弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人堀嘉一の上告理由一について。
 論旨は、原判決は訴外Dが仮換地を使用しているため被上告人がこれを使用でき
ないから、被上告人には借地料支払義務がない旨判示するが、右は土地区画整理法
九九条の解釈を誤つた違法があり、もし同法条の解釈が原判決のとおりであるなら
ば、同法条は地主の収益権を不当に侵害するものであつて憲法二九条一項に違反し
無効であると主張する。しかし、土地区画整理法九九条一項(同法施行前の特別都
市計画法一四条)は、従前の宅地に関する使用収益についての権利関係を同一性を
保持したまま仮換地に及ぼし、従前の宅地に関してはこれらの権利関係を主張する
ことができない旨を規定しているのであるから、賃貸借関係のある宅地について仮
換地(特別都市計画法一四条における換地予定地)が指定された場合には、賃貸借
関係は従前の内容を変更することなくそのまま仮換地について移行し、賃貸人は賃
借人に対し仮換地を使用収益させる義務を負い、賃借人は賃貸人に対し賃料支払義
務を負担するとの解するのを相当とする。そして、右両債務は特別の合意のない限
り同時履行の関係にあると解すべきであるから、これと同趣旨の判断をした原判決
には所論違法のかどは認められず、所論は土地区画整理法九九条の規定を誤解し独
自の見解をのべるものであつて、採用できない。また、このように解しても、賃貸
人の収益権を不当に害するものではないから、同条を違憲とする論旨も前提を欠き、
採用に価しない。
 同二、三について。
 論旨は、原判決は特別法たる土地区画整理法に優先して一般法である民法を適用
し、被上告人(被告)の主張立証責任を上告人(原告)に転嫁した違法があると主
張する。しかし、所論は、いずれも、土地区画整理法九九条の仮換地の指定により、
前の宅地の賃借人は現実に仮換地を使用収益することができなくとも法の擬制によ
り賃料支払義務のあることを前提とする議論であつて、かかる論旨の採用し難いこ
とは前記上告理由一において判断したとおりである。所論は結局前提において失当
であるから、採用できない。
 同四について。
 論旨は、本件目的土地は甲地であるのに、原判決は被上告人が乙地に賃借権を有
するという理由だけで上告人の甲地についての請求を排斥したのは理由そごである
と主張する。しかし、原判決の引用する第一審判決によれば、上告人主張の甲乙両
地の仮換地が区劃整理施行者により変更され、交換前の乙地が甲地に、交換前の乙
地が甲地となり、右交換前の乙地に対する上告人、被上告人間の賃貸借関係がその
まま甲地に移行したというのであつて、右第一審判決の判断は相当と認められるの
で、原判決には所論違法のかどはない。所論はひつきよう、原判決を正解しないこ
とに基づくものであつて、採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    斎   藤   朔   郎

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