弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○主文
一原告らの被告東京拘置所長に対する訴えをいずれも却下する。
二原告らの被告国に対する原告A、同B、同C、原告ら補助参加人D、訴外E、同F、
同G、同H、同I、同J、同K、同L、同M、同N、同O、同P及び同Qを東京地方裁判
所昭和五五年(行ウ)第一〇三号事件の口頭弁論期日に出頭させる義務があることの確認
を求める訴えをいずれも却下する。
三原告らの被告国に対するその余の請求をいずれも棄却する。
四訴訟費用は原告らの負担とする。
○事実
第一当事者の求めた裁判
一請求の趣旨
1被告東京拘置所長(以下「被告所長」という)が、東京地方裁判所昭和五五年(行。
ウ)
第一〇三号事件(以下「一〇三号事件」という)の昭和五六年五月二七日、同年六月二。

日、同年九月二日、同年一一月二日、同年一二月二四日、昭和五七年三月二三日及び同年
、、(、「」七月一五日の各口頭弁論期日に原告A同B同C以下同原告ら三名を収容原告ら
という、原告ら補助参加人D、訴外E、同F、同G、同H、同I、同J、同K、同L、。)
、、、(、「」同M同N同O同P及び同Q以下収容原告らを含む右の一七名の者を収容者ら
という)を出頭させなかつた処分がいずれも無効であることを確認し、右各処分をいず。

も取り消す。
2被告らは、収容者らを一〇三号事件の口頭弁論期日に出頭させる義務があることを確
認する。
3被告国は、収容原告らに対し各金一〇万円及びこれに対する昭和五六年五月一四日か
ら完済まで年五分の割合による金員並びにその余の原告ら(以下、同原告ら四名を「獄外
原告ら」という)に対し各金一五万円及びこれに対する昭和五六年五月一四日から完済。

で年五分の割合による金員を支払え。
4訴訟費用は被告らの負担とする。
5仮執行宣言。
二請求の趣旨に対する答弁
1主文一ないし四同旨。
2担保を条件とする仮執行免脱宣言。
第二当事者の主張
一請求原因
1収容者らは、後記3記載の処分当時、刑事被告人、懲役刑確定者若しくは死刑確定者
として東京拘置所に、又は懲役刑確定者として他の監獄にそれぞれ収容されていた者であ
り、獄外原告らは、
獄中者に対する、諸般の救援活動を行つている「獄中者組合」の獄外事務局員である。
2昭和五五年五月当時東京拘置所に収容されていた、収容者ら、原告R、同S及び他の
者八名の合計二七名並びに獄外者の原告T及びUは昭和五五年八月一二日、被告所長が昭
和五五年五月一四日に、当時同拘置所に収容されていた右の二七名の者に対してした書籍
「獄中生活のてびき(以下「本件書籍」という)の閲読不許可処分の取消し、被告国」。

対する損害賠償等を求めて、東京地方裁判所に一〇三号事件の訴訟を提起し、同事件は現
在同裁判所に係属している(なお、一〇三号事件の原告らは、訴訟提起後順次取下げ等。

より減少し、現在は一六名となつている。)
、、、、3一〇三号事件の口頭弁論は昭和五六年五月二七日同年六月二六日同年九月二日
同年一一月二日、同年一二月二四日、昭和五七年三月二三日及び同年七月一五日の合計七
回開かれたところ、収容者らのうちその大部分を占める当時東京拘置所に収容されていた
者は、被告所長に対し、右各期日につき、出頭の出願をしたが、被告所長は、そのすべて
について出頭不許可処分(以下「本件処分」という)をし、右各期日の前日に出願者に。

