弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人豊島時夫、同道下徹の上告理由について
 一 本件は、所得税の過少申告をして被上告人から重加算税の賦課決定処分を受
けた上告人がその取消しを求める訴訟であり、原審は、国税通則法六八条一項所定
の重加算税の賦課要件が満たされていると判断して、上告人の請求を棄却すべきも
のとした。
 二 原審がその前提として適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 上告人には、株式等の売買により、昭和六〇年に二六〇〇万円余、同六一年
に一億〇八〇〇万円余、同六二年に二億一〇〇〇万円余の所得があった。右売買の
回数及び株数は、いずれの年分についても、有価証券の譲渡による所得のうち継続
的取引から生ずる所得として、所得税法九条一項一一号イ(昭和六三年法律第一〇
九号による改正前のもの)及び所得税法施行令二六条(昭和六〇年分及び同六一年
分については昭和六二年政令第三五六号による改正前のもの、同六二年分について
は昭和六三年政令第三六二号による改正前のもの)が非課税所得から除外する所得
の要件を満たしていた。
 2 上告人は、昭和六〇年分、同六一年分及び同六二年分の所得税について、被
上告人に確定申告をしたが、右1の売買による所得を雑所得として申告すべきであ
るのに、これを申告書に全く記載しなかった。しかし、上告人は、右売買について、
取引の名義を架空にしたり、その資金の出納のために隠れた預金口座を設けたりす
るようなことはしなかった。
 3 上告人は、顧問税理士や証券会社の担当者から注意を受けていたので、株式
等の売買による所得があった場合の課税要件を十分に知っており、また、右1の売
買による所得の額について、昭和六〇年が二〇〇〇万円ないし三〇〇〇万円、同六
一年が一億円くらい、同六二年が一億円余りと認識していた。しかし、上告人は、
右売買による所得を雑所得として申告し、納税するつもりがなく、その計算すらし
ていなかった。そして、上告人は、右各年分の確定申告書の作成を顧問税理士に依
頼した際に、その都度、上告人が株式等の売買をしていることを知っていた同税理
士から、株式の取引による所得についても課税要件を満たしていれば申告が必要で
あると何度も念を押され、右所得の有無について質問を受け、資料の提示を求めら
れたにもかかわらず、確定的な脱税の意思に基づいて、同税理士に対し、課税要件
を満たす所得はない旨を答え、他の所得に関する資料を交付しながら、株式等の取
引に関する資料を全く示さなかった。
 三 過少申告をした納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎と
なるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装し
たところに基づき納税申告書を提出していたときは、その納税者に対して重加算税
を課することとされている(国税通則法六八条一項)。この重加算税の制度は、納
税者が過少申告をするについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、
過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違
反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとす
るものである。
  したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのもの
が隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、
隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを
要するものである。しかし、右の重加算税制度の趣旨にかんがみれば、架空名義の
利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相
当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外
部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたよう
な場合には、重加算税の右賦課要件が満たされるものと解すべきである。
 四 これを本件について見ると、上告人は、昭和六〇年から六二年までの三箇年
にわたって、被上告人に所得税の確定申告をするに当たり、株式等の売買による前
記多額の雑所得を申告すべきことを熟知しながら、あえて申告書にこれを全く記載
しなかったのみならず、右各年分の確定申告書の作成を顧問税理士に依頼した際に、
同税理士から、その都度、同売買による所得の有無について質問を受け、資料の提
出も求められたにもかかわらず、確定的な脱税の意思に基づいて、右所得のあるこ
とを同税理士に対して秘匿し、何らの資料も提供することなく、同税理士に過少な
申告を記載した確定申告書を作成させ、これを被上告人に提出したというのである。
もとより、税理士は、納税者の求めに応じて税務代理、税務書類の作成等の事務を
行うことを業とするものであるから(税理士法二条)、税理士に対する所得の秘匿
等の行為を税務官公署に対するそれと同視することはできないが、他面、税理士は、
税務に関する専門家として、独立した公正な立場において納税義務の適正な実現を
図ることを使命とするものであり(同法一条)、納税者が課税標準等の計算の基礎
となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装していることを知ったときは、その是正をす
るよう助言する義務を負うものであって(同法四一条の三)、右事務を行うについ
て納税者の家族や使用人のようにその単なる履行補助者の立場にとどまるものでは
ない。
  右によれば、上告人は、当初から所得を過少に申告することを意図した上、そ
の意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものであるから、その意図に基
づいて上告人のした本件の過少申告行為は、国税通則法六八条一項所定の重加算税
の賦課要件を満たすものというべきである。所論の点に関する原審の判断は右の趣
旨に帰するものであるから、これを正当として是認することができる。右判断は所
論引用の判例に抵触するものではなく、原判決に所論の違法はない。論旨は、違憲
をいう点を含め、独自の見解に立って原判決を非難するか、又は原判決の結論に影
響のない事項についての違法をいうものであって、採用することができない。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    河   合   伸   一
            裁判官    中   島   敏 次 郎
            裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    根   岸   重   治

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