むように海面及び海中に汚濁防止幕を張り合わせ,区域外に
汚泥や汚水が流出しないようにしているが,潮の干満や潮流により,万全とはいえ
ない。また,上記防止対策として,クラムシェルの左右バケットを完全水密式に改
造したものがあるものの,浚渫工事中,開いたままのグラブバケットを水中に沈め
ると,水密式の左右バケットに空気がたまった状態であることから,大きな浮力が
バケットに作用し,浚渫する目的地に到達しない,海底でバケットを閉じるときに
左右バケット内にたまった空気が汚泥を巻き上げて浮上するので,汚染が拡大する
などの問題点が多い(【0006】~【0008】)。
本発明が解決しようとする課題は,いったんバケットですくい上げた汚泥や汚水
を海中に落下させたりこぼすことがなく,また,バケットにたまった空気による浮
力や汚泥巻上げを解消することである(【0009】)。
d課題を解決するための手段
上記cの課題を解決するために,本発明は,特許請求の範囲請求項1記載の構成
を採用した(【0010】)。
e発明の実施の形態
【図1】は,バケットを閉じた状態の正面図,【図2】はその側面図,【図3】は
バケットを開いた状態の正面図,【図4】はその側面図である(【0013】)。
本実施例の特徴は,①クラムシェルの左右のバケット4,5を完全に箱形にして
一面(開口面)だけで接地させるようにしたこと及び②バケット4,5の左と右の
背中の面に大きな空気抜き口13と空気抜き扉14を設置したことである。①につ
いては,バケット4,5の上部の面にD型ゴム(シール用パッキン)12を設け,
バケット4,5の開閉により圧縮させて密閉するようにした。②については,本実
施例において,空気抜き扉14は,板状であり,上端を水平な軸によって回動自在
に構成されている(【0015】)。
【図3】に示すように,左右のバケット4,5を開いた状態で吊りワイヤ10を
操作して海中にバケット4,5を落下させると,バケット4,5の底部(落下中は
上部)に設けられている空気抜き扉14はほぼ垂直の位置にあって空気抜き口13
を開放しており,バケット4,5の底部の空気は海中を落下中に完全に抜かれる。
バケット4,5が海底に達すると,開閉用ワイヤ11を操作することによりバケッ
ト4,5の刃先が汚泥をすくい取り,バケット4,5が閉じると,D型ゴム12が
バケット4,5の口を完全にシールし,【図1】に示すように空気抜き扉14も空
気抜き口13を閉塞してバケット4,5は完全に密封状態となる(【0016】)。
f発明の効果
本発明によれば,左右バケットの開口面以外の部分を密閉構造とし,左右バケッ
トの開口面の合わせ部にシール用パッキンを取り付けたことにより,いったんバケ
ットですくい上げた汚泥や汚水を海中に落下させたりこぼしたりすることがなく,
海の汚濁化や生態系への悪影響等の環境汚染を引き起こすことがない(【001
9】)。
左右バケットの支軸部近傍に空気抜き口とそれを自動開閉する空気抜き扉を設け
たことにより,バケットにたまった空気による浮力によってバケットの落下地点が
狂ったり,バケットからあふれ出た空気が汚泥を巻き上げることによる汚濁化を解
消することができる(【0020】)。
これらの効果により,従来のように汚濁防止幕を張る必要がなくなり,工期短縮
及び労力節減を図ることができる(【0021】)。
(ウ)【図1】から【図4】において,左バケット4及び右バケット5は,それ
ぞれ左右アーム2,3の下端部の支軸6,7の回りに回動自在に設けられている
(【0004】)。また,左右の各バケットにその高さの半分よりも上に空気抜き孔
13及び空気抜き扉14が設けられている。
【図1】から【図4】において,バケット4,5に突起は見られない。
【図2】及び【図4】において,バケット5の底部は平らであり,湾曲,凹凸等は
見られない。また,バケット5の両端部は,アーム3の外方に張り出している。
なお,バケット4,5は,対称に構成された一対のものと解されるから,バケッ
ト4の底部及び両端部についても,バケット5と同様の態様を成すものということ
ができる。
(エ)前記(ア)から(ウ)によれば,引用例5には,①従来のグラブバケットには,
左右のバケットで土砂を浚渫して土運船に取り上げるとき,バケットの上部が開放
しているので,そこから汚泥や汚水がこぼれて海洋汚染を引き起こす,左右バケッ
トを完全水密式に改造したものは,浚渫工事中,開いたままのグラブバケットを水
中に沈めると,左右バケットに空気がたまった状態であることから,大きな浮力が
バケットに作用し,浚渫する目的地に到達しないなどの問題点があったこと(【0
0006】~【0008】),②これらの問題点に鑑み,いったんバケットですく
い上げた汚泥や汚水を海中に落下させたり,こぼすことがなく,また,バケットに
たまった空気による浮力等を解消することを課題とし,同課題を解決するための手
段として,左右バケットの開口面以外の部分を密閉構造とし,左右バケットの開口
面の合わせ部にシール用パッキンを取り付けること,左右バケットの支軸部近傍に
空気抜き口とそれを自動開閉する空気抜き扉を設けることを特徴とする構成を採用
したこと(【0009】,【0010】,【請求項1】),③②の密閉構造及びパ
ッキンの取付けにより,いったんバケットですくい上げた汚泥や汚水を海中に落下
させることがなく,環境汚染を引き起こすことがない,空気抜き口及び空気抜き扉
を設けたことにより,バケットにたまった空気による浮力によりバケットの落下地
点が狂うという事態が生じないなどの効果が得られること(【0019】,【00
20】)が記載されている。これらの記載によれば,引用例5に記載されている浚
渫用グラブバケットは,シェル上部が密閉されているものであることが明らかであ
る。
イ周知技術3の認定について
(ア)周知例1には,前記⑶アのとおり,バケットシェル6のシェル上壁13に
水抜き口11を開口し,水抜き口11を開閉する開閉体12及び開閉体12を開閉
操作する操作機構を設け,水抜き口11を開放した状態でバケットシェル6を操作
すると,シェル内の濁水を水抜き口11から排出することができ,バケットシェル
6が全閉ないしはその直前の状態になった時点で,開閉体12が操作機構で閉じ操
作されて水抜き口11を完全に閉止することができる旨が記載されている。同記載
