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裁判例


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       主   文
一、被告は、原告両名に対し各金三万円およびこれに対する昭和四四年二月一〇日
から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二、被告は、本判決確定後遅滞なく別紙(一)の告示を記載した文書を一七日間に
わたり被告会社の掲示場に掲示せよ。
三、原告らのその余の請求を棄却する。
四、訴訟費用はこれを二分し、その一を原告、その余を被告の各負担とする。
この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
       事   実
第一、申立
一、原告ら
(一) 被告は、原告両名に対し各金三〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四
三年二月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
(二) 被告は、原告両名に対し、本判決確定の日から七日以内に別紙(二)記載
の内容の陳謝文を交付し、かつ本判決確定の翌日から一七日間これと同一内容の文
書を被告会社の掲示場に掲示せよ。
との判決および第(一)項につき仮執行の宣言を求める。
二、被告
(一) 原告らの請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決を求める。
第二、請求の原因
一、被告は、肩書地に本店および工場を有し、通信機、テレビ、ラジオの測定器等
の製造販売を業とする株式会社であり、原告ら両名は、被告会社の従業員である。
二、被告会社の従業員により組織される労働組合には、総評全国金属労働組合神奈
川地方本部日本通信機支部(以下「全金日本通信機支部」という。)と日本通信機
労働組合とがある。
三、被告は、昭和四三年二月二八日原告両名に対し、それぞれ被告会社就業規則第
七五条第一二号および第七二条第四号を適用して、昇給決定月より一か月間昇給を
延期する旨の懲戒処分をした。
 被告は、同日より同年三月一六日まで一七日間にわたり被告会社の掲示板に右処
分の内容を掲示し、被告会社従業員等にその旨周知させるとともに、同年二月二八
日全金日本通信機支部に対して、右処分の通告と「今回の懲戒を機に貴支部員がか
かる行為を再び起さざるよう厳重に警告する」旨を記載した通知書を送付した。
四、被告会社就業規則第七五条には、その本文において、「左の各号の一に該当す
る場合は懲戒解雇に処す。但し情状により諭旨退職、降職、降給、昇給延期または
出勤停止にすることがある。」と、その第一二号において「他人に暴行、脅迫を加
え、若しくは業務の妨害をなしたとき」と各定められており、また同規則第七二条
(懲戒の種類)の第四号には、昇給延期(始末書を提出せしめ昇給を一定期間延期
する)と定められている。
五、前記懲戒処分は、右の就業規則に該当する事由なくしてなされた違法なもので
ある。
六、原告Aは、当時全金日本通信機支部の執行委員および教育宣伝部長であり、原
告Bは、同支部の執行委員および財政部長兼文化厚生部長であつた。
七、原告両名は、被告会社の従業員等の間で組合活動家として知られているとこ
ろ、前記第三項記載の被告の行為により、その名誉を著しく毀損された。殊に、被
告会社におけるように同一企業内に二つの労働組合が併存する場合、一方の組合の
組合活動家として知られている原告両名に対する本件懲戒処分によつて原告らが被
つた名誉の失墜は多大なものがある。
八、よつて、原告らは被告に対し、右の名誉毀損により原告らが受けた精神的苦痛
に対する損害の賠償として各金三〇〇、〇〇〇円およびこれに対する不法行為の日
である昭和四三年二月二八日から支払ずみまで年五分の割合による損害金の支払を
求め、あわせて原告らの名誉の回復のため、原告らの申立第(二)項記載の処分を
求める。
第三、被告の主張(答弁および積極否認事実)
一、請求の原因第一項ないし第四項は認める。
二、同第五項は否認する。
三、同第六項は認める。
四、同第七項中、原告らが組合活動家として知られていることは知らない。その余
は否認する。
五、同第八項は争う。
六、原告両名は、昭和四三年二月六日午後五時頃被告会社の二階会議室において、
C、D、Eと共同して、被告会社の取締役兼総務部長Fの両腕および身体の一部を
押さえつけて身体の自由を奪い、同人が左手に持つていたカメラを強奪したが、そ
の際、同人に全治二週間を要する左第二、三、四、五指挫傷および擦過傷を負わせ
た。
七、被告は、原告両名による暴行の事実を対象として、昭和四三年二月二三日開催
の懲戒委員会の議を経たうえ、同月二八日原告両名に対して原告ら主張のような懲
戒処分をしたものである。したがつて、右懲戒処分は原告両名の不法行為を事由と
