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平成22年(行ケ)第10172号審決取消当事者参加事件(特許)
口頭弁論終結日平成23年2月7日
判決
当事者参加人バイエル・エス・アー・エス
訴訟代理人弁理士川口義雄
同大崎勝真
同渡邉千尋
同横井大一郎
脱退原告スコット・フランス・エス・アー・エス
()旧商号:ローヌ−プーラン・ジャルダン
被告特許庁長官
指定代理人松本直子
同中田とし子
同唐木以知良
同田村正明
主文
1当事者参加人の請求を棄却する。
2訴訟費用は当事者参加人の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を3
0日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2007−12096号事件について平成21年9月15日
にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,脱退原告が,名称を「1−アリールピラゾールまたは1−ヘテロ
アリールピラゾールによる社会性昆虫個体群の防除方法」とする発明につき国
際特許出願したところ,日本国特許庁から拒絶査定を受けたので,これに対す
る不服の審判請求をし,平成19年5月25日付けで特許請求の範囲の変更を
内容とする補正(以下「本件補正」という。請求項の数14,甲7の6)をし
たが,請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。
,(「」,2争点は本件補正後の請求項1及び2に係る発明以下順に本願発明1
「本願発明2」という)が,下記の引用例に記載された発明と実質的に同一。
か(特許法29条1項3号,又は同発明及び周知技術から容易想到か(同2)
9条2項,である。)

引用例:特開昭63−316771号公報(発明の名称「N−フェニルピラゾ
ール誘導体,公開日昭和63年12月26日,甲1)」。
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁等における手続の経緯
脱退原告は,1995年(平成7年)6月29日及び1996年(平成8
年)1月29日の各優先権(いずれもフランス国)を主張して,1996年
(平成8年)6月26日に,前記の発明につき国際特許出願(PCT/FR
96/00994号,日本における出願番号・特願平9−504205号)
をし,日本国特許庁に平成9年(1997年)12月26日に翻訳文を提出
(,〔〕)した請求項の数17公表公報は特表平11−508551号甲13
が,平成19年1月18日付けで拒絶査定を受けたので,これに対する不服
の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2007−12096号事件として審理し,その
中で脱退原告は平成19年5月25日付けで本件補正(請求項の数14,甲
7の6)をしたが,特許庁は平成21年9月15日「本件審判の請求は,,
成り立たない」との審決をし,その謄本は同年9月29日脱退原告に送達。
された。
そこで脱退原告は,平成22年1月26日,当庁に対し,上記審決の取消
しを求める旨の訴訟(平成22年(行ケ)第10031号事件)を提起した
が,当事者参加人は,平成22年5月28日付けで,脱退原告から特許を受
ける権利の譲渡を受け特許庁長官にその旨届け出たことを理由に,当庁に,
権利承継参加の申立てをし(平成22年(行ケ)第10172号,脱退原)
告は,平成22年10月19日の第2回弁論準備手続期日において,被告及
び当事者参加人の同意を得て,訴訟から脱退した。
(2)発明の内容
本件補正後の請求項の数は前記のとおり14であるが,そのうち請求項1
(本願発明1)及び請求項2(本願発明2)の内容は,以下のとおりである。
・請求項1(本願発明1)【】
「,[,蟻の個体群の小部分に餌と化合物5−アミノ−3−シアノ−1−2
6−ジクロロ−4−(トリフルオロメチル)フェニル]−4−[トリフ(
ルオロメチル)スルフィニル]−1H−ピラゾールを含む組成物の有効量
を適用することを特徴とし,使用する該組成物の有効量が該組成物を適用
された蟻個体群の小部分の少なくとも90%を2∼30日の間の期間で死
滅させるのに必要な用量に等しいことを特徴とし,該組成物を全個体群の
1∼40%に相当する個体群の部分に適用することを特徴とする,かかる
蟻個体群の防除の方法」。
・請求項2(本願発明2)【】
「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する蟻を防除
する方法であって,100㎡当り0.0001∼20gの請求項1に記載
の化合物の有効量で該蟻が出現する1以上の区域を処理することを含み,
該区域は該共同生息場所の外に位置するが,前記蟻が徘徊する場所である
前記方法」。
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その要点は,本願発明1
は,前記引用例(甲1)から認められる下記引用発明1と実質的に同一で
ある(特許法29条1項3号)又は同発明及び周知技術に基づいて当業者
が容易に発明をすることができた(特許法29条2項,本願発明2は前)
記引用例から認められる下記引用発明2と実質的に同一(特許法29条1
項3号)又は同発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をするこ
とができた(特許法29条2項,というものである。)

・<引用発明1>
「餌と化合物5−アミノ−3−シアノ−1−(2,6−ジクロロ−4−
トリフルオロメチルフェニル)−4−トリフルオロメチルスルフィニル
ピラゾールを有効量用いて場所を処理する,ある場所に存在するアリ等
の節足動物を防除する方法」。
・<引用発明2>
「化合物5−アミノ−3−シアノ−1−(2,6−ジクロロ−4−トリ
フルオロメチルフェニル)−4−トリフルオロメチルスルフィニルピラ
ゾールを有効量用いて場所を処理する,ある場所に存在するアリ等の節
足動物を防除する方法」。
イなお,本願発明1と引用発明1との一致点及び相違点ア・イ・ウ,本願
発明2と引用発明2との一致点及び相違点ア・イ’は,上記審決写し記’
載のとおりである。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下に述べるような取消事由があるから,審決
は違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(本願発明1に関する相違点アについての判断の誤り)
(ア)審決は,蟻が餌を巣に持ち帰る習性を利用して巣の中にいる蟻の個体
群全体を防除する方法においては,殺虫成分は遅延毒性を有するもので
なければならないと説示するにもかかわらず,本願発明1の殺虫成分の
当該遅延毒性の有無を十分に検討することなく,一刀両断のもとに,引
用例に記載されている殺虫成分を含む餌は同個体群全体を防除する方法
に用いるためのものであるとした点に重大な誤りがあり,もって,誤っ
た結論に至ったものであるから,取り消されるべきである。
(イ)a特表昭60−500500号公報(甲2)には,農薬で処理された
餌が蟻巣に運び込まれて主要集団の個体群,特に女王蟻にその毒性が
伝達されるためには3つの条件が必須でありそのうちの1つが(3),,「
遅延毒性を示すこと」であると簡明直截に記載されている。
さらに,甲2の実施例1∼4の殺蟻試験において,その結果を一覧
表にした表1∼4(6頁左下欄∼11頁右下欄)にも,十分な殺蟻効
果を示すためには十数日を要する実験データが示されている。
また,審決が引用する先行技術の1つである「衛生動物」36巻2
号147頁左上欄及び右上欄(甲3)には,新規顆粒ベイト剤「アリ
の巣コロリ(本願発明1と殺虫成分が異なる)の防除効果につき,」。
「顆粒を運び込んだコロニーでは処理後に異常行動が認められ,その
後2∼3日で巣から出現するアリがみられなくなった」旨「3.。,
Workerに本剤を与えたところ約2日で50%,4日で100%の致
死率を示した」との各記載がある。。
同じく,審決引用の特開昭54−125686号公報(甲4)の実
施例3には,インポーテッドファイアアント毒飼試験において,殺虫
剤としてのペンタジエノンヒドラゾンを使用した場合には,同蟻の1
4日死亡百分率が10%濃度では69%01%濃度では1.「」,.「
00%」であることが表2に報告されている。
以上の甲2ないし甲4の記載に照らせば,蟻が餌を巣に持ち帰る習
性を利用して,巣の中にいる蟻を含む蟻の個体群全体を殺虫成分を含
(「」。)む餌により防除する周知の方法以下二次的殺滅効果ともいう
においては,当該殺虫成分が「遅延毒性」を有するものであることが
必要である。
この点,審決も「ところで,巣の中にいる蟻を含む蟻の個体群全,
体を殺虫成分を含む餌により防除する周知の方法においては,当該殺
虫成分が遅延毒性を示す必要があることも周知である」と説示し,甲
2ないし甲4の記載をその根拠としていることからも,当事者参加人
の上記主張に異論はないものと思料される。
b審決は,本願発明1における殺虫化合物「5−アミノ−3−シアノ
−1−[2,6−ジクロロ−4−(トリフルオロメチル)フェニル]
[()]」−4−トリフルオロメチルスルフィニル−1H−ピラゾール
(,「」。)以下同化合物の一般名であるフィプロニルということがある
が遅延毒性を示すことが明らかであると説示し,その根拠を,引用例
の摘示1−kにおいている(審決10頁の「ウ。」)
すなわち,審決は,摘示1−kを参照し「そして刊行物1(判決,
注:引用例を指す)には,Plutellaxylostellaの幼虫に対し『5。,
−アミノ−3−シアノ−1−(2,6−ジクロロ−4−トリフルオロ
メチルフェニル)−4−トリフルオロメチルチオピラゾール(化合)』
物1)及び『5−アミノ−3−シアノ−1−(2,6−ジクロロ−4
−トリフルオロメチルフェニル)−4−トリフルオロメチルスルフィ
ニルピラゾール(化合物52(注:フィプロニルと同一化合物)を』)
含む化合物の希釈試験溶液を噴霧し,2日後生存している幼虫を寒天
中に置いた未処理の葉を含む類似の皿に移した後,2∼3日後皿を恒
温(25℃)室から取出し,幼虫の死亡率の平均を求めたところ,少
なくとも65%の死亡率を示したことが示されている」と説示する。
(10頁25∼33行。)
ここで,審決にいう「2日後生存している幼虫を寒天中に置いた未
処理の葉を含む類似の皿に移した後,2∼3日後皿を恒温(25℃)
室から取出し」は,Plutellaxylostellaの幼虫とは関係のない試験
方法であって,これは,すぐ上に記載の(c)試験種Spodoptera
littoralisの幼虫に関する試験方法に係るものである。Plutella
xylostellaの幼虫については当該摘示1−kの前々段に記載の(a),「
試験種:Plutellaxylostellaコナガ及びPhaedoncochleariae甲()(
虫」に係る試験方法に記載されているものであって「希釈試験溶液),
を噴霧した。処理から4∼5日後恒温(25℃)室から取出し,幼虫
の死亡率の平均を求めた」と記載されている(甲1の20頁左上欄。
10∼12行。)
このように,審決は,当該摘示1−kの記載内容を誤って解釈し,
その説示においても重大な誤りを犯したというべきである。
そして,このような誤った前提を根拠にしたのでは「引用例にフ,
ィプロニルの蟻に対する『遅延毒性』が記載されていることを説示し
た」ことにはならないはずである。
c摘示1−kの「500ppm未満の濃度で少なくとも65%の死亡率
を示した」というのは,その防除対象とする害虫がPlutella。
xylostellaの幼虫,すなわちコナガの幼虫である場合をいうのであ
り(試験1の(a)試験種,同試験においては「希釈試験溶液を噴霧し)
た。処理から4∼5日後恒温(25℃)室から取出し,幼虫の死亡率
の平均を求めた」のである。。
これは,噴霧後の4∼5日目の死亡率を求めたものであって「(c),
試験種Spodopteralittoralis」の幼虫の処理のように,2日後生存
