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平成21年10月15日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(行ケ)第10079号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年9月10日
判決
原告丸仲工業株式会社
同訴訟代理人弁護士石川幸吉
被告アルメックスPE株式会社
同訴訟代理人弁理士永井義久
井上一
同訴訟復代理人弁理士梶俊和
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2008−800117号事件について平成21年2月17日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,下記2の発明に係る特許に対
する被告の無効審判請求について,特許庁が同請求を認めて当該特許を無効とした
別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4
の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成12年12月1日,発明の名称を「メッキ装置のメッキ液噴(1)
出ノズル装置」とする特許出願をし,平成14年8月16日,設定の登録(特許第
3340724号。請求項の数3)を受けた(甲12)。
被告は,平成20年6月25日,前記特許発明に係る明細書(以下「本件(2)
明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件発
明」という。)について,特許無効審判を請求し(甲13),無効2008−80
0117号事件として係属した。
特許庁は,平成21年2月17日,「特許第3340724号の請求項1(3)
に係る発明についての特許を無効とする。」との本件審決をし,同月27日,その
謄本を原告に送達した。
2本件発明の要旨
本件発明の要旨は,次のとおりである。文中の「/」は,原文の改行部分を示す。
管内のメッキ液供給方向に沿って多数の噴出孔を形成され,これらの噴出孔をメ
ッキ液用タンク内のメッキ液内に配設されるように設置されたノズル管と,当該ノ
ズル管を分岐配管を介して前記メッキ液用タンク外に設置された循環ポンプと接続
するメッキ液供給配管と,前記メッキ液用タンク内のメッキ液内に吸込み口を配設
され,他端側を前記循環ポンプに接続されたメッキ液回収配管とを備え,前記ノズ
ル管の噴出孔からメッキ液をメッキ処理される製品に向けて噴出するように構成さ
れたメッキ装置のメッキ液噴出ノズル装置であり,前記ノズル管を,メッキ処理さ
れる製品の移送方向に沿って併設された前記分岐配管から分岐され,当該分岐配管
に所要の間隔をおいて立設状態に並設し,且つメッキ処理される製品を介して立設
状態に対設させたものにおいて,/前記分岐配管に立設状態に取付けられた前記ノ
ズル管を,当該ノズル管に形成された噴出孔から噴出されるメッキ液の噴出方向を
該ノズル管の管周り方向の任意な位置に向けられるよう当該ノズル管の管端部を前
記分岐配管に螺着状態に取付けたことを特徴とするメッキ装置のメッキ液噴出ノズ
ル装置。
3本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,本件発明は下記の引用例1及び2に記載さ(1)
れた各発明(以下「引用発明1」及び「引用発明2」という。)並びに周知例1及
び2等に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた
ものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであ
り,無効とすべきである,というものである。
ア引用例1:特公平4−11640号公報(甲10)
イ引用例2:特許第3025254号公報(発行日:平成12年3月27日。
甲1)
ウ周知例1:特公昭57−39079号公報(甲7)
エ周知例2:特開平9−79442号公報(甲5)
なお,本件審決が上記判断に当たって認定した引用発明1並びに本件発明(2)
と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。文中の「/」は,原文
の改行部分を示す。
引用発明1:ワーク保持機構により板状ワークを垂直姿勢でめっき(原文は,め
つき。以下同じ。)タンク内のめっき液に浸け,移動機構によりワークを水平かつ
その表面に沿う方向に移動させると共に,ワーク表面に沿って上下に延びる複数の
めっき液噴出パイプ10を上記ワーク移動方向に沿って並置し,上記パイプ10に
