弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人程島弘美の上告理由について
 一 選挙権の平等と選挙制度
 1 法の下の平等を保障した憲法一四条一項の規定は、国会の両議院の議員を選
挙する国民固有の権利につき、選挙人資格における差別の禁止にとどまらず(四四
条ただし書)、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の
投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等をも要求するものと解すべき
である。
 しかしながら、憲法は、国会の両議院の議員を選挙する制度の仕組みの具体的決
定を原則として国会の裁量にゆだねているのであって(四三条、四七条)、投票価
値の平等は、右選挙制度の決定のための唯一、絶対の基準というべきではなく、原
則として、国会が具体的な選挙制度の決定に当たって正当に考慮することのできる
他の政策的目的ないしは理由との関連において調和的に実現されるべきものである。
 2 平成六年法律第二号による改正前の公職選挙法は、衆議院議員の選挙制度と
していわゆる中選挙区単記投票制を採用していた。この制度の下において、選挙区
割と議員定数の配分を決定するについては、選挙人数又は人口と配分議員数との比
率の平等が最も重要かつ基本的な基準であるというべきであるが、それ以外にも考
慮されるべきものとして、都道府県、市町村等の行政区画、地理的状況等があり、
また、人口の都市集中化の現象等の社会情勢の変化を選挙区割や議員定数の配分に
どのように反映させるかという点も考慮され得べき要素の一つである。このように、
選挙区割と議員定数の配分の具体的決定に当たっては、種々の政策的及び技術的考
慮要素があり、これらをどのように考慮して具体的決定に反映させるかについて客
観的基準が存在するものでもないから、議員定数配分規定の合憲性は、結局は、国
会が具体的に定めたところがその裁量権の合理的行使として是認されるかどうかに
よって決するほかはない。
 右の見地に立って考えても、具体的に決定された選挙区割と議員定数の配分の下
における選挙人の投票の有する価値に不平等が存在し、あるいはその後の人口の異
動により右のような不平等が生じ、それが国会において通常考慮し得る諸般の要素
をしんしゃくしてもなお、一般に合理性を有するものとは考えられない程度に達し
ているときは、右のような不平等は、もはや国会の裁量権の合理的行使の限界を超
えているものと推定され、これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、憲法
の選挙権の平等の要求に反している状態であると判断されざるを得ないものという
べきである。
 3 以上は、最高裁昭和四九年(行ツ)第七五号同五一年四月一四日大法廷判決
(民集三〇巻三号二二三頁。以下「昭和五一年大法廷判決」という。)、最高裁昭
和五六年(行ツ)第五七号同五八年一一月七日大法廷判決(民集三七巻九号一二四
三頁。以下「昭和五八年大法廷判決」という。)、最高裁昭和五九年(行ツ)第三
三九号同六〇年七月一七日大法廷判決(民集三九巻五号一一〇〇頁。以下「昭和六
〇年大法廷判決」という。)及び最高裁平成三年(行ツ)第一一一号同五年一月二
〇日大法廷判決(民集四七巻一号六七頁。以下「平成五年大法廷判決」という。)
の趣旨とするところである。
 二 本件議員定数配分規定の合憲性
 1 平成五年七月一八日に施行された第四〇回衆議院議員総選挙(以下「本件選
挙」という。)は、平成四年法律第九七号(以下「平成四年改正法」という。)に
より改正された公職選挙法の衆議院議員定数配分規定(同法一三条一項、同法別表
第一、同法附則七ないし一一項。以下「本件議員定数配分規定」という。)に依拠
したものであるが、本件選挙の施行当時、本件議員定数配分規定の下における選挙
区間の議員一人当たりの選挙人数の較差は、最大一(愛媛県第三区)対二・八二(
東京都第七区)となっている(以下「本件最大較差」という。なお、較差に関する
数値は、すべて概数である。)。ところで、平成四年改正法による改正前の公職選
挙法の衆議院議員定数配分規定によって最後に行われた平成二年二月一八日施行の
衆議院議員総選挙当時における右選挙人数の較差は最大一対三・一八であり、これ
に対しては、平成五年大法廷判決において、憲法の選挙権の平等の要求に反する程
