弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人荒木鼎の上告理由(上告理由補充書を除く。)について。
 所論検証の結果についていう上告人の判断遺脱の主張は、民訴法四二〇条一項九
号所定の再審事由に当らないとした原審の判断、ならびに証人Dの証言および被上
告人(被告)本人の供述が虚偽である旨の上告人の主張は、同条一項七号、二項所
定の再審事由に当らない旨の原審の判断は、いずれも正当として是認でき、原判決
には所論違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でなく、所論は
独自の見解であつて採用できない(なお、当審において、かりに所論Dに対する起
訴事実について原審口頭弁論終結後である昭和四二年三月二日有罪判決が確定した
旨主張されたとしても、右有罪判決確定の事実は、原判決に対する再審の訴の再審
事由となるものではないから、右主張を本件上告の理由として採用する余地は存し
ない。)。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官松田二郎の反対意見が
あるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 裁判官松田二郎の反対意見は次のとおりである。
 民訴法四二〇条一項七号、二項後段に該当する再審事由が適法の上告理由になり
うることは、当裁判所の判例とするところである(昭和四〇年(オ)第一一八〇号、
同四三年五月二日第一小法廷判決)。これは、原判決に右の再審事由があるとき、
その判決には違法があるとするものである。そして、そのような再審の事由が民事
訴訟規則五〇条に定める上告理由書提出期間経過後に具備するに至つたときであつ
ても、当裁判所は民訴法一五八条により、その期間を伸長して、これによつてその
ような事由の主張を可能ならしめたのである(右事件参照)。
 今本件についてみるに、上告人は、先に被上告人との間の熊本地方裁判所昭和三
七年(ワ)第二二二号損害賠償等請求事件において敗訴し、その控訴審である福岡
高等裁判所において控訴棄却の判決を受け、これに対して上告し、上告棄却の判決
を受けたものであるところ、右福岡高等裁判所の判決の証拠となつた証人Dの供述
は虚偽であるとして、福岡高等裁判所に再審の訴を提起したのである。しかるに、
再審の訴を却下するとの判決を受けたので、これに対し当裁判所に上告したところ、
民事訴訟規則五〇条の上告理由書提出期間経過後である昭和四二年二月一五日に至
つて、右Dは前記熊本地方裁判所昭和三七年(ワ)第二二二号事件の証人として虚
偽の陳述をしたとして、熊本地方裁判所において「懲役六月に処する。この裁判確
定の日から三年間右刑の執行を猶予する」との判決を受け、右判決は同年三月二日
確定したので、上告人はこれを新たに上告理由として追加したのであり、該有罪の
事実は当裁判所に顕著なところである。そして記録によれば上告人と被上告人との
間の訴訟事件において、証人Dの供述が右当事者間の熊本地方裁判所の損害賠償等
事件の判決の重要な証拠となつていること、従つて右証人の供述がまた同事件の控
訴審である福岡高等裁判所の判決においても重要な証拠となつていることが窺われ
るのである。
 してみれば、前記当裁判所の判決の見地に立つて右福岡高等裁判所の判決を考察
すれば、同裁判所が民訴法四二〇条一項七号、二項所定の再審事由がないとして再
審の訴を却下したのは違法であつたことに帰し、従つて本件上告は理由あるものと
いわなければならない。もつとも、この上告理由は前記のごとく民事訴訟規則五〇
条の期間経過後に新たに主張されたところではあるが、当小法廷が前記別件につい
て上告理由書提出期間を伸長した以上、本件についても同様伸長の決定をなすべき
である。しかして、もし多数意見によるときは、前記証人が右のごとく処罰された
のにもかかわらず、上告人の保護の点において著しく欠けるに至るのである。
 要するに、私は上告理由書提出期間伸長の上、本件上告はその理由があるものと
し、原判決を破棄し、更に審理するため、本件を原審に差し戻すべきものであると
考える。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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