弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を禁錮三月及び罰金壱万円に処する。
     右罰金を完納しないときは二百円を一日に換算した期間被告人を労役場
に留置する。
     右禁錮刑に対し、原審における未決勾留日数を本刑に満つるまで算入す
る。
     訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 原審検察官樋口直吉の控訴趣意並びに弁護人泉国三郎の答弁は記録中の右検察官
提出の控訴趣意書及び同弁護人提出の答弁書記載のとおりであるから之を引用す
る。
 控訴趣意第一点について、
 自己の放火罪に該当しない行為に因つて火を発せしめた者は、その火が刑法一〇
八条以下に記載の物件に延焼する虞ある場合には、之を消止めることができる限
り、その火を消止める義務があることはもちろんで、そのような者がそのような火
を、消火に必要な手段をとらないで之を放置したときは、その意図がその火力を利
用してその物件を焼燬するにあるときはもちろん、特にその火力を利用するという
ほどの積極的な意図がなくとも、右のような結果の発生を認識しながらあえて之を
認容する意思を以てした場合でも、放火罪は成立するものと解するのを相当とす
る。しかしながら、本件二個の火災について之を検討するに、
 一、 先ず原判示第一の火災について見ると、被告人は用便等の照明のため自ら
点火して使用した火がうつつて燃え出した紙の入つえ石油箱を原判示A方物置の前
に放置して自宅に逃帰つたもので、当時その火は之を放置すればその物置からA方
居宅母屋にも延焼するに至るべき状況にあつたこと、而して被告人がそれを放置し
て逃帰つた当時のその火の状況は、なお被告人の独力で容易に消止め得べき程度の
ものであつたことは記録上明かであるがその際、被告人がその火を放置して自宅に
逃帰つた被告人の心境について之を考察すると、なるほど被告人の検察官に対する
第三、四回供述調書中に論旨も指摘する如く、その火をそのまま放置すればA方物
置や母屋が当然火事になることは考えていた旨の供述記載が存するが、被告人の司
法警察員に対する供述調書(但しその第一回供述調書は全然趣旨を異にし措信し得
ないので之を除く)には右検察官に対する供述調書中の如き供述記載は全く存せ
ず、却て、その際の被告人の気持として、「箱の中の紙が燃えたら簡単に消えるも
のと思つたのです。それが悪かつたのです。」(第二回供述調書記録三九五丁表)
「火は紙であるから簡単に消えるものと思つたのです。」(第八回供述調書、同上
四三〇丁表)なる供述記載がある。そして、これら司法警察員に対する供述調書及
び検察官に対する供述調書中には一貫して、被告人はそのようにして自宅に帰つて
から、すぐ寝床に入つてぐつすり眠つていて、A方の火事騒が起つたときは熟睡し
ていたのを妻に起されて之を知つた旨の供述記載があり、この供述は被告人の妻B
の司法警察員に対する供述調書及び原審証人としての証言中の之に照応する趣旨の
部分に徴して措信し得るものであるが、記録に徴すればA方居宅と被告人方居宅と
は僅かに約八米を離れているに過ぎず、A方が火災になれば被告人方も延焼の危険
極めて大なるものがあつたこと及び被告人が前記の如く燃えている紙の入つた箱を
A方物置前迄運び出した以上、その火の拡大延焼を避けるためには、ほんの一挙手
一投足でその箱を傍らの田圃の中に投棄して容易に之を消止め得たものであること
及び被告人方とA方との間に、被告人が不作為にもせよA方居宅の焼失を企図すべ
きような怨恨等の関係は何等存しなかつたことが明かで、これらを綜合すると、も
し、被告人が、前記の箱の火が延焼してA方の物置から母屋に延焼することを認識
しながら逃帰つたものであるとすれば、被告人は何等怨恨という程のものもないA
