弁護士法人ITJ法律事務所

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○ 主文
一、被告が昭和四七年七月一四日付をもつてなした原告の被爆者健康手帳交付申請
を却下する旨の処分を取消す。
二、訴訟費用は、被告の負担とする。
○ 事実
第一、当事者の求める裁判
一、原告
主文同旨の判決。
二、被告
1、原告の請求を棄却する。
2、訴訟費用は、原告の負担とする。
との判決。
第二、当事者の主張
一、原告の請求原因
1、原告は、昭和四五年一二月原爆症治療の目的で韓国より日本に赴き、不法入国
したところを逮捕され、身柄拘束のまま昭和四六年一月三〇日佐賀地方裁判所唐津
支部において出入国管理令違反により徴役一〇月の判決を受け、それを不服として
福岡高等裁判所に控訴したが同年六月七日控訴棄却の判決を受け、右判決の確定後
福岡刑務所で服役していたところ、同年八月一二日結核の病状が悪化したため右刑
の執行を停止され、同日結核予防法に基づく命令入所の措置を受けて国立福岡東病
院に入院し、昭和四八年一月二六日原告の希望により広島日赤病院に転院したが、
同年五月二日同病院を退院したので、同年八月二四日広島刑務所において残刑の執
行を受け終り、現在大村入国者収容所に収容されている者である。
2、原告は、広島市に原子爆弾が投下された昭和二〇年八月六日午前八時一五分ご
ろ、広島市<以下略>の広島専売局敷地内にあつた広島電信電話局倉庫内にいた。
3、原告は、昭和四六年一〇月五日、広島市<以下略>に住むAおよび同<以下略
>に住むB両名の各作成した被爆状況証明書ならびに原告本人作成の「被爆状況申
立書」と題する書面を添付して、福岡県粕屋保健所を通じて被告に対し、被爆者健
康手帳の交付を申請した。
4、ところが、被告は、昭和四七年七月一四日付で原告の右申請を却下する旨の処
分(以下、単に本件却下処分という。)をなし、右処分は同日書面で原告に通知さ
れたが、右書面には、その却下の理由として、「原子爆弾被爆者の医療等に関する
法律の趣旨は、法定の措置を行なうことにより地域社会の福祉の向上を図ることに
あり、同法の適用を受ける者は、地域社会との結合関係(居住関係)があることが
要件とされているのであるが、原告の日本国内在留の事実は、同法が予定している
居住関係ではなく、したがつて原告には、同法の適用がない。」旨の記載がある。
5、しかし、被告のなした本件却下処分は、つぎの理由により違法であるから、取
消されるべきである。
すなわち、原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(以下単に「原爆医療法」と略称
する。)の立法趣旨は、広島市および長崎市に投下された原子爆弾の被爆者が今な
お置かれている健康上の特別の状態に着目し、被爆の事実さえあれば、国の責任に
おいて何人に対してもその保護を与えるというものであり、同法には、その適用の
範囲について、国籍や居住関係の有無等によつて、なんら制限する旨の規定は存し
ない。
したがつて、被告のなした本件却下処分は、原爆医療法の明文の規定やその立法趣
旨に反するばかりでなく、憲法一四条にも反する違法なものであつて、取消を免れ
ない。
二、被告の答弁と主張
1、請求原因に対する答弁
(一) 請求原因1の事実中原告の来日の目的は争うが、その余の事実はすべて認
める。
(二) 同2の事実は知らない。
(三) 同3、4の事実は認める。
(四) 同5は争う。
2、被告の主張
(一) 原爆医療法は、広島市および長崎市に投下された原子爆弾の被爆者に対
し、国が健康診断および医療を行うことにより原子爆弾の被爆者の健康の保持およ
び向上をはかることを目的とするものであつて、原子爆弾被爆者に対する特別措置
に関する法律(以下、単に「原爆特別措置法」と略称する。)と相まつて原子爆弾
の被爆者の福祉の積極的向上をはかるところのいわゆる社会保障法である。
(二) ところで、原爆医療法および原爆特別措置法が外国人に対しても適用され
るか否かの問題については、右二法には外国人に対する適用を排除する旨の規定は
存しないから、右二法は日本人のみならず外国人についても適用されると解するの
が相当であり、被告においてもこれまでに日本国内に居住関係を有する四九名の外
