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事件番号:平成18年(行ウ)第12号
事件名:遺族葬祭補償給付等不支給決定処分取消請求事件
裁判年月日:H20.10.28
裁判所名:京都地方裁判所
部:第3民事部
結果:棄却
判示事項の要旨:鉄道会社職員が会社に遅刻するという業務上のミスをきっか
けに適応障害を発症して通勤中に駅ホームから電車に飛び込み
自殺した事例において,本件の遅刻という業務上のミスが当該
職員に対して同種労働者が通常感じるストレスを超えて精神障
害を生じさせるほどの過重な精神的負荷を生じさせるものであ
ったとは認められず,同人の遅刻と適応障害の発症との間に業
務起因性は認められないとした事例
主文
1原告らの請求を棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
京都下労働基準監督署長が平成17年3月30日付けで原告Aに対してした
労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分
を取り消す。
第2事案の概要
本件は,平成14年4月1日に西日本旅客鉄道株式会社(以下「本件会社」
という。)に入社し,駅の改札業務等に従事していたB(昭和59年3月10
日生。)が,平成15年7月20日午前10時25分ころ,C駅の駅ホームか
ら列車に飛び込み,死亡したところ,Bの両親である原告らが,Bの死亡は,
業務による心理的負荷により発症した適応障害によるものであるとして,労働
者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づき,遺族補償給付及
び葬祭料を請求したのに対し,京都下労働基準監督署長が平成17年3月30
日付けで行った不支給決定処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求め
る事案である。
1基礎となる事実(争いのない事実並びに末尾記載の各書証及び弁論の全趣旨
によって認められる事実)
(1)原告Aは,平成15年7月20日死亡したBの父であり,原告Dは,Bの
母である(甲1)。
(2)Bの業務歴及び自殺
アBは,金沢市の高等学校を卒業後,平成14年4月1日より本件会社の
京都支社に就職した。
イBは,本件会社に採用された後,約3週間,大阪府吹田市所在の社員研
修センターで研修を受け,平成14年4月24日から,駅員としてE駅に
配属され,およそ1か月程度,駅の実務に関する実地研修を経た後,平成
15年7月20日に死亡するまで,E駅に配属され,同駅及びF駅におけ
る駅員業務に従事していた。
ウBは,入社後から,本件会社の独身寮で生活していた。
エBは,平成15年7月20日の朝,勤務開始時間に遅刻した。Bは,同
僚からの電話で起こされ,上司から早く出勤するよう指示を受けて寮を出
たが,E駅へ向かう途中,適応障害を発症し,午前10時25分ころ,C
駅ホームから電車に飛び込んで自殺した(以下「本件自殺」という。甲
2)。
(3)Bの遅刻状況等
アBの遅刻状況
Bは,平成14年4月24日,E駅に配属されて以降,下記のとおり,
配属初日である同日のほか,同年8月16日,平成15年3月31日及び
本件自殺の当日である同年7月20日の合計4回始業時刻に遅れている。
(ア)1回目の遅刻
Bは,平成14年4月24日,午前8時の始業時刻に35分遅刻した
(午前8時35分に出勤)。
(イ)2回目の遅刻
Bは,同年8月16日,午前8時50分の始業時刻に7分遅刻した
(午前8時57分に出勤)。
(ウ)3回目の遅刻
Bは,平成15年3月31日,午前10時の始業時刻に50分遅刻し
た(午前10時50分に出勤)。
(エ)4回目の遅刻
Bが,同年7月20日,午前10時の始業時刻に出勤しなかった。
そこで,Bと同期のGがBに電話をし,E駅係長のH(役職は当時。
以下「H係長」という。)が電話を代わってBに早く出勤するよう告げ
た(乙23・6頁,乙15・3頁,審乙33)。Bは,その日の午前1
0時25分ころ,通勤中に,列車に飛び込み,自殺した(本件自殺)。
イBの遅刻に対する措置等
(ア)1回目の遅刻について
Bは,1回目の遅刻について,勤務終了後,E駅首席助役のI(所属,
役職は当時。以下「I首席助役」という。)から遅刻理由等を確認され,
口頭による注意を受けた。
(イ)2回目の遅刻について
Bは,2回目の遅刻について,I首席助役との面談で遅刻理由等を確
認され,口頭で注意を受けたほか,欠勤時間分の減給(基本給103円
の減給)の措置を受けた。
また,Bは,本件会社京都支社長名義の平成14年12月30日付け
文書で,1回目の遅刻と併せて厳重注意を受けた(乙12・A10,乙1
3,乙19)。
(ウ)3回目の遅刻について
Bがした3回目の遅刻については,Bが勤務先に到着したときには,
既に本件会社が手配した代替者が勤務を開始していたため,Bは,1日
分の不就労として扱われ,基本給8時間分の減給(7108円の減給)
措置を受けた(乙13)。また,同日,Bは,I首席助役とE駅長のJ
(以下「J駅長」という。)との面談で,両親に連絡をするよう告げられ,
翌日,B及び両親である原告らは,J駅長,I首席助役及びK本社アド
バイザーと面談をした。その後,Bは,本件会社京都支社長名義の平成
15年5月20日付け文書で厳重注意を受けた(甲9,乙16・2頁,乙
25・1頁)。
(エ)その他の措置
本件会社は,Bに対し,上記厳重注意等を考慮し,勤務成績が良好で
ないとして,平成15年上期の期末手当(賞与)から5万円を減額して
いる(乙12・A10,乙13)。
(4)本件処分(甲4の1・2)
ア原告ら(代表者として原告Aが選任された。審乙1・2丁)が,平成1
6年3月24日,Bの死亡は業務による心理的負荷により発症した適応障
害によるものであるとして,労災保険法に基づき,遺族補償給付及び葬祭
料を請求したところ(審乙1,審乙2),京都下労働基準監督署長は,平
成17年3月30日付けで,遺族補償給付及び葬祭料についていずれも不
支給とする決定(本件処分)をした(審乙3,審乙4)。
イ原告Aが,本件処分につき,平成17年5月13日付けで京都労働者災
害補償保険審査官宛に審査請求を行ったところ,同審査官Lは,平成18
年1月13日付けで,審査請求を棄却する決定をした(甲5)。
ウそこで,原告Aは,平成18年2月1日付けで労働保険審査会宛に再審
査請求を行ったところ(甲6),3か月を経過しても裁決がなく,原告ら
は本件訴えを提起した。その後,労働保険審査会は,平成20年5月30
日付けで,再審査請求を棄却する決定をした(乙37)。
(5)労災保険法に基づく保険給付の対象
ア労災保険法は,「労働者の業務上の負傷,疾病,障害又は死亡」等(以
下「業務災害」ともいう。同法7条1項)について保険給付を行うことと
し,労働者の業務上の死亡についての保険給付として,遺族補償給付と葬
祭料を定めている(同法12条の8第4号,5号)。
イ労災保険法に基づく保険給付の対象となる業務上の疾病(同法7条1項
