弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、被上告人福岡税務署長が上告人の昭和四〇年分所得税につい
て同四一年九月二六日付でした更正及び過少申告加算税賦課決定の取消請求に関す
る部分を破棄し、右部分につき本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
     上告人の被上告人福岡税務署長に対するその余の上告及び被上告人福岡
国税局長に対する上告をいずれも却下する。
     前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人古原進の上告理由について
 所得税法五六条によれば、納税義務者と生計を一にする親族が納税義務者の営む
事業に従事したこと等により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価
に相当する金額は納税義務者の事業所得等の金額の計算上必要経費に算入しないも
のと定められているところ、原判決は、(一)上告人は、印刷業を営む者であつて、
その長男D及び次男E(以下「Dら」という。)を右事業に従事させているが、昭
和三九年までの所得税の申告にあたつては、Dらをいわゆる事業専従者として申告
し、専従者控除を受けていたこと、(二)上告人は、昭和四〇年中にDらに支給した
本件係争の雇人費につきDらから源泉徴収所得税を徴収しておらず、Dらも同年の
所得を課税対象とする市民税や県民税を納付していないこと、(三)右雇人費の支給
は、毎月の支給金額及び支給日が一定せず、通常の給与体系とは異なるものであつ
たこと、(四)Dらは、専ら上告人の事業に従事し、その事業から生ずる収入のみに
よつて生計を維持していたこと、を認定したうえ、以上の事実によれば、Dらは、
昭和四〇年当時上告人から生活費の支給を受けていた者であつて、上告人と生計を
一にする親族にあたるというべきであるから、同年中の右支給額を上告人の事業所
得の金額の計算上必要経費に算入することはできない、と判断している。
 しかしながら、原審の認定するように、Dらはいずれも当時既に結婚して上告人
と別居していた者であり、また、上告人の事業が親子だけによる小規模な個人企業
であることを考えると、右(一)ないし(四)の事実のみから直ちに、係争の雇人費が
Dらにおいて上告人の事業に従事したことの対価であることを否定し、家族間の扶
養の一態様として支給された生活費にすぎないとみることは、社会通念に照らし当
を得たものとはいいがたい。そして、原判決挙示の証拠によれば、Dらは、毎月支
給を受ける右金員のうちから自らの責任と計算でそれぞれの家賃や食費その他の日
常の生活費を支出し、時に上告人から若干の援助を受けることがあつたものの、基
本的には独立の世帯としての生計を営んでいたことがうかがわれるのであり、右生
計の源泉が専ら上告人の事業にあつたからといつて、上告人と有無相扶けて日常生
活の資を共通にしていたものと認めるには足りない。してみると、前記の事実を確
定したのみでDらと上告人とが生計を一にする関係にあつたと判断し、上告人の本
訴請求中破上告人福岡税務署長に対して本件更正及び過少申告加算税賦課決定の取
消を求める部分を失当とした原判決は、ひつきよう、所得税法五六条の規定の解釈
適用を誤り、ひいて理由不備の違法を犯したものというほかなく、その違法をいう
論旨は理由がある。
 なお、上告人は、原判決中被上告人福岡税務署長に対するその余の請求及び被上
告人福岡国税局長に対する請求に関する部分については、上告の理由を記載した書
面を提出しない。
 よつて、原判決中被上告人福岡税務署長に対する本件更正及び過少申告加算税賦
課決定の取消請求に関する部分を破棄し、更に審理させるため、右部分につき本件
を原審に差し戻し、同被上告人に対するその余の上告及び被上告人福岡国税局長に
対する上告をいずれも却下することとし、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条、
三九九条の三、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫

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