弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の請求を棄却する。
     訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人増井和男、同鈴木健太、同河村吉晃、同佐村浩之、同石川利夫、同寳
金敏明、同古江頼隆、同野崎守、同比佐和枝、同小野寺毅男、同村田英雄、同兵谷
芳康、同斎藤秀生の上告理由第一点及び上告参加代理人梶谷剛、同菅田文明、同田
島優子、同岡正晶、同武田裕二の上告理由第一点ないし第三点について
 一 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 平成四年七月二六日に行われた参議院(比例代表選出)議員の選挙(以下「
本件選挙」という。)に当たり、日本新党は、公職選挙法(平成六年法律第二号に
よる改正前のもの。以下「法」という。)八六条の二第一項に基づき、一六人の候
補者の氏名及び当選人となるべき順位を記載した名簿を選挙長に届け出た(以下、
右名簿を「本件届出名簿」という。)。本件届出名簿の登載順位は、第一位がD、
第二位がE、第三位がF、第四位がG、第五位がB1(被上告人。認定された通称
はB2)、第六位がH、第七位がC(参加人。認定された通称はI)であった(第
八位以下は省略)。本件選挙の結果、日本新党の候補者は第四順位までが当選とな
り、第五順位の被上告人は次点となった。
 2 日本新党は、平成五年六月二三日、選挙長に対し、文書で、被上告人が除名
により日本新党に所属する者でなくなった旨の届出(以下「本件除名届」という。)
をした。この届出書には、法の規定するところに従い、当該除名の手続を記載した
文書及び当該除名が適正に行われたことを日本新党の代表者Dが誓う旨の宣誓書が
添えられていた。
 3 D及びEが同年七月五日公示の衆議院議員総選挙に立候補する旨の届出をし
たので、参議院議長は、同日、内閣総理大臣に対し、参議院議員の欠員が生じた旨
の通知をした。これを受けて、選挙長は、同月一五日に選挙会を開き、選挙会は、
本件届出名簿のうちから、第六順位のH及び第七順位の参加人Cの両名を当選人と
定め(以下、参加人Cについての決定を「本件当選人決定」という。)、上告人は、
同月一六日にその告示をした。
 二 原審は、右事実関係の下において、次のとおり判示して、本件当選人決定を
無効とした。
 1 本件除名届については、日本新党から法定の文書が提出されているから、本
件除名届の受理に当たって選挙長のした審査に義務違反があったとはいえず、また、
選挙会のした本件当選人決定に係る判断それ自体に過誤があったとはいえない。
 2 しかし、当選訴訟の趣旨、目的が、選挙会の審査と罰則のみによっては必ず
しも達成されない選挙秩序の実質的な維持、実現を図ることにあることを考慮する
と、選挙会の判断それ自体には過誤がなくても、その判断の前提ないしは基礎を成
し、かつ、当該選挙の基本的秩序を構成している事項が法律上欠如していると認め
られ、したがって、選挙会の当選人の決定の効力がその存立の基礎を失い、無効と
認めるべき場合には、当選訴訟において当該当選を無効とすべきである。
 3 参議院(比例代表選出)議員の選挙における政党等による名簿登載者の選定
は、いわゆる拘束名簿式比例代表制による選挙機構の必要不可欠で最も重要な一部
を構成しているものであって、当選人決定の実質的な要件を成している。したがっ
て、政党等による名簿登載者の除名が不存在又は無効である場合には、有効な除名
が存在することを前提としてされた繰上補充による当選人の決定は、その存立の基
礎を失い、無効に帰するものと解すべきである。
 4 政党によるその所属員の除名について、その政党の規則、綱領等の自治規範
において、除名要件に該当する事実の事前告知、除名対象者からの意見聴取、反論
又は反対証拠を提出する機会の付与等の民主的かつ公正な適正手続が定められてお
らず、かつ、除名がこのような手続に従わないでされた場合には、当該除名は公序
良俗に反し無効であると解すべきである。前記の日本新党による被上告人の除名は、
日本新党の自治規範である党則の規定に除名について民主的かつ公正な適正手続が
定められておらず、かつ、民主的かつ公正な適正手続に従ってされたものではない
と認められるから、無効である。したがって、これが有効であることを前提として
された本件当選人決定は、その存立の基礎を失い、無効に帰するものというべきで
ある。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
 1 参議院(比例代表選出)議員の選挙においては、各政党等のあらかじめ届け
出た名簿の登載順位によって当選人を決定するいわゆる拘束名簿式比例代表制が採
られており、選挙後に参議院(比例代表選出)議員の欠員が生じた場合に、当該議
員の名簿に係る登載者で当選人とならなかったものがあるときは、選挙会を開き、
その者の中から、名簿の順位に従い、繰上補充により当選人を定めることとし(法
一一二条二項)、繰上補充に際しては、名簿登載者で当選人とならなかったものに
つき除名により当該名簿届出政党等に所属する者でなくなった旨の届出が、文書で、
欠員が生じた日の前日までに選挙長にされているときは、これを当選人と定めるこ
とができないこととし(同条四項、法九八条二項前段)、この除名届出書には、当
該除名の手続を記載した文書及び当該除名が適正に行われたことを代表者が誓う旨
の宣誓書を添えなければならないこととしている(法一一二条四項、九八条三項、