している幼虫のその後数日の死亡率の平均を求めたのではない「処。
理後4∼5日後の死亡率」とは,処理から4∼5日後に恒温室から取
り出して幼虫の死亡率を測ったということであり,その死亡率には処
理後すぐに即死した幼虫も含まれるのである。かかる意味において,
(a)試験種の試験は審決にいう「遅延毒性」とは直接関係のないもの
である。
なお,被告の「(a)試験種の『4∼5日後』とは,(c)試験種におい
て測定までに要する日数と同程度であり」旨の主張は,技術内容の実
体を精査することなく,文言表面上の「言葉合わせ「数字合わせ」」,
に終始するものであり,論理的ではない。(a)試験種の「4∼5日」
と(c)試験種において測定までに要する日数とが同程度であることを
もって,何故(a)試験種が(c)試験種のように「遅延毒性」の結果を示
しているといえるのか論理立てた具体的説明はない。
また「少なくとも65%」とあるように,これには90%ないし,
、、、、、
100%の死亡率も含まれる。(a)試験種の試験は,化合物1∼10
1まで,81の化合物についてなされたものであるが,これには本件
のフィプロニルが含まれるものの,当該フィプロニルについての死亡
率が具体的に記載されておらず,65%であるのか100%であるの
か判然としない。
本件において問題としなければならないのは「フィプロニル」そ,
のものの蟻に対する「遅延毒性」が引用例に記載されているかどうか
であるところ,フィプロニルのPlutellaxylostella(コナガ)幼虫
に対する殺虫効果が「少なくとも65%の死亡率」以上には明らかに
されていない。
審決は,(a)試験種の試験において用いられた殺虫化合物の1つが
フィプロニルであること,その試験結果に「少なくとも65%」の死
亡率と記載されていることをもって,直ちにフィプロニルにあたかも
遅延毒性があるかのように断じているが,これは余りにも早計にすぎ
る。
また,(a)試験種の防除対象の害虫はコナガであるが,当該コナガ
は,チョウ目(鱗翅目)に属する昆虫の一種である(甲6。これに)
対し,本願発明1に係る蟻は,ハチ目・スズメバチ上科・アリ科に属
する昆虫であり,両者は,生物分類学的にも生態的にも全く異なる生
物である。
審決の趣旨は,コナガにフィプロニルを施用したところ,処理後4
∼5日に少なくとも65%の死亡率を示したことをもって,同フィプ
ロニルが蟻に対しても同様の効果を奏するとして,フィプロニルは蟻
に対しても所要の「遅延毒性」を示すと敷衍したものであるが,上記
のとおり,コナガと蟻とは全く異なる生物であり,コナガに対するフ
ィプロニルの生物活性(例えば殺虫活性)をそのまま蟻に適用するこ
とはできないはずである。
例えば引用例甲1は試験1においてPlutellaxylostella,(),,
(コナガ)については65%,Phaedoncochleariae(甲虫)につい
ては90%,Megouraviciae(アブラムシ)については7/12のス
コア,Spodopteralittoralis(ハスモンヨトウ(ガの一種)につい)
ては70%の死亡率を示したと記載しているが,このように,生物種
が異なればフィプロニルの類似化合物の間で生物活性は異なるのであ
り,1つの生物に対する生物活性をそっくりそのまま他の生物におい
ても同様の生物活性が認められると類推するのは合理的とはいえな
い。
また,Plutellaxylostella(コナガ)の体躯は蟻よりもはるかに
大きいので,(a)試験種における処理から「4∼5日後」の死亡率が
Plutellaxylostella(コナガ)幼虫の「遅延毒性」を表していると
は到底考えられない。加えて,コナガは,社会性昆虫ではない(この
点は,Phaedoncochleariae(甲虫,Megouraviciae(アブラムシ))
及びSpodopteralittoralisも同様である)ため,社会性昆虫の巣。
内の個体群の完全なあるいはほぼ完全な撲滅を意図して使用される
遅延毒性という概念が非社会性昆虫であるPlutellaxylostella「」,
(コナガ)等にも同様に適用され,その死亡率を勘案するということ
はない。
したがって,フィプロニルの蟻に対する「遅延毒性」は,審決摘示
の1−kの記載からは明らかではない。
ましてや,引用例は,節足動物を対象とする殺虫化合物を提供する
ものであるところ「節足動物」とは,生物分類単位においてかなり,
上位に位置する極めて広範囲の生物を包含するところ,そのすべてに
前記試験1の結果が同じように表れると解することは,到底是認でき
ない。
引用例には,フィプロニルあるいはその類似化合物の蟻に対する殺
虫活性について具体的に記載するところはなく,摘示1−lの「組成
物実施例8」は,蟻防除の組成物と記載されてはいるが,その具体的
な殺虫活性には触れられていない。
フィプロニルの鱗翅目に属する生物に対する生物活性試験1の(a)(
試験種の結果)がアリ科の生物にも同様に認められるか否かにつき,
審決が何も審理することなく,いきなり蟻についても「遅延毒性」を
示すことが明らかと説示しているのは,あまりにも拙速にすぎる。
以上を総合すると,引用例には,蟻に対するフィプロニルの「遅延
毒性」が記載されているということはできず,また,引用例の別個の
生物についての殺虫効果からも,フィプロニルの蟻に対する「遅延毒
性」を類推することはできない。
(ウ)a審決が周知であるとする,蟻が餌を巣に持ち帰る習性を利用して,
巣の中にいる蟻を含む蟻の個体群全体を殺虫成分を含む餌により防除
する方法は,当該殺虫成分が「遅延毒性」を具備することが必要条件
とされるのである。審決は,本願発明1の殺虫活性化合物であるフィ
プロニルがかかる「遅延毒性」を具備するものであるか否かを十分に
審理することなく,具備するものと決めつけたものである。
前記(イ)のとおり,フィプロニルが「遅延毒性」を具備するか否か
は,引用例の記載からは判断しようがなく,フィプロニルが「遅延毒
性」を有することが明らかであるとの誤った認定に基づく審決の説示
は失当である。
引用例の22頁記載の「組成物実施例8」は,所定の殺虫剤成分と
小麦粉等を均密に混合して食餌としたものであるが「この食餌を経,

口摂取により節足動物を防除するために・・・」と記載しており,こ
、、、
れは,当該殺虫成分と直接接触した蟻の防除を意味することが明らか
であり,当該記載から,蟻が食餌を巣に持ち帰り,巣の中の蟻個体群
の防除を図ったことなど到底窺うことはできない。
また,組成物実施例8は「この食餌を・・・家屋敷及び事業所建,
物並びに屋外に分配した」とあるだけで,殺虫成分混合食餌による。
蟻などの節足動物の致死率など一言も記載しておらず,当該殺虫成分
が「遅延毒性」を有するか否か判別しようがない。
引用例にいう殺虫活性とは,直接接触ないし摂取による殺虫活性で
あるのに対し「遅延毒性」とは二次的殺滅効果に係る殺虫活性であ,
り,両者には截然とした差がある。
また,組成物実施例8で使用された殺虫成分は,化合物1であり,
()。,,フィプロニル化合物52ではないすなわち組成物実施例8は
フィプロニルを混合した食餌を蟻に与えたものではないから,仮に被
告の主張を前提としても,本願発明の餌とフィプロニルを混合した食
餌を働き蟻に与える二次的殺滅を意図ないし記載していることにはな
らない。また,化合物1は,本願発明の化合物52と類似関係にある
が,同化合物1の蟻に対する具体的な殺虫効果は不明であり,まして
や,餌と混合した食餌の二次的殺滅効果に至っては,組成物実施例8
に具体的な数値が記載されていないのであるから,単に当該類似化合
物の餌と混合した食餌が記載されていることをもって,化合物1の,
ひいては化合物52の「遅延毒性」が類推できることにはならない。
また,引用例の他の記載を参酌しても,当該組成物実施例8は,か
かる二次的殺滅効果を目的としたものとは到底解することができな
い。例えば,審決摘示の1−fは,引用発明1の概略を記載したもの
であるが,そこでは「節足動物「植物線虫「寄生虫「原虫害,」,」,」,
虫」などを特に区別することなく,それらをおしなべて,ある場所に
施用又は適用により処理するとしているから,これはある場所にいる
「節足動物」等の害虫に直接接触ないし摂取させて防除する方法を意
図しているものと解され,組成物実施例8も同様に解するのが妥当で
ある。
引用例全体の記載に徴し,同引用例記載の化合物の殺虫効果を具体
的に記載しているのは,摘示1−kを含む「試験1」のみであり,こ
こでは餌と混合した例は記載されておらず「試験1」の具体的に数,
値でもって表された殺虫効果をもってしても「遅延毒性」を推し量る
ことはできない。
b知財高裁平成21年1月28日判決(平成20年(行ケ)第100
96号審決取消請求事件)は,発明の容易想到性につき,①先行技
術から出発して,出願に係る発明の先行技術に対する特徴点に到達す
ることが容易であったか否かを基準として判断される,②事後分析的
かつ非論理的思考は排除されなければならない,③当該発明の特徴点
に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要
である,との判断基準を示している。
上記判断基準を前提とした場合,本件では,まず,先行技術である
引用例(甲1)には二次的殺滅効果についての記載はなく,また,蟻
が餌を巣に持ち帰る習性を利用して,巣の中にいる蟻を含む蟻の個体
群全体を殺虫成分を含む餌により防除する方法が周知であるとして
も,これには「遅延毒性」という要件を充足しなければならないとこ
,,ろ本件でのフィプロニルの当該性質は明らかではないのであるから
かかる周知方法と併せ考慮しても,引用例から本願発明1の特徴点に
到達することは容易でないといえる。
また,引用例の20頁記載の「試験1」はフィプロニルの蟻に対す
る遅延毒性を示したことにはならないから,これからフィプロニルが
遅延毒性を有すると認定するのは非論理的である。
さらに,引用例にフィプロニルが蟻に対して殺虫性があることが記
載されており,蟻が餌を巣に持ち帰る習性を利用して,巣の中にいる
蟻を含む蟻の個体群全体を殺虫成分を含む餌により防除する方法が周
知であるとしても,遅延毒性の有無が明らかでない状況下において,
当該フィプロニルを当該周知方法に適用したはずであるという示唆等
は存在しない。
このように,いずれの点においても,審決は,前記知財高裁判決の
容易想到性判断基準に適合するものではない。よって,審決が「ま,
た,前記の周知技術を考慮して,引用発明1において,蟻の防除の方
法について『蟻個体群』の防除の方法とすることは当業者が容易に,
想到し得ることである」とした点も,当を得ていない。
(エ)以上のとおり,引用例に本願発明1は記載されておらず,かつ,引用
例を他の甲2以下の先行技術と総合したところで,本願発明1を容易に
想到できるとはなし得ないから,進歩性も十分に具備するとしなければ
ならない。
よって,審決は,相違点アの判断において重大な誤りを犯したもので
あるから,取り消されるべきである。
イ取消事由2(本願発明1が有する特段の作用効果の看過)
(ア)審決は,本願発明1に係る殺虫化合物であるフィプロニルが極めて高
い二次的殺滅効果を発揮するにもかかわらず,当該二次的殺滅効果の非
予測性を検討することなく結論に至ったものであり,当該点に十分な審
理を尽くさず結果的に誤った結論に至ったものであるから,取り消され
るのが相当である。
(イ)本願明細書の記載に照らせば,本願発明1は,殺蟻剤として5−アミ
[,()ノ−3−シアノ−1−26−ジクロロ−4−トリフルオロメチル
フェニル]−4−[トリフルオロメチル)スルフィニル]−1H−ピ(
ラゾール,すなわちフィプロニルを選択し,これと餌を含む組成物を蟻
の個体群の小部分に適用することにより,フィプロニルを餌とともに蟻
の個体群が棲息する巣に持ち帰らせ,フィプロニルに直接さらされてい
ない蟻までも死滅させるものであることが容易に理解できる。
従来の殺虫性化合物を直接さらす方法によれば,個体群の小部分しか
駆除することができなかったのに対して,本願発明1の方法によれば,
個体群のほぼすべての個体を処理することが可能であり,蟻塚の中に存