孔状のめっき液噴出口15を設け,噴出口から膜状めっき液噴流が噴出するように
した板状のめっき装置であって,/めっき噴出パイプ10は,下端をめっき液供給
パイプ12に接続され,該パイプ12はめっき液供給ポンプに接続されており/か
つ,該パイプ10は,中心線を軸にして角度が調整できるようにされており,これ
により,めっき条件に対応してめっき噴出角を最適値に設定できる/ことからなる
板状ワークのめっき装置。
一致点:管内のメッキ液供給方向に沿って多数の噴出孔を形成され,これらの噴
出孔をメッキ液用タンク内のメッキ液内に配設されるように設置されたノズル管と,
当該ノズル管を分岐配管を介して前記メッキ液用タンク外に設置された循環ポンプ
と接続するメッキ液供給配管と,前記メッキ液用タンク内のメッキ液内に吸込み口
を配設され,他端側を前記循環ポンプに接続されたメッキ液回収配管とを備え,前
記ノズル管の噴出孔からメッキ液をメッキ処理される製品に向けて噴出するように
構成されたメッキ装置のメッキ液噴出ノズル装置であり,前記ノズル管を,メッキ
処理される製品の移送方向に沿って併設された前記分岐配管から分岐され,当該分
岐配管に所要の間隔をおいて立設状態に並設し,且つメッキ処理される製品を介し
て立設状態に対設させたものにおいて,前記分岐配管に立設状態に取付けられた前
記ノズル管を,当該ノズル管に形成された噴出孔から噴出されるメッキ液の噴出方
向を該ノズル管の管周り方向の任意な位置に向けられるよう当該ノズル管の管端部
を前記分岐配管に取付けたことを特徴とするメッキ装置のメッキ液噴出ノズル装置。
相違点:本件発明では,ノズル管の管端部を分岐配管に螺着状態に取り付けたの
に対し,引用発明1においては接続手段について具体的な記載がない点。
4取消事由
(1)引用発明1及び一致点に係る認定の誤り(取消事由1)
(2)本件発明に係る認定の誤り(取消事由2)
(3)周知技術に係る認定の誤り(取消事由3)
第3当事者の主張
1取消事由1(引用発明1及び一致点に係る認定の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)本件審決(4頁14∼25行)は,引用発明1について,前記第2の3(2)
のとおりと認定し,その認定に基づき,同項のとおりの本件発明と引用発明1との
一致点を認定した。
しかしながら,本件発明のメッキ装置は,「前記メッキ液用タンク3内のメッキ
液A中を…製品Wが水平に移送されながらメッキ処理される」(本件明細書の【0
011】)ものであって,複数のメッキ処理される製品をタンク内のメッキ液中を
連続的に移送しながらメッキ処理するものであるのに対し,引用発明1は,ワーク
保持機構により板状ワークを垂直又は傾斜姿勢でめっきタンク内のめっき液に浸け,
移動機構によりワークを水平かつその表面に沿う方向に移動もしくは揺動(往復運
動)させ,電気めっき又は電解処理を施すもの(引用例1の1頁左欄2∼5,17
∼18行)であって,いわゆる「どぶ漬け方式」を前提とするものであるから,本
件発明と引用発明1とは,メッキ処理方法及び装置構成も基本的に異なるものであ
る。
(2)また,本件審決(6頁末行∼7頁20行)は,循環ポンプやめっき液回収
配管等については引用例1には明記されていないが,引用発明1を実施するに当た
っては前提となる技術であり,当然に開示されているものとして理解されるべき技
術であって,また,仮に開示されていないとしても,これらは引用例2に記載され
ており,このような技術を適用することは,当業者であれば適宜なし得る程度のも
のにすぎないとして,引用発明1は,メッキ液用タンク内のメッキ液内に吸込み口
を配設され,他端側を前記循環ポンプに接続されたメッキ液回収配管を備えている
とすることができると認定した。
しかしながら,引用例1には,循環ポンプやめっき液回収配管等が開示されてお
らず,また,引用例2のめっき装置は,被処理物の搬送を前提としており,どぶ漬
け方式を前提とする引用発明1のめっき装置とは技術前提が異なるものであるから,
引用発明2を引用発明1に適用することは動機付けを欠くものであって,メッキ液
の噴射という関係からめっき装置の基本的構成である循環ポンプやめっき液回収配
管等について適宜なし得る程度のものということができないものということができ
る。
(3)以上のとおり,本件審決は,引用発明1の認定を誤り,その結果,本件発
明との一致点の認定を誤っているというべきである。
〔被告の主張〕
(1)原告は,本件発明について,複数のメッキ処理される製品をタンク内のメ
ッキ液中を連続的に移送させながらメッキ処理するものと主張するが,本件発明に
係る請求項1には,「連続的に移送させながらメッキ処理する」との限定はないか
