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平成23年2月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成22年(行ケ)第10202号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成23年2月3日
判決
原告株式会社日立国際電気
同訴訟代理人弁理士小野新次郎
小林泰
上田忠
被告特許庁長官
同指定代理人田代吉成
清田健一
田部元史
豊田純一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2007−16474号事件について平成22年5月12日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶
査定不服審判の請求について,特許庁が,補正後の特許請求の範囲の記載を下記2
の(2)とする本件補正を却下し,発明の要旨を下記2の(1)の特許請求の範囲のとお
り認定した上,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その
理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取
消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)出願手続(甲6の2)及び拒絶査定
発明の名称:携帯端末
出願番号:特願2005−256769号(特願2001−22808号の分割
出願)
出願日:平成17年9月5日
原出願日:平成13年1月31日
拒絶査定:平成19年4月27日付け(甲6の13)
(2)審判手続及び本件審決
審判請求日:平成19年6月13日(甲6の14。不服2007−16474号)
手続補正日:平成19年7月11日付け(甲6の15。以下,同日付け手続補正
書による補正を「本件補正」という。)
審決日:平成22年5月12日
審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない。
審決謄本送達日:平成22年5月24日
2本件補正前後の特許請求の範囲の記載
本件補正前及び本件補正後の各特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである。
以下,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を「本願発明」,
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を「本件補正発明」とい
い,本件補正発明に係る明細書(甲6の2・6・10・15)を「本件補正明細書」
という。なお,下記(2)の本件補正後の特許請求の範囲の記載における下線部分は本
件補正による補正箇所であり,「/」は原文における改行箇所である。
(1)本件補正前の特許請求の範囲(甲6の2・6・10)
【請求項1】アンテナを介して信号を送受信する無線部と,/数字キーと機能メニ
ューを表示させるための機能キーとを含む操作キーを備える入力部と,/インター
ネットに接続してWebページの閲覧,メールの作成及び送受信を行う機能を有す
る制御部と,/当該制御部から入力されたデータを表示する表示部と,/を備えた
携帯端末であって,/前記表示部にWebページが表示されている状態で,前記入
力部の機能キーが押下されると機能メニューが表示され,更に操作キーにより該機
能メニューの中からWebページのURLをメールに貼付する機能が選択されると,
前記表示部に表示しているWebページからメールの作成画面に切り換えて表示す
るとともに,前記表示されていたWebページのURLを当該メールに貼り付け,
前記入力部からメール送信の指示が入力されると,指定された宛先に当該メールを
送信し,メールの送信が完了すると,前記表示部にメール送信が完了したことを示
す表示を行い,メール作成画面に移行する前に表示していたWebページへ前記表
示部の表示が戻るようにしたことを特徴とする携帯端末
(2)本件補正後の特許請求の範囲(甲6の2・6・10・15)
【請求項1】アンテナを介して信号を送受信する無線部と,/数字キーと機能メニ
ューを表示させるための機能キーとを含む操作キーを備える入力部と,/インター
ネットに接続してWebページの閲覧,メールの作成及び送受信を行う機能を有す
る制御部と,/当該制御部から入力されたデータを表示する表示部と,/を備え,
Webページが表示されているときに,当該WebページのURLを送信するため
のメール作成画面に切り換えて表示し,メール送信後に前記Webページに戻る携
帯端末であって,/前記表示部にWebページが表示されている状態で,前記入力
部の機能キーが押下されると機能メニューが表示され,更に操作キーにより該機能
メニューの中からWebページのURLをメールに貼付する機能が選択されると,
前記表示部に表示しているWebページからメールの作成画面に切り換えて表示す
るとともに,前記表示されていたWebページのURLを当該メールに貼り付け,
前記入力部からメール送信の指示が入力されると,指定された宛先に当該メールを
送信し,メールの送信が完了すると,前記表示部にメール送信が完了したことを示
す表示を行い,メール作成画面に移行する前に表示していたWebページへ前記表
示部の表示が戻るようにしたことを特徴とする携帯端末
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,①本件補正発明は,下記アないしウの引用例
1ないし3に記載された各発明(以下「引用発明1」ないし「引用発明3」といい,
引用発明1ないし3を併せて「引用発明」という。)及び周知事項に基づいて当業
者が容易に発明することができたものであって,特許法29条2項に該当するもの
であるから,本件補正は,平成18年法律第55号による改正前の特許法17条の
2第5項において準用する特許法126条5項の規定に違反するものとして却下す
べきものであり,②本願発明も,引用発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に
発明をすることができたものであって,同法29条2項の規定により特許を受ける
ことができない,というものである。
ア引用例1:「快適!電子メールの便利ワザこれでアナタもメールの達人
だ!」日経クリック平成10年8月号通巻№56(日経BP社平成10年8月8日
発行)320ないし321頁(甲1)
イ引用例2:矢崎茂明「携帯電話のみでWWWアクセスを実現NTTドコモ
が新サービス「iモード」を99年2月22日に開始」日経オープンシステム平成
11年2月号第71号(日経BP社平成11年2月15日発行)116ないし11
7頁(甲2)
ウ引用例3:特開平10−154097号公報(甲3)
(2)なお,本件審決が認定した引用発明1並びに本件補正発明と引用発明1との
一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア引用発明1:マウスポインターと,インターネットのWebページの表示を
行うブラウザと,メールの作成及び送受信を行うメールソフトを有するソフトウエ
アと,当該ソフトウエアが生成する画面をマルチウインドウで表示する表示部とを
備え,ブラウザからURLを送信するためのメールソフトへURLを直接コピーし
て送信するコンピュータであって,表示部のウインドウ内にWebページが表示さ
れているときに,マウスポインターによってファイルメニューが選択されるとファ
イルメニューの下位メニューが表示され,更に下位メニューの中から,表示中のU
RLをメールソフトにコピーする機能が選択されると,表示中のURLがメールの
本文中に入り,マウスポインターからメール送信のメニューが選択されると,指定
された宛先にメールを送信するメールソフトを備えたコンピュータ
イ一致点:入力部と,インターネットに接続してWebページの閲覧,メール
の作成及び送受信を行う機能を有する制御部と,当該制御部から入力されたデータ
を表示する表示部とを備え,Webページが表示されているときに当該Webペー
ジのURLをメールに貼り付けて,当該メールを送信する端末であって,前記表示
部にWebページが表示されている状態で,前記入力部で押下されると機能メニュ
ーが表示され,更に操作により該機能メニューの中からWebページのURLをメ
ールに貼付する機能が選択されると,前記表示されていたWebページのURLを
当該メールに貼り付け,前記入力部からメール送信の指示が入力されると,指定さ
れた宛先に当該メールを送信するようにしたことを特徴とする端末
ウ相違点1:本件補正発明では,端末がアンテナを介して信号を送受信する無
線部を備えるのに対し,引用発明1では,そのような構成でない点
エ相違点2:本件補正発明では,端末が携帯端末であり,そのため,端末が,
メール作成画面に切り換えて表示するものであり,入力部が,数字キーと機能メニ
ューを表示させるための機能キーとを含む操作キーを備え,入力部の機能キーが押
下されると機能メニューが表示され,更に操作キーにより該機能メニューの中から
機能が選択され,貼付けが,前記表示部に表示しているWebページからメールの
作成画面に切り換えて表示するとともに行われるのに対し,引用発明1では,端末
が携帯端末ではなく,画面をマルチウインドウで表示する表示部を備えた端末であ
り,そのため,端末が,上記のように構成されておらず,入力部が,上記のように
