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○ 主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告ら
被告が原告らの被相続人亡Aの昭和三八年分所得税について昭和四二年二月一〇日
付でした、総所得金額を金二〇、九二二、二〇六円とする更正処分のうち金一四、
〇九三、二八〇円を超える部分ならびに重加算税賦課決定処分を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
(本案前)
原告らの本訴請求中、重加算税賦課決定処分の取消を求める部分につき訴を却下す
る。
(本案)
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告らの被相続人亡Aは、被告に対し、昭和三八年分所得税について、総所得
金額を金一三、二三五、九八〇円とする確定申告をし、その後これを、金一四、〇
九三、二八〇円とする修正申告をしたところ、被告は、昭和四二年二月一〇日付
で、右総所得金額を金二〇、九二二、二〇六円とする更正処分および重加算税を金
一、一三五、二〇〇円とする賦課決定処分をした。
2 Aはこれを不服として同年三月九日異議申立をし、同年四月二七日棄却された
ので、同年五月八日、大阪国税局長に対し、審査請求をしたところ、同局長は、昭
和四三年三月七日これを棄却する旨の裁決をし、この裁決書は、同月一八日、Aに
送達された。
3 しかしながらAの昭和三八年分の総所得金額は修正申告どおりであるから、被
告のした本件更正処分はAの所得を過大に認定した違法があり、これに付随してな
された本件重加算税賦課決定処分も違法である。
二 請求原因に対する被告の答弁
請求原因1、2の事実を認め、3の主張を争う。
三 被告の主張
(本案前)
原告らの本訴請求中、重加算税賦課決定処分の取消を求める部分は、昭和四八年七
月四日に追加請求されたもので、すでに行政事件訴訟法一四条一項に定められた出
訴期間を経過していることが明らかであるから、右部分についての訴は却下される
べきである。
(本案)
(総所得金額について)
1 Aの昭和三八年分総所得金額は、別表一のとおり金二三、九七一、六五二円で
あり、この範囲内でなされた本件更正処分に違法はない。
2 譲渡所得金額について
Aの昭和三八年分の譲渡所得金額の計算の基礎となる譲渡資産の譲渡価額、買換資
産の取得価額、譲渡に関する経費、特別控除額は次のとおりである。(一) 譲渡
資産の譲渡価額四九、〇〇〇、〇〇〇円
右金額は、Aが紀州醸造株式会社に対し、昭和三八年七月八日、大阪市<以下略>
宅地一四四坪五合一勺および同市<以下略>宅地四二坪七合一勺(以下これらを本
件譲渡資産という)を売り渡した真実の価額であるところ、Aは、右売買による収
入金額を一部隠ぺいするため、右売買価額を金三五、〇〇〇、〇〇〇円とする内容
虚偽の売買契約書を作成したうえ、右虚偽価額を売買価額とする修正申告書を被告
宛に提出したのである。
(二) 買換資産の取得価額四、四七八、二九六円
(1) Aは、事業用資産(本件譲渡資産)の買換資産として、Bから昭和三九年
二月一〇日守口市<以下略>宅地九七坪、同所<以下略>宅地一五五坪および同所
<以下略>宅地一五五坪(以下これらを守口市の土地という)を価額四、四七八、
二九六円で取得し、これを買換資産として申告した。
(2) なおAは、租税特別措置法(昭三八年法六五号改正によるもの。以下措置
法という)の適用を受けるため、被告に対して提出した計算明細書において、守口
市の土地の外、嵯峨電化住宅合資会社から取得した尼崎市<以下略>宅地一八坪六
合六勺、同所<以下略>宅地一二坪六合二勺および同地上の木造瓦葺二階建家屋一
九坪一勺(以下これらを尼崎市の物件という)、およびCから取得した枚方市<以
下略>宅地一二二坪二合五勺および同地上家屋二二坪七合四勺(以下これらを枚方
市の物件という)を措置法三五条に該当するものとして、尼崎市の物件の取得価額