国人について原爆医療法を適用して、被爆者健康手帳を交付している。
(三) しかし、前記のとおり、原爆医療法および原爆特別措置法は、いわゆる社
会保障法であるところ、本来社会保障制度はその社会の構成員の福祉の増進をはか
ることを目的とするものであるから、外国人が右二法の適用を受けるためには、当
該外国人が日本国内に現在するというだけでは足りず、少なくとも適法に在留する
者で、かつ、日本社会の構成員として社会生活を営んでいること、換言すれば日本
国内に居住関係を有することが必要である。したがつて、一時的旅行者のように日
本国内に居住関係を有しない外国人については、前記二法は適用されないと解すべ
きである。
そのことは、原爆医療法四条所定の健康診断が毎年行うものとされていること、同
法三条所定の被爆者健康手帳が三年ごとに更新するものとされていること(同法施
行規則五条の二第一項)等同法および原爆特別措置法が被爆者に対して行うことを
予定している施策は、いずれも長期的なものである点からもうかがえるところであ
る。
(四) ところで、原告は、前記のとおり、わが国に不法入国直後逮捕され、その
後は、不法入国に伴う刑の執行を受けるために日本国内に滞在していたにすぎない
のであつて、その期間が長期におよんだのも刑の執行中における結核の発病という
偶発的事由によるものであつて、原告が日本国内に居住関係を有しない点において
は前記の一時的旅行者の場合と少しも異なるところはない。
なお、原告は、右結核の療養期間中に生活保護の措置を受けて生活扶助や医療扶助
を受けた事実があるけれども、これは特別の行政措置によるものであつて、生活保
護法の適用によるものではない。
すなわち、生活保護法は日本国民に対してのみ適用される(同法一条)のであるか
ら、「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置」は外国人に対し、生活保護
法に準じた取扱いをしていることとなるものであるが、そもそも生活保護はいわゆ
る最低限の生活を維持させるためのものであつて、例えばまさに飢えようとしてい
る外国人に対してこれを放置することは人道上許されないところから、当該外国人
が日本国内に居住関係を有すると否とにかかわらず、当該外国人に対しても最低限
の生活を維持できるように措置しているのである。かかる理由から、日本国内に居
住関係を有しない原告に対しても右の措置が講じられたのであるが、原爆医療法や
原爆特別措置法は、原子爆弾の被爆者の最低限の生活保障というよりは、より積極
的な社会保障を目的としているものであるから、右二法が外国人に適用されるため
には、当該外国人が日本国内に居住関係を有することが必要である。
また、原告は、結核予防法に基づく命令入所の措置を受けて入院したけれども、同
法は、結核が伝染性の疾患であるところから、いわゆる社会防衛的な目的をも有し
ており、そのため同法を外国人に適用するについて当該外国人が日本国内に居住関
係を有する必要はないのである。このように、いわゆる社会保障法といわれる法律
であつても、当該法律の趣旨や立法目的によつて例外的に外国人に対する適用の要
件として当該外国人が日本国内に居住関係を有することを必要としない場合がある
けれども、いわゆる社会保障法が本来的に外国人をも適用の対象としている場合
は、原則として、当該外国人が日本国内に居住関係を有することを要すると解すべ
きである。
したがつて、原告について、原爆医療法の適用がないとしてなされた本件却下処分
は適法である。
三、被国の主張に対する原告の反論
1、被告は、外国人が原爆医療法の適用を受けるためには、当該外国人が日本国内
に適法に在留し、かつ、日本社会の構成員として社会生活を営んでいることが必要
である旨主張する。
しかし、同法には、そのような要件を規定した明文上の根拠もなく、また同法の立
法趣旨や全体の構造に照らしても被告の右主張は失当である。
同法には、外国人に対する適用について、日本人と差別を設けた規定は皆無である
から、同法は外国人に対しても日本人と同様の権利を保障したものというべきであ
り、したがつて、外国人に対してのみ特別の要件を求めるのは、原爆医療法の立法
趣旨に反するものである。
2、つぎに、被告は、原爆医療法が、いわゆる社会保障法であることを前提とし