によれば,水抜き口11は,バケットシェル内の空気を抜く役割も果たしているこ
とが明らかである。
引用例5には,前記アのとおり,左右アームの下端部の支軸の回りに回動自在に
設けられた左右の各バケット(シェルに相当する。)の上部に空気抜き口とこれを
開閉する空気抜き扉が設けられており,海中に左右の各バケットを落下させると,
空気抜き扉14はほぼ垂直の位置にあって空気抜き口13を開放しており,各バケ
ット底部の空気が完全に抜かれ,各バケットが海底に達して汚泥をすくい取った後
に閉じると,空気抜き扉14が空気抜き口13を閉塞する旨が記載されている。
(イ)以上によれば,周知例1及び引用例5から,浚渫用グラブバケットにおい
て,シェルの上部に空気抜き孔を形成すること(周知技術3)は,本件特許出願の
当時,当業者に周知されていたものと認められ,同旨の本件審決の判断に誤りはな
い。
ただし,①前記⑶アのとおり,周知例1記載の浚渫用グラブバケットは,シェル
の上部が密閉されたグラブバケットにおいて,シェル内部の濁水を排出する手段に
つき,従来技術の問題点を解決するものであり,②前記アのとおり,引用例5に記
載されている浚渫用グラブバケットも,シェル上部が密閉されているものであるこ
とが明らかであるから,周知技術3は,シェルの上部が密閉されていることを前提
として,そのような状態においてはシェル内部にたまった水や空気を排出する必要
があり,この課題を解決するための手段にほかならないというべきである。
ウなお,原告は,本件発明においては,シェルの上方の全面にわたって固定さ
れたシェルカバーの一部に空気抜き孔を形成するよう構成されていることを前提に,
引用例5及び周知例1等に上記構成は開示されていない旨を周知技術3の認定の誤
りとして主張するが,本件審決は,シェルの上部に空気抜き孔を形成することを周
知技術3として認定したにすぎず,上記構成を認定したものではないから,上記主
張は,周知技術3の認定の誤りに係る主張としては,失当である。
⑸相違点2の容易想到性の判断の誤りについて
ア相違点2について
本件発明と引用発明1との間には,本件審決が認定したとおり,本件発明におい
ては,「シェルの上部にシェルカバーを密接配置するとともに,前記シェルカバー
の一部に空気抜き孔を形成し,該空気抜き孔に,シェルを左右に広げたまま水中を
降下する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに,シェルが掴み物を所定容
量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き,グラブバケットの水中で
の移動時には,外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を取り付け」
るのに対して,引用発明1においては,そのように構成されているか否か不明であ
るという相違点(前記第2の3⑶ウ)が存在するものと認められ,この点は,当事
者間に争いがない。
イ相違点2の容易想到性について
(ア)本件審決は,浚渫用グラブバケットに関する発明である引用発明1におい
て,同じく浚渫用グラブバケットに関する周知技術2及び3並びに引用発明3を適
用して相違点2に係る本件発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し
得たことであると判断した。
(イ)相違点2は,シェルの構成に関するものである。しかし,引用例1(甲1)
には,専ら,バケットの吊上げ初期の揺れがほとんど発生せず,開閉ロープのロー
プ寿命も長くなる浚渫用グラブバケットの提供を課題として(【0005】),上部
シーブ,下部シーブ,バケット開閉用の開閉ロープ及びガイドシーブの構成や位置
によって上記課題を解決する発明が開示されており(【請求項1】~【請求項3】,
【0006】,【0016】),シェルに関しては,特許請求の範囲及び発明の詳細な
説明のいずれにも,「各シェル部1A,1Bは軸3で開閉自在に軸支され,下部フ
レーム2に取付けられている。」(【0008】)など,他の部材と共にグラブバケッ
トを構成していることが記載されているにとどまり,シェル自体の具体的構成につ
いての記載はない。引用例1においては,前記⑴ア(ア)のとおり,上記発明の一実
施形態に係る浚渫用グラブバケットの側面図【図1】及び正面図【図2】に加え,
従来のグラブバケットの側面図【図6】及び正面図【図7】において,シェルが図
示されているにすぎない。
したがって,引用例1には,シェルの構成に関する課題は明記されていない。
(ウ)もっとも,引用例3(甲4)の考案の詳細な説明中の考案が解決しようと
する問題点(前記⑵ア(イ)b),周知例1(甲16)の【0002】,【0003】
(前記⑶ア(イ)),周知例2(甲26)の考案の詳細な説明中,従来技術の欠点に
ついて述べたもの(前記⑶イ(イ)a)及び引用例5(甲5)の【0006】から
【0008】(前記⑷ア(イ)c)によれば,本件特許出願の当時,浚渫用グラブバ
ケットにおいて,シェルで掴んだ土砂や濁水等の流出を防止することは,自明の課
題であったということができる。したがって,当業者は,引用発明1について,上
記課題を認識したものと考えられる。
前記⑶ウのとおり,本件審決が周知技術2を認定したことは誤りであるが,当業
者は,引用発明1において,上記課題を解決する手段として,周知例2に開示され
た「シェルが掴んだヘドロ等の流動物質の流出を防ぐために,相対向するシェル1
1,11の上部開口部12,12に上部開口カバー13,13をシェル11,11
の内幅いっぱいに固着するか,又は,取り外し可能に装着することによって,上部
開口部12,12を上部開口カバー13,13でふさぎ,シェル11,11を密閉
する」構成を適用し,相違点2に係る本件発明の構成のうち,「シェルの上部にシ
ェルカバーを密接配置する」構成については容易に想到し得たものと認められる。
しかしながら,前記⑷のとおり,シェルの上部に空気抜き孔を形成するという周
知技術3は,シェルの上部が密閉されていることを前提として,そのような状態に
おいてはシェル内部にたまった水や空気を排出する必要があり,この課題を解決す
るための手段である。引用例1には,シェルの上部が密閉されていることは開示さ