在する幼虫,女王蟻も駆除し得る。
さらに,フィプロニルによる二次的殺滅効果は,蟻塚中の蟻個体群の
完全なあるいはほぼ完全な撲滅に及ぶものであり,これは当業者が容易
に予測し得るものではない。
(ウ)本願の実施例1では,蟻塚の入り口から20cmのところに化合物A
(フィプロニル)の0.05%分散物10gが入った時計のガラス蓋を
置いたところ,15日後蟻塚の周囲での蟻の活動は見られなくなった。
そして,蟻塚を掘り返したところ,全個体の99%以上が駆除されてお
り,特に幼虫はすべて死滅していることが観察された。
すなわち,当該実施例1には,フィプロニルの二次的殺滅効果が99
%にも及ぶことが記載されており,このような極めて高い駆除率は驚く
べきものであり,格別顕著な効果といえる。
(エ)甲8(ProceedingsoftheFifthInternationalConferenceonUrban
Pests(2005,p85-89)は,各種の殺虫性化合物に暴露した蟻を,蟻)
のコロニーが存在する容器に移動させた場合のコロニー内の蟻の死亡率
を実験したものである。
甲8の表1によれば,フィプロニルを使用した場合には,蟻を移動さ
せた3日後(又は4日後)に蟻の死亡率は「100%」であったのに対
して,従来周知の殺蟻剤であるクロロフェナピール又はビフェントリン
を使用した場合には蟻を移動させた8日後においても蟻の死亡率は約,「
20%程度」であった。
また,甲9(JournalofEconomicEntomology,2004,97(5)p
1675-1681)の実験では,ビフェントリン,β−シフルトリン,フィプ
ロニルという殺虫性化合物のいずれかで処理した床に1匹の蟻を1分間
置いた後,生きている又死んだこの蟻を小コロニーが存在する容器に移
動させて,当該殺虫性化合物の二次的殺滅効果を比較,確認している。
同実験においては,フィプロニルのLT(95%致死日数,すなわち95
95%が死に至るまでに要する日数)は,他の殺蟻剤を凌駕している。
さらに,甲10(JournalofEconomicEntomology,2008,101(4)p
1397-1405)は,予め殺虫剤をしみ込ませた砂にまず10匹の蟻(アル
),(),ゼンチン蟻を接触させ次いで当該蟻を実験巣仮想の蟻塚に入れ
7日間21∼23℃に保持して死んだ蟻の数を数えたものである。表1
の結果から明らかなとおり,殺虫剤フィプロニルの殺蟻効果は,他の殺
虫剤よりも群を抜いて秀でたものである。
上記甲8ないし甲10の結果は,フィプロニルが,本願出願当時,殺
蟻剤として公知のβ−シフルトリン又はビフェントリン等と比較して,
極めて高い二次的殺滅効果を有することを示している。
以上より,本願発明1のフィプロニルを用いることによる二次的殺滅
効果は,他の周知の殺虫性化合物と比較して極めて高いものであり,当
業者が容易に予測し得るものではない。
なお,被告は,引用例の「試験1」に記載されている(a)ないし(c)試
験種の殺虫試験の結果から「遅延毒性」が示されているとするが,そこ
に記載の殺虫組成物は餌と殺虫成分とを含むものではなく,殺虫成分を
害虫に噴霧した結果が示されているのである。ここでは,殺虫成分のみ
を噴霧した例をもって「遅延毒性」が示されていると主張し,甲8ない
し10との関係では,餌とフィプロニルを含む組成物を適用するもので
はないから,本願発明1の効果を確認することができないというのは,
主張に一貫性がなく,論理破綻している。
甲8ないし10の実験は,いずれも最初に蟻を所定時間殺虫剤に曝し
た後,これを蟻の巣に見立てた実験室コロニーに移して同コロニー内の
蟻の致死率を測定したもので,正に二次的殺滅効果を模擬的に各種殺虫
剤において試したものである。甲8ないし10は,簡易的ではあれ,各
種殺蟻剤の二次的殺滅効果を試験しているのであり,本願発明1のフィ
プロニルの同効果が格別顕著であることを証している。
(オ)当事者参加人は,さらに,本願発明1の殺虫化合物であるフィプロニ
ルの極めて高い二次的殺滅効果を立証すべく,以下の2つの比較実験を
行った。
a供述書1(甲11)
1つ目の実験は,本願出願当時殺虫剤として世界的に最も広く利用
され,蟻を含む広範囲の害虫に汎用されているイミダクロプリドと本
願のフィプロニルの殺蟻効果を比較したものである。実験に用いた蟻
は,ファラオアリとクロアリであり,実験の手法は甲11に記載のと
おりであるが,偽装巣(仮想蟻塚)に400∼600匹の蟻を最初に
入れておき,蟻が自由に移動できる環境下,試験殺虫剤ステーション
を設けて蟻が当該殺虫剤と接触できるようにし,1∼12週間にわた
り,幼虫の数,働蟻の数,生きている女王蟻の数を目視で数え,死ん
だ働蟻のパーセンテージを算出したものである。なお,幼虫の根絶が
蟻巣すなわち蟻巣中の蟻個体群の撲滅につながるため,幼虫の数が最
も重要である。
個々の実験結果を総合した表によれば,フィプロニル濃度0.05
%,0.02%及び0.005%では,ファラオアリの完全駆除は,
それぞれ3週目,4週目及び6週目に達成可能であったこと,クロア
リの完全駆除は,0.05%及び0.02%で3週目及び2週目にお
いて可能であったことが分かる。
一方,イミダクロプリドの場合,ファラオアリ,クロアリいずれの
場合でも6週目までの完全駆除は不可能であり,本願発明1の殺虫化
合物フィプロニルとの差異は截然としたものがある。
甲11の供述者は,結論のところで「0.05%または0.02,
%フィプロニルは即効性であり,アリの完全駆除が可能であるが,イ
ミダクロプリドはフィプロニルよりも遅効性であり,アリの完全駆除
はできなかった」との趣旨の供述をしている。。
b供述書2(甲12)
もう1つの比較実験は,殺虫化合物フィプロニル,チオ−フィプロ
ニル,ビフェントリンの二次的殺虫効果を比較したものである。
甲12は,主として本願発明1の殺虫化合物と引用例の代表的殺虫
化合物とを比較したものであり,その実験手法は,土を入れた実験用
プラスチック容器にペトリ皿に入れた試験化合物を置き,アルゼンチ
ン蟻の致死率を1∼7日間にわたって求めたものである。試験化合物
の濃度はそれぞれ0.05%と0.10%とした。
7日目の致死率からみると,本願発明1のフィプロニルの致死率1
00%又は83%,甲1のチオ体(チオ−フィプロニル)のそれが5
2%,48%と,約2倍ほどの差になって表れている。本願発明1の
フィプロニルの二次的殺滅効果が格段に卓越したものであることが容
易に理解できる。
なお,ビフェントリンとの比較もされているが,当該公知殺虫化合
物との二次的殺滅効果の差は,当該甲12のデータのみならず,甲8
ないし甲10においても十分言い尽くされている。
c被告が参照する乙6(米国特許出願公開第2009/030462
4号明細書)の表4及び段落【0100】の記載は,共同住宅に出没
するファラオアリの蔓延性試験についてのものであり,蟻巣の個体群
の二次的殺滅効果の試験ではない。よって,被告の乙6に基づく反論
は,共同住宅に出没する蟻の殺虫効果と蟻巣個体群の二次的殺滅効果
とを混同するもので,当を得たものではない。
また,本願明細書には,その実施例1において,本願発明1のフィ
プロニルの二次的殺滅効果が99%以上の駆除率であることが明確に
記載されており,フィプロニルが他の殺虫化合物より殺虫効果が優れ
ている点は記載されている。比較試験は,審決が本願発明1の二次的
殺滅効果を十分に理解していないために提出したもので,本願発明1
の要旨を変更するものでもなく,本願明細書に基づく主張である。
(カ)以上のとおり,本願発明1のフィプロニルによる蟻巣の二次的殺滅効
果は,他の殺蟻剤と比較して,当業者が予測し得ないほどに顕著なもの
である。
本願発明1は,蟻巣の個体群を二次的に殺滅ないし防除する上におい
て,殺蟻剤として「フィプロニル」を選択したことに意義があり,かか
る意義を真正面から審理しなかった審決は審理不尽の誹りを免れない。
,()前記アのとおり本願発明1は引用例に記載された発明引用発明1
ということはできず,かつ,本願発明1のフィプロニルの二次的殺滅効
果は当業者が予測し得ないほどに顕著なものであるという点において,
引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることがで
きたものともいえないものである。
審決は,本願発明1のフィプロニルの二次的殺滅効果の検討を怠り,
誤った結論に到達したものであるから,取消しを免れない。
ウ取消事由3(本願発明2と引用発明2との相違点の看過−その1)
(ア)本願発明2は,特許請求の範囲(請求項2)において「同種の個体,
群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する蟻を防除する方法で
あって,100㎡当り0.001∼20gの請求項1に記載の化合物の
有効量で該蟻が出現する1以上の区域を処理することを含み,該区域は
該共同生息場所の外に位置するが,前記蟻が徘徊する場所である前記方
法」と記載されている。。
上記記載中「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所,
を有する蟻」は「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場,
所に存する蟻」と同義であり,そのように解すべきである(下線部が記
載の文言上形式的に異なる。。)
なお,本件は「特許請求の範囲の記載の技術的意味が一義的に明確,
に理解することができない」場合又は「一見してその記載が誤記である
ことが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかである」場合に相当す
る。
(イ)本願の発明の詳細な説明の欄に記載されている発明が,蟻個体群を撲
滅ないし防除する方法に係るものであることは疑いがない。特許法上,
特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説
明に記載したものであることが要求される(同法36条6項1号。言)
い換えれば,特許請求の範囲に記載した発明は,発明の詳細な説明に記
載したものと同一でなければならない。
本件では,明細書の発明の詳細な説明には「蟻個体群の防除方法」,
に係る発明が記載されているのであり,本願発明2も,本願発明1と同
様に「蟻個体群を防除する方法」と解しなければならないのである。
本願請求項2と同様の記載として,本願明細書8頁1∼9行に「そ,
れ故本発明はまた,同種の大きな個体群と共に生活する共同の巣または
生息場所を持つ蟻・・・のような社会性昆虫がしばしば通るあるいはし
ばしば通ると推定される1区域あるいは複数の区域の,有効用量,好ま
しくは100㎡当り0.001∼20gの用量による処理を含み,かか
る区域は前記の共同生息場所の外に位置するが,ゴキブリが徘徊するあ
るいは徘徊すると推定される場所である」との記載がある。発明の詳。
細な説明中の当該記載の前後の文脈を併せて考慮すれば当該記載が同,「
種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所に存する蟻」と同義
,。でありそのように解すべきであることも容易に理解し得るはずである
なお,本願発明の課題の記載からすれば,当該課題を達成するために
は,本願発明2は「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場
所に存する蟻」を防除する方法又は「蟻個体群」を防除する方法でなけ
ればならないことは明らかである。
さらに,本願の特許請求の範囲において,請求項2を引用する従属請
求項3∼9,11及び12を参照しても,上記と同様である。例えば,
請求項3の「蟻の個体群全体を防除しうる量である,請求項5の「処」
理する蟻塚当り,請求項8の「全個体群,請求項9の「防除される蟻」」
の個体群が同じ蟻塚の中で生活している蟻の個体群である,請求項1」
「,,3のもっぱら蟻を対象とし蟻が存在する可能性のある区域において
それらの大きさに応じてあらかじめ設けられた開口部がある餌を入れて
閉じた箱の中に該組成物を置くことによって該組成物を適用する」との
