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令和2年11月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成30年(ワ)第26166号意匠権侵害差止損害賠償請求事件
口頭弁論終結日令和2年8月13日
判決
原告株式会社アールシーコア5
同訴訟代理人弁護士三村量一
同近藤正篤
同小谷磨衣
同訴訟復代理人弁護士野瀬健悟
被告マキタホーム株式会社10
同訴訟代理人弁護士曽我紀厚
同中畑太一
主文
1被告は,別紙被告製品目録1記載の建物を製造し,販売し,販売の申出をし,
又は販売のために展示をしてはならない。15
2被告は,原告に対し,85万1238円及びこれに対する平成30年9月1
0日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用はこれを5分し,その2を被告の負担とし,その余を原告の負担と
する。20
5この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1主文第1項と同旨
2被告は,その占有する別紙被告製品目録1記載の建物を除去せよ。25
3被告は,別紙被告製品目録2記載の建物を製造し,販売し,販売の申出をし,
又は販売のために展示をしてはならない。
4被告は,その占有する別紙被告製品目録2記載の建物を除去せよ。
5被告は,原告に対し,1022万9770円及びこれに対する平成30年9
月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要5
1本件は,意匠に係る物品を「組立家屋」とする意匠登録第1571668号
の意匠権(以下「本件意匠権」という。)を有する原告が,被告に対し,被告
による別紙被告製品目録1記載の建物(以下「被告製品1」という。)の製造,
販売,販売の申出及び販売のための展示(以下,これらの行為を併せて「製造,
販売等」という。)が本件意匠権を侵害すると主張して,意匠法37条1項及10
び2項に基づき,被告製品1の製造,販売等の差止め及び除去を求めるととも
に,原告が販売する別紙原告製品目録記載1ないし3の建物(以下,それぞれ
「原告製品1」などといい,これらを併せて「原告製品」という。)の備える
形態が原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されているとした上で,
被告が別紙被告製品目録2記載の建物(以下「被告製品2」という。)を製造,15
販売等する行為は,原告の上記商品等表示と同一又は類似する商品等表示を使
用するものであり,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号
の不正競争に該当すると主張して,不競法3条1項及び2項に基づき,被告製
品2の製造,販売等の差止め及び除去を求め,さらに,意匠権侵害の不法行為
による損害賠償請求権又は不競法4条による損害賠償請求権に基づき,意匠法20
39条2項又は不競法5条2項によって算定される利益相当損害金929万9
791円及び弁護士費用92万9979円の合計1022万9770円並びに
これに対する訴状送達の日の翌日である平成30年9月10日から支払済みま
で民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年
5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。25
2前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠(以下,書証番号は
特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
原告は,不動産の売買,賃貸,管理及び仲介等を目的とする株式会社であ
る。
被告は,鳥取市内に本店を置く,建築工事の請負業,不動産の賃貸及び売5
買等を目的とする株式会社である。
(2)本件意匠権及びその構成
ア原告は,次の登録意匠(以下「本件意匠」という。)に係る意匠権(本
件意匠権)を有している。
登録番号第1571668号10
出願日平成28年6月7日
登録日平成29年2月10日
意匠に係る物品組立家屋
なお,本件意匠は,組立て家屋のうち,その正面において梁部及び柱部
により形成されるもので,別紙本件意匠公報の【図面】の実線で表され15
た部分に係る部分意匠である。
また,原告は,本件意匠の登録出願と同日に,それに先立つ平成28年
4月1日に当該意匠に係る建物の写真が掲載されたカタログを原告の販
売拠点に送付して公表したとして,この点につき意匠法4条2項の新規
性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書を提出した(甲2020
6)。
イ本件意匠は,別紙本件意匠目録記載のとおりの構成態様を有している
(以下,同目録記載の各構成態様を「構成態様A」の例により記載するこ
とがある。)。
(3)原告による住宅の販売及びその形態25
ア原告による住宅の販売状況
(ア)原告は,「BESS」のブランド名を用いて,自ら又は販社契約に基
づき設置された地区販社等を通じて,一般の個人顧客に木造戸建て住宅
の販売をしており,平成16年1月,「ワンダーデバイス」というシリ
ーズ名のログハウス調木造住宅の販売を開始した。同シリーズには,
「フランクフェイス」という名称のモデルを含む計3種類のモデルが存5
在していた。(甲29,乙4)
(イ)原告は,平成20年4月,「ワンダーデバイス」シリーズの住宅とし
て,別紙原告製品目録記載1の外観を有する製品(原告製品1)に「ト
リムフェイス」とのモデル名を付し,原告又はその地区販社において,
同製品の製造,販売等を開始した。(甲23)10
原告は,平成21年4月,原告製品1の形態を別紙原告製品目録記載
2の外観を有する製品(原告製品2)へモデルチェンジするとともに,
モデル名を「フランクフェイス」に変更した。(甲24,乙4)
原告は,平成28年4月,原告製品2について,「フランクフェイス」
というモデル名は維持しつつ,別紙原告製品目録記載3の外観を有する15
製品(原告製品3)へモデルチェンジし,原告又はその地区販社におい
て,同製品の製造,販売等を開始した。(甲25ないし27)
イ原告製品の形態
原告製品は,いずれにも共通する別紙原告製品形態目録記載の形態(以
下,「原告製品形態」という。)を備えている(以下,同目録記載の各形20
態を「原告製品形態①」の例により記載することがある。)。
なお,原告製品3は,原告製品1及び2と異なり,別紙原告製品目録記
載3のとおり,原告製品形態①にいう柱部及び梁部は2本組みのスチー
ルからなり,これらのスチールを,間隔を開けて配置することにより,
2本のスチールと,その間に形成された空間とによって,3つの矩形が25
構成されている。
また,原告製品3へのモデルチェンジに際して,新たに原告のブランド
名の頭文字である「B」の字が盾にあてがわれたデザインのエンブレム
(以下「本件エンブレム」という。)が,顧客の選択に応じ,建物に付属
するようになった。(甲25)
ウ公知意匠5
原告は,本件意匠に係る出願日である平成28年6月7日よりも前の時
点において,別紙引用意匠目録記載の建物を販売していた(以下,かか
る建物が有する意匠を「引用意匠」という。)。
その正面視方向の外観は同目録第1記載のとおりであり,引用意匠の
正面視の構成態様を分説すると,同目録第2記載のとおりである(以下,10
「構成態様A”」の例により記載することがある。)。
(4)被告の行為
ア被告は,平成30年7月26日までに次の(ア)及び(イ)の土地及び建物を
顧客に販売したほか,遅くとも同月18日の時点で次の(ウ)の土地及び建
物の販売の申出をしていた(甲4,249)。15
(ア)H所在の土地及び建物
物件名H建売
販売価格2150万円(税込)
(以下,同物件の土地を「H土地」と,建物を「H建物」といい,
H土地及びH建物を「H物件」と総称する。)20
(イ)I所在の土地及び建物
物件名I建売
販売価格2550万円(税込)
(以下,同物件の土地を「I土地」と,建物を「I建物」といい,
I土地及びI建物を「I物件」と総称する。)25
(ウ)J所在の土地及び建物(甲4の1)
物件名J
販売価格2500万円(税込)
(以下,同物件の建物を「J建物」といい,同物件の土地と合わせ
て「J物件」という。また,H建物,I建物及びJ建物を「被告各建
物」と総称する。)5
イ被告各建物の構造
被告各建物の正面視方向の外観は,別紙被告各建物目録記載1ないし3
のとおりである(甲4,5)。
3争点
(1)本件意匠権侵害の成否(争点1)10
ア本件意匠と被告製品1の意匠との類否(争点1-(1))
イ無効の抗弁の成否(争点1-(2))
(2)不正競争の成否(争点2)
ア原告製品形態の「商品等表示」該当性(争点2-(1))
イ原告製品形態と被告製品2の形態との同一性ないし類似性(争点2-15
(2))
ウ混同のおそれの有無(争点2-(3))
(3)損害の発生及びその額(争点3)
(4)差止め等の必要性(争点4)
第3争点に関する当事者の主張20
1争点1(本件意匠権侵害の成否)について
(1)争点1-(1)(本件意匠と被告製品1の意匠との類否)について
(原告の主張)
ア意匠に係る形状の類似性について
(ア)被告各建物の構成のうち本件意匠に相当する部分は,別紙被告製品25
目録1記載の基本的構成態様及び具体的構成態様からなる(以下,この
部分を「被告意匠」という。なお,同目録記載の各構成態様を「構成態
様A’」の例により記載することがある。)。
(イ)被告意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様を本件意匠と対比す
ると,柱部の形成位置について,本件意匠の構成態様c1においては,
家屋の中心から「やや左に外れた位置」とされているところ,被告製品5
1の構成態様c1’では,家屋の中心から「やや右又は左に外れた位置」
とされており,その形成位置が異なる場合があるほかは,全て同一であ
る。
そして,上記の差異点についてみるに,柱部が中心からやや外れてい
るという構成態様は,それにより需要者に対して左右対称の十字とは異10
なる略十字の模様であるという印象を与えるものであって,それが右に
外れているか,それとも左に外れているかという差異は,需要者に異な
る印象を与えるものではない。
また,建築業界では,建物の立地条件の配慮により,そのデザインの
左右を反転させるということは通常行われていることであって,特定の15
意匠の左右を反転させた意匠は同一ないし類似と扱うのが,建設業界の
常識である。さらに,特許庁における部分意匠の関連意匠登録事例をみ
ても,登録意匠と面対称の意匠は登録意匠に類似する意匠と扱われてい
ることがうかがえる。
以上によれば,被告意匠は,その形状において,本件意匠と類似する。20
(ウ)被告は,H建物及びI建物のいずれも,柱部及び梁部の断面図が
「凹の字」であって,本件意匠とは異なり,正面から見ても柱部及び梁
部に空間は形成されないと主張する。
しかしながら,本件意匠の意匠登録された部分は,組立て家屋(意匠
法施行規則7条・別表第1の61号)の正面に設けられた柱部及び梁部25
が形成する模様であるから,本件意匠に係る物品の需要者は,本件意匠
を備える組立て家屋をその正面方向から観察することとなる。そうする
と,本件意匠において看者の注意を引き付ける部分,すなわち本件意匠
の要部とは,本件意匠を正面方向から観察した際に看取される柱部及び
梁部の位置関係並びに柱部や梁部が形成する模様ないし形状である。そ
して,上記の各建物は,被告意匠の具体的構成態様のとおり,正面方向5
から観察した際に矩形が形成されていることに変わりはなく,この点に
おいて,原告意匠と上記の各建物に係る被告意匠とは共通する。
したがって,被告の上記主張は,被告意匠が本件意匠の要部を備えて
いること,ひいては,本件意匠と被告意匠とが類似することを否定する
理由に当たらず,失当である。10
イ意匠に係る物品の同一性について
(ア)本件意匠の意匠に係る物品は組立て家屋であり,被告意匠に係る物
品も組立て家屋であるから,それらの物品は同一である。
(イ)被告は,被告が販売等しているのは,全て不動産たる建物であると
ころ,不動産は意匠法上の「物品」に該当しないものとされているから,15
本件においては物品の類似性が観念し得ず,よって本件意匠と被告意匠
の類似性も認められないと主張する。
しかしながら,不動産が,意匠法2条1項にいう「物品」に該当しな
いと解されているのは,工業的に量産されないという不動産の性質に照
らし,不動産に係る意匠が「工業上利用することができる意匠」(意匠20
法3条1項)に該当しないと解されているためである。そうすると,使
用時に不動産となるものであっても,工業的に量産可能な性質を有する
ものであれば「物品」に該当するというべきである。
本件についてこれをみると,被告各建物が枠組壁工法(ツーバイフォ
ー工法)により建築されるものであることや,被告が建築する建物のう25
ち少なくとも2戸が約1か月ないし1か月半という短い工期でその建物
の外観の大部分を完成させていることなどに照らすと,被告各建物は,
規格化され,かつ工場等で量産可能に生産されたパネル(枠材及び構造
用合板)を,あらかじめ定められた手順等で現場において組み立てて完
成されるものであることは明らかである。そうすると,被告各建物は,
「物品」である組立て家屋に該当するから,被告の上記主張は理由がな5
い。
さらに,被告は,被告各建物が販売時に動産として流通するものでは
ないとして「物品」なければ意匠登録は認められないとも主張するが,
被告各建物は,着工前の時点で,動産である上記パネル等の使用が予定
されており,これらは1セットの動産として流通するものであるといえ10
るから,被告の上記主張も理由はない。
ウ小括
以上によれば,被告意匠は,本件意匠に類似するというべきである。
(被告の主張)
ア意匠に係る形状の類似性について15
被告意匠の形状と本件意匠の形状とが類似することは争う。
H建物及びI建物のいずれも,柱部及び梁部の断面図は「凹の字」であ
り,これにより,本件意匠とは異なり,正面から見ても,柱部及び梁部
の中央部に空間が形成されないという差異が生じている。このような差
異が生じる以上,H建物及びI建物の形状に係る被告意匠は,本件意匠20
と類似しない。
イ意匠に係る物品の同一性について
意匠法2条1項の「物品」といえるためには,有体物である動産である
ことを要し,組立て家屋についても,工業的に量産され,販売時に動産
として流通するものでなければ意匠登録は認められない。25
そして,被告各建物は純然たる建物すなわち不動産であって,工業的に
量産したものではないし,販売時には土地と合わせて不動産として販売
されており,動産として流通させたものでもないから,「物品」には該当
しない。
したがって,被告意匠と本件意匠については,意匠に係る物品の類似性
が認められる余地はない。5
ウ小括
以上によれば,本件意匠と被告意匠が類似するとはいえない。
(2)争点1-(2)(無効の抗弁の成否)について
(被告の主張)
ア新規性の欠如について10
(ア)本件意匠は平成28年6月7日に登録出願されたものであり,引用
意匠は同日より前の時点で公知であったところ,本件意匠と引用意匠は,
「家屋の正面視において,地面と垂直に設けられた柱部及び地面と平行
に設けられた梁部によって,略十字の模様が形成されている。」との基
本的構成態様において一致している。15
加えて,本件意匠と引用意匠は,いずれも原告が販売を展開する「ワ
ンダーデバイス」シリーズの一類型であり,両者は同一のデザイン・コ