する適法な処分である。
八、仮に、原告両名が、原告主張(後記)のように前記第六項の暴行事件の現場に
いなかつたとしても、右事実は、昭和四三年二月六日右暴行事件が発生してから同
月二八日原告両名に対する本件懲戒処分が行なわれるまでの間に、本人はもちろ
ん、その所属組合からも被告に対して全く主張されなかつたところである。被告
は、同月二三日担当課長を通じて原告両名に対し始末書を提出して事件の経過を明
らかにするよう口頭で申し入れ、さらに同月二六日文書をもつてこれを督促したの
であるが、原告両名はこれを拒否した。そのため、原告両名に対する懲戒処分は、
原告らによる現場不在の主張がなされないまま同月二八日行なわれたものである。
原告らの現場不在の主張は、同年四月四日の団体交渉の席上突如としてなされたに
すぎない。以上のような事情により、被告が、被害者たるFの報告およびその他の
目撃者の報告にもとづいて、原告両名を加害者と認定し、これに対して本件懲戒処
分を行なつたことについては、被告に過失がない。被告に故意がなかつたことはも
とよりであるから、被告は原告主張の損害を賠償する責任を負わない。
第四、被告の主張に対する原告の答弁
一、被告の主張第六項は否認する。
二、原告Aは、東京都渋谷区<以下略>全金中央本部において開催の「労使関係法
研究会報告書」に関する学習会に出席するため、組合業務届を被告会社のG勤労課
長に提出したうえ、昭和四三年二月六日午後〇時三〇分頃被告会社を出門し、午後
一時三〇分頃右学習会の会場に到着してこれに出席し、午後五時三〇分頃右学習会
が終了するまで列席した後、全金東京地本常任書記H、同神奈川地本常任書記Iを
伴つて、午後七時一〇分会社に帰り入門した。よつて、被告主張のFに対する暴行
事件の時間には、原告は前記全金中央本部の学習会場におり、被告会社にはいなか
つた。
三、原告Bは、昭和四三年二月六日午後四時四〇分頃、被告会社新館二階工場(第
五製造課第一係)において矩形波発生器の修理を行なつていたところ、全金日本通
信機支部の組合員らが守衛室付近においてG課長に抗議している旨の知らせを受
け、同組合役員としての責任上即刻右現場へかけつけたが、整然とした抗議であつ
たのですぐ職場へ戻つた。この間職場を離れたのは、僅か二、三分である。その後
原告Bは、自己の職場において午後五時すぎまで前記仕事を継続したので、被告主
張のFに対する暴行事件の時間には、自己の職場におり、事件の現場である二階会
議室にはいなかつた。
四、被告の主張第八項中、本件懲戒処分までの間に原告らより現場不在の主張がな
されなかつたこと、被告が担当課長を通じて原告両名に対して口頭で始末書の提出
を申し入れたことは、いずれも否認する。
 原告らは、被告に対し本件懲戒処分前現場不在の主張をしている。仮に、その主
張をしていなかつたとしても、被告のした本件懲戒処分が事実の誤認にもとづくも
のである以上、被告はこれについて過失の責を免れない。
証拠
(省略)
       理   由
一、請求の原因第一項から第四項までの事実は、当事者間に争いがない。
二、そこで、被告が本件懲戒処分の事由として主張する事実の存否について検討す
る。
 証人Fの証言により成立の認められる乙第一号証および同証人の証言(ただし後
記信用しない部分を除く。)によれば、同人は、昭和四三年二月六日午後四時五〇
分過頃、被告会社二階会議室南側の窓から、右室外の守衛室横で全金日本通信機支
部の組合員がG課長をとり囲んでいる状況を写真撮影していたところ、D、Cらに
これを阻止され、さらに右Dらに腕をとられるなどして体の自由を奪われた状態
で、右Cにより左手に持つていたカメラを奪取され、その際左手の第二、三、四、
五指に挫傷および擦過傷を受けた事実を認めることができる。
 問題は、その際原告両名が右現場におり、右の暴行に加担したかどうかである。
前記証人Fは、これを肯定する趣旨の証言をし、証人Jは、原告AがKとともに右
時刻頃前記会議室に入り、かつその数刻後に前記F、Cらとともに同室内にいるの
を目撃した旨、また証人Lは、原告Bが右時刻頃前記会議室に通ずる資材課わきの
階段をかけ上るのを目撃した旨それぞれ証言する。
 しかしながら、成立に争いのない乙第五号証の二、証人I、同M、同Cの各証言
および原告A本人尋問の結果を総合すれば、原告Aは、当日午後〇時一五分頃被告
会社を出て東京都渋谷区<以下略>所在の全金会館におもむき、同一時三〇分頃よ
り同五時三〇分頃まで同会館内全金中央本部において開催された研究会に臨席した
後、同じく右研究会に出席していた全金神奈川地方本部常任書記のIおよび右会館
内全金東京地方本部にいた同本部常任書記Hを伴つて同七時一〇分頃被告会社に帰
着した事実を認めることができるから、Fに対する前記暴行事件の際にはその現場
にいなかつたことが明白である。
 また、証人N、同Oの各証言および原告B本人尋問の結果によれば、原告Bは、
当日午後四時四〇分頃被告会社新館二階の第五製造課内自己の職場において方形波
