弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人A株式会社及び同Bの弁護人宮代力ほか並びに被告人C株式会社,同D及
び同Eの弁護人西迪雄ほかの各上告趣意は,いずれも憲法違反をいう点を含め,実
質は事実誤認,単なる法令違反の主張であり,被告人F株式会社及び同Gの弁護人
梶谷剛ほかの上告趣意のうち,憲法14条1項,32条違反をいう点は,原審で主
張,判断を経ておらず,その余は事実誤認,単なる法令違反の主張であって,いず
れも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 なお,所論にかんがみ職権で判断する。
 本件は,各被告人会社及び各原審相被告人会社(以下「被告人会社等」という。)
が,被告人4名を含む各社の従業者らを通じ,防衛庁調達実施本部の実施する石油
製品の指名競争入札に参加するに際し,長年の慣行に従って,前年度の油種ごとの
受注実績を勘案して受注予定会社を決定した上,同社が受注できるような価格で入
札を行うように受注調整をしたという事案である。
 所論は,調達実施本部が指名競争入札を形がい化させて落札価格を決定し,指名
業者である被告人会社等は防衛庁に対する石油製品の迅速確実な納入を図るために
受注調整会議を開いて納入責任会社を決めていたにすぎないから,指名業者間の価
格競争の余地はなく,被告人会社等が実質的に競争を制限したものではない旨主張
する。
 確かに,原判決の認定によれば,当初入札では全件が不調となり,商議を経た後
に実施された再入札において,商議の際に調達実施本部から提示されたいわゆる最
低商議価格で落札されることが長年続くなど,指名競争入札の運用が形がい化して
いたと認められる実情にあり,調達実施本部担当官の中には,指名業者の間で何ら
かの受注調整が行われ,そのために上記のような経過をたどって落札されているの
ではないかと察知していた者がいたと認められる状況であったのに,同本部は,指
名競争入札の運用を改めず,また,担当官においては,指名業者に対し,会計法2
9条の5第2項に違反する疑いがあるのに入札書の差し替えを許したり,複数落札
入札の際のくじ引で便宜を与えたりするなど,再入札において最低商議価格により
落札されることを前提としたような事務手続を行い,事実上指名業者による受注調
整を黙認し,それを助長していたことが疑われる。しかしながら,【要旨】調達実
施本部から提示された最低商議価格を基に落札され,指名競争入札制度が形がい化
していたとしても,それらは,調達実施本部において,指示,要請し,あるいは主
導したものではなく,現に,被告人会社等は,入札における自由競争が妨げられて
いたというわけではない。しかるに,被告人会社等は,本件指名競争入札において
,前年度実績並みの有利な受注を確保するために,当初入札における全件不調,商
議を経て,受注できる価格についての情報を得て再入札手続に入るよう受注調整を
実施したものであり,このような受注調整が本件指名競争入札における競争を実質
的に制限したものであることは明らかであるから,被告人会社等に平成14年法律
第47号による改正前の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律89条1
項1号,3条違反の罪の成立を認めた原判断は,正当である。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,
主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 滝井繁男 裁判官 津野 修 裁判官 今井 功 裁判官 中川
了滋 裁判官 古田佑紀)

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