て、原告への適用がないことを主張している。
しかし、同法は、その一条に規定するように広島市及び長崎市に投下された原子爆
弾の被爆者に対し、国が健康診断及び医療を行うことにより被爆者の健康の保持及
び向上をはかることを目的とするものであつて、同法は、むしろ国家賠償または国
家補償の性質を有するものであるから、同法の適用の要件として「適法な在留関
係」とか「日本社会の構成員」等の要件を要求することは失当である。
仮りに、原爆医療法がいわゆる社会保障法の一つであるとしても、そのことが直ち
に原告に対し同法を適用するうえで妨げになるものとは解されない。
なぜならば原告は、国立福岡東病院・広島日赤病院に入院中、生活保護法の適用を
受け、生活扶助、医療扶助の支給を受けてきた。生活保護法はいわゆる社会保障法
の重要な一環であるから、同法の適用の事実によつても、「一時滞在者には社会保
障法の適用はない。」との被告の主張が誤つていることは明らかである。
3、さらに、被告は、原爆医療法に基づく被爆者に対する種々の施策がいずれも長
期的なものであることを理由に、外国人に対する同法の適用の要件として、当該外
国人が日本国内に居住関係を有することが必要であると主張する。しかし、原子爆
弾の傷害作用に起因して負傷し、又は疾病にかかつた者が短期間の治療によつてそ
の治療効果をあげることも可能であり、また、仮りに、わが国に入国した時点で正
規の在留資格を持たない場合であつても、出入国管理令五〇条により法務大臣の在
留許可を受けてわが国に滞在することもあり、退去強制令書が発付された後におい
ても出入国管理令五四条に定める仮放免の許可をうけ、その更新をくり返すことに
よつて長期にわたつて滞在することが可能になる場合もあり得るのであるから、か
かる場合においては、原爆医療法に基づく長期にわたる診断・検査・治療等を受け
ることが十分可能であるから、被告の右主張も失当というべきである。
第三、証拠(省略)
1 理由
一、原告が、昭和四五年一二月韓国よりわが国に不法入国したところを逮捕され、
身柄拘束のまま昭和四六年一月三〇日佐賀地方裁判所唐津支部において出入国管理
令違反により懲役一〇月の判決を受け、それを不服として福岡高等裁判所に控訴し
たが同年六月七日控訴棄却の判決を受け、右判決の確定後は刑の執行のため同月二
五日より福岡刑務所で服役していたところ、同年八月一二日結核の病状が悪化した
ため右刑の執行を停止され、結核予防法に基づく命令入所の措置を受けて同日国立
福岡東病院に入院し、昭和四八年一月二六日には原告の希望により広島日赤病院へ
転院したが同年五月二日入院の必要がなくなつたため同病院を退院し、広島刑務所
において残刑の執行を受け、同年八月二四日刑期満了し、現在大村入国者収容所に
収容されていること、
昭和四六年一〇月五日、国立福岡東病院入院中の原告は福岡県粕屋保健所を経由し
て被告に対し、原告自身が作成した「被爆状況申立書」と題する書面と広島市<以
下略>に住むAおよび同<以下略>に住むB両名の各作成した被爆状況証明書とを
添付して、被爆者健康手帳の交付方を申請したところ、被告は、昭和四七年七月一
四日付で原告の右申請を却下し、右処分は同日書面で原告に通知されたが、右書面
には、その却下した理由として原告主張の趣旨の記載があること、
以上の事実については、いずれも当事者間に争いはない。
二、成立に争いのない甲第一一号証の一、二、証人Cの証言および同証言により真
正に成立したものと認められる甲第二号証に原告本人尋問の結果を総合すると、原
告は少なくとも昭和一八年頃から昭和二〇年九月頃までの間広島市内に両親と妹と
居住し、同市に原子爆弾が投下された際(昭和二〇年八月六日午前八時一五分ご
ろ)には家業手伝いのため当時の広島市<以下略>にあつた広島地方専売局の倉庫
内にあつたことを認めることができ、ほかに、右認定を左右する証拠はない。
三、そこで、被告のなした本件却下処分の適否について検討する。
1 原爆医療法が、今次の大戦における戦争犠牲者を救済するための法制の一環を
なすことには疑いがないが、同法には、外国人被爆者に対し、その適用を排除する
特別の規定は存しないから、この点、権利主体を日本国籍を有する者に制限する趣
旨の規定を設けるところの