方居宅が火事になり、ひいて自宅迄も火事になることの危険あることを認識しなが
ら、一挙手一投足の労を以て容易にそのような事態になることを防ぎ得るのに、あ
えて之をせずにその場を立去り、しかも自宅に帰つてからは何等の心配もせずにす
ぐに眠り込んでしまつたということになるのであるが、このようなことは、当夜被
告人が相当酩酊していたこと乃至は自分が火を不始末したことを他人に見られるこ
とを怖れて帰宅を急いだということを考慮に入れても、到底首肯し難いところであ
る。被告人がその石油箱を便所の外に持出したのは、之を便所内に放置すれば燃上
ることを怖れたためであると推測すべきであるが、そうまでしたのを物置の前に放
置して傍の田圃に投出すという如き容易なことをすらしなかつたのは、そこに放置
しただけで簡単に火が消え去ると思つたからであり、自宅に帰つてすぐぐつすり眠
つてしまつたのは、その火のために火事が起ることの懸念などは毫末も抱かなかつ
たからであると見るのが自然である。何の恨みもないA方が火事になり、ひいて自
分方までも火事になることの危険を認識したならば、自分が火を不始末したことを
他人に見られることの不体裁を恥ずるどころではなく極力消火に努めたであろうと
見る方が条理に合致するであろう。
 以上の次第で、被告人の検察官に対する所論の供述は措信することを得ず、むし
ろ司法警察員に対する前記各供述こそ之を信用するに足るもので、被告人は原判示
の火災について、その火がA方の物置や母屋を延焼するに至るべきことを認識して
いなかつたことは明かであるから、原判示第一の火災につき、被告人に対して放火
罪の成立を認めるの余地はない。
 二、 次に、原判示第二の火災について見るに、被告人は原判示C方便所内で、
用便等の照明のため自ら点火して使用した火が傍らの炭俵に延焼したのに、そのま
ま放置して逃帰つたもので当時その火は、之を放置すれば、その便所から、C方
厩、母屋等に延焼するに至るべき状況に在つたことは記録上明かであるが、
 1、 先ず、当時、被告人がその火を消し止め得べき状況にあつたかどうかを検
するに、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書中の供述記載による
と、その際の経過は、被告人はC方便所に入り、用便に先立ち照明の用に供するた
め、便壷の傍に相当大量に積んであつた炭俵から茅を一握り(長さ約六寸のもの)
を取つてマツチで点火して傍に置き、それからバンドを解きズボンを下げしやがん
で大便をし、次に口に指を入れて二、三回嘔吐をしたのであるが、そうしているう
ちにふと辺りが明るくなつたので右の火を置いた方を見たところ、傍に積んであつ
た前記の炭俵の一部が燃えていたので、驚いて尻も拭かずにズボンを上げ、バンド
をしめて火の傍に行き消し止めようとして右手で一回叩いたが消止めるに至らず、
すぐその場を立去つたという次第であることが明かである。ところが、原審及び当
審における各検証の結果、原審及び当審における証人Cの各証言を被告人の前記各
供述調書中の供述記載と綜合すると、当時C方便所の被告人が用便等をした部分の
附近には、炭の空俵二十俵位が乱雑に置いてあり、その炭俵はよく乾いて燃え易く
なつていたこと、而して被告人が点火した火が燃え移つたのは右の二十俵位あつた
炭の空俵の一部であつたと認められるが、これらの炭俵の数、燃え易くなつていた
ことを、被告人が茅に点火してから火が燃上つたことに気付く迄の前述の経過に徴
し、大便をし、次に二、三回嘔吐したということでもあり、その間多少の時間があ
つたこと等と併せ考え被告人が火の燃上つたことに気付いた時の火の状況は、必ず
しも被告人一人の手で容易に消し止め得べき状況にあつたものと速断することはで
きない。
 2、 更に右の点に関する被告人の認識がどうであつたかを検討すると、被告人