しその旨の告知をした。
なお、収容者らのうち他の監獄に収容されている者は極く少数であるが、それらの者につ
いても、同様に出頭不許可の処分がされている。
4本件処分の違法性
本件処分は、次のとおり違法、無効なものである。
(一)憲法八二条、三二条違反
憲法三二条は、何人も裁判所において裁判を受ける権利を基本的人権として保障し、憲法
八二条は憲法に定める例外の場合を除き公開法廷における対席対審の裁判を行うべきこと
を定めている。そして、純然たる訴訟事件につき当事者の意思いかんに拘わらず終局的に
事実を確定し、当事者の主張する権利の存否を確定するような裁判が、憲法の定める例外
の場合を除き公開法廷における対席対審によつてされないとしたら、それは憲法八二条に
違反するとともに、憲法三二条が基本的人権として裁判を受ける権利を認めた趣旨を没却
するものである。
収容者らのごとき刑事被告人、懲役刑確定者及び死刑確定者においても右憲法に定める公
開法廷における裁判を受ける権利を有している。希望する当事者が当該口頭弁論期日に出
頭できない裁判は、
、、。公開法廷における対席対審の裁判とはいえず憲法八二条三二条に違反するものである
そして、収容者らは、一〇三号事件の口頭弁論期日に出頭することを求めているものであ
るところ、本件処分は、収容者らが同事件の各口頭弁論期日に出頭することを禁止し、実
質的に収容者らの裁判を受ける権利を奪い、かつ、収容者らの公開法廷における対席対審
の裁判を受ける権利を奪うもので、実質的に非公開の裁判を強行することになるから、憲
法八二条、三二条に違反する違法なものである。
(二)憲法七六条違反
一〇三号事件の一方当事者である被告所長及び同国が、その強制力により収容者らの出
頭を禁止することは、公開法廷における対席対審の裁判を、行政権力により阻止するもの
であつて、司法に対する行政権力の支配、介入であるところ、憲法七六条は立法、行政か
らの司法の独立を定めているから、本件処分は、同条に違反する、行政権力による司法へ
の支配、介入として、違法なものである。
(三)出頭禁止規定の不存在
監獄法令には、収容者らのごとき監獄収容者を、一〇三号事件のような行政事件の口頭弁
。、論期日に出頭させなくてよいとする規定は存在しない仮にその旨の規定があるとしても
憲法八二条、三二条に定める基本的人権である公開法廷に出頭して対席対審の裁判を受け
る権利がこれに優先するから、被告所長は、収容者らが一〇三号事件の口頭弁論期日に出
頭することを禁止する権限を有しない。したがつて、本件処分は違法である。
(四)拘禁目的と出頭禁止
収容者らのごとき監獄収容者は、罪証隠滅及び逃亡の予防その他の拘禁の目的に反しない
限り、その権利は最大限に尊重されなければならないから、右拘禁目的に照らし、真にや
むを得ない「明白かつ現在の危険」がある場合に限り、正当な事由に基づき、合理的に必
要とする最小限度においてその権利を制限することができるというべきである。そして、
憲法三二条に定める裁判を受ける権利を制限するに足る正当な理由はないから、本件処分
は違法である。
(五)裁量権の濫用
(1)被告所長は、本件処分の理由として、
(ア)第一回口頭弁論期日には、民訴法一三八条の擬制陳述の規定が適用されるから、
収容者らが出頭する必要はない、
(イ)法律扶助制度や訴訟代理人をつける方法もあるから、収容者らが出頭しなくても
訴訟はできる、
(ウ)収容者らを出頭させることにより、管理上の支障が生ずる、
ことを掲げている。
(2)しかし、右(1)記載の本件処分の理由は、次のとおりいずれも合理的理由とは
なりえないものであるから、本件処分は裁量権を濫用した違法なものである。
(ア)そもそも、民訴法一三八条は、当事者が任意に出頭しない場合のやむをえない応
急措置を定めたものに過きず、当事者の一方を出頭させない根拠となるものではないし、
訴訟の一方当事者である被告所長の本件処分により出頭を禁止されている収容者らが右規
定の適用を強制されるいわれはなく、むしろ、出頭の意思を有するのにも拘わらず、被告
所長の本件処分という自己の責に帰さない事由によつて出頭できない収容者らには適用さ
れるべき余地のない規定であるから、民訴法一三八条の規定をもつて、収容者らを出頭さ
せない理由とはならない。
()、、、イ現在法律扶助制度としては弁護士会による法律扶助協会があるに過ぎないが
その扶助を受ける権利は当然に認められるわけではない。そして、一〇三号事件のように
訴額が少なく、その事案の性質上、特殊、複雑な内容を持つ訴訟は、法律扶助の対象から
外されるのが通例であるから、仮に収容者らが法律扶助の申出をしたとしても、扶助を受
ける可能性は皆無に等しい。また、法律扶助を受けるか受けないかは、収容者らの意思に
任せられるべきものであつて、被告所長に強制されるいわれはないから、法律扶助制度が
存在することをもつて、本件処分を適法とする理由とはならない。
(ウ)収容者らが、一〇三号事件に訴訟代理人(弁護士)を選任するか否かは、収容者
らの意思に任せられるべきものであつて、被告所長に強制されるいわれはない。
また、我が国の裁判の七〇パーセントが本人訴訟であることや弁護士費用が多額であるこ
とに照らせば、訴訟代理人による訴訟は我が国の実状としては非現実的なものであるし、
収容者らは本来訴訟上の救助を受けるべき無資力者であるのを、訴訟の遅延を避けるため
に原告T及び同Uら獄外にいる者の悲壮な協力を得て一〇三号事件の手数料を納付したも
のであつて、到底弁護士費用を支払える資力などは有していなかつた。
更に、一〇三号事件の原告らのうちには、収容者らのごとく東京拘置所又は他の監獄に収
容されている者が少なくなかつたから、その意思を統一し、
確認する場としては法廷しかなく、また、一〇三号事件は収容者ら本人自身が現実に訴訟
行為をすることによつて初めて原告側の有効適切な訴訟行為が期待できる事件であつたか
ら、収容者らは現実に一〇三号事件の口頭弁論期日に出頭する必要があつたものである。
被告所長の訴訟代理人をつける方法もあるという理由は、収容者ら側の事情を無視して、
無理難題を押し付けるものであつて、本件処分を適法とする理由とはならない。
(エ)管理上の支障の欠如
(a)被告所長は、収容者らを一〇三号事件の口頭弁論期日に出頭させることにより、
、、、、管理上の支障が生ずると主張するがそもそも管理上の支障なるものは事柄の性質上
実際に収容者らを出頭させた結果として初めて分かるものであつて、出頭以前に支障を予
想することは根拠のないものである。
(b)被告所長は、収容者らに係る刑事事件の公判期日には、収容者らを護送バスで東
京地方裁判所の仮監へ護送し、そこから各公判の法廷に出頭させているが、これらは被告
所長の通常の職務執行として何らの管理上の支障なく反復して継続的に執行されている。
そして、一〇三号事件の原告らのうち、同事件の口頭弁論期日当時に東京拘置所に収容さ
れていたものは一九名足らずであつて、被告所長の行う刑事被告人を公判期日に出頭させ
る職務に格別の影響を及ぼす人数ではないから、一〇三号事件の口頭弁論期日に収容者ら
、、、が出頭するにしても被告所長において公判期日の出頭と同様の方法を取りさえすれば
管理上の支障が生じないことは明らかである。
()(。、。)c仮に刑事事件と民事事件行政事件を含む特にことわらない限り以下同じ
とは性質が異なるとしても、刑事事件には積極的に出頭させるが、民事事件には出頭させ
ないというのは極めて不合理な差別であつて、本件処分は、憲法一四条に違反するもので
ある。
(d)仮に収容者らの出頭について、何らかの事故の発生が予想されるとしても、刑事
事件の公判期日において通常取られている予防的戒護により、充分防止することができる
ものである。また、監獄法令上、戒護権の事前行使は原則として禁止されているから、具
体的な事故の発生していない時点において、単なる予想に過ぎない管理上の支障に基づい
て戒護権の事前行使である口頭弁論期日の出頭禁止をすることはできない。
(e)裁判長の訴訟指揮による法廷警察権や法廷等の秩序維持に関する法律による制裁
制度により、法廷における秩序維持は充分にされるのであつて、収容者らを一〇三号事件