1号)については,労働者の災害補償について定めた労働基準法(以下
「労基法」という。)75条2項の委任を受け定められた同法施行規則3
5条により同規則別表第1の2に列挙されている。
精神障害については,同表に明文の定めはなく,同表第九号規定の「そ
の他業務に起因することの明らかな疾病」に該当する場合に,労災保険法
に基づく保険給付の対象となる業務上の疾病として扱われる。
ウそして,労働者の自殺が労働者の業務災害に該当するか否かについて,
労働省(平成11年当時。現厚生労働省。)労働基準局長は,「心理的負
荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」(平成11年9
月14日付け基発第544号。以下単に「判断指針」ともいう。乙1)と
いう指針を通達し,自殺の業務上外の判断に当たって,業務による心理的
負荷により国際疾病分類第10回修正(以下「ICD−10」という。)
第V章「精神および行動の障害」によりF0からF4に分類される精神障
害が発病したと認められる者が自殺を図った場合には,精神障害によって
正常な認識,行為選択能力が著しく阻害され,あるいは自殺行為を思いと
どまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったものと推定し,
原則として業務起因性を認めることとする方針を示した(乙1・10頁)。
また,労災保険法12条の2の2は,労働者が,故意に負傷,疾病,障
害若しくは死亡又はその直接の原因となった事故を生じさせたときは,保
険給付を行わない旨定めているが,労働基準局長は,平成11年9月14
日,「精神障害による自殺の取扱いについて」(同日付け基発第545
号)という判断指針を通達し,同法における「故意」の解釈について,
「業務上の精神障害によって,正常の認識,行為選択能力が著しく阻害さ
れ,又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている
状態で自殺が行われたと認められる場合」には,同法による故意には該当
しないとの解釈基準を示した(乙3)。
(6)心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針
ア上記(5)ウ記載の判断指針は,業務との関連で発病する可能性のある精神
障害を対象疾病として定め,まず,精神障害の発病の有無等を判断した上,
業務による心理的負荷の強度,業務以外の心理的負荷の強度,個体要因に
ついて各々評価し,これらを総合判断して業務上外の判断を行うこととし,
さらに,自殺の業務上外の判断に当たっては,業務による心理的負荷によ
ってこれらの精神障害が発病したと認められる者が自殺を図った場合には,
精神障害によって正常な認識,行為選択能力が著しく阻害され,あるいは
自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥っ
たものと推定し,原則として業務起因性を認めることとした。
イ判断指針が対象とする疾病(以下「対象疾病」という。)は,原則とし
てICD−10第V章「精神および行動の障害」に分類される精神障害と
する。
ウ①対象疾病に該当する精神障害を発病していること,②対象疾病の発病
前おおむね6か月の間に,客観的に当該精神障害を発病させるおそれのあ
る業務による強い心理的負荷が認められること及び③業務以外の心理的負
荷及び個体側要因により当該精神障害を発病したとは認められないことの
3要件をいずれも満たす精神障害は,労働基準法施行規則別表第1の2第
九号に該当する疾病として取り扱う。
エ(ア)業務による心理的負荷の強度の評価に当たっては,当該心理的負荷
の原因となった出来事及びその出来事に伴う変化等について,判断指針
別表1「職場における心理的負荷評価表」(以下,単に「別表1」とい
う。)を指標として,「弱」,「中」,「強」のいずれに該当するかを
総合的に評価する。
同表は,①当該精神障害の発病に関与したと認められる出来事が,一
般的にはどの程度の強さの心理的負荷と受け止められるかの判断,②出
来事の個別の状況を斟酌し,その出来事の内容等に即した心理的負荷の
強度の修正,③出来事に伴う変化等がその後どの程度持続,拡大あるい
は改善したかの評価から構成されている。
なお,上記②及び③を検討するに当たっては,本人がその出来事及び
出来事に伴う変化等を主観的にどう受け止めたかではなく,同種の労働
者,すなわち,職種,職場における立場や経験等が類似する者が,一般
的にどう受け止めるかという観点から検討されなければならず,具体的
には,以下の(イ),(ウ)の手順で行う。
(イ)出来事の心理的負荷の評価は,別表1の(1)「平均的な心理的負荷の
強度」欄のどの具体的出来事に該当するかを判断して,平均的な心理的
負荷の強度をⅠ(日常的に経験する心理的負荷で一般的に問題とならな
い程度の心理的負荷),Ⅱ(ⅠとⅢの中間に位置する心理的負荷),Ⅲ
(人生の中でまれに経験することもある強い心理的負荷)のいずれかに
評価し,出来事の具体的内容,その他の状況等を把握した上で,別表1
の(2)「心理的負荷の強度を修正する視点」欄に掲げる視点に基づいて修
正の要否を検討する。
(ウ)出来事に伴う変化等による心理的負荷は,出来事に伴う変化として,
別表1の(3)「出来事に伴う変化等を検討する視点」欄の各項目に基づき,
出来事に伴う変化等がその後どの程度持続,拡大あるいは改善したかに
ついて検討する。具体的には,仕事の量(労働時間,仕事の密度等)の
変化,仕事の質の変化,仕事の責任の変化,仕事の裁量性の欠如,職場
の物的,人的環境の変化,支援・協力等の有無を考慮する。
(エ)上記(イ),(ウ)の手順により検討した結果,①(イ)の手順により修
正された心理的負担の強度がⅢと評価され,かつ,(ウ)の手順による評
価が相当程度過重(同種労働者と比較して業務内容が困難で業務量も過
大であること等が認められる状態)であると評価される場合及び②(イ)
の手順により修正された心理的負担の強度がⅡと評価され,かつ,(ウ)
の手順による評価が特に過重(同種労働者と比較して業務内容が困難で
あり,恒常的な長時間労働が認められ,かつ,過大な責任の発生,支援
・協力の欠如等特に困難な状況が認められる状態)であると評価される
場合には,心理的負荷の強度は「強」と評価される。
オ業務以外の心理的負荷の強度は,発病前おおむね6か月の間に起きた客
観的に一定の心理的負荷を引き起こすと考えられる出来事について,判断
指針別表2「職場以外の心理的負荷評価表」(以下,単に「別表2」とい
う。)により評価する。
カ個体側要因として,精神障害の既往症,社会適応状況,アルコール等依
存状況及び性格傾向について考慮すべき点が認められる場合は,それが客
観的に精神障害を発病させるおそれがある程度のものと認められるか否か
について検討する。
キ業務以外の心理的負荷,個体側要因が特段認められない場合で,業務に
よる心理的負荷が「強」と認められる場合には,業務起因性があると判断
する。
業務による心理的負荷が「強」と認められる場合であっても,業務以外
