弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を津地方裁判所四日市支部に差し戻す。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁渡人杉浦酉太郎提出の控訴趣意書に記載するとおりである
から、ここに、これを引用するが、これに対する当裁判所の判断は、次のとおりで
ある。
 控訴趣意第一、二点について
 所論は、先づ、原判決は、原判示第二事実について、被告人のいかなる行為が、
罪となるべき事実に該当するのか、その犯罪なりとされる手段、方法を明示しない
違法がある、という(論旨第一点)。
 原判決が判示第二事実について、被害者Aの事故直前の状態について、「これま
た酔余ふらふらとB橋の方向へ自転車を押していたか又は自転車と共に路上に倒れ
ていたかの何れかと推認される」と択一的に事実を摘示し、そして又被告人の行為
についても単に右Aに「自己の乗用した愛よ○△×□号軽自動二輪車を激突させ」
と判示するのみで、Aの身体のいかなる部位に、いかなる状態で被告人の乗用した
軽自動二輪車を激突させたものかについて、これを具体的に判示していないこと
は、所論のとおりである。ところで、原判決がいかなる必要と理由があればとて、
前記の如く本件被害者Aの事故直前の状態についてことさら択一的記載をしたもの
か理解に苦しむところであり(この点については、なお後記控訴趣意第二点に対す
る判断を参照)、しかも、原判決が被告人が酩酊運転による制禦困難、かつ前方注
視不十分の状態で原判示軽自動二輪車を疾走させて云々と摘示し、この点に被告人
の注意義務違背があるかのような判示をする反面、その後段においては一方「酩酊
中の無謀運転による制禦困難という重大な過失により云々」と摘示し、この点だけ
が本件における被告人の過失であるかの如き判示方法をとつているのであり、実
は、原判決が果して、本件において被告人のいかなる態度をとらえて過失と認定し
たものか判断に苦しむものがある。そして、その前方注視不十分というのも、果し
て具体的にいかなる事実を指称するものか、すなわち、被告人が衝突直前まで被害
者Aを発見しなかつたというのか、それとも、同人との衝突を回避することの不可
能な至近の距離に迫つて初めて同人を認めたというのか、あるいは又、同人を単な
る路上の障害物としてしか認識せず人として認識しなかつた点に注視義務の違背が
あるとするものであるか、これらの点についても、実は原判決それ自体からは判断
つきかねるところである。次に又制禦困難という点についても、同様その具体的内
容については判示するところがないのである。すなわち、被告人において避譲の措
置を講じたが酩酊のためその適正な操作かとれなかつたというのか、あるいは、被
害者Aの発見がおくれたため、同人との至近の距離において衝突を回避するについ
て必要適切な避譲の措置を講ずることができず、同時に又これか避譲の措置を講じ
なかつた、とするものかそれとも又被告人としては酩酊しており、自動車の制禦能
力が低下していたのであるから、元来自動車の運転操縦をすべきではなかつた、と
いうのか、この間の事情についても原判決判示事実か<要旨>らは判然しないものが
ある。更に、被害者Aの衝突直前の状況について原判決は前示の如き択一的認定 要旨>をしているわけであるが、同人が被告人の進路前方を自転車を押してふらふら
と歩いていた場合と、路上に寝転んでいた場合とでは、被告人の側からする発見の
難易、避譲の方法の難易について、自ら異るもののあることは看易い道理であり、
原判決が被告人において衝突直前まで右Aの姿を発見できなかつた点に本件過失の
成立を肯定したものならば格別、前説明のとおりその過失の具体的内容を確定でき
ない本件では、右衝突直前の被害者の状況も又被告人の本件における過失の内容を
確定するについて関係するものでないといい切れないことは説明を要しないところ
である。以上の次第であつて、結局原判決の事実の摘示は、抽象的な法的判断を示
しただけで、罪となるべき事実の具体的摘示に欠くるものがある、といわざるを得
ないのである。(論旨は、被告人が被害者Aの身体の如何なる部分に自車を衝突さ
せたものかについて、判示するところがないというが、被告人がその運転中の軽自
動二輪車をAに衝突させた事実について判示している以上所論の事実についてまで
詳細に判示する必要はないものというべく、この論旨及びその余の論旨第一点中の
弁護人の主張は結局事実誤認の主張に過ぎない。)
 次に、論旨は、原判決が取り調べた証拠によれば、被告人が軽自動二輪車を被害
者Aに激突させて、同人を原判示の死因により死亡させたと認定するについては、
なお合理的疑いを容れる余地があり原判決には明らかに判決に影響を及ぼすべき事
実誤認があるか又は理由不備の違法がある、というのである(論旨第二点)。さ
て、原判決引用の証拠によれば原判示第二事実中、被告人が原判示日時ころ、すな
わち、昭和三四年九月八日午前零時三〇分ころ、飲酒のうえ、愛よ○△×□号軽自
動二輪車に乗り、原判示四日市a町B橋北詰より約一〇〇米北方の県道上に至り、
その進路前方に何か黒い障害物を発見し、これを避譲しようとして、転倒し、自ら
も負傷したこと、その直後、同日午前一時ころ軽自動車を運転して右B橋を渡り南
進中のCが、本件現場の道路中央よりやや西寄りに頭部を北東側に向け、顔面を北
西に向けて腹部、胸部等に重傷を蒙り仰向けに倒れていたAを発見していること、
同人の着用していた作業服胸部に当る部分には明瞭な車輪の痕跡がついており、そ
の痕跡からみて、加重体が同人に接触してから、少しの間重みがかかつていたもの
と認められ、その車輪の痕跡の紋型は、前記被告人の当時乗車していた軽自動二輪
車の紋型と同種のものであること、以上の各事実を認定できるのであつて、これら
