弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
       事   実
 控訴代理人は第一次的に「原判決を取消す。本件を東京地方裁判所に差戻す」、
第二次的に「原判決を取消す。被控訴人らの申請はいずれもこれを却下する。訴訟
費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は
控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張、疎明の提出、援用、認否は、次に附加するほか、原
判決事実摘示の通りであるから、これを引用する。
 控訴代理人は「議事確認書は当時控訴人が組合に対してしていた、現時点では人
員整理を考えていないという言明を文書化したに過ぎず、当時再建の具体的な方法
も決定していなかつたのであるから、同書面に記載された合意は期間の定めのない
ものと解釈さるべきである。仮に期間の定めがあるものと解するとしても、控訴人
には、人員整理をしなければ、事業を閉鎖せざるを得ないような切迫した事情があ
つたのであるから、控訴人が右合意に拘束されないことは明白である。従つて、本
件解雇の効力について判断するためには、さらに、解雇権の濫用の有無について審
理する必要があるが、この点については原審において審理されていないから、原判
決を取消し、本件を原審に差戻すべきである」と述べた。
(疎明省略)
       理   由
 当裁判所も被控訴人らの申請は、原判決の認容したかたちで、理由があると認め
るものであり、その理由は、次に附加するほかは、原判決のそれ(但し、原判決理
由欄二の(二)を除き、かつ、同欄一〇枚目裏八行目に「漸時」とあるのを「漸
次」と訂正し、一二枚目表二行目及び九行目に「もしくは閉鎖」とある部分をいず
れも削除する)と同一であるから、これを引用する。
 控訴人は、本件解雇は、自救行為であるから、有効である旨主張する。本件労働
契約は全組合員の労働契約上の地位の存続を約束するものであるところ、企業が閉
鎖されれば、全組合員の労働協約上の地位が失われることになるのであるから、人
員整理をしなければ企業を閉鎖するよりほかに方法がない場合でも、人員整理をし
てはならない趣旨であるとは到底考えられず、このような場合には、当時これが予
見されたと否とにかかわらず、人員整理をすることができる趣旨と解すべきであ
る。
 よつて、本件解雇に右のようなやむを得ない事情があつたか否かについて判断す
る。東京12チヤンネルの昭和四〇年度の赤字は約一〇億円、昭和四一年三月末の
累積赤字は約二四億円に達したので、控訴人は、赤字の増加を食い止め、企業の再
建をはかるため、同年四月から毎月一億円の普通協力会費の拠出を得て、放送時間
を一日五時間半に半減し、科学教育放送に徹し、営業活動を行わないこととし、こ
れにより生じた過剰人員の整理を行つた結果、本件解雇がなされたことは原審認定
の通りであり、乙第五九号証、原審証人A、B、当審証人Cの各証言には、毎月一
億円の普通協力会費がはいつてきても、企業整備をする必要はあつた旨、あるい
は、再建案実施以前は営業活動をすればするほど赤字は増加する一方であつた旨の
供述記載や供述があるけれども、これらは、後記疎明や認定事実と対比して、採用
し難く、前記事実も控訴人主張のやむを得ない事情の存在を認めさせるに足りない
し、他にこれを疎明するに足る資料はない。むしろ、東京12チヤンネル開局の際
の免許の条件が、全放送時間に対し科学教育番組六〇パーセント以上、一般教育番
組一五パーセント以上、その他の番組二五パーセント以下という内容であつたた
め、控訴人はその経営の財源の大部分を協力会から拠出される普通協力会費に依拠
することとし(経営財源の点は当事者間に争いがない)、娯楽番組を作成してこれ
を販売する等、他の民間放送局が行つているような営業活動は原則として行わない
こととしたが、昭和四〇年度においては普通協力会費は一億四、八〇〇万円しか拠
出されなかつたこと、人員整理ののち東京12チヤンネルは毎月一億円の普通協力
会費を拠出してもらい、娯楽放送も取り入れて営業活動を始め、放送時間も次第に
延長され、昭和四二年一〇月当時は一日一三時間を越えるようになつたことは原審
認定の通りであり、協力会結成の趣旨、東京12チヤンネル開局の際の免許の条
件、成立に争いのない甲第七号証、第一九号証、第二四号証の一、二、第四一号
証、乙第六〇号証の一、原本の存在及びその成立に争いのない同第五七号証、Dの
肩書の部分を除き弁論の全趣旨により成立が認められる甲第一八号証、乙第六二号