は、その火が燃上つたことに気付いて火を叩いたときの状況につき、検察官に対す
る第二回供述調書には、「右手で火のところを一回強く叩いたところ火勢は幾分弱
くなつたがまだ燃えて居りました」(同上四四七丁裏)と、あたかも、更に叩き続
けたら消止め得たかの如く供述しているが、司法警察員に対する各供述調書中に
は、叩いた結果火勢が弱くなつた旨の供述はなく、却てその第四回供述調書には
「右手で消止めようと思つて叩いたのです。すると却て明くなつて来たのです。そ
の際火を叩いて小指の付根を少し火傷しました」「一回叩いて見たものの消えそう
もなく却て明くなり、便所内は何処でも見えるようになり」(同上四〇九丁裏、四
一〇丁表)と、同第五回供述調書には「先に話した通り、一回叩いたのですが却て
明るくなり消えなかつたので、これでは駄目だ誰かに見られて……火をつけて居た
と話されても大変と思つて逃げたのであります」「家が焼けるとかいうことは考え
ませんです。只一人では手におえず、誰にも見られたくないといつた気持で一杯
で、云々」(同上四一八丁)と明かに自分一人で消止めることができないと考えた
旨の供述をしている。ところで、このように火の不始末をした場合、突嗟に浮ぶの
は、先ず、大変だ消そうという考で、かまわずに逃げようとか、之を利用して火災
を起そうという分別が湧くのはその後のことであろう。被告人の場合でもそうであ
つたことは、気がついたとたんに、尻も拭かずあわてて一回叩いて消そうと試みた
事実に徴しても明かである。而して、記録に徴すれば、被告人がCに対して思議を
受けていたこそあれ恨を懐いていた形跡は全くなく、又酩酊すればだらしなくなる
ことはあるが、他人に暴行をしたり危害を加えたりするような性癖のないことも明
かであるが、そのような被告人が、右の火を消止め得ると思いながら、あえて消止
めることもせずに、というよりは、むしろ、一度消そうとしたのを中止して、人に
見られることの怖しさの一念からその場を逃出すと考えるよりは、やはり消そうと
は試みたが、手に負えないと見て、その瞬間人に見られることの怖しさという分別
に囚われてその場を逃去つたと見る方が妥当と認められる。そうだとすれば、前記
の各供述の中司法警察員に対する供述の方が事情に適して措信するに足るもので、
即ち、その当時の被告人としては、その火は自分一人で消止めることはできないと
判断したものと認めるのが相当である。
 3、 次に、被告人がC方便所を立去る際、その火が拡大して、該便所はもちろ
ん、C方の母屋その他の建物までも焼失するに至るべきことを認識しながら、その
結果の発生を認容する意思の下にその場を立去つたかどうかの点であるが、この点
についても、被告人の検察官に対する第二回供述調書には「誰も気がつかなければ
火事になつて、すぐ厩、母屋、土蔵等に燃移るのではないかと思つた」旨、同第四
回供述調書には「そのまま放置すれば母屋が焼けるかも知れないと思いながら逃げ
て来たのは、他人に見られたくないという一念からであつた」旨の各供述記載があ
る。而して、他人に見られたくない一念、即ち、犯行の発覚を免れたいという念慮
のみから結果の発生を認識しながらその場を逃去るということを以て、結果の発生
を認容したものといい得るかどうかも疑問であるが、それはさておき、被告人の司
法警察員に対する供述調書中には、右の如き建物延焼の危険を認識した旨の供述記
載は全然存せず、却て、その第五回供述調書中には、特に、逃げる時現に火が燃え
るのを見て居て逃げるのであるから、家が燃えても仕方がないと思つたのか」との
問を受けたのに対し、「家が焼けるとかいつた事は考えませんです。只一人では手
におえず誰にも見られたくないといつた気持で一杯で、他に火が大きくなつて家ま
で焼けるとは考えつきませんです。又誰か早く見つけて消してくれるかとも考えま
せんで、只逃げるといつた気持です。」と答えた供述記載(同上四一八丁)が存す