二、二〇〇、〇〇〇円および枚方市の物件の取得価額四、一四六、九五〇円を本件
譲渡資産の価額から控除して計算しているが、それぞれ次の理由によつて措置法三
五条に該当せず、その計算は、認められない。
(イ) 尼崎市の物件は、Aの長男である原告Dが居住の用に供しており、また同
原告は、Aと生計を一にする扶養親族でもない。従つて右物件はAの居住用財産と
は認められない。
(ロ) また枚方市の物件は、Aの提出した計算明細書では、土地および家屋を昭
和三九年一月三〇日に取得したと記載されているが、事実は、右物件のうち、土地
のみを昭和三五年一一月二九日Cから譲り受け、家屋はAが建築して、昭和三六年
七月よりAおよびその家族が居住しているものである。
(三) 本件譲渡資産の取得価額一、五四〇、三三八円および譲渡に関する経費金
二、七七四、六五二円
右各金額はともにAの申告額をそのまま認めたものである。
(四) 特別控除額金一五〇、〇〇〇円
右金額は、旧所得税法(昭和四〇年三月三一日法律第三三号による改正前のもの)
九条による譲渡所得等の特別控除額である。
なお、Aが提出した計算明細書では、居住用財産の特別控除額として金三五〇、〇
〇〇円を控除しているが、前記(二)(2)(ロ)のとおり、Aは、昭和三六年か
ら枚方市に居住しており生活の本拠を移しているから、本件譲渡資産地上の家屋は
居住用財産に該当せず、措置法三八条の二の適用はない。
以上の各金額にもとづき旧所得税法九条により総所得金額に算入されるべき譲渡所
得金額を算出すると、別表二被告主張額欄のとおり、金二〇、二二五、五五二円と
なる。
(本件重加算税の賦課決定処分について)
前記2(一)の事実は、Aが、課税標準または税額の計算の基礎となるべき事実の
一部を隠ぺいしまたは仮装し、その隠ぺいし仮装したところに基づいて納税申告書
を提出した場合として国税通則法六八条一項に該当する。そうすると重加算税額
は、別表三のとおり金一、一九六、一〇〇円となるから、この範囲内でなされた本
件重加算税賦課決定処分に違法はない。
四 被告の主張に対する原告らの答弁
(本案前)
Aが本件訴状により取消を求めたのは、本件更正処分のみではなく、本件重加算税
賦課決定処分も含まれていたと解すべきであり、昭和四八年七月四日に陳述された
請求の趣旨追加申立書は、訴状の趣旨の内容を明らかにしたものである。
(本案)
一 被告の主張1の別表一中、譲渡所得金額および総所得金額を争い、その余の金
額を認める。
二 同2の主張について
1 同2(一)の事実中、本件譲渡資産の譲渡価額の一部を隠ぺいした事実を否認
する。譲渡価額は、金三五、〇〇〇、〇〇〇円である。
2 同2(二)について
(一) 同2(二)、(1)の事実を認める。
(二) 同2(二)、(2)、(イ)について、尼崎市の物件は、Aの扶養家族で
ある原告Dの居住用に取得したものである。
同2(二)、(2)、(ロ)の事実中、Aが、枚方市の物件のうち、土地のみを昭
和三五年一一月二九日、Cから譲り受けたことを認め、その余の事実を否認する。
Aは昭和三六年当時は、脳軟化症であり、その養生のために臨時的に枚方市の物件
所在地へ居所を移したが、病気回復のうえは、本件譲渡資産所在地の従前の住所に
戻るつもりであつた。
(三) 同2(四)の主張を争う。Aは病勢が悪化し、回復の見込みが立たなくな
り、昭和三八年二月二三日、本件譲渡資産を紀州醸造株式会社に譲渡する際、本件
譲渡資産上に存した家屋を経済的価値がなかつたので、同社に無償で譲渡した。
(四) 被告は、譲渡所得金額を金二〇、二二五、五五二円と主張するが、本件更
正処分での認定額は、金一七、一七六、一〇六円であるから、本訴において、これ
を超える金額を主張することは認されない。
第三 証拠(省略)
○ 理由
(被告の本案前の主張について)
請求原因1、2の事実(本件各処分の経緯)は当事者間に争いがない。
被告は、本訴請求中、後に追加請求された重加算税賦課決定処分の取消を求める部
分については、出訴期間を経過しているから不適法であると主張する。