証、原審証人Bの証言により成立が認められる同第二八、二九号証の各一、二、
三、原審証人E、当審証人Cの各証言、当審における被控訴人Fの本人尋問の結果
を総合すると次の事実が一応認められる。協力会員は直接控訴人に対し普通協力会
費を支払う義務を負担し、その総額は一か月二億円を越えており、当時経済界が不
況であつたにしても、日立、八幡等の大会社が協力会員として顔を並べていたので
あるから、約束した口数の普通協力会費の拠出はそう困難ではなかつたはずである
のに、その拠出がわずかしかされなかつたため(協力会員である会社の有力者が控
訴人の役員、評議員の大部分を占めていること(この点は当事者間に争いがない)
が反つてその拠出義務の履行されなかつた一因となつたものとも考えられる)、東
京12チヤンネルは科学教育放送に徹することも、営業活動に徹することもでき
ず、その方針がしばしば変つたため、営業活動により十分な収益をあげることがで
きなかつた。そのような状態にあつて、営業収益は、昭和三九年度上半期は制作費
(放送費の一二〇パーセントとした)に達しなかつたが、同年度下半期、昭和四〇
年度上半期、下半期はいずれも制作費を上回り、その差は順次増加してきていた。
その従業員は、制作費を切り詰められながらも、営業収益をあげるためいろいろ努
力していたが、昭和四〇年秋には午後六時四五分から七時まで他局がニユースを放
映している時間に漫画映画を放映して一〇パーセント近い視聴率をあげ、そのころ
広告会社である電通の社員から、東京12チヤンネルも媒体価値が認められ、スポ
ンサーから引合がくるようになつた、もう一息の辛抱だ、などと言われるようにな
り、ようやく事業の前途に希望を持ち始めた。同年一一月ごろG編成局次長兼編成
部長、H制作局次長らを中心として局次長、部課長、副部長らの間に自分達で再建
計画を作つて上層部に提案し、東京12チヤンネルを再建しようという気運が起
り、I編成課長に営業活動により収益の増加をはかる趣旨の、放送内容は現在の東
京12チヤンネルのそれと大差のない再建案(一カ月の予算二億五、〇〇〇万円、
うち制作費一億五、〇〇〇万円、人件費その他一般管理費等一億円)を作成させて
部課長会で検討したりした。然るに、控訴人理事会は昭和四一年三月に至つて、部
課長以下職員の意見を斟酌することなく、前記のような人員整理を含む再建案を提
示したため、部課長のほとんど全員がこれに反対の意思を表明した。部課長会で立
案検討していた前記再建案が実行可能なものであつたことは次の事実からも裏付け
られる。東京12チヤンネルは昭和四一年四月以降一か月一億円の普通協力会費の
拠出を得(実際には控訴人が金融機関から借入れ、協力会員が保証する形式をとつ
た)、昭和四二年四月から営業活動を開始し、放送時間はそのころ約九時間にな
り、昭和四三年一二月には約一六時間になつた。一か月の営業収益も同年五月には
二億円を、同年一一月には二億五、〇〇〇万円を越えるようになり、同年一二月現
在職員約三〇〇人のほか約二三〇人の下請、アルバイト等の労働者がおり、以前は
下請のいなかつた映画部、編成部等でも働いている。
 以上判断した通り、昭和四一年三月当時東京12チヤンネルの赤字が累積し、増
大したのは、控訴人主張にかかる同チヤンネルの営業活動に伴う収支のアンバラン
スに基くものではなく、同チヤンネルが主として科学教育番組を放映し、その財源
の大部分を普通協力会費に依拠する建前であつたのに、普通協力会費がわずかしか
拠出されなかつたため、その経理に赤字が生じたものであり、昭和四一年三月当時
一か月一億円の普通協力会費が拠出されれば、その経理は黒字に転じ、その経済状
態は漸次好転するであろうことは明白であつたこと(実際にも同年四月以降右金額
の普通協力会費が拠出されたことは前記認定の通り)、従つて、同年三月当時控訴
人は人員整理をしなければ、企業閉鎖をせざるを得ないような状態にはなかつたこ
とが一応うかがわれるから、控訴人のこの主張は採用することができない。
 従つて、本件解雇は、本件労働協約に違反していることが明白であるから、その
余の点について判断するまでもなく、無効と解するほかはない。
 よつて、被控訴人らの申請を認容した原判決は、理由は一部異なるけれども、結
局相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、民事訴訟法
第三八四条、第九五条、第八九条を適用し、主文のように判決する。
(裁判官 近藤完爾 田嶋重徳 小堀勇)

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