弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     別紙死亡者目録一及び二記載の被上告人らを除くその余の被上告人らに
対する本件上告を棄却する。
     前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
     原判決中別紙死亡者目録一記載の被上告人らの請求に関する部分を破棄
する。
     本件訴訟のうち別紙死亡者目録一及び二記載の被上告人らの請求に関す
る部分は、右各目録記載の日に右各目録記載の被上告人らの死亡により終了した。
         理    由
 上告人及び上告代理人中村三次、同土肥淳一、同山本祝男、同野崎哲、同中山隆
志、同洲崎寿光の上告理由第一点について
 所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論
の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用
することができない。
 同第二点について
 原審の適法に確定した事実関係によれば、所論の不在者投票を行った選挙人二九
三名が提出した請求書兼宣誓書には、選挙の当日自ら投票所に行き投票をすること
ができない事由として、単に旅行中であること又は私事用務等による旅行中である
ことが記載されているにとどまり、どのような用務のために旅行をしなければなら
ないのかについては記入がされていなかったというのである。選挙期日に選挙人が
投票区のある市町村の区域外に旅行中であるという事由は、その旅行が儀礼等の理
由から社会通念上必要な用務のための旅行であるとか、又は当日以外に日程を変更
することが著しく困難であるなどの事情が認められる場合に限り、公職選挙法(以
下「法」という。)四九条一項二号所定の不在者投票事由に該当するものと解する
のが相当である。したがって、右事実関係の下においては、選挙人から不在者投票
のための投票用紙及び不在者投票用封筒(以下「投票用紙等」という。)の交付の
請求を受けたD選挙管理委員会(以下「市選管」という。)の委員長が、右のよう
な事情の有無について口頭の説明を求めることなく、その請求に応じて投票用紙等
を交付したことは、同号及び公職選挙法施行令(以下「令」という。)五三条一項
の規定に違反するものといわざるを得ない。これと同旨の原審の判断は、正当とし
て是認することができ、右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨
は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 同第三点について
 一 本件選挙における不在者投票の管理執行に関して原審の適法に確定するとこ
ろによれば、本件選挙においては、投票者一万七五一二人のうち合計一七一三人の
者が不在者投票を行ったが、(1) 市選管では、委員長の補助職員として不在者投
票の管理執行に当たった職員に対して不在者投票に関する研修等を実施することも
なく、不在者投票の受付事務については経験もない職員などにほとんど任せたまま
であったため、受付事務を担当した右職員らは、不在者投票事由の有無について特
段の関心を払うことなく、漫然と投票用紙等の交付の請求に応じており、その結果、
選挙人が提出した請求書兼宣誓書の記載自体からその申立てに係る事由が不在者投
票事由に該当しないことが明らかなのに受理された不在者投票が五六票、選挙人が
提出した請求書兼宣誓書の記載だけでは申立てに係る事由が不在者投票事由に該当
すると判断するには足りず、右判断をするためには請求者の口頭の説明を必要とす
るにもかかわらず、その説明を受けることなく受理された投票が所論第二点に係る
二九三票を含め六一二票にも上った、(2) 市選管の投票記載所では、不在者投票
の投票立会人として届け出られた者の昼食時などに、右の者以外の者が、適宜交代
して不在者投票に立ち会い、かつ、不在者投票用外封筒に立会人として署名するこ
とがあったが、このうち一〇票については、不在者投票事務の補助執行に従事して
いた職員が、右事務の傍ら投票に立ち会い、署名をしたにすぎず、監視機関として
の立会人の役割を十分に果たすことができない状況の下で投票がされた、(3) 市