度に至っていたものであるとの判断が示されており、また、その後の平成二年一〇
月に実施された国勢調査によれば、選挙区間の議員一人当たりの人口の較差は最大
一対三・三八に拡大するに至った。国会は、第一二五回国会において、議員一人当
たりの較差が特に著しい選挙区について、定数の増員、減員及び選挙区の区域の変
更を行う等のいわゆる九増一〇減等を内容とする平成四年改正法を成立させるに至
ったのであり、この改正の結果、本件議員定数配分規定の下において、右平成二年
の国勢調査による人口に基づく右較差は最大一対二・七七となり、そして、本件選
挙当時には本件最大較差(一対二・八二)を生ずるに至ったものである。以上の事
実は、原審の適法に確定するところである。
 2 右の原審の適法に確定したところによれば、本件選挙の施行当時、右較差が
示すような選挙区間の投票価値の不平等が存在するが、これは、平成四年改正法の
成立に至るまでの経緯に照らせば、選挙人数又は人口と配分議員数との比率の平等
が最も重要かつ基本的な基準とされる衆議院議員の選挙制度の下で、国会において
通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお、一般に合理性を有するものと
は考えられない程度に達しているとまではいうことができず、そうすると、本件議
員定数配分規定は憲法の選挙権の平等の要求に反するものではない。
 以上のように解すべきことは、昭和五八年大法廷判決及び昭和六〇年大法廷判決
が、昭和五〇年法律第六三号による公職選挙法の改正の結果、昭和四五年一〇月実
施の国勢調査による人口に基づく較差が最大一対四・八三から最大一対二・九二に
縮小することとなったこと等を理由として、昭和五一年大法廷判決により違憲と判
断された右改正前の議員定数配分規定の下における投票価値の不平等状態は右改正
により解消されたものと評価することができる旨を判示し、また、平成五年大法廷
判決が、昭和六一年法律第六七号による公職選挙法の改正の結果、昭和六〇年一〇
月実施の国勢調査による人口に基づく較差が最大一対二・九九となり、その後、昭
和六一年七月六日施行の衆議院議員総選挙当時の右選挙人数の較差が最大一対二・
九二となったこと等を理由として、昭和六〇年大法廷判決によって違憲と判断され
た右改正前の議員定数配分規定の下における投票価値の不平等状態は右改正により
解消されたものと評価することができる旨を判示した趣旨に徴して、明らかである
というべきである。
 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。論旨はすべて採
用することができない。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
高橋久子、同遠藤光男の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のと
おり判決する。
 裁判官高橋久子、同遠藤光男の反対意見は、次のとおりである。
 私たちは、本件選挙の施行当時において本件議員定数配分規定が憲法の選挙権の
平等の要求に反するものではないとする多数意見に賛成することはできない。その
理由は、次のとおりである。
 憲法一四条一項は投票価値の平等を要求しているが、投票価値の平等は、選挙制
度決定のための唯一、絶対の基準ではなく、他の政策的目的ないし理由との関連に
おいて調和的に実現されるべきものであること、いわゆる中選挙区単記投票制の下
においては、選挙区割と議員定数の配分を決定するについて選挙人数又は人口と配
分議員数との比率の平等が最も重要かつ基本的な基準であるが、それ以外にも考慮
されるべき要素があり、議員定数配分規定の合憲性は、国会が具体的に定めたとこ
ろがその裁量権の合理的行使として是認されるかどうかによって決すべきものであ
ること、投票価値の不平等が、国会において通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃ
くしてもなお、一般に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているとき
は、右のような不平等は、これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、憲法
の選挙権の平等の要求に反している状態であると判断すべきであることについては、
私たちも多数意見に同調するものであり、意見を異にするものではない。