ンセプトから生じたものである。
このように,基本的構成態様を一にする,同一のデザイン・コンセプ
トから生じた意匠は,必然的に類似するものであるから,差異点がこれ20
らの一致を凌駕するほどに極めて顕著であるといった例外的な場合でな
ければ,類似性は否定されない。しかるに,本件意匠と引用意匠の差異
点は,引用意匠の柱部及び梁部を,その全体の幅を保ちつつ1本から2
本にするという,極めて単純な変更によって生じるものにすぎず,これ
は,顕著な差異点とはいえない。25
(イ)この点,原告は,後記のとおり,本件意匠と引用意匠との差異点が
4つあるとして,新規性の欠如を争っている。しかしながら,原告が指
摘する差異点は,いずれも,具体的構成態様のごく一部分の差異を指摘
するものにすぎず,また,前記(ア)のとおり基本的構成態様は同一であ
るから,新規性の欠如を否定する根拠にはなりがたい。
また,原告は,引用意匠にはひさし様の板が存在するとして,これを,5
本件意匠の新規性の欠如を否定する理由の1つとしているが,本件意匠
の登録出願に先立つ平成20年頃には,ひさし様の板が設置されていな
い建物も存在したから,やはり,新規性の欠如を否定する根拠にはなり
得ない。
(ウ)したがって,本件意匠の登録出願の前から,本件意匠と同一又は類10
似する意匠が存在しており,本件意匠は,その登録出願の時点において
新規性を欠くものであったから,本件意匠権には無効理由がある(意匠
法3条1項1号,同項3号)。
イ創作容易性の存在について
(ア)引用意匠と本件意匠の各構成態様を比較すると,次の2点において15
差異があるものの,そのほかは全て共通している。
(差異点1)
本件意匠は,柱部により(縦棒に相当する)縦長の矩形が形成される
とともに,当該縦長の矩形は,(横方向に)順に接する(当該縦長の矩
形と高さが同一の)3つの矩形からなり,かつ,これら3つの矩形のう20
ち左右の2つの矩形の横幅は,(左右の2つの矩形に挟まれた)中央の
矩形の横幅より長いのに対し,引用意匠は,柱部により(縦棒に相当す
る)縦長の矩形が1つ形成されているが,梁部により形成される横長の
矩形と一体となっているため,独立した矩形を観念できない点(構成態
様d及びd”)。25
(差異点2)
本件意匠は梁部により(横棒に相当する)横長の矩形が形成されると
ともに,当該横長の矩形は,いずれも(縦方向に)順に接する(当該横
長の矩形と横幅が同一の)3つの矩形からなり,かつ,これら3つの矩
形のうち上下の2つの矩形の縦幅は,(上下の2つの矩形に挟まれた)
中央の矩形の縦幅より長いのに対し,引用意匠は,梁部により,(横棒5
に相当する)横長の矩形が1つ形成されているが,柱部により形成され
る縦長の矩形と一体となっているため,独立した矩形を観念できない点
(構成態様e及びe”)。
そして,これらの差異点についても,形成される矩形が1つであるか,
3つに分かれているかという点にとどまり,この差は柱部及び梁部を形10
成する材料が1本か2本かという単純な差にすぎず,このような差は本
件意匠の創作の非容易性を基礎付けるものとはならない。
そうすると,本件意匠は当業者にとって創作容易であるといえる。
(イ)この点,原告は,本件意匠の正面視について,梁部が柱部を左右か
ら挟むように形成されているか,梁部と柱部が一体となるように形成さ15
れているかという引用意匠との差異を指摘して,本件意匠は当業者にと
って容易に想到し得るものではないと主張するが,創作としては単純で
あり,当該創作を反映するデザインとしてもごく一般的であって,本件
意匠に見られるような柱部と梁部の交差部分のデザインに想到するのは
容易である。20
また,原告は,本件意匠と引用意匠との差異点1’ないし4’がある
として,本件意匠は当業者にとって容易に想到し得るものではないと主
張するが,差異点2’及び3’に見られる形状は,基本的構成態様中の
バリエーションとして極めて想到しやすい部類にあるといえるから,創
作は容易である。25
(ウ)以上によれば,当業者は本件意匠を容易に創作できたといえるから,
本件意匠権には無効理由がある(意匠法3条2項)。
(原告の主張)
ア新規性の欠如について
(ア)本件意匠と引用意匠との共通点及び差異点
本件意匠と引用意匠とは,家屋の正面視において,地面と垂直に設け5
られた柱部及び地面と平行に設けられた梁部によって,略十字の模様が
形成されており(構成態様A及びA”),柱部が,地面と垂直に,かつ,
家屋の1階床部から2階天井部の間に形成され,家屋の正面側壁面の前
方(正面側)に,当該壁面から離れて形成されており(構成態様a,f
及びa”,f”),梁部が,地面と平行に,かつ,家屋の左右両側の壁の10
間に形成され,柱部と家屋の正面側壁面との間に設けられた2階床部と
接している(構成態様b,g及びb”,g”)点で共通する。
そして,本件意匠と引用意匠との間には,次の4つの差異点が存在す
る。
(差異点1’)15
本件意匠は,正面視において,梁部が柱部を左右から挟むように形成
され,梁部と柱部によって,縦棒が横棒を貫通するような略十字の模様
が形成されているのに対し,引用意匠は,正面視において,梁部が柱部
と交差するように形成され,柱部と梁部によって,縦棒と横棒が一体と
なった略十字の模様が形成されている点(構成態様c1,c2及びc20
1”,c2”)。
(差異点2’)
本件意匠は,正面視において,柱部により縦長の矩形が形成されると
ともに,当該縦長の矩形は,(横方向に)順に接する(当該縦長の矩形
と高さが同一の)3つの矩形からなり,かつ,これら3つの矩形のうち25
左右の2つの矩形の横幅は,(左右の2つの矩形に挟まれた)中央の矩
形の横幅より長いのに対し,引用意匠は,正面視において,柱部により
縦長の矩形が1つ形成されるが,梁部により形成される横長の矩形と一
体となっているため,独立した矩形を観念できない点(構成態様d及び
d”)。
(差異点3’)5
本件意匠は,正面視において,梁部により,柱部の左右に,それぞれ
横長の矩形が1つずつ形成されるとともに,当該横長の矩形はいずれも,
(縦方向に)順に接する(当該横長の矩形と横幅が同一の)3つの矩形
からなり,かつ,これら3つの矩形のうち上下の2つの矩形の縦幅は,
(上下の2つの矩形に挟まれた)中央の矩形の縦幅より長いのに対し,10
引用意匠は,正面視において,梁部により,(横棒に相当する)横長の
矩形が1つ形成されているが,柱部により形成される縦長の矩形と一体
となっているため,独立した矩形を観念できない点(構成態様e及び
e”)。
(差異点4’)15
本件意匠は,梁部にひさし様の板が付属していないのに対し,引用意
匠は,梁部から,家屋の正面側壁面の前方(正面側)に向かって,ひさ
し様の板が付属しており,梁部と当該板の長さの比は約7対4である点
(構成態様h”)。
(イ)前記(ア)の本件意匠と引用意匠との差異点は,いずれも本件意匠の要20
部に関するものであり,本件意匠が看者の視覚を通じて起こさせる美感
と,引用意匠のそれとは大きく異なる。
a差異点1’について
本件意匠の正面視は,梁部が柱部を左右から挟むように形成され,
梁部と柱部によって,縦棒が横棒を貫通するような略十字の模様が形25
成されている。これに対し,引用意匠は,梁部と柱部によって,縦棒
と横棒が一体となった略十字が形成されている。このため,本件意匠
においては,縦棒の存在感が横棒の存在感を大きく上回り,縦棒によ
って建物の正面視において左右に大きく分断されているような印象を
看者に与えるのに対し,引用意匠では,縦棒と横棒の存在感は同一で
あるため,建物の正面視において4分割されている印象を看者に与え5
る。このことは,差異点2’により相乗的に生じる効果である。
b差異点2’について
本件意匠の正面視において,柱部により縦長の矩形が形成されると
ともに,当該縦長の矩形は,横方向に順に接する,当該縦長の矩形と
高さが同一の3つの矩形からなり,かつ,これら3つの矩形のうち左10
右の2つの矩形の横幅は中央の矩形の横幅より長い。これに対し,引
用意匠の柱部によっては,独立した矩形を観念できない。このため,
本件意匠は,看者に対し,正面視についてくっきりとした印象やメリ
ハリの効いたシャープな印象を与えるのに対し,引用意匠では,のっ
ぺりとした印象及びずっしりとしたやや重みのある印象を与える。よ15
って,看者に与える美感は,互いに大きく異なる。
c差異点3’について
本件意匠の正面視において,梁部により,柱部の左右にそれぞれ
横長の矩形が1つずつ形成されるとともに,当該横長の矩形はいず
れも縦方向に順に接する,当該横長の矩形と横幅が同一の3つの矩20
形からなり,かつ,これら3つの矩形のうち上下の2つの矩形の縦
幅は,中央の矩形の縦幅より長いのに対し,引用意匠の梁部によっ
ても,独立した矩形を観念できない。このため,本件意匠と引用意
匠との間では,看者において,差異点2’と同様の美感の違いを与
える。25
d差異点4’について
本件意匠は,梁部にひさし様の板が付属していないのに対し,引
用意匠は,梁部から,建物の正面側壁面の前方(すなわち,当該建
物の正面に向かう方向)にひさし様の板が付属しており,梁部と当
該ひさし様の板の長さの比は約7対4である。このため,本件意匠
では,看者に対し,略十字の模様が強調された印象を与えるととも5
に,シンプルで洗練された印象を与えるのに対し,引用意匠では,
住宅としての生活感を与える印象を与えるのであって,看者の視覚
を通じて起こさせる美感は大きく異なる。
(ウ)以上のとおり,本件意匠と引用意匠は,意匠の特徴的な部分におい
て4つの差異点が存在し,これらの差異点を総合すると,本件意匠と引10
用意匠とでは,看者の視覚を通じて起こさせる美感が大きく異なるとい
うべきであるから,本件意匠と引用意匠は同一ではなく,かつ,類似し
ない。
よって,本件意匠が,登録出願の時点で新規性を欠いていたとは認め
られない。15
イ創作容易性の存在について
本件意匠と引用意匠との間には,前記アでみたとおり4つの差異点が存
在するところ,これらの差異点はいずれも異なる意匠的効果を有するの
であるから,その着想の点において,独創性が認められる。また,本件
意匠のような柱部や梁部を採用する上では,多様なデザイン面の選択肢20
の中からそのうちの1つとして,創意工夫を施して創作したものである。
さらに,引用意匠には,前記ア(イ)dで指摘したとおり,梁部にひさし
様の板が設置されているところ,この板は,縦方向にシャープな直線を
形成しようとするなどのデザイン思想の実現を阻害するものである。
以上によれば,当業者が,引用意匠から,前記アの4つの差異点に係る25
意匠の構成態様に想到することはいずれも容易であったとはいえないし,
4つの差異点に係る構成態様の全てを組み合わせる形で意匠を創作する
ことはなおさら容易であったとはいえない。
2争点2(不正競争行為の成否)について
(1)争点2-(1)(原告製品形態の「商品等表示」該当性)について
(原告の主張)5
ア商品の形態の特定について
(ア)原告製品形態の「商品等表示」該当性を基礎付ける部分は別紙原告
製品形態目録記載のとおりであり,その構成態様および相互の位置関係
をもって,出所表示機能を有する商品の形態は具体的かつ必要な範囲で
特定されている。10
(イ)この点,被告は,原告製品形態①ないし⑤は,いずれも建物正面視
のみ,更にその一部に関するものでしかなく,一般住宅の特定に必要な
建物全体及び屋根,柱,壁等の構成要素の形態や寸法等が具体的に特定
されていないことなどを根拠として,当該商品の形態の内容が具体的に
特定されていないと主張する。15
しかしながら,「商品等表示」該当性を基礎付ける部分は,あくまで,
商品の形態のうちの特徴的部分であって,必ずしも商品の形態全てが特
徴的である必要はない。これは,商品の形態のうちの一部の特徴的部分
のみが出所表示機能を備えることも十分にあり得るためである。
また,原告は,正面視における特徴的部分を基礎付けるために必要な20
屋根,柱,壁の位置関係について具体的に特定している。そもそも,建
物の需要者は,上記構成要素の形態や寸法の数値によって出所を判断す
るわけではないから,これらは,原告製品形態が「商品等表示」に該当
するかを検討する上で不要な要素であって,被告の主張は失当である。
したがって,被告の上記主張は理由がない。25
イ特別顕著性について
(ア)原告製品形態①ないし⑤が組み合わされた形態を有する建物は,見
る者にシンプルかつ洗練された,オープンな印象を与える,斬新でイン
パクトのあるデザインである。このような建物の正面視の形態は,他社
が販売する住宅には決して見られない,原告製品独自の極めて特徴的な5
外観である。そして,上記の形態は,建物の正面視として考え得る数多
くのデザインの中から選択されたものであり,建物の機能によって必然
的に採用されるものではない。
したがって,原告製品形態は客観的に明らかに他の同種の商品と識別
し得る顕著な特徴を有しており,特別顕著性があると認められる。10
(イ)この点,被告は,原告製品形態①ないし⑤を備える建物が相当数存
在すると主張し,原告製品形態を備えるものとして,複数の建物を掲げ
る。
しかしながら,被告が掲げる建物の正面視の外観は,いずれも原告製
品形態①,②,⑤を備えておらず,また,原告製品形態③及び④を備え15
る建物は1戸のみである。
そもそも,原告は,原告製品形態①ないし⑤を組み合わせたという点
に建物の正面視の形態としての特別顕著性があると主張しているのに対
し,被告は,原告製品形態①ないし⑤について,個々の形態ごとに顕著
な特徴がないと主張するものである。こうした個別の原告製品形態に関20
する反論は,原告製品形態の組合せが特別顕著性を有するという原告の
上記主張に対する反論としては意味をなさず,失当である。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
ウ周知性について
原告製品及び被告各建物は,いずれも木造戸建て住宅である。そのため,25
原告製品及び被告製品の需要者は,一般消費者のうち木造戸建て住宅の
購入に関心のある層である。
そして,被告は,鳥取県内において,原告製品形態と同一の形態的特徴
を備える被告各建物の製造,販売等を行っているところ,このような被
告の行為は,原告製品形態が,上記の需要者間において,特定の事業者
の出所を表示するものとして広く認識されていることを裏付けるもので5
ある。すなわち,上記の行為は,原告製品形態が鳥取県を含む全国にお
いて周知な商品等表示であるため,これを覚知した鳥取県所在の被告に
よって,原告の出所表示機能を有する周知商品等表示にフリーライドす
ることを意図して行われたものにほかならない。
加えて,前記イのとおり,原告製品形態は,それ自体が強力な識別力を10
有している上,原告は,平成20年4月から現在に至るまで,原告製品
形態を備える住宅を全国各地で多数販売し,多額の売上高を記録してい
るほか,同月から現在に至るまで,雑誌やホームページ,製品カタログ,
住宅展示場を通じて,原告製品形態を強調した多くの宣伝広告活動を継
続して行ってきたものである。以上の事情を総合すれば,上記の需要者15
は,遅くとも平成29年3月までには,原告製品形態の出所が原告であ
ると広く認識するに至っているというべきであり,原告製品形態には周
知性があると認められる。
エ小括
以上のとおり,原告製品形態は商品の形態として特定されており,かつ,20
特別顕著性も周知性も認められるから,原告製品形態は「商品等表示」
に該当する。
(被告の主張)
ア商品の形態の特定について
商品の形態が「商品等表示」に該当するためには,当該商品の形態の内25
容が具体的に特定されたものである必要があり,このことは,一般住宅
においても同様である。
しかるに,原告製品形態に係る各構成態様は,いずれも当該建物の正面