れておらず,よって,当業者が引用発明1自体について上記課題を認識することは
考え難い。当業者は,前記のとおり引用発明1に周知例2に開示された構成を適用
して「シェルの上部にシェルカバーを密接配置する」という構成を想到し,同構成
について上記課題を認識し,周知技術3の適用を考えるものということができるが,
これはいわゆる「容易の容易」に当たるから,周知技術3の適用をもって相違点2
に係る本件発明の構成のうち,「前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成」す
る構成の容易想到性を認めることはできない。
(エ)また,前記⑵のとおり,引用例3には,海底から掻き取った海底土砂等を
バケットシェル内に保持することを可能にし,かつ,水の抵抗を最小限にして,荷
こぼれによる海水汚濁を防止し得るグラブバケットの提供を課題とし,同課題解決
手段として,シェルの上部開口部の開閉手段を設けた旨が記載されていることから,
当業者は,引用発明1において,シェルで掴んだ土砂や濁水等の流出を防止すると
いう自明の課題を解決する手段として,シェルを密閉するために,「浚渫用グラブ
バケットにおいて,シェルの上部開口部に,シェルを左右に広げたまま水中を降下
する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに,シェルが掴み物を所定容量以
上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き,グラブバケットの水中での移
動時には,外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を取り付けるとい
う技術」である引用発明3の適用を容易に想到し得たものということができる。
しかし,引用発明1に引用発明3を適用しても,シェルの上部に上記のように開
閉するゴム蓋を有する蓋体をシェルカバーとして取り付ける構成に至るにとどまり,
相違点2に係る本件発明の構成には至らない。
ウ被告の主張について
被告は,空気抜き孔をシェルカバーの一部に設けることは,引用例5及び周知例
1に開示された公知技術ないし周知技術である旨主張するが,前記イのとおり,同
技術は,シェルの上部が密閉されていることを前提として,そのような状態におい
てはシェル内部にたまった水や空気を排出する必要があり,この課題を解決するた
めの手段であり,引用例1には,シェルの上部が密閉されていることは開示されて
いないのであるから,よって,当業者が引用発明1自体について上記課題を認識す
ることは考え難く,上記技術を適用する動機付けを欠く。
エ小括
以上によれば,相違点2が容易に想到できるとした本件審決の判断には誤りがあ
る。
⑹相違点3の容易想到性の判断の誤りについて
ア相違点3について
本件発明と引用発明1との間には,本件審決が認定したとおり,本件発明におい
ては,「正面視におけるシェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離を100とし
た場合,側面視におけるシェルの幅内寸の距離を60以上とし」ているのに対して,
引用発明1においては,そのように構成されているか否か不明であるという相違点
(前記第2の3⑶エ)が存在するものと認められ,この点は,当事者間に争いがな
い。
イ引用例2について
引用例2(甲2)には,以下のとおり,開示されている(下記記載中に引用する
図面については,別紙7参照)。
(ア)引用例2の実用新案登録請求の範囲には,以下のとおり記載されている。
【請求項1】シェルの口幅を開幅よりも大きく形成したことを特徴とするグラブ
バケット。
(イ)引用例2の考案の詳細な説明には,おおむね,以下のとおり記載されてい
る。
a産業上の利用分野
本考案は,グラブバケットに関し,特に砂利,砂の荷揚げや荷降ろし等を行うグ
ラブバケットにおいて,開幅よりも口幅を広い形状とすることにより,安定性を高
め,容重比を小さくして操作性を高めたものである(【0001】)。
b従来の技術
運搬船等に積載された砂利や砂を陸揚げするために用いられるグラブバケットに
は,通例ラッチアーム型と称する形式のものが用いられる(【0002】,【000
3】,【図7】,【図8】)。
c考案が解決しようとする課題
従来のラッチアーム型のグラブバケットでは,容重比(重量/容量)は2.0が
限界であって,形状における制約から,これ以上軽量化を図ることはできない。
また,シェルの開幅Wよりも口幅Lが小さいとともに,高さHがそれらと比較し
て長いので,グラブバケットの安定性が低く,作業中に転倒することがあり,作業
能率が低下する(【0005】)。
そこで,本考案は,シェルの開幅Wよりも口幅Lを広い形状とすることにより,
安定性を高め,容重比を小さくして操作性を高めたグラブバケットを提供するもの
である(【0007】)。
d課題を解決するための手段
本考案は,前記cの課題を解決するために,請求項1記載の構成等のグラブバケ
ットを提供する(【0008】)。
e実施例
【図1】及び【図2】に示すとおり,左右一対でバケットを形成するシェル1,
1の開幅方向の両端部をそれぞれ下部枠2に主軸3,3で回転可能に軸支し,それ
らのロッドアーム4,4の一方の上端部を上部枠5に回動可能に軸着し,他方の上
端部を上部枠5に固着して連結している(【0010】)。
シェル1の口幅方向の長さLは,開幅方向の長さWと同等又はそれ以上の長さを
有し,寸法的には従来のものに比べて著しく口幅が大きいという特徴を有する。し
たがって,開幅に対して口幅が大きいので,安定性が高く,作業中に転倒すること
もないのみならず,掴み量が大きい(【0012】)。
f【図3】において,シェル1の両端部は,アーム4の外方に張り出している。
シェル1は,下部枠2とほぼ同じ長さであり,シェル1の両端部が下部枠2の外方
に張り出しているようには見えない。【図1】及び【図2】において,主軸3の軸
心方向の側方から見たものにおいても同様である。なお,主軸3は,下部枠2の両
端に取り付けられている。
【図8】において,シェル21の両端部は,アーム23の外方に張り出している。
シェル21の両端部は,軸25の外方に張り出しているものの,軸25とシェル2