構成されておらず,貼付けが,上記のように処理されていない点
オ相違点3:本件補正発明では,端末が,メール送信後に前記Webページに
戻る機能を備え,メールの送信が完了すると,表示部にメール送信が完了したこと
を示す表示を行い,メール作成画面に移行する前に表示していたWebページへ前
記表示部の表示が戻るようにした端末であるのに対し,引用発明1では,端末が上
記のような構成でない点
4取消事由
本件補正を却下した判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
(1)引用発明の認定の誤り
ア引用発明1について
(ア)本件審決は,引用発明1について,前記第2の3(2)アのとおり認定した。
しかしながら,コンピュータがマウス等のポインティングデバイスを備えること
を一概に否定するものではないが,引用例1には,「マウスポインター」を備える
との明示はなく,本件審決の上記認定には誤りがある。
なお,引用例1の図面には,白抜きの矢印(ポインター)が表示されているが,
このポインターは,マウスポインターによってのみ移動がされるものではなく,表
示位置の移動や操作内容の選択等を行うポインティングデバイスが「マウスポイン
ター」に限られるものではない。
(イ)また,引用例1には,Webページの表示とメール本文の表示とをマルチ
ウインドウシステムで画面上に同時に表示し,メール本文へのURLの貼付け時に
Webページの表示はそのまま消えずに(閉じられずに)継続して表示されること
が開示されているところ,本件審決は,これを看過しており,この点においても,
本件審決の認定には誤りがある。
イ引用発明2について
(ア)本件審決は,引用例2には,「携帯電話のようにその表示面積が小さい装
置でも表示するために,携帯電話に,PCで動作するWWWブラウザの縮小版であ
るWWWブラウザと,電子メール送受信機能とを備えることが記載されている」と
した。
しかしながら,引用例2には,「表示面積」と「WWWブラウザの縮小版」とが
関連している点の示唆はあるものの,「表示面積」と「電子メール送受信機能」と
の関係については特に記載がない。
(イ)また,引用例2には,「コンパクトHTMLは,携帯電話機など表示面積
が小さい装置を前提にした規格」,「既存のHTMLから削除してある機能は,画
像の表示,テーブル,色の指定,フレーム,スタイル・シートなど」と記載されて
いるように,PC(パーソナルコンピュータ)で動作するWWWブラウザが携帯電
話に適用できないことが指摘されているところ,本件審決は,これを看過しており,
この点においても,本件審決の認定には誤りがある。
ウ引用発明3について
本件審決は,引用例3には,「メールの送信が終了すると自動的にメールアプリ
ケーションが終了し,処理を戻すこと」が記載されているとした。
しかしながら,引用例3に記載の「ホームページ管理制御方式」は,各ホームペ
ージをプログラムにより順次監視し,所定期間更新がされていないホームページを
抽出して,当該ホームページの作成管理者に注意喚起のための電子メールを自動送
信し,電子メールが正常に送信終了したことを確認後,電子メールソフトを終了す
るものである。この一連の作業は,ユーザが介在することなくあらかじめプログラ
ムにより設定された手順によりされ,また,当該ホームページについての電子メー
ル送信完了により当該ホームページについての処理を終了し,次のホームページに
ついての作業を,あらかじめプログラムにより設定された手順を実施することによ
り開始するものであり,処理ホームページの表示や表示画面の切換え等を全く必要
としないものであって,ホームページの表示中にユーザの選択によりメールの送信
を行う必要などない。
本件審決は,引用例3の認定においては,同一手順の作業を新たに開始するとの
意味で「処理を戻す」と表示しながら,本件補正発明との対比においては,「処理
を戻す」との表示を,中断していた作業を再開するという意味で使用しており,「処
理を戻す」との記載を二重標準的に使用しているものであって,本件審決の認定に
は誤りがある。
(2)一致点の認定の誤り
ア本件審決は,引用発明1の「マウスポインター」は,ユーザが入力操作する
インターフェース部を構成していることから,本件補正発明の「入力部」に相当す
るとした。
しかしながら,上記(1)ア(ア)のとおり,引用例1には,本件審決が入力部に相当
すると指摘するマウスポインターに関する記載はないから,これに基づく本件審決
の一致点の認定にも誤りがある。
イ本件審決は,引用発明1の「インターネットのWebページの表示を行うブ
ラウザと,メールの作成及び送受信を行うメールソフトを有するソフトウエア」と
の事項は,本件補正発明の「インターネットに接続してWebページの閲覧,メー
ルの作成及び送受信を行う機能を有する制御部」との事項に相当するとした。
しかしながら,「ソフトウエア」とはコンピュータに所定の機能を実行させるた
めの手順を規定するプログラムを意味するものであり,「制御部」とはコンピュー
タにより所定の機能を実現するための手段を意味するものであるから,両者は別異
のものであって,相当する関係にあるものではない。
なお,本件補正発明は,PCのように「Webページとメール作成画面とをマル
チウインドウで同時に表示し,Webページの表示が継続される」ものではなく,
本件補正発明の「制御部」は,Webページからメールの作成画面に切り換えて表
示するとともに,切換え前に表示されていたWebページのURLを当該メールに
貼り付けるという機能を実現するものであるから,このような点からみても,上記
のような機能を持たない「ソフトウエア」と本件補正発明の「制御部」とが相当す
る関係にあるとすることはできない。
ウ本件審決は,引用発明1の「当該ソフトウエアが生成する画面をマルチウイ
ンドウで表示する表示部」との事項は,本件補正発明の「当該制御部から入力され
たデータを表示する表示部」との事項に相当するとした。
しかしながら,本件補正発明の「表示部」はPCのようにマルチウインドウ表示
を行うものではないから,引用発明1の「マルチウインドウで表示する表示部」に
相当するものではない。
エ本件審決は,本件補正発明及び引用発明1のいずれも,「Webページが表
示されているときに当該WebページのURLをメールに貼り付けて,当該メール
を送信する端末」である点で共通するとした。
しかしながら,本件補正発明は,PCのように「Webページとメール作成画面
とをマルチウインドウで同時に表示し,URLの貼付け時にもWebページの表示
が継続される」ものではなく,Webページからメールの作成画面に切り換えて表
示するとともに,切換え前に表示されていたWebページのURLを当該メールに
貼り付けるもので,メールの表示時にはWebページからメールの作成画面に画面
表示が切り換えられているもので,メール作成画面が表示されているときにはWe
bページの表示はされていないのであって,本件審決が,引用発明1及び本件補正
発明のいずれも,「Webページが表示されているときに当該WebページのUR
Lをメールに貼り付けて,当該メールを送信する端末」である点で共通するとした
認定には誤りがある。
(3)相違点1についての判断の誤り
ア本件審決は,引用発明1を知る者が引用例2にみられる記載事項に接すれば,
引用発明1における「インターネットに接続してWebページの閲覧,メールの作
成及び送受信を行う機能を有する制御部を備えた端末」に代えて,引用例2に記載
される「PCで動作するWWWブラウザの縮小版であって表示面積が小さい装置で
表示するためのWWWブラウザと,電子メール送受信機能とを備える携帯電話」を
採用して,引用発明1が備える「Webページが表示されているときに当該Web
ページのURLをメールに貼り付けて,当該メールを送信する」との機能を実現し
ようとすることは自然の成り行きであるとし,また,引用発明1の端末として,引
用例2に記載される携帯端末である携帯電話を採用し,引用発明1が備える機能を
実現しようとするのであれば,端末を「アンテナを介して信号を送受信する無線部
を備える」よう構成することは,当業者であれば適宜になし得る設計的事項である
とした。
イしかしながら,本件補正発明は,表示切換えのための操作の煩雑さを軽減す
るために,Webページが表示されているときにWebページのURLをメールに
貼付する機能が選択されると,当該WebページのURLを送信するためのメール
作成画面に切り換えて表示するとともに,表示されていたWebページのURLを
当該メールに貼り付け,メール送信完了後に先に表示していたWebページに表示
を戻すという一連の制御を行うようにしたものである。
引用発明1が備える「マルチウインドウ表示を行うPCにおいてWebページが
表示されているときにメールソフトを起動しメール作成画面のウインドウを開き当
該WebページのURLをメールに貼り付けて,当該メールを送信する」との機能
を単に携帯電話に移植しても,メール作成画面の表示時にWebページの表示を行
わないで,また,メール送信完了後に,メール作成画面を閉じて,先に表示してい
たWebページに表示を戻すことまでを含めた一連の制御を行うという,PCにお
いては全く想定し得ない上記のような本件補正発明に特有の機能を実現することは
できないものである。
ウまた,本件補正発明は,表示画面の大きさに制約を有する携帯端末にあって
は,PCのようなマルチウインドウ機能を有効に活用できないため,表示切換えの
ためにユーザは小さなキーを何度も押し下げる必要があるところ,このような操作
