弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件訴えを却下する。
2訴訟費用及び補助参加によって生じた費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,訴外A,被告補助参加人B及び同Cに対し,連帯して金1429万9
588円及びこれに対する平成15年7月1日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払うよう請求せよ。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,宮城県多賀城市の住民である原告らが,被告が訴外A(以下「相手
方A」という)に対して生活保護法(以下「法」という)に基づき支給した。。
保護費以下生活保護費というについて相手方Aは補助参加人B以(「」。),,(
下参加人Bという及び同C以下参加人Cといい同人相手方A「」。)(「」,,
及び参加人B3名を相手方らというと同居していたから世帯単位の原「」。),
則(法10条)や,保護の補足性(法4条)に違反するとして,地方自治法2
42条の2第1項4号に基づき,被告に対し,相手方らに不法行為に基づく損
害賠償請求又は法78条に基づく返還請求を行うように求めた事案である。
2請求原因
()当事者1
ア原告らは多賀城市の住民で本件訴訟で問題となっている生活保護費の,,
支出に関して住民監査請求を行った者である。
イ被告は多賀城市福祉事務所長であり法19条4項地方自治法153,,,
条2項及び多賀城市福祉事務所長事務委任規則に基づき生活保護の開始,
変更,停止及び廃止等の権限の委任を受けた者である。
ウ相手方Aは多賀城市より平成元年9月から平成15年6月30日まで,,
の間,生活保護費を受給していた者である。
参加人Cは,相手方Aの長女であり,同女を扶養する義務を負う(民法
877条1項。)
参加人Bは,参加人Cの夫であり,参加人C及び相手方Aと同居してお
り相手方Aを扶ける義務を負う者である民法730条なお参加人,()。,
Bは,多賀城市議会議員である。
()相手方Aによる生活保護費の受給2
相手方Aは,平成元年9月に多賀城市に転入し,単身世帯,病弱及び扶養
義務者の援助を受けられないなどの理由により,同市から生活保護の決定を
受け,平成15年6月30日に生活保護が廃止されるまでの間,生活保護費
を受給していた。
()相手方Aの生活実態3
相手方Aが生活保護費を受給していた際,同人は多賀城市α所在のロフト
付きワンルームのアパート○○○号室以下本件アパートというを賃(「」。)
借し,同室を生活の本拠と称していた。
相手方Aは,少なくとも平成10年4月からは,本件アパートに居住して
おらず,参加人らと同居していた。
これは,以下の事実から認められる。
本件アパートの水道使用量は,平成10年度が7トン,平成11年度が5
トン,平成12年度が4トン,平成13年度が4トン,平成14年度が10
トン,平成15年度が1トンであった。年間7トンの水道使用量であれば1
日あたり約19.2リットル(7トン≒7000リットル÷365日)とな
る。多賀城市における一人当たりの1日平均水道使用量は210リットルで
あり,本件アパートの水道使用量はその10分の1以下となることから,相
手方Aは,少なくとも平成10年度以降本件アパートで炊事や洗濯,トイレ
の使用等をほとんどしていなかったと推認できる。多賀城市職員が本件アパ
ートを再三訪問しても,相手方Aは不在で,面会することができなかった。
ケースワーカーの記録によれば,相手方Aは日中,扶養義務者である参加人
C宅にいたということが認められている。参加人Bは,相手方Aが参加人B
宅で寝泊まりしていたことを,平成14年度決算特別委員会の後に認めてお
り,生活保護費の不正受給問題を穏便に済ませるために,2年間分くらいは
返還する考えがある旨を申し出ていた。
()生活保護費支給の違法性4
生活保護の要否及び程度は世帯を単位として定められる法10条そ,()。
して,住民票上別世帯となっていても事実上同居している場合には,同居者
全員を1つの世帯とみるべきである。本件の場合,相手方Aは,参加人らと
,。同居していたのであるから参加人らを含めて1つの世帯とみるべきである
また,生活保護は,生活に困窮する者がその利用しうる資産,能力その他
のあらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件
として行われ法4条1項民法の扶養義務者がある場合にはまず扶養義務(),