るのである。もとよりこの供述でも、「一人では手におえない」と思つたというの
であるから、それは、その火が大事に至ること、即ち、少くともその便所やそれに
接着した厩位が火事になること位は感得していたものであると推論し得ないことは
ない。しかし、周章狼狽した場合の突嗟の間における右程度の感得は、いわば反射
的のもので、犯意の要件たる「認識」とはいい難く、いわんやこのことから「結果
の発生の認容」という如き、「認識」から一歩進んだ精神活動があつたと見得ない
ことは明かで、要するに、右の司法警察員に対する供述は、当時被告人としては、
建物焼燬の結果を発生すべきことの認識もなく、いわんやそれを認容する意思はな
かつたということを意味するものである。而して、その際の被告人の行動経過は前
叙の通りで、周章狼狽していたことは明かであり、かつ当時相当に酩酊していたこ
とをも併せ考え、その際の被告人の心理としては、右司法警察員に対する供述の如
き心理は、十分にあり得ることで、特に偽りとは見られない。又記録を通読する
に、被告人の司法警察員に対する第二回供述調書以降の供述記載が、特に自己の責
任を軽少ならしめるために虚偽の陳述をしたものとも認められず、却て被告人の検
察官に対する供述調書の供述記載中には、被告人が取調中に回顧反省した結果をも
混同して供述したかの感を与える点が少からず、同供述調書中前記摘録の部分も措
信し難い。
 果して然らば、原判示第二の火災についても、被告人に対して放火罪の成立を肯
定し得ないことは明かである。
 以上の次第で論旨は理由がない。
 同上第二点について、
 原判示第一、第二の火災について被告人に対して放火罪の成立を肯定し得ないこ
とは前段説明の通りである。ところで、論旨に鑑み、原審が本件二個の火災につい
て被告人の重過失失火を肯定しなかつたことの当否を検討すると、
 一、 先ず原判示第一の火災について見るに、被告人がA方便所から持出した火
のついた紙の入つた箱を放置した位置と、同人方物置、特にその当時そこに立てか
けてあつたという五、六束の萱その他可燃物との位置関係の正確なことは記録上不
明で、その箱をそこに放置すれば、火がその物置に延焼するに至るべき危険は極め
て大で、僅少の注意を以てしてもその危険を認識し得べき状況に在つたか否かは不
明であり、更に審理を続けたところでそれを明かにし得るものとも認められない。
果して然らば原審がこの火災について重過失失火を認めず、通常過失による失火を
認めたのは正当で、審理不尽の違法もない。
 二、 次に原判示第二の火災について見ると、原判決が、この火災につき被告人
が、炭俵に火が燃移つたのに気がついた後の処置に関して過失を認めていることが
誤りで、むしろ、最初に照明代用に用いた萱に点した火の使用に当つての不注意に
過失を認めるべきことは後段説明の如くで、右原判示と同様の段階に関して重過失
を認めるべきものの如く主張する論旨は正当でない。ところで、被告人の過失を後
段説明の如き段階において認める場合、それを重過失と認めるべきか否かを考察す
ると、 1、 司法警察員の昭和二十八年五月二十三日附実況見分書、原審第一回
検証(昭和二十八年九月二十一、二日施行)調書及び当審検証調書、原審及び当審
における証人Cの各証言を綜合すると、原判示第二の発火場所たるC方便所は、東
西一間半南北二間の大きさで、入口は南側東寄りに在り、内部には、東西一米一五
糎南北三米のコンクリート造り便壼が土中に埋めてあり、その内南部一米は豚の肥
溜、北部二米は人間が用便する便壷で、その上に踏板四枚を東西に渡し、それをま
たいで用便するようにしてあつた。豚の肥溜は板で掩い、人間の便壼の南端の踏板
から続いて、豚の便壼の上にはいろいろな物が置いてあつた。その中で、人間の便
壷の南端の踏板の半分位迄出て、その踏板の中央から東寄りに、ちゆうぎ(大便を
