弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     被上告人の本訴請求中上告人に対し第一審判決添付目録第一記載の宅地
につき昭和二九年九月一二日大阪法務局江戸堀出張所受付第一二五一四号所有権移
転請求権保全仮登記に基づく所有権移転登記完了と同時に同第二記載の建物の収去
を求める部分に関する原判決を破棄し、右破棄部分を大阪高等裁判所に差し戻す。
     上告人のその余の上告を棄却する。
     前項の上告費用は、上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人樫本信雄、同竹内敦男の上告理由第一点について。
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決の挙示する証拠に照らして肯認する
ことができ、その過程に所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、原審の
専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであつて、採用すること
ができない。
 同第二点及び第三点について。
 原判決は、訴外Dは昭和二五年四月原審控訴人Eから第一審判決添付目録第一記
載の宅地(以下本件宅地という。)を買い受けたがその所有権移転登記をしなかつ
たところ、昭和二九年三月本件宅地を被上告人に売り渡したが、その所有権移転登
記は中間を省略してEから直接被上告人に対してされる旨の合意が右三者間に成立
し、被上告人は同年九月一二日主文第一項記載の仮登記を経由したこと、一方、上
告人は本件宅地上に右目録第二記載の建物(以下本件建物という。)を所有してい
るが、そのうち家屋番号a番のb、c木造瓦葺二階建店舗一棟床面積一階七坪六合
九勺、二階七坪九勺については昭和二七年七月四日これを他から買い受けるととも
に、当時本件宅地の所有者であつたDから本件宅地を建物所有の目的のもとに賃借
し、右建物につき同月五日所有権移転登記を経由したこと、被上告人は昭和四六年
六月一五日到達の書面をもつて上告人に対し昭和二九年九月一四日以降昭和四六年
五月末日までの賃料を四日以内に支払うよう催告し、上告人がこれに応じなかつた
ので、同年六月二一日到達の書面をもつて上告人に対し賃貸借契約を解除する旨の
意思表示をしたことを、それぞれ確定したうえ、右賃貸借契約は同日解除されたと
して、被上告人が土地所有権に基づき主文第一項の所有権移転登記完了と同時に上
告人に対して本件建物の収去を求める本訴請求を認容したものである。
 しかしながら、本件宅地の賃借人としてその賃借地上に登記ある建物を所有する
上告人は本件宅地の所有権の得喪につき利害関係を有する第三者であるから、民法
一七七条の規定上、被上告人としては上告人に対し本件宅地の所有権の移転につき
その登記を経由しなければこれを上告人に対抗することができず、したがつてまた、
賃貸人たる地位を主張することができないものと解するのが、相当である(大審院
昭和八年(オ)第六〇号同年五月九日判決・民集一二巻一一二三頁参照)。
 ところで、原判文によると、上告人が被上告人の本件宅地の所有権の取得を争つ
ていること、また、被上告人が本件宅地につき所有権移転登記を経由していないこ
とを自陳していることは、明らかである。それゆえ、被上告人は本件宅地につき所
有権移転登記を経由したうえではじめて、上告人に対し本件宅地の所有権者である
ことを対抗でき、また、本件宅地の賃貸人たる地位を主張し得ることとなるわけで
ある。したがつて、それ以前には、被上告人は右賃貸人として上告人に対し賃料不
払を理由として賃貸借契約を解除し、上告人の有する賃借権を消滅させる権利を有
しないことになる。そうすると、被上告人が本件宅地につき所有権移転登記を経由
しない以前に、本件宅地の賃貸人として上告人に対し賃料不払を理由として本件宅
地の賃貸借契約を解除する権利を有することを肯認した原判決の前示判断には法令
解釈の誤りがあり、この違法は原判決の結論に影響を与えることは、明らかである。
したがつて、この点に関する論旨は理由があるから、その余の論旨について判断を
示すまでもなく、原判決中本判決主文第一項掲記の部分は破棄を免れない。そして、
右部分につきなお審理の必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。
 よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁
判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    高   辻   正   己

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