弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人山城昌巳の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 (1) Dは、いわゆる預託金会員制ゴルフクラブであるE(以下「本件ゴルフク
ラブ」という。)の自己名義の個人正会員権(以下「本件会員権」という。)を有
していたところ、平成四年三月一六日、これをゴルフ会員権売買業者である株式会
社Fに売り渡し、裏面の裏書欄に署名押印した預託金預り証のほか、いずれも署名
押印した名義書換請求書(新名義人欄は空欄)、会員権譲渡通知書(譲受人欄は空
欄)、白紙委任状、印鑑登録証明書等の書類を交付した。
 (2) 同会社は、同日、同じくゴルフ会員権売買業者である株式会社G(以下「
G」という。)に対し、本件会員権を売り渡し、前記各書類を交付した。
 (3) Gは、同日、上告会社に対し、本件会員権を代金二一三〇万円で売り渡し
たが、上告会社から本件会員権についての名義書換手続の請求の代行を委託された
ため、前記各書類を上告会社に交付せず、引き続き預かり保管していた。
 (4) Gは、前記のHの署名押印のある名義書換請求書を用いて、本件会員権に
つき上告会社への名義書換えの手続を請求するD、上告会社連名の名義書換請求書
を作成し、同年五月一九日、これを本件ゴルフクラブを経営するI株式会社(以下
「I」という。)に提出した。
 (5) Gは、同月二二日、ゴルフ会員権担保融資等を業とする被上告会社から二
三〇〇万円を借り受け、右借入金債務を担保するため、被上告会社に対して本件会
員権を譲渡担保として譲渡し、前記各書類(ただし、名義書換請求書は新たに偽造
したもの)を交付した。
 (6) Iは、同年六月一六日ころ、上告会社に対し、入会承諾書(確定日付は付
されていない。)により本件ゴルフクラブへの入会の承認を通知するとともに、名
義書換料一〇三万円の支払を請求し、上告会社は、同月二二日、右名義書換料を支
払った。
 (7) 被上告会社は、前記のHの署名押印のある会員権譲渡通知書の譲受人欄に
被上告会社の住所、名称を記載して、同月二五日に内容証明郵便で発送し、右内容
証明郵便は同月二六日にIに到達した。
 二 原審の確定したところによれば、本件会員権は預託金会員制ゴルフクラブの
会員権であり、その法律関係は会員と本件ゴルフクラブを経営するIとの債権的契
約関係であるが、会員権の譲渡については、譲渡を受けた者は、Iの承認を得た上、
会員権について名義書換えの手続をしなければならないものとされている。右の趣
旨は、会員となろうとする者を事前に審査し、会員としてふさわしくない者の入会
を認めないことにより、ゴルフクラブの品位を保つことを目的とするものというべ
きであるから、Iとの関係では、会員権の譲渡を受けた者は、その承認を得て名義
書換えがされるまでは会員権に基づく権利を行使することができないが、譲渡の当
事者間においては、名義書換えがされたときに本件ゴルフクラブの会員たる地位を
取得するものとして、会員権は、有効に移転するものというべきである。そして、こ
の場合において、右譲渡をI以外の第三者に対抗するには、指名債権の譲渡の場合
に準じて、譲渡人が確定日付のある証書によりこれをIに通知し、又はIが確定日
付のある証書によりこれを承諾することを要し、かつ、そのことをもって足りるも
のと解するのが相当である。もっとも、従来、会員権の譲渡に際して確定日付のあ
る証書による通知承諾の手続が必ずしも履行されていなかったという実情を勘案す
れば、現在までに会員権を譲り受け、既に名義書換えを完了してゴルフクラブにお
いて会員として処遇されている者については、その後に当該会員権を二重に譲り受
けた者や差押債権者等が、当該会員が右のような対抗要件具備の手続を経ていない
ことを理由としてその権利取得を否定することが、信義則上許されない場合があり
得るというべきである。
  そうすると、被上告会社が前記会員権譲渡通知書を内容証明郵便により発送し
たことはHに代わってこれを行ったものと解することができるから、右内容証明郵