の煩雑さを軽減するためにされたものである。これに対して,引用例1は,Web
ページのURLを伝えるのが間違えやすいために「アクティブURL」を利用する
ものである。
エ以上のとおり,本件補正発明と引用発明1とでは,目的,課題及び作用効果
が相違しており,本件補正発明のように,Webページからメール作成画面に切り
換えて表示するとともに,表示されていたWebページのURLを当該メールに貼
り付け,メール送信完了後に先に表示していたWebページに表示を戻すことまで
を含めた一連の制御を行うことは,引用発明1では想定し得ないものである。
オそして,本件補正発明の有する機能は,引用発明1が備える機能を単に携帯
電話に移植して得られるものではなく,また,「引用発明1が備える機能を実現し
ようとする」ことと,「端末をアンテナを介して信号を送受信する無線部を備える
よう構成する」こととの間の関連も特段認められない。
カしたがって,相違点1に係る本件補正発明の構成は,引用発明1及び引用例
2の記載事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであるとした本件審決に
は誤りがある。
(4)相違点2についての判断の誤り
ア本件審決は,携帯電話のような携帯端末では,表示に制限があり,表示部の
表示面積が小さいことを前提にしなければならないことから,引用例1に記載され
るようなマルチウインドウの表示を採用することが困難であることが自然と理解さ
れ,そのため,引用例1に記載されるようなマルチウインドウの表示に代えて,表
示部で「画面を切り換えて表示」しようとすることが「自然の成り行き」であると
した。
イしかしながら,引用例2には,「コンパクトHTMLは,携帯電話など表示
面積が小さい装置を前提にしたHTMLの規格」と記載され,携帯端末では,表示
部の表示面積が小さいことからマルチウインドウの表示を採用することが困難であ
り,マルチウインドウ表示を必要とする機能は削除された縮小版のWWWブラウザ
とならざるを得ないことが述べられている。
したがって,引用発明1のようなWebページとメール作成画面との両方を同時
にマルチウインドウで表示するような機能は携帯端末では削除されることが自然の
成り行きであることが明白である。
そして,前記(1)のとおり,引用発明1が備える「Webページが表示されている
ときに当該WebページのURLをメールに貼り付けて,当該メールを送信する」
との機能を単に携帯電話に移植しても,メール送信完了後に先に表示していたWe
bページに表示を戻すことまでを含めた一連の制御を行うという,PCにおいては
全く想定し得ない,本件補正発明に特有の機能を実現することはできないものであ
る。
ウまた,本件審決は,引用発明1が備える機能を実現しようとするのであれば,
そのため,「入力部が,数字キーと機能メニューを表示させるための機能キーとを
含む操作キーを備え,入力部の機能キーが押下されると機能メニューが表示され,
更に操作キーにより該機能メニューの中から機能が選択される」よう構成すること
も,当業者であれば適宜になし得る設計的事項にすぎないとした。
エしかしながら,「引用発明1が備える機能を実現しようとする」ことと,「入
力部が,数字キーと機能メニューを表示させるための機能キーとを含む操作キーを
備え,入力部の機能キーが押下されると機能メニューが表示され,更に操作キーに
より該機能メニューの中から機能が選択される」よう構成することとの間の関連も
特段認められるものではない。
オしたがって,相違点2に係る本件補正発明の構成は,引用発明1及び引用例
2の記載事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであるとした本件審決に
は誤りがある。
(5)相違点3についての判断の誤り
ア本件審決は,引用例3には,「メールの送信が終了すると自動的にメールア
プリケーションが終了し,処理を戻すこと」との記載事項があるとし,その上で,
引用発明1において,引用例2に記載される携帯電話のような携帯端末を採用する
際,更に引用例3の上記の記載事項を適用し,その際,メールの送信完了を文字に
よって表示して確認するとの周知事項を適用することによって,「端末が,メール
送信後に前記Webページに戻る機能を備え,メールの送信が完了すると,表示部
にメール送信が完了したことを示す表示を行い,メール作成画面に移行する前に表
示していたWebページへ前記表示部の表示が戻るようにした端末」とするように
構成することは,当業者であれば適宜になし得る設計的事項にすぎないとした。
イしかしながら,そもそも,引用発明3は,「ホームページ管理制御方式」に
関する発明であり,各ホームページをプログラムにより順次監視し,所定期間更新
がされていないホームページを抽出して,当該ホームページの作成管理者に注意喚
起のための電子メールを自動送信し,電子メールが正常に送信終了したことを確認
後,電子メールソフトを終了するものである。その一連の作業は,ユーザが介在す
ることなく,あらかじめプログラムにより設定された手順によって行われ,また,
当該ホームページについての電子メール送信完了によって当該ホームページについ
ての処理を終了し,次のホームページについての作業を,上記のあらかじめプログ
ラムにより設定された手順を実施することによって開始するものである。
したがって,本件審決は,引用例3における「処理を戻す」との用語を,同一手
順の作業を新たに開始するとの意味で用いている。
ウ他方,本件審決は,本件補正発明との対比において,「処理を戻す」ことに
つき,「メールの送信が終了すると,自動的にメールアプリケーションを終了し,
処理を戻す機能を備える」こととしており,この場合の「処理を戻す」との用語は,
中断していた作業を再開するという意味で使用されている。
このように,本件審決には,「処理を戻す」との用語を二重の異なる意味で使用
し,それに基づいて容易想到性を認めた誤りがある。
エまた,本件審決は,「端末が,メール送信後に前記Webページに戻る機能
を備え,メールの送信が完了すると,表示部にメール送信が完了したことを示す表
示を行い,メール作成画面に移行する前に表示していたWebページへ前記表示部
の表示が戻るようにした端末」という想定態様を前提に,引用発明1に,引用例2
の記載事項及び引用例3の記載事項並びに周知技術を重畳的に適用するものであり,
このような論理付け自体,事後分析的な観点から仮定の上に更に仮定を重ねて構築
された極めて不適切なものである。
オさらに,仮に本件審決の論理付けによるとしても,メール送信完了後に,先
に表示していたWebページに表示を戻すことまでを含めた一連の制御を行うとい
う,PCにおいては全く想定し得ない本件補正発明に特有の機能を実現することは
できないものである。
カ以上のとおりであるから,相違点3に係る本件補正発明の構成は,引用発明
1,引用例2の記載事項,引用例3の記載事項及び周知事項に基づいて,当業者が
容易に想到し得たものであるとした本件審決には誤りがある。
(6)本件補正発明の作用効果に係る判断の誤り
本件審決は,本件補正発明の作用効果は,引用発明1,引用例2及び3の各記載
事項並びに周知事項から当業者が予測できる範囲のものであるとした。
しかしながら,本件補正発明における表示画面の大きさに制約を有する携帯端末
にあっては,表示画面に複数の内容を重畳して表示するとのマルチウインドウ機能
を有効に活用できないため,表示画面の切換えを行う必要があるとともに,マウス
等のポインティングデバイスを保有するPCとは違い,限られた数個のキーしか保
有していないため,表示切換えのための操作の煩雑さを軽減するための工夫も併せ
て必要となる。
そこで,本件補正発明は,携帯端末において,Webページが表示されていると
きにWebページのURLをメールに貼付する機能が選択されると,当該Webペ
ージのURLを送信するためのメール作成画面に切り換えて表示するとともに,表
示されていたWebページのURLを当該メールに貼り付け,メール送信完了後に
先に表示していたWebページに表示を戻すという一連の制御を行うようにしたも
のである。
そして,携帯端末において,Webページからメール作成画面に切り換えて表示
しメール送信完了後に先に表示していたWebページに表示を戻すことまでを含め
た一連の制御を行うことは,マルチウインドウ機能を有するPCにおいては想定し
得ない格別の技術的特徴であって,本件補正発明は,当業者が予測し得ない格別の
作用効果を奏するものである。
(7)小括
以上によると,本件補正発明は,特許法29条2項に該当するものではなく,本
件補正を却下した本件審決の判断は誤りであるから,取り消されるべきものであり,
また,本件補正を却下した本件審決の判断を前提として本願発明も特許を受けるこ
とができないとした判断も誤りとなるから,本願発明も特許されるべきものである。
〔被告の主張〕
(1)引用発明の認定の誤り
ア引用発明1について
(ア)引用例1記載の図面には,「送信(E)」及び「リンクを電子メールで(L)...」
が,白黒反転表示され,当該「リンクを電子メールで(L)...」の表示部分に白抜き
の矢印である「ポインター」が表示されていることから,「マウスポインター」が
記載されていることが明らかである。
したがって,本件審決が,引用例1には,その図面を参照すれば,「コンピュー
タが,マウスポインターを備えること」が記載されていると認定したことに誤りは
ない。
(イ)また,引用発明1について,Webページの表示とメール本文の表示をマ
ルチウインドウで同時に行うことが可能であるとしても,引用例1において,メー
