弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
被告人を懲役8年に処する。
未決勾留日数中250日をその刑に算入する。
理由
(犯行に至る経緯)
 被告人は,風俗店の店員として働いていた間に同じ店で働いていたXと知り合
い,Xが接客中の男性から性交を強いられて妊娠し,平成12年1月17日に女児
を出産してVと名付けて乳児院に預けていることを承知の上で,同年夏ころからX
と交際するようになり,Vを引き取って自分の手で育てたいとのXの希望に応じ
て,平成13年にXとの婚姻届を提出するとともにVとの間で養子縁組を行い,X
が被告人の子であるAを出産した後の同年10月17日,Vを引き取ってa市内の
マンションの一室で家族4人の生活を始めた。被告人は,同年11月中旬ころ,そ
れまで勤めていた風俗店を辞めて定職を失い,完全に働かなくなって終日自宅でX
やVらとともに過ごすようになった平成14年初めころから,Vがいくら注意して
も言うことを聴かないことに対していら立ちや怒りを覚え,Xとともに,Vを手拳
や平手で殴打するようになった。同年1月下旬ころになると,被告人とXは,ほお
ばった食べ物を口から吐き出したり,飲み終わったコップをいつまでも口から離さ
ずに弄んだりする行為を繰り返し,粗相をしたことについて謝るように注意しても
ふてくされるVに対し,激高の余り,数日間にわたって,頭部や顔面を多数回殴打
した上,頭髪をわしづかみにしたり両耳をつかんだりして強く上に引き上げるなど
の激しい暴行を加え,目も開かなくなるほど顔面を大きく腫れ上がらせるなどした
が,そのころ,被告人らは,Vの食事を抜くことで反省を求める方法を思いつき,
それ以後,足を蹴ったり,頭部や顔面を殴ったりするなどの暴行を加えるほかに,
1日中,食べ物はもとより飲物すら与えないことも交えて,Vのしつけに臨むよう
になったため,Vは日増しに体力を消耗し,衰弱していった。同年2月15日過ぎ
ころになると,被告人は,一向に食事中の態度等を改めず,被告人らの言うことを
聴こうとしないVに対して一層いら立ちを募らせるとともに,Vが自分と血のつな
がっていない他人の子であることを強く意識するようになり,Vなどもはやどうな
ってもよく,死んでもやむを得ないなどと考えるようになり,同月19日ころから
は,Xが,Vの態度にいら立ち,これに働きに出ようとしない被告人に対する不満
や困窮の極にある生活に対する強いうっぷんが重なり,Vなど死んでもやむを得な
いなどとの思いから,Vの頭部を殴りつけ,「V死んじゃう。V死ぬ。」などと言
いながら,束ねた洗濯ひもを頸部に巻き付けてぐったりとなるまで強く絞め上げた
り,一日中Vに食べ物も飲物も与えなかったりするのを目にしても,その行動を止
めようとしなかったばかりか,このようなXに同調し,二人で激しくVの頭部を殴
打するなどの行為に出た。
(罪となるべき事実)
 被告人は,妻のXとともにV(当時2歳)を養育していたが,平成14年1月下
旬ころから,必要な食べ物や飲物を与えない状態を続けてVを脱水症状に陥らせ,
日ごろ激しい暴行を加えたこととも相まってVを著しく衰弱させたのであるから,
Vに食べ物や飲物を与え,医師による治療を受けさせるなどすべき法的義務があっ
たにもかかわらず,更に激しい暴行を加えたり,食べ物や飲物を与えない状態を続
けたりすれば,Vを死亡させるかもしれないことを認識しながら,それもやむなし
と考え,Xと暗黙のうちに意思を相通じ,同年2月19日ころから同月24日ころ
までの間,a市内のマンションにあった当時の被告人方において,こもごもVの頭
部を手拳で多数回殴打するなどの暴行を加えた上,必要な水分を与えないままその
場に放置し,よって,同日午前1時過ぎころ,同所において,脱水に伴う循環不全
等によりVを死亡させたものである。
(証拠の標目)
 省  略
(弁護人の主張に対する判断)
 弁護人は,(1)被告人の当公判廷における供述等に基づき,被告人が,妻であるX
とともに,被害者を死亡させるかもしれないことを認識しながら,それもやむなし
と考え,被害者に対し暴行を繰り返した事実は認められるにしても,これらは被害
者を死亡させるほどの危険性のあるものではなく,被害者に与える食べ物や水分が