便がIに到達したことにより、被上告会社は、本件会員権の取得について第三者に
対する対抗要件を備えたものというべきである。そして、他方、Iの上告会社に対
する入会承諾書には確定日付が付されていないところ、原審の前記認定事実によれ
ば、被上告会社については、上告会社が確定日付のある証書による通知承諾の手続
を経ていないことを主張することが信義則上許されないというべき事情は認められ
ない。したがって、被上告会社は、本件会員権の取得をもって、上告会社に対抗す
ることができるものというべきである。右と同旨の原審の判断は、正当として是認
することができる。論旨は、独自の見解に基づき、又は原判決を正解しないでこれ
を非難するものであって、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官福田博の補足意見、裁
判官河合伸一の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決
する。
 裁判官福田博の補足意見は、次のとおりである。
 私は、多数意見に同調するものであるが、なお、次の点について付言しておきた
い。
 預託金会員制ゴルフクラブの会員権の譲渡については、従来、譲渡人から譲受人
に対して、会員の署名押印のある預託金預り証、名義書換請求書、白紙委任状、印
鑑登録証明書等の書類を交付することにより、当事者間での譲渡が行われ、譲受人
は、右書類を利用してゴルフ場経営会社に対し当該会員権の自己への名義書換えの
手続を請求し、名義書換えにつきゴルフ場経営会社の承認を得た上で、ゴルフ場施
設利用権等の会員としての権利を行使するという形態が広く行われていたものであ
って、会員権の譲渡につき、確定日付のある証書により、譲渡人がこれを通知し、
あるいはゴルフ場経営会社がこれを承諾するということは、ほとんど行われていな
かったといわれている。
 右のような形態による会員権の譲渡は、会員権取引において実務上形成されてき
たものであるが、右の方法は、譲渡人と譲受人との間の権利の移転及び譲受人のゴ
ルフ場経営会社に対する権利行使という二つの側面における関係者の権利調整を考
慮したものではあっても、譲受人の会員権の取得をゴルフ場経営会社以外の第三者
に対抗するための対抗要件という点については、これを十分に意識したものではな
かった。そのため、会員権の譲渡と第三者による差押え等が交錯した場合において
は、譲受人と差押債権者等との優劣関係が必ずしも明らかでなく、この点をめぐっ
てしばしば紛争を生ずるという難点があった。今回、会員権の譲渡の第三者に対す
る対抗要件について、多数意見のいうように指名債権譲渡に準ずる方法によるべき
ことが明らかにされたことは、今後の会員権取引における権利関係を明確にし、譲
受人の地位を安定させるという点で、現在会員権を有する者、今後会員権を譲り受
けようとする者のみならず、ゴルフ場経営会社に対しても、資するところは小さく
ないものと思われる。そうであれば、ゴルフ場経営会社においても、会員権の譲渡
人からの確定日付のある証書による通知に対応して、個別の会員権について譲渡当
事者間における権利の移転関係を迅速に把握し、これを記録するなど、本判決によ
り明らかにされた対抗要件具備の方法に積極的に対応する態勢を整えることが要請
されているものということができよう。
 しかし、冒頭に述べたように、従来のゴルフ会員権取引においては、永年にわた
り前記のような譲渡方法が行われてきたものである。そして、ゴルフ会員権につい
ては、債権債務の双方を含む包括的な権利関係として、指名債権譲渡について民法
の規定する対抗要件具備の手続を経ないでも、前記のような名義書換手続を履行す
ることにより会員としての地位を取得するものと一般的に考えられてきたものであ
り、現在までに会員権を譲り受け、名義書換えを経てゴルフクラブにおいて現に会
員として処遇されている者は、このような手続を経ることにより自己の会員として
の権利が確保され、もはや第三者の行為により覆されることはないとの認識の下に、