選管の委員長は、郵便による不在者投票を行おうとする選挙人に対し、市選管の記
名押印のない不在者投票用外封筒を送付し、このため、郵便によってされた不在者
投票一八票は、いずれも市選管の記名押印のない外封筒に封入されていた、(4) 
選挙会の発表に係るE候補(当選者)とF候補(落選者)の得票差は九五八票であ
り、各自の得票数に占める不在者投票の割合は、E候補が一二・五パーセント、F
候補が六・五パーセントであったというのである。
 投票は、選挙の当日に投票所に赴いて行うのが本則であり、不在者投票制度はあ
くまでも例外的な取扱いである上、ややもすれば不正行為の手段に利用されるおそ
れのあることは否定することができないものであって、それゆえに、法並びにその
定めを受けた令及び公職選挙法施行規則(以下「規則」という。)は、その濫用を
防止し、不正投票の混入を避けるために、その要件、手続及び様式を厳格に定めて
いるのである。その定めるところに従って不在者投票の管理執行がされるのでなけ
れば、不在者投票の濫用や不正投票の混入を招き、公正な選挙を実現することは困
難になるものといわざるを得ない(最高裁昭和三七年(オ)第六九七号同三七年一
二月二六日第二小法廷判決・民集一六巻一二号二五八一頁参照)。特に、選挙人か
ら投票用紙等の交付の請求を受けた選挙管理委員会の委員長は、その申立てに係る
事由が法四九条一項各号所定の不在者投票事由に該当するかどうかを厳正に審査し、
これに該当すると判断した場合に限り、右請求に応ずべきものであって、不在者投
票事由の審査義務は、不在者投票の管理執行に当たって同委員長が尽くすべき、極
めて重要で基本的な義務であることはいうまでもない。
 原審の適法に確定した前記事実関係によれば、市選管の委員長は、本件選挙に際
して行われた不在者投票については、選挙人が申し立てた事由が不在者投票事由に
該当するかどうかの審査義務を尽くしたものとはいえず、そのこと自体が、法四九
条一項、令五三条一項に違反するものといわざるを得ない。加えて、前記(2)の一
〇票が実質的に立会人を欠いた状況下で投票された点で令五六条二項に違反するな
ど、市選管では投票立会人の役割の重要性が認識されていたとはみられない上、前
記(3)の一八票は、令五九条の四第三項、規則一〇条の五別記第一三号様式の七に
違反するものと認められる。以上のような不在者投票の管理執行は、法が不在者投
票の要件、手続及び様式を厳格に定めた趣旨を没却した極めてずさんなものである
というほかはない。そして、このようにずさんな管理執行手続の下で、全投票者の
約一割に当たる一七一三人という多数の選挙人が不在者投票を行い、しかも、選挙
人が申し立てた事由が不在者投票事由に該当しないことが明らかであるか、又は不
在者投票事由に該当すると認めるには足りないにもかかわらず、投票用紙等が交付
され、不在者投票が受理されるに至ったものが六六八票もの多数に上るというので
あるから、不在者投票の管理執行に関する右の各違法が、不在者投票の濫用や不正
投票の混入を招来した可能性は否定し難い。加えて、本件選挙の各候補者の得票に
占める不在者投票の割合が前記のようなものであったことをも考慮すると、不在者
投票の管理執行に関する右の違法は、不在者投票の全体について、その公正を疑わ
しめるに足るものであって、その結果についても、もしそれが適正に施行されてい
れば異なった結果となったのではないかとの疑念を生ずるものといわざるを得ない。
そうであれば、不在者投票の総数が当選者と落選者との得票差を上回っている本件
においては、不在者投票の管理執行手続全般にわたる右違法だけをとらえてみても、
それは、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるものということができる。不在者
投票の中には、選挙人が提出した請求書兼宣誓書の記載を事後的、形式的にみる限
りでは、その申立てに係る事由が不在者投票事由に該当すると認められる投票もあ
り、事後的、形式的にみて明らかに投票から除外すべきものと判断される前記(1)
ないし(3)の不在者投票の数だけでは当選者と落選者との得票差を下回るけれども、
そのことによって、右判断が左右されるものではない。
 二 本件選挙の開票手続に関して原審の適法に確定するところによれば、(1) 