ル本文へのURLの貼付け時にWebページの表示がそのまま消えずに継続される
ことまで開示されているものではない。
イ引用発明2について
(ア)引用例2には,「PCで動作するWWWブラウザの縮小版」であって「表
示面積が小さい装置で表示するためのWWWブラウザ」と「電子メール送受信機能」
とを備える「携帯電話」が記載されている。
(イ)また,引用例2には,PCで動作するWWWブラウザがそのままでは携帯
電話に適用できないことの示唆があり,他にも「既存のHTMLから削除してある
機能は,画像の表示,テーブル,色の指定,フレーム,スタイル・シートなど」と
記載されているとおり,iモード端末において削除してある機能が例示されている
が,この例示された以外のWWWブラウザの機能までも「携帯電話に適用できない」
ことが記載されたものでも示唆されたものでもない。
ウ引用発明3について
引用例3【0012】【0013】【0015】ないし【0021】並びに図
2及び図4によると,「処理を戻す」との事項は,メールの送信が終了すると自動
的にメールアプリケーションを終了し,処理を戻すことであって,メールアプリケ
ーションによる処理からメールアプリケーションを起動する前の処理に戻ることで
あることが認定でき,本件審決が認定した引用例3の記載事項に誤りはない。
(2)一致点の認定の誤り
ア前記(1)ア(ア)のとおり,引用例1には「マウスポインター」が記載されてお
り,引用発明1の「マウスポインター」はユーザが入力操作するインターフェース
部を構成しているから,本件補正発明の「入力部」に相当するとした本件審決の認
定に誤りはない。
イ引用発明1の「コンピュータ」は,「Webページの表示」の機能や「メー
ル作成及び送受信」の機能を実現するためのソフトウエアを動作させるものであっ
て,コンピュータがこれら機能を実行するのであるから,コンピュータからみれば,
上記ソフトウエアはコンピュータの処理内容を規定する「制御部」といえるもので
あることは,当業者であれば容易に認識し得る技術事項である。
したがって,本件審決が,引用発明1の「インターネットのWebページの表示
を行うブラウザと,メールの作成及び送受信を行うメールソフトを有するソフトウ
エア」との事項は,本件補正発明の「インターネットに接続してWebページの閲
覧,メールの作成及び送受信を行う機能を有する制御部」との事項に相当すると認
定したことに誤りはない。
ウ引用発明1と本件補正発明とは,共にWebページを閲覧するための表示を
し,メールを作成・送信するために入力されたデータを表示する機能を有する点に
おいて格別相違するものではない。
したがって,本件審決が,引用発明1の「当該ソフトウエアが生成する画面をマ
ルチウインドウで表示する表示部」との事項は,本件補正発明の「当該制御部から
入力されたデータを表示する表示部」との事項に相当すると認定した点に誤りはな
い。
エ閲覧中のWebページのURLをメールで送信する場合に,それを簡単な操
作で送信するために,本件補正発明及び引用発明1のいずれも,当該閲覧中のWe
bページが表示されている状態にあるときに,ユーザの操作により,当該Webペ
ージのURLをメールに貼り付け,当該メールを送信するようにしたことにおいて,
ユーザの操作開始時点及びその操作による処理内容が共通するものといえる。
本件審決は,本件補正発明及び引用発明1のいずれも,「Webページが表示さ
れているときに当該WebページのURLをメールに貼り付けて,当該メールを送
信する端末」である点で共通するとし,それを達成するための端末ハードウェア構
成の違いについては,「後記の点で相違するものの」と明記して,相違点2におい
てその相違する内容を摘示認定しているものであるから,本件審決の認定に誤りは
ない。
(3)相違点1についての判断の誤り
ア引用例1には,WebページのURLをメールに貼付する機能,その貼付
したメールを送信する機能についての記載又は示唆があり,引用例1に接した当
業者であれば,上記両機能がそれぞれ個別独立的に実行されるものではなく,ユ
ーザが,Webページを閲覧しているときに,WebページのURLをメールに
貼付する機能を選択し,それによりメール作成画面を表示させてWebページの
URLをメールに貼り付けて送信した後に,引き続きWebページを閲覧するこ
とに戻るという一連の流れ(関連)をもった使い方を想定しているものであるこ
とは,格別の困難性を伴うことなく容易に認識し得る技術事項である。
イまた,引用例1には,「WebページのURLを伝えることが間違いやすい」
こと,「OutlookExpressやNetscapeMessengerを使えば送信もカンタン」であっ
て「ブラウザから直接送れる」こと,「便利な機能」であることが記載されており,
引用発明1は,WebページのURLを伝えることが間違えやすいため,Webペ
ージのURLをメールに貼り付けて送信することによって,その操作の煩雑さを軽
減するものであることが認められ,本件補正発明と引用発明1とは,閲覧中のWe
bページのURLをメールで送信する際の煩雑な操作を軽減する点で共通してい
る。
ウ以上のとおり,原告が,本件補正発明と引用発明1とは,目的,課題及び作
用効果が相違すると主張する点は失当である。
エそして,携帯電話における「アンテナを介して信号を送受信する無線部」と
の構成は,あくまで信号の送受信を請け負うのみで,送受信の機能が送受信の対象
となる信号の内容に影響を与えるものではないから,引用発明1が備えるメールを
送信する機能を実現するに当たって,このメール送受信のための構成が携帯電話に
おける送受信のための構成に格別の関与を及ぼすものではない。
オしたがって,相違点1に係る本件補正発明の構成は,引用発明1及び引用例
2の記載事項に基づいて当業者が容易に想到することができたとした本件審決に誤
りはない。
(4)相違点2についての判断の誤り
ア引用例2には,WWWブラウザと電子メール送受信機能を備えた携帯電話が
記載されており,携帯電話を使用して,Webページの閲覧及び電子メールの送受
信が可能であることは,本件に係る原出願時点においても既によく知られていたこ
とである。
また,本件補正発明と引用発明1とは,閲覧中のWebページのURLをメール
で送信する際の煩雑な操作を軽減する点で共通するところ,上記の引用例2の記載
内容から,携帯電話によりWebページを閲覧する場合においても,閲覧中のWe
bページのURLをメールで送信することは,当然実施し得ることとして想定され
るものであるから,引用発明1に引用例2に記載の携帯電話のような携帯端末を適
用することの動機付けが否定されるものではない。
そして,この適用に当たって,携帯端末は,画面が小さく,表示に制約が多く,
複数画面を表示することが困難であることが明らかであるから,ユーザが閲覧して
いるWebページの表示から当該WebページのURLを知らせるためにメール作
成に移行するに当たって,メール作成のための画面表示にWebページの画面表示
から切り換えて表示しようとすることは,当業者であれば適宜に採用し得る設計的
事項である。
イまた,一般に,情報処理端末がその入力部として操作キーを備え,この操作
キーとしてテンキーのような数字キー及びファンクション(機能)キー等が含まれ
ること,このファンクションキーにより機能メニュー等の表示を行うことは,当該
技術分野においては技術常識といえる事項であり,また,当該情報処理端末が備え
る機能(内蔵コンピュータ又は接続するホストやサーバといった外部コンピュータ
により実行される処理)を実現するに当たって,この操作キーを使用することも,
当該技術分野においては技術常識である。
したがって,本件審決が,引用発明1が備える機能を実現しようとするのであれ
ば,そのため,「入力部が,数字キーと機能メニューを表示させるための機能キー
とを含む操作キーを備え,入力部の機能キーが押下されると機能メニューが表示さ
れ,更に操作キーにより該機能メニューの中から機能が選択される」よう構成する
ことも,当業者であれば適宜になし得る設計的事項にすぎないものであるとした点
に誤りはない。
ウ以上のとおりであるから,相違点2に係る本件補正発明の構成は,引用発明
1及び引用例2の記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得たとした本件審決に
誤りはない。
(5)相違点3についての判断の誤り
ア前記(1)ウのとおり,引用例3には,メールの送信が終了すると自動的にメー
ルアプリケーションを終了して処理を戻すこと,すなわち,メールアプリケーショ
ンによる処理からメールアプリケーションを起動する前の処理に戻るとの技術事項
が記載されており,本件補正発明と引用発明3における「処理を戻す」との用語の
意味に相違はない。
イまた,引用発明1に,引用例2の記載事項である携帯端末を採用した場合に
おいても,なお,相違点3の構成に係る処理終了後の戻り機能及びメール送信完了
時の表示機能が相違として残るところ,それぞれは,引用例3の記載事項(メール
アプリケーション終了時の処理戻り機能)及び周知の事項(メール送信完了時の表
示機能。例えば,甲4【0002】)を適用することにより克服されるものである。
その際,引用発明1に対して,引用例2の記載事項,引用例3の記載事項及び上記
周知の事項をそれぞれ順に適用していくに当たって,相互にその適用を妨害排除す
る要因は見いだせず,それぞれ個別の要素技術として適用可能なものであって,こ
れが事後分析的な観点から仮定を重ねて構築された不適切なものということはでき
ない。