の口頭弁論期日に出頭させても、管理上の支障は生じないというべきである。
(f)収容者らは、自己の権利の救済を求めているのであるから、一〇三号事件の口頭
弁論期日において自己にマイナスになるであろう行動にでる筈はなく、管理上の支障は生
じないというべきである。
(g)被告所長は、収容者らのうちの一人である原告Aを原告とする東京地方裁判所昭
和五五年(行ウ)第五六号事件においては、同原告を何らの支障もなく、その口頭弁論期
日に出頭させ、更に、収容者ら以外の東京拘置所収容者を当事者とする訴訟の口頭弁論期
日に当該収容者を毎回出頭させている事実もあり、一〇三号事件に限り収容者らを出頭さ
せないという本件処分は合理的根拠のないものである。
5義務確認訴訟の適法性
(一)原告らの被告らに対する、収容者らを一〇三号事件の口頭弁論期日に出頭させる
義務があることの確認を求める訴えは、いわゆる義務確認訴訟であり、行政庁に一定の行
為義務があることを事前の判断で拘束するものではあるが、それは行政庁に一定の作為義
務があるとの裁判所の法的判断の結果に過ぎないから、裁判所が行政行為をしたものとは
いえない。したがつて、義務確認訴訟は適法なものである。
(二)仮に当該行政行為をするか否かについては行政庁の第一次的判断権が重視され、
裁判所の審理判断は事後的なものを原則とするとしても、当該行政行為が法律上覇束され
ていて行政庁の第一次的判断権を重視する必要がない程度に明白であり、かつ、事前の司
法審査によらなければ回復困難な損害の生ずる緊急の必要性があり、他に有効な救済手段
がない場合には、例外的に義務確認訴訟は許されるべきである。
本件においては、被告所長は、収容者らが一〇三号事件の口頭弁論期日に出頭することを
禁止しているが、その禁止の理由から考えて今後の口頭弁論期日においても出頭を禁止す
。、、ることは明らかであるそして右4記載のとおり収容者らの出頭を禁止する処分が違法
無効であることは明白であり、出頭禁止処分が執行されればその性質上、原状回復は困難
であり、また、収容者らが出頭しない場合には、実質的な弁論をすることができずに敗訴
を強いられ、
あるいは、民訴法一四〇条三項の擬制自白や同法二三八条の訴えの看做し取下げの規定が
適用されかねず、そのような事態になれば収容者らには回復困難な損害が生ずることにな
るが、被告所長は当該口頭弁論期日の前日に収容者らに出頭禁止処分の告知をしているた
め、事前に救済を求める以外に有効な方法はないから、本件の義務確認訴訟は許されるべ
きである。
(三)獄外原告らについては、裁判を受ける権利は当然保障されているが、右権利の行
使として、一〇三号事件におけては、共同原告である収容者らと公開法廷に同席すること
により統一した弁論を展開することができるというべきであり、そのようにして初めて有
利に訴訟を展開することができるところ、本件処分により収容者らが一〇三号事件の口頭
弁論期日に出頭できないため、獄外原告らは、収容者らとの統一した弁論が展開できず、
裁判を受ける権利を実質的に侵害されているから、本件処分の無効確認及び取消しを求め
る利益を有しているものである。また、今後も収容者らの出頭が禁止される場合には充分
な弁論ができずに敗訴するおそれが充分にあるから、被告らに対して収容者を一〇三号事
件の口頭弁論期日に出頭させる義務があることの確認を求める利益を有しているものであ
る。
6損害
(一)収容原告らの損害
収容原告らは、本件処分により一〇三号事件の口頭弁論期日に出頭する権利を奪われてい
る。そして、一〇三号事件の口頭弁論期日に出頭することが禁止されているため、収容原
告らは、実質的な弁論をすることができず、また、不出頭により、民訴法一四〇条三項の
擬制自白の規定や同法二三八条の訴えの看做し取下げの規定の適用されかねない状態にあ
るから、本件処分による一〇三号事件の口頭弁論期日の出頭の禁止は、実質的には、基本
的人権である収容原告らの裁判を受ける権利の拒否もしくは敗訴の強制である。
収容原告らの右損害を金銭に見積もれば、収容原告各人につき金一〇万円が相当である。
(二)獄外原告らの損害
獄外原告らは、本件処分により一〇三号事件の口頭弁論期日において収容者らと統一した
弁論を展開する権利を奪われている。更に、獄外原告らは、一〇三号事件の合計七回の口
頭弁論期日に毎回出頭したが、収容者らが出頭できないためにいずれの期日にも実質的弁
論を行うことができなかつたため、出頭のための交通費が無意味となり、更に、
出頭当日の日当相当額の経済的損失も受けている。
獄外原告らの右損害を金銭に見積もれば金一五万円が相当である。
7責任
本件処分は、被告国の公権力の行使として、被告所長がしたものであるから、被告国は、
国家賠償法一条により、本件処分により原告らに生じた損害を賠償する責任がある。
8よつて、原告らは、被告所長に対し本件処分の無効確認とその取消しを、被告らに対
し収容者らを一〇三号事件の口頭弁論期日に出頭させる義務があることの確認を求めると
、()、ともに被告国に対し収容原告らについて右6一記載の損害賠償として各金一〇万円
獄外原告らについて同(二)記載の損害賠償として各金一五万円及び原告ら全員について
右各金員に対する本件訴訟の原因となつた本件書籍の閲読不許可処分の日である昭和五五
年五月一四日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二被告らの本案前の主張
1本件処分の無効確認及び取消しを求める訴えについて
(一)収容原告らのうち原告Aは、被告所長に対し一〇三号事件の昭和五六年六月二六
日の口頭弁論期日の出頭の出願をしておらず、同原告に対する右期日の出頭不許可処分は
存在しない。
(二)獄外原告らは、本件処分を受けた者ではないから、本件処分の無効確認及び取消
しを求める法律上の利益を有しない。
(三)本件処分の対象となつた一〇三号事件の口頭弁論期日は既に終了しているから、
原告らには、その無効確認及び取消しを求める法律上の利益は存在しない。
2義務確認訴訟について
収容者らを一〇三号事件の口頭弁論期日に出頭させる義務があることの確認を求める訴え
のうち、被告所長に対するものは、公権力の行使に関する事前の義務確認訴訟と解される
が、三権分立の原則から、行政権の行使は第一次的には行政庁の判断に任されるべきであ
つて、不適法なものであり、また、被告国に対する訴えは、民事上の請求の形式をとつて
いるが、実質的には被告所長の公権力の行使に関するものであるから、通常の民事上の請
求に係る訴訟ではなしえない不適法なものである。
三被告らの本案前の主張に対する原告Uの反論
1仮に、原告Aが一〇三号事件の昭和五六年六月二六日の口頭弁論期日について被告所
長に対して出頭の出願をしていないとしても、被告所長は、
東京拘置所に収容されている原告らの出願の有無に拘わらず、当該期日に出頭させるべき
憲法上の義務があるから、右期日に同原告が出頭していない以上、被告所長による出頭不
許可処分があるというべきである。
2本件処分の対象となつた一〇三号事件の口頭弁論期日は既に経過しているが、本件処
分による原告らの損害、不利益は現在も継続的に存在するばかりか、将来も同様の不許可
処分が予想されるなど将来に向けても反復継続的に生ずるものであることは明らかであ
る。
更に、本件処分の取消しあるいは無効確認が確定すれば、必然的に収容者らが不出頭のも
とでされた一〇三号事件の口頭弁論期日の訴訟手続きは違法なものとなつて、口頭弁論期
日と弁論はやりなおされることになる筈であるから、本件処分の対象となつた口頭弁論期
日が既に経過しているとしても、原告らには、その無効確認あるいは取消しを求める利益
があるというべきである。
四請求原因に対する認否
1請求原因1のうち、獄外原告らが「獄中者組合」の獄外事務局員であることは不知、
その余の事実は認める。
2同2の事実は認める。
3同3のうち、一〇三号事件の口頭弁論期日が原告ら主張の日に開かれたこと、収容者
らのうち東京拘置所に収容されていたものの更に一部のもの(その人数は後記五1(一)
及び(二)のとおり)が被告所長に対し右各期日につき出頭の出願をしたこと、この出。

