弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
 原告訴訟代理人は、
 被告が、訴外土佐清水市水産加工労働組合(以下、訴外労組という。)と原告間
の高労委昭和四一年(不)第三号不当労働行為救済申立事件につき、昭和四二年四
月一七日なした命令のうち、原告は訴外労組が要求している労働条件改善に関する
団体交渉に直ちに応じなければならない、との部分を取消す。訴訟費用は被告の負
担とする。との判決を求め、
 請求の原因として、
 被告は、昭和四二年四月一七日高労委昭和四一年(不)第三号不当労働行為救済
申立事件につき、「原告は、訴外労組が要求する労働条件改善に関する団体交渉
に、直ちに応じなければならない。」との不当労働行為救済命令(以下本件命令と
いう。)をなした。
 しかし、原告には不当労働行為に該当する事由がないから、本件命令は取消され
るべきであると述べ、
 被告の主張事実のうち、
1につき、
 訴外労組が、被告主張の目的のもとに、水産加工業に従事する労働者が主体とな
つて結成されたことは否認し、労働組合法二条および五条二項の各規定に適合する
労働組合であることは争う。
 訴外労組は、原告と全く雇用関係のない小学校教諭、訴外A、はり灸あんま師訴
外Bらが勝手に労働組合名義を使用しているにすぎないもので、組合事務所も存在
せず、組合長に就任したと称するCも真実は組合長ではなく、会費の徴収などの運
営方法もまたあいまいである。
2につき、
 原告が被告主張のとおり、水産業協同組合法に基づいて設立された協同組合であ
ることは認めるが、原告に加入する各水産加工業者が、訴外労組に属する労働者を
雇用していることは否認する。原告に加入している各水産加工業者と、その雇用し
ていた労働者との間にはいずれもおそくとも昭和四一年五月限りで雇傭関係が終了
したものである。
3につき、
 原告が組合員の雇用する労働者によつて組織される労働組合と当然に団体交渉を
なしうる権限を有することは争う。
 そもそも、協同組合が、組合員の雇用する労働者によつて組織される労働組合と
団体交渉をなす権限を有するためには、定款の規定または総会の決議などにより組
合員から委任されることが必要であるというべきところ、原告の定款には、団体交
渉権限について何らの規定が存しないうえ、原告は、昭和四一年二月二日の臨時総
会において、訴外労組が労働組合名義を使用してきても一切団体交渉に応じない旨
の決議をなして訴外労組との交渉権限を明瞭に否定している。
 従つて、原告は訴外労組と団体交渉をする権限を有しないものである。
4につき、
 訴外労組名義で原告に対し、被告主張の日に団体交渉の申入れがあり、原告がこ
れに応じなかつたことは認める。
5につき、
 被告が高労委昭和四一年(不)第三号不当労働行為救済申立事件において、本件
命令を発したことは認めるが、右命令は、先に主張したとおり、訴外Bが勝手に労
働組合名義を使い、原告を使用者として申立をなしたのに対し、発せられたもので
ある。
と述べた。
 被告訴訟代理人は、
 主文第一、二項と同旨の判決を求め、
 請求原因に対する答弁として、
 被告が高労委昭和四一年(不)第三号不当労働行為救済申立事件につき、本件命
令をなしたことは認めるが、本件命令が取消されるべきであるとの点は争う。と述
べ、
 主張として、
1 訴外労組は、土佐清水市に居住して水産加工事業に従事している労働者が主体
となり、労働条件の維持改善および経済的地位の向上を主たる目的として、昭和四
一年一月二三日結成されたもので、結成当時においては、組合長をCとし、事務所
を土佐清水市船員会館におく労働組合法二条および五条二項の各規定に適合する労
働組合である。
2 原告は、土佐清水市内においてかつお節やめじか節の製造販売を営む水産加工
業者が加入し、水産業協同組合法に基づいて設立された協同組合であるが、原告に
加入している業者は、その事業のために労働者を雇用しており、訴外労組はこれら
の労働者が主体となつて組織されているものである。
3 協同組合は、その組合員の経済的地位の改善のために団体協約を締結すること
ができるところ、このことは組合員の経済的地位に関しては多数決原理が妥当する
ことにほかならない。そうすると、協同組合は、右の範囲において、組合員に対
し、実質的統制力をもつものといえるから、組合員の雇用する労働者に関し、労働
条件の統一をはかるため、右労働者によつて組織されている労働組合と団体交渉を
する権限を当然に有するものというべきであり、さらに、協同組合が行ないうる事
業のうち、組合員の事業または生活に必要な共同利用に関する施設には、労務管理
などの人的施設も含まれると解されるから、いずれにしても、協同組合は、組合員