平穏に会員としての権利を行使してきたものであり、特段の事情がない限りその法
益は保護されるべきものである。このような点を考えると、会員権の譲渡の第三者
に対する対抗要件について、今後は、多数意見のいうように指名債権譲渡について
の民法の規定を準用するとの解釈を定着させるとしても、個別の事案についてこれ
を適用するに当たっては、右のような者の利益が不当に侵害されることのないよう
に十分に配慮することが要請されるというべきである。すなわち、ゴルフ会員権の
二重譲渡においては、売買の際に預託金預り証の交付を受けなかった者等について、
いわゆる背信的悪意者に当たるなどとして、信義則上、先に会員権の譲渡を受けて
名義書換えを完了している者が確定日付のある証書による通知承諾の手続を経てい
ないことを主張する利益を欠くものと判断される場合を、ある程度広く認めるべき
ものと解するのが相当である。また、第三者が会員権に対して差押えを行ったよう
な場合においても、差押債権者等が、現にゴルフクラブにおいて会員として処遇さ
れている者が確定日付のある証書による通知承諾の手続を経ていないことを主張す
ることが、信義則上許されない場合を、広く認めるべきものと考える。
 裁判官河合伸一の反対意見は、次のとおりである。
 多数意見は、(1) 本件会員権のような預託金会員組織のゴルフ会員権(以下単
に「ゴルフ会員権」という。)は、譲渡人と譲受人との間の契約によって譲渡する
ことができるが、その譲渡を当該ゴルフ場を経営する者(以下「経営会社」という。)
以外の第三者に対抗するには、(2) 指名債権譲渡の場合に準じて、確定日付のあ
る証書による通知又は承諾がされることを要し、かつ、(3) そのことをもって足
りる、としている。私は、右の(1)及び(3)には賛成するが、(2)には賛成するこ
とができない。その理由は、次のとおりである。
 一 ゴルフ会員権は、ゴルフ場施設の優先的利用権、預託金返還請求権、会費納
入義務等の債権債務関係を内包する契約上の地位であって、一種の財産権として売
買等の取引の目的とされている。しかし、このような契約上の地位の譲渡、殊にそ
の第三者対抗要件について定める法令は存在しない。したがって、これについては、
民商法等の規定を参考としながら、ゴルフ会員権の性質、内容やその流通の状況等
に即して、関係者の利害を適切に調整できるよう、定めなければならない。そして、
ゴルフ会員権をもって証券化した権利と解することはできず、公的な登記・登録制
度も設けられていないことからすれば、現行法の規定中もっとも参考とすべきもの
は、指名債権譲渡の対抗要件を定める民法四六七条である。
 二 そこで、まず、民法四六七条の法意について考える。
 1 同条一項は、債務者に対する通知又は債務者の承諾をもって第三者に対する
対抗要件としているが、それは、「債権を譲り受けようとする第三者は、先ず債務
者に対し債権の存否ないしはその帰属を確かめ、債務者は、当該債権が既に譲渡さ
れていたとしても、譲渡の通知を受けないか又はその承諾をしていないかぎり、第
三者に対し債権の帰属に変動のないことを表示するのが通常であり、第三者はかか
る債務者の表示を信頼してその債権を譲り受けることがあるという事情の存するこ
とによるものである。このように、民法の規定する債権譲渡についての対抗要件制
度は、当該債権の債務者の債権譲渡の有無についての認識を通じ、右債務者によつ
てそれが第三者に表示されうるものであることを根幹として成立しているものとい
うべきである。」(最高裁昭和四七年(オ)第五九六号同四九年三月七日第一小法
廷判決・民集二八巻二号一七四頁)。また、同条二項が通知・承諾が確定日付のあ
る証書をもってされることを必要としている趣旨は、「債務者が第三者に対し債権
譲渡のないことを表示したため、第三者がこれに信頼してその債権を譲り受けたの
ちに譲渡人たる旧債権者が、債権を他に二重に譲渡し債務者と通謀して譲渡の通知
又はその承諾のあつた日時を遡らしめる等作為して、右第三者の権利を害するに至
ることを可及的に防止することにあるものと解すべきであるから、前示のような同
条一項所定の債権譲渡についての対抗要件制度の構造になんらの変更を加えるもの