のすべてにつき、被告所長が出頭不許可処分をし、各口頭弁論期日の前日に出願者に対し
その旨の告知をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。なお、原告Aを除く収容
原告らは、右の全期日につき出頭の出願をしているが、原告Aは、昭和五六年六月二六日
の期日につき出頭の出願をせず、他の期日についてだけ出頭の出願をしている。したがつ
て、同原告に対する右期日の出頭不許可処分はない。
4同4ないし8は争う。
五被告らの本案の主張
1本件処分の経緯
(一)一〇三号事件の原告らのうち、当時東京拘置所に収容されていた収容原告らを含
む一七名について、昭和五六年五月二七日午前一一時を第一回口頭弁論期日とする呼出状
が送達されたことから、右の一七名のうち、収容原告らを含む一三名が、被告所長に対し
て当該期日の出頭の出願をした。
被告所長は、右各出願について検討した結果、いずれについてもこれを許可しないことと
し、同月二六日、
右各出願者に対し、次のとおりの理由を付してその旨の告知をした。
(1)民事事件においては、訴訟代理人制度が活用でき、また、その費用が負担できな
い場合には法律扶助の手続きが可能である。
(2)第一回口頭弁論期日においては、民訴法一三八条により訴状及び準備書面の提出
をもつて擬制陳述の取扱いを受けうる余地がある。
(3)管理運営上支障が大であり、出頭させることは困難である。
(二)第二回口頭弁論期日ないし第七回口頭弁論期日
第二回口頭弁論期日以降の一〇三号事件の原告らのうち、東京拘置所に収容されていた人
(。)、(。)数収容原告らを含む出頭出願者数原告Aの第二回期日を除き収容原告らを含む
、、()は次のとおりであるが被告所長は右出願についていずれも出頭不許可処分本件処分
をし、当該期日の前日に各出願者に対して、右(一(1(3)と同様の理由を付して))、

