弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件申立てに係る両基本事件をいずれも札幌地方裁判所に移送する。
理由
第1申立ての趣旨
主文同旨
第2事案の概要
1本件申立ての基本事件のうち,A基本事件は,申立人が,①相手方社会保険
庁長官が,申立人の平成15年4月ないし平成16年3月の月分の老齢基礎年
金及び老齢厚生年金の額を減額した処分の無効確認,及び②相手方国に対し,
国家賠償法1条1項に基づき,経済的損害の賠償及び慰謝料として合計30万
7900円の支払を求める訴えであり,B基本事件は,申立人が,相手方社会
保険庁長官が,申立人の平成16年4月以降の老齢基礎年金及び老齢厚生年金
の額を減額した処分の取消しを,それぞれ求める訴えである。
2本件記録によれば,次の事実が認められる。
,,,(1)A基本事件は平成16年3月25日旭川地方裁判所に提起されたが
被告である社会保険庁長官及び国が,同年4月19日,同事件の東京地方裁
判所への移送申立てを行い,これを受けて,旭川地方裁判所は,同年5月1
4日,同事件を東京地方裁判所に移送する旨決定したところ,申立人は,抗
告及び特別抗告を提起したが,既にいずれも棄却され,抗告許可の申立てに
ついても不許可とされた。
(2)B基本事件は,平成17年3月12日,東京地方裁判所に提起された。
3申立人は,両基本事件について,平成17年4月1日施行の平成16年法律
第84号による改正後の行政事件訴訟法(以下,単に「行政事件訴訟法」とい
。),,う12条4項及び同法附則2条本文に基づき新たに管轄が生じたとして
申立人が生活保護基準以下の高齢年金生活者であり,肺結核の後遺症によって
肺活量が少ない一方,相手方は圧倒的優位な立場であって,全国どこでも応訴
できる能力をもっているから,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法17条に基づ
き,いずれも札幌地方裁判所への移送を申し立てた。
これに対し,相手方らは,A基本事件について,既に主張及び立証の大部分
がされている上,両基本事件について,尋問を受けるべき証人及び本人尋問は
予定されておらず,使用すべき検証物もないのであるから,本件訴訟を札幌地
方裁判所に移送する必要はなく,移送すればかえって訴訟の遅延を招く可能性
があり,本件申立ては却下されるべきであると主張する。
第3当裁判所の判断
1行政事件訴訟法12条4項は「国を被告とする取消訴訟については,いわ,
ゆる特定管轄裁判所に訴えを提起できる」旨規定しており,同規定は同法38
条1項により,国を被告とする無効等確認の訴えにも準用されるところ,行政
事件訴訟法の一部を改正する法律(平成16年法律第84号)附則2条本文に
よれば,同法改正後の規定は,同附則に特別の定めがある場合を除き,同法施
行前に生じた事項にも適用するとされており,管轄については同附則に特別の
定めがないから,同法施行(平成17年4月1日)前に,それぞれ無効確認訴
訟及び取消訴訟として提起されたA基本事件及びB基本事件についても,同法
12条4項が適用される結果,申立人の住所地(旭川市)を管轄する高等裁判
所の所在地を管轄する札幌地方裁判所に管轄が生じることになると解される。
なお,A基本事件のうち損害賠償請求事件については,関連請求として札幌
地方裁判所にも管轄が生じ得る(行政事件訴訟法13条1号又は6号。)
2したがって,両基本事件とも,東京地方裁判所に管轄があるほか,上記1の
とおり札幌地方裁判所に管轄があるところ,本件においては,前記第2の3の
とおり,行政事件訴訟法7条及び民事訴訟法17条に基づき,申立人による移
送申立てがあるため,諸事情を考慮して,どちらの裁判所において審理を行う
のが,訴訟の著しい遅滞を避け,又は当事者間の衡平を図る上で必要なのかを
決定することになる。
そこで検討するに,①両基本事件につき札幌地方裁判所に管轄が認められる
のは,前記1のとおり,平成16年法律第84号による行政事件訴訟法の改正
によるものであるが,この改正は,行政訴訟における裁判所の専門性を確保し
つつ,原告の住所地に近い身近な裁判所で訴えを提起する可能性を広げること
,,により行政事件訴訟をより利用しやすくする趣旨で行われたものであること
,,,②本件記録によれば申立人は現に年金を受給する高齢者であると認められ
申立人によれば,肺結核による後遺症があるとのことであり,相手方の訴訟遂
行上の便宜を考慮しても,全国各地に支部組織・人員を有することが明らかな
相手方が東京地方裁判所において審理を受けることの利益よりも,旭川市に居
住する申立人が札幌地方裁判所において審理を受けることの利益の方がはるか
に大きいことが容易に推測されること等を考慮すると,相手方の主張するとこ
ろを斟酌しても,両基本事件につき札幌地方裁判所において審理を行うのが,
当事者間の衡平を図る上で必要であるというべきである。
3なお,A基本事件については,いったん旭川地方裁判所から東京地方裁判所
に移送されたものであり,移送を受けた裁判所は,更に事件を他の裁判所に移
送することができない旨を定める民事訴訟法22条2項との関係が問題とな
る。しかし,同条項の定めは,移送決定確定後に生じた事由に基づく再移送を
妨げるものではなく,本件においては,移送決定が確定した後である平成17
年4月1日に,前記改正後の行政事件訴訟法が施行されたことを考慮すると,
A基本事件の再移送は,移送決定確定後に生じた事由に基づくものといえるか
ら,何ら民事訴訟法22条2項に反するものではないというべきである。
4よって,主文のとおり決定する。
平成17年11月21日
東京地方裁判所民事第2部
大門匡裁判長裁判官
田徹裁判官吉
矢口俊哉裁判官

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