選挙会の最初の発表では、投票者数とE、F両候補の得票数が発表されただけで、
無効票数が発表されず、参観者から無効票の内訳を質問された後である平成五年四
月一八日の午後九時五五分ころに改めてされた二回目の発表によれば、投票者数が
一万七五一二人、E候補の得票九一九九票、F候補の得票八二四一票、無効票八八
票(ただし、記録によれば、この無効票の中に不受理票九票が含まれていたことが
うかがわれる。)であって、投票者数よりも投票数が一六票も多かった、(2) そ
の後、同月二〇日午後七時五〇分ころにされた選挙会の最終発表によれば、投票者
数が一万七五一二人、E候補の得票九一九九票、F候補の得票八二四一票、無効票
七七票(ただし、記録によれば、別に不受理票九票があったことがうかがわれる。)
で、無効票の数が変動しただけでなく、なお投票数が投票者数を上回っていた、(
3) 上告人が被上告人らの審査請求に基づいて投票の点検をしたところ、投票者
数一万七五一二人、E候補の得票九一九九票、F候補の得票八二二五票、無効票七
七票、不受理票九票であって、選挙会の発表と比べてF候補の得票数が一六票も少
なく、投票者数が投票数を二票上回ることになった、(4) 各選挙区の投票録の点
検作業は、選挙会の会場とは別の投票録審査室と称する部屋で行われ、選挙会が同
月一八日に発表した開票結果をめぐって選挙会の会場が紛糾する最中に、同室に、
開票事務従事者によって第一〇投票区の投票管理代理者が呼び入れられ、投票録の
一部訂正を命ぜられたというのである。
 投票数の計算は候補者の当落に直接つながるものであるから、その事務の執行が
厳正に行われなければならないことはいうまでもないところ、右のように、平成五
年四月一八日の午後九時五五分ころの選挙会の発表によれば、投票数が投票者数を
一六票も上回っていたこと、審査裁決に際する点検によってF候補の得票数に一六
票もの減少があったことに加え、投票者数や不受理票数の確定資料として重要な意
味を持つ各投票区の投票録の点検が選挙会の会場以外の場所において行われ、開票
事務従事者以外の第三者を呼び入れて投票録の訂正が行われたことなどからすると、
本件選挙の開票事務の処理は、著しく厳正を欠いていたものというほかはない。前
記の不在者投票の管理執行に関する違法にこのことも併せ考慮するならば、本件選
挙の手続全般にわたって厳正かつ公正に行われたのかどうかについて疑いを抱かざ
るを得ず、その結果についても疑念を生ずるところである。これらの違法が選挙の
結果に異動を及ぼすおそれがあることは、一層明らかである。
 三 以上に説示したところによれば、本件選挙の管理執行に関する前記の各違法
が選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるものということができ、これと同旨に帰
する原審の判断は、正当として是認することができ、論旨は採用することができな
い。
 同第四点について
 記録によれば、被上告人らが本件裁決中主文第一項に係る部分の取消しを求める
ものでないことは明らかであるから、原判決に所論の違法はない。論旨は、原判決
を正解しないでこれを論難するものであって、採用することができない。
 なお、職権をもって調査するに、記録によれば、別紙死亡者目録一及び二記載の
被上告人らは、右各目録記載の日に死亡していることが明らかであるところ、本件
訴訟は、被上告人が死亡した場合においてはこれを承継する余地がなく当然に終了
するものと解すべきである。そうすると、原判決中、その言渡し前に既に死亡して
いた死亡者目録一記載の被上告人らの請求に関する部分は、同目録記載の被上告人
らの死亡を看過してされたものであるから破棄を免れない。そして、本件訴訟のう
ち死亡者目録一及び二記載の被上告人らの請求に関する部分は、右各目録記載の死
亡の日に終了したことを明確にするため、その旨を宣言することとする。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    河   合   伸   一
            裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    福   田       博

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