弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件各控訴を棄却する。
2控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人知事(以下,略称は原判決に従う。)が平成17年9月1日付けで
控訴人に対してしたα区第××号区画漁業権の不免許処分を取り消す。
3被控訴人知事が平成17年9月1日付けで控訴人に対してしたα区第××号
に係るA漁業協同組合第1種区画漁業権(のり養殖業)行使規則の不認可処分
を取り消す。
4控訴人が,被控訴人知事に対し,水協法68条5項に定める解散届を提出す
る義務がないことを確認する。
5訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
第2事案の概要等
1事案の概要
()本件は,控訴人が水協法68条4項に定める組合員数20人を下回り,1
当然に解散したとして,被控訴人知事が,控訴人に対し,同法68条5項所
定の解散届を提出するよう行政指導するとともに,平成17年9月1日付け
で控訴人に対してα区第××号区画漁業権の不免許処分及びα区第××号に
係るA漁業協同組合第1種区画漁業権(のり養殖業)行使規則の不認可処分
をしたところ,控訴人が,未だ解散していない旨主張して,被控訴人県に対
し,本件各処分の取消し(甲事件)を求めるとともに,実質的当事者訴訟と
して,被控訴人知事に対する解散届提出義務が存在しないことの確認(乙事
件)を求めた事案である。
()原審は,控訴人らの各請求をいずれも理由がないとして棄却したので,2
控訴人はこれを不服として控訴した。
2前提事実と争点及び当事者の主張
3,4項のとおり,当審で当事者が補足した主張を付加するほかは,原判決
「事実及び理由」の「第2事案の概要」の1,2のとおりであるから,これ
を引用する。
3当審で控訴人が補足した主張
()Bの漁業従事状況と組合員資格について1
ア漁業従事状況について
(ア)Bは,中学卒業後すぐに父の漁業を手伝う形で漁に出るようになり,
昭和35年,大牟田でCという漁業者に雇われ,潜りをするようになり,
翌年,タイラギ潜水器漁業の貝剥きをしていた女性と結婚し,それ以降,
夫婦で漁船漁業を営んできた。タイラギ潜水器漁業の漁期以外の漁業とし
ては,源式網漁業,三重流しさし網漁業,固定式さし網漁業,アサリ漁な
どをしており,1年を通して漁に出ていた。
平成4年,Bは,妻が○であることを告知されたことがきっかけで,夫
婦で海に出る生活をやめ,それ以降,他人の船に雇ってもらうようになっ
た。ただし,アサリ漁の自営は続けた。平成7年,妻が病気で動けなくな
り,病院代と生活費を稼ぐため,トンネル坑夫の出稼ぎに行き始めた。も
っとも,このトンネル坑夫としての仕事は,ある現場での工事が終了すれ
ば,離職することになってしまう期間限定の雇用であり,それ以降,工事
現場を転々としている。出稼ぎを始めた後も,Bは,漁業を継続していた。
タイラギ潜水器漁業については,平成▲年▲月にBの妻が死亡している
が,その後,2年間は,他人の船に雇ってもらって潜っている。また,あ
る現場を離職し次の現場に赴くまでの間は,大牟田で,アサリ漁を自営す
るか,兄の刺し網漁の手伝いをしていた。さらに,トンネル坑夫として従
事している間も,休みのときは,アサリ漁を自営するか,刺し網漁の手伝
いをしていた。
(イ)平成16年に入ると,Bは,静岡県のβのDの現場が終了した後,山
口県γの現場に行くまでの約5か月間,大牟田で漁業で生計を立てていた。
この間の6月には,A漁業協同組合の通常総会が開催されているが,その
際,議長を務めている。山口県γの現場は,わずか半年だけの雇用にすぎ
ず,平成17年3月初めには,離職し,大牟田に戻って漁業に従事した。
しかし,δ海異変のために,漁船漁業は壊滅状態だったので,生計を維持
できるほどの漁獲が上がらず,ついには,組合員費を負担するのが苦しく
なり,同月18日,A漁業協同組合に対して退休願いを提出した。その際,
潜水道具は自宅で保管することにしたが,源式網,アサリネットなどは漁
協の蓄養場で保管してもらうことにした。その後,Bがトンネル坑夫とし
て就職できたのは,同年7月である。
平成20年7月3日に再びA漁業協同組合に加入している。
イBの組合員資格について
(ア)Bの調査段階における電話による回答の内容は,一見すると,本人の
陳述書の内容と齟齬するようにも読めるが,Bによれば,「私にとっては,