者による扶助を優先すべきものとされる(同条2項。)
本件では,参加人Cは,相手方Aの直系血族であり,同女を扶養する義務
を負うところ,夫である参加人Bの市議会議員としての報酬その他の収入の
中から相手方Aに対する扶養を行うことが可能であった以上,参加人Cの相
手方Aに対する扶養能力が認められる。したがって,相手方Aに関して,扶
養能力を有する扶養義務者が存在する以上,同女に対する生活保護は,補足
性の原則により要件を満たしていない。
よって,相手方Aに対する生活保護費の支給は法4条に違反する。
()多賀城市の損害5
生活保護費の基準額は,級地によって定まり,多賀城市は「2級地-2」
であり冬季加算地域区分はⅢ区宮城県であるまた相手方Aの年,「()」。,
齢は,70歳以上である。
以上をもとに相手方Aの平成14年度に受けた生活保護費を推計する。
基準額月数年額
第1類(個人単位)2万8620円1234万3440円
第2類(世帯単位)3万7980円1245万5760円
冬季加算1万0100円55万0500円
住宅扶助3万2000円1238万4000円
期末一時扶助1万2400円11万2400円
老齢加算1万6830円1220万1960円
小計144万8060円
介護扶助3万6201円
甲7によれば,介護扶助(1.25パーセント)は,生活扶助(36.1
6パーセント)と住宅扶助(13.51パーセント)の合計49.67パー
セントの約2.5パーセントであり,上記小計の2.5パーセントと推計で
きる。
医療扶助137万5657円
甲7によれば,医療扶助(47.38パーセント)は生活扶助と住宅扶助
の合計(49.67パーセント)の約95パーセントであるから,上記小計
の95パーセントと推計した。
合計285万9918円
平成10年度から平成14年度までの5年間の生活保護の支給額は,上記
金額を5倍(5年分)した1429万9588円と推計される。
ところで,法75条によれば,市町村が支弁した生活保護費の4分の3は
国が負担することとなっており,多賀城市の最終的な負担金額は上記金額の
4分の1である357万4897円と解される。しかし,生活保護費支給が
違法とされた場合,国庫負担金の返還は義務的であり,その額は損害賠償額
に連動するものであるから,多賀城市の被った損害は,固有財源からの出捐
のみならず,国からの負担金を合わせたものとなる。
したがって,多賀城市の損害は,被告が相手方Aに支出した生活保護費支
給額1429万9588円全額及びこれに対する平成15年7月1日(生活
保護費受給後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損
害金である。
()相手方らの責任6
相手方らは,共謀の上,相手方Aが単身で本件アパートに生活する事実が
ないのに,これがあるかのように装い,もって多賀城市をして生活保護の要
件があるかのように誤信させ,相手方Aに対し,生活保護費を違法に支給さ
せていた。
とりわけ,参加人Bは市議会議員であるから,生活保護の支給要件を熟知
していながら,義母である相手方Aをして生活保護費の不正受給をさせてい
た。
したがって,相手方らは,民法719条に基づき,多賀城市に対して連帯
して前記損害を賠償する責任があるまた相手方Aは不正な手段により。,,「
保護を受け」た者として,参加人B及び同Cは,保護を「他人をして受けさ
せた者」として,法78条に基づき多賀城市に対して連帯して前記損害相当
額を返還する責任がある。
()被告の責任7
被告には,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,相手方らに対し
て前記損害金の賠償等を請求する義務がある。
()住民監査請求8
原告らは,平成16年1月16日,多賀城市監査委員に対し,相手方らに
よる生活保護費の不正受給により多賀城市が被った損害の補填措置を取るよ
うに勧告することを求める住民監査請求を行った。これに対し,多賀城市監
査委員は,平成16年2月2日,同監査請求を却下した。
3被告の本案前の答弁
被告は,本案前の答弁として,以下の各事由に基づき本件訴えの却下を求め
る。
()訴えの利益がない1
ア法78条に基づく請求を行った
(ア)被告は平成16年4月15日付けで相手方らに対して法78条,,,
に基づき金487万3540円平成11年5月から平成15年6月ま,(
でに相手方Aに支給した生活保護費1218万3850円の40パーセン
),,。トの返還請求を行っておりこれにより本件は訴えの利益を失った
(イ)上記請求を行った経緯
平成15年5月,新たに相手方Aの担当となったケースワーカーがa.