本件記録によれば、右重加算税賦課決定処分の取消を求める部分は、昭和四八年七
月四日の第一九回口頭弁論期日において申立てられたことが明らかであり、この新
請求についても独立に出訴期間の遵守を要求すれば、行政事件訴訟法一四条一項に
定める出訴期間を経過しているというほかない。しかし更正処分に付随して、重加
算税賦課決定処分がなされ、更正処分取消の訴の争点の一部が、重加算税賦課決定
処分取消の訴の争点と課税要件の点で一致するときは、前者は後者の前提となる関
係にあるから、同一訴訟内では、出訴期間の点に関して両処分を全く別個独立の処
分と考えるべきではなく、これを一体として考えるべきであり、更正処分取消の訴
に、後に重加算税賦課決定処分取消の訴が追加併合されたときは、両者に出訴期間
の遵守を要求する必要はなく、前者につき出訴期間が遵守されていれば足りると解
すべきである。これを本件についてみると、本件更正処分取消の訴と重加算税賦課
決定処分取消の訴とは争点が重要な部分で一致しており(譲渡資産の価額の点)ま
た、本件更正処分取消の訴が提起されたのが、昭和四三年四月一八日であることは
記録上明らかであり、これを当事者間に争いない請求原因2の事実に照らせば、出
訴期間の遵守されていることが明らかであるから、後に追加請求された本件重加算
税賦課決定処分の取消を求める部分については、出訴期間を問題にする必要がない
というべきである。したがつて被告の本案前の主張は採用できない。
(本案についての判断)
一 総所得金額について
1 被告の主張1の別表一中、譲渡所得金額および総所得金額を除きその余の金額
は当事者間に争いがない。
2 そこで以下譲渡所得金額の点につき検討を加える。
(一) 本件譲渡資産の譲渡金額
成立に争いのない乙第一六号証の三、第一七号証の二、三、および五、第二一号証
の一、二、銀行作成部分につき、成立に争いがなく、その余の部分は証人Eの証言
により真正に成立したと認められる甲第二号証の二、三、官公署作成部分につき成
立に争いがなく、その余の部分は証人Fの証言により真正に成立したと認められる
乙第一〇号証、第一三ないし第一五号証、第一八、第一九号証、証人Fの証言によ
り真正に成立したと認められる乙第一二号証の二ないし四、第一六号証の二、第一
六号証の四ないし八、第一七号証の四、第一七号証の六、証人Gの証言により真正
に成立したと認められる甲第一号証、乙第九号証(ただし、官公署作成部分につき
成立に争いがない)に証人F同Gの各証言を総合すると、Aは、昭和三八年二月二
三日、本件譲渡資産を、金四九、〇〇〇、〇〇〇円で九州醸造株式会社に売渡した
が、所得税の課税を少なくするため、右譲渡価額を金三五、〇〇〇、〇〇〇円と仮
装することを意図し、同社代表取締役Gに依頼して、売買契約書(甲第一号証)に
代金額を金三五、〇〇〇、〇〇〇円と記載したうえ、真実の代金額四九、〇〇〇、
〇〇〇円のうち、金三五、〇〇〇、〇〇〇円だけは小切手で受領し、金一四、〇〇
〇、〇〇〇円を現金で受領したこと、および右売買価額を金三五、〇〇〇、〇〇〇
円とする納税申告書を被告宛に提出したことが認められ、右認定に反する原本の存
在およびその成立につき争いのない乙第二〇号証、証人Gの証言によつて真正に成
立したと認められる甲第三号証の各記載内容、ならびに証人E、同Hの各証言は、
前掲各証拠に照して採用できない。
(二) 買換資産
(1) Aが、事業用資産(本件譲渡資産)の買換資産としてBから守口市の土地
を価額四、四七八、二九六円で取得し、これを買換資産として申告したことは当事
者間に争いがない。
(2) なお、Aが、措置法の適用を受けるため、被告に対して提出した計算明細
書において、右守口市の土地の外、嵯峨電化住宅合資会社から取得した尼崎市の物
件ならびにCから取得した枚方市の物件を措置法三五条に該当するものとして、尼
崎市の物件の取得価額を金二、二〇〇、〇〇〇円、枚方市の物件の取得価額を金
四、一四六、九五〇円とし、これらを本件譲渡資産の価額から控除して計算してい