の旨の告知をした。
なお、原告Aは、昭和五六年六月二六日の第二回口頭弁論期日については出頭の出願はし
ていない。
2本件処分の適法性
(一)国家が法律の手続きによつて、人身の自由を奪い得ることは、憲法三一条の反対
解釈からも明らかであるが、監獄に拘禁されている刑事被告人は、刑事訴訟法に基づき逃
亡又は罪証隠滅の防止を目的としてその居住を監獄内に限定するものであり、その目的達
成のために、刑事被告人が民事事件の訴訟を提起した場合であつても、訴訟遂行の目的で
裁判所に出頭することについて制限を受けることは当然のことである。そして、民事事件
は、訴訟代理人に委任して訴訟を遂行することができるのであつて、本人自らが口頭弁論
期日に出頭できないとしても裁判そのものを拒否されることはないし、費用の関係で訴訟
代理人を選任することができない者に対しては、法律扶助協会による法律扶助によつて、
弁護士である訴訟代理人を選任する途も開かれている。したがつて、監獄の長は、刑事被
告人についての右拘禁目的を達成するために必要かつ合理的な範囲内において当該事件の
種類、性質、本人自ら出頭する必要性の程度及び出頭が拘禁に及ぼす影響、職員配置等を
総合的に勘案したうえで、その裁量権に基づいて、当該口頭弁論期日に本人自らを出頭さ
せるか否かの許否を決することができるというべきである。
(二)管理運営上の支障
第一回口頭弁論期日当時、東京拘置所に収容されていた一〇三号事件の原告は一七名であ
、、、、るがそのうちには死刑判決確定者一名判決において死刑を言い渡されている者五名
無期懲役を言い渡されている者二名が含まれており、また、右一七名の大半は、いわゆる
連合赤軍リンチ事件、連続企業爆破事件等社会の重大な関心を集めた事件の関係者である
から、これらの者の拘禁及び戒護に当たつては、一般の在監者以上の細心の配慮を必要と
するものであり、公判出廷以外の事由で施設外に連れ出すことは、やむを得ない必要性が
認められ、かつ、警備、戒護能力の及ぶ範囲で、その拘禁及び戒護に万全を期し得る場合
に限られなければならない。
一〇三号事件の原告らは、監獄解体などを標ぼうする「獄中者組合」と深い関係を持つ
者で、戦閤的、独善的な思想に基づき、東京拘置所内において、ことあるごとに外部の支
援者と連帯して不法なハンガーストライキ、シユプレヒコール等の種々の規律違反行為を
反復にて行つていること、同原告らの公判の審理状況等を考慮すると、同原告ら多数の者
、、を一〇三号事件の口頭弁論期日に出頭させると支援者である傍聴人と呼応連帯して暴行
けん騒等の行為を反復して、いわゆる「荒れる法廷」を現出させ、更には、拘禁上最悪の
事態の発生すら十分予想されていた。また、一〇三号事件においては、訴訟提起の当初か
ら、閲読不許可処分の対象となつた本件書籍が同事件の収容されていない原告二名から甲
号証として提出されて、裁判所の記録に編綴されており、同事件の収容されている原告ら
を出頭させれば、記録の閲読等により、本件書籍を閲読不許可処分にした趣旨そのものが
損なわれるおそれがあつた。
右のような事態の発生が予想されるにも拘わらず、同事件の収容されている原告らを口頭
弁論期日に出頭させ、しかも拘禁目的及び本件書籍を閲読不許可処分にした趣旨を維持、
確保するためには、極めて多数の戒護職員による特別厳重な警備体制が必要であり、当時
の東京拘置所の配置職員数、東京地方裁判所の仮監の室数、一般刑事事件の出廷人員等の
諸事情を考慮すると、同原告らを一〇三号事件の第一回口頭弁論期日に出頭させることは
不可能な状態であつた。
昭和五六年六月二六日の第二回口頭弁論期日以降昭和五七年七月一五日の第七回口頭弁論
期日までについても、右と同様の状況にあつた。
(三)被告所長は、一〇三号事件の原告らのうち、東京拘置所に収容されている者を口
頭弁論期日に出頭させることは右(二)のとおり管理運営上支障があること、一〇三号事
件は東京拘置所の施設に対する不信感、抗争心を助長させるような内容が記述された本件
書籍の閲読の可否をめぐる訴訟であるところ、収容されていない原告らから本件書籍が甲
号証として提出されていること一〇三号事件の原告らのうちには収容されていない者訴、(
え提起当時二名)が存し、収容されている原告らを出頭させなくても立証活動上さほどの
支障は生じないこと等の諸事情を考慮して、本件処分をしたものであるから、本件処分は
違法なものではない。
(3)原告らの本件処分が憲法違反であるとの主張に対する反論
(1)憲法三二条に定める裁判を受ける権利とは、民事事件についていえば、裁判所に
訴訟提起をする自由(この反面、裁判所は適式な訴えに対しては、裁判を拒絶することが
許されないこと)を意味するにとどまり、裁判所に自ら出頭して訴訟を遂行する自由まで
を包含するものではない。もとより、かかる自由も広い意味において憲法一三条の保障す
る自由ないし権利に属し、できうる限り尊重されなければならないが、それは絶対的無制
、。、、、限のものではなく公共の福祉に服すべきものであるそして収容者らは刑事被告人
懲役刑確定者又は死刑確定者として東京拘置所に収容され、その拘禁目的の達成のために
本件処分がされたのであるから、本件処分は、憲法三二条に違反しないものである。
(2)憲法八二条一項は、裁判の対審及び判決は、公開法廷で行う旨規定しているが、
同項は、裁判の手続きを定めた規定にすぎず、当事者に対する出頭の権利を保障する規定
ではないから、本件処分により収容者らが一〇三号事件の口頭弁論期日に出頭できなかつ
たとしても、同項に違反するものではない。
(3)一〇三号事件の口頭弁論期日に収容者らを出頭させなかつたことにより、司法権
の独立が侵害されるようなことはないから、本件処分は、憲法七六条に違反するものでは
ない。
(4)右(一)ないし(三)及び(1)ないし(3)記載のとおり、本件処分は、合理
的な理由を有し、憲法上も許されるものであつて、憲法一四条が禁止する不合理な差別に
当たらないから、本件処分は、憲法一四条に違反するものではない。
六被告らの本案の主張に対する原告S、同T及び同Uの認否
1被告らの本案の主張1のうち、被告ら主張の呼出状が送達されたこと、被告所長が一
〇三号事件の原告らのうち東京拘置所に収容されていた者らからの出頭の出願に対して被
、、告ら主張のような理由を付して出頭不許可処分をしそれを出願者に告知したことは認め
出願者数は不知、原告Aが昭和五六年六月二六日の口頭弁論期日について出頭の出願をし
なかつたことは否認する。
2同2は争う。
第三証拠(省略)
○理由
一原告らの被告所長に対する本件処分の無効確認及びその取消しを求める訴えについて
原告らは、被告所長が、収容者らに対し、一〇三号事件の各口頭弁論期日(その各期日が
請求原因3のとおりの日に開かれたことは当事者間に争いがない)の出頭不許可処分を。