本件アパートを訪問するも不在のことが多く,生活の実態がほとんど
。,,,うかがえなかった相手方Aは毎日娘である参加人C宅で生活し
そこに寝泊まりしていることが判明したことなどから,福祉事務所は
参加人らと相手方Aの引取り方等について協議した。
同年6月9日,相手方Aから身内からの引取りを理由に保護辞退のb.
申し出があったことから,被告は,同月30日付けで保護廃止の決定
をした。
同年9月開催の多賀城市議会,第3回定例会,決算特別委員会におc.
いて,保護廃止決定前の相手方Aの生活の実態や各種扶助の適正さ等
が問題にされ,同月29日,同市議会内に生活保護問題調査特別委員
会が設置され,生活保護問題に関する調査が行われるに至った。
そこで,福祉事務所としても,市議会における調査と並行して,保
護廃止決定前の相手方Aの生活実態等を調査し検討してきた。
,,d.福祉事務所において調査した結果によれば平成10年春ころから
水道,電気の使用量が極端に少ないこと等から,本件アパートには,
相手方Aの生活実態がほとんどないと認められた。しかし,そのこと
から直ちに相手方Aの要保護性に欠けると断定することができなかっ
た。
法78条は「不実の申請その他不正な手段により保護を受け,又は
他人をして受けさせた者があるときと厳格な要件を定めつつその」,「
費用の全部又は一部を,その者から徴収することができる」と,幅広
い裁量を認めている。そこで,福祉事務所及び多賀城市内部は,相手
方らに法78条に基づく生活保護費の返還を求めることの可否と当
否,返還を求める期間,返還を求める金額について,慎重に検討して
いた。
前福祉事務所長Dは,平成16年3月31日付で定年退職することe.
となっていたため,平成15年度内に結論を出すか,さらに慎重を期
して平成16年度に持ち越すかということで,検討を重ねていたとこ
ろ,本件訴状が送達されるに至ったものである。
被告は,平成16年4月15日付けをもって,相手方らに対し,法f.
78条に基づき,平成11年5月から平成15年6月までに被告から
相手方Aに対して交付した生活保護費1218万3850円のうち4
0パーセントに相当する金487万3540円を請求した。
(ウ)返還請求を行った期間,金額
返還請求を行った期間,金額が,平成11年5月から平成15年6月
までの間の交付金額の40パーセントとなったのは,以下の理由に基づ
く。
期間の点についてa.
法78条に基づく返還請求権は,同法及び地方自治法に基づく公法
上の債権であって,その消滅時効は5年であり,かつ時効の援用を要
せずに当然に消滅するから地方自治法236条1項及び2項返還(),
請求権を行使した平成16年4月15日を基準日とするならば平成1
1年4月15日以前に支給した生活保護費に関する返還請求権は時効
により消滅している。
なお,原告は,法78条の返還請求権は原処分(保護開始決定)が
取り消されて初めて権利を行使しうるから,平成16年4月15日返
還命令が相手方Aに到達した時から時効期間が進行すると主張する
が,同請求権は保護決定の効力喪失を前提としているものではなく,
そもそも原処分を取り消す処分というものは予定されていないから,
かかる主張は失当である。
金額の点についてb.