タイラギ潜水器漁業がイコール漁業でしたので,その意味で答えたのであ
れば,ありうる内容です。」とされている。すなわち,Bの調査段階にお
ける電話による回答の内容は,タイラギ潜水器漁業に限った回答にすぎず,
それ以外の漁業着業状況については回答していないと考えれば,本人の陳
述書の内容とも齟齬しない。
(イ)平成17年3月末時点での過去の実績の評価として,Bは,かつての
主たる漁業であったタイラギ潜水器の自営はやめたけれども,その後も他
の漁業に従事していたといえる。また,アサリ漁というものは,漁期の限
定がない漁業であり,社会通念からすると,一年中漁期であるアサリ漁を
過去にしていれば,90日を満たさないはずがない。帰省時にアサリ漁が
できるかなどを調査することも着業準備行為である。
「弟の漁業をしばらく手伝っていた2年間」は,漁業従事者である。B
は,調査段階の電話による回答内容で,Bが雇われていない期間を「12
年か,10年」と答えているだけである。Bは「家内が死んでから」とも
回答しているが,死亡したのは平成▲年▲月であるので,少なくともそれ
以降である。
(ウ)Bが従事したトンネル坑夫の仕事は,期間限定の仕事であり,漁業と
の兼業を困難ならしめるような仕事ではない。資格審査時点の直近1年間
で見れば,5か月間もトンネル坑夫として出稼ぎに行くことなく,大牟田
で漁業をしていたのであるから,その一事だけで,Bの過去の実績は十分
認めることができる。さらに,漁業を再開しようと思えばできるだけの漁
具をその後も保管し,現に漁業を再開しているという事実や賦課金の支払
状況等からすると,漁業継続の意思があったと解するのが合理的である。
()水協法と組合員資格の判断基準等について2
ア水協法の沿革等について
(ア)水協法上,地区漁協の正組合員資格は,住居要件と漁業日数要件とが
規定され(水協法18条1項1号),定款がこれに加えて経営規模とか従
業員数あるいは国籍とか居住年数とかの条件を付することを認めず,定款
で任意に選択できるのは限られた範囲内での漁業の日数のみである。漁業
日数でさえ120日以上の日数要件を設けることができない。そもそも,
漁協に限らず,およそ協同組合にとって組合員の資格の範囲をどのように
決めるかは,重要な事項であり,結社の自由(憲法21条)等からしても,
自主的に決定できる事項である。にもかかわらず,各種協同組合中,漁協
のみがかかる規定になっているのは,その生い立ちによる。
(イ)戦後,戦時中の団体制度を廃止し,漁民が自主的に組織する協同組合
組織とすることによって民主的な運営を通じて,漁民の経済的,社会的地
位の向上と,水産業の生産力の発展をはかり漁村の民主化を推進する民主
的な水産業協同組合法が誕生した。このように漁協は,地区内に漁業者の
生産活動の場を規制する管理漁業権の主体として発生したのであり,その
歴史的沿革に基づいて,漁協が経済事業主体としての発展を目指す一方で,
漁協が漁業権管理主体としての役割を担い組合員資格について定款によら
ず法律により規定することにしたのである。言い換えれば,漁業の継続に
不可欠な漁業権を,漁民個人にではなく漁村から発展した漁協という組織
に帰属させた以上は,漁業を現実に営む漁民個人が漁協から恣意的に排除
されないように漁民資格が法定されたものである。
以上のとおり,漁協の地区内に住所を有する漁業者は,漁業日数による
若干の違いを別にすれば,定款の規定を待たずに,法律上ほとんど自動的
に正組合員資格を有することになるというのが漁協の組合員資格の特色で
あり,したがって,漁協の組合員資格に関する法の規制は,法律の定める
規制以上に,漁協でさえ,その組合員資格を制限できないという点に主眼
があるのであり,組合員資格を制限する方向での解釈は,水協法の解釈と
しては妥当しないというべきである。
イ具体的資格要件について
「事業としての漁業」は,漁撈行為のみをいうのではなく,資材の調
達等の準備行為から生産物の販売に至るまでの一連の多様な行為をいい,
これらの行為を行う日数がすべて漁業を営む日数に計算されるもので,
資材の調達等の準備行為から生産物の販売に至るまでの一連の行為の具
体的内容も漁業種によって当然異なるものである。
そして,漁業日数については,同一人が数日は漁業を営み,数日は他
人の営む漁業に従事する場合も,当然これを合算して漁業要件日数を算
定すべきであり,病気あるいは漁協の常勤役員に就任した事等,一時的
理由により漁業日数要件を欠くこととなったが,その事由が消減したと