ることは、被告において自認するところである。そこで右各物件が措置法三五条に
該当するのかどうかの点について検討を加える。
(イ) 成立に争いのない乙第二号証、第三号証の一、二および訴訟手続受継申立
書添付の戸籍謄本によれば、尼崎市の物件中、一四七番の三九の宅地には、Aの長
男である原告Dが居住しており、その当時、同原告は、Aと生計を一にする扶養親
族でなかつたことが認められるところであつて、この事実に次の(ロ)の認定事実
を併せ考えると、尼崎の物件をAの居住用財産と認めることはできない。
(ロ) 成立に争いのない乙第一号証(Aの提出した譲渡所得計算明細書)には、
枚方市の物件の取得年月日として昭和三九年一月三〇日と記載されていることが認
められる。しかしながら、右物件のうち、土地については、Aが昭和三五年一一月
二九日Cから譲り受けたことは当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない
乙第七、第八号証と証人Eの証言によれば、右物件のうち家屋については、Aが、
昭和三六年六月に新築し、同年七月二日以降は、従来から居住していた本件譲渡資
産所在地から右枚方市の物件所在地に移住し、ここを住所として住民登録をしたこ
とが認められる。
以上の事実によれば、尼崎市の物件および枚方市の物件はいずれも措置法三五条に
定める要件に該当しないことが明らかであるから、右各物件の取得価額を本件譲渡
資産の価額から控除して計算することはできない。
(三) 譲渡資産の取得価額および譲渡に関する経費
本件譲渡資産の取得価額が金一、五四〇、三三八円であり、譲渡に関する経費が金
二、七七四、六五二円であることについては原告らは明らかに争わない。
(四) 特別控除額
旧所得税法九条によれば、譲渡所得の特別控除額は金一五〇、〇〇〇円である。
なお、Aは、被告に対して提出した計算明細書において、居住用財産の特別控除額
として金三五〇、〇〇〇円を控除していることは、被告において自認するところで
ある。しかしながら、本件譲渡資産上の家屋が、Aの居住用の家屋でないことは、
右(二)(2)(ロ)の認定事実から明らかであり、また右家屋が居住用であつ
て、それが譲渡されたとしても、その価額が無償であることは原告らの自認すると
ころであるから、いずれにしても、右家屋につき措置法三八条の二の適用はないと
いわなければならない。
(五) 以上の各金額にもとづき旧所得税法九条により譲渡所得金額を算出する
と、別表二の被告主張額欄のとおり金二〇、二二五、五五二円となる。
(六) 原告らは、被告が本件訴訟で、本件更正処分で認定された譲渡所得金額を
超える金額を主張することができないと主張するが、更正処分取消訴訟で処分の実
体的違法が争われているときにおいて、審判の対象となるのは租税債務の存否いか
んであり、所得認定のための資料は、更正当時判明していた事実であると否とを問
わず、時機に遅れたものでない限り主張することが許されるから、原告らの右主張
は失当である。
3 右1、2の事実によれば、Aの昭和三八年分の総所得金額は別表一のとおり金
二三、九七一、六五二円となるから、この範囲内でなされた本件更正処分に違法は
ない。
二 本件重加算税賦課決定処分について。
前認定の一、2、(一)の事実が国税通則法六八条一項に該当することは明らかで
ある。そうすると重加算税額は、別表三(同表(7)、(10)、(11)、の各
金額は被告の自認するところである)のとおり金一、一九六、一〇〇円となるか
ら、この範囲内でなされた本件重加算税賦課決定処分に違法はない。
三 そうすると被告のなした本件各処分は適法であり、原告らの被告に対する請求
は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用
して主文のとおり判決する。
(裁判官 下出義明 藤井正雄 石井彦寿)
(別紙)
<略>

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