記載は,請求項2に記載の発明が「蟻個体群の防除方法」に係るもので
あることと整合する。
なお,被告主張のように,請求項2の「∼を有する蟻」を「∼に存す
る蟻」又は「蟻個体群」と解することができないならば,請求項2は,
従属請求項3ないし9,11及び12に記載の「蟻個体群の防除方法」
の発明を包含していないことになるとの矛盾が生じる。よって,当該従
属請求項記載の「蟻個体群の防除方法」の発明を包含するように,請求
項2の「∼を有する蟻」を「∼に存する蟻」又は「蟻個体群」と解する
のが妥当である。
このほか,本願発明2の説明を総合すれば「∼を持つ蟻」を「∼に,
存する蟻」と解し得るのであり,被告の主張は,一つの記載のみにこだ
わって,本願発明2の本質あるいは全体を捉え損なったものである。
仮に,本願発明2の記載に若干不明瞭なところがあるとしても,それ
は特許法36条6項1号の規定に係る瑕疵であって,審決にいう同法2
9条1項3号あるいは同条2項に係る問題ではない。
,,,,よって本願発明1と同様本願発明2においても引用発明2とは
「蟻の防除の方法について,本願発明2が『蟻個体群』の防除の方法で
あるのに対し,引用発明2はその点が明らかではない点」を相違点の一
つ(相違点ウ)として認定しなければならない。’
審決は,相違点ウ’を看過した点に誤りがあり,それが,審決の結論
に重大な誤りをもたらしたものである。
(ウ)前記アのとおり,本願発明2の蟻個体群の防除のためには,殺蟻剤は
「遅延毒性」を有するものであることが必要であるところ,これは引用
例には記載されておらず,かつ,同引用例及び他の先行技術文献を併せ
考慮しても,容易に想到し得るものではない。
また,前記イのとおり,本願発明2の殺蟻剤として「フィプロニル」
を選択することにより,当業者には予測し得ない卓越した二次的殺滅効
果が奏される。
これらの事情を勘案すれば,本願発明2は,特許法29条1項3号の
新規性及び同条2項の非容易想到性を共に具備する発明といわなければ
ならない。
審決は,上記の相違点ウ’を看過したことにより,結局,結論におい
て誤った法の適用をしたものであるから,取消しを免れない。
エ取消事由4(本願発明2と引用発明2との相違点の看過−その2)
(ア)本願発明2は「社会性昆虫である蟻の蟻塚の個体群の撲滅,すなわ,」
ち「蟻塚の二次的殺滅」との関連において,特に殺虫化合物として「フ
ィプロニル」を選択したことに特徴がある。
そして,本願発明2は,引用発明2が屋内外を徘徊するアリを防除す
る方法であるのに対し,社会性昆虫である蟻の蟻塚の個体群を撲滅ない
し防除(蟻塚の二次的殺滅)する方法との関連において,殺虫化合物と
して「フィプロニル」を選択したという点において,引用発明2と相違
点(以下「相違点エ」という)を有する。’。
本願明細書の「発明の詳細な説明」の記載に照らし,本願発明2の技
術的課題が「社会性昆虫である蟻の蟻塚の個体群の撲滅」あるいは「蟻
塚の二次的殺滅」にあることは明らかである。
他方で,引用例(甲1)は,一般式(I)で表される新規なN−フェ
ニルピラゾール誘導体(請求項1)の殺虫性化合物に係る発明を記載し
ているが,引用例において同誘導体が蟻を防除する場所は,蟻の巣ない
し蟻塚でないことは明らかである。すなわち,引用例には,蟻塚の個体
群の撲滅が記載されているということはできない。
,(,(イ)組成物実施例8の殺虫化合物は5−アミノ−3−シアノ−1−2
6−ジクロロ−4−トリフルオロメチルフェニル)−4−トリフルオロ
メチルチオピラゾールであって,本願発明2の殺虫化合物であるフィプ
ロニルではない(フィプロニルはスルフィニル体であって,チオ体では
ない。。)
すなわち,引用例の組成物実施例8は,本願発明2の殺虫化合物を混
合した餌を屋内外を徘徊する蟻に適用したものではない。
加えて,本願発明2の殺虫化合物は,当該発明の技術的課題が「社会
性昆虫である蟻の蟻塚の個体群の撲滅」にあることから,下記のとおり
「遅延毒性」を具有するものでなければならないところ,組成物実施例
8はこの点についても何も記載していない。組成物実施例8に具体的に
記載のチオ殺虫化合物が「遅延毒性」を有するか否かは,引用例の記載
からは窺い知ることができない。
よって,蟻の習性及び組成物実施例8の記載をもってしても,社会性
昆虫である蟻の蟻塚の個体群の撲滅のために殺虫化合物であるフィプロ
ニルを使用するという本願発明2の発明概念は想到できない。
(ウ)蟻が餌を巣に持ち帰る習性を利用して,巣の中にいる蟻を含む蟻の個
体群全体を殺虫成分を含む餌により防除する二次的殺滅においては,当
該殺虫成分が「遅延毒性」を有することが必要である(甲2参照。)
しかし,引用例には,フィプロニルがかかる遅延毒性を有するか否か
についての記載はない。
しかも,蟻塚の二次的殺滅効果を上げるためには,単に「遅延毒性」
を有することだけでなく,当該殺虫化合物が所要の二次的殺滅効果を有
するものでなければならない。
この点,前記イのとおり,本願発明2の殺虫化合物「フィプロニル」
,,,が極めて高い二次的殺滅効果を示すものであるのに対し引用例には
フィプロニルの二次的殺滅効果についての記載は何もない。
本願発明2のフィプロニルが蟻巣の二次的殺滅に必要な「遅延毒性」
を有すること,及びその二次的殺滅効果が当業者が予測し得ないほどに
「顕著」であることは,前記ア,イ記載のとおりである。
(エ)以上のとおり,本願発明2は,社会性昆虫である蟻の蟻塚の個体群の
撲滅に際し「遅延毒性」を有し,かつ,蟻塚の「二次的殺滅効果」が,
大である殺虫化合物として「フィプロニル」を選択したことに重大な意
義がある発明である。
これに対し,引用例は,本願発明2の殺虫化合物である「フィプロニ
ル」が具有する「遅延毒性」及び「二次的殺滅効果」という属性につい
て何も記載するところがなく,またこれらを想到させるような記載もな
い。
よって,本願発明2の社会性昆虫である蟻の蟻塚の個体群の撲滅とい
う課題達成における「フィプロニル」の選択は,引用例の記載から当業
者が容易に発明し得るものではない。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,当事者参加人主張の取消事由はいずれも理由
がない。
(1)取消事由1に対し
ア「蟻が餌を巣に持ち帰る習性を利用して,巣の中にいる蟻を含む蟻の個
体群全体を殺虫成分を含む餌により防除する周知の方法(二次的殺滅効」
果)において,当該殺虫成分が「遅延毒性」を有することが必要であるこ
とは,周知であり,審決でも当然の前提としている。
そして,引用例に,フィプロニルの蟻に対する「遅延毒性」が記載され
ていることは,以下のとおり,当業者に明らかである。
イ引用例(甲1)には「一般式(I)を有する化合物を有効量用いて場,
所を処理することを特徴とするある場所に存在する節足動物・・・を防除
する方法(摘示1−a「ゴキブリ,アリ及びその他の節足動物害虫を」),
防除するために・・・使用される(摘示1−g)と記載され「特に好ま」,
しい一般式(I)を有する化合物」として,化合物1(化合物52である
「フィプロニル」の「スルフィニル(S=O)部分が「チオ(S)であ」」
る化合物であるので,以下「チオ−フィプロニル」ということがある)。
と共に,化合物52(フィプロニル)が挙げられている(摘示1−d,1
−e,1−m。)
また,処理の手段としては「餌」が挙げられ(摘示1−i,組成物実)
施例8として,チオ−フィプロニルを混合した「食餌」を「蟻・・・等の
節足動物により汚染された台所,病院,商店等の家屋敷及び事業所建物並
びに屋外に分配した(摘示1−l)ことが記載されている。」
よって,引用例には,審決において認定したとおり,引用発明1の「餌
と化合物5−アミノ−3−シアノ−1−(2,6−ジクロロ−4−トリフ
ルオロメチルフェニル−4−トリフルオロメチルスルフィニルピラゾー
ル)を有効量用いて場所を処理する,ある場所に存在するアリ等の節足動
物を防除する方法」が記載されているといえる。
ウ確かに,摘示1−kにおける「以上の方法に従って化合物1∼10,1
2∼23,25∼27,31∼57,59∼70,76∼79,81∼8
8,90∼92,96,101を施用したところ,Plutellaxylostella
の幼虫に対して500ppm未満の濃度で少なくとも65%の死亡率を示し
た」というのは,その直前の「Spodopteralittoralis」の幼虫に関する
「2日後生存している幼虫を寒天中に置いた未処理の葉を含む類似の皿に
移した。2∼3日後皿を恒温(25℃)室から取出し,幼虫の死亡率の平
均を求めた」という実験の結果ではないので,審決の記載内容(審決10
頁25∼33行,11頁下から4行∼12頁5行)に誤記があることは認
める。
しかし,審決の記載内容に誤記があっても,引用例にフィプロニルの蟻
に対する「遅延毒性」が記載されていないことにはならず,審決の結論に
影響を及ぼすものでもない。
審決において,引用例の摘示1−kを挙げた趣旨は,引用発明1の餌と
フィプロニルを用いて蟻を防除する方法が,周知の方法である「巣の中に
いる蟻を含む蟻の個体群全体を殺虫成分を含む餌により防除する」方法で
あることが明らかであることをより詳細に説明するためのものであって,
審決で指摘したPlutellaxylostellaの幼虫に対してフィプロニルを適用
した場合においても「遅延毒性」を示すことは,後記エのとおり,当業者
に明らかであるから,審決の一部に誤記があったとしても,引用例にフィ
「」。プロニルの蟻に対する遅延毒性が記載されていないことにはならない
エ審決における摘示1−kの「Plutellaxylostellaの幼虫」に対する結
果は,正しくは「(a)試験種」として「処理から4∼5日後恒温(25,,
℃)室から取出し,幼虫の死亡率の平均を求めた」ことによるものであっ
て,(c)試験種のように「2日後生存している幼虫を寒天中に置いた未処,
理の葉を含む類似の皿に移した。2∼3日後皿を恒温(25℃)室から取
出す」ようなものではない。
しかし,(a)試験種の「4∼5日後」とは(c)試験種において測定まで,
に要する日数と同程度であり,仮に速効性(急性毒性)を測定するのであ
れば「4∼5日後」まで待つ必要がないのは当然であることを考慮すれ,
ば,(c)試験種のように,特に「2日後生存している幼虫を」移すという
,(),「」操作が記載されていなくとも速効性急性毒性ではなく遅延毒性
の結果を示しているといえるのである。
よって審決で指摘した摘示1−kに記載されたPlutellaxylostella,,「
の幼虫」に対してフィプロニル(化合物52)を適用した場合も「遅延毒
性」を示すことは当業者に明らかである。
オそして,引用例には「蟻等の節足動物の防除の方法」について記載さ,
れているところ「試験1」からみて,Plutellaxylostella(コナガ,,)
Phaedoncochleariae(甲虫,Megouraviciae(アブラムシ)及び)
Spodopteralittoralisという種の異なる広範な節足動物(昆虫)に対し
て,2日後又は4∼5日後の幼虫の死亡率が,500ppm未満の濃度で,
少なくとも65%,高いものでは少なくとも90%の死亡率を示すことが
裏付けをもって記載されていると理解できる。加えて,上記「試験1」で
は,一般式(I)の化合物のうち,チオ−フィプロニル(化合物1)及び
フィプロニル(化合物52)を含む化合物1∼92,96,101がそれ
ぞれの試験に用いられており,これらの化合物は「特に好ましい一般式,
(I)を有する化合物(摘示1−d及び引用例の7頁右上欄末行∼11」
頁右下欄下から3行)として例示されているうちの大部分に当たるから,
一般式(I)の化合物はいずれも互いに同様の遅延毒性を発現することが
理解できる。
したがって,チオ−フィプロニル及びフィプロニルを含む一般式(I)
,「」の化合物はいずれも蟻を含む広範な節足動物の幼虫に対する遅延毒性
を示すことは当業者に明らかである。
カなお,前記イのとおり,引用例にフィプロニルによる「蟻」の防除方法
,,,が記載されており当事者参加人も認めるところであるから引用例には