ウ以上のとおりであるから,相違点3に係る本件補正発明の構成は,引用発明
1,引用例2の記載事項,引用例3の記載事項及び周知事項に基づいて,当業者が
容易に想到し得たとした本件審決には誤りはない。
(6)本件補正発明の作用効果に係る判断の誤り
前記(3)のとおり,本件補正発明と引用発明1とは,閲覧中のWebページのUR
Lをメールで送信する際の煩雑な操作を軽減する点で共通する。引用発明1は,W
ebページを閲覧しているときに,WebページのURLをメールに貼付する機能
を選択し,メール作成画面を表示させてWebページのURLをメールに貼り付け
て送信した後に,引き続きWebページを閲覧する機能を,一連の制御を想定して
実行しているものである。
また,前記(4)のとおり,引用発明1が備える機能を一連の制御により実行するこ
とは,携帯端末に移植し得るものである。
したがって,本件補正発明の一連の制御が特有の格別の技術的特徴というべきも
のではなく,本件補正発明による作用効果も当業者が予測し得ない格別のものとい
うこともできない。
(7)小括
以上によると,本件補正発明は,特許法29条2項の規定により,特許出願の際
独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正を却下した本件審
決の判断に誤りはなく,本件補正を却下した本件審決の判断に誤りがあることを前
提として本願発明が特許されるべきであるという原告の主張は失当である。
第4当裁判所の判断
まず,本件補正発明について検討した上で,次に,原告主張の取消事由について
検討していくこととする。
1本件補正発明について
(1)本件補正発明の要旨
本件補正発明の要旨は,その特許請求の範囲の請求項1に記載された前記第2の
2(2)に記載のとおりである。
(2)本件補正明細書の記載
本件補正明細書には,次の記載が認められる。
本発明は,インターネットのWebページの閲覧やメールの送受信が可能な携帯
端末,特に,閲覧中のWebページのURLを手軽にメールで送信でき,利便性を
向上させることができる携帯端末についてのものである(【0001】)。
携帯端末において,現在閲覧中のインターネットのWebページのアドレス(U
RL)を,他人にメールで添付して送信しようとする際,従来の携帯端末では,閲
覧中のWebページのURLをメールで送信するには,ユーザは小さなキーを何度
も押し下げる必要があって,煩雑な操作をしなければならず,不便であるとの問題
点があった(【0003】【0012】)。
そこで,本発明は,簡単な操作で閲覧中のWebページのURLを送信すること
ができるようにしようとするものであって,簡単な操作で閲覧中のWebページの
URLをメールで送信することができ,利便性が向上されるものである(【001
3】【0015】)。
本発明は,表示部にWebページが表示されている状態で,入力部の機能キーが
押し下げられると,機能メニューが表示され,更に操作キーにより同機能メニュー
の中から「URLのメール貼付け」が選択されることによって,Webページから
メールの作成画面に切り換えて表示をするとともに,表示されていたWebページ
のURLを同メールに貼り付け,入力部からメール送信の指示が入力されると,指
定された宛先に同メールを送信し,メールの送信が完了すると,表示部にメール送
信が完了したことを示す表示を行い,メール作成画面に移行する前に表示していた
Webページへ表示部の表示が戻るようにしたことを特徴としている(【0014】
【0028】∼【0034】)。
ROM(読み出し専用記憶媒体)は,この携帯端末の各種動作に係るプログラム
を,順次,制御部に出力するものである(【0023】)。
また,RAM(随時アクセスメモリ)は,制御部の制御の下に,制御部又は制御
部を介して入力されたデータを記憶するとともに,記憶しているデータを制御部に
出力する回路部であり,また,表示部は,制御部から入力されたデータを表示する
表示装置であり,さらに,この制御部は,携帯端末全体の制御を行うもので,概ね
CPUから構成され,入力されたデータを処理加工して出力するとともに,接続す
る回路部に制御信号を送って,それらを制御する回路部であって,一般的なブラウ
ザ機能やメール機能を備えており,これにより,本装置は,インターネットのWe
bページの閲覧や,メールの作成及び送受信が可能となっている(【0024】∼
【0026】)。
制御部の処理の流れについてみると,Webページ閲覧中には,制御部は,同W
ebページのURL及び表示内容を保持しており,機能キーが押し下げられて表示
されるポップアップメニューの中から,「URLのメール貼付け」が選択されると,
制御部は,保持しているURLをメールに貼り付ける指示であることを認識し,新
規メール作成画面を表示して,保持していたURLをメール本文中に貼り付ける
(【0036】)。制御部は,入力部からの指示に従って,入力されたメッセージ
及び件名を含むメールを,入力又は指定された宛先に送信する通常のメール送信処
理を行う(【0037】)。制御部は,メールの送信が完了したかどうかを判断し,
完了した場合には,メール送信完了を示すメッセージ「メールの送信が完了しまし
た」を表示部に出力する(【0038】)。そして,制御部は,メール作成画面を
閉じ,閲覧中であったWebページの表示に移行して処理を終了する(【0039】)。
(3)本件補正発明の内容
以上の記載によると,本件補正発明の携帯端末は,ROMから制御部に出力され
たプログラムによって,インターネットに接続してWebページの閲覧をしている
ときに,「URLのメールの貼付け」が選択されると,制御部は,保持しているU
RLをメールに貼り付ける指示であると認識し,保持しているURLを本文中に貼
り付けた新規メール作成画面を表示し,当該メールの入力又は指定された宛先への
送信が完了した場合には,メール送信完了を示す「メールの送信が完了しました」
とのメッセージを表示部に表示した上で,メール作成画面を閉じ,閲覧していたW
ebページを再度表示するという一連の制御を行う機能を実現するものということ
ができる。
なお,本件補正発明に係る請求項1は,画面の切換えをどのようなプログラムの
制御構造により実現するものかについて規定するものではない。そして,本件補正
明細書を見ても,本件補正発明につき,ROMから順次制御部に出力されるプログ
ラムによってブラウザ機能やメール機能が実現されるものであることを記載する
(【0023】∼【0026】)ものの,これらの機能を実現するプログラム内部
の制御構造やこれらの機能を独立したプログラムとして実現するものであるか否か
については何ら記載していないものであって,画面の切換えをどのようなプログラ
ムの制御構造により実現するかについて何ら明らかにするものではない。
したがって,本件補正発明における上記の「一連の制御」のうち,Webページ
が表示されているときに,同WebページのURLを送信するための新規メール作
成画面に切り換えて表示されると,表示部には,それまで表示されていたWebペ
ージ画面が表示されないことになることについては,こうした画面の切換えが,W
WWブラウザとメールソフトという別々の機能を実現する独立したプログラムが切
り換えて実現される場合,独立したプログラムの切換えによらないで実現される場
合,プログラムを切り換えて実現される場合においても,画面表示の有無に関わら
ず両機能がそれぞれ作動し続けているか否かという,マルチタスクによる場合とシ
ングルタスクによる場合とのいずれの場合をも含むものと解されなければならない。
2本件補正を却下した判断の誤りについて
原告による引用発明の認定の誤りの主張は,結局のところ,一致点の認定の誤り
や相違点の判断の誤りに関係するものとして,その前提として主張されているもの
ということができるから,以下,一致点の認定の誤りや相違点の判断の誤りについ
て検討する中で,必要に応じて,引用発明についても検討することとする。
(1)一致点の認定の誤り
ア引用発明1について
(ア)引用例1は,PC雑誌におけるPCに係るメール送信の解説記事であり,
以下の記載がある。
WebページのURLを伝える場合の間違いを防ぐために,メールソフトに付い
ている「アクティブURL」の機能を使用してURL情報を送ることができる。
受信したメールの中に,http://で始まる文字列があれば,自動的に認識して,青
い文字で表示し,これをクリックすると,リンクするように設定されたブラウザが
起動して,該当ページを表示してくれる。
中でもOutlookExpressやNetscapeMessengerを使えば送信も簡単で,ブラウザ
から直接URL情報を送ることができる。
「このWebページはおもしろいよ」とか,「新聞や雑誌のWebページにこん
な記事が出ていたよ」と知らせるのにとっても便利な機能だ。何よりも受信してか
らが楽チンなのだ。
(イ)引用例1の図面の解説には,「InternetExplorer4.0の「ファイル」から
「送信」→「リンクを…」を選択すると現在表示中のURLをメールソフトにコピ
ー」との,また,「本文中にはURLが,添付ファイルにはInternetExplorer4.0
のインターネットショートカットが入る。違うブラウザーのときは本文のURLを
クリック」との記載がある。
また,引用例1の図面には,ポインターによって,InternetExplorer4.0のメニ
ューバーから「ファイル」メニュー,同メニューの中から「送信」メニュー,同メ
ニューの中から「リンクを電子メールで(L)…」メニューと,順次選択されたこと