による心理的負荷又は個体側要因が認められる場合には,業務による心理
的負荷と業務以外の心理的負荷の関係について検討を行う必要があるが,
業務以外の心理的負荷が極端に大きかったり,強度Ⅲに該当する出来事が
複数認められる等業務以外の心理的負荷が精神障害発病の有力な原因とな
ったと認められる状況がなければ,業務起因性があると判断する。
また,個体側要因に問題が認められる場合にも,業務による心理的負荷
と個体側要因の関係について検討を行う必要があるが,精神障害の既往歴
や生活史,アルコール等依存状況,性格傾向に顕著な問題が認められ,そ
の内容,程度から個体側要因が精神障害発病の有力な原因となったと認め
られる状況がなければ,業務起因性があると判断する。
2争点
Bの適応障害の発症及び自殺は業務起因性を有するか。
(1)原告らの主張
アBの遅刻が「適応障害」を発症させるおそれのある業務による強い心理
的負荷であったこと
(ア)本件会社における遅刻という業務上のミスの重大性
公共交通機関で定時運行が至上命題である本件会社は,社員に対して,
遅刻は絶対に許されないものとして,極めて厳しく指導していた。本件
会社は,乗務員であろうが駅員であろうが,時間を守ることは勤める際
の絶対的な条件であり,「時間にルーズならば,JRをやめよ」という
職場であった。
(イ)Bが過去に3回の遅刻をしたことで再度遅刻した場合には退職は避
け難い状況に追い込まれていたこと
a上記記載のとおり,本件会社においては遅刻することは許されない
とされており,同一の従業員について3回目の遅刻があるというのは
大変まれであり,ここまで許されない遅刻を繰り返したのはBのみで,
前例もなかった。
このように,本件会社においては,3回目に遅刻した段階で,Bは
直ちに本件会社を辞めるよう言われても仕方がない状況であった。
b1回目の遅刻の際に本件会社からBに課された処分は,口頭による
注意のみであったが,2回目においては,遅刻した時間分の給与の減
額を受けるとともに,支社長名義による文書による「厳重注意」がさ
れるなど,処分は既にかなり重くなっていた。
3回目の遅刻についての処分は,前回は遅刻した時間分のみの減額
であったのに対し,「不参」として勤務を拒否され,その日の分の賃
金は支払われなくなり,さらに,親である原告らが呼び出されBと共
に駅長から指導を受けるという扱いを受け,Bは面談では泣きながら
反省文を提出し,二度と遅刻をしないと誓った。その後,支社長名義
の文書による「厳重注意」が行われ,これらの事情を踏まえて,賞与
の査定において5万円が減額された。
cBは,親の呼出しや反省文提出などによって本件会社の勤務継続が
可能となったが,再度遅刻をすれば,到底,Bが本件会社での勤務を
継続することはできない状況にあった。4回目の遅刻は,単なる「遅
刻」ではなく,Bが本件会社に在職できるかどうかがかかったもので
あった。
イ業務以外の心理的負荷,個体側要因が見られないこと
Bは,穏和な性格で同僚ら友人からの信頼も厚く,「B’」と呼ばれ親
しまれていた。平成15年4月には彼女ができ,同年7月終わりには二人
で旅行に行く計画を立てるなど,彼女との関係は良好で幸せに過ごしてい
た。金沢に住む両親とも,大阪府吹田市に住む姉とも,手帳に誕生日を書
き込むなど,仲良く過ごしていた。また,Bには,精神障害の発病歴はな
い。
このように,Bには,業務以外の心理的負荷,個体側の要因はなかった。
ウ上記事情を総合考慮すれば,本件におけるBの精神疾患の発症及び自殺
は,業務起因性を有する。
エまた,本件自殺は,判断指針に当てはめても,以下のとおり業務起因性
が認められる。
(ア)平均的な心理的負荷の強度
本件会社において,遅刻は絶対に許されないものとして取り扱われて
おり,Bは「会社にとっての重大な仕事上のミスをした」(強度Ⅲ)と
いえる。
また,Bは,既に3回の遅刻をしていたことから,次に遅刻をしたら
本件会社を辞めるしかない窮地に追い込まれていたのであり,4回目の
遅刻をしてしまったことは,「退職を強要された」(強度Ⅲ)に等しい
ことである。
さらに,Bには,車掌試験が不合格になる,F駅での勤務を命ぜられ
るなど,「仕事上の差別,不利益取扱いを受けた」(強度Ⅱ)というべ
き状況があった。
(イ)心理的負荷の強度を修正する視点
まず,本件会社においては,遅刻は絶対に許されないものとして極め
て厳しく指導されていたことに照らし,ミスの大きさ・重大性は,極め
て大きい。また,Bは,次に遅刻をすれば,退職するしかなく,それに
かわる代償措置はないと考えざるを得ない状況であった。さらに,仕事
上の差別,不利益取扱いという点では,このまま本件会社で勤続する限
り,遅刻が負の評価としてついて回るという点で,強い負荷を伴うもの
であった。
このように,本件においては,4回目の遅刻という仕事上の重大なミ
スについて,強度「Ⅲ」から修正される要素はない。
(ウ)出来事に伴う変化等を検討する視点
本件会社としては,Bの重ねての遅刻はその業務の特質からして許さ
れざることであり,この仕事上の重大なミスについて,Bをかばったり
心理的に支援することはあり得なかった。かえって,3回目の遅刻の際
には親を遠方から呼んで,再び遅刻を重ねれば「次はない」と,退職し
なければならないと考えざるを得ないことを述べていた。
このような事情に照らせば,本件における出来事に伴う変化は相当程
度過重であった。
(エ)業務による心理的負荷の強度の総合評価
以上より,本件において,業務による心理的負荷の総合評価は「強」
と認められ,業務起因性は肯定される。
(オ)なお,被告が業務上外判断について依拠している判断指針は,「本
人がその出来事及び出来事に伴う変化等を主観的にどう受け止めたかで
はなく,同種の労働者が一般的にどう受け止めるかという観点から検討
されなければならない。ここで『同種の労働者』とは職種,職場におけ
る立場や経験等が類似する者をいう」としている。
判断指針における「同種の労働者」とは,性格やストレス反応性につ
いて多様な状況にある労働者のうち,日常業務を支障なく遂行できる,
同種労働者のなかで最も脆弱な者を基準とするものであるところ,Bは
本件会社において日常業務を支障なく遂行していたのであるから,判断
指針が前提とする「通常想定される範囲の同種労働者」から逸脱するも
のではない。
(2)被告の主張
アBに対する業務による心理的負荷について
(ア)業務が過重でなく,強い精神的負荷がかかるものではなかったこと
Bが就いていた業務は,出改札,ホーム業務及び不定の補助的業務で
あり,日常の業務に強い精神的負荷が認められるものではなかった。ま
た,Bに業務上の目立ったトラブル等はなかった。
Bの休日は週2日以上確保されており,時間外労働時間数は,始業前
30分を加算したとしても,発症前1か月間で16時間15分であって,
労働日数が20日であることから,1日当たりの平均時間外労働時間数
は49分弱にすぎない。発症前6か月間を見ると,さらに時間外労働時
間数は少なくなる。泊り勤務など不規則な面があるものの,頻繁な勤務
変更等もなく,発症前1か月間において勤務変更は1度も認められない。