フィプロニルの蟻に対する殺虫活性についても当然に記載されているとい
える。
そして,前記オのとおり,フィプロニルを含む一般式(I)の化合物は
いずれも,蟻を含む広範な節足動物の幼虫に対する「遅延毒性」を有する
ことが当業者に明らかであるところ,後述のとおり,上記摘示1−lにお
ける食餌として蟻に与える態様は,蟻の巣に持ち帰る習性を利用している
ことが明らかであるから,引用例には「遅延毒性」を要する条件での蟻,
への施用についても記載されているといえる。
よって,引用例には,フィプロニルの蟻に対する殺虫活性について具体
的に記載されており,フィプロニルが蟻に対して「遅延毒性」を示すこと
も当業者に明らかである。
キなお,知財高裁平成20年(行ケ)第10302号判決において「イ,
ミダクロプリドの殺虫作用について生物試験の実施例の記載がないことを
考慮してもなお,刊行物1・・には,イミダクロプリドが具体例として例
示される上記ニトロイミノ誘導体が強力な殺虫作用を現すこと,同ニトロ
イミノ誘導体が広範な種々の害虫の防除のために使用できること,その害
虫類の具体例として,ヤマトシロアリ,イエシロアリが挙げられること,
が記載されていると認めることができる。このことは,一般に,化学物質
の害虫に対する防除効果が害虫の種類によって大きな差異があることを指
摘しても,左右されるものではない」と説示されるとおり,引用例に,。
蟻に対する具体的な生物試験の実施例が記載されていないとしても,前記
のとおり,フィプロニルの広範な節足動物に対する「遅延毒性」が記載さ
れていること,フィプロニルを含む一般式(I)の化合物を混合した食餌
を用いて蟻の防除に用いることが記載されていることなどを考慮すれば,
フィプロニルが蟻に対して「遅延毒性」を示すことは当業者に明らかであ
る。
以上のとおり,引用例に,フィプロニルの蟻に対する「遅延毒性」が記
載されていることは,当業者に明らかである。
ク乙1(株式会社小学館「万有百科大事典20動物」29∼32頁,)
乙2(特開昭62−164605号公報)の記載からすれば,蟻類は,専
ら働き蟻が餌を巣外で入手し,巣に持ち帰って,巣の中の蟻の個体群に分
配されることが周知である。
また,乙3(特開平7−252108号公報)の記載からすれば,蟻類
等の社会性又はコロニー形成性昆虫類を防除する場合には,急性作用殺虫
剤を適用して単独の個体を急速に死滅させることは,上記の蟻の生態から
みても意味がなく,遅効作用を有する物質が混合された食餌を用いること
が適していることは常識である。
また,甲2ないし甲4,乙4(特開昭61−106505号公報)及び
乙5(特開昭63−270605号公報)の記載からみても,殺蟻剤を混
合した食餌は,巣の外の働き蟻の通り道に載置されるのが通常であり,そ
の理由は,蟻の社会性昆虫としての特性,すなわち,専ら働き蟻が餌を巣
外で入手して巣に持ち帰り,巣の中の蟻の個体群,例えば女王蟻及び幼虫
に分配するという習性にかんがみて,餌を巣に持ち帰ることを前提として
いるからにほかならない。
なお「蟻が個体群を形成すること「蟻が餌を巣に持ち帰る習性を利,」,
用して,巣の中にいる蟻を含む蟻の個体群全体を殺虫成分を含む餌により
」,。防除する方法が周知であることは当事者参加人も認めるところである
そうすると,引用例の摘示1−lにおける「組成物実施例8」に記載さ
れるように,化合物を混合した食餌を用いて「蟻等の節足動物を防除する
ために・・・屋外に分配」する以上,上記蟻の社会性昆虫としての特性,
,,にかんがみて食餌を巣に持ち帰ることを前提としていることは明らかで
むしろ,その場で摂取した蟻のみを死亡させるために食餌を適用すること
は考えられない。
そして,前記アないしキのとおり,引用例には「遅延毒性」について,
,「」,も記載されているといえるから組成物実施例8における適用手段が
上記蟻の社会性昆虫としての特性を前提としていることと何ら矛盾しな
い。
よって,引用発明1の餌とフィプロニルの混合物を用いた「蟻の防除の
方法」は,実質的に「蟻の個体群の防除の方法」であるといえる。
また,引用例に「蟻の個体群の防除の方法」という明示の記載がないこ
とが実質的な相違点であるとしても,上記のとおり「蟻の防除方法」と,
して,周知の蟻の習性を明示し「蟻の個体群の防除の方法」と規定した,
,。にすぎないものであり当業者が容易に想到することができたものである
したがって,相違点アについては,審決に記載したとおり,引用例に記
,,載されている殺虫成分を含む餌は蟻が餌を巣に持ち帰る習性を利用して
巣の中にいる蟻を含む蟻の個体群全体を殺虫成分を含む餌により防除する
方法に用いるためのものであることが明らかであるから,引用発明1には
「蟻個体群」の防除の方法が記載されているに等しいか,又は,引用例の
記載及び周知技術を考慮して,引用発明1において,蟻の防除の方法につ
いて「蟻個体群」の防除の方法とすることは,当業者が容易に想到し得る
ことである。
なお,前述のとおり,巣の幼虫や女王蟻も,食餌を経口摂取することは
明らかであるから「経口摂取により節足動物を防除するために」との記,
載から,直ちに「当該殺虫成分を直接摂取した,言い換えると,当該殺虫
成分と直接接触した蟻の防除を意味することが明らか」とはいえない。
また,当事者参加人が引用する知財高裁平成21年1月28日判決(平
成20年(行ケ)第10096号審決取消請求事件)は,引用発明のフェ
ノキシ樹脂について,その記載及び示唆のないビスフェノールF型フェノ
キシ樹脂を用いてみようとすることの容易想到性について判断するもので
ある。
他方で,本件では,本願発明1と引用発明1とは,化合物(フィプロニ
ル)と防除対象(蟻)について差異がないから,化合物を選択し置換する
ことの容易想到性を判断した上記判決とは事案が異なるというべきであ
る。
そして,本件での審決においては,本願発明1と引用発明1との相違点
アを含むすべての相違点について,容易想到性の判断を示しており,同判
断は,上記判決の説示するところと齟齬するところはない。
ケ以上のとおり,取消事由1には理由がなく,本願発明1と引用発明1と
の相違点アについての審決の判断には誤りがないほか,相違点イ及びウに
ついての審決の判断にも誤りはない。
(2)取消事由2に対し
ア審決は,本願発明1は「特許法29条1項3号に該当し,また「特許」
法29条2項の規定により,特許を受けることができない」とするが,特
許法29条1項3号(新規性)の判断にあっては,同一発明である以上,
同一の作用効果を示すのは当然であるから,作用効果は考慮する必要がな
いことは明らかである。
イ次に,特許法29条2項(容易想到性)の判断に当たっては,審決にお
いて「本願発明1が上記各相違点により格別顕著な効果を奏するものとも
認めるべき根拠も見いだせない(審決12頁23∼25行)としたこと」
に誤りはなく,また「二次的殺滅効果」については「第5−15請,,
求人の主張について(審決12頁28行∼13頁14行)で述べたとお」
りである。
すなわち,当事者参加人は「蟻が餌を巣に持ち帰る習性を利用して,,
巣の中にいる蟻を含む蟻の個体群全体を殺虫成分を含む餌により防除する
周知の方法」を「二次的殺滅効果」と称しているところ,前記(1)クのと
,,「」,,おり本願発明1は蟻の防除方法として周知の蟻の習性を明示し
「蟻の個体群の防除の方法」と規定したにすぎないものであり,また,前
記(1)アないしキのとおり,引用例には「二次的殺滅効果」に必要とされ,
るフィプロニルが蟻に対する「遅延毒性」を有することが記載されている
ことが当業者に明らかであるから,本願発明1の効果については,当業者
の予測を超える格別顕著なものであるとはいえない。
ウまた,フィプロニルを蟻に適用した場合の防除効果は,引用例の記載か
らみて当業者の予測を超える格別顕著なものではない上本願明細書甲,,(
7の1)の実施例1及び甲8∼12を参酌しても,以下のとおり,本願発
明1によって奏される効果が当業者の予測を超える格別顕著なものという
ことはできない。
すなわち,本願明細書(日本国特許庁に提出された翻訳文,甲7の1)
には,実施例1について記載されており,同実施例は,蟻塚の蟻について
「99%以上の駆除率を認めた。特に幼虫はすべて死滅していた」とい。
,,,う効果を奏するものであるが前記イ及び前記(1)エのとおり引用例に
フィプロニルが蟻に対して「遅延毒性」を示すことが記載されているのは
当業者に明らかであり,広範な節足動物に対して,2日後又は4∼5日後
の幼虫の死亡率が,500ppm(約0.05重量%)未満の濃度で,少
なくとも65%,高いものでは少なくとも90%の死亡率というような強
力な殺虫効果を示すことが記載されているから,上記実施例1は,フィプ
ロニルを実際に蟻に適用して,他の節足動物と同様に優れた殺虫活性を有
することを確認したにすぎず,当業者の予測を超える格別顕著な効果とは
いえない。
また,甲8ないし12は,蟻の防除について種々の実験を行い,特に,
フィプロニルと他の殺蟻剤との比較を行ったものと認められる。
しかし,前述のとおり,引用例に,フィプロニルが蟻に対して「遅延毒
性」を示すことが記載されているのは当業者に明らかであり,広範な節足
動物に対して強力な殺虫効果を示すことが記載されているから,甲8ない
,,し12記載の実験は引用例に記載されている発明の単なる追試にすぎず
蟻にフィプロニルを実際に適用し,引用例に示されているように,他の節
足動物と同様に優れた殺虫活性を有することを単に確認したにすぎないも
,。,のであってその効果は当業者の予測を超えるものとはいえないそして
引用例にフィプロニルによる上記強力な殺虫効果が記載されている以上,
フィプロニルを使用する点については相違点とはならないから,選択発明
を検討する余地はなく,他の殺蟻剤と比較しても,本願発明1の効果の顕
著性を示すことにはならない。
エしかも,甲8ないし10は,以下のとおり,本願発明1を再現したとは
いえず,本願発明1の効果の検討に当たっては,これらを採用することは
できないというべきである。
まず,甲8ないし10は,いずれも餌とフィプロニルを含む組成物を適
用するものではないから,本願発明1の効果を確認することはできない。
また,たとえ当事者参加人が主張するように「甲8ないし10の結果は,
フィプロニルが・・・β−シフルトリンまたはビフェントリン等と比較,
して,極めて高い二次的殺滅効果を有する」ことを確認するためのものと
しても,前記ウのとおり,その効果が当業者の予測を超えるものとはいえ
ない。
また,甲11(宣誓書)のフィプロニルについての実験結果も,当業者
の予測の範囲内の効果であり,格別顕著なものとはいえない上,甲11の
著者(ギュンター・ネントヴィヒ氏)を発明者に含む米国特許出願公開第
2009/0304624号明細書(乙6,優先権主張2006年3月1
1日)の記載によれば,0.05%のイミダクロプリド(甲11において
殺昆虫活性物質として用いられている)もファラオアリに対し2週間で。
100%防除の強力な殺昆虫活性を有するという,甲11の実験結果とは
異なる結果も得られている。さらに,フィプロニルがイミダクロプリド等
の他の殺虫化合物より殺虫効果が優れている点は本願明細書に一切記載さ
れておらず,当事者参加人が主張する他の殺蟻剤と比較した「フィプロニ
ルの極めて高い二次的殺滅効果」についての主張は,そもそも本願明細書
に基づく主張ではなく,認められない。
なお,乙6には「本発明の関係では,イミダクロプリド(・・・)及,
()。」びフィプロニル・・・が殺昆虫活性物質として非常に特に好ましい
(段落【0077)と記載されているものの,フィプロニルが殺虫活性】
を有する活性物質として特に好ましいことを裏付ける試験結果は一切記載
されていない。
このことは,本願優先日である1996年1月29日から10年を経た
後でさえ,イミダクロプリドとフィプロニルは同様の殺昆虫活性を有する
活性物質として認識されていたことを示しており,また,仮に,フィプロ
ニルが極めて高い二次的殺滅効果を奏するとしても,それは,本願優先日
より10年以上経た後に得られた知見であって,本願明細書に記載された
技術事項ではない。
,,「」,このほか甲12記載の実験で使用した蟻はすべて働き蟻であり