ではないのである。」(右同)。
 2 これを要約すると、民法四六七条が定める第三者対抗力取得の手続(以下「
民法方式」という。)は、債務者の認識と表示によって権利の帰属状況を公示する
機能(以下「公示機能」という。)を根幹とした上、権利の帰属が変動した場合、
その変動がその日よりも後に生じたものでないことを示す日付を固定する機能(以
下「固定機能」という。)を付加することによって右公示の真実性を可及的に担保
しようとするもの、ということができるであろう。
   このように解すれば、ゴルフ会員権についても、会員権契約の相手方たる経
営会社を指名債権における債務者に準じるものとして、確定日付のある証書をもっ
てこれに通知し、又はその承諾を得るという方法、すなわち民法方式に準じる手続
によりその譲渡について第三者対抗力を備えることを認め得ることに、異論はない。
 三 しかしながら、従来、ゴルフ会員権の譲渡に際して民法方式に準じる手続が
履践されることは、極めて少なかった。
  会員組織のゴルフ場においては、「会員」となることにより施設優先利用権等
の権利を取得するものとされている。これはもともと社団法人組織のゴルフ場に始
まるものであるが、預託金会員組織のゴルフ場もこれを踏襲し、ゴルフ会員権を取
得するためには、会員の組織である「クラブ」に入会して会員となるものとし、そ
の入会資格、手続等をクラブの会則等で定めるのが通例である。ゴルフ会員権の取
得は、実際には、このようなクラブへの加入として観念され、運用されてきた。
  ゴルフ会員権の譲渡についても、通常、当該クラブの会則等において、譲渡人
と譲受人との間で譲渡契約を締結した上、経営会社(クラブの理事会等を含む場合
がある。以下同じ。)に対し、会員名義の書換えを申請して経営会社の承認を得な
ければならない旨が定められている。この承認手続は、主として、譲受人について、
会員となる資格、適性等を審査することを目的とするものである。そして、これが
承認され、名義書換えの手続が完了すれば、それによって譲渡人がクラブから退会
し、譲受人が新たに会員となってゴルフ会員権を行使できることとなるのであって、
この交代の事実は、一般の人的組織における構成員交代の場合と同じく、組織内部
のみならず、対世的にも当然に効力を有するものと理解されていた。
  これまでゴルフ会員権譲渡について民法方式の手続が採られることがほとんど
なかったことの要因の一つは、右のような事情にある。しかも、それにもかかわら
ず、その譲渡について第三者との対抗関係が紛争となることは、膨大な数に達する
と思われる累年の譲渡数に対比すると、決して多くはなかった。しかるに近年、ゴ
ルフ会員権が投資あるいは金融取引の対象とされることが頻繁になるのに伴い、本
件のような紛争が目立つようになってきたのである。
 四 以上に述べたところからして、ゴルフ会員権譲渡の第三者対抗要件としては、
従来から慣行的に行われている方式、すなわち、譲渡人が、単独又は譲受人との連
名で、経営会社に対し、会員名義の書換えを申請し、経営会社がこれを承認して会
員名義を書き換えることを中核とする手続(以下「従来方式」という。)でも足り
ると解すべきである。
 1 従来方式が民法方式と同様の公示機能を備えていることは、多言するまでも
ない。実際に行われている名義書換申請とその承認の書面の内容ないし文言は、民
法方式における通知・承諾のそれと必ずしも同一とは限らないが、いずれにしても、
ゴルフ会員権の帰属の変動を経営会社に認識させるのに十分であるし、経営会社が、
第三者からの照会に対してその認識を表示していることも周知のところである。経
営会社にとって誰が会員であるかの管理は最も重要な業務の一つであるから、名義
書換申請の受理及びその承認の事実は確実に記録され、明らかにされているのであ
って、その確実さは、経営会社にとっていわば偶発的な譲渡通知の受領の場合に勝
ることはあっても、劣ることはない。のみならず、名義変更の結果が会員等に配布
される会員名簿に登載されれば、民法方式の有しない公示機能、すなわち債務者へ