1を軸支する軸の外方に張り出しているようには見えない。
ウ引用例2に開示されている構成について
(ア)本件発明の「正面視におけるシェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離」
につき,「正面視」は,シェルと下部フレームを軸支する軸の軸心方向から見たも
のを指す(【請求項1】)。引用発明2においては,主軸3がシェル1,1を下部枠
2に軸支するものであるから(【0010】),【図1】及び【図2】において,主軸
3の軸心方向から見たシェル1を軸支するアーム4の軸心間の距離が,「正面視に
おけるシェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離」に相当する。
また,本件発明の「側面視におけるシェルの幅内寸の距離」には,【図3】並び
に【図1】及び【図2】において,主軸3の軸心方向の側方から見たシェル1の幅
内寸の距離が相当する。
(イ)シェルは,主軸を回動軸として回転し,砂利や砂を掴んで取り込むのであ
るから,グラブバケットの開口の幅(開幅W)は,シェルとアームが回動可能に連
結される2つの軸間の距離よりも広いということができる(【図2】参照)。そして,
この軸間の距離は,アーム4の軸心間の距離に相当する。
そして,前記イのとおり,引用例2には,シェルの口幅Lを開幅W以上に大きく
形成する構成が開示されているから,シェルの口幅Lを,開幅Wより小さいアーム
4の軸心間の距離よりも大きくした構成が開示されているものということができる。
すなわち,アーム4の軸心間の距離を100とした場合,シェルの口幅Lが100
よりも大きくなる構成が開示されている。
主軸3の軸心方向の側方から見たシェル1の幅内寸の距離は,シェルの厚みの分,
シェルの口幅Lよりも小さくなることが明らかである。もっとも,前記イのとおり,
引用例2には,砂利,砂の荷揚げや荷下ろし等を行うグラブバケットに係る発明が
開示されており,その用途に鑑みると,前記のとおりアーム4の軸心間の距離を1
00とした場合,100よりも大きくなるシェルの口幅Lからシェルの厚みを差し
引いたシェル1の幅内寸の距離が60未満になるほど,シェルの厚みが大きくなる
とは考え難い。
以上によれば,引用例2には,「正面視におけるシェルを軸支するタイロッドの
軸心間の距離に相当するアーム4の軸心間の距離を100とした場合,側面視にお
けるシェルの幅内寸の距離を60以上とする構成」(引用発明2-2)が開示され
ているものと認められる。
エ相違点3の容易想到性について
引用発明1は,浚渫用グラブバケットであり,引用発明2-2は,砂利,砂の荷
揚げや荷下ろし等を行う荷役用グラブバケットに係るものであるが,いずれのグラ
ブバケットも対象物をすくい取って移動させるという用途において共通しており,
作業の効率化のために掴み量を大きくすることは,自明の課題ということができる。
そして,引用発明2-2の構成,すなわち,正面視におけるシェルを軸支するタ
イロッドの軸心間の距離に相当するアーム4の軸心間の距離を100とした場合,
側面視におけるシェルの幅内寸の距離を60以上とする構成は,シェルの口幅Lを
開幅W以上に大きく形成する構成によるものであるところ,引用例2には,同構成
によって,掴み量が大きくなる旨が明記されている(【0012】)。したがって,
引用発明2-2は,掴み量の増大という効果を奏するものということができる。
以上によれば,当業者は,本件特許出願の当時,引用発明1において,作業の効
率化のために掴み量を大きくするという自明の課題につき,前記のとおり対象物を
すくい取って移動させるという共通の用途を有する荷役用グラブバケットにおいて
掴み量の増大という効果を奏する引用発明2-2を適用し,相違点3に係る本件発
明の構成とすることを,容易に想到し得たものということができる。
オ前訴判決について
(ア)前記第2の4⑵ア(イ)aのとおり,確定した前訴判決において,第1次訂
正後の発明と引用発明1’との間には,第1次訂正後の発明においては,「シェル
を軸支するタイロッドの軸心間の距離を100とした場合,シェルの幅内寸の距離
を60以上とし」ているのに対して,引用発明1’においては,そのように構成さ
れているか否か不明であるという相違点3’が存在するが,相違点3’に係る構成
は,引用発明1’に引用例2に記載された発明を組み合わせることにより,当業者
が容易に想到し得たものであると判断された。
(イ)前記第2の1及び2のとおり,前訴判決後,本件訂正により発明の要旨が
変更されたことから,本件訂正後の本件発明を審理対象とする本件審決において,
確定した前訴判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)が及ぶものとはいい難い。
しかし,引用発明1’は,引用発明1と実質的に同一のものであり(前記⑴),
相違点3’も,相違点3と実質的に同一のものである。したがって,相違点3につ
いては,本件訂正の前後で実質的に変更はないのであるから,相違点3’について
の確定した前訴判決の判断は尊重されるべきであり,本件において原告が相違点3
の容易想到性を争うこと自体,訴訟上の信義則に反するものというべきである。
カ小括
以上によれば,相違点3が容易に想到できるとした本件審決の判断に誤りはない。
⑺引用発明2-1の認定の誤りについて
ア「側面視」は,本件発明と同様に,シェルと下部フレームを軸支する軸の軸
心方向の側方から見たものをいうと解され,それは,引用例2の【図3】及び【図
8】並びに【図1】及び【図2】において,主軸3の軸心方向の側方から見たもの
に相当する。
前記⑹イ(イ)fのとおり,上記いずれの図面においても,シェルの両端部が,タ
イロッドに相当するアームの外方に張り出しており,したがって,引用例2には,
「側面視においてシェルの両端部がタイロッドの外方に張り出す」という構成は開
示されている。
しかし,【図1】及び【図2】において,シェル1は,下部フレームに相当する
下部枠2とほぼ同じ長さであり,シェル1の両端部が下部枠2の外方に張り出して
いるようには見えない。また,【図1】及び【図2】の主軸3は,下部枠2とシェ
ル1を軸支する軸であるが,シェル1の開幅方向の両端部に位置しており(【00