八六条の二第六項)。
 このように、法は、選挙会が名簿届出政党等による除名を理由として名簿登載者
を当選人となり得るものから除外するための要件として、前記の除名届出書、除名
手続書及び宣誓書が提出されることだけを要求しており、それ以外には何らの要件
をも設けていない。したがって、選挙会が当選人を定めるに当たって当該除名の存
否ないし効力を審査することは予定されておらず、法は、たとい客観的には当該除
名が不存在又は無効であったとしても、名簿届出政党等による除名届に従って当選
人を定めるべきこととしているのである。そして、法は、届出に係る除名が適正に
行われることを担保するために、前記宣誓書において代表者が虚偽の誓いをしたと
きはこれに刑罰を科し(法二三八条の二)、これによって刑に処せられた代表者が
当選人であるときはその当選を無効とすることとしている(法二五一条)。
 2 法が名簿届出政党等による名簿登載者の除名について選挙長ないし選挙会の
審査の対象を形式的な事項にとどめているのは、政党等の政治結社の内部的自律権
をできるだけ尊重すべきものとしたことによるものであると解される。
 すなわち、参議院(比例代表選出)議員の選挙について政党本位の選挙制度であ
る拘束名簿式比例代表制を採用したのは、議会制民主主義の下における政党の役割
を重視したことによるものである。そして、政党等の政治結社は、政治上の信条、
意見等を共通にする者が任意に結成するものであって、その成員である党員等に対
して政治的忠誠を要求したり、一定の統制を施すなどの自治権能を有するものであ
るから、各人に対して、政党等を結成し、又は政党等に加入し、若しくはそれから
脱退する自由を保障するとともに、政党等に対しては、高度の自主性と自律性を与
えて自主的に組織運営をすることのできる自由を保障しなければならないのであっ
て、このような政党等の結社としての自主性にかんがみると、政党等が組織内の自
律的運営として党員等に対してした除名その他の処分の当否については、原則とし
て政党等による自律的な解決にゆだねられているものと解される(最高裁昭和六〇
年(オ)第四号同六三年一二月二〇日第三小法廷判決・裁判集民事一五五号四〇五
頁参照)。そうであるのに、政党等から名簿登載者の除名届が提出されているにも
かかわらず、選挙長ないし選挙会が当該除名が有効に存在しているかどうかを審査
すべきものとするならば、必然的に、政党等による組織内の自律的運営に属する事
項について、その政党等の意思に反して行政権が介入することにならざるを得ない
のであって、政党等に対し高度の自主性と自律性を与えて自主的に組織運営をする
ことのできる自由を保障しなければならないという前記の要請に反する事態を招来
することになり、相当ではないといわなければならない。名簿登載者の除名届に関
する法の規定は、このような趣旨によるものであると考えられる。
 3 参議院議員等の選挙の当選の効力に関するいわゆる当選訴訟(法二〇八条)
は、選挙会等による当選人決定の適否を審理し、これが違法である場合に当該当選
人決定を無効とするものであるから、当選人に当選人となる資格がなかったとして
その当選が無効とされるのは、選挙会等の当選人決定の判断に法の諸規定に照らし
て誤りがあった場合に限られる。選挙会等の判断に誤りがないにもかかわらず、当
選訴訟において裁判所がその他の事由を原因として当選を無効とすることは、実定
法上の根拠がないのに裁判所が独自の当選無効事由を設定することにほかならず、
法の予定するところではないといわなければならない。このことは、名簿届出政党
等から名簿登載者の除名届が提出されている場合における繰上補充による当選人の
決定についても、別異に解すべき理由はない。右2に述べた政党等の内部的自律権
をできるだけ尊重すべきものとした立法の趣旨にかんがみれば、当選訴訟において、
名簿届出政党等から名簿登載者の除名届が提出されているのに、その除名の存否な
いし効力という政党等の内部的自律権に属する事項を審理の対象とすることは、か
えって、右立法の趣旨に反することが明らかである。
 したがって、名簿届出政党等による名簿登載者の除名が不存在又は無効であるこ
とは、除名届が適法にされている限り、当選訴訟における当選無効の原因とはなら
ないものというべきである。
 4 前記の事実関係によれば日本新党による本件除名届は法の規定するところに
従ってされているというのであるから、日本新党による被上告人の除名が無効であ
るかどうかを論ずるまでもなく、本件当選人決定を無効とする余地はないものとい
うべきである。
 以上と異なる判断の下に本件当選人決定を無効とした原判決には法令の解釈適用
を誤った違法があり、この違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免
れない。そして、前記説示に照らせば、被上告人の請求を棄却すべきである。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、九六条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    三   好       達
            裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    遠   藤   光   男

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