自力で餌を入手できる蟻であるから「蟻個体群の防除の方法」の作用効,
果を示す実験ではなく,本願発明1の効果を確認することができない。ま
た,たとえ当事者参加人が主張するように,甲12の実験が「フィプロニ
ルの極めて高い二次的殺滅効果」を確認するためのものであるとしても,
前記ウのとおり,その効果が当業者の予測を超えるものとはいえない。
オ以上のとおり,本願発明1によって奏される効果は,当業者の予測を超
えるものとはいえず,本願明細書の実施例1及び甲8ないし12を参酌し
ても,格別顕著なものということができない。よって,審決には,当事者
参加人が主張する「作用効果の看過」はなく,取消事由2は理由がない。
(3)取消事由3に対し
ア特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意
味が一義的に明確に理解することができないとか,一見してその記載が誤
記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど,発
明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情がない限り,
特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。
その観点で本願発明2の記載についてみると「同種の個体群と共に生,
活する共同の巣または生息場所を有する蟻」という記載はそれ自体明確で
あり,発明の詳細な説明の記載を参酌すべき特段の事情があるとはいえな
,,。いから本願発明2は請求項2の記載に基づいて認定されるべきである
そして,請求項2には「∼に存する蟻」との記載も「蟻個体群」との,,
記載もなく「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有,
する蟻を防除する方法」が「蟻個体群を防除する方法」と同義であると,
いうこともできない。
,,(),なお後記ウのとおり本願明細書甲7の1の発明の詳細な説明に
本願発明2の「∼を有する蟻」が「∼に存する蟻」又は「蟻個体群」を,
意味するとの定義が存するともいえないので,たとえ,発明の詳細な説明
の記載を参酌しても「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息,
場所を有する蟻を防除する方法」が「蟻個体群を防除する方法」と同義,
であるとはいえない。
よって,当事者参加人が「相違点ウ」とした相違点は存せず,本願発’
明2についての相違点の看過はない。
イ「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する蟻」を
「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所に存する蟻」と同
義であると解釈すると,以下のとおり,明らかな矛盾が生じることになる
ため,当事者参加人の主張は失当である。
すなわち,当事者参加人の主張によれば,本願発明2は以下のようなも
のとなる。
「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所に存する蟻を防除
する方法であって・・・該蟻が出現する1以上の区域を処理することを,
含み,該区域は該共同生息場所の外に位置するが,前記蟻が徘徊する場所
である前記方法」。
ここで,本願発明2における「該蟻」及び「前記蟻」とは,当然に「同
種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所に存する蟻,すなわ」
ち「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所」である地中や
蟻塚などの内部に存する蟻,を意味するところ,本願明細書(甲7の1)
の記載からみて「該蟻が出現する1以上の区域を処理することを含み,該
区域は該共同生息場所の外に位置するが,前記蟻が徘徊する場所」とは,
地中や蟻塚などの内部において出現したり徘徊したりする場所を処理する
ことを意味するのではなく,地中や蟻塚の外部の地表において出現したり
徘徊したりする場所を処理することを意味すると解するほかはないので,
同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する蟻を同「」「
種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所に存する蟻」と同義で
あると解釈すると明らかな矛盾が生じるから「同種の個体群と共に生活,
する共同の巣または生息場所を有する蟻」が「同種の個体群と共に生活す
る共同の巣または生息場所に存する蟻」と同義であるといえないことは明
らかである。
ウまたたとえ発明の詳細な説明を参酌したとしても本願発明2の∼,,,「
を有する蟻」が,当然に「∼に存する蟻」又は「蟻個体群」と解すべきと
はいえない。
すなわち,本願明細書(甲7の1)の発明の詳細な説明には「それ故,
本発明はまた,同種の大きな個体群と共に生活する共同の巣または生息場
所を持つ蟻,雀蜂またはゴキブリ(但し好ましくはゴキブリ)のような社
会性昆虫に対する駆除の方法に基づいており,かかる方法は,該社会性昆
虫(好ましくはゴキブリ)がしばしば通るあるいはしばしば通ると推定さ
,,.れる1区域あるいは複数の区域の有効用量好ましくは100㎡当り0
0001∼20gの用量による処理を含み,かかる区域は前記の共同生息
場所の外に位置するが,ゴキブリが徘徊するあるいは徘徊すると推定され
る場所である」との記載があり(8頁1∼9行,ここで述べられている。)
のは,同種の大きな個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を持つ
蟻やゴキブリ等の社会性昆虫が徘徊するあるいは徘徊すると推定される場
所を処理するということであり「∼に存する蟻」を処理するなどと解す,
る余地は全くない。
よって,本願発明2は,発明の詳細な説明に記載されたものであり,上
記のように異なる意味と解すべきであるとする根拠は見いだせない。
エまた,本願明細書(甲7の1)における発明の課題についての記載から
すれば,本願に係る発明の課題は,主に「蟻塚の中あるいはより一般的に
は該社会性昆虫の巣または生息場所に存在する幼虫,卵を産む雌の駆除を
保証すること」及び「蟻のような社会性昆虫の個体群の全部あるいはほぼ
全部の決定的な駆除を可能にする方法を提示すること」であるといえ,同
様に「居住場所のすぐ近くにおける蟻の列の存在あるいは通過が人に対,
して引き起こす不快感」を減少させることも課題の一つに挙げられるとい
,「」うことができ居住場所のすぐ近くにおける蟻の列の存在あるいは通過
とは「共同生息場所の外に位置するが,前記蟻が徘徊する場所」である,
から,そのような場所において存する課題についても示されているといえ
る。
そして,上記の課題の解決のために,本願発明1及び本願発明2の独立
した二つの発明が特許請求されているところ,このうち,本願発明2は,
「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する蟻を防除
する方法であって,100㎡当り0.0001∼20gの請求項1に記載
の化合物の有効量で該蟻が出現する1以上の区域を処理することを含み,
該区域は該共同生息場所の外に位置するが,前記蟻が徘徊する場所である
前記方法」であって,つまり「同種の個体群と共に生活する共同の巣ま。,
たは生息場所を有する蟻」を防除する方法において,その化合物の処理量
(100㎡当たり0.0001∼20g)及び処理区域(該共同生息場所
の外に位置するが,前記蟻が徘徊する場所)を特定したものであり,これ
らの特定が,上記の課題の解決手段であるといえるから,発明の詳細な説
明に記載された発明の課題の点からみても,本願発明2を請求項2の記載
のとおりに解することに何ら不自然な点はなく,本願発明2の記載を異な
る意味で解すべきとする理由はない。
また,本願発明1と本願発明2は,独立した二つの発明であり,発明の
単一性の要件を満たす限りにおいて,一の出願で,同じ課題に対し解決手
段の異なる二つ以上の発明を請求することは特許法上許されるから,本願
発明1が「蟻個体群の防除の方法」であるからといって,本願発明2を同
様に解しなければならない理由はない。
このほか,請求項2を引用する従属請求項3に「蟻の個体群全体を防除
しうる量である」との記載があるとしても,従属請求項に係る発明を包含
する本願発明2が「蟻個体群の防除方法」に係るものと限定して解しな,
ければならない理由にはなり得ない。
以上のとおり,たとえ発明の詳細な説明を参酌したとしても,本願発明
2の「∼を有する蟻」が,当然に「∼に存する蟻」又は「蟻個体群」と解
すべきであるとはいえない。
よって,当事者参加人が主張する「相違点ウ」が認定されるべきとす’
ることはできず,本願発明2は「同種の個体群と共に生活する共同の巣,
または生息場所を有する蟻」を防除する方法において,その化合物の処理
量(100㎡当たり0.0001∼20g)及び処理区域(該共同生息場
所の外に位置するが,前記蟻が徘徊する場所)を特定したものであるとこ
ろ「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する蟻」,
については,審決で述べたように,蟻の「同種の個体群と共に生活する共
同の巣または生息場所を有する」という周知の習性をいうにすぎず,本願
発明2は,引用発明2とその点において相違することはなく,上記処理量
及び処理区域については,審決において相違点ア’及びイ’として挙げて
おり,その他に相違点は見いだせないから,本願発明2について相違点の
看過はない。
オ念のため,本願発明2の「蟻の防除方法」のうち,従属請求項3等に記
「」,載の蟻個体群の防除の方法に係る発明である場合について検討しても
引用例に「蟻の個体群の防除の方法」が記載されているに等しいといえる
か,そのように規定することは,周知技術に基づき,当業者が容易に想到
し得ることは前記(1)のとおりであり,作用効果についても前記(2)のとお
りであるから,上記の場合においても,審決における相違点についての判
断が左右されることはない。
カ以上のとおり,取消事由3は理由がない。
(4)取消事由4に対し
ア当事者参加人は「本願発明2は,引用発明2が屋内外を徘徊するアリ,
を防除する方法であるのに対し,社会性昆虫である蟻の蟻塚の個体群を撲
滅ないし防除する方法との関連において,殺虫化合物として『フィプロニ
ル』を選択した点において,引用発明2と相違点を有する」と主張する。
が,本願発明2は「社会性昆虫である蟻の蟻塚の個体群を撲滅ないし防,
除する方法」と規定するものではないから,本願発明2と引用発明2との
間に「社会性昆虫である蟻の蟻塚の個体群を撲滅ないし防除する方法との
関連において」という相違点は存在せず,当事者参加人の上記主張は特許
請求の範囲に基づくものではなく,失当である。
イ(ア)審決において,引用発明2を「化合物5−アミノ−3−シアノ−1−
(2,6−ジクロロ−4−トリフルオロメチルフェニル)−4−トリフ
ルオロメチルスルフィニルピラゾール(注:フィプロニル」のこと)「
を有効量用いて場所を処理する,ある場所に存在するアリ等の節足動物
。」,,を防除する方法と認定したとおり引用発明2の認定に誤りはなく
「フィプロニル」は引用例に記載されているとして引用発明2を認定し
たのであるから「フィプロニル』を選択」するか否かは問題とはなり,『
得ず,上記相違点が存在し得ないことは明らかである。
また当事者参加人は引用発明2の認定について争っておらず殺,,,「
虫化合物として『フィプロニル』を選択したという点」という相違点の
看過がないことは明らかである。
(イ)念のため「フィプロニル」を用いるという引用発明2の認定に誤り,
がないことを,引用例の記載から確認する。
引用例(甲1)には,審決摘示の1−b,1−c,1−f,1−gに
より,一般式(I)の化合物が蟻を含む節足動物等を防除するために使
用されることが記載されており,摘示1−d,1−eに,化合物1,化