ら,その主張自体が失当である。
(2)また,引用発明1は,ハンガー式の保持機構によりワークを保持し,移動
又は往復動するもので,本件発明と,メッキ処理方法や装置構成が基本的に異なっ
ているものということはできず,本件審決の判断に誤りはない。
(3)原告は,引用例2は,引用発明1とは技術前提が異なると主張し,引用例
2におけるメッキ液の循環態様を,引用発明1に適用することはできないとも主張
するが,引用発明2は,引用発明1と同様にワークの移動過程で新たなメッキ液を
ワークに向けて噴出するものである点で共通するのであるから,当業者が,引用例
2のメッキ液の循環態様を,引用発明1に適用することに困難性はなく,その適用
に阻害要因もない。
2取消事由2(本件発明に係る認定の誤り)について
〔原告の主張〕
本件審決(7頁21∼27行)は,本件明細書の請求項1には,メッキ液噴出流
が膜状であることを除外する記載はないので,本件発明には,「膜状めっき液噴出
流」を噴出することも包含されると解すべきであって,同請求項に記載されていな
い技術事項をもって本件発明の特異性を主張することは妥当でないとした。
しかしながら,本件明細書及びその添付図面にも,噴出孔をスリット状にするこ
とが記載されていないのであるから,およそ本件発明の噴出孔から「膜状めっき液
噴出流」が噴出されることはあり得ない。
それにもかかわらず,本件発明の技術範囲に「膜状めっき液噴出流を噴出するこ
と」が包含されるとした本件審決の認定は誤っている。
〔被告の主張〕
本件明細書の請求項1及び発明の詳細な説明には,本件審決の認定するとおり,
そもそもメッキ液の噴出流が膜状であることを除外する記載や示唆はないのである
から,原告の主張は,その前提において,誤っている。
3取消事由3(周知技術に係る認定の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)本件審決(8頁14∼24行)は,ノズル管の管周り方向の角度を任意に
設定することは周知技術であるとし,その理由として,このことが引用例1及び周
知例1に記載されており,また,周知例2に記載されているように,螺着構造自体
は配管の接続構造としては周知技術であるとし,このため,本件発明について,ノ
ズル管の管周り方向角度の任意設定を殊更に螺着構造で行った点に特徴があるとし
ても,これによる特異あるいは顕著な効果が達成できなければ,単に周知技術を組
み合わせた発明となり進歩性を認めることができず,原告が主張するとおりの液漏
れのないこと,取付けや角度調整が容易であること等は,相対的・抽象的な効果の
主張であるばかりでなく,螺着構造を採れば当然予測し得る程度のものにすぎない
とした。
(2)しかしながら,ほとんどの発明は,過去の技術の上に成り立っているもの
であって,技術を細分化すれば,全く新しい技術は皆無となってしまうものである。
周知技術というためには,少なくとも同一の技術分野において,同一の技術環境・
技術条件の下に,同一の作用効果のために慣用的に行われる技術構成でなければな
らないというべきである。
しかるところ,引用例1に記載されている事項についてみれば,本件発明におけ
る「ノズル管の管周り方向の角度を任意に設定すること」とは異なるものであり,
周知例1における液噴射管は,本件発明におけるノズル管とは管の形態も,液の噴
射形態も異なるものであるから,少なくとも,本件発明における「ノズル管の管周
り方向の角度を任意に設定すること」が周知技術であると認定することはできない。
また,液漏れのないこと,取付けや角度調整が容易であることといった本件発明
の効果が相対的・抽象的な効果であるということはできず,また,螺着構造を採る
ことに本件発明の新規性があるのであって,本件審決は,進歩性に関する判断を誤
ったものである。なお,周知例2は水道の給排水管というメッキ処理装置である本
件発明や引用発明1とは全く別の技術分野に属するものであって,そもそも周知例
2を適用することはできないものである。
〔被告の主張〕
原告は,ノズル管の管周り方向の角度を任意に設定することが周知技術であると
した本件審決の認定が誤りであると主張する。
しかしながら,周知例1及び引用例1の記載に照らして,本件審決が「ノズル管
の管周り方向の角度を任意に設定すること」が周知技術であると認定したことに誤
りはない。
また,原告は,螺着構造を採ることに本件発明の新規性があると主張するが,周
知例2にも開示されているように,螺着構造自体は配管の接続構造としては周知技
術であって,この螺着構造を採ることに新規性があるということもできない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(引用発明1及び一致点に係る認定の誤り)について
