弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人久保木亮介の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,所論引用の判例は所
論のような趣旨を判示したものではないから,前提を欠き,その余は,憲法違反を
いう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条
の上告理由に当たらない。
 なお,所論にかんがみ,職権により判断する。
 1 原判決の認定及び記録によると,以下の事実関係が認められる。
 (1) 被告人は,パキスタン・イスラム共和国の国籍を有する外国人で,平成2
年5月26日,短期滞在の在留資格により在留期間を同年8月24日までとして本
邦に入国した後,同年7月30日に日本人女性と婚姻して在留資格を日本人の配偶
者等に変更し,その後5回にわたり在留期間の更新を重ね,その在留期間は平成8
年8月7日までとなっていた。
 (2) 被告人は,東京都杉並区所在のアパートを居住地として外国人登録を行っ
ていたが,上記日本人女性との夫婦関係が悪化し,同女は平成6年秋以降,上記ア
パートを出て所在不明となり,被告人は,同女と連絡を取れないまま,平成8年6
月ころには,東京都港区所在のアパートに転居したが,外国人登録の居住地の変更
をしなかった。
 (3) 被告人は,平成8年8月7日,日本人の配偶者等としての在留期間更新の
申請をし,その申請書に,希望する在留期間として3年,在日家族として妻である
上記日本人女性,同人との同居の事実はある旨,居住地として上記杉並区内のアパ
ート,在日身元保証人として妻とは別の日本人女性の氏名を記載して,東京入国管
理局に提出した。なお,その際,被告人は,東京入国管理局から被告人に対する連
絡用のはがきには,上記港区内のアパートをあて先として記載したものも提出した。
 (4) 東京入国管理局は,申請内容に不審を抱いたことから,許否の審査のため
,被告人に対し,妻と一緒に出頭することを求める通知書等を郵送するなどしたと
ころ,申請上の居住地あてに発出された通知はいずれも転居先不明で返送されたほ
か,被告人が連絡用はがきに記載した港区内のアパートあてに発出した通知につい
ては被告人が受領したものの,被告人は,妻との出頭,要請された説明資料の提出
等を行わず,平成9年4月25日,東京入国管理局に電話して係官とやり取りした
のを最後に,東京入国管理局との連絡を絶った。
 (5) 東京入国管理局は,平成11年5月31日,法務大臣名で被告人の上記在
留期間更新の申請を不許可とする決定をし,同日付けの不許可通知書を同年6月3
日申請居住地あてに簡易書留で郵送したが,あて先不明で返送され,被告人には,
この通知は到達しなかった。
 (6) 被告人は,平成14年5月8日,不法残留罪で現行犯逮捕され,上記在留
期間更新不許可の通知が被告人に発送された平成11年6月3日ころ以降も本邦か
ら出国せず,上記逮捕の前日まで東京都内等に居住し,不法残留したものとして起
訴された。
 2 【要旨】以上の事実関係によれば,被告人は,在留期間内に在留期間更新の
申請をし,不許可の通知を受け取っていないものであるが,在留期間の更新又は変
更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留した以上,出入国管理及び難民認定
法(平成16年法律第73号による改正前のもの)70条1項5号の不法残留罪に
当たることは明らかである。そして,被告人は,上記申請に当たり,居住地や日本
人の配偶者等としての在留資格の基礎に係る妻との同居の事実について虚偽の申出
をしたほか,上記申請の審査のために入国管理局が求めた出頭要請等にも誠実に対
応していないから,これまで5回に及ぶ在留期間の更新がいずれも許可されてきた
ことなどを考慮しても,被告人の残留について,違法性が阻却されるものというこ
とはできない。したがって,被告人については,在留期間更新の申請が不許可とさ
れるのに先立って,既に不法残留罪が成立しているのであり,不許可の通知が被告
人に到達したか否かや同申請が不許可となったことについての被告人の認識の有無
がこれを左右するものではない。
 以上によれば,本件訴追に係る上記不許可通知が発送された日ころ以降の残留に
ついて不法残留罪の成立を認めた原判断は,正当である。
 3 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見
で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 中川了滋 裁判官 福田 博 裁判官 滝井繁男 裁判官 津野
 修 裁判官 今井 功)

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