弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金壱万円に処する。
     右罰金を完納することができないときは、金弐百五十円を一日に換算し
た期間、被告人を労役場に留置する。
     原審及び当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人佐藤邦雄の陳述した控訴趣意は、記録に編綴の同弁護人名義の控訴趣意書
の記載と同じであるから、これを引用する。
 控訴趣意第一点及び第二点について。
 論旨は、要するに、原判決が被告人の運転する貨物自動車が原判示丁字路を左折
せんとして同方向に進行中のA乗車の自転車に突当り、同人を路上に転倒させてそ
の自動車後車輪で同人を轢いたと認定しているのは誤りで、被告人の運転する貨物
自動車は被害者Aの乗る自転車に接触しないだけの十分の距離をおいて進行中被告
人の視界外で被害者自身の過失により右側に転倒したところをそのことを知らずし
て丁字路を左折した被告人の貨物自動車の後車輪が同人を轢いたものであるから、
被告人に過失ありとすることはできないというにある。
 成程、原判決挙示の証拠中被告人の操縦する貨物自動車が被害者Aの乗つていた
自転車に突当つたと認むべき証拠としては、被告人の司法警察員に対する供述調書
中「事故を起こして停車する直前にトラックの左後方で何かトラックに当つたよう
な音が『ガタン』としたので、自転車でもぶつつかつたのではないかと真感した」
旨(記録一五五丁裏)、検察官に対する第一回供述調書中「その自転車を追越した
際、左側の方で何か自転車でも倒れたような『ガチャ』という音をたてた」旨(一
六三丁表)、「それがため車体の左側が自転車のいずれかに当つたか、さもなけれ
ば車のアフリを負わせるかして、その人の自転車進行の自由を失わせて倒し、後車
輪で轢いたものと思う」旨(一六四丁表裏)の各供述があるが、これだけを以て
は、他の証拠に照し、直ちに貨物自動車が自転車に突当つたものとは認め難い。却
つて、記録及び当審における事実取調の結果に徴すれば、若し貨物自動車が自転車
に突当つたとすれば、両方の車体が損傷している筈であるのに、貨物自動車の車体
には何等の損傷なく(司法警察員作成の実況見分調書、一三丁裏)、ただ後部左側
車輪タイヤに新しい擦過状の損傷があつた(当審証人Bの証言、及び記録二〇丁表
写真)だけで、自転車(証第一号)は荷台後部がM型に凹んだ如くなつており、後
車輪泥除けの尾燈が落ちていた(同証人の証言及び一五丁表)ことは認められる
が、その荷台後部のM型状の凹みが本件事故のため生じたものとしても、当審にお
ける検証の結果に照し、それが進行している自転車の右荷台後部に貨物自動車の車
体のいずれかの部分が突当つて生じたものとは到底考えられない。貨物自動車の車
体が進行している自転車搭乗者Aの身体に僅かに触れた如き場合には、貨物自動車
の車体にも自転車の車体にも損傷を生ぜず、かつ貨物自動車の乗員がその接触に気
付かないこともあり得ることは考えられるところであるけれども、貨物自動車に乗
つていた同自動車持主C及び助手Dの原審における各証言によれば、車体にシヨッ
クを感じたが、それはコトンと音がしたとか、デクンとなり何か高いところに後車
輪が上つたようなシヨックの感じであつて、突当つたシヨックではなかつたとかい
うのである(九八丁表、三八丁裏)、なお、原審及び当審証人Eの証言によれば、
自転車は被害者の倒れていた所から一間位(一二二丁裏)ないし一間半位(当審証
言)先に倒れてあつたというのであるが、右証言部分は、当審証人Bの証言その他
に照し、何かの記憶違いとみられ措信し難いのみでなく、同証人の証言は、トラッ