戦傷病者戦没者遺族等援護法(昭和二七年法律第一二七号)
引揚者給付金等支給法(昭和三三年法律第一〇九号)
未帰還者に関する特別措置法(昭和三四年法律第七号)
戦没者等の妻に対する特別給付金支給法(昭和三八年法律第六一号)
戦傷病者特別援護法(昭和三八年法律第一六八号)
戦没者等の遺族に対する特別弔慰金支給法(昭和四〇年法律第一〇〇号)
戦傷病者等の妻に対する特別給付金支給法(昭和四一年法律第一〇九号)
引揚者等に対する特別交付金の支給に関する法律(昭和四二年法律第一一四号)
などの他の戦争犠牲者救済のための一連の法律とも明らかに異なるところがあり、
このように同法が特に国籍による適用制限の規定を有しないことからすれば、同法
は本来、日本人被爆者のみならず外国人被爆者に対しても適用されることを予定し
た法律である、と解するのが相当である。
成立に争いのない甲第七号証によれば、広島市長は昭和四八年一〇月現在において
外国人被爆者一五八九名に対し被爆者健康手帳を交付していることが認められる
し、被告においても、これまでに四九名の外国人被爆者に被爆者健康手帳を交付し
ていることは被告の自陳するところであるから、行政の実際においても、右の解釈
を是認する取扱いがなされているものということができる。
2 ところで、被告は、原爆医療法が外国人被爆者にも適用のあることは是認しつ
ゝも、同法がいわゆる社会保障法としてその社会の構成員の福祉の増進をはかるこ
とを目的とするものだからとして、外国人被爆者が同法の適用を受けるためには、
当該外国人が日本国内に適法に在留し、かつ、日本社会の構成員として社会生活を
営んでいること、換言すれば日本国内に居住関係を有することが必要であると主張
する。
(一) たしかに、わが国の社会保障制度の一環としての医療保障制度を国民健康
保険法などによる社会保険制度、生活保護法に基づく医療扶助制度、結核予防法や
精神衛生法など各種の法律や予算措置によつて行なわれている公費医療制度、の三
種に大別するときは、原爆医療法は戦傷病者特別援護法などとともに右の公費医療
制度の一つに含ましめることもでき、その限りで、原爆医療法をいわゆる社会保障
法であるということができないわけではないけれども、同法が日本人被爆者のみな
らず外国人被爆者に対しても適用されることを予定した法律、すなわち外国人被爆
者に対しても権利主体としての法的地位を与えた法律と解されること前段判示のと
おりであつてみれば、同法はこの点においてすでに他のいわゆる社会保障法とも類
を異にする特異の立法というべき側面を有するものということができるから、同法
がいわゆる社会保障法たる一面を有することの一事から、同法において外国人被爆
者が権利主体たりうるためには、当該外国人が日本国内に適法に在留し、かつ、日
本社会の構成員たることを要するとの制限的解釈が当然に導かれるわけのものでは
なく、結局のところ、同法固有の立法目的や法文に則して、外国人被爆者に対し被
告主張のような居住関係による制約があるかどうかを確定すべきこととなる。
(二) ところで、原爆医療法はその一条において、「この法律は、広島市及び長
崎市に投下された原子爆弾の被爆者が今なお置かれている健康上の特別の状態にか
んがみ、国が被爆者に対し健康診断及び医療を行うことにより、その健康の保持及
び向上をはかることを目的とする。」と規定している。これによると、同法の立法
目的は、原子爆弾の被爆者が現在もなお置かれている健康上の特別な状態に着目し
て、国が法定の措置を行うことにより、その被爆者個々人の個々具体的な健康状態
に即した配慮をしつゝその健康の保持および向上をはかろうとするものということ
ができ、同法が原子爆弾の被爆者個々人の救済を第一義とするものであることは右
のとおり法文上において明らかなところであり、社会全体の福祉の向上なるもの
は、国が原子爆弾の被爆者個々人になした右の施策の結果として副次的にもたらさ
れることがあるにすぎないということができる。
そうだとすると、被告が本件却下処分を原告へ通知するにあたつて、その理由中
で、原爆医療法の趣旨は、「法定の措置を行なうことにより地域社会の福祉の向上
を図ることにありーーー」と述べたことは同法の立法趣旨を誤解するものといわね
ばならず、右の「地域社会の福祉」を図るという法認識を被告が本件訴訟で主張す