法78条はその費用の全部又は一部をその者から徴収すること,「,
ができる」と規定しており,返還請求をするか否か,返還請求をする
としてもその範囲について,保護の実施機関に対し,幅広い裁量を認
めている。しかも,法は,被保護者が受給した保護金品につき,返還
義務を負う場合であっても「やむを得ない事由があると認めるとき,
は」その返還を免除することができる旨定めている(法80条。)
当該期間に支給した生活保護費の合計は金1218万3850円と
相当高額であり,被告の調査結果によれば,相手方Aは,完全に要保
護性を欠いていたとは断定しがたく,参加人らから相当の生活援助を
受けていたものと推認されるものの,ある程度の生活保護費の支給は
必要であったと認められた。
支給した生活保護費は,過去5年の間にその全額が生活費等に費消
されてしまっている可能性が高く,相手方Aの現実の返済能力その他
の事情を考慮すれば,返還請求権の行使は抑制的になされる必要があ
ることから,交付した合計金の40パーセントを相当と判断したもの
である。
イ本件請求に係る訴訟を提起している
多賀城市長は,多賀城市議会の議決を得て,相手方らに対して,法78
条に基づく生活保護費返還請求の訴えを提起している(仙台地方裁判所平
成○年(○)第○号。したがって,本件訴訟は訴えの利益を失った。)
()地方自治法242条の2第1項4号の請求(以下「4号訴訟」という)2。
の対象となる請求権ではない
法78条に基づく不正受給者に対する生活保護費の返還請求権は,民法上
の不当利得返還請求権ないし損害賠償請求権の要素を併せ持っていると考え
られるが,これらとは異なり,独自の厳格な要件のもとに認められた公法上
の特別の請求権である。同請求権が,不当利得返還請求権ないし損害賠償請
求権の要素を含むことと,4号訴訟の対象となるかは全く別の問題である。
法78条はその費用の全部又は一部をその者から徴収することができ,「,
る」として,返還の可否,返還の範囲について保護の実施機関に対し幅広い
裁量を認める規定となっている。生活保護行政は,法1条に定められている
とおり,経済的に困窮した国民を対象とするもので,一般の行政とは異なっ
た配慮を要する場合があること不正受給に該当したとしてもなお被保,「」,
護者の個別的事情を斟酌すべき場合,不正受給の経過,利用者世帯の状況等
を勘案すべき事情がある場合が往々にしてありうることから,保護の実施機
関に裁量を認める規定になっているのである。このように,行政庁が既に支
給した生活保護費の返還を請求するか否か,また,その請求金額の算定につ
き裁量の余地がある請求権と,裁量の余地がない不当利得返還請求権ないし
損害賠償請求権を同一に取り扱うべきではない。
仮に,一部請求が裁量権を逸脱して違法なものというのであれば,4号訴
訟ではなく地方自治法242条の2第1項3号の訴訟によるのが相当であ
る。
したがって,法78条に基づく返還請求権はそもそも4号訴訟における不
当利得返還請求権又は損害賠償請求権ではないので,原告らの本訴請求は,
不適法であり,却下されるべきである。
()損害賠償請求権の行使は委任されていない3
被告は,多賀城市長から,法78条に基づく返還請求権の行使については
委任を受けているが多賀城市福祉事務所長事務委任規則2条12号多賀(),
城市民に対して,不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することについて
は一切委任を受けていない。そして,このことは相手方らが多賀城市に不法
行為に基づく損害賠償請求権を行使されているかどうかを問わない。
この点においても,原告らの本訴請求は不適法であり,却下されるべきで
ある。
4原告らの本案前の答弁に対する反論
()訴えの利益の存在1
ア請求金額の点について
(ア)被告は原告らが4号訴訟で求めている金額よりも少ない額の請求し,
か行っておらず,かかる場合には,少なくとも差額については訴えの利
益は消滅しない。
住民訴訟の制度趣旨は,地方財務行政の腐敗防止,是正など適正な運