きは再び漁業に復帰することが明白な場合も,漁民たる資格は継続する
とされるものであり,過去の実績のみで判断されるべきものではない。
漁業種,漁船・漁具の有無,漁協への申出の趣旨,賦課金支払状況,出
資金の返還を求めたかどうかなども,現在及び将来におけるその意思及
び能力,その他客観的状況を示す事実であり,漁業日数要件の総合的判
断の判断要素にされるべきである。
ウ水協法上のあるべき判断基準と被控訴人知事による審査手続について
(ア)Bが資格を喪失しているかどうかは,第一次的には控訴人の認定が必
要であるところ,控訴人はその認定はしていない。また,仮に一定の要件
下で被控訴人知事が認定できる場合があるとしても,その要件は厳格に解
釈・適用されるべきであるが,本件ではそれに該当しない。
(イ)被控訴人知事が漁協の組合員の資格審査を強化し始めたのは,平成1
7年8月ころからであるが,その実態調査票は,「過去の実績」を記載す
る欄しか存在せず,「平成17年3月31日現在」という一律の審査基準
を設け,「主な漁業種類」しか記載できないなど,水協法上の正組合員資
格概念とは到底相容れない内容になっている。このように,水協法上の正
組合員資格概念を制限することは,資格要件を増やしたに等しく,漁協が
定款によってでさえ一定の範囲でしか制限できないとする水協法に明らか
に反する。
()Bの組合員資格認定の経過について3
アBが持参した「退休願」には,「一身上の都合により退休させてくださ
い。」と記載されていたのであって,Bは,その後漁業を行わないというつ
もりではなかったので,漁業を辞めるということではなく,できれば「しば
らく休む」という形にしておいてほしいという気持から,「脱退届」ではな
く,「退休願」としたのである。Bは,被控訴人県からの事情聴取に対して
も,上記「退休願」について「『脱退届』のつもりだったが,記載を間違え
た。」旨回答している。
イ「資格喪失届」は,組合に対し,資格喪失認定の契機を申し出るものに過
ぎない。しかし,資格喪失による脱退の効力が発生するためには,漁協理事
等による資格喪失認定が必要であるから,その契機として重要な資格喪失届
について,定款11条において1条を設けて規定したものといえる。このよ
うに,資格喪失届が,漁協に対して資格認定権限の発動を求めるものである
以上,抽象的な記載や趣旨不明瞭な記載では足りず,自らが資格喪失した旨
を明示する内容でなくてはならない。そして,脱退届や,休業届等,資格喪
失届とは異なる届出が提出された場合,漁協は,当然,当該組合員に組合員
資格があることを前提として扱い,通常は資格喪失認定を行うことなどない
のであるから,仮に,実体的に資格を喪失している可能性のある者から脱退
届や休業届が提出されたとしても,漁協がこれを資格喪失届として扱うこと
は,あり得ない。また,法的にみても,資格喪失したものが何らかの届出を
行ったからといって,その届出を「資格喪失届」と評価することができない
のは,当然のことである。
ウ控訴人理事は,「退休願」を受領する際,Bから,これまで支払い続けて
きた賦課金を支払うのが大変になり,断腸の思いでこの届出を書いたこと,
本当はずっと漁業を続けたいと考えていることなどを聞き,書面の体裁にか
かわらずこれを「脱退届」として扱うこととしたものである。
4被控訴人らの主張
()Bの漁業従事状況と組合員資格の喪失について1
アBは,被控訴人県の調査の際も,14,5年前から自分の船では漁業を
しておらず,他船にも手伝いで乗っており,10年か12年前からは人か
ら雇われても漁業はしていないと答え,同人の娘も10年か12年前から
漁業をしていないことを再確認されて,何ら異議を述べていない。Bが漁
業をやめた時期は,タイラギ潜水器漁業の許可申請をしなくなった時期と
も整合する。調査時点である平成17年夏から10年ないし12年前ころ
(平成5年から平成7年ころ)は,ちょうどタイラギの漁獲量が落ち込ん
でいる時期であり,Bが調査段階で漁業をしなくなったと供述していた平
成5年から平成7年ころ(10年ないし12年前ころ)は,「タイラギが
採れなくなったころ」に当たるのであり,不自然な点はない。
イまた,アサリを採っていた期間は相当限定されていることからすれば,
90日以上もアサリ漁に携わっていたはずはない。Bは,陳述書(甲4
1)においては,アサリ漁をしていたかのように述べるが,平成18年
の審問時においても,Bが漁業を継続していたのかどうかが問われてい