10】),下部枠2の両端に取り付けられている。したがって,主軸3は,【図3】
には図示されていないものの,上記のとおりシェル1が下部枠2とほぼ同じ長さで
あることを併せ考えると,側面視において,シェル1の両端部が主軸3の外方に張
り出すものではないことは,明らかである。【図8】においても,シェル21の両
端部は,下部フレームに相当する軸25の外方に張り出しているものの,軸25と
シェル21を軸支する軸の外方に張り出しているようには見えない。
したがって,引用例2に,「側面視においてシェルの両端部が下部フレームの外
方に張り出し,更に,側面視においてシェルの両端部が下部フレームとシェルを軸
支する軸の外方に張り出してなる」という構成が開示されているということはでき
ない。
イ被告の主張について
被告は,【図7】には,シェルの両端部がシェルを軸支する軸よりも外側に張り
出している構成が開示されている旨主張する。
しかし,【図7】は,シェルと下部フレーム(軸25)を軸支する軸の軸心方向
から見たものであり,軸心方向の側方から見たものではないから,側面視ではなく,
正面視の図面である。したがって,【図7】に上記構成が開示されていることをも
って,側面視においてシェルの両端部が下部フレームとシェルを軸支する軸の外方
に張り出す構成が開示されているということはできない。
ウ小括
以上によれば,本件審決による引用発明2-1の認定は,誤りである。ただし,
同認定に係る引用発明2-1の構成は,相違点4の容易想到性に関わるものである
ところ,後記⑻のとおり,当業者は,引用発明1に引用発明4の構成を適用して相
違点4に係る本件発明の構成を容易に想到し得るのであるから,上記誤りは,本件
審決の結論に影響を及ぼすものではない。
⑻相違点4の容易想到性の判断について
ア相違点4について
本件発明と引用発明1との間には,本件審決が認定したとおり,本件発明におい
ては,「側面視においてシェルの両端部がタイロッドの外方に張り出すとともに,
側面視においてシェルの両端部が下部フレームの外方に張り出し,更に,側面視に
おいてシェルの両端部が下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出してな
り」であるのに対して,引用発明1においては,側面視においてシェル部1A,1
Bの両端部が下部フレーム2の外方に張り出しているものの,「側面視においてシ
ェル部1A,1Bの両端部が連結杆4A,4B(本件発明における「タイロッド」
に相当する。)の外方に張り出すとともに,更に,側面視においてシェル部1A,
1Bの両端部が下部フレーム2とシェル部1A,1Bを軸支する軸の外方に張り出
している」か否か不明であるという相違点(前記第2の3⑶オ)が存在するものと
認められ,この点は,当事者間に争いがない。
イ引用発明4について
(ア)引用例4(甲52)には,以下のとおりの記載がある(記載中に引用する
図面については,別紙8参照)。
a本船は関西国際空港II期工事に使用する砂撒船としてグラブ船を改造した
ものである。」(10頁右欄下から8行目~7行目)
b揚砂用グラブ(20m3
)はホッパーに均等に供給することを容易にするた
め従来型より幅広くし,作業効率の向上を図っている(図-2)。(11頁右欄2行
目~4行目)
c図-2において,本件発明における側面視,すなわち,シェルと下部フレー
ムを軸支する軸を軸心方向の側方から見たものは,右側の図面に該当し,同図にお
いては,側面視においてシェルの両端部がタイロッドの外方に張り出しており,シ
ェルの両端部が下部フレームの外方及び下部フレームとシェルを軸支する軸の外方
に張り出している。
(イ)前記(ア)によれば,引用例4には,「側面視においてシェルの両端部がタ
イロッドの外方に張り出すとともに,側面視においてシェルの両端部が下部フレー
ムの外方に張り出し,更に,側面視においてシェルの両端部が下部フレームとシェ
ルを軸支する軸の外方に張り出してなる構成」(引用発明4)が開示されているも
のと認められる。
ウ相違点4の容易想到性について
対象物をすくい取って移動させる用途を備えたグラブバケットにおいては,掴み
物の切取面積を大きくして掴み量を増大させることは,自明の課題ということがで
きる。
そして,引用発明4も,上記用途を備えたグラブバケットであり,前記イの構成
においては,掴み物をすくい取るために対象物に食い込むシェルの部分が長くなる
のであるから,上記構成が掴み物の切取面積を大きくして掴み量を増大させること
も,自明ということができる。
以上によれば,当業者は,本件特許出願の当時において,引用発明1につき,上
記自明の課題を解決する手段として,同じく対象物をすくい取って移動させる用途
を備えたグラブバケットに係る引用発明4を適用し,相違点4に係る本件発明の構
成を容易に想到することができたというべきである。
エ原告の主張について
原告は,引用発明1に引用発明4を適用することについては,①引用発明4は,
荷重による変形を抑える目的でシェルの両端部を下部フレーム等の強度部材によっ
て支持するという引用発明1に係る構成を採用しておらず,引用発明1に引用発明
4を適用することは,構造的に不可能である,②引用発明4は,上記の引用発明1
に係る構成を採用していないので荷役用グラブバケットとしても強度補強措置が不
十分なものとなっており,引用発明1に引用発明4を適用すると,浚渫用グラブバ
ケットに求められる荷役用グラブバケットよりも高い強度を確保することができな
くなるという阻害事由が存在する旨主張する。
確かに,引用発明4は,前記イのとおり,側面視においてシェルの両端部が下部
フレームの外方に張り出していることから,シェルの両端部が直接下部フレームに
接触している状況にはない。
しかし,グラブバケットにおいて,荷重による変形を抑える手段は,シェルの両
端部を下部フレーム等の強度部材によって支持する構成に限られるものではなく,
よって,同構成を採用していないからといって,直ちに荷重に耐える強度が不足す
るということはできない。よって,引用発明1に引用発明4を適用した結果,上記
構成を備えなくなるとしても,それのみによって,荷重に耐える強度が不足するこ
とになるとまではいうことができない。ほかに,上記適用を阻害する要因も認める
に足りない。
オ前訴判決について
