弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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            主     文
原決定中,別紙押収品目録記載3ないし6の各押収物件に関し,申立人への還付を
求める申立てを
 棄却した部分を取り消す。        

   松山海上保安部司法警察員は,上記各押収物件を申立人に還付せよ。
   その余の本件抗告を棄却する。                    
                    
            理     由
 本件抗告の趣意のうち,判例違反をいう点は,所論引用の地方裁判所及び簡易裁
判所の決定は刑訴法405条3号にいう判例に当たらず,その余は,憲法違反をい
う点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法433条の
抗告理由に当たらない。
 所論にかんがみ,原決定中,別紙押収品目録記載3ないし6の各押収物件(以下
「本件物件」という。)に関する部分について,職権をもって判断する。
 本件は,被疑者不詳に対する愛媛県漁業調整規則違反被疑事件に関し,松山海上
保安部司法警察員が申立人の所有に係る漁船等を差し押さえたのに対し,申立人が
還付を申し立てたところ,それが却下されたため,刑訴法430条2項の準抗告を
申し立てた事案である。原決定は,本件物件について,なおこれらを留置しなけれ
ばならない必要性はないとしたが,申立人が本件物件の自己への還付を求めたのに
対しては,同法430条2項は,押収処分の取消変更を認めているにすぎず,それ
以上に還付の裁判を求めることはできないとして,還付請求に対する却下処分の取
消しのみを認め,その余の申立てを棄却した。
 しかしながら,【要旨1】捜査機関による押収処分を受けた者は,同法222条
1項において準用する123条1項にいう「留置の必要がない」場合に当たること
を理由として,当該捜査機関に対して押収物の還付を請求することができるという
べきである。そして,【要旨2】上記押収処分を受けた者から,還付請求を却下し
た処分の取消しと自己への還付を求めて同法430条2項の準抗告が申し立てられ
た場合において,押収物について留置の必要がないときは,同法222条1項にお
いて準用する124条1項による被害者への還付等,申立人以外の者に還付するこ
とが相当である場合や,捜査機関に更に事実を調査させるなどして新たな処分をさ
せることが相当である場合を除き,準抗告裁判所は,原処分を取り消すとともに,
捜査機関に対して,押収物を申立人に還付するよう命ずる裁判をすべきものである。
原決定が前提とする事実関係によれば,本件においては本件物件を申立人に還付す
るよう命ずる裁判をすべきであったことが明らかであるから,原決定には,決定に
影響を及ぼすべき法令の違反があり,これを取り消さなければ著しく正義に反する
ものと認められる。
 よって,同法411条1号を準用し,同法434条,426条2項により,原決
定中,本件物件に関し,還付を求める申立てを棄却した部分を取り消した上,本件
物件を申立人に還付させることとし,原決定のその余の部分に対する抗告は,同法
434条,426条1項によりこれを棄却することとし,裁判官全員一致の意見で
,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 深澤武久 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉
 徳治 裁判官 島田仁郎)

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