るような「日本社会の構成員の福祉」を図る趣旨の法認識であつたといいかえて
も、それが、日本社会の構成員を集団として把え、原子爆弾の被爆者個々人の救済
を社会集団の福祉のための救済として副次的に把えたものであるならば、同様に、
同法の立法趣旨を誤解するものといわねばならず、被告のそれが、「地域社会の福
祉」とは「原子爆弾の被爆者のうち日本社会の構成員である者の福祉」の意である
との主張であれば、ここにはじめて検討に値する問題提起たりうるものということ
ができるのである。
しかしながら、同法の立法目的を掲げた右一条の法文から、同法は、その適用要件
としての権利主体たる地位を、「原子爆弾の被爆者のうち日本社会の構成員である
者に限る」決意である、と制限的に解釈すべき手がかりを発見することは困難であ
る。
(三) そこで進んで、原爆医療法二条以下の法文を見るに、
同法二条は、「この法律において「被爆者」とは、次の各号の一に該当する者であ
つて、被爆者健康手帳の交付を受けたものをいう。
一、原子爆弾が投下された際当時の広島市若しくは長崎市の区域内又は政令で定め
るこれらに隣接する区域内にあつた者
二、原子爆弾が投下された時から起算して政令で定める期間内に前号に規定する区
域のうちで政令で定める区域内にあつた者
三、前二号に掲げる者のほか、原子爆弾が投下された際又はその後において、身体
に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあつた者
四、前三号に掲げる者が当該各号に規定する事由に該当した当時その者の胎児であ
つた者」と規定し
同法三条は「被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は、その居住地(居住地を
有しないときは、その現在地とする。以下同じ。)の都道府県知事(その居住地が
広島市又は長崎市であるときは、当該市の長とする。以下同じ。)に申請しなけれ
ばならない。」(一項)「都道府県知事は、前項の申請に基いて審査し、申請者が
前条各号の一に該当すると認めるときは、その者に被爆者健康手帳を交付するもの
とする。」(二項)「被爆者健康手帳に関し必要な事項は、政令で定める。」(三
項)と規定している。
しかして、同法中、他には被爆者健康手帳の交付申請権者の範囲を定めたと見うる
規定は存しない。
そこで以上の法文を検討すれば足りることとなるが、そこで明らかなように、同法
二条では、同条各号の一に該当する者(以下、この者を「原子爆弾の被爆者」とい
うことがある。)であつて被爆者健康手帳の交付を受けたものを同法において「被
爆者」と呼称することを定め、同法三条では、原子爆弾の被爆者に対する法定の措
置を開始すべき端緒をまず被爆者健康手帳の交付を受けようとする者からの申請に
かからせることを定め、本来国が講ずべきはずの法定の措置を分担代行するものと
しての責任機関を、当該申請者の所在地(その居住地を原則とし、居住地を有しな
いときは、その現在地)との関連において特定することを定め、被爆者健康手帳の
交付を受けようとする者からの申請を受理した責任機関は、その者が同法二条各号
の一に該当すると認めるときは、その者に被爆者健康手帳を交付すべきことを定め
ているだけであつて、直接的にも間接的にも原爆医療法の適用要件としての権利主
体たる地位を、「原子爆弾の被爆者のうち日本社会の構成員である者に限る」決意
であるとうかがわせるものは何も存しない。
ちなみに、原爆医療法三条に「その居住地(居住地を有しないときは、その現在地
とする。以下同じ。)」とあるのは、生活保護法(昭和二五年法律第一四四号)一
九条の規定におけるそれと同じく、法所定の措置を受けうべぎ者と措置実施責任機
関とを連結するための管轄を定める技術規定であつて、前者、すなわち法所定の措
置を受けうべき者の有する要保護状態の緊急性によつては、例えば災害救助法(昭
和二二年法律第一一八号)では災害発生地と定め、行旅病人及行旅死亡人取扱法
(明治三二年法律第九三号)では所在地と定めらるることともなるものであり、行
政法規が原則として属地主義により、法定の措置実施責任機関も国内に存すること
から、いうところの災害地や居住地、現在地、所在地等も当然に国内におけるそれ