たのであり,仮にBがアサリ漁の自営や手伝いなどで漁業を継続してい
たのであれば,審問時においても当然その旨を供述するはずであるが,
漁業をやめている旨の供述に終始していることからすれば,実際にはB
に漁業の実態はなかったのであり,陳述書の内容は,本件訴訟のために
取り繕ったものと解さざるを得ない。
ウBは,遅くとも平成7年頃には漁業実態がなく,実体上組合員資格
を喪失し,法定脱退となっていたものであり,控訴人のBの組合員資
格についての新たな主張・立証は,時機に遅れた攻撃防御方法にあたり,
安易に認めることは許されない。
()組合員資格喪失の認定について2
ア組合員資格の審査が第一次的には漁協の権限とされるとすれば,組合員
の多くが漁業を営まなくなり,漁業者とはいえなくなったとしても,漁協
理事等が資格喪失を認定しなければ,組合員資格は認められ,漁協は存続
し続けることになるが,これを認めれば,「漁民及び水産加工業者の協同
組織の発達を促進し,もってその経済的社会的地位の向上と水産業の生産
力の増進とを図」るという目的(水協法1条)を実現するべく,法が一定
の組合員数を要求した趣旨(水協法68条4項)が完全に没却されてしま
うことになり,余りに不当な結果となる。水産業協同組合が公共的な性格
も有していること,必要な限度において行政庁の指導,監督も必要となる
ことは原審主張のとおりである。
イ漁協が適正な事業運営を行い,組合員資格の審査を適正に行っていれば
問題は生じないはずであり,控訴人が危惧する事態は杜撰な資格審査しか
行わない漁協でしか起こり得ない。また,仮に,漁協の資格審査が不十分
であっても,行政庁が漁協の健全な発達を図るために必要な限度で監督権
限を行使することによって,上記のような事態は回避することができるも
のである。なお,仮に上記のような事態が生じたとしても,漁協は解散の
登記をするまでは,解散の事実を対外的に主張することはできないのであ
るから(水協法9条,106条),取引の安全を著しく害するということ
にはならない。
ウ被控訴人県が行った調査は,控訴人が適正に業務を執行しているかどう
かを確認するためであり,個々の漁民に対して指導,監督権限を行使した
ものではない。行政庁の漁協に対する指導,監督の一環として,行政庁が
直接に個々の組合員の資格の有無について実態調査をすることはさしつか
えないのであり,仮に,控訴人が主張するように行政庁が個々の漁民に対
する調査を行うことが許されないとすれば,漁協に対する実効的な指導,
監督を行うことは不可能であり,極めて不当な結果となることは明らかで
ある。
()Bの脱退認定について3
ア退休願は,要は組合員の地位を喪失したい趣旨であり,実質,出資金の
返還請求は,出資金自体が組合員である地位に附随して少なくとも1口は
出資しなければならないとされていることの関係から,その返還を受ける
ことは,控訴人組合においても,組合員の地位を喪失したと認めるべき筋
合いのものである。
イ定款第9条「加入」では,出資口数を記載した加入申込書を提出させた
うえ,出資の払込みをさせた後に組合員名簿に記載するとの厳格な扱いが
されている。Bが出資金の返還を受けたとの認識であったことは間違いが
なく,そして,平成17年6月5日の通常総会では,脱退が承認されたの
であるから,Bが組合員でなくなったことは明らかである。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,原審の判断は相当と判断する。その理由は,2項に当審で控訴
人が補足した主張に対する判断を加えるほかは,原判決「事実及び理由」の
「第3当裁判所の判断」のとおりであるから,これを引用する。
2当審で控訴人が補足した主張について
()Bの稼働状況等と組合員資格の喪失について1
ア控訴人は,Bには漁業従事者として評価される実態があったもので,
平成17年3月当時も組合員資格を保有していた旨の補足的主張をし,甲
38ないし43によれば,Bの妻は,平成▲年▲月に死亡したこと,Bは,
平成16年の組合の控訴人組合の通常総会で議長を務めたこと,Bは,平
成20年7月3日の再加入の申込書を提出していることが認められ,また,
Bの陳述書(甲41)には,トンネル掘りのために出稼ぎをしていたが,
帰省したときには,タイラギ漁業をしていたなどの控訴人主張に副う記載
があり,また,原判決第3,3()オのとおり,Bは,本件過料事件の審1
問の際には,一部これに副う供述をしている。