合物52(フィプロニル)等が特に好ましい一般式(I)を有する化合
物として挙げられており,摘示1−mに,化合物52を得たこと,摘示
1−kに,化合物1及び化合物52のいずれもが節足動物に対する防除
活性を有することが記載されている。
さらに,防除方法の一例として,摘示1−lに組成物実施例8が挙げ
られており「5−アミノ−3−シアノ−1−(2,6−ジクロロ−4,
−トリフルオロメチルフェニル)−4−トリフルオロメチルチオピラゾ
ール(化合物1)は,化合物52(フィプロニル)と共に,特に好ま」
しい一般式(I)を有する化合物として例示されており,しかも構造的
にも極めて類似している化合物である(摘示1−d,1−e)から,化
,(),合物52についても化合物52と餌を含む組成物食餌を作製して
経口摂取により蟻等の節足動物により汚染された台所,病院,商店等の
家屋敷及び事業所建物並びに屋外に分配する態様が想定されているとい
うことができる。
当事者参加人が「フィプロニル』を選択したという点」を相違点と『
主張する主な根拠は「組成物実施例8」が化合物1を混合した食餌で,
あり,本願発明2にかかる化合物52(フィプロニル)を混合した食餌
ではないことによると解される。
しかし,上記のとおり,化合物52も,化合物1と同様の防除活性を
有するものとして引用例に記載されている以上,組成物実施例8と同様
の態様を,化合物52に適用できることが記載されている又は記載され
ているに等しいことは明らかである。
よって「フィプロニル」を用いるという引用発明2の認定に誤りは,
ない。
ウ前記イのとおり「殺虫化合物として『フィプロニル』を選択したとい,
う点」については,引用発明2について審決で認定しており,本願発明2
との間に相違点は存在しない。
そして,前記アのとおり「社会性昆虫である蟻の蟻塚の個体群を撲滅,
ないし防除する方法との関連において」という相違点は,本願発明2との
間に存在しないが,前記(1)のとおり,引用例の記載から,フィプロニル
の蟻に対する「遅延毒性」があるといえること,組成物実施例8が,フィ
プロニルと同系統の化合物を混合した食餌を用いて「蟻等の節足動物を防
除するために・・・屋外に分配」するものである以上,蟻の社会性昆虫,
としての特性からみて,蟻に食餌を巣に持ち帰らせることを前提としてい
ることは明らかで,むしろ,単に,その場で摂取した蟻のみを死亡させる
ために食餌を適用するものであるとは考えにくいことをも勘案すると,引
用発明2においても「社会性昆虫である蟻の蟻塚の個体群を撲滅ないし,
防除する方法」という態様が包含されていることは明らかである。
してみると「社会性昆虫である蟻の蟻塚の個体群を撲滅ないし防除す,
る方法との関連において,殺虫化合物として『フィプロニル』を選択した
という点」を引用発明2との相違点とすることはできない。
エしたがって「本願発明2は,引用発明2が屋内外を徘徊するアリを防,
除する方法であるのに対し,社会性昆虫である蟻の蟻塚の個体群を撲滅な
いし防除する方法との関連において,殺虫化合物として『フィプロニル』
を選択したという点において,引用発明2と相違点を有する」との当事者
参加人の主張は誤りである。
オ当事者参加人は,このほかにも縷々主張するが,本願発明2は,本願発
明1と独立した異なる発明であるから,本願発明1の「蟻個体群の防除方
法」とは同列に論ずることができないのは明らかであり,本願発明2の発
明特定事項からは,本願発明2が「遅延毒性」を具備するものでなければ
ならないということはできず,当事者参加人の主張は前提において誤りで
ある。
そして,仮に本願発明2が「蟻の巣ないし蟻塚」を防除するという技,
術的課題を有するとしても前記ウのとおり引用発明2においても社,,,「
会性昆虫である蟻の蟻塚の個体群を撲滅ないし防除する方法」という態様
が包含されていることは明らかである。
カ以上のとおり,当事者参加人主張の取消事由4は理由がない。
第4当裁判所の判断
1請求の原因(1)特許庁等における手続の経緯(2)発明の内容(3)審(),(),(
決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2本願発明の意義
(1)本願明細書(甲7の1)には,以下の記載がある。
ア本発明は社会性昆虫,特に蟻,雀蜂およびゴキブリの個体群の防除方法
を対象とする(1頁3∼4行)。
イたとえば蟻の場合,かかる不都合は一般に居住場所内あるいはテラスや
庭園のような居住場所のすぐ近くにおける蟻の列の存在あるいは通過が人
に対して引き起こす不快感に由来する。そのような蟻の列が個人住宅に隣
接する芝生の上を通過することは,一部の種が加える咬むという行為のた
めに,かかる芝生に寝そべって休息をとりたいと願うその家の居住者にと
って特に著しく不快となりうる(1頁10∼16行)。
ウところで,蟻または雀蜂またはゴキブリ,特に蟻またはゴキブリのよう
な社会性昆虫によって引き起こされる不快および/あるいは被害は,その
ような昆虫の個体群が構成する時として極めて膨大な数,たとえば蟻の場
合,蟻塚の個体群における個体の膨大な数と直接比例する(2頁8∼1。
2行)
エ殺虫性化合物を用いて蟻または雀蜂またはゴキブリを駆除する方法が知
られている。しかし,これらの方法は必ずしも満足のいくものではない。
,。実際かかる方法はしばしば該当する個体群のごく一部しか駆除しない
たとえば蟻の場合,蟻塚の外へ食料を収集しに行く役割を担う働き蟻の一
部が駆除されるだけである。しかしながら,この部類の個体群の駆除は蟻
によって引き起こされる不都合を矯正するには十分ではない。実際上,蟻
の大きな繁殖能力と蟻塚の必要に応じた専門化の能力はこの駆除を速やか
に埋合わせることができ,新たな個体群の増加をもたらす(2頁13行。
∼3頁3行)
オ既知の方法はその他にも,特に蟻に関しては,蟻塚が一般に地表面の下
数十センチの深さに位置しているのでほとんどアクセスできないという事
実から,個体群のすべての個体を処理することが非常に困難であるという
不都合さを呈する。
本発明の目的はかかる不都合さを矯正することにある。
本発明のもうひとつの目的は,蟻塚の中あるいはより一般的には該社会
性昆虫の巣または生息場所に存在する幼虫の駆除を保証することである。
本発明のもうひとつの目的は,蟻塚の中あるいはより一般的には該社会
性昆虫の巣または生息場所に存在する,卵を産む雌の駆除を保証すること
である。
本発明のもうひとつの目的は,蟻または雀蜂またはゴキブリ,好ましく
は蟻またはゴキブリのような社会性昆虫の個体群の全部あるいはほぼ全部
の決定的な駆除を可能にする方法を提示することである。
以下に詳述する本発明の防除方法により,これらの目的が全面的あるい
は部分的に達成されうることが認められた(3頁4行∼4頁1行)。
カ本発明はそれ故,蟻または雀蜂またはゴキブリのような社会性昆虫の個
体群の小部に,餌と下記式(I)の化合物を含む組成物の有効量を適用す
,()ることを特徴とするかかる個体群の防除方法に関する:4頁2∼5行
キ蟻の個体群は,本発明の方法によって防除することができる社会性昆虫
個体群の範疇が特に好ましい(6頁13∼14行)。
ク蟻,雀蜂またはゴキブリのような社会性昆虫個体群の防除とは,本発明
の意味するところでは,前記の昆虫に対する駆除,特に該個体群の完全な
あるいはほぼ完全な撲滅,言い換えると,該個体群の60%以上,好まし
くは70%以上,さらに好ましくは95∼100%の撲滅と理解される。
(6頁15∼19行)
ケ本発明の方法において用いられる組成物の有効量とは,蟻または雀蜂ま
たはゴキブリの個体群のような社会性昆虫の個体群全体を防除しうる量と
理解される(7頁1∼3行)。
コ本発明の好ましい変形に従えば,社会性昆虫個体群が蟻の個体群である
時,本発明の方法に使用する組成物の有効量は,一般に式(I)の化合物
の用量が処理する蟻塚当り0.05∼50mg,好ましくは0.1∼20
mgとなるような量である。かかる有効用量は,個体群の防除を所望する
蟻の種に応じて,またそれらの種の性質によって異なる蟻塚の大きさと広
さに応じて,体系的試験によりこの範囲の間でより正確に決定することが
できる(7頁12∼19行)。
サそれ故本発明はまた,同種の大きな個体群と共に生活する共同の巣また
は生息場所を持つ蟻,雀蜂またはゴキブリ(但し好ましくはゴキブリ)の
ような社会性昆虫に対する駆除の方法に基づいており,かかる方法は,該
社会性昆虫(好ましくはゴキブリ)がしばしば通るあるいはしばしば通る
と推定される1区域あるいは複数の区域の,有効用量,好ましくは100
m当り0.0001∼20gの用量による処理を含み,かかる区域は前2
記の共同生息場所の外に位置するが,ゴキブリが徘徊するあるいは徘徊す
ると推定される場所である(8頁1∼9行)。
シ本発明に従った方法において使用される組成物を適用する個体群の小部
分は,一般に全個体群の1∼50%,好ましくは2∼20%である(1。
0頁3∼5行)
ス本発明の好ましい変形に従えば,本発明の方法によって防除することが
,。,できる蟻の個体群は同じ蟻塚内で生活する蟻の個体群であるこの場合
組成物を適用する個体群の小部分は,一般に,蟻塚の収穫働き蟻と呼ばれ
,。る蟻塚の外へ食料を収集しに行く役割を担う働き蟻によって構成される
(10頁6∼10行)
(2)以上の記載によれば,本願発明は,主として,社会性昆虫,特に蟻,雀蜂
及びゴキブリの個体群の防除を目的とするものであり,蟻塚の中やより一般
的に社会性昆虫の巣又は生息場所に存在する幼虫や雌の駆除,さらにはこれ
らの社会性昆虫の個体群の全部又はほぼ全部の決定的な駆除を可能にする発
明である。なお,本願発明においては,共同生息場所の外の,社会性昆虫が
しばしば通る又は通るであろう区域における駆除も予定されている。
3引用発明の意義
(1)一方,引用例(甲1)には,以下の記載がある。
・1.発明の名称「
N−フェニルピラゾール誘導体(1頁左下欄2∼3行)」
・2特許請求の範囲「
(1)一般式(I)
(中略)
を有するN−フェニルピラゾール誘導体であって,但し,Rがシアノ基1
234
であり,Rがメタンスルホニル基であり,Rがアミノ基であり且つR
が2,6−ジクロロ−4−トリフルオロメチルフェニル基である化合物を
除くことを特徴とする誘導体(1頁左下欄4行∼2頁左上欄13行)。」
・(12)請求項1に記載の一般式(I)を有する化合物を有効量用いて場所「
を処理することを特徴とするある場所に存在する節足動物,植物線虫,寄
生虫又は原生害虫を駆除する方法(5頁右上欄3∼6行)。」
・3.発明の詳細な説明「
,,本発明はN−フェニルピラゾール誘導体前記誘導体を含有する組成物
並びにN−フェニルピラゾール誘導体の節足動物(arthropod,植物線虫)
(),()()plantnematode寄生虫helminth及び原虫害虫protozoanpests
に対する使用に関する(6頁左上欄16行∼右上欄4行)。」
・前記化合物は,節足動物,植物線虫,寄生虫及び原虫害虫に対して有用「
な活性を有する。特に節足動物が前記化合物を摂取(ingestion)するこ
とによって有用な活性を呈する(6頁右下欄12∼15行)。」
・特に好ましい一般式(I)を有する化合物を以下に例示する。「
1.5−アミノ−3−シアノ−1−(2,6−ジクロロ−4−トリフル
オロメチルフェニル)−4−トリフルオロメチルチオピラゾール(7頁」
右上欄17行∼左下欄4行)
・52.5−アミノ−3−シアノ−1−(2,6−ジクロロ−4−トリフ「
ルオロメチルフェニル)−4−トリフルオロメチルスルフィニルピラゾー
ル(9頁右下欄1∼3行)」
・以下化合物を同定及び参照するために上記した化合物番号を使用する。「
(),,本発明により提供されるある場所locusにおける節足動物植物線虫
寄生虫又は原虫害虫を防除する方法は,一般式(I(式中,各シンボル)
は上に定義した通りである)を有する化合物の有効量を用いて(例えば施
用又は適用により)場所を処理することからなる(11頁右下欄17行。」
∼12頁左上欄6行)
・節足動物や線虫を防除するには,通常,節足動物または線虫に荒らされ「
ていてこれらを防除しようとする場所に対して,この処理する場所1ヘク