視の一部を構成するものにすぎず,一般住宅の形態の特定に必要となる
建物全体の形態や,屋根,柱,壁,窓,バルコニー,玄関といった構成
要素の形態,寸法,位置関係などが具体的に特定されていない。5
したがって,原告製品形態では,一般住宅としての商品の形態が具体的
に特定されているとはいえないから,「商品等表示」に該当する余地はな
い。
イ特別顕著性について
原告製品形態の各構成態様は,いずれも建物の正面視の形態としてはご10
くありふれたものである。現に,原告製品形態の各構成態様の全部又は
一部を有する建物も相当数存在する。
すなわち,まず,原告製品形態①及び②についてみると,正面視が四角
形である建物は多数存在し,そのような建物において,「正面視において,
左右の壁が形成する2つの縦長の矩形,2階天井部が形成する1つの横15
長の矩形」が存するというのは珍しい形態ではない。建物の正面視にお
いて柱部及び梁部によって構成される変形「田」の字を形成するという
点も,形成される形態が「田」の字という簡素かつ単純なものであり,
柱及び梁という建物が機能上必然的に備えるものから構成されているこ
とからすれば,ありふれたものといえる。また,「田」の字のうち縦棒を20
横棒の中心からやや外れた位置に置くという些末な変化を加えたところ
で,それにより形成される形態が他とは異なる顕著な特徴を有するとい
うことにはならない。
次に,原告製品形態③及び④についてみると,これらの形態を有する建
物が複数存在することが認められる以上,特徴的とは到底いえない。25
さらに,原告製品形態⑤についてみても,複数の層が存在する建物にお
いて,層ごとに異なる色を配置することは特徴的とはいえず,それ自体
が極めて特徴的な色彩や模様による場合でない限り,ごくありふれた選
択であるといえる。
このように,原告製品形態は,原告製品の形態を特徴づけたり,他の建
物の外観と大きな差異を生じさせたりしているものではないから,特別5
顕著性は認められない。
ウ周知性について
原告製品形態と同様の特徴を有する建物が従前から存在していたこと,
原告の宣伝広告はその大半が平成26年以降のものであり,原告が周知
性を獲得したと主張する時点である平成29年3月までに3年程度しか10
経過していないこと,原告が挙げる,写真共有SNSのInstagr
am上の投稿の大半が同月以降のものであること,原告が運営する住宅
展示場は,被告の所在地である鳥取県から長時間の移動を要する地域に
存在する上,上記住宅展示場を訪問した鳥取県民は非常に少数であるこ
とに照らすと,原告製品形態が周知性を有していたとは認められない。15
エ小括
このように,原告製品形態は商品の形態として特定されておらず,仮に
特定がなされているとしても,原告製品形態には特別顕著性も周知性も
認められないから,原告製品形態が「商品等表示」に該当するとはいえ
ない。20
(2)争点2-(2)(原告製品形態と被告製品2の形態との同一性ないし類似性)
について
(原告の主張)
被告が製造し,販売し,販売の申出をし,及び販売のための展示を行った
被告各建物,ひいては被告製品2は,いずれも原告製品形態と同一の形態的25
特徴を備えており,正面視における形態は同一である。
(被告の主張)
争う。
(3)争点2-(3)(混同のおそれの有無)について
(原告の主張)
ア(ア)そもそも,原告製品形態それ自体,商品識別力が強い上,原告が「ト5
リムフェイス」(原告製品1)及び「フランクフェイス」(原告製品2,
3)の販売においてブランディングに努めた結果,原告製品形態を有す
る原告製品は強力なブランドイメージを有するに至っている。そのため,
原告製品形態を有する建物については,需要者に原告製品と誤信させる
おそれが大きい。そして,原告製品形態と被告製品2の正面視は同一で10
あるか又は極めて類似しているから,被告製品2が原告の製造販売等す
る商品と混同されるおそれがある。
また,原告と被告とでは業務の分野は同一であり,商圏も重なってい
ること,被告が,原告の宣伝において用いられたコンセプトワード「小
さく建てて,大きく暮らす。」と酷似した「ちいさく建てておおきく15
暮らす」という表現を被告のInstagramの公式アカウントの紹
介文において用いて,H建物等の製品画像を投稿していることからすれ
ば,少なくとも,被告が被告製品2を販売する行為は,需要者をして,
原告と被告の間に営業上の何らかの提携関係があると誤信させるおそれ
があるというべきである。20
さらに,混同のおそれがあることは,実際に,原告製品の需要者が原
告に対し,原告製品形態と「そっくり」な家が販売されていると連絡し
たことや,Instagram上で混同をきたしている内容の投稿がな
されていることなどからも裏付けられている。
(イ)一般社団法人不動産流通経営協会が令和元年10月に公表した「不25
動産流通業に関する消費者動向調査<第24回(2019年度)>」の
「調査結果報告書」(甲251。以下「消費者動向調査結果報告書」と
いう。)によれば,新築住宅購入者及び既存住宅(中古住宅)購入者の
9割超が不動産情報サイトを利用した情報収集を行っているとされてい
る。また,同報告書によれば,新築住宅購入者のうち半数程度が新築住
宅のみならず既存住宅についても検討しており,既存住宅購入者のうち5
7ないし8割程度が既存住宅のみならず新築住宅についても検討してい
たとされる。このように,住宅購入者の大半がインターネットを利用し
て不動産情報を取得しており,住宅購入(希望)者は,不動産情報サイ
トにおいて,複数の販売会社の住宅情報を横断的に収集するとともに,
新築住宅と既存住宅を区別せずに情報収集を行っているという実情があ10
る。
そして,同一のウェブサイト上で,原告製品の既存住宅,新築住宅と,
原告製品と酷似する複数の被告の新築住宅に係る住宅情報の概要が画像
とともに一覧として表示されており,販売者が誰であるかということよ
りも,住宅の画像が最も需要者の眼を惹くこととなる。また,不動産情15
報サイトを利用した住宅の購入希望者は,他のウェブサイトに移動した
場合であっても,不動産情報サイト上での過去の閲覧履歴に基づいて,
他のウェブサイト上で住宅の画像等の住宅情報が掲載された広告を目に
することとなる。
このような住宅の販売態様の実情に照らせば,原告製品態様に興味を20
有する需要者が,これと類似する被告製品について,原告製品と混同し
て問合せを行い,そのまま商談に進んでしまうおそれは非常に大きいと
いうことができる。
イ(ア)被告は,被告各建物に本件エンブレムが付されていないことを根拠と
して,混同のおそれがあることを争っている。25
しかしながら,原告が販売する建物に必ず本件エンブレムが付される
とは限らない。そもそも,本件エンブレムの有無にかかわらず,原告製
品形態それ自体に出所表示機能が認められるのであるから,本件エンブ
レムの存否は,混同を生じるおそれの有無には影響を与えない。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
(イ)被告は,木造の戸建住宅の購入を検討している者すなわち需要者は,5
購入前に十分に対象を吟味し,購入するかどうかを慎重に検討するのが
通常であるから,原告が主張するような混同を生じるおそれは認められ
ないと主張する。
しかしながら,不競法2条1項1号の「混同」とは,混同が現に発生
している必要はなく,混同が生じるおそれがあれば足りると解される。10
また,混同のおそれが生じる結果についても,様々な誤認混同の予想さ
れる法的な評価としての結果が営業上の利益を侵害し又は侵害するおそ
れがあるような程度の結果と最終的に判断されるものでよいと解される。
この点,被告が原告製品形態を無断で使用する行為は,原告の商談の機
会を喪失させたり,原告の営業上の信用にフリーライドする結果となっ15
たりすることとなるから,被告の行為が需要者をして混同を生じさせる
おそれのある行為であることは明らかである。
したがって,被告の上記主張は,不競法の趣旨と大きくかい離するも
のであって,理由がない。
(ウ)被告は,原告製品と被告製品2とでは対象としている需要者が異な20
ると主張する。
しかしながら,原告製品とH建物,I建物とで価格に特段の差異がな
いこと及び原告製品のほぼ全てが自宅として購入,利用されていること,
被告も自然派志向の建物としてH物件及びI物件を売り出していること
などの事情に照らせば,両者の需要者は共通する。25
加えて,原告は,原告製品形態を有する原告製品について鳥取県内に
おける購入希望に対応し得る状況にあり,現に,鳥取市において原告製
品の販売実績があるのであるから,鳥取市内に通勤可能な場所の建物を
求める被告の需要者は,原告の需要者でもある。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
ウ以上によれば,被告製品2は原告製品と混同を生じるおそれがあるとい5
うべきである。
(被告の主張)
ア混同を生じさせるか否かを判断するに当たっては,需要者一般の心理に
基準を置き,日常一般に払われる注意力の下で,混同のおそれがあるか否
かを検討するべきである。10
これを本件についてみるに,原告製品には本件エンブレムが付されてい
るが,H建物及びI建物にはいずれも本件エンブレムが付されていない。
本件エンブレムは,それ自体が強力な出所表示機能を有するものである
から,需要者が,本件エンブレムが付されていない建物の出所について
原告であると混同するおそれはない。15
イ本件における需要者とは,住宅の購入予定者をいうところ,住宅の価格
は高額であり,かつ,多くは一生に一度購入をするか否かにすぎない物で
あるから,当該需要者においては,購入に当たり,その対象を吟味し,相
応の時間を費やして,購入するか否かを慎重に検討するのが通常である。
したがって,被告製品2の出所が原告であると誤認ないし混同したまま20
被告製品2を購入することはあり得ない。
ウ原告製品が対象としている需要者は,正確には,生活のための居住用物
件を探す顧客層ではなく,セカンドハウスを所有したり,生活上の必要に
駆られずとも住居を購入したりする余裕のある富裕層であるところ,H物
件及びJ物件がいずれも居住用の物件であることからもうかがわれるとお25
り,被告が対象とする需要者は,居住用の一般的な住宅を求める層である
から,被告製品2の需要者と,原告製品が対象とする需要者には差異があ
る。
したがって,本件においては原告製品と被告製品2との混同のおそれが
あるとは認められない。
3争点3(損害の発生及びその額)について5
(原告の主張)
(1)侵害の行為により被告が受けた「利益」の額について
アH物件及びI物件全体の売上高に基づく利益額について
(ア)被告各建物の販売による意匠権侵害行為ないし不正競争行為により
被告が受けた「利益」(意匠法39条2項,不競法5条2項)の額は,10
H建物及びI建物の販売について,それぞれ敷地を含めた物件全体の売
上高に基づいて算定するのが相当である。
H物件の販売価格(税抜。以下建物につき,特記がない限り同じ。)
は合計2047万6652円,H土地の購入費用は293万7979円,
H建物の建築等費用は合計1266万9357円であるから,H物件の15
全体の販売利益は486万9316円である。
また,I物件の販売価格は合計2448万3400円,I土地の購入
費用は733万0599円,I建物の建築等費用は1272万2326
円であるから,I物件の販売利益は合計443万0475円である。
したがって,被告は,意匠権侵害行為ないし不正競争行為により,920
29万9791円の利益を受けたから,原告に生じた損害の額は,同額
と推定される。
(イ)被告は,被告が受けた「利益」(意匠法39条2項,不競法5条2項)
について,H建物及びI建物の各販売利益のみを基準に算定すべきであ
ると主張する。25
しかしながら,被告は,H建物及びI建物と一体としてでなければ,
H土地及びI土地を販売することができなかったと認められるから,前
記(ア)のとおり,各物件全体の販売利益を,意匠権侵害行為ないし不正
競争行為による損害として考慮すべきである。すなわち,一般に,土地
は,実勢価格を超える額で売買されることはないから,土地の所有者が
実勢価格以上で当該土地を売却するには,何らかの付加価値を付ける必5
要がある。しかるに,H土地及びI土地には,H建物及びI建物が存在
するほかに付加価値はない。むしろ,鳥取県内全体の住宅地の公示価格
は下落傾向にあること,H土地及びI土地には自然災害の危険が想定さ
れることなどの減額事由が複数存在していることを考え合わせれば,H
土地はH建物と,I土地はI建物と一体としてでなければ,売却するこ10
とはできなかったというべきである。
したがって,被告の上記主張には理由がない。
イH建物及びI建物の売上高に基づく利益額
(ア)仮に,被告が受けた「利益」(意匠法39条2項,不競法5条2項)
について,H建物及びI建物の各販売利益のみを基準に算定する場合は,15
以下のとおり算定すべきである。
すなわち,H土地及びI土地の固定資産税評価額,路線価に基づく公
示価格,近傍類地の過去の取引価格等を踏まえてそれらの客観的な実勢
価格を算出すると,H土地は460万8485円を,I土地は724万
7500円をそれぞれ上回ることはない。これらの額を各物件販売価格20
の総額から控除し,さらに建物の建築等に要した費用を控除した額が,
H建物及びI建物の客観的な販売利益と認められる。
したがって,H建物の販売利益は319万8810円,I建物の販売
利益は451万3574円,各販売利益の額の合計771万2384円
と算定される。25
(イ)被告は,建物と土地をあわせて1つの「商品」として販売する業者
であって,土地単体で売却をしている訳ではないから,土地単体の実勢
価格は本件に直接の関係はなく,そもそも、売買価格は客観的に定まる
ものではなく,売主と買主の合意により決せられるものであり,当事者
が合意している以上,当該合意における割り付け額が尊重されるべきで
あると主張する。5
しかしながら,被告は,H物件及びI物件の販売価格を土地と建物に
割り付ける具体的な根拠を何ら明らかにしていない。また,被告の主張
するH建物及びI建物の販売利益の額は,前記(ア)のとおり算定された
客観的な価格とかい離しており,本来の建物の売上を土地の売上に恣意
的に割り付けていることがうかがわれることから,信ぴょう性がない。10
したがって,被告の上記主張は理由がない。
(2)推定の覆滅事由の存否について
ア市場及び需要者の競合について
被告の市場がある鳥取市内において原告製品を購入した顧客が複数存在
するから,原告と被告の市場が競合していないとする被告の主張には理15
由がない。
また,原告製品の建築等費用と,H建物及びI建物の各建築用費用との
間には有意な差はないこと,原告製品の購入者の大半は原告製品を自宅
として利用しており,別荘として購入された例は極めて少ないこと,原
告製品がすべからく自然豊かな地方に建築されているわけではないこと,20
H物件及びI物件自体が自然派志向の建物として宣伝されていたことに
照らすと,原告製品が自然派志向の富裕層のみを対象とし,被告が販売
する建物は一般的な住宅購入者とする被告の主張は理由がない。
イ本件意匠及び原告製品形態の寄与度について
被告は,本件意匠及び原告製品形態がH建物及びI建物の面積に占める25
割合を根拠に,本件意匠や原告製品形態が被告の利益に何ら寄与してい
ないなどと主張する。
しかしながら,本件意匠及び原告製品形態は,建物の正面視という最も
人目をひく部分に係るものであり,これは,建物の外観のうち最も重要
な部分であるといえる。
それのみならず,原告が原告製品の正面視を拡大した画像を用いて広告5
宣伝を行った結果,本件意匠や原告製品形態は,高いブランド価値を有