不足していたとの認識のなかった被告人が,被害者が脱水に伴う循環不全によって
死亡した点についての責任を問われるいわれはないのであるから,被告人には殺人
罪は成立せず,保護責任者遺棄致死罪が成立するにとどまる,(2)被告人には精神遅
滞が認められる上,犯行当時,生活状況等に起因する強いストレスにさらされてお
り,心神耗弱の状態にあった旨それぞれ主張するので,以下検討する。
一 殺人罪の成否について
 関係各証拠によると,被告人は,判示犯行の経緯に記載したとおり,平成14
年1月下旬ころから,Xとともに,被害者に対して暴行を加えるとともに,さらに
同年2月15日過ぎころからは,被害者を死亡させるかもしれないが,それもやむ
を得ないとの考えのもとに,Xとともに,被害者に激しい暴行を加えたこと,被害
者は,同年1月下旬ころから,言うことを聴かない罰として食べ物や飲物を制限さ
れる状態に置かれていたが,被告人らから日ごろ加えられる暴行とも相まって,同
年2月19日過ぎころには既に著しく衰弱した状態に陥っており,この時期以降に
被告人らが被害者に加えた激しい暴行は,当時わずか2歳であった被害者の死を惹
起する危険性の高いものであったと認められること,被害者の主たる死因は,必要
な食べ物や飲物を与えられなかったことによる脱水に伴う循環不全ではあるが,被
告人らが日常的に加え続けた暴行も,被害者を極度の恐怖に陥れて強いストレスを
与え,免疫力等の著しい低下をもたらして被害者の生命維持機能に影響を及ぼして
いた形跡があることが認められる。
 また,関係各証拠によれば,被告人は,同月初旬ころには,Xが被害者に食事
をさせる様子がないのを見て,「飯あげないの。」と尋ねるなど被害者の食事等に
留意する言動をしたことがあったにもかかわらず,被害者の泣き声が弱々しくな
り,ふらついたり,倒れてもすぐに起き上がれなくなるなど,それ以前とは様子が
異なり,明らかに衰弱しつつあることに気付き,かつ,Xが,同月19日以降,1
日1食か,あるいはほとんど食べ物を与えていないのを知りながらも,被害者に食
べ物や飲物を与えるようXに注意したり,自ら与えることをしようとはしなかった
ことが認められるのであり,被告人の捜査段階における検察官に対する供述調書
に,同月15日過ぎころから,被害者に対し,更に殴る蹴るの暴行を加え,食べ物
や飲物を十分に与えないことを続ければ,死んでしまうかもしれないと分かってい
たが,そうなってもかまわないという気持ちでそれらの行為を続けた旨の記載があ
ることも考慮すると,被告人は,被害者に与えている食べ物や飲物が必要量を満た
しておらず,その状態を続ければ被害者が死亡するかもしれないことを認識しなが
ら,あえてそれを与えようとしなかったものであることも明らかといわざるを得な
い。
 被告人は,当公判廷において,被害者に与える食べ物や水分が不足していると
の認識がなかったとの趣旨の弁解をしているが,先の検察官に対する供述は具体的
で詳細かつ自然であり,その作成状況について,被告人は,読み聞かせてもらった
上で署名したが,特に自分の気持ちと違うことが書いてあるとは気付かなかった旨
当公判廷で述べているのであるから,これと矛盾する被告人の前記弁解は信用でき
るものではない。
 そうすると,被告人が殺人罪の罪責を負うことは明らかというべきであって,
弁護人の主張は採用することができない。
二 責任能力の有無について
 関係各証拠によると,被告人は,生来やや知能が低く,中学校では情緒(障
害)学級に組み入れられて特別教育を受けるなどした経緯があり,犯行当時におい
ても,多少の精神遅滞の状態にあったことが認められるが,他方において,被告人
は,中学校を卒業した後,塗装工等として働き,20歳になる前に親元を離れ,以
来,転職が多いとはいえ,自立してそれなりに社会生活を営んできたものであり,
本件についても,捜査段階において,犯行に至る経緯や動機,犯行状況等について
詳細に供述しており,その内容も十分了解可能なものである上,被告人が,被害者
に対する暴行を繰り返す過程において,Xとともに被害者の頭部等を殴打したこと
で,後頭部に傷害を負わせた際,Xとの間で,被害者を病院に連れていくことを話
し合ったものの,虐待が発覚して警察に捕まることを懸念してやめた旨検察官に対
して供述していることや,被告人の当公判廷における供述内容,態度等を総合する