().。」タールha当たり活性化合物を約01∼25kgの割合で散布する
(14頁左下欄5∼9行)
・代表的な化合物について実施した節足動物に対する活性実験で次の結果「
が得られた。ここで,ppmは供試溶液の化合物濃度を百万分の一の単位で
示す(19頁右下欄13∼16行)。」
・試験1「
供試化合物の希釈は50%水性アセトン中で行なった。
(a)試験種:
Plutellaxylostella(コナガ)及びPhaedoncochleariae(甲虫)
カブの葉をペトリ皿中の寒天上に置き10匹の幼虫二齢のPlutella,(
又は三齢のPhaedon)を入れた。各処理について同じ皿を4個ずつ用い,
PotterTower中で適当な希釈試験溶液を噴霧した。
処理から4∼5日後恒温(25℃)室から取出し,幼虫の死亡率の平均を
求めた。これらのデータは,50%の水性アセトンだけで処理した皿をコ
ントロールとしてこのコントロールでの死亡率と比較した。
(b)試験種:
Megouraviciae(アブラムシ)
予めMegouraで感染させた豆科植物(pottedticbeanplants)に実験
用ターンテーブル噴霧器を用いて噴霧し,流出させた。供試植物を2日間
温室に入れ,アブラムシの死亡率を下記の基準に従って評価した。なお,
結果は50%の水性アセトンだけで処理したコントロール稙物の死亡率と
比較した。各処理を4回行った。
スコア3:アブラムシが絶滅した。
2:数匹のアブラムシが生存した。
1:殆どのアブラムシが生存した。
0:有意な死亡率を示さなかった。
(c)試験種:
Spodopteralittoralis
インゲンマメの葉をペトリ皿中の寒天上に置き,5匹の幼虫(二齢)を
入れた。各処理について同じ皿を4個ずつ用い,PotterTower中で適当
な希釈試験溶液を噴霧した。2日後生存している幼虫を寒天中に置いた未
処理の葉を含む類似の皿に移した。2∼3日後皿を恒温(25℃)室から
取出し,幼虫の死亡率の平均を求めた。これらのデータは,50%の水性
アセトンだけで処理した皿をコントロールとしてこのコントロールでの死
亡率と比較した。
,,,,,以上の方法に従って化合物1∼1012∼2325∼2731∼5759∼70
76∼7981∼8890∼9296101を施用したところPlutellaxylostella,,,,,
の幼虫に対して500ppm未満の濃度で少なくとも65%の死亡率を示
した。
以上の方法に従って化合物115871∼75を施用したところMegoura,,,
viciaeの幼虫に対して50ppmの濃度で7/12のスコアを示した。
以上の方法に従って化合物24,29,80,89を施用したところ,Phaedon
cochleariaeの幼虫に対して500ppm未満の濃度で少なくとも90%
の死亡率を示した。
以上の方法に従って化合物28,30を施用したところ,Spodoptera
littoralisの幼虫に対して500ppm未満の濃度で少なくとも70%
の死亡率を示した(20頁左上欄1行∼右下欄5行)。」
・以下,活性成分として一般式(I)を有する化合物を含む節足動物,植「
,。」物線虫寄生虫又は原虫害虫に対して使用するための組成物を例示する
(21頁左上欄1∼3行)
・組成物実施例8「
下記成分:
5−アミノ−3−シアノ−1−(2,6−ジクロロ−4−トリフルオロメ
チルフェニル)−4−トリフルオロメチルチオピラゾール
0.1−10%w/w
小麦粉80
Molasses100まで
を均密に混合して食餌を作製した。
この食餌を経口摂取により節足動物を防除するために,ある場所,例え
,,,,,ば蟻イナゴゴキブリハエ等の節足動物により汚染された台所病院
商店等の家屋敷及び事業所建物並びに屋外に分配した(22頁右下欄5。」
∼17行)
(2)以上によれば,引用例には,前記一般式(I)を有する化合物を用いて,
ある場所に存在する節足動物,植物線虫,寄生虫又は原生害虫を駆除する方
法が記載されており,特に好ましい一般式(I)を有する化合物として例示
されているフィプロニル(化合物52)やチオ−フィプロニル(化合物1)
が,節足動物(具体的にはPlutellaxylostellaの幼虫)に対して,一定の
殺虫効果を示すことが記載されているといえる。
4当事者参加人主張の取消事由に対する判断
当事者参加人は,本願発明1(請求項1)に関する審決の誤りを取消事由1
及び2において,本願発明2(請求項2)に関する審決の誤りを取消事由3及
び4において,それぞれ主張しているが,本願発明1についての審決の説示が
正当として是認できるかどうかはともかく,本願発明2についての審決の説示
は次に述べるとおり,正当として是認できるものである。
(1)取消事由3(本願発明2と引用発明2との相違点の看過−その1)につい

ア当事者参加人は,本願明細書の発明の詳細な説明には,前記2(1)ア,
ウ,オないしコ,シ,スの摘示及び実施例1に,蟻個体群を撲滅ないし防
除する方法に係る発明が記載されており,特許法上,特許請求の範囲の記
載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであ
ることが要求される(特許法36条6項1号,言い換えれば,特許請求)
の範囲に記載した発明は,発明の詳細な説明に記載したものと同一でなけ
ればならないので,本願発明2における「同種の個体群と共に生活する共
同の巣または生息場所を有する蟻」は「同種の個体群と共に生活する共,
同の巣または生息場所に存する蟻」と同義であって,そのように解すべき
と主張するので,以下検討する。
イ特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要旨の認
定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解すること
ができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳
細な説明の記載に照らして明らかであるなど,発明の詳細な説明の記載を
参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に
基づいてされるべきである(最高裁判所平成3年3月8日第二小法廷判決
・民集45巻3号123頁参照。)
以上を前提とした場合,まず,本願発明2の「同種の個体群と共に生活
する共同の巣または生息場所を有する蟻」との記載は,その技術的意義は
明確である。
そして「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有す,
る蟻」と「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所に存する
蟻」とでは,前者が単に蟻の一般的性質を述べたにすぎないのに対し,後
者は蟻の所在場所を限定していることになり,その意味が大きく異なるも
のであって,本願発明2の請求項における前者の記載が明らかな誤記であ
り,これを後者のように解すべきとする十分な根拠もない。
確かに,本願明細書における前記2(1)の各記載からすれば,本願発明
は,主として,社会性昆虫の個体群の防除を目的とするものといえ,本願
明細書の発明の詳細な説明の当事者参加人指摘の部分には,蟻の個体群を
防除する方法が記載されている。
しかし,これらの部分は,本願発明1の「蟻個体群の防除の方法」に対
応する記載であり,本願発明2の発明特定事項全体から判断して,前記2
(1)サ(共同生息場所の外を通る蟻等の駆除に係る記載部分)が,本願発
明2に対応する発明の詳細な説明の記載に該当する部分である。
このように,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明1に対応す
る部分も,本願発明2に対応する部分も,共に存在することから,本願発
明2における「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有
する蟻」との記載が一見して誤記であることが発明の詳細な説明の記載に
照らして明らかであるとはいえず,発明の詳細な説明の本願発明1に対応
する部分の記載をもって,本願発明2において防除の対象とする蟻を本願
発明1と同様に解すべき旨の当事者参加人の主張は採用できない。
なお,当事者参加人は,前記2(1)サに関しても,発明の詳細な説明中
の当該記載の前後の文脈を併せて考慮すれば,当該記載が「同種の個体群
と共に生活する共同の巣または生息場所に存する蟻」と同義であり,その
ように解すべきであることも容易に理解し得ると主張している。しかし,
前述のとおり,本願発明2についての請求項の記載は明確であり,また,
本願発明2に対応する発明の詳細な説明の記載も存在することを勘案する
と,当事者参加人の上記主張は採用できない。
このほか,当事者参加人は,請求項2を引用する従属請求項における記
載をもって,本願発明2につき「蟻個体群」の防除が記載されていると解
すべき旨主張する。しかし,前述のとおり,本願発明2(請求項2)の記
載は十分に明確であって,発明の詳細な説明の記載とも対応しているもの
であり,本願発明2(請求項2)の記載の意味を,従属請求項の記載のみ
に基づいて,文言上の意味と別異に解するのは妥当でない。
ウ以上のとおり,本願発明2は,共同生息場所の外に出現する蟻(個体群
とは限らず,単数でもよい)の防除を目的とする発明であって,社会性昆
虫である蟻の個体群の撲滅ないし防除を目的とするものであるとはいえな
い。
(2)取消事由4(本願発明2と引用発明2との相違点の看過−その2)につい

当事者参加人は,本願発明2は,引用発明2が屋内外を徘徊するアリを防
除する方法であるのに対し,社会性昆虫である蟻の蟻塚の個体群を撲滅ない
し防除(蟻塚の二次的殺滅)する方法との関連において,殺虫化合物として
「フィプロニル」を選択したという点において,引用発明2と相違点(当事
者参加人がいう相違点エ)を有するところ,審決は,同相違点の存在を看’
過し,結論においても誤りを犯した旨主張する。
当事者参加人の上記主張は,引用発明2の認定の誤りについての主張を含
むものとも解されるが,他方で,当事者参加人は,審決における引用発明2
の認定を「認める」としている(準備書面(第1回)第1.17参照)もの
であって,当事者参加人の上記主張の位置付けは明らかではない。
この点を措くとしても前記3(1)のとおり引用例には化合物52フ,,,(
ィプロニル)と極めて類似する化合物1が,蟻に対して殺虫効果を有するこ
とが示唆されている組成物実施例8参照上化合物1及び化合物52フ(),(
ィプロニル)が,節足動物(具体的にはPlutellaxylostellaの幼虫)に対
して殺虫効果を有することが記載されているといえ,これらの点は,引用例
において,化合物1や化合物52(フィプロニル)が節足動物に対していわ
「」。ゆる遅延毒性を有することが記載されているか否かとは別の問題である
したがって,少なくとも,本願発明2と引用発明2において,殺虫化合物
として「フィプロニル」を選択した点という相違点は存在しない。
また,前記(1)のとおり,本願発明2は,社会性昆虫である蟻の個体群の
撲滅ないし防除を目的とするものではないから,本願発明2が「社会性昆虫
である蟻の蟻塚の個体群を撲滅ないし防除する方法との関連において」引用
発明2と相違点を有するとの当事者参加人の上記主張も理由がない。
(3)小括
このように,審決による本願発明2と引用発明2との相違点の認定に当事
者参加人主張の誤りはなく,以上を前提とすれば,本願発明2と引用発明2
とが実質的に同一といえるかはともかく,少なくとも,本願発明2が,引用
発明2及び周知技術から容易想到であった(特許法29条2項)との審決の
判断に誤りはない。
5結論
以上のとおりであるから,当事者参加人主張の取消事由1及び2について判
断するまでもなく,当事者参加人の請求は理由がない。
よって,同参加人の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官東海林保
裁判官矢口俊哉

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