クが自転車を追越す瞬間自転車が捲き込まれるようになつて倒れたようで、それは
トラツクの何処かが接触したためと思われるけれども、触れたとしてもほんの少し
でトラックの方は気付かなかつたかも知れないが、むしろ自転車が曲り角の水溜り
の窪みの所をよけてトラックの方へ少し近づいて触れたのではないかと思うという
のであるから、貨物自動車が自転車に突当つたために自転車が被害者の倒れた所か
ら一間余も先にあつたという趣旨でないことが明かである。右の次第で、原判決が
前記の如く被告人の運転する貨物自動車が原判示の如く同方向に進行中のA乗車の
自転車に突当り同人を路上に転倒させたと認定したのは事実を誤認したものという
べきである。
 しかし、法律が自動車運転者の如き危険業務に服する者に対して要求する注意義
務は通常人に比して大でなければならないから、苟も危害を発生する虞のある場合
には常にこれが予防につき多大の注意を払わなければならない。従つて、交通頻繁
な丁字路において前行する自転車を追越さんとする貨物自動車の運転者は、警笛を
鳴らして自転車搭乗者を警告し以てその搭乗者自身に危険を生すべき行為をなさな
いように注意すべきに止らず、同搭乗者をして交通上の危険を生ぜしめないように
する責務あること当然である。そして、自転車に乗つて進行する場合機械の運行廻
転する時の如く正確な標準に基いてその運動を律することはできないから、貨物自
動車が自転車を追越す場合においては、両者の間隔が数学的にみれば多少の余地あ
るときでもなお相接触等すベき危険のあることを予期しみければならない場合のあ
ることは理の当然である(大審院昭和一三年(れ)<要旨>第一一一〇号・昭・一
三・一一・一七言渡判決参照)。まして、貨物自動車が曲り角をカーブする場合て
は前車輪より後車輪が一層カーブ内側に近い所を通過するものであり、また
貨物自動車が自転車に余りに近接して追越す場合には、数学的にいえば必ずしも衝
突ないし接触するほど接近していなくとも、自転車搭乗者が狼狽等の心理的動揺を
起して操縦を誤り、或いは衝突ないし接触を惹起し、或いは転倒し、ために人の死
傷を惹起することのあることは経験則上明かなことで、殊に、その場所の道路に窪
地等の障碍物ないしは自転車の通行困難な個所があり、追越しの際自転車は貨物自
動車とその個所との中間を進行することになる場合には、右の如き事故発生の危険
は一層大であるといわねばならない。従つて、貨物自動車の運転者は右の如き場所
で自転車を追越すには、自動車と自転車又はその搭乗者とが衝突ないし接触するこ
となく、かつ自転車搭乗者をして右のような原因で操縦を誤らしめることがない程
十分な間隔を保持して進行すべく、若しその場の状況上そのような間隔を保持して
進行することができないときは、追越し終るまで、即ち貨物自動車の車体の後端が
完全に自転車の前端の前方に出るまでの間、終始助手をして自転車の状況を注視せ
しめ、かつ必要に応じて随時停車し得る如く用意しつつ進行する等事故の発生を未
然に防止すべき業務上の注意義務のあることは条理上当然である。そして、若し右
の如き危険の発生すべき状況の存在するに拘らずこれに留意しないで貨物自動車を
進行せしめ傷害の結果を発生せしめたときは、自転車搭乗若の過失の有無はさて措
き、貨物自動車の運転者は職務上為すべ誉注意義務を怠つたことによつて、認識し
得べくしかも認識することを要した結果の発生を認識しなかつたために、避けるこ
とのできた結果を発生せしめた者であるから、その行為は過失犯を以て論ずべきこ
とは疑を容れない(大審院大正三年(れ)第五四九号・大・三・四・二四言渡判決
参照)。
 ところで、本件において、被告人の操縦した貨物自動車は原判示丁字路の左側曲