を示す白い矢印によるポインターの表示がされ,また,同図面と重なるように記載
された図面には,差出人,日時,宛先,件名の記載された受信したメールソフトの
表示であって,その本文中には,クリックするとリンクされたブラウザにより表示
されるWebページのURLの情報が記載されている。
(ウ)上記記載のうち,「InternetExplorer4.0の「ファイル」から「送信」→
「リンクを…」を選択すると現在表示中のURLをメールソフトにコピー」との記
載や,引用例1の発行当時に既に普及していたWindowsパソコンが,マルチウイン
ドウ機能を有していたことに照らすと,引用例1には,コンピュータが,Webペ
ージの表示を行うブラウザとメールの作成及び送受信を行うメールソフトを同時に
起動し,画面にこの2つのアプリケーションソフトを表示しておくこともできるこ
とが記載されているということができる。
(エ)以上の記載によると,引用発明1は,ポインターと,インターネットのW
ebページの表示を行うブラウザと,メールの作成及び送受信を行うメールソフト
を有するソフトウエアと,当該ソフトウエアが生成する画面をマルチウインドウで
表示する表示部とを備え,ブラウザからURLを送信するためのメールソフトへU
RLを直接コピーして送信するコンピュータであって,表示部のウインドウ内にW
ebページが表示されているときに,ポインターによってファイルメニューが選択
されるとファイルメニューの下位メニューが表示され,更に下位メニューの中から,
表示中のURLをメールソフトにコピーする機能が選択されると,表示中のURL
がメール本文中に入り,ポインターからメール送信のメニューが選択されると,指
定された宛先にメールを送信するメールソフトを備えたコンピュータの発明である
ということができる。
イ一致点について
上記ア(エ)のとおりの引用発明1の認定によると,本件補正発明と引用発明1と
の一致点は,本件審決が認定した前記第2の3(2)イのとおりのものと認めることが
できる。
ウ原告の主張について
(ア)原告は,引用例1には,Webページの表示とメール本文の表示とをマル
チウインドウシステムで画面上に同時に表示し,メール本文へのURLの貼付け時
にWebページの表示はそのまま消えずに(閉じられずに)継続して表示されるこ
とが開示されているにもかかわらず,本件審決は,引用例1のコンピュータが,W
ebページの表示とメール本文の表示とをマルチウインドウで同時に表示し,メー
ル本文へのURLの貼付け時にもWebページの表示がそのまま消えずに継続され
ている点を看過していると主張する。しかしながら,原告主張に係る引用例1に図
示された,重なるように記載された2つの画面のうちの1つは,送信側のコンピュ
ータにおけるWWWブラウザであるInternetExplorer4.0のWebページ閲覧画面
からリンクを電子メールで送信する手順を示すものであるのに対し,もう1つは,
そのようにして送信されたメールについての受信側のコンピュータにおけるメール
ソフトの受信画面であるということができ,このことからすると,これらの重なる
ように記載された2つの画面は,同時に表示されるものとして,コンピュータの1
つの画面がマルチウインドウであることを示しているものではなく,それぞれの画
面から実行するそれぞれの動作の説明について,それぞれの画面の表示を重ねて図
示しているものにすぎないということができ,引用例1において,メール本文への
URLの貼付け時に,Webページの表示がそのまま消えずに継続されていること
が必要であることまで開示されているものではない。
もっとも,本件出願当時の技術常識として,InternetExplorerやOutlookExpress
が利用されるWindowsパソコン等のマルチウインドウパソコンにおいては,Web
ページの表示とメール本文の表示をマルチウインドウで同時に行うことが可能であ
るが,他方,マルチウインドウパソコンにおいては,WWWブラウザとメールソフ
トを同時に起動していても,いずれかのソフトウエアの表示を全画面表示とするこ
とによって,一方のソフトウエアに係る画面のみをコンピュータの画面に表示する
ことも可能であり,のみならず,いわゆるスクリプトを利用してあらかじめ作業の
手順を自動化しておくことによって,一方に係る画面を前面に表示させたり,一方
に係る画面のみを表示させることも可能であって,引用例1に開示されたブラウザ
とOutlookExpressやNetscapeMessengerとの連係もこのことを前提としたものと
いうことができる。
したがって,引用発明1においては,Webページの表示とメール本文の表示と
をマルチウインドウで同時に表示し,メール本文へのURLの貼付け時にもWeb
ページの表示がそのまま消えずに継続されていると限定されるものではなく,その
旨をいう原告の主張は採用することができない。
(イ)原告は,本件審決が,引用発明1の「インターネットのWebページの表
示を行うブラウザと,メールの作成及び送受信を行うメールソフトを有するソフト
ウエア」との事項は,本件補正発明の「インターネットに接続してWebページの
閲覧,メールの作成及び送受信を行う機能を有する制御部」との事項に相当すると
したことに対し,「ソフトウエア」と「制御部」とは別異のものであって,相当関
係にあるものではないと主張する。しかしながら,前記1(2)のとおり,本件補正発
明においては,携帯端末の各種動作に係るプログラムが順次制御部に出力され,そ
れによって,制御部は,「インターネットに接続してWebページの閲覧,メール
の作成及び送受信を行う機能を有する」ものである。他方,引用発明1に係る「イ
ンターネットのWebページの表示を行うブラウザと,メールの作成及び送受信を
行うメールソフトを有するソフトウエア」も,同ソフトウエアがコンピュータにお
いて機能するものであるから,その機能する部分として「制御部」に相当する部分
が存在するものということができるから,本件審決が,引用発明1と本件補正発明
との対比において,引用発明1の「インターネットのWebページの表示を行うブ
ラウザと,メールの作成及び送受信を行うメールソフトを有するソフトウエア」と
の事項は,本件補正発明の「インターネットに接続してWebページの閲覧,メー
ルの作成及び送受信を行う機能を有する制御部」との事項に相当するとしたことに
誤りはなく,原告の主張は採用することができない。
(ウ)原告は,本件審決が,引用発明1の「当該ソフトウエアが生成する画面を
マルチウインドウで表示する表示部」との事項は,本件補正発明の「当該制御部か
ら入力されたデータを表示する表示部」との事項に相当するとしたことに対し,本
件補正発明の「表示部」はPCのようにマルチウインドウ表示を行うものではない
から,引用発明1の「マルチウインドウで表示する表示部」に相当するものではな
いと主張する。しかしながら,引用発明1と本件補正発明とは,いずれも,WWW
ブラウザによるWebページの表示やメール作成・送信のソフトウエアによる作成
画面を表示する機能を有しているものであるから,本件審決が,引用発明1と本件
補正発明との対比において,引用発明1の「当該ソフトウエアが生成する画面をマ
ルチウインドウで表示する表示部」との事項は,本件補正発明の「当該制御部から
入力されたデータを表示する表示部」との事項に相当するとしたことに誤りはなく,
原告の主張は採用することができない。なお,本件審決は,相違点2において,本
件補正発明との対比として,引用発明1が画面をマルチウインドウで表示する表示
部を備えた端末であることを認定しているものである。
(エ)原告は,本件補正発明について,メールの表示時にはWebページからメ
ールの作成画面に画面表示が切り換えられているものであり,メール作成画面が表
示されているときにはWebページの表示はされていないのであるから,本件審決
が,引用発明1及び本件補正発明のいずれも,「Webページが表示されていると
きに当該WebページのURLをメールに貼り付けて,当該メールを送信する端末」
である点で共通するとした認定は誤りであると主張する。しかしながら,前記1(3)
及び上記ア(エ)のとおり,本件補正発明及び引用発明1のいずれも,その処理の流
れとして,Webページが表示されているときに,操作をすることにより,当該W
ebページのURLをメールに貼り付け,当該メールを送信する端末であることで
一致しており,また,本件の一致点として,画面にWebページの表示とメール作
成画面とが同時に表示されていることまでをもいうものではないから,原告の主張
は採用することができない。
(オ)なお,原告は,本件審決が,引用発明1の「マウスポインター」はユーザ
が入力操作するインターフェース部を構成しているとして,本件補正発明の「入力
部」に相当するとした一致点の認定は,引用例1にはマウスポインターに関する記
載がない以上,誤りであるとも主張するが,引用発明1が備えるポインターについ
て,「ポインター」とせずに「マウスポインター」と限定したことによって,本件
審決における一致点やその後の相違点1ないし3の認定やその判断に影響を与える
ものではないから,原告の主張は,その前提において,これを採用することができ
ない。
(2)相違点1についての判断の誤り
ア引用発明2について
(ア)引用例2は,システムエンジニアを購読層とする情報誌における,携帯電
話においてWWWアクセスとメール送受信のサービス(NTTドコモの「iモード」)
が実施されるとの解説記事であり,以下の記載がある。
NTTドコモは,携帯電話から銀行振込や航空機,コンサートのチケット予約が
