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主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人中野比登志,同上柳敏郎,同土井香苗の上告受理申立て理由について
1本件は,アメリカ合衆国(以下「米国」という。)ジョージア州港湾局(以
下「州港湾局」という。)の我が国における事務所の職員として被上告人に雇用さ
れていた上告人が,被上告人のした解雇が無効であると主張して,被上告人に対し
雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び解雇後の賃金の支払を求める
事案である。
2原審の確定した事実関係及び記録によって認められる事実関係の概要は,次
のとおりである。
(1)州港湾局は,ジョージア州法により設立された被上告人の一部局であり,
被上告人所有の施設を運営し,被上告人,米国及び姉妹州の内外取引を育成,促進
することなどを目的としている。
(2)州港湾局は,かねてから州港湾局極東代表部として東京都内に事務所(以
下「極東代表部」という。)を設けており,被上告人は,平成7年6月,我が国に
住所がある上告人を極東代表部の現地職員として給与(基本給)月額62万420
5円で期間を定めずに雇用した(以下,この雇用関係を「本件雇用関係」とい
う。)。その採用手続は,当時極東代表部の代表者であったAと上告人との間です
べて口頭で行われた。
極東代表部の主要な業務は,船舶会社や海運,港湾,流通関係業者等に対して被
上告人の港湾施設を宣伝し,その利用の促進を図ることであり,その職員はAと上
告人の2名であった。上告人の労務提供地は我が国内に限定されていた。上告人は
極東代表部に勤務することにより州港湾局の企業年金の受給資格を得ることが可能
であり,また,極東代表部には我が国の厚生年金保険,健康保険,雇用保険及び労
働者災害補償保険が適用され,上告人もそれらの保険料を負担していた。
(3)被上告人は,平成11年12月,上告人に対し,①緊縮財政により極東
代表部を同12年6月30日に閉鎖する,②これは上告人の正職員としての雇用
が同日をもって終了することを意味するが,企業年金の期間要件を満たすために上
告人が希望するのであれば,同年9月15日まで正職員として在籍することを許
す,③その後は期間1年間の契約職員として勤務を継続するよう求めると通告し
た。
上告人は,これに対し,平成12年9月16日以降の正職員としての雇用継続を
申し出たが,拒絶された。
Aは,上記の通告があったころ,期間1年間の契約職員となって極東代表部の顧
問として働き始め,極東代表部に勤務する正職員は上告人のみとなった。
被上告人は,平成12年6月30日付けで極東代表部を閉鎖し,同年7月1日,
Bとの間で州港湾局の通商代表業務を委託する契約を締結した。Bは,州港湾局日
本代表部の名称で業務を開始した。
(4)被上告人は,平成12年9月12日,Bを通じて,上告人に対し,上告人
を同月15日付けで解雇する旨記載した書面を交付した(以下,この書面の交付に
よる解雇の意思表示を「本件解雇」という。)。
3原審は,次のとおり判断して,上告人の請求を一部認容した第1審判決を取
り消して,本件訴えを却下した。
(1)本件雇用関係は,私人間の雇用関係と特段異なるとは認められない私法的
ないし業務管理的な性質のものである。しかし,外国国家は,その私法的ないし業
務管理的な行為であっても,我が国による民事裁判権の行使が当該外国国家の主権
を侵害するおそれがあるなど特段の事情があれば,我が国の民事裁判権から免除さ
れると解される。被上告人は,米国の州であるが,その独立性や権能において国家
に比肩し得る地位を有しているから,民事裁判権免除の享有主体となり得る。
(2)国及びその財産の裁判権からの免除に関する国際連合条約(まだ発効して
いないが,我が国は署名している。以下「免除条約」という。)のうち雇用契約に
ついて定めた11条の規定に関する議論をみると,個人と外国国家との雇用契約か
ら生ずる訴訟については一般的には裁判権免除の対象とならないが,被用者の「採
用,雇用の更新,復職」が訴訟の主題となる場合は,国家の主権的権能にかかわる
ものとして裁判権免除の対象となるとの立場がほぼ一貫して採用され,同条2(c)
にその旨が明記されたことが認められ,上記の見解が国際慣習としてほぼ定着して
いるか,少なくとも国際連合加盟国の間で共通の認識になっていると解するのが相
当である。被解雇者が雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認し,使用者
に対し解雇後の賃金の支払を命ずるという我が国の法制下での解雇に対する救済
も,上記の復職に当たると解するほかない。
加えて,本件解雇は,州港湾局の我が国における事務所の閉鎖に伴う解雇であ
り,その効力を判断するためには解雇の正当事由の有無が主要な審理の対象とな
る。この審理においては,上記事務所を閉鎖する必要性,更には被上告人が採用す
る外国における産業振興等の事業政策やその財政状況等を明らかにしなければなら
ないが,これらは外国国家の主権的権能にかかわることであり,上告人の請求を認
容することは,我が国の裁判所が外国国家の主権的権能にかかわる裁量権に介入す
ることにほかならず,その主権を侵害するおそれがある。
以上によれば,上告人が被上告人に対し雇用契約上の権利を有する地位にあるか
否かを訴訟の主題としている本件においては,我が国の裁判所の訴訟判断によって
主権的権能を不当に干渉されないという被上告人の利益の保護が優先されるべきで
あるから,上記(1)にいう特段の事情が認められ,被上告人は我が国の民事裁判権
からの免除を主張し得る。
4しかしながら,原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理