と,被告人が,犯行当時,是非弁識能力又は行動制御能力をある程度減退させてい
たことは認められるにしても,これを著しく減退させてはいなかったことが明らか
であって,弁護人の主張は採用できない。
(法令の適用)
 被告人の判示所為は刑法60条,199条に該当するが,所定刑中有期懲役刑を
選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役8年に処し,同法21条を適用して
未決勾留日数中250日をその刑に算入することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法1
81条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の事情)
 本件は,養父である被告人が,言うことを聴こうとしない被害者の態度にいら立
ち,妻のXとともに,頭部を殴るなどの暴行を加え,さらには罰として食べ物や飲
物を与えないなどという行為を反復するうち,それで被害者を死亡させてもやむを
得ないとの考えに至り,Xと暗黙のうちに意思を相通じた上,更に判示の暴行を加
え,十分な水分を与えないまま放置した結果,被害者を死亡させたという事案であ
る。
 被害者は,当時2歳とまだ幼いことからすれば,食事中にいたずらをしたり,注
意されても謝らずにふてくされたりするのは誠に無理からぬことであるにもかかわ
らず,被告人は,このような被害者の態度に一途にいら立ちを募らせ,やがて自分
とは血がつながっていない被害者などどうなってもよいなどという考えに支配され
て本件に及んでいるのであって,犯行の動機,経緯は酌量の余地に乏しい。被告人
らは,被害者を養育保護すべき親としての責任を果たすどころか,度を超した折檻
を受けて衰弱しきっていた被害者に対し,更に数日間にわたってわずかな食べ物と
飲物しか与えなかったばかりか,熱湯を入れたほ乳瓶を頬に押し当てて皮膚がはが
れるほどの火傷を負わせたり,テレビのリモコンで被害者の頭部を殴打したりする
暴行を加え,とりわけ被害者が死亡する前夜には,こもごも頭部を手拳で多数回殴
打するにとどまらず,被害者を裸同然の状態でベランダに放置して寒風にさらし,
虐待が発覚してはまずいとして室内に連れ戻すや,さらにその腕をつかんで立たせ
た上で足を蹴るなどの苛烈な暴行を加え,これらの行為によって遂に被害者を死に
追いやっているのであって,非情かつ残忍な犯行というほかない。被害者は,父親
が不明という状態でこの世に生を受け,預けられていた乳児院から被告人らに引き
取られた後も,新たに養親となった被告人らから日常的に虐待を受け続けた末に,
わずか2年のはかない人生を閉じることになったのであって,変わり果てた被害者
の姿は余りにも無惨で哀れというほかない。このような犯行において,被告人は,
妻のXが,被害者に暴力を振るったり,食べ物や飲物を与えなかったりするのを黙
認するにとどまらず,自らにおいても被害者に対して相当激しい暴行を加えている
のであるから,その刑責は重いといわざるを得ない。
 そうすると,被告人が,死に至るまでに被害者に加えた折檻を全体としてみる
と,Xが行う激しい折檻に触発され,これに同調して行動した傾向が看取されると
ころであり,その程度もXに比してやや軽いとみられること,被告人が中等度の精
神遅滞の状態にあり,事態を正確に把握し,現実的で的確な対応をする能力が必ず
しも十分に備わっていたものとは認め難いこと,少なくとも被害者を引き取った当
初においては,被告人が,家族の生計を支え,被害者の養育についても真摯な努力
をした形跡があること,被告人が,本件の外形的事実は認めた上で,それなりの反
省の念を示していること,被告人には殺害したVのほかに乳児院に収容中の幼い子
供がいること,被告人の父親が当公判廷に出廷し,被告人を監督すると述べている
こと,これまでに全く前科がないことなど被告人のために斟酌すべき事情を十分に
考慮しても,被告人に対して主文程度の刑を科することはやむを得ない。
 よって,主文のとおり判決する。
さいたま地方裁判所第二刑事部
(裁判長裁判官若原正樹,裁判官大渕真喜子,裁判官小笠原義泰)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