するに至り,見る者の目に強く印象付けられる部分となっている。
このように,本件意匠や原告製品形態は,被告の利益に大きく寄与して
いるというべきである。
ウ小括10
以上によれば,本件意匠の販売利益に対する寄与率は80パーセントを
下らない。仮に,推定の覆滅に関して被告の主張する事実が認められる
としても,上記寄与率が50パーセントを下ることはない。
(3)弁護士費用について
被告の本件意匠権侵害行為ないし不正競争行為と相当因果関係がある弁15
護士費用は,前記(1)の損害額の10パーセントに当たる92万9979円
を下らない。
(被告の主張)
(1)侵害の行為により被告が受けた「利益」の額について
アH物件及びI物件全体の売上高に基づく利益額について20
本件意匠は組立て家屋の意匠であって,土地そのものの価値に影響を与
えるものではなく,本件意匠を侵害したことにより被告が土地を売却し
て利益を得たとはいえないから,H土地及びI土地を販売したことによ
り被告が受けた限界利益は,意匠権侵害行為ないし不正競争行為によっ
て被告が得た利益の額として推定されない。25
したがって,意匠法39条2項及び不競法5条2項により原告が受けた
損害の額と推定される「利益」は,建物の販売利益のみをいい,土地の
販売利益はこれに含まれないと解するべきである。
イH建物及びI建物の売上高に基づく利益額
H建物及びI建物の売上高に基づく利益額は,以下のとおり,H建物に
つき12万2495円であり,I建物については,かえって1万4825
6円の損失が発生した。
(ア)H物件における販売利益
被告は,H土地の取得に293万7979円を,H建物の建築等に
1266万9357円(税抜)を支出した。そして,H物件の売買契
約における販売価格のうち,H土地部分は768万4800円,H建10
物部分は1279万1852円(税抜)と合意されたから,H物件の
販売により被告が得た販売利益は,H土地部分について474万68
21円,H建物部分について12万2495円である。
(イ)I物件における販売利益
被告は,I土地の取得に733万0599円を,I建物の建築等に115
272万2326円(税抜)を支出した。そして,I物件の売買契約に
おける販売価格のうち,I土地部分は1177万5900円,I建物部
分は1270万7500円(税抜)と合意されたから,I物件の販売に
より被告が得た販売利益は,I土地部分について444万5301円で
あり,I建物部分については1万4826円の損失となった。20
(2)推定の覆滅事由の存否について
以下の事情からすれば,意匠法39条2項及び不競法5条2項による損害
額の推定は覆滅されるべきであり,覆滅割合は95%を下らない。
ア市場及び需要者の競合について
原告は,本件意匠ないし原告製品形態を有する組立て家屋を被告の市場25
である鳥取市内で販売しておらず,原告と被告の市場は競合していない。
また,原告の顧客は,生活上の必要に駆られずとも住宅を購入する余
裕のある自然派指向の富裕層である一方,被告は,他の地域と比較して
住民の所得が高くなく自然が豊かな鳥取県において生活を送るための物
件を販売しており,被告の顧客は居住用の一般的な住宅を求める者であ
るから,両者の製品の需要者も異なる。5
したがって,被告各製品の販売によって原告に損害が生じたとはいえ
ない。
イ本件意匠及び原告製品形態の寄与度について
被告製品目録1及び同2によって形成される建物の形状は,H建物及
びI建物の外観のごく一部を占めるに過ぎず,これを面積の割合に引き10
直せば数パーセントにとどまる。
また,H建物及びI建物の買主が,被告からの要請に応じ,各建物の
正面視の縦棒に相当する柱部を撤去する工事をなしたことからも明らか
であるとおり,本件意匠及び原告製品形態は,H建物及びI建物の買主
にとって物件を購入する動機になっていない。15
さらに,建物の購入に当たって何が重要かは購入者によって様々であ
り,例えば,立地,間取り,内装,価格設定,敷地の形態等の要素も重
視され,外観の考慮要素としての優先順位は高くはなく,現に,住宅購
入者が物件の「間取り」や「広さ」を「デザイン」より重視したという
消費者動向調査結果報告書(甲251)も存在する。20
ウ小括
したがって,原告主張の損害額の推定を覆す事情が存在し,かかる事
情を考慮すると,本件意匠及び原告製品形態は被告の利益に何ら寄与し
ておらず,仮に,上記利益に対する一定の寄与を認めるとしても,その
度合いは極めて小さいというべきであって,5パーセントを超えること25
はない。
(3)弁護士費用について
争う。
4争点4(差止め等の必要性)について
(原告の主張)
被告製品1ないし被告製品2は工業的に量産可能なものであるから,仮に5
被告が現時点において本件意匠及び原告製品形態と同一又は類似の製品を販
売等していないとしても,被告製品1ないし被告製品2を製造するための図
面その他の資料が廃棄されない限り,これらを量産することが可能な状況で
あることには変わりがない。
また,原告が被告に対し平成30年7月25日付け通知書(乙1)を送付10
してJ物件の販売等の停止を求めたにもかかわらず,被告は1か月以上何ら
の回答もしなかった。そして,被告は,同年9月3日頃,J物件に係る被告
のホームページ上の画像について,略十字の模様のうち縦棒がないものへ差
し替えたが,同月24日の時点において,実際にはJ建物の上記縦棒を撤去
していなかった。このような被告の不誠実な態度に照らせば,今後,被告製15
品1ないし被告製品2を製造,販売する可能性はないとの被告の主張は信用
することができない。
以上に加え,本件が,本件意匠及び原告製品形態と酷似した被告製品1及
び2が製造等されている悪質性の強い事案であること,被告が侵害の事実を
争っていることなどに照らせば,現在においてもなお,被告が本件意匠権を20
侵害するおそれ又は不正競争によって原告の営業上の利益が侵害されるおそ
れがあると認められる。
したがって,被告製品1及び被告製品2の製造,販売等について差止めの
必要性があり,また,被告が占有する被告製品1及び被告製品2の除去の必
要性があると認められる。25
(被告の主張)
被告各建物については,本件意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様に該
当し得る部分をすでに撤去する工事を完了しており,被告が,今後,本件意匠
ないし原告製品形態と同一又は類似の建物を製造,販売等する可能性はない。
また,被告は,原告の前記通知書(乙1)が届いてから2か月程度の間に,5
ウェブサイトから画像を消去し,縦棒を除去する工事を完了させたものである
から,その態度は不誠実とはいえない。
さらに,被告が被告各建物を工業的に量産していたという事実もない。
したがって,差止め等の必要性があるとは認められない。
第4争点に対する裁判所の判断10
1争点1(本件意匠権侵害の成否)について
(1)争点1-(1)(本件意匠と被告製品1の意匠との類否)について
ア認定事実
証拠(甲4,5,8ないし14,17,21,223,224,233,
248,249)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。15
(ア)枠組壁工法について
枠組壁工法とは,木材を使用した枠組に構造用合板その他これに類す
るものを打ち付けることにより,壁及び床版を設ける工法をいい,いわ
ゆるツーバイフォー工法は枠組壁工法の一種である。枠組壁工法では,
規格化され,工場等で量産される木材及び構造用合板が使用され,かつ,20
施工方法はマニュアル化されていることから,我が国において木造家屋
の建築に一般的に用いられてきた木造軸組工法(在来工法)と比較して,
短い工期で木造家屋を建築することができるほか,コストダウンを図れ
たり,均質な製品を供給できるなどの長所がある。(甲8ないし13)
(イ)被告各建物の工法及び工事期間等について25
a被告各建物の施工方法には,いずれも枠組壁工法が採用されている
(甲8,14,223,233)。
b建築計画の段階において,H建物の工事着手予定年月日は平成30
年2月19日,工事完了予定年月日は同年5月20日とされ,I建物
の工事着手予定年月日は同年3月22日,工事完了予定年月日は同年
6月25日とされていた(甲223,233)。また,J建物につい5
ては,同年4月24日に基礎配筋検査がなされた後,同年6月27日
には外壁が張り終わり,「完成までもうすぐ」という段階まで工事が
進んだ(甲15,249)。なお,前記前提事実のとおり,遅くとも
同年7月18日には,J建物の販売広告が被告のウェブサイト上に掲
載されていた(甲249)。10
(ウ)被告各建物の正面視の形状について
被告各建物の正面視の形状は,被告各建物目録記載の写真ないし画像
のとおりであって,いずれも被告製品目録1記載の各構成態様をすべて
満たしており,被告意匠を構成態様として有する(甲4,5,14,1
7,21,224,248,249)。15
イ意匠に係る物品の同一性について
(ア)令和元年5月17日号外法律第3号による改正前の意匠法2条1項
は,「『意匠』とは,物品(物品の部分を含む。…)の形状,模様若しく
は色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるもの
をいう。」と規定していることから,意匠は,「物品」とその「形状,模20
様若しくは色彩又はこれらの結合」と不可分一体の関係にあるものと解
される。
したがって,登録意匠と,対比すべき相手方の製品に係る意匠とが同
一又は類似であるというためには,まずその意匠に係る「物品」が同一
又は類似であることを必要とするものと解するのが相当である。25
(イ)意匠法2条1項の「物品」とは,有体物のうち,市場で流通する動
産をいい,不動産は物品には該当しないと解されるところ,これは,不
動産は一般に工業的に量産されることが想定されないことによる。
そうすると,使用される時点においては不動産として取り扱われる物
であっても,工業的な量産可能性が認められ,動産的に取り扱われ得る
物である限り,「物品」に該当すると解するのが相当である。5
そして,意匠法7条,意匠法施行規則別表第1の61号は,「組立て
家屋」を意匠の物品の区分の1つとして規定しているところ,「物品」
に係る上記の解釈に照らせば,組立て後,使用される時点においては不
動産として扱われる組立て家屋であっても,それより前の時点において,
その構成部分を量産し,運搬して組み立てるなど,動産的に取り扱うこ10
とができるものである限り,同号が規定する「組立て家屋」に該当する
というべきである。
本件についてこれをみるに,前記ア(イ)aのとおり,被告は,被告各
建物を建築する上で枠組壁工法を採用しているから,前記ア(ア)で認定
したところを併せ考えれば,被告各建物について,工場等で量産された15
木材及び構造用合板を現場に運搬し,同所で組み立てて建築するという
工程を経たことが推認される。このことは,前記ア(イ)bのとおり,被
告各建物がいずれも3か月程度という短い工期で完成したことや,前記
ア(ウ)のとおり,被告各建物がいずれも共通した形状を有していること
によっても裏付けられるといえる。20
以上によれば,被告各建物は,その建築工程等に照らし,使用される
時点においては不動産として取り扱われるものの,それよりも前の時点
においては,工業的に量産された材料を運搬して現場で組み立てるなど,
動産的に取り扱うことが可能な建物であるから,「組立て家屋」に該当
すると認められる。そして,被告各建物はいずれも被告製品1の構成態25
様を備えているから,被告製品1についても,同様に,動産的に取り扱
うことができる建物と認められる。
したがって,被告製品1は,いずれも,「組立て家屋」として「物品」
に該当するといえる。
(ウ)これに対し,被告は,被告各建物は,土地と合わせて不動産として
販売されており,動産として流通させたものでもないから「物品」に該5
当しないと主張する。しかしながら,被告各建物が動産的に取り扱うこ
とが可能な建物であると認められることは,前記(イ)のとおりであるし,
土地と一体として販売されたという事実によって,直ちにその動産とし
ての性質が失われるものではないというべきである。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。10
(エ)よって,被告製品1は,「組立て家屋」として意匠法2条1項の「物
品」に該当するとともに,本件意匠に係る物品(本件意匠公報上の記載
は「組立家屋」)と同一であると認められる。
ウ意匠に係る形状の類似性について
(ア)本件意匠と被告意匠との対比15
a共通点
本件意匠と被告意匠とは,家屋の正面視において,地面と垂直に設
けられた柱部及び地面と平行に設けられた梁部によって,略十字の模
様が形成されているとの基本的構成態様において共通する。
また,両者は,具体的構成態様のうち,正面視において柱部が地面20
と垂直にかつ家屋の1階床部から2階天井部の間に形成されている点
(構成態様a及びa’),正面視において梁部が地面と平行にかつ家屋
の左右両側の壁の間に形成されている点(構成態様b及びb’),正面
視において梁部が柱部の略中央の高さにおいて,柱部を左右から挟む
ように形成されており,柱部と梁部によって,縦棒が横棒を貫通する25
ような略十字の模様が形成されている点(構成態様c1,c2及びc
1’,c2’),正面視において,柱部により縦棒に相当する縦長の矩
形が形成されるとともに,この矩形は,横方向に順に接する,同矩形
と高さが同一の3つの矩形からなり,両側の矩形の横幅は中央の矩形
の横幅より長い点(構成態様d及びd’),正面視において,梁部によ
り横棒に相当する横長の矩形が形成されるとともに,矩形は,縦方向5
に順に接する,矩形と横幅が同一の3つの矩形からなり,両側の矩形
の縦幅は中央の矩形の縦幅より長い点(構成態様e及びe’),柱部が,
家屋の正面側壁面の前面(正面側)に,当該壁面から離れて形成され
ている点(構成態様f及びf’)及び梁部が柱部と家屋の正面側壁面
との間に設けられた2階床部と接している点(構成態様g及びg’)10
がそれぞれ共通する。
b差異点
本件意匠においては,家屋の正面視において,柱部により形成され
る縦棒が,家屋の中心からやや左に外れた位置に配置されているのに
対し,被告意匠においては,家屋の正面視において,柱部が中心から15
やや右または左に外れた位置に形成されているというものであるから,
上記柱部により形成される縦棒が左寄りにある場合に限られるか,そ
れとも,左寄りに限らず,右寄りにある場合も含まれるかという点に
差異点がある(構成態様c1,c2及びc1’,c2’)。
なお,被告意匠の構成態様を有する被告各建物のうち,J建物につ20
いては,上記縦棒が左寄りに形成されているから,本件意匠の構成態
様を全て満たすのに対し,H建物及びI建物については,上記縦棒が
右寄りに形成されているから,本件意匠の構成態様c1及びc2を満
たさないという差異点が存在する。
(イ)本件意匠の要部25
a登録意匠と対比すべき相手方の製品に係る意匠とが類似であるか否
かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う
(意匠法24条2項)ものとされており,意匠を全体として観察する
ことを要するが,この場合,意匠に係る物品の性質,用途及び使用態
様,公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して,取引者な
いし需要者の最も注意をひきやすい部分を意匠の要部として把握し,5
登録意匠と相手方意匠とが,意匠の要部において構成態様を共通にし
ているか否かを重視して,観察を行うべきである。このことは,部分
