弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、本件を高松高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人近藤勝の上告理由第一点ないし第四点について。
 原審は、本件山林は、被上告人が上告人の買入委託に基づいて、被上告人名義に
より訴外Dから買い受けたものであつて、上告人と被上告人との間には、さらに、
被上告人から上告人に対して、右山林の所有権移転登記手続をする約束があつた旨
の上告人の主張に対し、そのような約束を認めるに足りる証拠はないうえ、上告人
として被上告人名義で本件山林を買い受けなければならなかつた理由を見い出すこ
とはできず、その代金に当てられた金員は、上告人から被上告人に対する単なる貸
金にすぎないとして右主張を排斥し、右山林に対する所有権移転登記手続を求める
上告人の本訴請求を棄却している。
 しかしながら、原審の確定するところによれば、本件山林の買受代金である六三
万円は、上告人が被上告人に対して交付した六四万円の中から支払われたものであ
つて、これに関して作成された借用証なる書面(乙第二号証)は、上告人が被上告
人に対して、二回にわたり、本件山林の売買は、単に被上告人の名義を借りたにす
ぎないから、速かに右山林につき被上告人から上告人にその所有権移転登記手続を
されたい旨の催告書を送付し、さらに、訴外Eが被上告人方に赴いて、右同様の催
告を繰り返した際、被上告人が右金員は借用金であると返答したことから、それな
らば借用証を書くようにという右訴外人の求めに応じ、被上告人が作成したもので
あるというのであるから、これは右金員の性質を決するための資料とすることがで
きないのみならず、かえつて、その作成の経緯に照らせば、右金員の受授に際して
は、上告人と被上告人との間に、本件山林の買受に関して、なんらかの話し合いが
なされていたことを窺うに難くない。一方、原審の確定するところによれば、上告
人は、当初より、みずから本件山林の所有権を取得する意思を有しており、事実、
本件売買の直後である昭和四一年一○月ごろには、司法書士Fに対し、被上告人か
ら上告人への本件山林の所有権移転登記手続に必要な書類の作成方を依頼したとい
うのであるが、その記載をみると、山林売買契約書(甲第三号証の三)の作成日付
はDから被上告人に対する所有権移転登記手続の完了した日の翌日である同年九月
二八日となつており、代金の領収書(同号証の一)には、売買代金が手附金ともで
六三万円とされているほか、仲介手数料として一万円と記載されているのである。
加えて、第一審における証人Eの証言および第一審ならびに原審における被上告人
および上告人の各本人尋問の結果中には、上告人の先代Gは、山林約七〇町歩を所
有し、二〇年来被上告人にその伐採を依頼してきた間柄にある旨、これに反し、被
上告人は農業兼伐採業を営み、自有山林はなく、山を買つたのは本件がはじめてで
ある旨、および本件売買後、本件山林の所有名義を移すについては上告人から被上
告人に対し五万円の礼金を出すような話もあつた旨の各供述が見受けられる。これ
らの事実および証拠によれば、被上告人が本件山林を買い受けるにあたり、上告人
において、前記金員を貸与したものと推認することは困難というほかはなく、他に
特段の資料のない本件においては、むしろ、上告人と被上告人との間には、本件売
買前に、買受山林の所有名義を遅滞なく被上告人から上告人に移転すべき旨の合意
があり、右金員はこの合意を前提として交付されたものと推認するのが経験則に合
致するものというべきである。そうであれば、本件山林の売買に関する上告人の前
記主張事実は認めることができず、その代金に当てられた金員は、上告人から被上
告人に対する単なる貸金であるとして、右主張を排斥した原判決は、採証法則に違
背し、ひいて、審理不尽、理由不備の違法を犯したものというべきであり、その違
背は原判決の結論に影響することが明らかであるから、論旨はこの点において理由
があり、原判決は、その余の上告理由について判断するまでもなく、破棄を免れな
い。そして、本件は、さらに、右の点について審理を尽くす必要があるから、これ
を原審に差し戻すのが相当である。
 よつて、民訴法四〇七条を適用し、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    村   上   朝   一
            裁判官    小   川   信   雄

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