たと主張している(原告らは、請求原因3においては、収容者らのうち当時東京拘置所に
収容されている者のみについての出頭不許可処分を問題としているようにみえるが、請求
の趣旨1では、収容者ら全員の右不許可処分を問題としていると解されるので、収容者ら
全員について右不許可処分がされたとの主張があるものとして判断する。。)
ところで、右のような口頭弁論期日についての出頭不許可処分の効果は、その対象となつ
た口頭弁論期日にのみ及ぶものであつて、その後の口頭弁論期日には及ばないものと解さ
れるから、右の処分は、当該口頭弁論期日の経過とともに、その効果が失われるものとい
うべきであり、また、その効果が失われた後に、なお右の処分が存在することを理由にあ
る個人を不利益に取り扱い得ることを定めた法令上の規定はない。
そうすると、仮に原告ら主張のとおりの出頭不許可処分が存在するとしても、その対象と
なつた口頭弁論期日を経過していることは明らかであるから、原告らには、本件処分の無
効確認又はその取消しを求める法律上の利益はないものというほかない。
なお原告Uは本件処分による損害不利益は現在も存在していると主張しているが事、、、(
実摘示第二の三2、その損害、不利益の主たるものは、当該口頭弁論期日に原告らの望)

形での弁論、すなわち、共同原告らによる統一した弁論ができなかつたという事実上の不
利益を指すものと解され、また、その他の損害、不利益とは出頭した原告らの交通費、
日当相当額の経済的損害と解されるところ、これら不利益は、いずれも本件処分の無効確
認又はその取消しを得たからといつて回復しうるものではないから、本件処分の無効確認
又はその取消しを求める法律上の利益とはいえない。
したがつて、原告らの本件処分の無効確認及びその取消しを求める訴えは、いずれも不適
法なものである。
二原告らの被告らに対する収容者らを一〇三号事件の口頭弁論期日に出頭させる義務が
あることの確認を求める訴え(以下「本件義務確認訴訟」という)について。
1本件義務確認訴訟は、監獄に収容されている者を当事者とする民事事件の口頭弁論期
日に当事者である収容者らが出頭することにつき許可をする義務があることの確認を求め
るものと解される。そして、右許可は公権力の行使である行政処分に当たるから、本件義
務確認訴訟は、いわゆる無名抗告訴訟のうちの義務確認訴訟に該当するものというべきで
ある。
ところで、右の義務確認訴訟は、行政庁が当該処分をするか否かの判断をする以前に、司
法判断により行政庁の行政権限の行使を拘束するもので、行政庁の行政処分をすべきか否
かの第一次的判断権を排除するものである。それゆえ、右訴訟を適法とするためには、少
なくとも、行政庁の第一次的判断権を尊重する必要がないとすべき特段の事情の存するこ
とを要すると解すべきところ、後記三のとおり、監獄旧収容されている者を、民事事件の
口頭弁論期日に出頭させるか否かについては、当該監獄の長の裁量に委ねられているもの
であり、しかも、本件において、行政庁の第一次的判断権を尊重する必要がないとすべき
特段の事情があるとは認め難い。
したがつて、本件義務確認訴訟は、不適法なものである。
2なお、本件義務確認訴訟は、右の1のとおり不適法なものであるが、以下の理由でも
やはり不適法なものである。
(一)被告国に対する訴え
本件義務確認訴訟は、公権力の行使に関する不服の訴訟であつて、無名抗告訴訟として提
起すべきものであり、無名抗告訴訟においては、当該行政処分を行う権限を有する行政庁
を被告とすべきものであるところ、監獄に収容されている者を民事事件の口頭弁論期日に
、、出頭させるか否かにつき権限を有する者は当該監獄の長であるから本件義務確認訴訟は
当該監獄の長を相手方として提起すべきものである。したがつて、被告国を相手方とする
本件義務確認訴訟は、
被告適格を有しない者を被告とする不適法なものというほかはない。
なお、仮に、本件義務確認訴訟が通常の民事上の請求に係る民事訴訟として提起されてい
るものであるとしても、公権力の行使に関し通常の民事上の請求に係る訴訟を提起するこ
とが許されないことはいうまでもないから、本件義務確認訴訟はやはり不適法である。
(二)被告所長に対する訴えについて
(1)獄外原告らの訴え
獄外原告らは、収容者らが、一〇三号事件の口頭弁論期日に出頭できないため、同原告ら
、、、と統一した弁論が展開できず裁判を受ける権利を侵害され敗訴するおそれがあるから
本件義務確認訴訟につき法律上の利益がある旨を主張しているが、獄外原告らは、収容者
らが一〇三号事件の口頭弁論期日に出頭しなくても、自らが必要と判断する訴訟行為をす
ることができ、収容者らが出頭できないことによりその訴訟活動が法律上制約を受けるも
のとは到底認められず、したがつて、右原告らの主張する不利益は、事実上の不利益に過
ぎず、法律上の利益とはいえない。そして、他に、収容者らの一〇三号事件の口頭弁論期
日への出頭により、獄外原告らが法律上の利益を得ることを首肯させるに足る事情も見当
たらない。そうすると、獄外原告らの被告所長に対する本件義務確認訴訟は、それを求め
るにつき法律上の利益を欠く者が提起したものとして、不適法なものである。
(2)原告A及び同Bの訴え
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一五号証によれば、現在、原告
Aは、懲役刑確定者として府中刑務所に、同Bは、同じく旭川刑務所にそれぞれ在監して
いる事実が認められ、被告所長は、現在、同原告らを一〇三号事件の口頭弁論期日に出頭
させるか否かを決定する権限を有していないから、同原告らの被告所長に対する本件義務
確認訴訟は被告適格を有しない者を相手方とする不適法なものである。
三被告国に対する損害賠償請求について
1収容者らが、本件処分(一〇三号事件の目頭弁論期日が請求原因3のとおりの日に開
かれたことは当事者間に争いがないところ、原告らは、収容者ら全員に対し右全期日につ
き被告所長の出頭不許可の処分が存在することを前提として主張している。右処分のうち
一部については被告らにおいてもその存在を肯認していることは事実摘示第二の四3、五
1(一(二)のとおりである。)、
、、。そこで以下では仮に原告ら主張の出碩不許可処分が全部存在するものとして判断する
以下では、右の出頭不許可処分を総称して「本件処分」という)当時、刑事被告人、、。

役刑確定者若しくは死刑確定者として東京拘置所に又は懲役刑確定者として他の監獄にそ
れぞれ収容されていた者であることは、当事者間に争いがない。
2そこで考えるに、憲法三二条、八一条一項の規定は、直接には、裁判所に訴訟を提起
して権利利益の保護を求めることを保障し、又は、裁判の対審及び判決を公開の法廷で行
うべきものとしているものであるが、これらの規定の趣旨及び憲法一三条の規定の趣旨に
懲すれば、原告らが主張するような、裁判所に訴訟を提起した者につき裁判所に出頭する
自由(以下「出頭の自由」という)を保障しているものと解される。しかし、出頭の自。

は、その制限が絶対に許されないものとすることはできず、これに優越する公共の利益の
ための必要から、一定の合理的制限を受けることがあるのは当然である。
しかして、本件で問題となつているのは、未決拘禁者(勾留中の刑事被告人を指す。以下
同じ、懲役刑確定者又は死刑確定者に対する右の自由の制限であるが、それぞれの者。)

ついて次のように考えることができる。
(一)まず、未決拘禁者は、逃亡又は罪証隠滅の防止という勾留の目的により、その居
住を監獄内に限定されているものであつて、その限度で身体的行動の自由及びその他の自
由に一定の制限を受けることを免れず、また、監獄内に居住を限定されることに伴い、そ
の内部における規律及び秩序を維持するためにも、右の自由に一定の制限が加えられるこ
とを認めざるを得ない。しかしながら、未決拘禁者は、逃亡又は罪証隠滅の防止という目
的のために必要な範囲以外では、原則として一般市民としての自由を保障されるべき者で
、、あるから監獄内の規律及び秩序の維持のために自由を制限することが許されるためには
右の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があ
ると認められることを必要とし、かつ、その場合の程度は、右の障害発生の防止のために
必要かつ合理的な範囲にとどまるべきものと解される。
(二)次に、死刑確定者は、死刑執行に至るまでその居住を監獄内に限定されるもので
、()。あり監獄法上は原則として未決拘禁者に準じて取り扱われるものである監獄法九条
したがつて、その自由の制限に関しても、少なくとも、未決拘禁者と同様の範囲での制限
は是認されるものである。
(三)最後に、懲役刑確定者(以下「受刑者」という)は、刑罰の執行として、その。