り角を左折する際、その曲り角の後記直径一米位の水溜りの窪地の少し手前で同道
路左側を同方向に進行中の被害者Aの搭乗する自転車を追越したものであることは
明確であり(五〇丁表、七六丁表裏、九七丁表、一一九丁表、一六四丁表及び当審
検証調書)、右丁字路左側曲り角附近に非舗装部分から舗装部分にかけて直径一米
位深さ五寸位の水溜りの窪地があつて(司法警察員作成の実況見分調書及び当審検
証調書)、該自転車が右水溜りの窪地と貨物自動車との間に挾まるべき進路に向つ
て舗装部分左端を進行しつつあることを被告人において予め認識していたものであ
ることはこれを肯認するに十分である(一六二丁裏、一六四丁表、五一丁裏、三七
丁裏、三八丁表)。
 論旨は当時被害者Aの目転車は非舗装部分の道路を進行中であつた旨主張するけ
れども、被告人の検察官に対する第一回供述調書(一六二丁裏)、本件貨物自動車
の助手であるDの原審における証言(三七丁裏)、該貨物自動車の同乗著であるC
の原審における証言(九七丁裏)に徴し、舗装部分の左端を進行中であつたことが
明白であり、被告人の司法警察員に対する供述調書、Fの検察官に対する供述調書
及び同人の原審における証言、並びに当審証人G同Cの各証言のこの点に関する部
分は右に照し措信できない。右水溜りの窪地の左側(進行方向に向つて)の非舗装
部分の歩道は路面も悪しく、当時退庁時刻で人通りが多く、自転車に乗つた者がそ
こを廻ることは無理な状況であつたこと(七七丁裏、八六丁表)からみても所論は
採用できない。そして、当審検証の際における被告人の指示供述によれば、被告人
の操縦する貨物自動車が前記丁字路左側曲り角を左にカーブした時の左側後車輪左
端は前記水溜りの窪地附近において舗装部分左端から〇・六米(一尺九寸八分)で
あるが、これは同検証に立会つた本件貨物自動車の助手であつたD、同乗者C並び
に目撃者Gもそのとおり又は大体そのとおりと指示したところであり、原審検証の
際における立会人Gの指示供述によれば同じく〇・六四米であり、同立会人C(同
乗者)の指示供述に徴しても一米、原審証人D(助手)の証言に徴しても一米(四
〇丁表)というのであり、Dの検察官に対する供述調書(五二丁裏)、Fの検察官
に対する供述調書(四五丁裏)に徴しても貨物自動車は自転車とスレスレに追越し
たというのであつて、これらに照し被告人の検察官に対する右水溜りのカーブ附近
で追越す時水溜りまり四尺五、六寸右側を通つた旨の供述(一六四丁表)、被告人
の原審検証の際における前記間隔が一・八米(五尺九寸四分)あつた旨の指示供述
は信用できない。更に、記録及び当審における事実取調の結果に徴すれば、論旨も
主張する如く、被害者Aは自転車に足をかけたまま倒れていたものであり、かつ同
人は骨盤部を被告人の貨物自動車の左側後車輪に轢かれたものであることが明かで
ある。さすれば、倒れたAの腰は自転車のサドルから幾らも離れていなかつたろう
と推測されるのであるが、司法警察員作成の実況見分調書及びその添付見取図、写
真(特に記録一八丁裏の写真)によると、自転車の倒れていた位置は両方のぺクル
を水平にした場合そのぺタルが道路左側の舗装部分と非舗装部分との境より若干
(二、三寸はあるとみられる)北側(外側)に当るものであつたことが明かで、ま
た証第一号の自転車を検すると、そのぺタルを右の如くにした場合ペタルとサドル
上面との高さの差は一尺九寸である。故に、自転車が右の如く倒れた場合サドル上
面は道路北側の舗装部分と非舗装部分との境から南へ一尺九寸よりは若干少い距離
にあり、倒れたAの腰はそれよりも若干南に当るという程度のものであつたと認め
られる。そして、原審検証調書によると本件貨物自動車の後車輪はタイヤが二本で