営を確保することによって住民全体の利益をはかる点にある。また,4
,,号訴訟が地方公共団体の執行機関等を被告とすることとしているのは
これによって,地方公共団体の説明責任が果たされうることとなると同
時に,地方公共団体が有する証拠や資料の活用が容易になり,審理の充
実,真実の追究に資することが期待され,このような充実した審理を通
じて住民訴訟の制度趣旨の実現を図るためである。
かかる趣旨に照らせば,不正に受給された生活保護費全額の返還請求
を原告らが求めることは当然であり,被告が生活保護費全額の返還請求
をしない以上,少なくとも被告が相手方らに請求している部分を超える
,。部分については原告らの4号訴訟についても訴えの利益が認められる
原告らは,被告の相手方らに対する請求の額は,多賀城市長の裁量の
範囲内の事項であると主張するが,それと原告らの4号訴訟に訴えの利
益が認められるかは別の問題である。被告の主張するところによれば,
例えば,1億円の違法公金支出が認められる場合に,4号訴訟を提起し
た後に首長が10円の返還請求を行えば訴えの利益がなくなるというこ
とになるが,これには何ら合理性がない。
被告の主張は失当である。
(イ)仮に被告が主張するように広い裁量が認められるとしても請求金,,
額が支給額の40パーセントであるというのは,納得しがたい。
不正受給が高額であることについては,より悪質であったということ
,,,であり本件は被告自身が不正手段によって保護を受けさせていた等
その違法性,不当性を明確に認識しているケースである。したがって,
高額であるからという理由で,減額することは許されない。
また,完全に要保護性を欠いていたとは断定しがたいというが,被告
の認定によっても,相手方Aは少なくとも平成10年4月1日から参加
人らと同居していたのであり,要保護性があったとは認められない。
金員を費消したこと,返還能力などについても,考慮する要素ではな
い。さらに,参加人Bが現職の市議会議員であることを理由としている
のであるならば,行政の私物化であり,許されるものではなく,かかる
事由を考慮することはできないというべきである。
イ消滅時効の点について
法78条の債権が5年で時効消滅することについては認める。しかし,
時効の起算点については,特別の定めがないので,民法166条1項に従
うことになるから権利を行使することができる時から時効期間が進行,「」
。,。するしたがって本件の場合いつから権利を行使しうるかが問題となる
行政処分の効力の喪失を前提に成立する不当利得返還請求権は,瑕疵が
重大かつ明白で処分が無効であるときを除いて,原処分を取り消して初め
。,,て行使することができる本件では瑕疵が明白であるとはいえないから
原処分(保護開始決定)が無効であるということはできない。法78条に
基づく返還請求を行うには,原処分の取消しを行うことが必要になる。
本件の場合,返還命令に先立つ原処分の取消しがいつ行われたかは不明
であるが,瑕疵ある行政処分の取消しの方式については,法律上別段の定
めがないのが通例であり,したがって,前の行政行為と抵触する後の行政
行為がなされたときにはその抵触する限りにおいて前の行為が取り消され
たものと解するべきである。本件では,返還命令をもって原処分を取り消
したと見るべきである。
,,,そうすると権利を行使しうるときとは返還命令を行ったときであり
それは,平成16年4月15日であるから,5年経過しておらず,被告の
主張は失当である。
()法78条に基づく請求は4号訴訟の対象となる2
ア法78条の法的性質
法78条に基づく不正受給者に対する返還請求権は,民法の不当利得返
還請求権ないし損害賠償請求権と同性質である。不実の申請その他不正な
手段により保護を受けた場合,それは生活保護法上の原因が存在しないに
もかかわらず,そのことにつき悪意で生活保護費を利得したことを意味す
る。したがって,生活保護法に基づく徴収権は悪意の受益者に対する不当
利得返還請求権と同内容のものである。
イ4号訴訟の対象
住民訴訟制度の趣旨は,地方財務行政の腐敗を防止・是正し,適正な運