の雇用する労働者によつて組織されている労働組合と団体交渉をし、かつ労働協約
を締結する能力を有するものということができる。従つて、原告もまた、当然に訴
外労組と団体交渉をなしうる権限を有し、これに応ずる義務を有するものである。
4 原告は、訴外労組より昭和四一年二月一日、同月二一日、同年三月三日の三回
にわたり、労働時間短縮、賃金値上げなどの労働条件につき団体交渉の申入れをう
けたが、いずれもこれに応じなかつた。
5 そこで、訴外労組は、昭和四一年六月一五日被告に対し、原告を相手方として
不当労働行為救済申立てをなしたので、被告は高労委昭和四一年(不)第三号不当
労働行為救済申立事件として審査し、本件命令を発したものである。
 従つて、本件命令には取消されるべき瑕疵はないと述べた。
(証拠省略)
       理   由
一、原告が、訴外労組の名義で昭和四一年二月一日、同月二一日、同年三月三日の
三回にわたり申入れをうけた団体交渉をいずれも拒否したこと、被告が、高労委昭
和四一年(不)第三号不当労働行為救済申立事件について審査し、昭和四二年四月
一七日本件命令を発したことは、いずれも当事者間に争いがない。
二、そこで、まず、訴外労組の労働組合法上の資格について検討する。
 いずれも成立に争いのない乙第一号証の二三のうち、A、D、Eに対する各証人
尋問調書、いずれも証人Fの証言および弁論の全趣旨により真正に成立したものと
認められる乙第二号証の三のロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、ト、チ、リ、ヌ、ル、ヲ、同号
証の五、六、ならびに証人Fの証言を総合すると、訴外労組は、土佐清水市に在住
し、かつお節やめじか節など水産加工物の製造に従事する労働者(殆んどが女子労
働者)が主体となり、労働条件の維持改善および経済的地位の向上を主たる目的と
して昭和四一年一月二三日結成されたこと、その結成ならびに運営については、こ
れら労働者が労働組合の組織運営などの経験に乏しいところから、水産加工業者と
雇用関係のない訴外B、同Aらの協力を得たこと、昭和四一年一月二三日の設立総
会には、六〇名を超える女子労働者が、中浜保育園に参集し、組合長Cなど組合役
員を選任するとともに、顧問として、訴外B、同Gを、当分の間の書記として、訴
外Aをそれぞれ委嘱する旨定めたこと、訴外労組は、昭和四一年二月一二日の総会
において、Cの組合長辞任を認め、訴外Bを後任に選出したことならびに、訴外労
組は、使用者の利益代表者などの参加を許さず、使用者の経理上の援助をうけず、
また、「名称」、「組合事務所の所在地」、「組合員は、すべての組合問題に参与
する権利および平等に取扱われる権利を有すること」、「人種、宗教、性別、門地
又は身分によつて組合員たる資格を奪われないこと」、「役員は組合員の直接無記
名投票により選挙されるのが原則であること」、「大会は毎年開催すること」、
「会計報告は、大会において組合員の委嘱する職業的に資格のある会計監査人の正
確であるとの証明書をつけて公表すること」、「争議行為に関する事項、規約改正
には総組合員の直接無記名投票による三分の二以上の同意をうること」などを定め
る規約を有していることがそれぞれ認められ、証人Hの証言ならびに原告代表者尋
問の結果のうち、右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らしていずれも信用でき
ず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。右認定事実によると、訴外労組は労
働者が主体となつて組織した労働組合であつて労働組合法二条および五条二項に規
定する各要件に適合するものと認めるのが相当である。
三、つぎに訴外労組を組織している労働者の雇用関係および団体交渉権の有無につ
き検討する。
 原告が、土佐清水市内におけるかつお節やめじか節の製造販売を営む水産加工業
者の加入により、水産業協同組合法に基づいて設立された協同組合であることは、
当事者間に争いがない。
 いずれも成立に争いのない乙第一号証の二三、二八、乙第二号証の四のロ、ハ、
証人Fの証言により真正に成立したものと認められる乙第二号証の四のイ、証人
F、同H(後記信用しない部分を除く)の各証言ならびに原告代表者本人尋問の結
果(後記信用しない部分を除く)を総合すると、原告に加入する水産加工業者の営
む事業は、鮮魚を加工するものであつて、季節的な漁獲量の変動に応じ、豊漁期に
は多数、漁閑期には少数の労働者(大部分が女子労働者である。)を就労させてい
ること、これらの労働者は、殆んどが毎年特定の水産加工業者に雇用されているこ