の照会を要しない公示をも持つことになるのである。
  したがって、名義書換えの申請又はその承認が確定日付のある証書によってさ
れたときも、第三者対抗力を認めるのに問題はないであろう。
 2 問題となるのは、申請又は承認が確定日付のある証書によってはされなかっ
た場合である。
  ゴルフ会員権の譲渡についても、譲渡人たる旧会員と経営会社が通謀の上、名
義書換えの申請又はその承認のあった日時をさかのぼらせる等の作為をして第三者
を害する危険があり得ないとはいえないから、これを防止する必要があることは指
名債権譲渡の場合と同様である。民法方式において通知又は承諾が確定日付のある
証書によってされることを要求するのは、前述のとおり、その手続に固定機能を持
たせることにより可及的にこの危険を防止するためである。しかし、一般に、その
ような機能を有するものが確定日付のある証書以外にあり得ないわけではないから、
他の方法をすべて排除する論理的必然性はない。従来方式においても、その手続の
中に確定日付のある証書によるのと同様の固定機能を有するものが含まれていれば、
それによって右危険防止の要請を満たすことができる。
 3 この見地に立って従来から行われているゴルフ会員権譲渡の手続をみると、
少なくとも、「1」 会則等によって譲受人の入会承認後にいわゆる名義書換料を
納付すべきことが定められている場合に、銀行その他の金融機関又は郵便局の振込
手続等を利用してこれが納付されたとき、又は、「2」 名義書換手続が完了して
譲受人が会員となった後に、その事実が会報、会員名簿等の印刷物に登載されて会
員等に配布されたときには、右「1」の納付又は「2」の配布があった日をもって、
当該ゴルフ会員権譲渡は第三者対抗力を具備するに至ると解することができよう。
けだし、右「1」又は「2」の事実があれば、当該譲渡についての名義書換えの申
請と承認が右の日よりも後にされたものではあり得ないこととなり、確定日付のあ
る証書を利用するのと同程度の固定機能を認めることができるからである。
  もっとも、右「1」又は「2」の事実は、例えば内容証明郵便をもってする通
知のように、一通の書類を見て直ちにその時期まで明らかになるという性質のもの
ではないが、第三者対抗力を生じた時点の如何は、専ら対立する権利関係が発生し
た後の紛争処理のために問題となる事柄であるから、その証明に若干の手間がかか
っても本質的な欠陥ということはできない(なお付言すると、確定日付のある証書
による通知においても、それが第三者対抗力を生じるのは債務者への到達時とされ
ているから(前掲最高裁第一小法廷判決参照)、他の証拠による立証を要する場合
のあることを否定できない。)。第三者対抗要件の根幹であり、取引の安全保護の
ためにもっとも重要なのは公示機能であるから、その機能においては民法方式に比
して勝るとも劣らない従来方式を、付加的な要請たる固定機能に関して若干の不便
があるという理由のみで排斥するのは相当でない。
 4 民法四六七条は指名債権譲渡についての強行法規であるとされている。そし
て、ゴルフ会員権の譲渡は、指名債権たる預託金返還請求権の譲渡を含んでいる。
しかし、財産権としてのゴルフ会員権の価値のうち、預託金返還請求権の占める部
分は小さいのが通例である。本件会員権についてこれを見ても、関係者間で行われ
た譲渡等の価格は二〇〇〇万円を超えていたが、記録によれば、預託金の額は四〇
万円にすぎず、しかも会員在籍中は返還しないものとされていることがうかがえる。
 本来、ゴルフ会員権の価値は当該ゴルフ場の物的・人的諸要素によって定まるの
であって、そこに含まれる権利としては、施設の利用に関する諸種の権利(クラブ
行事等へ参加する権利を含む。以下単に「利用権」という。)が最も重要である。
そして、一般に、ゴルフ会員権譲渡の当事者間でも名義書換えまでは譲渡人が施設
利用を継続できるとされていること、また、譲受人が取得する利用権の内容は譲渡
人の有していたそれと必ずしも同一でない(例えば、いわゆるハンディキャップ及
びこれによる相違)などの実態に照らせば、譲渡人の有していた利用権そのものが