調整の作業に従事していたが、折しも被告会社に来訪した日本共産党の宣伝カーに
対する被告会社の応待に抗議するため、その職場をはなれて前記守衛室付近におも
むいたが、四時五〇分直前に再び前記自己の職場にもどり、同所において五時三〇
分頃まで引き続き作業に従事した事実を認めることができるから、原告BもまたF
に対する前記暴行事件の際にはその現場にい合わさなかつたものといわなければな
らない。
 してみれば、原告A、同BがFに対する前記暴行事件の現場にいたとする証人
F、同Jの前記各証言および原告Bが右現場に通ずる階段をかけ上つたとする証人
Lの前記証言は、いずれも信用できず採用の限りではない。
 以上に認定したところにより明らかな如く、被告が原告両名に対する本件懲戒処
分の事由として主張する事実は、その存在を認めることができず、他に右懲戒処分
の事由と認むべき事実の主張立証のない本件においては、右懲戒処分は就業規則所
定の事由がないにもかかわらず違法になされたものといわざるをえない。
三、被告がFおよび他の目撃者の報告にもとづいて本件懲戒処分をしたものである
ことは、被告の自認するところであるがそれらの報告は、前記認定に照らして故意
に事実を歪曲するものか、ないしは事実の誤認に出るものというべく、証人Fの証
言によれば、同人は被告会社の取締役兼総務部長として、総務、経理、勤労の各事
務を管掌していることが認められるから、被告がかかる地位にある同人の報告にも
とづいて本件懲戒処分をしたものである以上、被告はこれにつき少なくも過失の責
を免れないものといわなければならない。仮に被告主張の如く原告両名が右懲戒処
分前現場不在の主張をした事実がないとしても、被告の右過失責任に影響がないこ
とは明白である。
四、原告両名が、本件懲戒処分によつて精神的苦痛を味わつたこと、および被告が
本件懲戒処分の内容を原告ら主張の如く被告会社の掲示板に掲示したことにより、
原告両名がその名誉を毀損されたことは、いずれも事柄の性質上当然であり、その
一端は原告両名各本人尋問の結果によつてこれを認めることができる。
 右の精神的苦痛および名誉毀損に対する慰藉料額は、諸般の情状を考慮して(本
件口頭弁論終結時にいたるまでの本件訴訟手続および和解手続における被告の態度
をも勘案して)原告両名につきそれぞれ金三万円を相当と考える。
 さすれば、原告らの申立第(一)項の請求は、被告に対し、原告両名につき各金
三万円およびこれに対する本件口頭弁論終結の日である昭和四四年二月一〇日から
支払ずみまで年五分の割合による損害金の支払を求める限度において正当であり、
その余は失当である。
 次に、被告による原告らの名誉毀損の前記態様に鑑み、原告らの名誉の回復措置
として、被告をして、本件懲戒処分につき被告のした前記掲示と同一期間、同一態
様により、本件懲戒処分が就業規則所定の事由を欠く違法なものであるとの裁判所
の判定を受け、裁判所より原告両名に対し前記損害賠償を命じられた旨の掲示をさ
せるのが相当であると考える。
 原告らの申立第(二)項中、陳謝文交付の請求は、金銭賠償をもつてまかなうの
が相当であり、さきに認定した損害賠償額をもつて慰藉の目的は達せられるものと
考えるから、これと別に陳謝文の交付を求める右請求は失当である。また、同項
中、掲示場への掲示の請求において陳謝の意の表明を求める部分は、判決をもつて
これを強制するのが相当でないのみならず、原告らの名誉の回復は、前示の如き内
容の掲示により十分その目的を達することができるものと考えるから失当というべ
く、結局原告らの申立第(二)項の請求は、被告に対し、本判決確定後遅滞なく別
紙(一)の告示を記載した文書を一七日間にわたり被告会社の掲示場に掲示するこ
とを求める限度において正当である。
五、よつて、以上に正当と認めた範囲内で原告の請求を認容し、その余の請求を棄
却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条本文を、仮執行の宣言につき同法
第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 水田耕一)
別紙(一)
告示
 当社は、当社従業員A、同B両氏に対し、昭和四三年二月二八日、一か月間昇給
延期の懲戒処分をし、当時その旨を掲示したが、この度裁判所より、上記懲戒処分
は就業規則所定の事由を欠く違法なものであると判定され、両氏に対し各三万円の
損害賠償を命じられたので、両氏の名誉を回復するため、ここにその旨を告示す
る。
年月日
日本通信機株式会社
代表取締役 P
別紙(二)
A殿
B殿
昭和  年  月  日
日本通信機株式会社
代表取締役 P
 会社は、全金日本通信機支部執行委員A、同B両氏に対して、何ら処分理由がな
いにかかわらず昭和四三年二月二八日一ケ月間の昇給延期処分をなし、これにより
上記両名の名誉を著しく毀損した事実を認め深く陳謝致します。

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