弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を高松高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人埴渕可雄の上告理由第一点および第二点について。
 原判決は、上告人所有の本件農地について、被上告人のために、抵当権設定契約
を登記原因とする抵当権設定登記および条件付売買契約を登記原因とする条件付所
有権移転仮登記がされているが、右各契約は、二上告人が、訴外Dに対し、Dの国
民金融公庫からの借入金について、借替の手続をするについて、あらためて連帯保
証をすることを承諾し、その権限を与えたところ、Dが右代理権限を踰越して、上
告人の代理人としてDの被上告人に対する借受金債務を担保するため締結したもの
であり、右各契約締結に際し、被上告人は、(1)Dが所持し被上告人に提示した金
銭消費貸借並びに抵当権設定証書、本件農地についての農地法三条一項による許可
申請書および前記各登記手続のための委任状には、いずれも上告人の実印が押捺さ
れており、しかも右委任状には上告人みずからが役場から交付を受けてきてDに手
交した印鑑証明書が添付されていたこと、(2)本件登記手続の申請は、いわゆる保
証書によるもので、所轄登記所の登記官から登記義務者である上告人に対し、右登
記申請があつた旨の通知が郵便によつてなされたところ、その翌日、右登記申請が
間違いない旨の記載と上告人の印章による印影のある右通知書をDが持参し、これ
によつて登記がなされたこと、(3)上告人は、Dの母親と従姉妹の関係にあり、親
しい間柄であつて、他からの借入金についてもしばしば保証をしてもらつており、
本件借入金についても、本件農地を担保に提供することを承諾してくれているとD
が申向けたこと等の事情から、Dが代理権を有するものと信じて前記各契約を締結
し、金員を貸与した事実を認定し、これらの事実関係からすれば、被上告人がDに
右契約締結の代理権限ありと信じたことにつき正当の理由があると認定するのが相
当であり、被上告人が金融業を営むものであること、本件登記手続をするに際して
Dが登記済証を所持していなかつたこと、さらに、被上告人が上告人に対して照会
しその真意を確かめようとしなかつたことなどは、いずれも右認定を妨げるにたり
ない旨判断している。
 しかし、原判決が確定したところによると、被上告人は金融業者であり、本件契
約(抵当権設定契約および条件付売買契約)は、被上告人に対する本件農地の所有
者である上告人自身の借受金債務を担保するためでなく、Dの借受金債務を担保す
るためになされたものであり、かつ、Dは本件契約については本件農地の登記済権
利証を示したことはなかつたというのであり、さらに、原判決が証拠として挙示す
る被上告人の第一審における本人尋問の結果中には、被上告人は上告人の遠縁にあ
たり、道で会えば挨拶をする旨の供述があり、右供述によつて、そのような縁故関
係が認められるとすれば、これらの事実から、被上告人としては、直接担保提供者
である上告人に対しDの代理権限の有無を確めるべきであり、また確め得たものと
推測されるのであるから、被上告人がこれを怠り、Dに上告人を代理して本件契約
を締結する権限があると信じたとしても、そのように信じたことに過失がなかつた
とはいえない。
 しかるに、原審は、被上告人がDの代理権限の有無を確めることができなかつた
事情が存したか否かについて審理判断することなく、原審が認定するような事実関
係が存する以上、被上告人が直接上告人に対しDの代理権限の有無を確めるまでも
なく、その権限ありと信すべき正当の理由があると認定するのが相当であるとして、
被上告人の表見代理の主張を採用しているのであつて、原審の右判断は、民法第一
一〇条の表見代理に関する正当の理由の解釈を誤つたものというべきである。
 よつて、この点に関する論旨は理由があるので、原判決を破棄し、右正当の理由
の存否についてさらに審理させるため本件を原審に差し戻すべきものとし、民訴法
四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   川   信   雄
            裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    吉   田       豊

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