を指すこととなるのであるが、これら管轄特定のための技術規定と、例えば児童手
当法(昭和四六年法律第七三号)が手当支給のための積極要件の一つとして、日本
国民であることのほかに日本国内に住所を有するときに支給するとし、児童扶養手
当法(昭和三六年法律第二三八号)、特別児童扶養手当法(昭和三九年法律第一三
四号)が手当支給の消極要件の一つとして、日本国民でないときのほか日本国内に
住所を有しないときに支給しないとするときの、手当支給の要件としての住所地の
意味するところとは明確に区別さるべきものである。したがつて、原爆医療法三条
に「その居住地(居住地を有しないときは、その現在地とする。以下同じ。)」と
あることによつて、被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は少なくとも日本国
内に現在すべしとの当然の事理は導きえられても、この法文の字句から、被爆者健
康手帳の交付を受けうる者が日本国内に居住関係を有する者に限られる趣旨と受取
ることは許されないのである。
(四) もつとも、被告は、原爆医療法や原爆特別措置法が被爆者に対して行うこ
とを予定している種々の施策がいずれも長期的なものであることからして、外国人
被爆者が同法の適用を受けるためには、当該外国人が日本国内に居住関係を有する
ことを必要とするとも主張している。
なるほど、原爆医療法を適用する場合、原子爆弾の被爆者において日本国内に居住
関係を有するならば、同法の意図する被爆者救済の実をあげるためにも効果的であ
るし、行政上も便宜で望ましいことではあろうけれども、同法が用意する長期的施
策が享受できるかどうかは被爆者側の事情や都合によるものであつて、これが享受
できない者は被爆者として同法の権利主体たりえないとするのは本末てん倒という
べきである。
(五) 以上で見たとおり、外国人被爆者が原爆医療法の適用を受けるためにはそ
の者が日本国内に適法に在留し、
かつ、日本社会の構成員として社会生活を営んでいることが必要であるとの被告主
張は、同法の立法趣旨や法文に照らし採用することができない。
(六) かくして原爆医療法の建前は、原子爆弾の被爆者でさえあれば、たとえそ
の者が外国人であつても、その者が日本国内に現在することによつて同法の適用を
受けうるとするものと解するのが相当である。
その結果として、わが国に観光を目的として一時的に入国した外国人旅行者や不法
入国した者についても、その者が原子爆弾の被爆者である限り、その者に同法は適
用されることとなる。
しかしながら、このことはあくまでも同法の建前から導かれる結論であつて、これ
ら入国者に対しては、同法とは法益を異にした、他の国策に基づく種々の法律が重
畳的に適用される関係にあるから、その結果として、一時的に入国した外国人旅行
者等については、その入国目的や在留期間に従うため、また、不法入国者について
は、刑事裁判による制裁に服すとか退去強制の措置のとられることがあるため、こ
れら入国者においては原爆医療法が用意した救済の措置を充分に享受しえない場合
がありうることとなるけれども、それであるからといつて、これら入国者からの被
爆者健康手帳の交付申請に対し、当該管轄機関が他の法益や国策をおもんばかつて
同法の適用をためらうことは許されないことである。
3 そこで原爆医療法に対する以上の理解に立つて本件事案を考えると、原告は、
すでに認定したとおり、広島市に原子爆弾が投下された際当時の広島市内にあつた
者であるから原爆医療法二条一号に該当する者に外ならず、前記のとおり、原告が
昭和四六年一〇月五日、入院先の国立福岡東病院から被告に対し同法三条に則り被
爆者健康手帳の交付方を申請したことは当事者間に争いがないのであるから、被告
が原告に対し、原告には原爆医療法の適用がないとして右申請を却下したのは、違
法というほかなく、右処分は取消すべきものである。
四、結論
以上の次第であるから、原告の本訴請求は理由があり、これを認容すべきものであ
るので、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して
主文のとおり判決する。
(裁判官 井野三郎 江口寛志 照屋常信)

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