(イ)本件会社における遅刻による心理的負荷の程度が特に強いものであ
るとは認められないこと
出勤時刻に出勤することは全ての労働者にとって労働契約上当然要求
されることである。公共交通機関以外の様々な企業においても,時間厳
守が特に求められる業務は少なくなく,時間厳守が要求されることは,
何ら本件会社に特殊なことではない。
また,本件会社において,個々の輸送業務に当たる運転士が時間厳守
の徹底を要請され,1件の事故等であっても,会社の業務全体に大きな
影響を与えることは確かであるが,Bの従事していた駅員業務の場合,
特別の試験・資格に基づく業務ではなく,駅員同士の代替の困難性は認
められず,駅員の遅刻に対しては代替要員の手配が可能であった。
このように,Bが従事していた業務は,出勤時刻の厳守について強い
心理的負荷を与える性質のものであったとはいえない。
(ウ)本件会社においてBの遅刻に対して過重な処分等はなかったこと
Bの遅刻に対する本件会社の措置等は,基礎となる事実(3)イ記載のと
おりであり,欠勤部分(不就労時間分)の減給は,雇用契約上の賃金規
定(乙12・賃金規定99条)に基づく通常の措置であり,賞与額の減
額も勤務成績を反映したもので不当な措置ではない。そして,厳重注意
は,就業規則上の懲戒処分ではなく,本件において,Bに遅刻を理由と
する過重な懲戒処分等が実施されたというような事実は認められない。
また,遅刻に対する上司らの指導,注意等の内容は,いずれも遅刻の
原因を確認し,社会人として時間管理をきちんとすること,遅刻をしな
いことを口頭で注意したものであり,4回目の遅刻当日の対応も,厳し
い叱責や罵倒などはなく,いずれも社会的に相当な範囲内のものであり,
これらが強い心理的負荷を与えるものであったとはいえない。
(エ)Bに対する不利益取扱いはなかったこと
Bが車掌試験に不合格となった具体的な理由は,不明であるものの,
仮に遅刻が合否要素として考慮されたとしても,勤務状況等を車掌の適
格性を判断するに当たって考慮することは合理性を有し,不当な不利益
取扱いとはいえない。
また,BがF駅で業務に当たることが,業務上の不利益な取扱いであ
るとは認められない。
(オ)以上の各要素を総合的に判断すると,Bに対する業務による心理的
負荷は,社会通念上,客観的に見て,精神障害を発症させる程度に過重
なものであったとはいえず,Bの適応障害の発症及び自殺に業務起因性
は認められない。
イ精神障害の業務起因性の具体的な判断に当たっては,判断指針によるの
が合理的であるところ,判断指針に照らしても,Bの適応障害の発症及び
自殺に業務起因性は認められない。
(ア)出来事の平均的な心理的負荷の強度
Bの遅刻は仕事上のミスなので,別表1(1)欄の具体的出来事にはその
まま該当するものはないものの,一応「会社にとっての重大な仕事上の
ミスをした」を類推して,一応強度Ⅲと考えた上で,下記(イ)のとおり,
精神的負荷を評価するのが相当である。
(イ)心理的負荷の強度の修正
上記(ア)で認定した平均的な心理的負荷の強度について,判断指針記
載の「失敗の大きさ・重大性,損害等の程度,ペナルティの有無等」に
より修正すると,Bの従事していた業務内容,立場に照らし,Bの遅刻
が本件会社の業務に重大な影響を及ぼすとは認められず,また,Bの遅
刻に対する注意・指導は,前述のとおり,社会的相当性の範囲内のもの
であったのであるから,Bの遅刻という出来事は,客観的に見て,労働
者に強い心理的負荷を与えるものとはいえず,その強度はⅠに修正され
る。
なお,単に本人の資質により出勤時刻に出勤することが困難であり,
それが心理的負荷であったとしても,このことは直ちに業務による心理
的負荷とはいえない。
(ウ)出来事に伴う変化の評価
Bが遅刻をすることは,Bにとって,何ら仕事の量の変化,仕事の質
の変化,仕事の責任の変化等をもたらすものではなく,また,本件会社
においては,寮生に対して,職場に起床報告をするよう指導が行われ,
寮の管理係が起床の援助をするなど,遅刻防止の援助が行われており,
同僚も勤務が同じときには起床を援助し,I首席助役も,翌年度の車掌
試験に合格するよう激励し,車内補充券発行機の取扱いを教えるなど,
精神的支援を行っていた。
(エ)上記のとおり,本件においてBの遅刻に係る心理的負荷は強度Ⅰで
あり,出来事に伴う変化における過重性も認められないのであるから,
Bが発病したと推定される適応障害に関し,業務起因性は認められない。
(オ)なお,判断指針は,心理的負荷の判断において,「本人がその心理
的負荷の原因となった出来事をどのように受け止めたかではなく,多く
の人々が一般的にはどう受け止めるかという客観的な基準によって評価
すべきである」と明示しており,心理的負荷の程度については,通常想
定される範囲の同種労働者(幅のある概念であり,その中には,ストレ
スに対して脆弱な者も含まれる。)を基準として,客観的に判断される
べきである。心理的負荷の程度について,最脆弱者や本人を基準にする
ことは,客観的なストレス強度を把握する「ストレス−脆弱性理論」と
は矛盾する。
第3争点に対する判断
1証拠(甲9,甲10の1ないし甲10の3,甲14ないし甲21,審甲1,
審甲5の2,乙7ないし乙10,乙13ないし乙25,審乙5,審乙9,審乙
12,審乙13,審乙17ないし審乙22,審乙23の3,審乙23の5,審
乙26の1・2,審乙27ないし審乙36,証人J,証人I,証人G,証人M,
証人N,原告A)によれば,本件について,以下の事実が認められる。
(1)本件自殺以前のBの勤務状況等
アBは,平成14年4月24日に駅員としてE駅に配属され,およそ1か
月程度,実地研修を経た後,平成15年7月20日に死亡するまで,同駅
において出改札,ホーム業務及び不定の補助的業務に従事していた(審乙
12,審乙19ないし審乙21)。また,平成15年4月からはE駅が所
管するF駅において,出改札業務及び補助業務に就くことがあった。
イ本件会社における駅員の業務内容及び勤務時間は,作業ダイヤによって
異なるものであり,Bの死亡前6か月間の業務は,次のとおりであった
(審乙5,審乙9,審乙12,審乙18,審乙20,審乙21,乙10)。
(ア)E駅における勤務
・「7d勤務」は,作業ダイヤに基づかない変形業務のうち,労働時間
が7時間45分の基本的な業務形態を指し(審乙22),午前9時始
業,午後5時45分終業で補助的業務を行うものであった(乙10)。
・「営業機動B勤務」は,午前10時始業,午後8時終業であり,午前
中は事務作業を行い,午後はホーム業務を行うものであった(審乙2
0)。Bが,平成15年3月31日及び同年7月20日に遅刻したの
は,この勤務である。
・「改札泊り勤務」(改札業務)は,午前9時始業,翌日午前9時30
分終業であり,初日の午前中から二日目の午前1時30分ころまで,
休憩を挟みながら,改集札業務及び帳票整理を行い,その後,仮眠を
とり,二日目の午前6時30分から午前9時の引継ぎまでの間,改札
業務を行うものであった。
(イ)F駅における勤務
・「7d勤務」は,作業ダイヤに基づかない変形業務のうち,労働時間