住を監獄内に限定され、そこで定役に服するものであり、身体的行動の自由及びその他の
自由は大幅に制限を受けるべきものであり、更に、監獄内の規律及び秩序を維持するため
にも、右の自由に一定の制限が加えられることについては未決拘禁者と同様である。した
がつて、その自由の制限は、未決拘禁者と比べより広い範囲にわたり得るものであつて、
少なくとも、未決拘禁者と同様の範囲での制限が許られるのは疑いのないところである。
それゆえに、本件における出頭の自由の制限が、未決拘禁者について述べた基準によつて
も是認される程度のものであるとすれば、死刑確定者又は受刑者についても当然に是認さ
れるものと解して妨げない。
そして、出頭の自由の制限については、被拘禁者の性向、行状、監獄内の管理、保安の状
況、監獄から当該民事事件の法廷への護送の際の戒護の難易、当該民事事件の審理の状況
等諸般の事情を考慮した具体的場合のもとにおいて、被拘禁者に対し当該民事事件の口頭
弁論期日に出頭を許すことによつて監獄内の規律及び秩序の維持に放置することができな
い程度の障害が生ずる蓋然性が存するかどうか及びこれを防止するためにどのような内
容、
程度の制限措置が必要と認められるかについては、監獄内の実情に通暁し、直接その衝に
あたる監獄の長の裁量的判断に委ねられるべきものであるから、障害発生の相当の蓋然性
があるとした監獄の長の判断に合理的な根拠があり、その防止のために右の出頭を制限す
る措置が必要であるとの判断に合理性が認められる限り、監獄の長の出頭不許可処分は適
法と解するのが相当である。
3弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二号証ないし第一一号証、
第一四号証及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はな
い。
(一)東京拘置所においては、昭和四九年ころから、監獄法関係法令に違反し、その撤
廃を要求する等の対監獄闘争を通じて監獄の解体を実現することを目的とした獄中者組合
に所属する、あるいはこれに同調する在監者らが、獄外事務局と連絡をとりながら、点検
拒否、房扉乱打、ハンガーストライキ、
シユプレヒコール等の規律違反行為を繰り返し、時には多数の者がこれに参加したため舎
房全体が騒然となるなど、しばしば、施設の規律及び秩序維持に多大な支障を生じさせて
いた。そして、一〇三号事件の原告らは、いずれも獄中者組合に所属する者、あるいはこ
れに同調する者であつた。
(二)一〇三号事件の原告らのうちには、死刑確定者一名、判決において死刑を言い渡
されている者五名、無期懲役を言い渡されている者二名が含まれており、また、いわゆる
連合赤軍リンチ事件及び連続企業爆破事件といつた社会的に耳目を集めた重大事件の刑事
被告人も含まれていた。連合赤軍リンチ事件や連続企業爆破事件においては、過去に、刑
、、事被告人及び傍聴している支援者が一体となつて騒ぎ立てるいわゆる荒れる法廷があり
一〇三号事件の原告らのうち、本件訴訟の原告であるC、訴外E、同H、同Kは、連続企
業爆破事件の公判廷における言動により、法廷等の秩序維持に関する法律に定める監置処
分を受けたこともあつた。
また、同事件の第一回口頭弁論期日の前日である昭和五六年五月二六日には、東京拘置所
の近傍において、同事件の原告らの支援者による共同訴訟出頭要求なる示威行動が行われ
ている。
(三)一〇三号事件は、被告所長のした、同事件の原告ら(ただし、原告T及び同Uを
除く)に対する本件書籍の閲読不許可処分の取消し及び右処分による損害の賠償請求事。

であるが、同事件においては、第一回口頭弁論期日前に、原告T及び同Uから、本件書籍
が甲号証として提出され、同事件の事件記録に編綴されていた(以上の事実は、当裁判所
に顕著である。。)
()、、、四被告所長は本件処分当時未決拘禁者を刑事事件の公判廷に出頭させる場合に
社会的に耳目を集めた重大事件、被告人の身柄が奪取されることが予想される事件、被告
人の実力による抵抗に対し戒護職貝による強制力の行使をせざるをえないことが予想され
る事件等については、被告人一名に対して少なくとも職員三名により戒護し、その他にも
警備要員を相当配置する取扱いをしていた。
、、、また本件処分当時の東京拘置所における保安課に勤務する職員は約三五〇名であるが
夜勤明けの職員や休日に当たる職員を除くと、平日に勤務可能な職員は約二四〇名で、
そのうち東京拘置所内の業務遂行に約一九〇名の職員が必要であつたため、収容者を施設
外に連れ出す場合の戒護職貝としては約五〇名が見込まれるに過ぎなかつた。なお、被告
所長は、保安課の職貝が不足する場合には、夜勤明けの職員をそのまま居残らせたり、職
員の休暇を取り消したり、更には、事務職員に応援させることもあつたが、本件処分当時
は、獄中者組合による対監獄闘争により、右状態が常態化していた。
一〇三号事件の原告らのうち、同事件の各口頭弁論期日の出頭を出願した人数は、少な
くとも次表の出願者数のとおりであり(被告らの主張する数による。原告らは、この数よ
り多人数を主張している、また、当日の刑事事件の公判廷に出廷する刑事被告人の戒。)