本件発明におけるメッキ処理(1)
ア原告は,本件審決における本件発明と引用発明1との一致点の誤りを主張す
る前提として,本件発明のメッキ装置が複数のメッキ処理される製品をタンク内の
メッキ液中を連続的に移送しながらメッキ処理するものであると主張する。
イしかしながら,本件発明に係る特許請求の範囲の記載である請求項1には,
本件発明について,複数のメッキ処理される製品をタンク内のメッキ液中を「連続
的に移送させながらメッキ処理する」との記載がなく,複数のメッキ処理される製
品をタンク内のメッキ液中を連続的に移送させながらメッキ処理するために必要と
される構成や手段についても記載されておらず,また,本件明細書の発明の詳細な
説明にも,「図1のメッキ装置は前記メッキ液用タンク3内のメッキ液A中を図4
乃至図5に示すように製品Wが水平に移送されながらメッキ処理される」(【00
11】)と記載されるだけであって,これをもってメッキ処理される製品がタンク
内のメッキ液中を「連続的に移送させながらメッキ処理する」ことまでが記載され
ていると解されるものではなく,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌した
としても,本件発明1は原告主張の構成に限定されるものではないから,原告の上
記主張は,その前提において,これを採用することができない。
ウまた,原告は,引用発明1について,いわゆる「どぶ漬け方式」を前提とす
るものであって,原告主張に係る本件発明とはメッキ処理方法が異なると主張する
が,引用例1(甲10)の発明の詳細な説明において,「なお,ワーク3を一方向
Fに連続的に移動させることもできる。」(2頁左欄27∼28行)との記載があ
り,引用発明1は,被メッキ製品を連続的に移動させながらメッキ処理する技術を
含むものであって,原告主張の「どぶ漬け方式」のみを前提としたものではなく,
この点からも,本件発明が複数のメッキ処理される製品をタンク内のメッキ液中を
連続的に移送しながらメッキ処理するものであるとしても,本件発明と引用発明1
とがメッキ処理方法等において基本的に異なるものであるという原告の主張は理由
がないということになる。
引用発明1の認定(2)
ア原告は,本件審決が,引用例1に明記されていない循環ポンプやめっき液回
収配管等について,これらの技術を引用発明1に適用することができるなどとした
ことが誤りであると主張するので,以下,検討する。
イ引用例1(甲10)の特許請求の範囲の請求項1には,「ワーク保持機構に
より板状ワークを垂直又は傾斜姿勢でめっきタンク内のめっき液に浸け,移動機構
によりワークを水平かつその表面に沿う方向に移動もしくは揺動(往復運動)させ
ると共に,ワーク表面に沿って上下に延びる複数のめっき液噴出パイプを上記ワー
ク移動方向に沿って並置し,上記パイプにその長手方向に延びるスリツト状もしく
は孔状のめっき液噴出口を設け,噴出口から膜状めっき液噴流が噴出するようにし
たことを特徴とする板状ワークのめっき装置。」との記載がある。
また,引用例1の発明の詳細な説明には,両方の側壁の近傍においてめっき液に
浸けられている陽極電極接続されたアノードとワークとの間には,垂直なめっき液
噴出パイプが設けられ,このパイプの上端はワークの上縁とおおむね同じ高さにあ
り,その下端はタンク底壁上のめっき液供給パイプに接続されており,また,めっ
き液噴出パイプの外周には,ワーク側へ突出しためっき液噴出ノズルが同パイプの
おおむね全長にわたって設けられていること(1頁右欄10∼20行),上記めっ
き液噴出ノズルには,スリット状で,上下の長さを有するめっき液噴出口が設けら
れていること(同20∼21行),上記めっき液供給パイプは,めっき液供給ポン
プに接続されていること(同23∼24行),上記のめっき液供給パイプは,ワー
クの表面に沿って水平方向に長く延び,各めっき液供給パイプ上に多数のめっき液
噴出パイプが一定間隔を隔てて設けられていること(2頁左欄8∼10行),実施
例として,ワークの両側の2つのめっき液噴出パイプは,ワークを挟んで左右に対
向しており,各めっき液噴出パイプは,その中心線を軸として,角度位置を調整で
きるようになっていること(同10∼16行),ワークは,めっき液供給パイプが
延びる方向に連続的に移動させることもできること(同27∼28行),ワーク表
面に対するめっき液噴出口からのめっき液の噴流の角度を変更できるように,めっ
き液噴出パイプの角度位置が調整自在にされ,種々のめっき条件に対応させて,め
っき液噴出角度を常に最適値に設定できるようになること(2頁右欄11∼14
行),スリット状のめっき液噴出口に代えて,直列に配列された複数の孔状噴出口