できる新サービス「iモード」を平成11年2月22日から開始し,携帯電話のみ
で,WWWアクセスやインターネット・メールの送受信ができる。
iモードの実体は,携帯電話に,NTTドコモのPC向けパケット交換サービス
である「DoPa」とほぼ同等の通信機能を実装し,WWWブラウザと電子メール
送受信機能を備えたものである。
iモード端末が備えるWWWブラウザ機能は,PCで動作するWWWブラウザの
縮小版だ。URLを入力して,インターネット上のコンテンツにアクセスできるが,
表示に制限がある。表示できるHTMLは,HTML4.0のサブセットで「コンパ
クトHTML」と呼ぶ。コンパクトHTMLは,携帯電話など表示面積が小さい装
置を前提にしたHTMLの規格である。既存のHTMLから削除してある機能は,
画像の表示,テーブル,色の指定,フレーム,スタイル・シートなどである。
携帯電話の液晶部分は小さい。写真1のF501iは,全角で横8文字,縦6行の表
示しかできない。マウスなどのポインティング・デバイスもない。漢字も入力でき
るが,テンキーを使うしかない。PCに比べて不利な点は多々ある。しかし,iモ
ード端末で表示することを意識してページを設計すれば,参照系の業務アプリケー
ションを実装することも十分可能だろう。
iモード端末は,電子メールの送受信機能も備える。iモード端末同士の送受信
だけではなく,インターネット・メールの送受信も可能である。
(イ)以上の記載によると,引用発明2は,PCで動作するWWWブラウザの縮
小版であって表示面積が小さい装置で表示するためのWWWブラウザと,電子メー
ル送受信機能とを備える携帯電話の発明であるということができ,本件審決の引用
発明2の認定に誤りはない。
イ原告の主張について
(ア)原告は,引用例2には,PCで動作するWWWブラウザが携帯電話に適用
できないことが指摘されているが,本件審決はこれを看過していると主張する。し
かしながら,引用例2の上記ア(ア)の記載は,携帯電話では表示画面が小さいとの
制約があることから,既存のHTMLから,画像の表示,テーブル,色の指定,フ
レーム,スタイル・シートなどの機能が削除されたコンパクトHTMLによる表示
がされたWWWブラウザの縮小版が採用されていることを記載するにとどまるもの
であって,PCで動作するWWWブラウザ自体が携帯電話に適用できないことまで
をも記載していると読み取ることはできない。したがって,仮に,原告の主張が,
この認定を超えて,PCで動作するWWWブラウザ自体が携帯電話に適用できない
ことを認定すべきとするものであるとすると,その主張は採用することができない。
(イ)原告は,本件補正発明と引用発明1とでは,目的,課題及び作用効果が相
違しており,本件補正発明のように,Webページからメール作成画面に切り換え
て表示するとともに,表示されていたWebページのURLを当該メールに貼り付
け,メール送信完了後に先に表示していたWebページに表示を戻すことまでを含
めた一連の制御を行うことは,引用発明1では想定し得ないと主張する。
しかしながら,前記ア(イ)のとおりの引用発明2のWWWブラウザと電子メール
送受信機能とを備える携帯電話は,WWWブラウザ機能と電子メール送受信機能と
を実現する情報処理端末であるということができ,他方,引用発明1は,前記(1)
ア(エ)のとおり,閲覧中のWebページのURL情報をメールに貼り付けて送信し
ようとするものであって,WWWブラウザ機能と電子メール送受信機能とを実現す
る情報処理端末であるコンピュータにおいて,これらの両機能を連係しようとする
ものである。そうすると,引用発明1におけるWWWブラウザ機能と電子メール送
受信機能を実現し,これらを連係しようとするコンピュータに換えて,同じく,W
WWブラウザ機能と電子メール送受信機能を実現する情報処理端末である引用発明
2の携帯電話のような携帯端末を採用することの動機付けが認められるものである。
そして,このような引用発明において,携帯電話のような携帯端末を採用するこ
とによって,アンテナを介して信号を送受信する無線部が備わることになる。
(ウ)また,前記1(2)の記載によると,本件補正発明は,簡単な操作で閲覧中の
WebページのURLをメールに貼り付けて送信することができるようにして利便
性を向上しようとするものである。これに対し,前記(1)ア(ア)及び(イ)のとおり,
引用発明1は,閲覧中のWebページのURLを伝えるに際し間違いやすいことか
ら,ほとんどのメールソフトに付いているアクティブURLの機能を利用して,閲
覧中のWebページのURL情報をメールで送信するに当たって,OutlookExpress
やNetscapeMessengerを使えば,ブラウザから直接URL情報をメールで送信でき,
これによって,閲覧中のWebページのURL情報を簡単に送信することができる
というものである。
(エ)そうすると,本件補正発明と引用発明1とのいずれも,閲覧中のWebペ
ージのURL情報を簡単な操作でメールに貼り付けて送信しようとするものであっ
て,その更なる動機が,本件補正発明では,ユーザは小さなキーを何度も押し下げ
る必要があり,煩雑な操作をしなければならず,不便であるとの問題点があったこ
とであり,引用発明1では,WebページのURLを伝える場合の間違いを防ぐた
めであったこととの点において,仮にこれらが相違するということができるとして
も,上記の閲覧中のWebページのURL情報を簡単な操作でメールに貼り付けて
送信したいとし,それを実現しようとするものであるという点で,目的,課題及び
作用効果が一致しているものということができる。
(オ)さらに,引用発明1に係るPCにおいては,URL情報の送信に係る操作
に伴って画面表示が切り換わることを含めた一連の制御を行うことも想定し得るも
のである。すなわち,引用発明1においては,そもそもWeb閲覧中にメール送信
を行うものであるから,メール送信後にWeb閲覧を引き続き行い得るようにする
ことは,表示の制約の有無に関わらず,当然に要請されるものであって,これが引
用例1に記載されていないのは,誌面の制約のある雑誌記事であることなどから,
明示するまでもないものとして整理されているにすぎないと解することができる。
そして,前記1(3)のとおり,本件補正発明は,画面の切換えをどのようなプログ
ラムの制御構造により実現するかを何ら特定するものではなく,WWWブラウザと
メールソフトという独立したプログラムの切換えにより画面の切換えを行うものも
含むものである。また,前記(1)ウ(ア)のとおり,引用発明1においても,ブラウザ
とOutlookExpressやNetscapeMessengerとの連係について,あらかじめ作業の手
順を自動化しておくなどによって,一方に係る画面を前面に表示させたり,一方に
係る画面のみを表示させたりすることも可能であることからすると,引用発明1は,
ブラウザ画面とメールソフト画面を同時に表示するものに限定されるものではなく,
本件補正発明と同様に,これらの各画面を切り換えて表示することがあり得ること
を前提としているものである。
(カ)さらに,上記のとおり,引用発明1における連係機能を備えたコンピュー
タに換えて,引用発明2の携帯電話のような携帯端末を採用することの動機付けが
認められるものであるところ,携帯端末における画面の制約は引用例2が記載する
ところであるから,この適用に対応して,ブラウザ画面とメールソフト画面の同時
表示ではなく,切換え表示がされることは,むしろ必然であるということができる。
(キ)そうすると,引用発明1において,引用発明2の携帯電話のような携帯端
末を適用し,その際,Webページが表示されているときにWebページのURL
情報をコピーしてメール送信の機能が選択されたことに応じて,メール作成画面に
切り換えて表示するとともに,URL情報をコピーし,メール送信後に先に表示し
ていたWebページを表示して,引き続きそのWebページの閲覧を行うようにす
ることは,当業者が容易に行うことができたものということができ,引用発明1の
ようなPCにおいて,こうした一連の制御を行うことは想定し得るものである。
ウ相違点1に係る判断について
以上によると,引用発明1において,引用発明2の携帯電話のような携帯端末を
採用することの動機付けが認められ,また,本件補正発明と引用発明とは,目的,
課題及び作用効果において共通するものであって,引用発明1に引用発明2を適用
することによって,本件補正発明に係る相違点1の構成を想到することは容易であ
るということができる。相違点1の判断に係る原告の主張は採用することができな
い。
(3)相違点2についての判断の誤り
ア原告の主張について
(ア)原告は,携帯端末では,表示部の表示面積が小さいことからマルチウイン
ドウの表示を採用することが困難であり,Webページとメール作成画面との両方
を同時にマルチウインドウで表示するような機能は削除されることが自然の成り行
きであるから,引用発明1が備えるWebページが表示されているときに当該We
bページのURLをメールに貼り付けて送信するとの機能を携帯電話に移植しても,
メール送信完了後に先に表示していたWebページに表示を戻すことまでを含めた
一連の制御を行うという機能を実現することはできないと主張する。しかしながら,
前記(2)イ(イ)のとおり,引用発明1における連係機能を実現する情報処理端末とし
て,引用発明2の携帯電話のような携帯端末を採用することの動機付けが認められ,
また,引用発明1において,引用発明2の携帯電話のような携帯端末を適用し,そ
の際,Webページが表示されているときに,WebページのURL情報をコピー