その全体の幅は〇・四五米(一尺四寸八分五厘)であることが明かであるが、その
左側後車輪の外側はAの腰部負傷個所の最下部に当るわけである。叙上の諸点を綜
合すると、その際の本件貨物自動車左側後車輪外側と道路左側舗装部分と非舗装部
分との境との距離はこれを前記被告人の指示する如く〇・六米とみるのは決して不
当ではない。しかるところ、記録及び当審における事実取調の結果に徴するに、貨
物自動車と自転車に搭乗して進行中のAとが接触したと確認すベき直接の証拠はな
いが、本件貨物自動車のボデー上部は僅かではあるが車輪外側より出ており(一八
丁写真)、また舗装の端は道路外側に向つて多少傾斜をなしかつ水溜りの窪地附近
は舗装の端が欠けていること(同上)等から自転車は水溜りの窪地附近では舗装部
分左端から少くとも二、三寸位は内側を進行せざるを得ない筈であるから、自転車
の車輪と自動車の車体外側との距離は〇・六米よりは少くとも三、四寸位は狭くな
るべく、なお自転車搭乗者のハンドルを持つた右腕の肘はハンドルの端より若干右
側に突出するのが通常であつて、これらをも計算に入れれば、貨物自動車がAの自
転車を追越す際はAの身体の右側と貨物自動車車体の左側との間隔はいくばくもな
く、数学的にいえばその間多少の余裕はあつたとしても常識的にはスレスレといつ
ていい程度に接近して進行していたことは明かで(F、Dの各検察官に対する供述
調書中に被告人の貨物自動車がAの自転車をスレスレに追越した旨の供述記載があ
ることは前記の通りである)、これに前記水溜りの窪地のあつたこと等も加つて、
Aが狼狽等の心理的動揺により自転車の操縦を誤るということは経験則上極めてあ
り得ることである。されば、被告人はAの自動車を追越すに際し前叙説明の如き危
険の生じ癒い程度の十分な間隔を保持して進行していなかつたことが明白である。
しかも、被告人は右追越しに際し警笛を鳴らしたのみで時速二十粁程度の速度のま
ま(一六三丁表)漫然左折進行したもので、その間特に徐行したこともなく、助手
をして特に右自転車の方を注視せしめたこともなく、その他若し接触等の危険を生
じた癒らば即時停車して事故発生を予防すべき何等の措置をもとらなかつたことは
記録に徴し明かであるから、被告人が前叙業務上の注意義務を怠つたことは疑いが
ない。然り而して、被告人は貨物自動車の車体左側とAの身体とがスレスレといつ
てもよい程度に近接して進行したことは既に説明したが、これと、原審証人Gの
「道路アスファルトの左端をトラックと自転車が、トラックの方が後のようである
が、一緒にといつてもよい位にカーブを切つたが、自転車かトラックに追いつめら
れたようになつて、フラフラとしたと思つた次の瞬間、自転車に乗つた人がトラッ
クの下に入つていた」旨(七六丁裏)、原審及び当審証人Eの原審における「カー
ブの所でトラックが自転車に追付いたようでトラックの方が追越して行くような状
況であつたが、行つたと思うとすぐトラックが急停車したので、見ると自転車はト
ラックに捲込まれてしまつたようであつた、それは自転車の何処かとトラックの何
処かが接触したのでトラックの方に捲込まれて倒れたと思つた」旨(二九丁表ない
し一二〇丁表)、当番における「一瞬間的にしか見ていないが自転車がトラックと
少し離れたと思つたらAはトラックに捲込まれるようになつて一瞬の聞に轢かれて
しまつたので、私の考では、トラックに触れπとしてもほんの少しで、トラックの
方では気付かなかつたのではるいかと思う」「Aの方で水溜りの窪みをよけて行つ
たのではないかと思われ、そのために自転車の方もトラックに近つき触れたのでは
ないかと思われる」旨の各証言、Fの検察官に対する供述調書中「その車(トラッ