が7時間45分の業務形態を指し(審乙22),午前9時始業,午後
5時45分終業で補助的業務を行うものであった。
・「営業B泊り勤務」は,午前9時始業,翌日午前9時30分終業であ
る。その業務は日中出改札業務を行った上で,午後11時から仮眠を
し,その後,二日目の午前3時30分に起床し,信号報告をした後に,
F駅の自動改札機等を作動させ,同じく泊り業務である営業Aを起こ
すなど,駅の開業準備を担当するものであった(審乙21)。
ウBは,平成15年2月4日及び同年3月11日に,平成14年度車掌科
試験を受験したが,不合格であった(甲17,乙20)。E駅管内に配属
された同期の駅員12名(高校卒職員,乙12)のうち,試験を受けられ
なかった者が1名,不合格となった者がBを含めて2名であった(乙1
9)。
(2)Bが,自身の遅刻について,本件会社から受けた処分
基礎となる事実(3)イ記載のとおり,本件会社はBに対して,欠勤時間に対
応した基本給の減給(2回目の遅刻について103円,3回目の遅刻につい
て8時間分7108円)を行った。
また,本件会社は,1回目の遅刻と2回目の遅刻を併せて平成14年12
月30日付け文書でBを厳重注意処分とし,3回目の遅刻について,平成1
5年5月20日付け文書でBを厳重注意処分とした(甲9,乙12・A10,
乙16,乙25・1頁)。
さらに,本件会社は,Bに対し,上記厳重注意等を考慮し,勤務成績が良
好でないとして,平成15年上期の期末手当(賞与)から5万円を減額した
(乙12,乙13)。
なお,上記厳重注意処分は,就業規則上の懲戒処分に該当するものではな
く,懲戒事由に形式的に該当するが懲戒を行う程度に至らないものに対して
される事実上の処分であり(乙16・2頁,乙17,乙19・3頁),Bが死
亡するまでの間,本件会社が,Bに対して,就業規則上の懲戒処分を行うこ
とはなかった。
()Bが,自身の遅刻について,上司から受けた指導・注意3
ア1回目の遅刻について,Bは,勤務終了後,I首席助役から遅刻理由等
を確認され,口頭による注意を受け,始末書を提出した(甲14)。
なお,E駅では,駅員の遅刻について,本件会社京都支社への報告事項
となっており,遅刻の事情等について聞き取りが行われていた(証人I,
乙21・2頁)。
イ2回目の遅刻について,Bは,I首席助役との面談で遅刻理由等を確認
され,口頭で注意を受け,翌日,始末書を提出した(甲15)。また,平成
14年12月30日付けの厳重注意処分の交付を受ける際に,駅長からも
口頭での指導を受けたことが推認される(証人M)。
Bが作成した始末書には,生活,特に出勤までのリズムをしっかり作る
こと,時計を増やし時間に厳しくしなければいけないと思うことなど今後
の方針が記載されているほか,E駅に寛大な処置をお願いします,との文
言も記載されていた。
また,2回目の遅刻後,Bは,上司から,次に遅刻した場合にどう責任
をとるのか問われ,その際,次に遅刻したら本件会社を辞めると答えてい
た(証人N,甲19)。
ウ3回目の遅刻について,Bは,駅長室で,J駅長とI首席助役から注意
を受けた。その際,Bは遅刻の理由について,午前1時までテレビを見て
いて,目覚ましでも起きられなかったなどと述べた。J駅長は,Bに対し
て,親を呼ぶように指示した。
平成15年4月1日,Bと原告らがE駅に赴き,J駅長及びI首席助役
は,原告ら立会いの下,Bに対して,過去の遅刻の事実について内容を確
認した。Bは,反省文を提出した(甲16)。
その書面の内容は,おおむね,「今回の遅刻で,自分の社会人としての
自覚のなさに気づいた。まだまだ自分はこの会社でいろいろやりたいし,
やり残したことが多すぎる。本当にこれが最後の遅刻です。自分にもう一
度チャンスをください。」といったものであった。
(4)その他,B及びBの同僚らが受けた業務上又は生活上の指導及び注意の内

アBは,平成14年4月,本件会社の本社人事部が実施した新入社員研修
において「十戒」と題する書面を交付された(乙14)。同書面には,
「1時間に遅れるな」との記載があり,以後「2お客様とはけんかを
するな」,「3職務乗車証を不正使用するな」などと合計10項目にわ
たる新入社員への注意事項が記載されていた(乙14)。
イI首席助役は,平成14年5月,Bを含むE管理駅に配属された新入社
員を相手に「社会人の常識」と題する書面を配布して,新入社員に対する
指導を行った。同書面には,社会人のルールとして「1時間を守るこ
と」,「2挨拶をする」,「3メモをすること」,「4身だしなみ
・服装」,「5印鑑を大切にすること」といった事項が記載されており,
「1時間を守ること」という記載の下部には「定時運転=信頼」,「時
間にルーズならば,JRをやめよ!」との記載があった(乙14,証人
I)。
ウE駅では,遅刻やミスがあったとき,点呼の際に口頭で注意するほか,
注意を喚起する文書を休憩室に張り出したり,社員に配布することがあっ
た(審甲5の2・4丁,乙22・2頁,乙23・5頁)。
平成15年度はE駅において,取組み方針の一つとして,寝過ごし及び
出勤遅延の防止が挙げられており,平成15年5月4日に,E駅において
遅刻が発生した際には,E駅長名義の「警告出勤遅延発生!」という題
の書面が交付され,遅刻防止のための注意が行われた(審甲5の2・4
丁)。
エI首席助役は,Bが2回目の遅刻をした後,本件会社の寮を訪ね,Bを
含むE駅配属の社員の生活状態をチェックした。その際に,Bに対して,
きちんと部屋を片づけるように指導した(乙19・4頁,乙21・4頁,
乙22・5頁)。
オBが生活していた本件会社の寮の寮長は,Bが,たびたびカラオケに行
って門限を破るなど私生活が乱れていることについて,複数回,口頭で注
意し,平成15年1月ころには,寮長からBを含む数名の職員について私
生活の乱れについてE駅に報告をした(乙21・5頁,乙24)。
カJ駅長は,Bの同期2名に対しても,遅刻があったこと及び生活態度の
乱れが見られることを理由として,親を呼んで指導をした(乙19・8
頁)。
2本件自殺に際して,Bに業務外において過重な心理的負荷が加わったような
事情については,本件において,これを認めるに足りる証拠はない。
3適応障害に関する医学的知見(甲13,乙4,乙27)
適応障害は,世界保健機構による国際疾病分類のICD−10第Ⅴ章「精神
および行動の障害」のF4(「F43重度ストレス反応および適応障害」のカ
テゴリー)に分類される精神障害であり,「主観的な苦悩と情緒障害の状態で
あり,通常社会的な機能と行動を妨げ,重大な生活の変化に対して,あるいは
ストレスの多い生活上の出来事の結果に対して順応が生ずる時期に発生する」
疾患であり,症状は多彩であり,抑うつ気分,不安,心配,現状の中で対処し,
計画,あるいは継続することができないという感じ,日課の遂行の障害などが
見られる。
米国精神医学界の診断基準であるDSM−Ⅳ−TRの基準によれば,「明ら
かなストレスに反応して,それが始まってから3か月以内に行動・感情面の症
状が始まっている」,「そのストレスにより当然予想されるような苦痛の状態