(ア)前記第2の4⑵ア(イ)bのとおり,確定した前訴判決において,第1次訂
正後の発明と引用発明1’との間には,第1次訂正後の発明においては,「側面視
においてシェルの両端部がタイロッド及び下部フレーム並びに下部フレームとシェ
ルを軸支する軸の外方に張り出している」のに対して,引用発明1’においては,
側面視においてシェル部A,Bの両端部が下部フレームの外方に張り出しているも
のの,「側面視においてシェル部A,Bの両端部が連結杆A,B(第1次訂正後の
発明における「タイロッド」に相当する。)並びに下部フレームとシェル部A,B
を軸支する軸の外方に張り出している」か否か不明であるという相違点4’が存在
するが,相違点4’に係る構成は,引用発明1’に引用例2に記載された発明を組
み合わせることにより,当業者が容易に想到し得たものであると判断された。
(イ)前記⑹オのとおり,本件審決において,確定した前訴判決の拘束力が及ぶ
ものとはいい難い。
しかし,引用発明1’は,引用発明1と実質的に同一のものであり(前記⑴),
相違点4’も,相違点4と実質的に同一のものである。したがって,相違点4につ
いては,本件訂正の前後で実質的に変更はないのであるから,相違点4’について
の確定した前訴判決の判断は尊重されるべきであり,本件において原告が相違点4
の容易想到性を争うこと自体,訴訟上の信義則に反するものというべきである。
カ小括
以上によれば,相違点4が容易に想到できるとした本件審決の判断に誤りはない。
⑼小括
以上によれば,引用発明1に基づいて容易に想到できるとした本件審決は誤りで
あり,原告主張の取消事由1は,理由がある。
3取消事由2(引用発明5を主引用例とする容易想到性の判断の誤り)につい

事案の性質に鑑み,引用発明5及び3の認定の誤り,周知技術2及び3の認定の
誤り,相違点8及び9の容易想到性の判断の誤り,引用発明2-1の認定の誤り,
相違点10の容易想到性の判断の誤りの順に検討する。
⑴引用発明5の認定の誤りについて
ア前記2⑷アによれば,引用例5には,本件審決が認定したとおりの引用発明
5(前記第2の3⑵ケ)が記載されていることが認められる。
イ原告の主張について
(ア)原告は,引用例5には,シェル部につき,「平底」及び「爪を具備しない」
との構成についての明示的な記載も示唆も存在せず,上記構成が開示されていると
いうことはできないとして,本件審決は,引用発明5につき,「左右バケット4,
5を爪無しの平底構成」と認定した点において誤りがある旨主張する。
この点に関し,前記2⑴イのとおり,シェルの爪無し及び平底の構成とは,本件
明細書の【図2】の下底に相当するシェルの底部が平らであり,引用例3の【第1
図】及び周知例1の【図2】に示されたグラブバケットのようにシェルの底部の端
に突起が設けられたものではなく,また,引用例3の【第2図】に示されたグラブ
バケットのようにシェルの底部が湾曲したものでもないことを意味するものと解さ
れる。
前記2⑷ア(ウ)のとおり,引用例5の【図1】から【図4】において,シェルに
相当するバケット4,5に突起は見られず,また,【図2】及び【図4】において,
バケット5の底部は平らであり,湾曲,凹凸等は見られない。この点は,バケット
5と一対のものとして対称に構成されたバケット4についても同様である。よって,
引用例5には,シェル部を平底とし,かつ,爪の無い構成とすることが開示されて
いるということができる。
(イ)原告は,引用例5の【図2】及び【図4】からは,左右バケット4,5の
両端部が左右アーム2,3の外方に張り出しているか否かは不明である旨主張する。
しかし,前記2⑷ア(ウ)のとおり,引用例5の【図2】及び【図4】自体から,
バケット5の両端部がアーム3の外方に張り出していることは明らかである。この
点は,下部フレームの方がシェルの両端部の外方に張り出している本件明細書の
【図8】との比較からも,明らかということができる。
⑵引用発明3の認定の誤りについて
前記2⑵のとおり,引用例3には,本件審決が認定したとおりの引用発明3が記
載されているものと認められる。
⑶周知技術2の認定の誤りについて
前記2⑶のとおり,本件審決による周知技術2の認定は,誤りである。
⑷周知技術3の認定の誤りについて
前記2⑷のとおり,本件審決による周知技術3の認定に誤りはない。
⑸相違点8の容易想到性の判断の誤りについて
ア相違点8について
本件発明と引用発明5との間には,本件審決が認定したとおり,シェルの上部の
面を構成する部材の配置に関し,本件発明においては,「シェルの上部にシェルカ
バーを密接配置するとともに,前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成し,
該空気抜き孔に,シェルを左右に広げたまま水中を降下する際には上方に開いて水
が上方に抜けるとともに,シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の
上昇に伴って上方に開き,グラブバケットの水中での移動時には,外圧によって閉
じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を取り付け」るのに対し,引用発明5におい
ては,「バケット4,5の上部にバケット4,5の上部の面を構成するとともに,
バケット4,5を箱型に構成する部材を配置する」という相違点(前記第2の3⑷
イ)が存在するものと認められ,この点は,当事者間に争いがない。
イ相違点8の容易想到性について
(ア)本件審決は,浚渫用グラブバケットに関する発明である引用発明5におい
て,同じく浚渫用グラブバケットに関する周知技術2及び3並びに引用発明3を適
用して相違点8に係る本件発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し
得たことであると判断した。
(イ)前記2⑷アのとおり,引用発明5に関し,引用例5には,シェル上部が密
閉されている浚渫用グラブバケットが開示されている。したがって,引用発明5に
おいて,「浚渫用グラブバケットにおいて,シェルの上部開口部に,シェルを左右
に広げたまま水中を降下する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに,シェ
ルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き,グラ
ブバケットの水中での移動時には,外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有す
る蓋体を取り付けるという技術」に係る引用発明3を適用すれば,相違点8に係る
本件発明の構成に至るものということができる。
(ウ)前記2⑷アによれば,引用例5には,①バケット(シェル)が掴んだ土砂
等の流出防止及びバケット内にたまった空気の排出を課題とし,②同課題を解決す
るための手段として,左右バケットの開口面以外の部分を密閉構造とし,左右バケ
ットの開口面の合わせ部にシール用パッキンを取り付けること,左右バケットの支
軸部近傍に空気抜き口とそれを自動開閉する空気抜き扉を設けることを特徴とする
構成を採用し,③同構成により,上記課題を解決することができる旨が記載されて
いる。
他方,前記2⑵アによれば,引用例3には,①海底から掻き取った海底土砂等を
バケットシェル内に保持することを可能にし,かつ,水の抵抗を最小限にして,荷
こぼれによる海水汚濁を防止し得るグラブバケットの提供を課題とし,②同課題を
解決するための手段として,バケットシェルの上部に開口部を有するグラブバケッ
トにおいて,バケットシェルに,これを上方に吊り上げるときに上部開口部を閉じ
るための開閉手段を設ける構成を採用し,③同構成により,上記課題を解決するこ
とができる旨が記載されている。
このように,引用例5及び3は,いずれもシェルが掴んだ土砂等の流出防止を課
題の1つとしている。
しかし,前記のとおり,引用例5には,上記流出防止及びバケット内にたまった
空気の排出という課題を,左右バケットの開口面以外の部分を密閉構造とし,空気
気抜き口及び空気抜き扉を設けるなどの前記構成により解決することができる旨記
載されており,同構成自体に課題があることは,記載されていない。引用発明3の
構成が,引用例5に記載された構成に比して,共通する課題である上記流出防止に
ついてより優れた効果を奏するものとも認められない。また,引用例5のもう1つ
の課題であるバケット内にたまった空気の排出という課題は,引用発明3の構成に
よっても解決し得るものであるが,引用例5に記載された構成に比して,より優れ
た効果を奏するものとも認められない。
また,引用例3には,水の抵抗を最小限にすることを課題とする旨が記載されて
いる。加えて,前記2⑵のとおり,引用例3には,シェルが掴み物を所定容量以上
に掴んだ場合のことについての記載はないものの,シェルカバー部材30は,その
構造にも鑑みれば,上記の場合においてバケットシェル21の内圧の上昇を受けて
上方に開くものということができる。
しかし,引用例5において,水の抵抗やシェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ
場合に関する記載はなく,本件証拠上,それらがグラブバケットの自明の課題であ
るとも認めるに足りない。
以上によれば,当業者において,引用発明5に引用発明3を適用する動機付けが
存在することは,認めるに足りないというべきである。
(エ)前記2⑶ウのとおり,本件審決が引用例3,周知例1及び2から周知技術
2を認定したのは誤りであるところ,周知例1記載の浚渫用グラブバケットは,シ
ェルの上部が密閉されたグラブバケットにおいて,シェル内部の濁水を排出する手
段につき,従来技術の問題点を解決するものであるが(前記2⑶ア),同グラブバ
ケットの構造上,シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合に,水抜き口11を
開閉する開閉体12が上方に開くことは考え難く,したがって,引用発明5に周知
例1の構成を適用しても,相違点8に係る本件発明の構成に至らない。また,周知
例2には,空気抜き孔が開示されておらず(前記2⑶イ),引用発明5に周知例2
の構成を適用しても,相違点8に係る本件発明の構成に至らない。
前記2⑷のとおり,周知技術3は,周知例1及び引用例5から認定したものであ
り,引用発明5に周知例1の構成を適用しても相違点8に係る本件発明の構成に至
らないのは,上記のとおりである。
ウ小括
以上によれば,相違点8が容易に想到できるとした本件審決の判断には誤りがあ
る。
⑹相違点9の容易想到性の判断の誤りについて
ア相違点9について
本件発明と引用発明5との間には,本件審決が認定したとおり,本件発明におい
ては,「正面視におけるシェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離を100とし
た場合,側面視におけるシェルの幅内寸の距離を60以上とし」ているのに対して,
引用発明5においては,そのように構成されているか否か不明であるという相違点
(前記第2の3⑷ウ)が存在するものと認められ,この点は,当事者間に争いがな
い。
イ相違点9の容易想到性について
前記2⑹イからエと同様の理由により,当業者は,本件特許出願の当時,引用発
明5に引用発明2-2を適用し,相違点9に係る本件発明の構成とすることを,容
易に想到し得たものということができる。
ウ前訴判決について
前記第2の4⑵イ(イ)のとおり,確定した前訴判決において,第1次訂正後の発
明と引用発明5’との間には,第1次訂正後の発明においては,「シェルを軸支す
るタイロッドの軸心間の距離を100とした場合,シェルの幅内寸の距離を60以
上とし」ているのに対して,引用発明5’においては,そのように構成されている
か否か不明であるという相違点9’が存在するが,相違点9’に係る構成は,引用
発明5’に引用例2に記載された発明を組み合わせることにより,当業者が容易に
想到し得たものであると判断された。
前記2⑹オのとおり,本件審決において,確定した前訴判決の拘束力が及ぶもの
とはいい難いが,引用発明5’は,引用発明5と実質的に同一のものであり(前記
⑴),相違点9’も,相違点9と同一のものである。したがって,相違点9につい
ては,本件訂正の前後で実質的に変更はないのであるから,相違点9’についての
確定した前訴判決の判断は尊重されるべきであり,本件において原告が相違点9の