したとき用便紙の代りに用いる木片)入れのみかんの小箱より少し大きい木箱が一
個あり、それは、南端の踏板と、その次の踏板とにまたいで東を向いてしやがめば
手の届く位置にあつた。ちゆうぎ入れの箱の西には袋に入つた肥料が三俵、ちゆう
ぎ入れの箱や肥料の南には、除草機、田植用縄、糠箱等各一個あり更にそれらの物
の上に馬肥を入れて運ぶのに使う空炭俵が約二十俵積んであつた。而してその炭俵
の位置は、一部ちゆうぎ入箱にかかり(即ちちゆうぎ入れ箱は炭俵の下に一部露出
していた。)豚の肥溜の東南部寄りにあつた。なお、右の炭俵の積んであつた附近
に樽はなく、露出していた箱としてはちゆうぎ入れ箱のみであつたことが明かであ
る。そうだとすれば、右ちゆうぎ入れ箱の上に火のついた萱片をおけば、それが箱
のどの部分に置いたとしても、その上にある炭俵に延焼し、ひいて、便所、更には
原判示第二のC方各建物に延焼するに至る危険は極めて大で、かつ、容易に之を認
識し得べき状況にあつたと認めざるを得ない。
 2、 ところで、被告人の司法警察員に対する第四回供述調書によると、被告人
は、C方便所内に入つて、照明用のため、そこにあつた炭俵から萱を一握りむしり
とつて、マツチで点火した上、「炭俵の積んである横に樽か箱があつたと思います
が、その上に炭俵から離して置いたと思います」(同上四〇九丁表)と述べ、同第
五回供述調書では「前から働きに行つて知つているが、入口から入つてすぐ左側に
豚の小便等を入れて置く壷があり、その上に炭俵が二、三十枚積んであつたので
す。高さは約四尺位ではないかと思います。私が立つて稍斜下に手を差延べて炭俵
の萱の葉をむしリり取つたのです。取つた量はほんの一握りで、長さは六寸位は長
い方でありました」、「(その萱に点火した後)それを、用便する内と思つて、炭
俵の乗つている箱かどうかは詳しく解りませんが、炭俵の横の箱か何かの上に置い
たのです」(同上四一七、四一八丁)と述べているのである。そうだとすると、被
告人はそこに相当多量の炭俵が積んであつたことはもちろん、萱につけた火をその
炭俵の横の樽か箱の上に置いたことも認識していたのであり、前記現場の状況から
見て、被告人が火のついた萱片をおいたのはちゆうぎ入れ箱でなければならぬと認
められるのである。
 <要旨>3、 以上の次第で、被告人は、原判示第二の如くに火を用いれば、建物
焼燬の危険が極めて大で、かつ、容易に之を認識し得べき状況にあつたので
あるからその際火を用いるに当つては、そもそもその火をちゆうぎ入れ箱の上に置
くことを避けるか、仮りにそこに置くとすれば、それが炭俵に燃え移らぬよう万全
の措置をとるべき注意義務があつたのである。しかるに被告人は、右の如き危険を
認識せず、漫然右の如き注意を怠つて原判示第二の如き建物焼燬の結果を惹起せし
めたのであるから、その過失は刑法第百十七条ノ二の重過失に該当することは疑い
がない。原判決が之を単純過失と認めたのは事実を誤認したものでて、その違法が
判決に影響を及ぼすことは明白であるから、原判決は破棄を免れない。
 以上の次第で本論旨は理由がある。
 進んで職権を以て按ずるに、記録及び当審における事実取調の結果によれば、さ
きに控訴趣意第一点についての判断の中で説明したように、原判示第二の火災にお
いて、被告人がC方便所で、照明の代りに用いた火が傍の炭俵に燃移つたことに気
付いた当時のその火の勢は、客観的にも、被告人において消止め得べきものであつ
たとは速断し難く、かつ、被告人としては、到底自分の手にはおえないものと判断
したものと認めるのが相当であるから、之を消止めなかつたことに過失を認めるこ
とを得ないことは当然で、むしろ被告人が最初萱片に点火して照明に用いるに当つ
て、その火を漫然その附近に置いたまま使用すれば、場合によつては附近には前記
の二十俵位の燃え易い炭俵もあることであるから、それに移り、更にその便所及び