を超える症状又は社会的,職業的な役割が果たせない症状」,「障害が他の精
神障害の基準を満たさず,既に存在した精神障害の悪化ではない」,「近しい
人との死別による反応とは違う」,「ストレス状況がなくなってから6か月以
内に消失する」などの条件を満たすことが必要とされている。
4Bの適応障害発症の業務起因性に関する医学的見解
(1)地方労災医員協議会精神部会意見書(審乙39)の要旨
ア精神障害の発病の有無
Bは,平成14年4月1日から本件会社に入社し,E駅に配属となった
日の翌日に遅刻をし,その後平成14年8月と平成15年3月31日にも
遅刻をしており,3回目の遅刻では両親が呼び出され,遅刻に対する指導
が駅長から行われた。また,Bは平成15年4月に車掌試験に不合格とな
った。聴取結果によれば,Bはいずれもそのときは落ち込んだ様子であっ
たが,その後は普通に振る舞っていた。
Bは,平成15年7月20日に4回目の遅刻をし,同僚からの電話を受
けた後,寮を出て,C駅に行き,線路に飛び込んで列車にひかれ死亡した。
以上の経過から,Bは,遅刻することに関して日常的に精神的プレッシ
ャーを受けていたものと推察でき,さらに平成15年7月20日の4回目
の遅刻によって,精神的ストレスは増幅し,これに反応して本件自殺に至
ったものと判断できる。このような本件自殺までの経過から判断して,B
は,平成15年7月20日にICD−10診断ガイドラインにおけるF4
3.2「適応障害」を発症していたと推定できる。
イ業務要因の検討
平成15年3月31日に3回目の遅刻をした際に,両親が呼び出された
ことは,Bにとってショックであったと思われ,以後,Bは,遅刻をして
はいけないという精神的プレッシャーを常に受けていたと推察できる。
しかし,鉄道旅客運送業での駅勤務において,遅刻というのは,他の職
業より特に重要な問題となるもので,中でも未成年者の場合,将来,車掌
などの勤務に就いていくことを考えれば,管理者が私生活面を含めた指導
を行うことは,一般的に必要なものであると推察され,また,管理者から
の指導内容はBの将来を考えて頑張って欲しいとの思いを伝えたものであ
り,特に厳しいものではなかった。本件自殺の当日にした遅刻についても,
Bに対して同僚や係長等が厳しく叱責した状況は認められない。
平成15年4月に車掌試験に不合格となった点についても,不合格者は
他にもおり,将来何度も受験できることを考えれば,特に強い精神的スト
レスと認めることはできない。
また,Bの労働時間及び労働の内容が特に過重であったとは認められな
い。
以上の事情によれば,Bの遅刻は,判断指針の別表1で例示された「会
社にとっての重大な仕事上のミスをした」に類推でき,平均的な心理的負
荷の強度はⅢとなるが,心理的負荷の強度を修正する視点からミスの内容
について見ると,本件の場合,B本人の遅刻に関することであり,それに
対する管理者の指導,注意については業務遂行の上で必要な範囲であった
もので,両親の呼出し,遅刻の職務上の重要性等を考慮しても,この出来
事の心理的負荷は強度Ⅰ程度と評価するのが相当である。
そして,特に過重な時間外労働及び他の重大な仕事上のトラブル等も認
められないのであるから,心理的負荷の総合評価は到底「強」とは判断で
きない。
ウ業務以外の要因の検討
(ア)Bに業務以外の心理的負荷要因は特に認められない。
(イ)個体側の要因について検討するに,Bは,おおらかで明るく元気な
部分と,自分で悩み事をため込んでしまう部分を合わせ持っていた。
エ結論
Bの業務及び出来事による心理的負荷の強度は判断指針別表1によって,
到底「強」とは判断できないのであるから,Bの適応障害の発症について
業務起因性があるとはいえない。
(2)京都ノートルダム女子大学心理学部O教授の意見書(乙27)の要旨
アBは,平成15年3月31日に3回目の遅刻をした後も通常の勤務をこ
なし,職業的な機能においては障害を認めず,同年6月ころには恋人もで
き関係も良好であり,同僚や家族の情報などから勘案しても,同年7月1
9日以前にICD−10に該当する精神障害の発症は認められない。
イ平成15年7月20日の出勤に遅れ,会社から電話があった後に本件自
殺を遂げており,遅刻をしたという出来事が本件自殺に至った最大の誘因
であると考えられる。
ウ本件自殺の前日までの業務上の負荷について検討すると,過去3回の遅
刻に対する本件会社の指導は特に厳しいものではなく,両親を呼ばれたの
もBだけではなく,遅刻そのものが即座に自身の危険や乗客・利用者の危
険に結びつくものではない。そのため,遅刻を繰り返すことは,本人の評
価にはかかわる可能性があるが,それは始業時刻が規定されている多くの
職業に通用するものである。その他,平成15年4月に車掌試験に不合格
になったことも,他にも不合格者がおり将来何度も受験できることを考え
れば特に強い精神的ストレスであると認めることはできない。
また,勤務は不規則であるものの,労働時間数,時間外労働数は多くな
く,勤務内容も心理的負荷が少ないものであり,業務上の負荷は強いもの
とはいえない。
私的領域にも,調査内容からは大きな心理的負荷は認められない。
エBが,上記ウの事情にもかかわらず,突然自殺したということは,Bに
とっては,この日の遅刻という出来事がストレス因子となって本件自殺と
いう重大な結果に結びついたと思われるが,これはいわゆる覚悟の自殺,
自由意思による自殺とは考え難く,その時点で何らかの精神疾患を発病し
て自殺したものと考えざるを得ない。
そして,ストレスと発病との関連性が強い精神障害としては,急性スト
レス反応,外傷後ストレス障害,適応障害が挙げられるが,前二者では,
発症の原因となるストレスは日常経験するようなものとは異なる例外的に
強いストレスにさらされた結果生ずるものであるので,本件ではこれらの
障害の発症は考えにくく,いかなる程度のストレス因子でもきっかけとな
りうる適応障害の発病が最も推定される。
オストレス−脆弱性理論に基づいて,個体側の要因としての脆弱性と環境
要因としてのストレスの二つの要因からBの適応障害の発症メカニズムを
探求すると,まず,業務上及び業務外に強い心理的負荷は認められない。
もっとも,業務以外の私的領域での心理的負荷については,調査では明ら
かになっておらず,もしストレスが適応障害の発症に大きく寄与したと仮
定する場合,業務外のストレスが主要な役割を果たしたと考えられる。
一方,個体の脆弱性については,これまでの生活上の不適応は明らかで
はなく,精神障害の既往も認められない。
3回目の遅刻後には自殺企図はみられず,4回目の遅刻後に本件自殺に
至っているため,両者で異なる状況があったかを検討すると,3回目の遅
刻後に新たに生じた事情としては,①3回目の遅刻後に両親を呼んで話し
合ったこと,②平成15年4月15日に車掌試験の合否発表での落第,③
6月に恋人ができたこと,④7月20日,恋人がアルバイトとしてE駅に
勤務することになっていたこと,⑤3回目の遅刻の後に「次に遅刻したら
やめる」と言っていたこと,⑥平成15年4月から本件自殺当日の1週間
前まで父親からのモーニングコールにより遅刻は回避されていたことなど