ク)の左側の舗装しないところに、自転車のタイヤ位の凹地があり、そのすぐ右を
トラックとすれすれに男の人が自転車に乗つて、むこうから来たかこちらから進行
したのかはつきりしないが、兎に角その地点でふらふらして危いと感じたときには
自転車をその凹地の方に倒し、自分はトラックの左側後車輪前に倒れてしまい、そ
の上をトラックの後車輪がひいてしまつた」旨の供述(四五丁裏、四六丁表)、D
(助手)の検察官に対する供述調書中「余りにもスレスレに追越しの際左にカーブ
を切つたから、車体の何処かにその自転車が突当らないまでも接触したため、中心
を失つて遂に倒れたので後車輪に轢かれたものと思う」旨(五二丁裏)の供述、及
び被告人の検察官に対する第一回供述調書中「従つて、私としてはこのような条件
の最も悪いカーブの角で追越したことになり、これがために車体の左側が自転車の
何処かに当つたか、さもなければ車のアフリを負わせるかして、遂にその人の自転
車の進行の自由を失わせて倒し、これを後車輪で轢いたものと思う」旨(一六〇丁
表裏)の供述を総合すれば、被告人の貨物自動車が自転車に乗つたAを追越すに際
し両者の間隔が余りに接近しており、これと前記水溜りの窪地のあつたこと等のた
めAが狼狽等により自転車の操縦を誤つて身体の一部を貨物自動車の左側に接触せ
しめたか、又は接触せしめないまでも前記水溜りの窪地に自転車の前輪を突込んだ
か等して、貨物自動車に捲込まれるような状態になつて転倒したため、その後部左
側車輪に轢かれたものと認めるのが相当である。そうだとすれば、被害者Aが自転
車の操縦を誤つたのは被告人において前叙業務上の注意義務を怠つたえめであるこ
とはまことに明かで、被告人の前叙過失が事故発生につき因果関係のあることもち
ろんてあり、なおAの転倒したのは被告人の視界外で同乗の助手において自転車の
状況の注視を怠つた過失があつたとしても(五二丁表)、これがために被告人の責
任を免脱せらるべきものでないこというまでもない。
 以上の次第で、被告人の過失の責なしとする所論は採用し難いが、被告人の運転
する貨物自動車が原判示の如くA乗車の自転車に突当り同人を路上に転倒させたと
認定した原判決は事実を誤認したもので、その誤りは量刑に影響するところ少くな
い故判決に影響を及ぼすことが明かなものというべく、原判決は破棄を免れない。
論旨は結局理由がある。
 そこで弁護人の量刑不当の控訴趣意に対する判断は後記自判の際示されるのでこ
こに省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十二条により原判決を破棄し、同
法第四百条但書により当裁判所において更に次のとおり判決することとする。
 (罪となるべき事実)
 被告人は自動車運転者であるところ、昭和二十九年六月二十五日貨物自動車(岩
第○ノ○△×□号)を運転台に助手D及び該自動車所有主Cを同乗させて運転し盛
岡山内を稗貫郡a村に向け進行中、同日午後五時四十五分頃時速約二十粁で盛岡市
役所方面より同道路が中の橋方面から桜山神社前を経て盛岡駅方面に通ずる直線道
路に、同市bH社前で直角に出く合い丁字路をたしている個所に差しかかつた際、
前方五米位の地点の左側を被告人と同方向に向う数台の自転車を認めたがそのまま
進行し、右丁字路を中の橋方面に左折する少し手前で、右自転車のうちA(当時四
十七年)搭乘の自転車一台が遅れて同様左折せんとして道路の舗装部分左端を進行
しているのに接近した。しかるところ、同所道路の幅員は丁字型地点において十六
米ないし十四米位でその中央が七・五米ないし、六・五米位舗装され、当時丁字型
左側曲り角附近に非舗装部分から舗装部分にかけ直径一米位、深さ五寸位の水溜り