意匠においても異なるものではないというべきである。
b前記イのとおり本件意匠に係る物品と被告意匠に係る物品はいずれ
も組立て家屋であること並びに別紙本件意匠公報の【使用状態を表す10
参考図】及び被告各建物を紹介したウェブページの写真(甲4,5,
14,15,248,249)において,木造の戸建て家屋の外観等
が示されていることに照らせば,前記本件意匠及び被告意匠に係る各
物品の需要者は,いずれも,木造の戸建て住宅の購入に関心がある一
般消費者と認めるのが相当である。15
そして,本件意匠は,家屋の正面視に,構成態様d及びeのように
3つの矩形からなる柱部及び梁部を,構成態様c1のとおり,梁部が
柱部を挟み込むようにして配置し,これにより,構成態様A及びc1
のとおり,家屋の正面視に略十字の形状を作出するというものである。
また,構成態様f及びgのとおり,柱部は正面側壁面から離れて設置20
され,梁部は2階床部と接している。本件意匠のこうした構成態様を
踏まえて,本件意匠の機能的な特徴を検討すると,まず,梁部は,上
記のとおり2階床部と接するように配置されているところ,別紙本件
意匠公報記載の【E-E’断面図】のとおり,梁部に構成態様eのよ
うに形成される3つの矩形のうち,一番上の矩形のみが2階床部と接25
するように設置され,一番下の矩形は2階床部とは接しておらず,こ
れらの矩形に挟まれて形成される中央の矩形は空間をなしていること
から,梁部は,家屋の構造上必須のものとして配置されるものではな
く,専ら,柱部と相まって略十字を形成させ,かつ,上記略十字の形
状を浮き出るように配置するなどというデザイン面を考慮して配置さ
れたものであることが推認される。5
同様に,柱部についてみても,別紙本件意匠公報記載の【C-C’
断面図】,【F-F’断面図】及び【D-D’断面図】によれば,柱部
と梁部が交差する箇所において2階床部と柱部の一部が接するほか,
1階床部及び天井部と柱部の両端が接するものの,その他に家屋の構
成部分と接する部分はない。また,上記各断面図によれば,柱部を構10
成する左右の2つの矩形の断面は,正面視と平行な辺と比較して正面
視と垂直な辺が短いという長方形をなしており,天井部分を支える構
造物としては細すぎる。これらの事実によれば,柱部も,家屋の構造
上必須のものとまでは認めがたく,主として上記のようなデザイン面
を考慮して配置されたものであることが推認される。15
また,本件意匠に係る物品は組立て家屋であるところ,家屋は,そ
の性質上,家屋に出入りする際など,居住者や訪問者等が必ずその外
観を目にすることから,居住に直接関係する内部の構造のみならず,
その外観のデザインそのもの,特に通常玄関の存在する正面視のデザ
インが,看者である需要者の注意や関心をひくという側面もある。そ20
して,前記前提事実のとおり,原告は,本件意匠に係る意匠登録出願
より前に,別紙引用意匠目録記載の建物を製造,販売等していたとこ
ろ,同建物の正面視には,本件意匠の柱部及び梁部に相当する縦棒及
び横棒により略十字の形状が配されていたから,本件意匠の従前のも
のにはない特徴は,略十字の形状を有するという点のみならず,略十25
字を形成する柱部及び梁部がそれぞれ上記のとおり3つの矩形からな
っていることや,梁部が柱部を挟み込む態様によって梁部と柱部の交
差部が形成されていることに存するといえる。
このように,意匠に係る物品である家屋の性質,用途及び使用態様,
並びに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を総合すれば,本件
意匠のうち,看者である需要者の注意を最もひく部分は,別紙本件意5
匠目録記載の構成態様A及び構成態様aないしgにより特定された家
屋の正面視の形状であり,これらの部分が本件意匠の要部であると認
めるのが相当である。
(ウ)差異点についての評価
a以上を踏まえて検討すると,前記(ア)bでみた両意匠の差異点,す10
なわち,柱部が形成されている位置が中心からやや左に外れた箇所で
あるか(本件意匠),それとも中心からやや右または左に外れた箇所
であるか(被告意匠)という相違は,別紙本件意匠目録記載の構成態
様A及び構成態様aないしgにより特定された家屋の正面視の形状に
含まれることから,要部に関するものであるといえる。15
しかしながら,上記の差異は,柱部の位置が家屋の正面視の中心か
ら,左と右のいずれに外れているかという点に関するものにすぎず,
柱部がその中心に位置するものではないという限りにおいては共通の
形状となっている。
そして,柱部を家屋の中心からやや外れた箇所に位置することによ20
り,正面視において左右の対称性が欠ける形状となる結果,柱部を家
屋の中心に配置する場合と比較して,看者に対し,より斬新さや独創
性を感得させる効果を生じさせると考えられるところ,そのような効
果は,柱部が中心からみて右寄りに位置するか,左寄りに位置するか
によって,違いはないといえる。そうすると,柱部が右寄りに位置す25
るか,左寄りに位置するかという差異点は,要部に関するものではあ
るが,本件意匠が看者に起こさせる美感に決定的な影響を与える差異
であるということはできない。
以上を踏まえて,本件意匠と被告意匠の共通点及び差異点につい
て検討するに,前記(ア)bの差異点は,本件意匠が看者に起こさせる
美感に決定的な影響を与えるものではないのに対し,要部の大部分5
において前記(ア)aの共通点がみられることから,両意匠は,差異点
が共通点を凌駕するものではないというべきである。
bこれに対し,被告は,H建物及びI建物の柱部及び梁部の断面図が
「凹」の字状をなしており,柱部と梁部の間に空間が形成されないの
で,これらの建物の形状は本件意匠と類似しないと主張する。10
しかしながら,H建物及びI建物のように,柱部及び梁部の断面が
「凹」の字状の形状となっていても,家屋の正面視において柱部及び
梁部に3つの矩形が形成されるという点においては何ら変わりがなく,
家屋の正面を見る看者に起こさせる美感の内容に有意な差を生じさせ
ないというべきである。15
したがって,柱部及び梁部の断面が「凹」の字状であることは,本
件意匠との差異点であるとは認められないから,被告の上記主張は採
用することができない。
c以上の次第で,本件意匠と被告意匠の形状は,全体として需要者
に一致した印象を与えるものであり,美感を共通にするというべき20
であるから,被告意匠の形状は本件意匠の形状に類似すると認めら
れる。
エ小括
以上によれば,本件意匠と被告意匠は,意匠に係る物品が同一であり,
形状が類似することから,被告意匠は本件意匠に類似するものと認めら25
れる。
(2)争点1-(2)(無効の抗弁の成否)について
ア新規性の欠如の主張について
(ア)本件意匠と引用意匠との共通点
本件意匠と引用意匠とを比較すると,家屋の正面視において,地面と
垂直に設けられた柱部及び地面と平行に設けられた梁部によって略十字5
の模様が形成されている点(構成態様A及びA”),柱部が地面と垂直に
かつ家屋の1階床部から2階天井部の間に形成され,家屋の正面側壁面
の前方(正面側)に,当該壁面から離れて形成されている点(構成態様
a,f及びa”,f”),当該柱部は,家屋の中心からやや左に外れた位
置に形成されている点(構成態様c1,c2及びc1”,c2”の各前10
段)及び梁部が地面と平行にかつ家屋の左右両側の壁の間に形成され,
柱部と家屋の正面側壁面との間に設けられた2階床部と接している点
(構成態様b,g及びb”,g”)が共通すると認められる。
(イ)本件意匠と引用意匠との差異点
一方,本件意匠と引用意匠との間では,以下の各点において差異が15
あると認められる。
a本件意匠は,正面視において,梁部が柱部を左右から挟むように形
成され,梁部と柱部によって,縦棒が横棒を貫通するように,略十字
の模様が形成されているのに対し,引用意匠は,正面視において,梁
部が柱部と交差するように形成され,柱部と梁部によって,縦棒と横20
棒が一体となった略十字の模様が形成されている(構成態様c1,c
2及びc1”,c2”の各後段。以下「差異点①」という。)。
b本件意匠は,正面視において,柱部により縦長の矩形が形成される
とともに,当該縦長の矩形は,横方向に順に接する,当該縦長の矩形
と高さが同一の3つの矩形からなり,かつ,これら3つの矩形のうち25
左右の2つの矩形の横幅は,左右の2つの矩形に挟まれた中央の矩形
の横幅より長いのに対し,引用意匠は,正面視において,柱部により
縦長の矩形が1つ形成されるが,梁部により形成される横長の矩形と
一体となっているため,独立した矩形を観念できない(構成態様d及
びd”。以下「差異点②」という。)。
c本件意匠は,正面視において,梁部により,柱部の左右に,それぞ5
れ横長の矩形が1つずつ形成されるとともに,当該横長の矩形はいず
れも,縦方向に順に接する当該横長の矩形と横幅が同一の3つの矩形
からなり,かつ,これら3つの矩形のうち上下の2つの矩形の縦幅は,
上下の2つの矩形に挟まれた中央の矩形の縦幅より長いのに対し,引
用意匠は,正面視において,梁部により,横棒に相当する横長の矩形10
が1つ形成されているが,柱部により形成される縦長の矩形と一体と
なっているため,独立した矩形を観念できない(構成態様e及びe”。
以下「差異点③」という。)。
d本件意匠は,梁部にひさし様の板が付属していないのに対し,引用
意匠は,梁部から,家屋の正面側壁面の前方(正面側)に向かって,15
ひさし様の板が付属しており,梁部と当該板の長さの比は約7対4で
ある(構成態様h”。以下「差異点④」という。)。
なお,被告は,差異点④の認定を争うが,引用意匠として主張され
ている家屋とは異なる家屋を指摘し,ひさし様の板が設置されていな
いものも存在していたと主張するのみであるから,引用意匠に基づく20
新規性欠如の主張としては失当であるといわざるを得ず,同主張は採
用することができない。
(ウ)検討
a前記(ア)のとおり,引用意匠は,家屋の正面視において,地面と垂
直に設けられた柱部及び地面と平行に設けられた梁部によって略十字25
の模様が形成されているという基本的構成態様が共通するほか,柱部
及び梁部の設置個所に関して,具体的構成態様に共通点がある。
したがって,本件意匠に係る家屋を見た看者と,引用意匠に係る家
屋を見た看者は,いずれも,その正面視において,柱部と梁部により,
柱部が家屋の中心からやや左に外れるように形成された略十字の模様
が,家屋の正面側壁面から浮き出るような格好で形成されているとい5
う限りにおいて,共通の美感を覚えるものと認められる。
bしかしながら,引用意匠と本件意匠との間には,前記(イ)のとおり,
前記柱部及び梁部のデザイン及び柱部と梁部の交差する箇所の形状に
ついて4つの差異点が存在する。そこで,係る差異点が,看者に起こ
させる美感に与える影響について検討する。10
まず,差異点①のとおり,本件意匠では,梁部が柱部を挟むように
配置されているため,柱部が家屋を上下に貫く外観を生じさせる。こ
のため,柱部によって,家屋の正面を左右に二分割するという印象を
生じさせる。これに対し,引用意匠は,上記のような配置がなされて
おらず,縦棒と横棒が一体となった略十字が形成されていることから,15
家屋の正面を,上下左右に四分割するという印象を生じさせる。
次に,差異点②及び③のとおり,本件意匠においては,柱部及び梁
部がそれぞれ3つの矩形から形成されている結果,看者に対し,メリ
ハリの効いた,かつシャープな印象を与えるものといえる。これに対
し,引用意匠は,柱部及び梁部に上記のような矩形は存在せず,1本20
の太い棒状の構成要素を形成していることから,本件意匠の柱部及び
梁部と比較して,のっぺりとした,かつ重みのある印象を与えるもの
といえる。
cこのように,本件意匠と引用意匠とでは,前記aで説示した限りに
おいて,看者が略十字の形状を感得するという共通点があるものの,25
前記bで説示したところに照らせば,引用意匠について看者が感得す
るのは,具体的には,家屋の正面視を4分割するような美感を与え,
かつ,のっぺりとした重みのある印象を看者に与える略十字の形状で
あるのに対し,本件意匠について看者が感得するのは,家屋の正面を
左右に2分割するような美感を与え,かつ,メリハリの効いたシャー
プな印象を看者に与える略十字の形状である。差異点①ないし③が生5
じさせるこうした意匠的効果の相違によって,看者が認識する略十字
の形状は,本件意匠のものと引用意匠のものとで,質的に大きな差異
が生じているといえる。そして,前記認定のとおり,柱部及び梁部の
デザイン及び交差する箇所の形状は本件意匠の要部であるから,上記
の本件意匠と引用意匠との形状の相違は要部についての相違である。10
このような差異点①ないし③に加えて,本件意匠と引用意匠との間
には,差異点④として,ひさしについても相違が存在することを併せ
考えれば,本件意匠と引用意匠は,看者に対して,異なる美感を起こ
させるものと認められる。
以上の次第で,本件意匠は引用意匠と同一であるとも,引用意匠と15
類似しているとも認められないから,本件意匠権に意匠法3条1項1
号,3号の無効理由があるとは認められない。
イ創作容易性の存在の主張について
(ア)意匠法3条2項は,物品との関係を離れた抽象的モチーフとして意
匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若20
しくは色彩又はこれらの結合を基準として,当業者が容易に創作をす
ることができる意匠でないことを登録要件としたものであることに照
らすと,上記モチーフを基準として,その創作に当業者の立場からみ
た意匠の着想の新しさないし独創性があるものと認められない場合に
は,当業者が容易に創作をすることができた意匠に当たるものとして,25
同項に係る無効理由が存するものと解するのが相当である(最高裁昭
和45年(行ツ)第45号同49年3月19日第三小法廷判決・民集
28巻2号308頁,最高裁昭和48年(行ツ)第82号同50年2
月28日第二小法廷判決・裁判集民事114号287頁参照)。
これを本件についてみると,本件意匠に係る出願当時に公知であった
引用意匠は,正面視において,梁部が柱部と交差するように形成され,5
柱部と梁部によって,縦棒と横棒が一体となった略十字の模様が形成さ
れているものであって,かかる引用意匠と本件意匠との間には,前記ア
(イ)のとおり,4つの差異点が存在する。
そして,本件意匠を構成する柱部及び梁部は,前記(1)ウ(イ)のとおり,
家屋の機能上不可欠な構成要素とまでは認めがたく,主としてデザイン10
の観点から選択された構成要素であると認められるから,引用意匠の上
記モチーフを基準として家屋の正面視に略十字の形状を配置する場合に,
柱部及び梁部をどのように配置するか,略十字にいかなる形状を採用す
るか,柱部及び梁部にどのようなデザインを採用するかといった判断に
ついて,家屋の機能面から制約されるところは少なく,当業者は,新し15
い着想に基づく独創性を発揮する余地があるというべきである。実際に,
本件意匠では,家屋の正面視に略十字を構成するように柱部及び梁部を
配置するのみならず,梁部が該柱部を挟むように配置し(差異点①),
柱部及び梁部自体にも,それぞれ3つの矩形を配置する(差異点②,③)
という意匠上の創作が施されているところ,それによって,本件意匠と20
引用意匠とでは,前記のア(ウ)のとおり,質的に異なる美感を看者に起
こさせ,意匠的効果が大きく異なるに至っているから,本件意匠が創作
される過程においては,独自性のある着想に基づく創意工夫が凝らされ
たものと認めることができる。
したがって,本件意匠を創作することは,家屋の設計を担当する当業25
者において容易であったとまでは認められない。
(イ)この点,被告は,柱部及び梁部に形成される矩形が1つであるか,