が挙げられる。①及び②については,特別強い心理的負荷ではなく,その
他についても,過度な心理的負荷とはいえず,もし,これらの点が本件自
殺に何らかの関係があるとすれば,それは本人の認知の仕方あるいは性格
的な柔軟性の乏しさによるものであり,個体のストレス脆弱性に関連する
ものである。
カ職場の要因に関する資料に比べて,業務外でのストレス因子や個人の脆
弱性を推測しうる個体側の要因に関する資料は乏しく,さらに,個体の脆
弱性については,臨床的には精神障害を発症するまでは,様々な対処法に
より社会的機能が保たれ,明らかでないこともしばしばである。
そこで,個体の脆弱性が十分には解明されていなくてもストレス−脆弱
性理論に基づいて,業務上及び業務外のストレスが弱い場合には,個体の
脆弱性が精神障害に大きく寄与したと考えることが理にかなう。
5判断
(1)業務起因性の判断基準について
ア労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の保険給付は,労基法79
条及び80条所定の「労働者が業務上死亡した場合」に行われるものであ
るところ(労災保険法12条の8第2項),精神障害による自殺がこれに
当たるというためには,精神障害が労基法施行規則別表第1の2第九号の
「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当することを要し,精
神障害につき業務起因性が認められなければならない。
そして,労災保険法に基づく労働者災害補償制度が,業務に内在し,又
は通常随伴する危険が現実化して労働者に傷病等を負わせた場合には,使
用者の過失の有無にかかわらず労働者の損失を補償するのが相当であると
いう危険責任の法理に基づくものであることに鑑みると,業務起因性を肯
定するためには,業務と死亡の原因となった疾病との間に条件関係が存在
するのみならず,社会通念上,疾病が業務に内在し,又は随伴する危険が
現実化したものと認められる関係,すなわち相当因果関係があることを要
するというべきであり,業務が単に疾病の誘因又はきっかけにすぎない場
合には相当因果関係を認めることはできないのであって,この理は,疾病
が精神障害の場合であっても異なるものではない。
イところで,現在の精神医学においては,精神障害の発症について,環境
由来のストレスと個体側の反応性,脆弱性との関係で精神破綻が生ずるか
どうかが決まるとする「ストレス―脆弱性」理論によって理解することが
広く受け入れられているところ,個体側要因(反応性・脆弱性)について
は,客観的に把握することが困難である場合もあり,これまで特別な支障
もなく普通に社会生活を行い,良好な人間関係を形成してきていて何らの
脆弱性を示さなかった人が,心身の負荷がないか又は日常的にありふれた
負荷を受けたにすぎないにもかかわらず,突然精神障害に陥ることがある
のであって,その機序は,精神医学的に解明されていない。このように個
体側要因については,顕在化していないものもあって,客観的に評価する
ことが困難な場合がある以上,他の要因である業務による心理的負荷と業
務以外の心理的負荷が,一般的には心身の変調を来すことなく適応するこ
とができる程度のものにとどまるにもかかわらず,精神障害が発症した場
合には,その原因は,潜在的な個体側要因が顕在化したことに帰するもの
と見るほかはないと解される。
したがって,業務と精神障害の発症との間の相当因果関係の存否を判断
するに当たっては,ストレス(業務による心理的負荷と業務以外の心理的
負荷)と個体側の反応性,脆弱性とを総合的に考慮し,業務による心理的
負荷が,社会通念上,客観的に見て,精神障害を発症させる程度に過重で
あるといえる場合には,業務に内在し,又は随伴する危険が現実化したも
のとして,当該精神障害の業務起因性を肯定することができると解すべき
である。
これに対し,業務による心理的負荷が精神障害を発症させる程度に過重
であるとは認められない場合には,精神障害は,業務以外の心理的負荷又
は個体側要因(もともと顕在化していたもののほか,潜在的に存在してい
た個体側要因が顕在化したものを含む。)のいずれかに起因するものとい
わざるを得ず,精神障害の発症につき業務起因性を認めることはできない
と解すべきである。
ウそして,前記のとおり,労働者災害補償制度の趣旨が,業務に内在し,
又は通常随伴する危険が現実化して労働者に傷病等を負わせた場合には,
使用者の過失の有無を問わず,労働者の損失を補償するものであることに
照らせば,業務による心理的負荷の有無及びその強度を判断するに当たっ
ては,当該労働者と同種の労働者,すなわち職場,職種,年齢及び経験等
が類似する者で,通常業務を遂行できる者を基準として検討すべきである。
エ本件におけるBの適応障害の発症については,発症の原因となったスト
レスが,主に平成15年7月20日のBの遅刻に起因するストレスである
ことについては,双方に争いがなく,また,地方労災医員協議会精神部会
作成の「Bの精神障害に係る業務起因性の医学的見解」(審乙39)及び
O教授作成の意見書(乙27)によっても肯定されているところである。
そこで,以下,平成15年7月20日のBの遅刻によりBに生じた業務上
の心理的負荷が,社会通念上,客観的に見て,精神障害を発症させる程度
に過重であるといえるか否かについて検討する。
(2)本件会社における遅刻という業務上のミスについての精神的負荷
ア本件会社においては,駅員の遅刻について勤務認証上の必要があるとは
いえ,結果だけではなく経過についても支社への報告事項となっているこ
と,遅刻を2回することで,支社長名義の厳重注意文書が交付されるなど,
遅刻に対しては特に厳しい指導がされていることは認められ,遅刻という
業務上のミスについて,一般企業における場合と比べれば,強度の精神的
負荷が加わるものであったことは認められる。
イしかし,鉄道旅客運送業を営む会社において,時間厳守を求められるこ
とは当然のことであり,また,Bの業務は,ホーム業務や改札業務など,
遅刻をした場合でも,代替人員の確保が比較的容易な業務であり,遅刻に
より,会社や第三者に大きな損害を生じさせるような事態も想定し難いの
であるから,本件において,遅刻という出来事それ自体が,Bに対して,
強度の精神的負荷を与えるものであるということはできない。
また,日々遅刻をしないよう出勤し,始業時間に業務を開始することは,
出勤時間が定められている労働者に共通するごくありふれた労働契約上の
義務である。そして,Bは,C駅近くの本件会社の寮に居住しており,出
勤時刻も午前9時又は午前10時であり,一定の頻度で泊り業務が割り当
てられるなどBの生活リズムが一定ではない点を考慮しても,Bが遅刻を
しないように出勤すること自体について,その業務が特に困難であり,当
該業務の遂行につき強い心理的負荷の要因になるという事情も認められな
い。
(3)Bが遅刻を積み重ねていたことによる心理的負荷の増大について
アBは,4回目の遅刻をする以前に,過去の遅刻につき,京都支社長名義
で,2回の厳重注意を受けていたのであり,当該処分が,当時19才の青