の窪地があつて被告人は該自転車が右水溜りの窪地と貨物自動車との間に挾まるべ
き進路を進行しつつあることを認めたが、右水溜りの左側の非舗装部分の歩道は路
面も悪しく、当時退庁時刻で人通りが多くて自転車の通ることは困難であつたし、
又丁字型個所から桜山神社前を経る諸車の交通は停止されていたので反対方面から
の諸車はすべて被告人の進行して来た方面へ曲つて進行するものであつたから、被
告人の貨物自動車がAの右側に出て両者の間隔を十二分に保持してこれを追越すこ
とも困難な状况にあつた。ところで、貨物自動車が自転車を追越す際数学的には多
少の余地があるときでもなお相接触等すべき危険のあることを予期しなければなら
ない場合のあることは理の当然であり、まして貨物自動車が曲り角をカーブする場
合には前車輪よりも後車輪の方が一層カーブ内側に近い所を通過するのが通常であ
り、特に前記の如く曲り角附近に水溜りの窪地があるところでは余りに接近して追
越す場合には、これがために貨物自動車の動揺や自転車搭乗者が狼狽等の心理的動
揺によりその操縦を誤つて衝突若しくは接触し又は衝突若しくは接触しないまでも
転倒し、その結果同搭乗者の死傷を惹起することは往々にしてこれあるところであ
る。従つて、かかる場合自動車運転者は右の如き曲り角で自転車を追越すには、右
の如き危害の発生を考慮してその防止に十分な間隔を保持して進行すべく、若し交
通頻繁等その場の状况上右の間隔を保持し得ないままで進行するならば、追越し終
るまで助手をして右自転車の状況を注視せしめ、かつ必要に応じて何時でも停車し
得るよう用意しつつ徐行する等随時危険の発生を未然に防止すべき業務上の注意義
務あることは条理上当然である。しかるに、被告人はことここに出でず何等機宜の
措置を構じないで、前記Aとの接触等の故障なく同人を追越し得るものと軽信し、
ただ警笛を鳴らしたのみで前記速力のまま、漫然、貨物自動車左側後車輪が舗装部
分左端から僅か〇・六米程度の間隔を保持しただけで、Aの身体とはスレスレに接
近して進行したため、同人をして狼狽のため自転車の操縦を誤り、その身体が貨物
自動車車体左側に接触したか、接触しないまでも前記窪みに自転車前輪を突込んだ
か等して、貨物自動車に捲込まれるような状態になつて、同人を路上に転倒させ、
その自動車左側後車輪で同人を轢き、因つて、同人に骨盤骨折、骨盤内出血、尿浸
潤、左助骨骨折及び尿道膀胱直腸挫傷等の傷害を負わせ、該傷害による失血のため
同日午後十時十時十分同市I医科大学附属医院において死亡せしめたものである。
 (証拠の標目)
 右の事実は
 1. 被告人の検察官に対する第一回及び第二回各供述調書
 2. DのFの各検察官に対する供述調書
 3. 原審証人D同内館寛一同C同B並びに原審及び当審証人Eの各証言
 4. 司法警察員作成の実況見分調書並びに原審及び当審における各検証調書
 5. 医師J作成のAに対する診断書
 6. 原審押収の自転車一台(証第一号)の存在及び状態
 を総合して、これを認める。
 (法令の適用)
 被告人の判示所為は刑法第二百十一条前段罰金等臨時措置法第三条第二条に該当
するので、所定刑中罰金刑を撰択し、その金額範囲内で、被告人を罰金一万円に処
し、刑法第十八条により右罰金を完納することができたい場合の労役場留置期間を
定め、なお原審及び当審における訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第百八十一条第
一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 細野幸雄 裁判官 杉本正雄)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