3つに分かれているかという差異は,材料が1本か2本かという単純
な差異にすぎないとして,当業者にとって創作が容易であると主張す
る。
しかしながら,本件意匠のように略十字を構成する縦棒と横棒の意5
匠を3つの矩形によって形成する形状については,直ちに単純である
とはいえない上,そのような形状が当業者によって容易に創作するこ
とができたといえるほどにありふれたものであることについては,こ
れを認める足りる証拠がない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。10
(ウ)以上を総合すれば,本件意匠に関して,当業者において「容易に意
匠の創作をすることができた」とは認められないから,本件意匠権に,
意匠法3条2項の無効理由があるとは認められない。
(3)争点1についての小括
以上の次第で,被告が,組立て家屋である別紙被告製品目録1記載の建物15
を製造,販売等する行為は,本件意匠権を侵害する。
2争点2(不正競争行為の成否)について
(1)争点2-(1)(原告製品形態の「商品等表示」該当性)について
ア認定事実
前記前提事実,証拠(甲23ないし27,29,30ないし42,5920
ないし94,164ないし180,189ないし195,213,21
8,243,244,乙8ないし11,16,22)及び弁論の全趣旨
によれば,以下の事実が認められる。
(ア)原告製品の形態
前記前提事実(第2の2(3)イ)のとおり,原告製品1ないし同325
は,いずれも原告製品形態を有する。
(イ)原告製品の販売及び宣伝広告の状況等
a販売状況
前記前提事実(第2の2(3)ア)のとおり,原告は,原告製品1を
平成20年4月から平成21年3月まで,原告製品2を同年4月から
平成28年3月まで,原告製品3を同年4月から現在まで,それぞれ5
製造,販売等している。
原告は,「BESS」のブランド名を用いて,原告製品をはじめと
するログハウス調の木造家屋等の製造,販売等をしているところ,原
告(原告の子会社及び「BESS地区販社」と呼ばれる関連会社を含
む。以下この項において同じ。)は,岡山,広島,京都,滋賀及び兵10
庫の各府県を始め,全国各地で,原告が製造,販売等する家屋のモデ
ルハウスを展示する「暮らし体感展示場」又は「BESSLOGW
AY」という名の販売拠点(展示場)を運営しており,平成30年1
0月現在,44か所の販売拠点が存在する。そのうち,原告製品形態
を有する建物のモデルハウスが設置されている販売拠点は,広島県,15
京都府及び滋賀県の販売拠点を始め,25か所存在し,原告製品形態
を有する建物のモデルハウスが設置されている販売拠点の平成30年
12月末日時点の新規来場者数は10万4441人を下らない。ま
た,平成30年8月から令和元年7月までの販売拠点(原告製品形態
を備える建物が展示されている拠点に限る。)への新規来場者数のう20
ち,被告各建物が所在する鳥取県の住民の来訪に係る数は,少なくと
も7か所の拠点で合計25人であった。(甲29,166ないし16
8,213,218,243,244)
そして,原告は,原告製品の販売を開始した平成20年4月から平
成29年3月までの間に,原告製品を1727棟販売しており,その25
売上高は320億7305円を下らない。また,原告は,同年4月か
ら平成30年12月までの間に,原告製品を445棟販売し,その売
上高は85億0767円を下らない。(甲30)
b原告製品に関する雑誌記事及び雑誌広告
原告製品については,その特集記事が雑誌で組まれており,その記
事の本数は,平成21年8月1日から,原告が周知性を獲得したと主5
張する平成29年3月までの間,21本に及ぶ(甲32ないし42,
171ないし180)。
また,原告は,原告製品形態を撮影した写真を見開き前面に乗せる
など,原告製品形態を強調した雑誌広告を雑誌に掲載した。原告製品
の広告の掲載数は,平成26年4月11日から平成29年3月までの10
間,50に及ぶ。(甲33ないし35,37,38,59ないし94,
177,178,189ないし195)
c原告のホームページ及び製品カタログにおける広告
原告は,少なくとも平成20年4月から平成29年3月までの間,
「ワンダーデバイス」シリーズを紹介するウェブサイトを原告のホー15
ムページ内に設け,「フランクフェイス」を含む同シリーズの商品の
コンセプトや外観,設備等について掲載している(甲164)。
また,原告は,原告が製造,販売等する商品が掲載されたカタログ
を発行しており,その発行部数は,平成20年4月から平成29年3
月までの間については22万3935部,平成29年4月から平成320
0年12月までの間については6万2409部であった(甲23ない
し27,165)。
d原告製品に関する顧客等の反応
(a)原告製品を購入した顧客は,Instagramにおいて,原告
製品の正面視を含む外観を撮影した写真とともに,原告製品で過ご25
す日常に関する投稿をしている。この投稿は,平成29年2月から
平成30年8月までの間,少なくとも10件存在した。(甲31)
(b)原告は,平成30年7月11日,原告製品の居住者から,「鳥取
市内で注文住宅を販売しているマキタホーム…がBESSのワンダ
ーデバイスそっくりな家を売っています。加盟店でもなさそうなの
で,デザインの盗用かと思われますが,問題ありませんか?」と記5
載されたメールを受信した(甲169)。
また,同月12日,ユーザー名を「(ユーザー名は省略)」とす
る氏名不詳者が,被告が販売する家屋が「ワンダーデバイス」シ
リーズの「ファントムマスク」に「酷似」している旨を述べる投
稿及びコメントをInstagram上で行った(甲170)。10
(ウ)他の住宅の形態
a原告製品形態①ないし⑤の全部又は一部の形態を備える建物とし
て,原告製品及び被告各建物の他に,以下の住宅が存在する。なお,
その外観は,別紙他の住宅目録記載のとおりである。
(a)たけひろ建築工房が建築した「遊べる家」と称される注文住宅が15
遅くとも平成24年4月には存在しており,その建物の正面部の形
態は,原告製品形態①,③,④,⑤を備えていた(乙8,22)。
(b)株式会社世文が建築した「デザイナーズ住宅:太陽光発電を設置
したエコ住宅」と称される建物が遅くとも平成25年12月10日
には存在しており,その建物の正面部の形態は,原告製品形態①な20
いし⑤を全て備えていた(乙9)。
(c)株式会社トキワホームデザインが「デザイナーズハウス」と称し
て商品ラインナップのウェブページに掲げる建物の正面部の形態
は,原告製品形態①,③,④,⑤を備えている。なお,当該ウェブ
ページは,遅くとも平成25年12月10日には公開されていた。25
(乙10)
(d)有限会社アーキ・フロンティアホームが建築した「キュービック
ハウス施工例H邸」と称される建物が遅くとも平成26年3月1
3日には存在しており,その建物の正面部の形態は,原告製品形態
①,③,④を備えていた(乙11)。
(e)ロケーションハウス株式会社が建築した「森林浴」と称される住5
宅の建物が遅くとも平成26年3月13日には存在しており,その
建物の正面部の形態は原告製品形態②ないし④を備えていた(乙1
6)。
b以上の認定に対し,原告は,前記a(a)ないし(d)の建物について,
縦長ないし横長の矩形の長さや太さを根拠として,変形「田」の字が10
形成されていないことから,原告製品形態①を備えないと主張すると
ともに,原告製品形態①の変形「田」の字を形成していない以上,前
記a(b)及び(e)が原告製品形態②及び同⑤を,前記a(a)及び(c)が原
告製品形態⑤を備えるものではないと主張する。
しかしながら,原告製品形態①は,「正面視において,左右の壁が15
形成する2つの縦長の矩形,2階天井部が形成する1つの横長の矩
形,地面と垂直に設けられた柱部,及び,地面と平行に設けられた
梁部によって,変形『田』の字(『田』の字の4画目まで)が形成さ
れている。」というものであって,縦長ないし横長の矩形の長さや太
さについて具体的に特定するものではない。したがって,矩形の長20
さや太さを根拠として原告製品形態①を備えるか否かを論じる原告
の主張は,前記a(a)ないし(d)の建物が原告製品形態①を備えると
の認定を左右するものではない。
そうすると,原告製品形態①を備えないことを理由として前記a
(a)ないし(c)及び(e)の建物が原告製品形態②,⑤を備えないとする25
原告の上記主張も,前提を欠くものであって,採用することができ
ない。
cなお,被告は,前記a(a)ないし(e)で認定した建物以外にも原告
製品形態の全部又は一部を備える建物が存在すると主張する。しか
しながら,前記a(a)ないし(e)の他に被告が指摘する建物は,柱部
が2本存在するものや(乙12ないし15,乙20),正面視が変形5
「田」の字のみで形成されたものではないものなど(乙17,1
8),いずれも原告製品形態とは明らかに異なる正面視の形状を有す
るものといわざるを得ず,これらの建物の存在を根拠とする被告の
主張には理由がない。
イ原告製品の形態の商品等表示該当性10
(ア)商品の形態と商品等表示性
不競法2条1項1号は,他人の周知な商品等表示と同一又は類似の商
品等表示を使用することをもって「不正競争」に該当すると定めたもの
であるところ,その趣旨は,周知な商品等表示の有する出所表示機能を
保護するため,周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自15
己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより,
事業者間の公正な競争を確保することにある。
同号にいう「商品等表示」とは,「人の業務に係る氏名,商号,商標,
標章,商品の容器若しくは包装その他の商品または営業を表示するもの」
をいうところ,商品の形態は,「商標」等と異なり,本来的には商品の20
出所を表示する目的を有するものではないが,商品の形態自体が特定の
出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして,このよ
うに商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し,不競法
2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するためには,①商品の形態
が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著25
性),かつ,②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に利用さ
れ,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により(周知性),
需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示する
ものとして周知になっていることを要すると解するのが相当である。
前記1(1)ウ(イ)bと同様に,ここでいう需要者についても,木造戸建
て住宅の購入に関心がある一般消費者と認めるのが相当である。5
(イ)原告製品形態の特定性について
被告は,原告製品形態の記載では,建物の正面の一部分のみが特定さ
れているにすぎず,一般住宅の特定に必要な建物全体の形態や,屋根,
柱等の建物の構成要素が具体的に明らかにされていないから,商品の形
態が特定されていないと主張する。10
しかしながら,そもそも,原告は,建物全体の形態が「商品等表示」
(不競法2条1項1号)に当たると主張するものではなく,原告製品形
態①ないし⑤の構成を有する建物の正面の形態が「商品等表示」に当た
ると主張するものである。
そして,原告製品形態の記載によって商品の形態が特定されているか15
を検討すると,まず,原告製品形態①ないし⑤によって,原告が「商品
等表示」に当たるとする建物の形態が建物のうち正面の部分であると限
定された上で,建物の正面の必須の構成要素をなす2階の天井部や左右
の壁,正面側壁面等が存在することのみならず,上記天井部及び壁が矩
形を形成するとともに,柱部(「田」の字の3画目の縦棒)及び梁部20
(同4画目の横棒)が配置され,これらの矩形並びに縦棒及び横棒によ
り変形「田」の字を形成することが明らかにされている。加えて,原告
製品形態②は,上記柱部が家屋の中央からやや外れた位置に,上記梁部
が上記柱部の略中央の高さにそれぞれ形成されることが示され,これに
よって,上記変形「田」の字が具体的にいかなる形態をなすものである25
かがより明確に表されている。以上のほか,原告製品形態③及び④によ
って上記柱部及び上記梁部と家屋の正面側壁面等との位置関係が,原告
製品形態⑤によって家屋正面の構成要素の配色が,それぞれ明らかにさ
れている。
このように,原告製品形態は,正面側壁面のほか,家屋の正面を構成
する左右の壁,正面の壁面,天井部,柱部及び梁部等の構成要素並びに5
それらの配置等について記載されており,これによって,家屋の正面の
形態は具体的に特定されているといえる。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(ウ)原告製品形態の特別顕著性について
a仮に,正面視が四角形をなす家屋がありふれたものであるとしても,10
前記ア(ア)の原告製品形態を有する原告製品は,原告製品形態①及び
②のとおり,正面視が四角形をなすものであることに加え,矩形の天
井部及び左右の壁並びに縦棒の柱部及び横棒の梁部が配置されること
によって,四角形をなす家屋の正面に変形「田」の字が構成されてい
る。そして,原告製品形態③及び④のとおり,柱部及び梁部が正面側15
壁面と離れて配置される結果,上記変形「田」の字が正面側壁面から
浮き上がるように見える。さらに,原告製品形態⑤のとおり,上記変
形「田」の字の部分は,背面に存在する壁面の色と異なる色が配され
ることとされる結果,上記変形「田」の字の部分と,正面側壁面の部
分とが,色彩によっても区別できるようになる。20
原告製品のこうした形態が組み合わされることにより,原告製品の
正面を見る者において,原告製品の正面に変形「田」の字が配置され
ていることが容易に把握できるといえるところ,一般的な家屋におい
て,四角形をなす家屋の正面に上記のような変形「田」の字が配置さ
れるとは限らないと考えられる。そうすると,原告製品の正面の形態25
は,上記のような変形「田」の字の部分によって特徴づけられている
ということができる。
bしかしながら,他方,前記ア(ウ)のとおり,原告製品の正面の形態
に見られる前記aの特徴の全部又は一部を備えた家屋は,原告以外の
者によっても製造,販売等されていることが認められる。
すなわち,原告において原告製品形態が商品等表示性を獲得したと5
主張する平成29年3月までの時点において,Ⓐ原告製品形態全てを
備える建物が少なくとも1棟(乙9),Ⓑ原告製品形態①,③,④,
⑤を満たす建物が少なくとも2棟(乙8,乙10),Ⓒ原告製品形態
②ないし④を満たす建物が少なくとも1棟(乙16),Ⓓ原告製品形
態①,③,④を満たす建物が少なくとも1棟(乙11)存在する。10
この点,上記Ⓑについては,原告製品の柱部に相当する縦棒が家屋
の中央に存在するために,原告製品形態②を満たさないものの,正面
に「田」の字を形成しているという点において,家屋の正面を見る者
に同種の印象を与えるといえるのであって,他の原告製品形態を全て
備えていることを併せ考えれば,いずれの家屋の正面視も原告製品形15
態と類似するものといえる。
また,上記Ⓒについては,右の壁が縦長の矩形を形成していないこ
と等から前記①を満たさないほか,左の壁及び天井部と,変形「田」