を採用することもできること(同29∼30行),以上の記載もある。
以上の記載によると,引用発明1は,ワーク保持機構により板状ワークを垂直姿
勢でめっきタンク内のめっき液に浸け,移動機構によりワークを水平かつその表面
に沿う方向に移動させるとともに,ワーク表面に沿って上下に延びる複数のめっき
液噴出パイプを上記ワーク移動方向に沿って並置し,同めっき液噴出パイプに孔状
のめっき液噴出口を設け,同噴出口から膜状めっき液噴流が噴出するようにした板
状ワークのめっき装置であって,同めっき液噴出パイプは,その下端においてめっ
き液供給パイプに接続されており,また,同パイプはめっき液供給ポンプに接続さ
れていること,そして,同めっき液噴出パイプは,その中心線を軸として角度を調
整できるようになっており,これによって,種々のめっき条件に対応してめっき液
噴出角度を最適値に設定できる発明であると認めることができる。
ウ引用例2(甲1)の発明の詳細な説明には,発明の属する技術分野として,
引用発明2は,板状体を連続的に搬送しながらめっきを行うめっき装置及びめっき
方法に関し,特にプリント基板等の電子工業用の部品に対して精密なめっきが可能
なめっき装置に関するものであること(【0001】),課題を解決するための手
段として,めっき槽内には,水平方向から被処理物の方向へ傾斜した開口を形成し
たルーバーを有するめっき液ガイド,めっき液ガイドの開口部へめっき液を供給す
るめっき液噴流装置が存在すること(【0006】),発明の実施の形態として,
ルーバーの開口部に向ってめっき液噴流装置に設けためっき液噴流ノズルからめっ
き液が被処理物に斜めに供給され,また,めっき液噴流管には,めっき液循環装置
からめっき液が供給されること(【0026】),以上の記載によると,引用発明
2は,板状体を連続的に搬送しながらめっきを行うめっき装置であって,めっき液
噴流ノズルから被処理物に供給されるめっき液がめっき液循環装置から供給される
発明であると認めることができる。
そして,この引用発明2のように,めっき装置において,供給されためっき液を
ワークに向けて噴出するという場合には,めっき液をめっき液循環装置から供給す
るとの構成を採用することは当然の前提となる技術常識ということができるのであ
って,同じく供給されためっき液をワークに向けて噴出するものである発明につい
て記載する引用例1にも,同構成は当然に開示されているものということができる
から,これに反する原告の主張は採用することができない。
2取消事由2(本件発明に係る認定の誤り)について
原告は,本件発明の噴出孔から「膜状めっき液噴出流」が噴出されること(1)
はなく,本件発明の技術範囲に「膜状めっき液噴出流を噴出すること」を包含する
との本件審決の認定は誤っていると主張する。
しかしながら,本件発明に係る請求項1には,「多数の噴出孔を形成され,(2)
これらの噴出孔をメッキ液用タンク内のメッキ液内に配設されるように設置された
ノズル管…を備え,前記ノズル管の噴出孔からメッキ液をメッキ処理される製品に
向けて噴出する」と記載されているにとどまり,この「多数の噴出孔からメッキ液
をメッキ処理される製品に向けて噴出する」場合に,メッキ液の噴出流が膜状にな
ることは除外されておらず,また,本件明細書の発明の詳細な説明においても,メ
ッキ液の噴出流が膜状になることを除外するとの記載はない。
この点について,原告は,本件明細書及びその添付図面には,噴出孔をスリット
状にすることが記載されていないのであるから,本件発明の噴出孔から「膜状めっ
き液噴出流」が噴出されることはないと主張するが,本件発明に係るノズル管に連
続した直列の噴出孔を多数,かつ,その間隔を近接して備えた構成とした場合には,
スリット状の噴出口を設けた場合と同様に,メッキ液の噴出流が膜状になることは
予測し得るところであって,そもそも,引用発明1においては,スリット状の噴出
口に代えて,複数の孔状の噴出口を採用するとの技術が含まれるものであるから
(甲10の2頁右欄29∼30行),本件発明と引用発明1との対比において,メ
ッキ液が本件発明のようにノズル管の孔状の噴出口から噴出されるか,引用発明1
のようにノズル管のスリット状の噴出口から噴出されるかは,メッキ液の噴出方法
に係る技術問題にすぎず,原告の指摘する「膜状めっき液噴出流」の有無という観
点から検討することに格別の意味を見いだすことはできない。
以上によれば,原告の主張は,理由がなく,また,そもそも前提を欠くも(3)
のとして,失当というべきものである。
3取消事由3(周知技術に係る認定の誤り)について
周知例2に記載の技術事項(1)
ア周知例2(甲5)の要約には,給水栓と配管とを接続する給水栓継手に関す