してメール送信の機能が選択されたことに応じて,メール作成画面に切り換えて表
示するとともに,URL情報をコピーし,メール送信後に先に表示していたWeb
ページを表示して,引き続きそのWebページの閲覧を行うようにすることは,当
業者が容易に行うことができたものであり,引用発明1のPCにおいては,こうし
た一連の制御を行うことも想定し得たものということができる。
なお,前記(2)イ(ア)のとおり,引用例2は,PCで動作するWWWブラウザが携
帯電話に適用できない旨を記載したものではなく,この旨を前提とした原告の主張
は採用することができない。
(イ)また,原告は,「引用発明1が備える機能を実現しようとする」ことと,
「入力部が,数字キーと機能メニューを表示させるための機能キーとを含む操作キ
ーを備え,入力部の機能キーが押下されると機能メニューが表示され,更に操作キ
ーにより該機能メニューの中から機能が選択される」よう構成することとの間の関
連も特段認められるものではないと主張する。しかしながら,一般に,本件補正発
明及び引用発明1のような情報処理端末においては,その入力部として,数字キー
や機能キーを含む操作キーが備えられ,このうちの機能キーが押し下げられると機
能メニューの表示がされ,更に操作キーを押し下げることによって機能メニューの
中から必要な機能が選択されることは,本件の出願と見なされる日において,技術
常識であったということができる。
イ相違点2に係る判断について
以上によると,引用発明1に引用発明2を適用することによって,本件補正発明
に係る相違点2の構成を想到することは容易であるということができる。相違点2
の判断に係る原告の主張は採用することができない。
(4)相違点3についての判断の誤り
ア引用発明3について
(ア)引用例3の公開特許公報には,以下の記載がある。
本発明は,インターネットを利用して閲覧されるホームページの管理方式に関す
る(【0001】)。
ホームページの管理において,ホームページに掲載している関連情報内容の変化
に合わせ,ホームページに掲載している情報を随時更新する必要があるところ,多
数のホームページを作成管理している場合,殊に,複数箇所のホームページ格納記
憶装置を有する大型コンピュータに作成管理しているホームページが分散して格納
されている場合等においては,古い情報をいつまでも掲載しているホームページが
残ったままとされてしまうとの問題点があった(【0002】【0003】)。
そこで,ホームページの更新忘れを未然に回避して古い情報がいつまでもインタ
ーネット上で掲載されることを防ぐとともに,ホームページ作成管理者のホームペ
ージの管理負担を軽減するホームページ管理方式の提供として,本発明は,データ
が更新日からある一定期間経過すると,自動的にホームページ作成管理者に,その
経過の旨を通知する電子メールを自動で配信するようにし,管理者は,忘れること
なく確実にホームページデータの更新をすることができるようにしたものである
(【0005】【0006】【0022】【0023】)。
発明の実施例の処理動作としては,ホームページ管理制御部からホームページア
ドレスを取得し,時刻を制御する時計制御部から現在の時刻(日時情報)を入手し,
ホームページのアドレスやホームページの最終更新日,ホームページ作成管理者の
電子メールアドレスを管理するホームページ管理制御部からホームページの最終更
新日を取得し,次に,情報比較通知処理部にて,現在の時刻がホームページの最終
更新日からN日経過したか否か(最終更新日+N日≧現在の日時)を比較する(【0
016】【0017】)。N日が既に経過している場合には,ホームページ作成管
理者にホームページの最終更新日からN日が経過したことを通知するため,電子メ
ール制御部にて,電子メールソフトを起動し,ホームページ管理制御部からホーム
ページのアドレスとホームページ作成管理者の電子メールアドレスを入手し,宛先
にホームページ作成管理者の電子メールアドレスを,メールの内容にホームページ
アドレスと最終更新日と現在の時刻を格納した上,電子メール送信部から,作成し
た電子メールを送信し,続いて,電子メールが正常に送信終了したことを確認後,
電子メールソフトを終了する(【0018】【0019】)。
他方,現在の時刻が最終更新日からN日がいまだ経過していない場合には,次の
ホームページアドレスを取得するステップへ移行する(【0020】)。そして,
次のホームページについてホームページアドレスを取得し,時計制御部から今の時
刻を入手する処理であるステップに戻り,上記したホームページと同様,現在時刻
と最終更新日との比較判定処理及び現在の時刻がホームページの最終更新日からN
日経過している場合には,ホームページ作成者への電子メール送信処理を行う(【0
021】)。
(イ)以上の記載によると,引用発明3は,メール送信が必要とされる場合に電
子メールソフトを起動し,予定されたメールの送信が終了すると自動的にメールア
プリケーションを終了させる発明であるということができる。
イ原告の主張について
(ア)原告は,本件審決が,引用例3には「メールの送信が終了すると自動的に
メールアプリケーションが終了し,処理を戻すこと」との記載事項があるとしたこ
とに対し,引用例3の認定においては,同一手順の作業を新たに開始するとの意味
で「処理を戻す」と表示しながら,本件補正発明との対比においては,中断してい
た作業を再開するという意味で「処理を戻す」との表示をしており,「処理を戻す」
との記載を二重標準的に使用していると主張する。しかしながら,引用発明3につ
いては,上記ア(イ)のとおり認定するもので,本件補正発明との相違点3について
の本件審決の判断の誤りについて検討すれば足りるものであって,それ以上に,「処
理を戻す」ものであるか否かの認定は不要であるから,原告の主張は,その意味で,
採用し得ない。
そして,前記1(3)のとおり,本件補正発明の「メール送信後に前記Webページ
に戻る」や「メール作成画面に移行する前に表示していたWebページへ前記表示
部の表示が戻る」とは,その文言どおり,メール送信によりメール作成画面が表示
される前に表示されていたWebページを再度表示することを示しているものであ
って,表示の切換えをどのようなプログラムの制御構造によって実現するのかを特
定するものではない。
他方,上記ア(イ)のとおり,引用発明3は,メール送信が終了すると,自動的に
メールアプリケーションを終了するものであるから,これをマルチウインドウパソ
コンを前提とした引用発明1のメールソフトにおけるメール送信に組み合わせるこ
とによって,メール送信後にメールソフトが終了し,メール送信によりメール作成
画面が表示される前に表示されていたWebページを再度表示するという表示の切
換えが実現されることになるものである。
(イ)また,「メールの送信が完了すると,表示部にメール送信が完了したこと
を示す表示を行うこと」は,従来からの周知技術であると認めることができる(甲
4【0002】)。
(ウ)さらに,原告は,本件補正発明について,メール送信完了後に先に表示し
ていたWebページに表示を戻すことまでを含めた一連の制御を行うという,PC
においては全く想定し得ない本件補正発明に特有の機能を実現したものであると主
張する。しかしながら,前記(2)イ(オ)のとおり,引用発明1のようなPCにおいて,
上記のような一連の制御を行うことは想定し得るものであって,原告の主張は採用
することができない。
ウ相違点3に係る判断について
以上によると,当業者において,本件補正発明と同じく,閲覧中のWebページ
のURL情報を簡単な操作でメールに貼り付けて送信しようとする発明である引用
発明1に,引用発明3のメール送信が終了すると自動的にメールアプリケーション
を終了するとの技術的事項を適用し,本件補正発明の相違点3に係る構成を想到す
ることは容易であるということができる。相違点3の判断に係る原告の主張は採用
することができない。
(5)本件補正発明の作用効果に係る判断の誤り
前記(2)イ(ウ)及び(エ)のとおり,本件補正発明と引用発明1とのいずれも,閲覧
中のWebページのURL情報を簡単な操作でメールに貼り付けて送信しようとす
るものであって,目的,課題及び作用効果が一致しているものということができ,
また,両者は,いずれもWebページ閲覧中にメール送信を行うものであるから,
メール送信後にWebページ閲覧を引き続き行えるようにすることは,画面表示の
制約の有無に関わらない当然の要請ということができ,こうした要請に従ったもの
である点においても共通するものである。
このような引用発明1の機能を,携帯端末に利用することも,WWWブラウザと
メール送受信機能を有し,表示面積が小さい装置を前提にした携帯電話についての
引用発明2を適用することにより,当業者において容易に想到することができるも
のであって,本件補正発明の作用効果についても,当業者が予測し得ない格別なも
のということはできない。
したがって,本件補正発明の作用効果に係る原告の主張は採用することができな
い。
(6)小括
よって,本件補正を却下した判断に誤りがあるとの原告主張の取消事由は理由が
ない。なお,原告は,本件補正を却下した判断に誤りがあることを前提として本願
発明が特許されるべきであると主張するが,もとより失当であって,採用すること
ができない。
3結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官本多知成
裁判官荒井章光

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