の字を構成するその余の辺の色とが異なるため,原告製品形態⑤を満
たさないものの,右辺に配置された柱と,天井部,左の壁,縦長及び20
横長の各矩形並びにこれらの配色により,需要者が正面視において変
形「田」を感得することは比較的容易であって,その余の原告製品形
態を全て備えることを併せ考えれば,原告製品形態と類似する正面視
を有する家屋であるといえる。
そして,上記Ⓓについては,原告製品形態②及び⑤を満たさないも25
のではあるが,その余の原告製品形態により,原告製品と同様,正面
に「田」の字を感得させ得る構造を有しているのであって,原告製品
形態と比較的類似したものといえる。
cこのように,原告製品形態を有する建物を特徴づける構成,すなわ
ち,その正面視の形態が「田」の字あるいは変形「田」の字を構成す
る建物は,従前,他にもみられたものであって,原告製品形態が商品5
等表示性を獲得したと主張する時点より前の時点において,原告製品
と類似する建物が前記bの数存在したことが認められる。そして,家
屋という性質上,その数は決して少数ではないというべきである。
以上のような原告製品形態と同一又は類似の形態を有する建物が存
在する状況に照らせば,原告製品形態は,その形態を個別にみても,10
これらの形態の組合せとしてみても,家屋の正面視に関する形態とし
て,客観的に他の同種製品とは異なる顕著な特徴を有しているとまで
は認められない。
(2)争点2についての小括
以上の次第で,争点2に関するその余の点について判断するまでもなく,15
不競法に基づく原告の請求にはいずれも理由がない。
3争点3(損害の発生及びその額)について
(1)侵害の行為により被告が受けた「利益」の額について
ア認定事実
前記前提事実,証拠(甲225,229の1,乙26ないし104)20
及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア)H物件の売買代金等
被告は,H物件を2047万6652円(税抜)で顧客に販売した。
その際,H物件の販売価格のうち,H建物部分は1279万1852円
(税抜)と,H土地部分は768万4800円と定められた。25
被告は,H物件の販売に先立ち,H土地を293万7979円で購入
し,H建物の建築等費用として1266万9357円を支出した(乙2
6ないし104)。
(イ)I物件の売買代金等
被告は,I物件を2448万3400円(税抜)で顧客に販売した。
その際,I物件の販売価格のうち,I建物部分は1270万75005
円(税抜)と,I土地部分は1177万5900円と定められた。
被告は,I物件の販売に先立ち,I土地を733万0599円で購
入し,I建物の建築等費用として1272万2326円を支出した。
(ウ)被告の事業形態
被告は,土地を取得した上で,同土地上に建物を建築し,いわゆる10
建売住宅として,土地と建物を一体として顧客に販売することがある
一方,いわゆる注文住宅の販売も行っている(甲229の1)。
(エ)固定資産評価額,公示価格及び実勢価格の関係
一般に,固定資産評価額は公示価格の7割といわれ,また,不動産
の実勢価格は,公示価格の1.1ないし1.2倍といわれている(甲15
225)。
イ検討
(ア)意匠法39条2項の「利益」の意義について
a意匠法39条2項は,意匠権者又は意匠権の専用実施権者が,意匠
権侵害によって被った損害の賠償を求めるに当たり,侵害者が侵害行20
為によって利益を受けているときは,その利益の額を意匠権者又は意
匠権の専用実施権者の損害額と推定するとして,立証の困難性の軽減
を図った規定である。こうした趣旨に照らすと,同項所定の侵害行為
により侵害者が受けた利益の額とは,原則として,侵害者が得た利益
全額であると解するのが相当であって,このような利益全額について25
同項による推定が及ぶと解すべきである。そして,同項の「利益」の
額は,侵害品の売上高から,侵害者において侵害品を製造販売するこ
とによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控
除した限界利益の額であり,その主張立証責任は意匠権者側にあるも
のと解すべきである。
b本件についてこれをみるに,本件意匠権の物品は組立て家屋である5
から,本件意匠権を侵害する行為は,組立て家屋の譲渡等であり,侵
害品は組立て家屋である。したがって,被告が本件意匠権を侵害する
ことによって受けた「利益」を算定する際には,組立て家屋を製造,
販売するなどしたことにより被告が受けた限界利益の額と認めるのが
相当である。10
これに対し,原告は,H物件及びI物件の製造,販売による,意匠
法39条2項の「利益」を算定するに当たっては,建物のみならずこ
れと一体として売却された土地の販売利益をも考慮に入れるべきであ
ると主張する。
しかしながら,土地及び建物は常に一体として販売されるとは限ら15
ず,いわゆる注文住宅を建築する場合のように,施主がまず土地に係
る売買契約を締結し,その後,同土地上の建物の建築請負契約を締結
するなど,土地と建物が個別に取引の対象とされることも広く行われ
ているから,土地と建物が類型的に見て一体として取引されるとまで
はいえない。本件において,H物件及びI物件は,いずれも土地と建20
物が一体として販売されているものの,前記ア(ウ)のとおり,被告は,
必ずしも建売住宅の販売に特化した事業を行っていたものではなく,
注文住宅の建築を請け負ってもいたものであり,被告において土地と
建物を一体として取引することが常態であったとまでは認められない。
そうすると,本件意匠権の侵害について,意匠法39条2項の25
「利益」を算定するに当たっては,H建物及びI建物の販売利益の
みを対象として算定すべきであり,これらに加えてH土地とI土地
の販売利益をも対象として「利益」の額を算定することは相当でな
いというべきである。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(イ)H建物及びI建物の販売利益の額について5
以上説示したところを前提に,被告が受けた「利益」の額について検
討する。
a被告による意匠権侵害行為により被告が受けた「利益」は,H建物
及びI建物を販売したことにより被告が受けた限界利益の額と認めら
れる。10
b(a)ところで,意匠権の侵害品とそうでない物品が同時に譲渡等され
た場合において,そのうち侵害品の売上高を認定するに当たっては,
第一次的には上記譲渡等の当事者間で合意された販売額の内訳によ
るとしても,侵害者が侵害品に付した価格が不当に低い場合には,
侵害者が付した価格によらず,客観的価格によって被告の受けた利15
益を算定すべきである。これに対し,被告は,当事者が販売価格の
内訳を定めている以上,係る合意に基づき販売価格が認定されるべ
きである旨を主張する。しかしながら,侵害品と非侵害品が同時に
取引される場合において,常に,当事者間で合意された販売価格の
内訳に従って侵害品の売上高を認定することとすると,侵害者にお20
いて,侵害品と非侵害品の価格の内訳を変更することにより,意匠
法39条2項により推定される「利益」を恣意的に減額することが
可能となり,立証の負担を軽減して権利者の保護を図るという同項
の立法趣旨を没却することとなり,相当ではない。したがって,被
告の上記主張を採用することはできない。25
(b)本件においては,前記ア(ア)及び(イ)のとおり,H物件の販売価格
計2047万6652円(税抜)のうち,H建物部分は1279万
1852円(税抜)と,H土地部分は768万4800円と定めら
れ,I物件の販売価格計2448万3400円(税抜)のうち,I
建物部分は1270万7500円(税抜)と,I土地部分は117
7万5900円と定められた。しかしながら,係る内訳に基づき,5
土地取得費用ないし建物建築等費用を差し引いて販売利益(限界利
益)の額を算定すると,H土地の販売利益が474万6821円で
あるのに対し,H建物の販売利益は12万2495円となり,I土
地の販売利益が444万5301円であるのに対し,I建物につい
ては1万4826円の損失が生じることとなる。このように,被告10
がH物件及びI物件で付した内訳額によれば,建物については販売
利益が生じないか,むしろ損失が生じるのに対し,土地については
いずれも400万円を超える利益を生じることとなり,土地の販売
利益と建物の販売利益の額には大きな差がある。
また,後記のように,H土地の客観的価格は460万8484円,15
I土地の客観的価格は724万7500円と認められるところ,被
告が主張する内訳に基づくH土地及びI土地の価格は客観的価格か
ら大きくかい離している。
それのみならず,上記内訳によれば,H建物からはほとんど販売
利益が生じず,I建物に至っては,建築によってかえって損失が生20
じることとなり,販売利益がほとんど生じないか,赤字が生じるよ
うな価格による建物建築の請負契約を締結したという結果となるが,
そのような内訳としたことについて,被告は,何ら合理的な説明を
しない。
以上に照らせば,被告がH建物及びI建物に付した販売価格は不25
当に低いというべきであるから,被告が受けた「利益」を算定する
に当たっては,被告が付した価格によらず,客観的価格によるのが
相当である。
cそこで,H建物及びI建物の客観的価格について検討する。
(a)この点,H建物の客観的価格は,H物件の販売価格の合計から,
H土地の客観的価格(実勢価格と同義である。以下,土地につき同5
じ。)を控除することによって求めることができ,かかる額からさ
らにH建物の建築等費用を控除することによって,被告がH建物の
譲渡等により受けた限界利益,すなわち意匠法39条2項にいう
「利益」の額を算出することができる。I建物の「利益」の額も,
同様である。10
(b)まず,H土地の客観的価格を算出するに,証拠(甲223,22
4)及び弁論の全趣旨によれば,H土地の地番は(地番は省略),
地積は159.07平方メートルと認められるところ,同地番の土
地の固定資産評価証明書(甲222)によれば,同土地の1平方メ
ートル当たりの固定資産評価額は1万6900円であるから,これ15
にH土地の地積(159.07平方メートル)を掛けて求めた固定
資産評価額は268万8283円となる。そして,同額から公示価
格を算定する(前記ア(エ)に照らし,同額を0.7で割り戻す。)と,
384万0404円となり,公示価格から客観的価格を算定する
(前記ア(エ)に照らし,同額に1.2を掛ける。)と,460万8420
84円となる。よって,H土地の客観的価格は,同額と認められる。
そして,H物件の販売価格(税抜)である2047万6652円
から,460万8484円及びH建物の建築等費用である1266
万9357円(税抜)を控除すると,319万8811円となるか
ら,同額がH建物の譲渡等により被告が受けた「利益」の額と認め25
られる。
(c)次に,I土地の客観的価格を算出する。I土地は,I1の土地の
一部とI2の土地の一部から構成され,その敷地面積は114.5
1平方メートルである(甲233)。I土地の一部を構成するI1
の土地に係る固定資産評価証明書(甲232)によれば,I1の土
地の1平方メートル当たりの固定資産評価額は3万6920円であ5
り,弁論の全趣旨によれば,I1の土地とI2の土地は隣接し,か
つ,証拠(甲232,乙68の1)によれば,いずれも地目が宅地
であって同一であるから,I2の1平方メートル当たりの固定資産
評価額も同額であることが推認される。したがって,I土地(11
4.51平方メートル)の固定資産評価額は,422万7709円10
となる。そして,同額から公示価格を算定すると,603万958
4円となり,公示価格から客観的価格を算定すると,724万75
00円となる。
そして,I物件の販売価格(税抜)である2448万3400円
から,724万7500円及びI建物の建築等費用である127215
万2326円を控除すると,451万3574円となるから,同額
がI建物の譲渡等により被告が受けた「利益」の額と認められる。
なお,以上の認定によると,被告はI土地の取得費用として73
3万0599円を要しており,これは,同土地の客観的価格である
724万7500円を8万3099円上回る。しかしながら,I土20
地の取得費用として被告が挙げる内訳をみると,土地の分筆・合筆
登記等費用(乙71)として23万6713円を要していること,
被告が固定資産税の精算金を支出していることが認められるから,
算出されたI土地の客観的価格が,被告が主張するI土地の取得費
用をわずかに上回ったとしても,その一事をもって,I土地の客観25
的価格の算定に関する上記計算過程の合理性が否定されるものでは
ない。
ウ小括
以上の次第で,被告が本件意匠権に関する意匠権侵害行為により得た
「利益」の額は,H物件の限界利益の額(319万8811円)と,I
物件の限界利益の額(451万3574円)の合計額である771万25
385円であると認められる。
(2)推定の覆滅事由の存否について
ア販売地域及び需要者の競合について
前記2(1)ア(イ)のとおり,原告は,岡山,広島,京都,滋賀及び兵庫に
販売拠点を設置・運営しているところ,鳥取市からこれらの販売拠点を訪10
れることは,公共交通機関ないし自家用車を利用することにより,十分に
可能であるといえる。また,本件意匠の構成態様は原告製品形態に包摂さ
れる内容であること,前記第2の2(3)のとおり,原告は,平成28年4
月に「フランクフェイス」モデルを原告製品3へモデルチェンジしたこと,
原告製品形態を有する建物のモデルハウスが設置されている販売拠点のう15
ち少なくともBESS広島及びBESS久御山については,本件意匠の構
成態様を備えた建物がモデルハウスとして設置されていること(甲166,
167)に照らすと,モデルハウスに設置された原告製品形態を有する建
物は,本件意匠の構成態様をすべて備えていることが推認されるところ,
前記2(1)ア(イ)のとおり,原告製品形態を有する建物,すなわち本件意匠20
権が実施されている建物のモデルハウスが設置されている販売拠点を訪れ
た鳥取県の住民が少なくとも25人存在する。さらに,鳥取市内には,本
件意匠権が実施された建物か否かは判然としないものの,原告の製品であ
る建物を購入した顧客が令和2年3月16日の時点で8名存在する(甲2
41)。これらの事情を総合すれば,原告と被告の製品(建物)の販売が,25
鳥取市内で競合していないとまでは認められない。
この点,被告は,原告がターゲットとしているのは,セカンドハウスを
所有したり,生活上の必要に駆られずとも住宅を購入したりする余裕のあ
る,自然派志向の富裕層であると主張する。
しかしながら,本件証拠上,原告製品を購入した顧客がインスタグラム
に投稿した記事や原告製品のパンフレット等での紹介事例のうち,セカン5
ドハウスである購入事例は認められず,かえって,原告製品が,福岡県北
九州市など,都市部において販売された事例が存在すること(甲247),
原告が販売する製品の93ないし94パーセントは自宅保有目的であるこ
と(甲243,244)が認められる。加えて,被告は,J物件を紹介す
るブログの記事において,「アウトドア風」という用語を用いて物件の魅10
力を宣伝していることから(甲248),被告が販売する建物の中には,
自然に近い住環境が実現できることが長所であるものが存在することが認
められる。しかも,原告が販売する「フランクフェイス」の鳥取市内にお
ける標準価格(本体価格)は,平成28年4月から平成30年10月まで
1703万円ないし1971万円であるところ(甲30),H土地の客観15
的価値から算定されるH建物の販売価格が1586万8166円(H建物
の建築等費用1266万9357円と限界利益の額319万8809円の
合計額)と,I物件の同販売価格が1723万5900円(I建物の建築