イしかしながら,タイラギ漁業をしていたのも,最後は平成8年頃だっ
たというのであり,アサリ漁業で他漁船に乗せてもらったとしても,自
営とはいえない上,その間の収入額等を認めるべき資料もない。また,
漁船の所有や漁網の保管等をもって,直ちに漁業従事の意思の表れとま
で認めることはできない。
Bに対する漁業従事の実態の調査は,原判決第3,1()ウエオのとお1
りであり,B自身は,Eからの事実確認の電話(乙12)でも,終始
「漁業を辞めて10数年になる。」と繰り返し述べており,「自宅も空
家同然になっている。」というのであるから,Bの妻の死亡が平成▲年
であることからすれば,空家同然となったのは,同年以降といえるもの
の,控訴人においてもBの妻がそのころに病気になったので,出稼ぎに
行くようになった旨の主張をしていることも考え併せると,平成7年前
後にBの出稼ぎが常態化したと認めるのが相当である。そして,タイラ
ギ漁業の漁業許可については,Bがその所有の「○○」で申請して許可
を得たのは,平成3年11月22日付けが最後であり,平成17年1月
27日付けで所有の漁船「○○」の登録を抹消していること,原判決第
3,3()オの本件過料事件の出廷カードにもその職業を「トンネル抗1
夫」と記載していること,家族であるFからのBの稼働状況についての
事情聴取内容(甲13中のもの)は,漁船抹消等の事実の裏付けもあり,
これに作為がなされたとは到底いえないこと,5か月の大牟田での稼働
が現実にされていたとみる資料はなく,漁業の着業準備期間等の状態に
あったと評価するに足る資料もないことなどに照らせば,Bについては,
原判決第3,3()イのとおり,平成7年ころからは漁業に従事している3
といえる状況にはなく,組合員資格の喪失が認められるというべきであ
る。
これに反する控訴人の主張は,到底採用することができない。
()法定解散と認定手続等について2
ア控訴人は,水協法による漁協設立の趣旨や沿革に照らし,組合員資格が
制限されるべきではなく,法定解散とされるには,手続上も所属組合によ
る資格喪失の認定が必要である旨の主張をし,確かに,平成17年3月ま
での間,Bからの組合員資格喪失の届出はされておらず,また,Bは平成
16年度までの組合員としての賦課金の負担をしてきたものである。
イしかしながら,「組合は,組合員が20人未満になったとの事実が発生
したときに解散の効果が生じる」(水協法68条4項)のであり,その組
合員資格について同法18条1項1号は,「当該組合の地区内に住所を有
すること」や「定款で定める漁業従事日数を超える漁民であること」を要
件としており,これを充足しないこととなった組合員は,その資格を喪失
し,したがって,そのために法定組合員数を欠くこととなったときは,法
定解散の要件も充たすことになるものである。そして,資格喪失の場合に
は,「死亡又は解散及び除名」と同列のものとして,予告を必要とするこ
ともなく,当然に脱退することとされている(原判決第2,1()イ)の2
であるから,組合員の資格喪失により法定組合員数を欠くことになったと
きには,当然に法定解散の効果が生ずると解するほかはないというべきで
ある。
控訴人は,当該届出をした組合員の意向や漁業従事状況の把握が不十分
な場合もあり,事実発生のみをもって資格喪失と認めるべきではない旨の
主張をするが,かかる規定が設けられたのは,団体としての漁協組合の設
立の趣旨に沿わないことが当該組合員や組合からみても比較的明確な事実
が発生した際には,その団体の存続を許さないとの趣旨のものであると解
され(漁協自体が公共的性格を有しているところ,組合員資格を有しない
非漁業者が含まれる漁協が存在する等の批判等があり,組合員資格の有無
が純然たる内部問題とはいえないことにつき原判決第3,3()イ(ア)),2
また,組合員住所の変更や漁業従事状況等は,当該組合においても容易に
知り得ることも考慮すれば,上記取扱いが不都合なものとして排斥される
べきであるとはいえない。当該組合員からの脱退の届出がされないときに
は,法定組合員数の欠如が顕在化しないことがあるとしても,これをもっ
て法定解散を否定すべき事情とまで評価することはできない。
ウ控訴人の主張は,組合員の漁業従事実態が形骸化した状況にあっても,
その所属団体の存続を当該組合に委ねるべきであるとの主張ともいえる
のであって,採用することができない。
()退休願とBの組合員資格喪失手続の関係について3
ア控訴人は,Bが平成17年3月に控訴人に提出した「退休願」は,実質
