弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人小林直人、同伊達秋雄、同大野正男、同宮原守男、同西田公一の上告
理由第一点について
 所論の公共企業体労働関係法(昭和二七年法律第二八八号による改正前の昭和二
三年法律第二五七号、以下同じ。)三五条但書の規定が憲法二八条及び三一条に違
反するものでないことは、当裁判所の判例(最高裁昭和四四年(あ)第二五七一号
同五二年五月四日大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁)の趣旨に徴して明らかで
ある。論旨は、採用することができない。
 同第二点について
 財政法三三条に規定する予算の移流用に関する大蔵大臣の承認は国家財政全般の
見地からされるべき高度に政治的な裁量行為であるから、右の承認がない以上、公
共企業体の経理を客観的にみるときは目の流用によりその支出が可能であるとの理
由により、公共企業体の職員の給与の改善を内容とする支出であつて既定予算の給
与の目に計上された金額を超えるものを、公共企業体労働関係法三五条但書がよる
べきところとしている同法一六条にいう「公共企業体の予算上……不可能な資金の
支出」にあたらないものとすることは、できない。これと同趣旨の原審の判断は正
当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 同第三点ついて
 所論は、要するに、損失補償的ないし損害賠償的な性格をもつ仲裁裁定に公共企
業体労働関係法三五条但書を適用することは、公共企業体の職員のもつ損失補償請
求権ないし損害賠償請求権を侵害するものであるから、本件仲裁裁定につき同条但
書の適用があるとした原判決は、憲法二九条、三一条、二八条に違反する、という
のである。しかしながら、本件仲裁裁定による権利は、被上告人の経理上の都合に
よりその職員が被つた待遇の切下げを是正する意味合いをもつものであるとしても、
それが仲裁裁定によつて認められたものである以上、債務不履行、不法行為等によ
つて当然に発生する特定の具体的な損失補償請求権ないし損害賠償請求権とは法律
上その性質を全く異にするものといわなければならない。これと異なる見解に基づ
き原判決の違憲をいう所論は、その前提を欠き、失当である。論旨は、採用するこ
とができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    天   野   武   一
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    服   部   高   顯

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