に要した職員数は次表の戒護職員数のとおりであつた。
(五)被告所長は、
(1)民事事件においては、訴訟代理人制度が活用でき、また、その費用が負担できな
い場合には法律扶助の手続きが可能であり、第一回口頭弁論期日においては、民訴法一三
八条により訴状及び準備書面の擬制陳述の余地があることなどにより、東京拘置所に収容
されている一〇三号事件の原告らが、同事件の口頭弁論期日に現実に出頭しなければなら
ない必要性があるとはいえないこと、
(2)一〇三号事件の原告らに言い渡されている刑には死刑、無期懲役刑など重刑がか
なり含まれていること、同原告らのうち相当数が連合赤軍リンチ事件や連続企業爆破事件
等の社会的に耳目を集めた重大事件の被告人であること、同原告らの中には死刑確定者一
名含まれていることなどから、その戒護には特別な配慮を必要としているうえ、同事件の
原告らと対監獄闘争を行つてきた獄中者組合との関係及び同事件の原告らの過去における
刑事事件の審理状況、支援者の行動等から、同事件の口頭弁論においても、いわゆる荒れ
る法廷になることが充分に予想できるのに対し、これに充分に対応するに足るだけの職員
の確保は、困難と判断したこと、
(3)一〇三号事件の記録中には、本件書籍が編綴されており、東京拘置所に収容され
ている同事件の原告らを、同事件の口頭弁論期日に出頭させると右原告らが本件書籍を閲
読し、被告所長が、本件書籍の閲読を不許可にした趣旨そのものが損なわれるおそれがあ
ること、
を配慮のうえ、東京拘置所に収容されている一〇三号事件の原告らが、
同事件の口頭弁論期日に出頭することを不許可とする旨の処分(本件処分)をした。
4そこで、右2の観点にたち、右3の事実により、本件処分の適法性を判断する。
一〇三号事件の原告らを、同事件の口頭弁論期日に出頭させる場合には、同事件の口頭
弁論がいわゆる荒れる法廷になることが充分に予想されることなどの事情から、その戒護
に特別な配慮が必要であるとした被告所長の判断は、前記3(一(二)記載の事実に)、

らし、合理的な根拠を有するものと認められる。
また、右のような事情にある収容者について、被告所長が本件処分当時、刑事事件につい
てであるが、収容者一名に対して少なくとも三名の職員により戒護し、その他にも相当数
の警備要員を配置する取扱いをしていたことは、あながち、不合理なものとは認め難く、
したがつて、民事事件についても、同様の取扱いをすることを不合理とすることはできな
い。しかるところ、右3(四)認定の「出願者数」及び「戒護職貝数」を前提とし、出願
者数の一名に対し三名の戒護職員により戒護して同事件の口頭弁論期日に出頭させること
とすると、各口頭弁論期日には右の「戒護職員数」と合わせて、少なくとも次の人数の戒
護職貝の配置が必要となる。
そして、当時の同拘置所の収容者を施設外に連れ出す場合の戒護職貝としては約五〇名が
見込まれていたに過ぎないことは、右3(四)認定のとおりであるから、同事件の原告ら
のうち右3(四)の「出願者」のみを考えても、それらの者を同事件の口頭弁論期日に出
頭させるには、なおその他にも必要とされる相当数の警備要員を考慮に入れないでも、一
一名ないし三四名程度の戒護職員が不足していたことは計算上明らかである。
ところで、被告所長は、刑事訴訟法上、同法二八六条の二に規定する場合を除いては、東
京拘置所に収容されている刑事被告人を刑事事件の公判廷に出廷させる法律上の義務を負
つていると解されるのに対し、同拘置所に収容されている者を民事事件の口頭弁論期日に
、、出頭させるべき旨を定めた法律上の規定はないので同事件の各目頭弁論期日においては
刑事事件の公判廷に出頭する刑事被告人に、戒護職員を優先的に配置すべき義務があつた
ものというべきであり、また、右3(四)認定の東京拘置所内の業務遂行にあてるべき約
一九〇名の職員のなかから、必要な戒護職員を捻出した場合には、
同拘置所の管理運営上、支障が生ずることは明らかであるので、被告所長において、同事
件の原告らを口頭弁論期日に出頭させるために必要な戒護職員を、右一九〇名から捻出す
べき義務はなかつたものと解するのが相当である。それゆえ、同事件の原告らのうち右3
(四)の「出願者」のみを考えても、それらの者を同事件の口頭弁論期日に出頭させる場
合には、前記のとおり、相当数の警備要員を考慮に入れないでも、一一名ないし三四名程
度の戒護職員が不足していたものというべきである。してみると、同原告らを同事件の口
頭弁論期日に出頭させるのに必要な人数の戒護職員の確保を困難であるとした被告所長の
判断は合理性を有するものと認められる。
そして、右のとおり、必要な人数の戒護職員の確保が困難である以上、収容者らを一〇三
号事件の口頭弁論期日に出頭させた場合には、その戒護に放置することのできない支障が
生ずる相当の蓋然性があり、その防止のために収容者らを一〇三号事件の口頭弁論期日に
出頭させないこととする必要があるとした被告所長の右3(五(2)の判断は、合理性)

認められないとはいえない。
更に加えて、被告所長の右3(五(3)の判断も、右3(三)の事実に照らし、必ずし)

合理性がないとはいえないし、被告所長の右3(五(1)の判断も、根拠を欠く不合理)

ものとまでは断定し難い。
したがつて、本件処分は適法なものというべきである。
なお、被告所長が、原告A、その他の収容者について、他の民事事件では、同人らを当該
口頭弁論期日に出頭させている事実が仮にあるとしても、出頭の許否は、具体的事情のも
、。とにおける判断であるから右の事実は直ちに前示の結論を左右するに足るものではない
また、同所長において、東京拘置所に収容されている一〇三号事件の原告らを、それらの
者の刑事事件の公判廷に出頭させているとしても、同所長は収容されている刑事被告人を
刑事事件の公判廷に出頭させる義務を負つているものと解されることは前述のとおりであ
るから、本件処分とはその事情を異にするものであつて、やはり右結論を左右するに足る
ものではないというべきである。そして、民事事件と刑事事件とはその本質を異にするも
のであるから、右のように、拘置所に収容されている者の法廷への出頭についての取り扱
いに差があるとしても、その差別は合理的なものであつて、
憲法一四条に違反するものでないことはいうまでもない。
5原告らは、被告所長の本件処分が違法であることを前提として、被告国に対する損害
賠償請求を求めているが、右2ないし4で判示したとおり、本件処分は(仮にそれが全部
存在するとしても)適法であるから、原告らの主張はその前提を欠き失当である。、
四よつて、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの被告所長に対する訴え及び
被告国に対する収容者らを一〇三号事件の口頭弁論期日に出頭させる義務があることの確
認を求める訴えはいずれも不適法としてこれを却下し、原告らの被告国に対するその余の
請求はいずれも失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、
民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官鈴木康之塚本伊平加藤就一)

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