は「脱退届」であり,次期の事業年度末である平成18年3月31日の経
過をもって組合員の資格を喪失する旨の主張をするほか,控訴人の内部手
続上は,同月31日時点でもBが組合員資格を喪失しているものではない
としてるる主張し,手続的には,資格喪失者は,定款11条に従い,資格
喪失の場合には,「直ちにその旨を組合に届け出なければならない」(甲
7)のに,Bから提出されたのは「退休願」であって,その届出がされた
のも前記平成7年からは10年近く経過してからであるから,資格喪失届
出と同一であるとは直ちには断定し難いものがあったといわねばならない。
イしかしながら,Bが漁業従事者とはいえず,組合員資格喪失の状態にあ
ったことは,()アイのとおりであり,調査に当たったEからの電話確認1
に対するBの応答(乙12)からは,組合脱退の手続について,格別の認
識を有していなかったことが窺われるが,漁業に従事しなくなったこと,
資格喪失の事実自体は,終始認めていたのであり,脱退の手続自体には,
関心がなかったといえるものである。
しかして,予告脱退は,組合員が漁業に従事していても,当該組合員の
意思で組合員の地位を失うことを認めているものであり,その場合には,
受け入れる組合においても対応期間等を設けるのが相当として,「60日
前」や「当該事業年度の終わり」の定め(定款14条1項)がされている
というべきである。したがって,同定めは,もっぱら組合の対応を考慮し
て定められたもので,控訴人が当然に拘束されているということはできな
いのであって,早期の脱退の手続が可能であれば,控訴人が承認したとし
て脱退の手続をすることは妨げられていないというべきである。しかして,
その後,控訴人においては,業務報告書においても,3名の組合員が減少
して19名となった旨の報告をし,通常総会でも脱退承認がされた(原判
決第2,1())のであるから,控訴人理事らにおいても,BやGらの組3
合員資格は喪失し,正組合員数は19人となったと判断し,その手続をし
たと解することもできるのであって,いずれにしても,平成17年3月末
をもって控訴人組合員は,法定定員数を下回り,解散となったと認められ
るものである。
控訴人は,平成18年度末をもってBは退会することになる趣旨の主張
をするが,Bからの賦課金徴収は平成16年度分までであることや,同人
の退職については,出資金の払戻しが平成17年6月10日付けでされて
いるものの(甲13),BやGについても同年3月31日付けで出資金未
払金73万2000円があるとして振替伝票を作成して借方に計上し,未
払金に振り替えたこと,同年6月5日の総会でも「脱退の承認」がされ,
議事録上でも既に組合員数は,Bらを除いた19名として記載されたこと
等を敢えて無視し,定款条項の一部のみを捉えて有利に主張するものであ
り,これを採用することはできない。
()その余の主張について4
ア控訴人は,被控訴人県の調査の手続が相当ではない旨の主張をし,同被
控訴人から各漁協に対し,組合員資格に関する実態調査票(甲8中のも
の)の配布がされ,これに基づき,組合員資格の実態の調査がされたこと,
同調査票には控訴人主張の質問事項の記載がされていたことが認められる。
しかし,過去の実績が漁民資格の判断に最も有力な資料であることは間
違いがなく,「主な漁業種類」の回答を求めているものの,記入要領では,
「複数回答可」として「販売額」等も記入するよう求めているのであり,
また,同調査票に疑問があれば,さらに調査することもあり得るところと
いえるから,これらの調査票の配布をもって被控訴人県が偏頗な調査をし
たと認めることはできない。
イそのほかの控訴人主張等を考慮しても,原判決の判断は相当であり,こ
れを覆す事由があると認めることはできない。
3上記のとおりであって,控訴人の主張を採用することはできず,その請求は
いずれも理由がないと認められるから,本件控訴は失当である。
第4結論
よって,本件各控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所第4民事部
裁判長裁判官牧弘二
裁判官川久保政徳
裁判官塚原聡

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興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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