と、就労するにあたつては、予じめ、大体の順番が定まつていることおよびこれら
の労働者の一部が訴外労組に加入していること、がそれぞれ認められ、証人Hの証
言および原告代表者尋問の結果中、右認定に反する部分は、いずれもたやすく信用
することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
 右認定事実を総合して考えれば、各水産加工業者と、そのもとで季節的に雇用さ
れている女子労働者との間の雇用形態は、女子労働者が、現実に就労すると否とに
かかわらず、継続的な雇用関係に類するものと認めるのが相当であるから、右女子
労働者の一部によつて組織されている訴外労組は、各水産加工業者に対し、団体交
渉権を有するものというべきである。
四、そこで、さらに進んで、原告の団体交渉応諾義務について検討する。
 一般に、事業協同組合は、本来事業者の経済活動を助成するため特別法により認
められた事業者団体であつて、各組合員の雇用する労働者によつて組織される労働
組合と対抗する組織ではないから、協同組合が当然に労働組合と団体交渉をし、労
働協約を締結する能力を有するものと解することはできない。しかし、このような
事業者団体にあつても、労働者の賃金その他労働条件の統一をはかることが組合員
の利益にもなりうるのであるから、団体交渉の当事者となりうる資格について、協
同組合の定款に明記されている場合とか総会の決議がなされた場合または組合員か
らの委任があつた場合などには、団体交渉の当事者となる権限を有しうるものと解
するのが相当である。そこで、これを本件についてみるに、いずれも成立に争いの
ない乙第一号証の二八(I問調書の部分)、三七、三八のイ、ロ、ハ、ヘ、ト、第
三号証の八および証人Hの証言、原告代表者尋問の結果(いずれも後記信用しない
部分を除く。)を総合すると、原告は昭和三七年ごろから昭和四一年ごろまでの
間、原告の組合員の雇用する労働者の賃金、労働時間などの労働条件について統一
的な基準を定めるため、労働者の代表者などと団体交渉をしてきたことおよび原告
から高知地方労働委員会あつせん員会会長Jに対し、昭和四一年四月九日付をもつ
て提出された回答書と題する文書において、「もし当組合員に雇傭された従業員が
自主的に労働組合を組織し、その組合が当方に団体交渉を要求するならば、当方は
いつでもそれに応ずる用意のあることは、屡々申述べてきたところであり、現在で
もその意思のあることは断言できるところであります。云々」と意思を表明してい
ることがそれぞれ認められ、証人Hの証言および原告代表者尋問の結果中、右認定
に反する部分は、前掲各証拠に照らして信用できず、他に右認定を覆えすに足りる
証拠はない。右認定事実によれば、原告は組合員からその雇用している労働者の代
表者などと団体交渉をする権限の委任をうけているものと推認することができる。
ところで成立に争いのない乙第一号証の三八の二によると、原告の昭和四一年二月
二日の臨時総会議事録中には、「Aが労働組合を作つたと称しているのは、選挙を
有利にするための事前工作としか考えられないので、たとえA氏が労働組合名義を
使用してきてもこの問題について当組合は一切交渉に応じないことを満場一致決議
した」と記載されていることが認められる。しかし、右記載は、先に認定した原告
が団体交渉権の委任を受けている事実と総合して考えれば、訴外労組が不存在また
は不適法であるからという理由で団体交渉に応じないことを決議したにすぎないも
のであつて、原告がすでに委任されていた労働組合と団体交渉をする権限を否定す
る趣旨でなされたものとは到底解し得ないから、右記載をもつてしてもいまだ前記
認定を左右するものとはいえない。従つて、原告は訴外労組の団体交渉の申入れに
対し、これを応諾する義務があるものというべきである。
五、なお、原告は本件命令の申立ては、訴外Bが個人としてなしたものであると主
張するが、いずれも成立に争いのない乙第一号証の二、三によると、本件不当労働
行為救済申立書中の申立人欄には、名称土佐清水市水産加工労働組合、代表者、組
合長Bなる記載がなされていることが認められ、これに反する証拠はないから、本
件申立人は訴外労組であることが明らかである。
六、以上の次第であつて、原告には、訴外労組が申入れをなした労働条件改善につ
いての団体交渉に対し誠実に応ずる義務があり、本件命令には何ら取消されるべき
瑕疵は存しないから、原告の本訴請求は理由がないものとして棄却することとし、
訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 安間喜夫 西尾幸彦 井筒宏成)

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