 しかしながら、多数意見が、右のような考え方に立ちながら、本件最大較差(一
対二・八二)が示す投票価値の不平等が憲法の要求に反するものではないとした点
には、賛成することができない。
 代議制民主主義体制を採る憲法の下においては、代議員たる国会議員を選出する
ための投票権が平等に与えられ、かつ、これを自由に行使し得ることが必要不可欠
の要請というべきである。このように考える以上、具体的な選挙制度の決定に当た
っては、投票価値の平等こそが、何より重要視されるべきであり、他の要素、つま
り政策的目的ないし理由との関連において考慮されるべき非人口的要素は、あくま
でもこれを補正するためのものにすぎないのであるから、この種の非人口的要素を
投票価値の平等以上に重視することは許されないといわなければならない。すなわ
ち、選挙区割と議員定数を決定するについて、厳格に前記比率の平等の原則を貫き、
選挙区間の議員一人当たりの選挙人数又は人口の較差を一対一ないし実質的にこれ
と同視すべき範囲内にとどめるべきであるとまではいえないが、右較差が一対二を
著しく超えることになれば、実質的にみて、投票価値平等の要請よりも、むしろ非
人口的要素を重視したことにほかならないことになる。したがって、これによる補
正は、右較差が一対二ないしこれに限りなく近い数値にとどまることを限界として
のみ考慮することが許容されるにすぎないと解すべきである。
 ところで、公職選挙法制定後の最大較差の推移をみると、昭和二五年四月の制定
当時には一対一・五一であったものが、昭和三五年一〇月の国勢調査の時点では一
対三・二一に拡大し、昭和三九年七月の同法改正により一対二・一九にまで縮小さ
れたものの、その後の国勢調査時、総選挙施行時、同法改正時のいずれを取ってみ
ても、これを下回ったことはないのみならず、平成四年一二月の同法改正により一
対二・七七になったのが最も小さい数値であって、その較差が一対五程度に及んだ
時期もあり、本件選挙当時には一対二・八二になっていたものである。したがって、
昭和三九年七月の改正時の一対二・一九という較差は、一対二に極めて近いもので
あって、必ずしもこれを違憲と断定し得るものとは考えないが、その後の較差は、
いずれも一対二をはるかに超えるものであって、到底憲法の要求を満たしていると
は考えられないものである。
 また、平成六年法律第二号による改正前の公職選挙法別表第一が、五年ごとに直
近に行われた国勢調査の結果によって同表を更正するのを例とすると定めていたに
もかかわらず、較差是正のための改正は、前記昭和三九年の改正後、昭和五〇年七
月、昭和六一年五月及び平成四年一二月に行われたにとどまり、国会がその責務を
十分に果たしてきたものとはいい難い。
 これらの諸点にかんがみると、本件選挙当時における本件最大較差(一対二・八
二)は、私たちの考える前記限界をはるかに超えるものであり、したがって、憲法
の選挙権の平等の要求に反する状態にあったと判断せざるを得ない。また、このよ
うな状態が少なくとも三〇年近くの長きにわたって継続していたのであるから、国
会に認められた是正のための合理的期間をはるかに超えていたことは明らかであり、
本件定数配分規定は憲法に違反するものであったというべきである。
 以上のように、本件議員定数配分規定は違憲であるが、これに基づいて行われた
本件選挙の効力を直ちに無効とすべきものではない。本件選挙の効力を否定しない
ことによる弊害、本件選挙を無効とする判決の結果一時的にせよ憲法の予定しない
事態が現出することによってもたらされる不都合、その他本件に現れた諸般の事情
を総合考慮すると、本件は、いわゆる事情判決の制度(行政事件訴訟法三一条一項)
の基礎に存するものと解すべき一般的な法の基本原則を適用して、本件選挙を無効
とする結果余儀なくされる不都合を回避すべき場合に当たるものと考えられる。し
たがって、本件においては、主文においてその違法を宣言するにとどめ、本件選挙
を無効としないこととするのが相当であると考える。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    高   橋   久   子
            裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    三   好       達
            裁判官    遠   藤   光   男

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