るものであること(【課題】),本発明は,給水栓接続用のネジ孔を一端に有し,
他端に雌ネジ部と円形孔部とから成るスリーブ用孔を有するエルボ型の継手本体と,
この継手本体のスリーブ用孔に挿入される円筒状のスリーブ等を備えるものであっ
て,このスリーブには,その外周にスリーブ用孔の円形孔部に対応して嵌合される
円形外周面と,雌ネジ部に螺合される雄ネジが備わっていること(【解決手段】),
周知例2の発明の詳細な説明には,継手本体は,給水栓取付け側端に蛇口等の給水
栓の雄ネジが螺合するネジ孔を有し,他端には,スリーブを挿入するスリーブ用孔
を有しており,このスリーブ用孔は,開口端側が雌ネジ部となっていること(【0
009】),スリーブは,その外周に,スリーブ用孔の円形孔部に対応して嵌合さ
れる円形外周面を有するとともに,雌ネジ部に螺合される雄ネジを有していること
(【0010】),エルボ型の継手は,全体としてコンパクトであるため,立ち上
げて設けられた配管に接続する際,配管と背後の躯体の隙間寸法が小さく,近接し
ていても,難なく回転させて取り付けることができること(【0018】),以上
の記載がある。
イ以上の記載によると,周知例2には,角度を任意に調整できる配管の接続手
段としての螺着構造の技術の記載が開示されているということができ,また,この
ような螺着構造は,配管の接続という技術分野において慣用的な周知技術というこ
とができる。
引用発明1に周知例2の技術を適用することの可否(2)
そうすると,前記1イのとおりの引用発明1において,メッキ液噴出パイプ(2)
(ノズル管)の管周り方向の角度を任意に調整するに当たり,同パイプの下端にお
いてメッキ液供給パイプに接続する手段として,上記イのとおりの周知技術を(1)
適用して螺着構造とすることは,当業者であれば容易に行い得るものというべきで
あって,原告の主張に理由はなく,本件審決の判断に誤りはない。
この点について,原告は,本件発明において,螺着構造を採ることにより,液漏
れがないこと,取付けや角度調整が容易であることといった特別の効果があるとも
主張するが,螺着構造であろうと,管に対する接続方法である以上,液漏れがない
ことは当然の前提事項であるし,また,螺着構造を採ることによって取付けや角度
調整が容易となることは,上記の周知例2の技術にも開示されているとおりの(1)
周知技術の内容ということができ,この点の原告の主張も採用することができない。
また,原告は,水道の給排水管という周知例2の技術事項をメッキ処理装置であ
る本件発明や引用発明1に適用することができないと主張するが,引用発明1にお
けるメッキ液噴出パイプとメッキ液供給パイプとの接続といった配管の接続手段と
周知例2の水道の給水管の接続手段とは,どちらも液体がその中を流動する配管の
接続方法として共通の技術分野のものということができ,引用発明1に周知例2の
この技術事項を適用することに特に阻害要因があるとは認められず,原告の主張を
採用することはできない。
ノズル管の管回り方向の角度設定の周知技術性(3)
原告は,引用例1や周知例1に記載されている技術事項をもって,ノズル管の管
周り方向の角度を任意に設定することが周知技術であるということはできないと主
張するが,引用例1における「パイプ12はワーク3の表面に沿って水平方向に長
く延びており,各パイプ12上に多数のパイプ10が一定間隔を隔てて設けてある。
図示の実施例においてワーク3の両側のパイプ10,10はワーク3を挟んで第2
図で左右に対向している。図示されていない機構により,各パイプ10はその中心
線O(又は中心線Oと平行な垂直線)を軸にしてその角度位置を矢印Rの如く調整
できるようになっている。」(2頁左欄8∼16行)及び「ワーク表面に対する上
記噴流の角度を変更できるようにパイプ10の角度位置を調整自在にすると,種々
のめっき条件に対応させてめっき液噴出角を常に最適値に設定できる。」(2頁右
欄11∼14行)並びに周知例1の「スルーホール2’に確実にメッキ液を噴射し
て液更新するために第5図…ロ図の如く噴射口3’の方向を変化することが望まし
い。」(2頁右欄32∼35行)との記載があり,この記載からは,ノズル管の管
周り方向の角度を任意に設定する技術が開示されているということができるのであ
って,原告の主張は採用し得ない。
4結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求
は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官本多知成
裁判官杜下弘記

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