譲受人に承継されるのではないと解することができる。すなわち、ゴルフ会員権の
譲渡によって譲受人が入手するのは名義書換手続を経て利用権を取得し得る地位な
いし期待権であって、名義書換えが完了することにより、譲受人は新たな自己独自
の利用権を与えられ、同時に譲渡人が有していた利用権は消滅すると解するのが、
右のような実態に即するし、前記三項で述べた一般的観念にも適合するのである。
そして、そう解すれば、利用権の部分については、その譲渡の第三者対抗要件を論
じる余地はないことになる。
 しかも、ゴルフ会員権の譲渡においては、これらの権利等が個々に譲渡されるの
ではなく、義務に関するものを含め、さらに具体的権利とはいえない無形の価値も
加わって一体となった財産権が譲渡されるのである。そのような財産権ないし契約
上の地位の譲渡については、全体として法が欠缺しているのであるから、第三者対
抗要件に限って民法を適用するいわれはない。問題はこれと同様の取扱いをするこ
とが妥当か否かにあるが、次に述べるところを併せ考えれば、その一部、ときには
極めてわずかの一部に過ぎない預託金返還請求権についての民法四六七条の強行法
規性をゴルフ会員権の全体に及ぼすことは、明らかに妥当でないと考えるのである。
 5 ゴルフ会員権及びこれに関する慣行は、その譲渡の手続を含めて、いわば自
然発生的に作出され、発展し、安定を得てきたものである。このような慣行には、
それなりの社会的・経済的合理性ないし必然性を有するものが少なくないから、こ
れについて何らかの司法的処理を要する段階に達したときは、まずその慣行を吟味
し、これを排斥すべき理由ないし必要がなければ、そのまま、あるいは所要の整備
を加えて、これを是認するというのが、望ましい対応であろう。特段の理由ないし
必要もないのに、その慣行を否定し、代わりに他のものを押し付けることは、混乱
と不当な結果を招くおそれがあるのである。
   ゴルフ会員権の譲渡についても、その発生以来広く行われてきた慣行たる従
来方式を排斥して、民法方式を強制することは、かえって紛争を誘発し、多数の善
良なゴルファーの地位を予期しない危険にさらすおそれがある。多数意見は信義則
を適用することによってこれを救済し得る旨を示唆するけれども、例えば滞納処分
による差押えの場合などを考えると、信義則についての従来の法理を著しく変容し
なければ十分な救済はなし得ないであろう。私は、そのようなことをしてまで従来
方式の第三者対抗力を否定しなければならない特段の理由ないし必要を見いだすこ
とができないのである。
 五 原審の確定したところによれば、被上告会社が内容証明郵便で発送した譲渡
人D作成の本件会員権譲渡通知書が経営会社たるIに到達したのは平成四年六月二
六日であるところ、上告会社はそれ以前に本件会員権を譲り受け、従来方式による
名義書換申請手続をして、同月一六日ころにはIから入会承諾書を受領し、同月二
二日に名義書換料を支払ったというのである。そうすると、右名義書換料の支払方
法等の如何によっては、上述したところに基づき、本件会員権取得についての上告
会社の第三者対抗要件具備が被上告会社のそれに優先する場合がある。もっとも、
右の場合であっても、上告会社はDの署名押印した預託金預り証その他本件会員権
の取引に必要な書類をGに預託していたのであり、そのために被上告会社はGが本
件会員権処分の権限を有すると信じていた可能性があるから、その間の事情の如何
によっては、結論として被上告会社が本件会員権を有すると認められることもあり
得ないではない。したがって、これらの点を審理させるため、原判決を破棄し、本
件を原審に差し戻すべきものである。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    河   合   伸   一
            裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    福   田       博

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