等費用1272万2326円と限界利益の額451万3574円の合計額)
とそれぞれ認められることと比較すれば,原告の製品と被告の製品の需要20
者が異なるほどの価格の差が存在するとはいい難い。これらの事情を総合
すれば,原告と被告の製品の需要者の層に相違があるとはいえず,被告の
上記主張は,採用することができない。
したがって,販売地域及び需要者が競合していないことを意匠法39条
2項の推定覆滅事情として考慮することはできない。25
イ本件意匠の寄与度について
前記(1)イのとおり,意匠法32条2項の「利益」は,H建物及びI建
物の建物全体に係る販売利益が原告の損害と推定されるものの,本件意
匠は部分意匠であり,意匠の対象となっているのは,建物の外観のうち,
正面視に係る部分であるから(別紙本件意匠公報の【正面図】参照),本5
件意匠の上記販売利益に対して寄与していない部分については,上記の
推定が覆滅される。
そこで,本件意匠の特徴を検討すると,本件意匠は,建物の正面視を構
成する柱部及び梁部によって形成される略十字部分であって,本件意匠
が建物の正面視を占める面積は少なく,建物の外観全体に占める面積は10
より一層少ない。他方,木造戸建て住宅の外観のうち,看者が最も注目
するのは正面視の外観であり,このことは,販売する建物を宣伝ないし
広告する際には,主として当該建物の正面の写真ないし画像が使用され
ることからもうかがわれるところである。現に,住宅の購入の理由には
デザインも相当程度寄与している旨の調査結果も存在する(甲251)。15
そして,原告は,原告製品のうち正面視を大写しにした写真を用いた雑
誌広告を数多く掲載したり,製品カタログにおいて,本件意匠の実施部
分を「クロスしたトリムラインが印象的な,来る者拒まずのオープンな
フェイス」などと表現していることからも明らかなとおり(甲26,2
7),本件意匠の実施部分を特に注記して,原告製品の宣伝広告活動をし20
たりしていることが認められる。加えて,原告製品の購入者は,原告製
品の正面視を映した写真とともに,インスタグラムに記事を投稿してい
る。以上からすれば,原告が販売する「フランクフェイス」の販売に対
しては,その外観,とりわけ正面視の形状が一定程度寄与していると認
められ,かつ,当該正面視の形状を特徴づけているのが本件意匠である25
ことからすると,本件意匠自体もまた,上記販売に寄与する面があると
認められる。
もっとも,上記のとおり,本件意匠は,原告製品全体を占めるものでは
なく,このことは,侵害品であるH建物及びI建物も同様である。そう
すると,本件意匠の侵害部分がH建物及びI建物の販売に寄与している
としても,その寄与の度合いを認定するに当たっては,同部分がH建物5
及びI建物の外観の一部を占めるにすぎないことをしん酌するのが相当
である。加えて,需要者は,住宅を購入することを,建物の外観のデザ
インのみによって決定するものではなく,立地,間取り,価格,屋内設
備等の仕様などを総合的に考慮して決定するものであると認められる
(甲251)。以上に加え,H物件及びI物件の購入者が,被告の申出に10
応じて,柱部を撤去する工事に同意したことをも併せ考えると,本件意
匠が,被告が受けた利益の全額に寄与したとは認められないから,当該
寄与をしていない部分については,意匠法39条2項の推定覆滅事情と
して認めるのが相当である。
そして,以上の諸事情を総合すれば,本件意匠が被告の利益に与えた寄15
与度は10パーセントと認めるのが相当であり,その余の90パーセン
トについて上記の推定が覆滅されるというべきである。
ウ小括
したがって,被告の意匠権侵害行為により,被告が受けた「利益」の額
は,77万1238円と認められるから,意匠法39条2項により,同20
額が,原告が受けた損害の額と推定される。
(3)弁護士費用について
原告は,本件訴訟の追行等を弁護士に依頼したところ,被告の意匠権侵
害行為と相当因果関係のある弁護士費用は8万円と認めるのが相当である。
(4)争点3についての小括25
以上の次第で,原告の損害の発生の有無及びその額に関する原告の主張
は,被告の受けた「利益」の額である77万1238円と弁護士費用8万
円の合計額である85万1238円及びこれに対する遅延損害金の支払を
求める限りにおいて,理由がある。
4争点4(差止め等の必要性)について
(1)差止めの必要性について5
証拠(乙1ないし3)によれば,被告は,被告各建物を製造,販売等する
行為が意匠権侵害及び不正競争に当たる行為である旨などが記載された原告
の平成30年7月25日付け通知書を受領したことを受けて,遅くとも平成
30年10月5日までには,被告各建物について,建物の正面視に位置する
柱部を撤去する工事を完了したことが認められる。10
しかしながら,前記1(1)イ(イ)のとおり,被告製品1は,枠組壁工法によ
り,工場において量産が可能な建材を用いて建築される組立て家屋であるか
ら,いったん製造,販売等を中止したとしても,その再開はさほど困難では
ないと推認される。また,被告は,本件において,本件意匠と被告製品1の
意匠との類否を争うとともに,本件意匠権は無効であると主張して,本件意15
匠権の侵害を争っている。そうすると,上記のとおり,被告が,被告各建物
の柱部を除却する工事を完了したことを考慮しても,現時点において,被告
において再び被告製品1を製造,販売等し,もって本件意匠権を侵害するお
それがあると認められる。
そして,本件意匠権は組立て家屋である建物の正面視に関する部分意匠で20
はあるが,当該部分意匠の実施部分を含む建物の正面は,建物の全体と一体
をなすものであるから,本件意匠権を侵害する建物の全体について,製造,
販売等の差止めをする必要性があるというべきである。
したがって,本件においては,原告が被告に対して被告製品1の製造,販
売等の差止めを求める必要性があるものと認められる。25
(2)建物の除去の必要性について
原告による別紙被告製品目録1記載の建物の除去請求は,意匠法37条2
項に基づき,「侵害の行為を組成した物品」の廃棄を請求するものと解され
る。
この点,被告各建物を製造,販売等する行為は本件意匠権を侵害するもの5
であるところ,そのうち,H建物及びI建物は既に顧客に販売されたから,
それらの所有権は当該各顧客に移転したと認められる。
また,J建物については,前記(1)のとおり,被告がその正面視の柱部に
当たる構成部分を除去する工事を完了したことにより,J建物に係る意匠は,
本件意匠と同一であるとも,類似であるともいえなくなったと認められる。10
そして,本件全証拠によっても,現時点において,被告が所有及び占有す
る被告製品1が存在することは認められない。
以上によれば,被告製品1の除去に係る原告の請求は理由がないというべ
きである。
(3)争点4についての小括15
以上の次第で,意匠法37条1項及び2項に基づく差止め等の請求につい
ては,同条1項に基づき被告製品1の製造,販売等の差止めを求める部分の
限りにおいて,理由がある。
5結論
よって,原告の請求のうち,意匠法37条1項に基づき,別紙被告製品目録20
1記載の建物の製造,販売等の差止めを求める部分は理由があるから認容し,
民法709条,意匠法38条2項に基づき損害賠償を求める部分は85万12
38円及びこれに対する平成30年9月10日から支払済みまで年5分の割合
による金員の支払を求める限度で理由があるからその限度で認容し,その余は
理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。25
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
國分隆文
裁判官
矢野紀夫
裁判官
佐々木亮
別紙一覧
被告製品目録1
被告製品目録2
原告製品目録
本件意匠公報
本件意匠目録
原告製品形態目録
引用意匠目録
被告各建物目録
他の住宅目録
以上
(別紙被告各建物目録及び別紙他の住宅目録は省略)
(別紙)
被告製品目録1
次の基本的構成態様及び具体的構成態様を有する建物(一例として,正面視にお
いて後記参考画像甲又は乙の形状を示すもの)。
1基本的構成態様
A’家屋の正面視において,地面と垂直に設けられた柱部及び地面と平行に設
けられた梁部によって,略十字の模様が形成されている。
2具体的構成態様
a’正面視において,柱部は,地面と垂直に,かつ,家屋の1階床部から2階
天井部の間に形成されている。
b’正面視において,梁部は,地面と平行に,かつ,家屋の左右両側の壁の
間に形成されている。
c1’正面視において,前記柱部は,家屋の中心からやや右又は左に外れた
位置に形成され,前記梁部は,前記柱部の略中央の高さにおいて,前記柱
部を左右から挟むように形成されており,
c2’正面視において,前記柱部と前記梁部によって,縦棒が横棒の中心か
らやや右又は左に外れた位置にあり,かつ,前記縦棒が前記横棒を貫通す
るような略十字の模様が形成されている。
d’正面視において,前記柱部により(前記縦棒に相当する)縦長の矩形が
形成されるとともに,当該縦長の矩形は,(横方向に)順に接する(当該縦
長の矩形と高さが同一の)3つの矩形からなり,かつ,これら3つの矩形
のうち左右の2つの矩形の横幅は,(左右の2つの矩形に挟まれた)中央の
矩形の横幅より長い。
e’正面視において,前記梁部により,前記柱部の左右に,それぞれ(前記横
棒に相当する)横長の矩形が1つずつ形成されるとともに,当該横長の矩形
はいずれも,(縦方向に)順に接する(当該横長の矩形と横幅が同一の)3
つの矩形からなり,かつ,これら3つの矩形のうち上下の2つの矩形の縦幅
は,(上下の2つの矩形に挟まれた)中央の矩形の縦幅より長い。
f’前記柱部は,家屋の正面側壁面の前方(正面側)に,当該壁面から離れて
形成されている。
g’前記梁部は,前記柱部と家屋の正面側壁面との間に設けられた2階床部と
接している。
参考画像甲
参考画像乙(甲を左右反転したもの)
以上
(別紙)
被告製品目録2
次の形態を有する建物(一例として,正面視において後記参考画像甲又は乙の形
態を示すもの)。
①’正面視において,左右の壁が形成する2つの縦長の矩形,2階天井部が形成
する1つの横長の矩形,地面と垂直に設けられた柱部,及び,地面と平行に設
けられた梁部によって,変形「田」の字(「田」の字の4画目まで)が形成さ
れている。
②’正面視において,前記柱部は,家屋の中心からやや右又は左に外れた位置に
形成され,前記梁部は,前記柱部の略中央の高さに形成され,これによって,
変形「田」の字の縦棒(「田」の字の3画目)が横棒(同4画目)の中心から
やや右又は左に外れた位置にある。
③’前記柱部は,家屋の正面側壁面の前面(正面側)に,当該壁面から離れて形
成されている。
④’前記梁部は,前記柱部と家屋の正面側壁面との間に設けられた2階床部と接
している。
⑤’前記変形「田」の字を形成する3つの矩形,柱部及び梁部は,いずれも同一
色であり,かつ,家屋の正面側壁面の色とは異なる。
参考画像甲
参考画像乙(甲を左右反転したもの)
以上
(別紙)
原告製品目録
1モデル名:トリムフェイス
販売時期:平成20年4月から平成21年3月まで
2モデル名:フランクフェイス
販売時期:平成21年4月から平成28年3月まで
3モデル名:フランクフェイス
販売時期:平成28年4月から現在まで
以上
(別紙)
本件意匠公報
以上
(別紙)
本件意匠目録
1基本的構成態様
A家屋の正面視において,地面と垂直に設けられた柱部及び地面と平行に設
けられた梁部によって,略十字の模様が形成されている。
2具体的構成態様
a正面視において,柱部は,地面と垂直に,かつ,家屋の1階床部から2階
天井部の間に形成されている。
b正面視において,梁部は,地面と平行に,かつ,家屋の左右両側の壁の間
に形成されている。
c1正面視において,前記柱部は,家屋の中心からやや左に外れた位置に形
成され,前記梁部は,前記柱部の略中央の高さにおいて,前記柱部を左右か
ら挟むように形成されており,
c2正面視において,前記柱部と前記梁部によって,縦棒が横棒の中心から
やや左に外れた位置にあり,かつ,前記縦棒が前記横棒を貫通するような略
十字の模様が形成されている。
d正面視において,前記柱部により(前記縦棒に相当する)縦長の矩形が形
成されるとともに,当該縦長の矩形は,(横方向に)順に接する(当該縦長
の矩形と高さが同一の)3つの矩形からなり,かつ,これら3つの矩形のう
ち左右の2つの矩形の横幅は,(左右の2つの矩形に挟まれた)中央の矩形
の横幅より長い。
e正面視において,前記梁部により,前記柱部の左右に,それぞれ(前記横
棒に相当する)横長の矩形が1つずつ形成されるとともに,当該横長の矩形
はいずれも,(縦方向に)順に接する(当該横長の矩形と横幅が同一の)3
つの矩形からなり,かつ,これら3つの矩形のうち上下の2つの矩形の縦幅
は,(上下の2つの矩形に挟まれた)中央の矩形の縦幅より長い。
f前記柱部は,家屋の正面側壁面の前面(正面側)に,当該壁面から離れて
形成されている。
g前記梁部は,前記柱部と家屋の正面側壁面との間に設けられた2階床部と
接している。
以上
(別紙)
原告製品形態目録
①正面視において,左右の壁が形成する2つの縦長の矩形,2階天井部が形成す
る1つの横長の矩形,地面と垂直に設けられた柱部,及び,地面と平行に設けら
れた梁部によって,変形「田」の字(「田」の字の4画目まで)が形成されてい
る。
②正面視において,前記柱部は,家屋の中心からやや外れた位置に形成され,前
記梁部は,前記柱部の略中央の高さに形成され,これによって,変形「田」の字
の縦棒(「田」の字の3画目)が横棒(同4画目)の中心からやや外れた位置に
ある。
③前記柱部は,家屋の正面側壁面の前面(正面側)に,当該壁面から離れて形成
されている。
④前記梁部は,前記柱部と家屋の正面側壁面との間に設けられた2階床部と接し
ている。
⑤前記変形「田」の字を形成する3つの矩形,柱部及び梁部は,いずれも同一色
であり,かつ,家屋の正面側壁面の色とは異なる。
以上
(別紙)
引用意匠目録
第1外観
第2構成態様
1基本的構成態様
A”家屋の正面視において,地面と垂直に設けられた柱部及び地面と平行に設
けられた梁部によって,略十字の模様が形成されている。
2具体的構成態様
a”正面視において,柱部は,地面と垂直に,かつ,家屋の1階床部から2階
天井部の間に形成されている。
b”正面視において,梁部は,地面と平行に,かつ,家屋の左右両側の壁の間
に形成されている。
c1”正面視において,前記柱部は,家屋の中心からやや左に外れた位置に形
成され,前記梁部は,前記柱部の略中央の高さにおいて,前記柱部と交差す
るように形成されており,
c2”正面視において,前記柱部と前記梁部によって,縦棒が横棒の中心から
やや左に外れた位置にあり,かつ,前記縦棒が前記横棒と一体となった略十
字の模様が形成されている。
d”正面視において,前記柱部により(前記縦棒に相当する)縦長の矩形が1
つ形成されているが,前記梁部により形成される横長の矩形と一体となって
いるため,独立した矩形を観念できない。
e”正面視において,前記梁部により,(前記横棒に相当する)横長の矩形が
1つ形成されているが,前記柱部により形成される縦長の矩形と一体となっ
ているため,独立した矩形を観念できない。
f”前記柱部は,家屋の正面側壁面の前方(正面側)に,当該壁面から離れて
形成されている。
g”前記梁部は,前記柱部と家屋の正面側壁面との間に設けられた2階床部と
接している。
h”前記梁部から,家屋の正面側壁面の前方(正面側)に向かって,ひさし様
の板がせり出しており,梁部と当該板の長さの比は約7対4である。
以上

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