年であったBにとって相当な心理的負荷のかかる処分であったことは推認
できる。
イしかしながら,本件会社にとっては,厳重注意とは懲戒処分としての戒
告に至らない場合に行われる事実上の行為であり,Bが会社から正式な懲
戒処分を受けたことはなかった。
また,Bは,平成15年の2月及び3月に受験した車掌試験に不合格と
なっているが,たとえ遅刻による勤務評価の低下が試験に影響していたと
しても,昇進試験について普段の勤務成績が加味されることは通常のこと
であり,車掌試験の不合格が,直ちに遅刻をしたこと自体による不利益処
分であるとは認められない。そして,車掌試験は毎年受けられる試験であ
ること,E駅管内においても,Bの同期で他に2人が車掌試験に通ってい
ないことからしても,車掌試験に不合格になったことが,直ちに遅刻に対
する心理的負荷を大きく増大させる要因であるとは解されない。
さらに,F駅の勤務は,平成14年の7月ころから,Bの同期が交代し
て担当していたものであり(乙22・5頁),同期の中でもE駅における
勤務が不利益な処分とはとらえられていなかった(乙23)。BがF駅の
勤務を行うことは,客観的に不利益な処分といえず,また,Bが遅刻した
こととの関連性も認められない。
ウ(ア)また,上司による叱責等についても,過去3回の遅刻において,B
がJ駅長及びI首席助役から,他の社員の面前で叱咤されたとか,見せ
しめと評価されるような指導を受けたことをうかがわせる証拠はない。
(イ)そして,1回目及び2回目の遅刻に対するJ駅長及びI首席助役の
注意内容は,遅刻の原因を聴取したり,遅刻の対策を具体的に考え,生
活態度の改善を求めるなど今後の遅刻を防止することを目的とするもの
であったと推認され,その範囲を超えて,退職を強要するような指導で
あったと認めるに足りる証拠はない。
なお,Bと同様に,複数回遅刻を行っていた証人Mは,2回目の遅刻
から,I首席助役が,Mに対し,もう向いてないから辞めてしまえ,と
いうような退職を促すような言動をしたと供述し,証人Nは,陳述書(甲
19)及び証人尋問において,Bは,I首席助役から,次に遅刻したらど
うなるか分かっているやろうな,今度したら終わりやな,などと声をか
けられていた旨供述する。
しかし,仮に,I首席助役が,Bに対しても,証人Mが供述するよう
な,遅刻を繰り返した社員に対して退職を促すような言動をしたことが
あったとしても,証人Mの供述によれば,それは,目覚ましを増やせで
あるとか,目覚ましの位置を工夫しろ,といった今後の遅刻を防止する
ことを目的とした指導とともに行われたものであり,遅刻を戒めるため
の注意の一環として行われた叱咤の一態様であると理解することが十分
に可能であり,後述のとおり,3回目の遅刻に対する面談に際しても,
本件会社においてBに退職を強制するような事情が認められない本件に
おいて,当該言動がBに対して真に本件会社の退職を促すものとして発
せられていたものとまでは認め難い。
(ウ)また,3回目の遅刻に対しては,J駅長自ら,Bに対して,両親で
ある原告らを呼んで話をしたい旨を告げて,原告ら同席の下でBに対す
る指導をしたことが認められ,原告らは,この面談により,Bは,次に
遅刻をすれば退職することを余儀なくされた旨主張するが,Bの遅刻の
内容が,夜更かしをして,午前10時開始の勤務時間に50分も遅刻し
たという内容であったこと及び平成15年1月には,寮長が,Bの生活
態度の乱れについてE駅に報告し,駅においてもBに対して生活態度に
ついての指導を行うよう依頼していたことといった事情からすれば,J
駅長の意図としては,Bの生活態度の改善には家族の協力が必要である
と判断し,今後のBの生活態度について指導をするために,両親を呼ん
だものと推認される。
なお,原告Aは,上記面談につき,陳述書(甲18)及び本人尋問にお
いて,平成15年4月1日の面談において,遅刻に関する事実関係につ
いて確認がされた後,Bが辞めるかどうかの話に移っていったと述べ,
Bがはっきりもう一度チャンスをもらうようお願いしなければ,Bは辞
めさせられていたと思う,などと述べるが,原告Aの供述によっても,
J駅長及びI首席助役が,B及び原告らに対して退職を勧めたり,次に
遅刻をしたら辞表を出すように指示したなどの事情は見られない。また,
J駅長及びI首席助役は,Bの同期の他の遅刻者に対しても同様に家族
を呼び出して指導を行っているが,その際の内容も,普段注意している
内容を改めて注意するというものであり,親を呼んで退職について話し
合うという性質のものではなかったのであり,Bの3回目の遅刻につい
ても,本件会社からBに対して懲戒処分は行われていない。以上の事実
を考慮すれば,上記面談においては,Bが,2回目の遅刻の後に,次に
遅刻をしたら辞めると言っていたことから,B及び原告らが退職につい
て言及したという事情は認められるものの,面談の内容自体が,退職を
強要するようなものであったとは認められず,この点に関する上記認定
に反する原告Aの供述は採用できない。
エ以上の事情によれば,過去に,自分の遅刻が原因で,京都支社長名義で
2回も厳重注意を受け,また,親を呼ばれて上司から注意を受けたという
Bの立場からすれば,通常は,これ以上遅刻を繰り返すことを避けたいと
いう心情が働き,遅刻という業務上のミスについて,心理的負荷が相当程
度加重されることは認められるが,他方で,本件会社において,Bが遅刻
によって不当な不利益処分を受けたり,もう一度遅刻をすれば退職するこ
とを余儀なくされていたとまでは認めることができず,Bの4回目の遅刻
による心理的負荷が,退職を強要されるのと同視できるような強度の心理
的負荷であったとは認めることができない。
(4)以上のとおり,Bが平成15年7月20日にした4回目の遅刻は,遅刻と
いう業務上のミスから生じるストレスとしては相当程度大きな精神的負荷を
生じさせるものであったと認められるものの,遅刻というミスがありふれた
ものであること,Bがその日に遅刻をしても本件会社又は第三者に具体的な
損害をもたらすわけではないこと,Bの過去の遅刻に対する本件会社の処分
は,不当な不利益処分や退職強要に該当するとまでは認められず,時間管理
に厳格な鉄道旅客運送業を営む会社の教育方針として社会的相当性を欠くほ
どの処分であったとは認められないことに照らすと,同遅刻が,Bに同種労
働者が通常感じるストレスを超えて,精神障害を生じさせるほどの過重な精
神的負荷を生じさせるものであったとは認められないというべきである。
したがって,Bの自殺の原因となった適応障害は,本件会社の業務と相当
因果関係があるとは認められない。
6結論
以上によれば,原告らの請求には理由がないのでこれを棄却することとし,
訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,
主文のとおり判決する。
京都地方裁判所第3民事部
裁判長裁判官中村隆次
裁判官谷口園恵
裁判官向健志

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