由は,次のとおりである。
(1)外国国家は,その主権的行為については,我が国の民事裁判権から免除さ
れ得るところ,被上告人は,連邦国家である米国の州であって,主権的な権能を行
使する権限を有するということができるから,外国国家と同様に,その主権的行為
については我が国の民事裁判権から免除され得る。しかし,その私法的ないし業務
管理的な行為については,我が国による民事裁判権の行使がその主権的な権能を侵
害するおそれがあるなど特段の事情がない限り,我が国の民事裁判権から免除され
ないと解するのが相当である(最高裁平成15年(受)第1231号同18年7月
21日第二小法廷判決・民集60巻6号2542頁参照)。
(2)前記事実関係によれば,上告人は,極東代表部の代表者との間で口頭での
やり取りのみに基づき現地職員として被上告人に雇用されたものであり,勤務を継
続することにより州港湾局の企業年金の受給資格を得ることが可能であるのみでな
く,極東代表部には我が国の厚生年金保険,健康保険,雇用保険及び労働者災害補
償保険が適用されていたというのであるから,本件雇用関係は,被上告人の公権力
的な公務員法制の対象ではなく,私法的な契約関係に当たると認めるのが相当であ
る。極東代表部の業務内容も,我が国において被上告人の港湾施設を宣伝し,その
利用の促進を図ることであって,被上告人による主権的な権能の行使と関係するも
のとはいえない。以上の事情を総合的に考慮すると,本件雇用関係は,私人間の雇
用契約と異なる性質を持つものということはできず,私法的ないし業務管理的なも
のというべきである。
そして,本件解雇は,極東代表部を財政上の理由により閉鎖することに伴い,上
記のような雇用契約上の地位にあった上告人を解雇するというものであり,私人間
の雇用契約における経済的な理由による解雇と異なるところはなく,私法的ないし
業務管理的な行為に当たるものというほかはない。
(3)原審は,免除条約のうち雇用契約に関する11条の規定についての議論の
過程では,個人と外国国家との雇用契約から生ずる訴訟については一般的には裁判
権免除の対象とならないが,被用者の「採用,雇用の更新,復職」が訴訟の主題と
なる場合は,裁判権免除の対象となるとの立場がほぼ一貫して採用されてきてお
り,国際慣習としてほぼ定着しているか,少なくとも国際連合加盟各国で共通の認
識となっているものと解するのが相当であるとした上,上告人が雇用契約上の権利
を有する地位にあることの確認及び解雇後の賃金の支払を求める本件請求も,同条
2(c)の「復職」を主題とする訴訟に当たると解するほかはないと判示する。しか
しながら,免除条約が平成16年12月に国際連合総会において採択されるまでに
各国代表者の間で行われた議論においては,労働者が使用者である外国国家に対し
て金銭的救済を求めた場合に,外国国家は原則として裁判権から免除されないこと
が共通の認識となっていたところである(当裁判所に顕著な事実であり,その後成
立した外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律9条1項,2項3号,4号
もこのことを前提としている。)。原審の指摘する免除条約11条2(c)は,雇用
関係を開始する場合に関する規定であり,そこにいう「裁判手続の対象となる事項
が個人の復職に係るものである」とは,文字どおり個人をその職務に復帰させるこ
とに関するものであって,現実の就労を法的に強制するものではない上告人の本件
請求をこれに当たるものとみることはできない。解雇が無効であることを理由に,
雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び解雇後の賃金の支払を求める
本件請求は,同条2(d)にいう「裁判手続の対象となる事項が個人の解雇又は雇用
契約の終了に係るもの」に当たると解すべきであり,この場合は,「雇用主である
国の元首,政府の長」等が,「当該裁判手続が当該国の安全保障上の利益を害し得
るものであると認める場合」に限り裁判権の免除が認められているところである。
さらに,原審は,本件解雇の「正当事由」の有無について判断するため州港湾局
の事務所閉鎖の必要性や被上告人の事業政策,財政状況等について審理することは
主権の侵害に当たると判示するが,免除条約においては,上記のとおり,解雇の場
合は,政府の長等によって安全保障上の利益を害するおそれがあるものとされた場
合に限って免除の対象とされるなど,裁判権免除を認めるに当たり厳格な要件が求
められていることに徴しても,原審の指摘するような事情が主権を侵害する事由に
当たるものとは認められない。
(4)前記のとおり,本件解雇は私法的ないし業務管理的な行為に当たるとこ
ろ,原審が指摘するところは,我が国が民事裁判権を行使することが被上告人によ
る主権的な権能の行使を侵害するおそれがある特段の事情とはいえないから,被上
告人が我が国の民事裁判権から免除されるとした原審の前記判断は,外国国家に対
する民事裁判権免除に関する判断を誤った違法なものといわざるを得ない。
5以上のとおり,本件訴えを却下した原審の判断には,判決に影響を及ぼすこ
とが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そ
して,前記事実関係を前提とする限り,被上告人が我が国の民事裁判権から免除さ
れる特段の事情があるとは認め難いが,他にこれを認めるに足りる事情があるかど
うかについて更に審理し,また,上記の特段の事情が認められない場合には,本案
について審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官竹崎博允裁判官今井功裁判官中川了滋裁判官
古田佑紀裁判官竹内行夫)

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