営を確保することによって住民全体の利益を保護する点にある。そして,
法78条の趣旨も不適正な生活保護費支給の是正を図るものであって,上
記住民訴訟の制度趣旨と同様である。
したがって,地方財務行政の適正な運営を確保するためには,不当利得
返還請求権や損害賠償請求権の性質を有する法78条に基づく返還請求権
も4号訴訟の不当利得返還請求権ないし損害賠償請求権に含めて解釈する
べきである。
なお,被告は,法78条には被告の裁量の余地があるから,4号訴訟の
対象に含めるべきではないと主張するが,不当利得返還請求ないし損害賠
償請求の場合であっても,請求権を行使するか否かや請求金額の算定につ
いて裁量の余地がないわけではない。また,4号訴訟は,地方公共団体が
被った損害の回復手段に関して規定しているのであるから,地方公共団体
が請求できる権利が存するのにそれを行使しない場合には4号訴訟が認め
られるべきである。
()被告の不法行為に基づく損害賠償請求権の行使権限について3
被告は,多賀城市福祉事務所長事務委任規則2条12項により,法78
条に基づく返還請求権と同様の事由に基づく不当利得ないし損害賠償請求
権の行使権限も当然委任されていると解するべきである。法78条に基づ
く返還請求権は,不当利得返還請求権ないし損害賠償請求権の性質を有す
るからである。
被告の主張は,あまりにも形式的な解釈であり,失当である。
第3当裁判所の判断
1法78条に基づく返還請求が4号訴訟の対象となるか
()法78条に基づく返還請求権の法的性質1
本件で原告らが被告に対して履行を求める請求権は,法78条に基づく返
還請求権である。原告らは,これを4号訴訟の「損害賠償又は不当利得返還
の請求」に該当するとして本訴を提起しているから,法78条の法的性格に
ついて検討する。
法78条は不実の申請その他不正な手段により保護を受け又は他人を,「,
して受けさせた者があるときは,生活保護費を支弁した都道府県又は市町村
の長はその費用の全部又は一部をその者から徴収することができると,,。」
規定している。
不正な手段により生活保護費の支給を受けた場合には,そもそも受給資格
,。がないのであるからその受給費用全額について徴収されるのが原則である
しかし,法78条の文言は,費用の徴収に支弁者の裁量を認めており,これ
は,被保護者の困窮状態や不正の程度等の事情によっては,徴収額をその費
用の一部に限る余地がある場合を考慮した規定と解される。
そうすると,同条は,不当利得に基づく返還請求権又は不法行為に基づく
損害賠償請求権とは別個の,法が特別に定めた公法上の返還請求権であると
解すべきである。
()4号訴訟で請求できる権利2
4号訴訟において,請求するように求めることができる債権については,
不当利得の返還請求権又は損害賠償請求権に限定されており,執行機関等に
裁量の余地がなく,命ずる内容が一義的に明確なものが対象にされていると
解することができる。
法78条のように,相手方の地位についての配慮から地方公共団体の長に
裁量を認めた徴収権については,これを4号訴訟の対象とすれば徴収権者の
裁量や相手方の地位を害するおそれがあることから,4号訴訟の対象にはな
らないと解するのが相当である。
2共同不法行為に基づく損害賠償請求権
多賀城市福祉事務所長事務委任規則(乙16)によれば,第2条に被告に委
任された権限が列挙されているが,多賀城市民に対し不法行為に基づく損害賠
償請求権を行使することは委任されておらず,法律による行政の原理からすれ
ば,被告には,列挙事項以外の権限はないというべきである。
したがって,被告には,不法行為に基づく損害賠償請求権を行使する権限が
ないというべきであるから,被告適格がない。
3結論
原告らの請求はいずれも訴訟要件を欠くものであり,不適法であるから主文
のとおり判決する。
仙台地方裁判所第3民事部
裁判長裁判官小野洋一
裁判官高木勝己
裁判官伊藤康博

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