容易想到性を争うこと自体,訴訟上の信義則に反するものというべきである。
エ小括
以上によれば,相違点9が容易に想到できるとした本件審決の判断に誤りはない。
⑺引用発明2-1の認定の誤りについて
前記2⑺のとおり,本件審決による引用発明2-1の認定は,誤りである。ただ
し,同認定に係る引用発明2-1の構成は,相違点10の容易想到性に関わるもの
であるところ,後記⑻のとおり,当業者は,引用発明5に引用発明4の構成を適用
して相違点10に係る本件発明の構成を容易に想到し得るのであるから,上記誤り
は,本件審決の結論に影響を及ぼすものではない。
⑻相違点10の容易想到性の判断の誤りについて
ア相違点10について
本件発明と引用発明5との間には,本件審決が認定したとおり,本件発明におい
ては,「側面視においてシェルの両端部がタイロッドの外方に張り出すとともに,
側面視においてシェルの両端部が下部フレームの外方に張り出し,更に,側面視に
おいてシェルの両端部が下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出してな
り」であるのに対し,引用発明5においては,側面視において左右バケット4,5
の両端部が左右アーム2,3(本件発明における「タイロッド」に相当する。)の
外方に張り出しているものの,側面視において左右バケット4,5の両端部が滑車
機構9(本件発明における「下部フレーム」に相当する。)の外方に張り出してい
るとともに,さらに側面視において左右バケット4,5の両端部が滑車機構9と左
右バケット4,5を軸支する軸の外方に張り出しているか否か不明であるという相
違点(前記第2の3⑷エ)が存在するものと認められ,この点は,当事者間に争い
がない。
イ相違点10の容易想到性について
前記2⑻イ及びウと同様の理由により,当業者は,本件特許出願の当時において,
引用発明5に引用発明4を適用し,相違点10に係る本件発明の構成を容易に想到
することができたというべきである。
ウ前訴判決について
前記第2の4⑵イ(イ)のとおり,確定した前訴判決において,第1次訂正後の発
明と引用発明5’との間には,第1次訂正後の発明においては,「側面視において
シェルの両端部がタイロッド及び下部フレーム並びに下部フレームとシェルを軸支
する軸の外方に張り出している」のに対して,引用発明5’においては,側面視に
おいて左右バケットA,Bの両端部が左右アームA,B(第1次訂正後の発明にお
ける「タイロッド」に相当する。)の外方に張り出しているものの,側面視におい
て左右バケットA,Bの両端部が滑車機構(第1次訂正後の発明における「下部フ
レーム」に相当する。)並びに滑車機構と左右バケットA,Bを軸支する軸の外方
に張り出している」か否か不明であるという相違点10’が存在するが,相違点1
0’に係る構成は,引用発明5’に引用例2に記載された発明を組み合わせること
により,当業者が容易に想到し得たものであると判断された。
前記2⑹オのとおり,本件審決において,確定した前訴判決の拘束力が及ぶもの
とはいい難いが,引用発明5’は,引用発明5と実質的に同一のものであり,相違
点10’も,相違点10と実質的に同一のものである。したがって,相違点10に
ついては,本件訂正の前後で実質的に変更はないのであるから,相違点10’につ
いての確定した前訴判決の判断は尊重されるべきであり,本件において原告が相違
点10の容易想到性を争うこと自体,訴訟上の信義則に反するものというべきであ
る。
エ小括
以上によれば,相違点10が容易に想到できるとした本件審決の判断に誤りはな
い。
⑼以上によれば,引用発明5に基づいて容易に想到できるとした本件審決は誤
りであり,原告主張の取消事由2は,理由がある。
4結論
以上によれば,本件審決の容易想到性に関する判断には誤りがあり,原告主張の
取消事由は理由があるから,本件審決は取消しを免れない。
よって,原告の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官髙部眞規子
裁判官古河謙一
裁判官鈴木わかな
別紙1本件明細書(甲37)掲載の図面
【図1】本発明に係る平底幅広浚渫用グラブバケットの正面図
【図2】【図1】の側面図
【図3】密閉式シェルカバーのみ取り出して示す斜視概要図
【図1】【図2】
【図3】
【図7】従来のグラブバケットを示す正面図
【図8】【図7】の側面図
【図7】【図8】
別紙2引用例1(甲1)掲載の図面
【図1】引用例1記載の発明の一実施形態に係る浚渫用グラブバケットの側面図
【図2】上記発明の一実施形態に係る浚渫用グラブバケットの正面図
【図1】【図2】
別紙3引用例3(甲4)掲載の図面
第1図引用例3記載の考案に係るグラブバケットを示す正面図
第3図,第4図グラブバケットの巻上げ状態を示す図
第5図グラブバケットの巻下げ状態を示す図
第6図,第7図従来のグラブバケットの巻上げ状態を示す図
第3図第4図第5図
第6図第7図
別紙4周知例1(甲16)掲載の図面
【図1】グラブバケットの縦断正面図
【図2】グラブバケットの一部を破断した正面図
【図6】従来のグラブバケットの縦断正面図
【図2】
【図6】
別紙5周知例2(甲26)掲載の図面
第4図
周知例2記載の考案に係る全密閉式グラブバケットの1実施例を左半分は全閉
状態で,右半分は全開状態で示した一部切断正面図
別紙6引用例5(甲5)掲載の図面
【図1】引用例5に記載された発明の実施例におけるバケットを閉じた状態の正
面図
【図2】上記実施例におけるバケットを閉じた状態の側面図
【図3】上記実施例におけるバケットを開いた状態の正面図
【図4】上記実施例におけるバケットを開いた状態の側面図
【図1】【図2】
【図3】【図4】
別紙7引用例2(甲2)掲載の図面
【図1】引用例2記載の考案に係るグラブバケットの一実施例を示す斜視図
【図2】【図1】のシェルを開いた状態を示す斜視図
【図3】【図1】の正面図
【図1】【図2】
【図3】
1:シェル
2:下部枠
3:主軸
4:アーム
5:上部枠
7:上部滑車
8:下部滑車
L:口幅
W:開幅
【図7】従来例の正面図
【図8】図7の側面図
【図7】【図8】
別紙8引用例4(甲52)掲載の図面

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