の事実によれば、被告人が原判示日時ころ、原判示場所でその乗車中の軽自動二輪
車をAの胸部附近に激突させた事実を認定できるものというべきである。
 ところで、原判決引用の医師D作成のAの死体検案書、鑑定人E作成の鑑定書に
よれば、Aの死因は原判示のように肝臓破裂による失血のためであり、右肝臓破裂
は、肋骨骨折(右鑑定書添付の写真三枚目、第五、第六創間)により生じたもので
あることは明らかである。然るに、右鑑定書及び原審第五回公判調書中の証人Eの
供述記載によれば、Aの屍体の右側第四ないし第一〇肋骨は折損しているが、上部
肋骨には骨折はないので、右肋骨骨折を招いた創傷は巾の広い物体が一度に当つた
ものとは推定できず、巾の狭い物体による数度の衝撃が加わつたために生じたもの
と認められるのであるが(なお、前記E作成の鑑定書添付の写真によれば、Aの胸
部には右肩から右腹部にかけて数個の条痕の存することが認められる。もつとも右
衝撃の回数までを推定することはできない)、原裁判所の証人Fに対する証人尋問
調書及び同人作成の鑑定結果報告書によるも、前記の如くAの着用していた作業服
に被告人の当時乗車していた軽自動二輪車前輪タイヤの紋型と同種の紋型の痕跡の
あることは認められるけれども、それが一回につけられたものか、数回につけられ
たものであるかは確定できないところで、右タイヤの痕跡を以つてしては、被告人
の乗車していた軽自動二輪車がAに数度の衝撃を加えたものと断定することは困難
であるし、右タイヤの痕跡から推認される同人の身体のその部位の衝撃と前記死因
を招いた創傷との因果関係を推認することも又困難である。加えて、被告人がその
乗車中の軽自動二輪車をAに衝突させた直前、原判示場所を通過したと認められる
G、Hの原審公判調書中の証人としての各供述記載によれば、Aは当時原判示場所
の道路中央附近に頭を東南に向け仰向けに寝ており、その南側に同人が使用してい
たと認められる自転車が横倒しになつて置かれていたことが認められるのであり、
(記録を精査してみても、原判決が択一的に認定した如く本件衝突直前Aが酔余ふ
らふらとB橋の方へ自転車を押していたことを認定するに足りる証拠は極めて薄弱
である。)しかも、被告人が前認定のAに衝突した直後の状況は、前記の如く現場
の道路中央よりやや西寄りに頭部を北東に、顔面を北西に向けて仰向けに倒れ、起
き上るような動作をしていたもので(原裁判所の証人Cに対する尋問調書)、同人
の倒れていた位置から西南約二、八米の地位に同人の自転車が前部を南に向け、東
側に倒れており、その前部ヘツドパイプは「く」の字型に曲り、右ハンドル握りに
破損個所が認められるのであつて(司法警察員作成の実況見分調書、前記Cに対す
る証人尋問調書)、これらの状況からすれば、被告人は、当時道路中央附近に仰向
けに寝ていたAに、その運転中の軽自動二輪車の前輪を衝突させたものというべき
であるが、如何なる状況において同人に衝突し、従つて又同人の南側にあつた自転
車までを前示の如く破損させたものか(自転車ハンドルの破損状況からするもこの
部分に相当強い衝撃の加わつていることは明らかである)、すなわち、被告人がA
に衝突すると同時に右自転車をも破損させたものか、それとも両者には各別の衝撃
が時を異にして加わつたものか、そして、それらの衝撃はいずれも被告人の乗車中
の軽自動二輪車によつて加えられたものかこれらの点については原裁判所が取り調
べた証拠によつては未だ十分にそのいずれであるかを解明することはできないので
ある。してみると、被告人の運転中の軽自動二輪車がいかなる状況においてAの身
体に衝突し、数回の衝撃を加え、かつその傍らに置いてあつた自転車までを破損す
るに至つたものかについては、原判決引用の証拠によつては確定することのできな
いものというべく、その結果は、Aの死因となつた前示肋骨骨折による肝臓破裂が
果して、被告人がその運転中の軽自動二輪車をAに衝突させたためだけの原因によ
り生じたものといい得るかどうかについても合理的疑いを残すものといわなければ
ならない。そして、記録に徴し窺い知ることができるように本件事故現場は事故当
時においても自動車等の往来もかなり存する県道であり、その道路中央の、当時街
燈の設備のない暗いところにAが酒に酔い仰向けに寝ていたことから考えれば、本
件においては、被告人の運転中の軽自動二輪車が同人に衝突した直前又は直後に、
被告人以外の自動車等が同人に衝突しなかつたものとも即断できない事情も存す
る。いずれにしても、原判決としては、須らく、Aの死因となつた創傷が、被告人
の運転中の軽自動二輪車が同人に衝突したことに因り生じたものであることを鑑定
等の証拠に基いて確定すべきであつた。
 以上の次第であつて、原判決には、被告人の有罪を断定するについて、罪となる
べき事実を具体的に示さなかつた違法が存するばかりでなく、更に又いわゆる重過
失致死の事実について、Aの死の結果が、被告人の行為に因るものであることの因
果関係を明確にするについて事実の誤認があるものというべく(その誤認が判決に
影響を及ぼすこと明らかである)、論旨は理由があり、原判決はこの点においてと
うてい全部破棄を免れない。
 以上の理由によりその余の論旨に対する判断を省略し刑事訴訟法三九七条一項に
則り原判決を破棄し、なお本件は原審が前記のように審理不尽があるため、当裁判
所において判決するのは適当でないと認めるので同法四〇〇条本文により、これを
原裁判所である津地方裁判所四日市支部に差戻す。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 影山正雄 裁判官 谷口正孝 裁判官 中谷直久)

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