それに接続しているC方の厩、同人方母屋その他の建物に延焼する危険が極めて大
で、かつ、容易に之を認識し得べき状態にあつたのであるから、その火を用いるに
は、右の如き危険の発生しないよう万全の注意をすべき義務があつたのにそれを怠
り、その結果火災を発生せしめた点に過失を認めるのが相当である。しかるに原判
決は、この点につき、右の最初点火した火を用いるに当つての過失は之を認定せ
ず、炭俵に燃え移つた後、消止めを怠つた点に過失を認めているのであつて、その
誤りは明かであり、その違法が判決に影響を及ぼすことは明白であるから、この点
においても原判決は破棄を免れない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十七条に則り、原判決を破棄し、同法第四百条但書に
則り、当裁判所自ら次の通り判決する。
 当裁判所が認定した事実及びその証拠並びに弁護人の心身喪失の主張に対する判
断は、原判示第二の事実を、
 「第二、昭和二十八年五月二十二日、附近の山で炭焼稼ぎをしての帰途同村大字
ab地割D方の雨打石を敷いた祝いに招かれ、酒食の馳走を受け、酩酊の上、午后
十時頃帰宅の途についたが、途中前記性癖たる便意と嘔気を催したため、止むな
く、かねて様子を知つている同大字c地割d番地精米業C方厩に接続した便所(東
西一間半南北二間)に入り、暗いため、便所の南部にあつた炭俵から萱の片一握り
(長さ六寸位のもの)を取り、之に所携のマツチで点火し、傍のちゆうぎ入れ箱
(みかんの小箱より少し大きい位の木箱)の上に置いて照明に使用したのである
が、当時、そのちゆうぎ入箱の上には炭の空俵が約二十俵積んであり、ちゆうぎ入
れの箱の上に右の火を置けば、該炭俵に延焼し、ひいてその便所から厩及びC方居
宅母屋に延焼する危険極めて大で、かつ、容易に之を認識し得べき状況にあつたも
のであるから、右の如く火を用いるに当つては、ちゆうぎ入れ箱の上に置くことを
避けるか、仮りにそこにおくならば、右の炭俵に延焼することを防止するよう万全
の措置を講ずべき注意義務があつたのにかかわらず、重大な過失に困りこの注意義
務を怠り、右の如き結果の発生を認識せず、かつその火の状況に何等の注意も払わ
ず、漫然大便をし、嘔吐を続けていたため、その間に火が右の炭俵に移り更に拡大
してC所有の前記便所及び之に接続する厩、精米所及び人の現在する母屋等の各建
物を全焼するに至らしめ」
 と変更する外原判決の事実摘示証拠説明並びに「弁護人の主張に対する判断」と
同一であるから、之を引用する。
 法律に照すと、被告人の判示第一の所為は刑法第百十六条第一項罰金等臨時措置
法第二条第三条に、同第二の所為は刑法第百十七条ノ二後段罰金等臨時措置法第二
条第三条に、それぞれ該当するところ右は刑法第四十五条前段の併合罪であるが、
後者につき禁錮刑を選択し同法第四十八条第一項により、右各罪の刑を併科するこ
ととし、所定刑期及び罰金額の範囲内で、被告人を禁錮三月(判示第二の罪につ
き)及び罰金一万円(同第一の罪につき)に処し、右罰金を完納することができな
いときは刑法第十八条に則り、二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置
すべく、原審における未決勾留日数は、之を、本刑に満つるまで、右禁錮刑に算入
すべく、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条に則り、全部被告人をして負担せしむ
べきものとする。
 よつて主文の通り判決する。
 (裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 蓮見重治 裁判官 細野幸雄)

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