弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人坂本寿郎の上告理由について。
 原審の認定した事実によると、上告人は、その所有の未登記建物である本件建物
が固定資産課税台帳に上告人の夫Dの所有名義で登録されていたのを知りながら、
長年これを黙認していたところ、被上告人は右所有名義により本件建物がDの所有
に属するものと信じて、Dに対する債権に基づきこれを差し押えたというのであり、
右事実の認定は原判決挙示の証拠に照らし、首肯することができる。
 ところで、未登記建物の所有者が旧家屋台帳法(昭和二二年法律第三一号)によ
る家屋台帳にその建物が他人の所有名義で登録されていることを知りながら、これ
を明示または黙示に承認していた場合には、民法九四条二項の類推適用により、所
有者は、右台帳上の名義人から権利の設定を受けた善意の第三者に対し、右名義人
が所有権を有しないことをもつて対抗することができないと解すべきことは、当裁
判所の判例とするところである(最高裁昭和四二年(オ)第一二〇九、一二一〇号
同四五年四月一六日第一小法廷判決・民集二四巻四号二六六頁)。そして固定資産
課税台帳は、本来課税のために作成されるものではあるが、未登記建物についての
同台帳上の所有名義は、建物の所有権帰属の外形を表示するものとなつているので
あるから、この外形を信頼した善意の第三者は右と同様の法理によつて保護される
べきものと解するのが相当である。
 そうすると、前記事実関係のもとにおいては、上告人は本件建物の所有権がDに
ないことをもつて被上告人に対抗することはできないものというべきであり、これ
と結論を同じくする原審の判断は正当として是認することができる。
 なお、論旨第一点において上告人が主張するように、建物につき固定資産課税台
帳が作成されていても、そのことから必ずしも右建物に表示の登記がすでになされ
ているとはいえないから、同台帳の作成されていることのみによつて本件建物に表
示の登記がなされていたとする原審の事実の認定は首肯することはできないが、前
述のように、固定資産課税台帳上の所有名義を信頼したことによつて善意の第三者
は保護されるものと解すべきであるから、本件建物に表示の登記がなされていなか
つたとしても、右結論に変わりはない。
 以上のとおりであつて、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下   田   武   三
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫

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