弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人吉田賢雄の上告理由第一点について。
 原審の認定した事実は、次のとおりである。すなわち、上告人は、昭和二五年七
月二〇日訴外D外一名を連帯債務者として、金一六万五〇〇〇円を弁済期同年九月
二〇日、利息月三分の約定で貸与し、これとともに同訴外人から右債権を担保する
ため同人所有の本件建物につき抵当権の設定を受け、昭和三四年二月一〇日仮登記
仮処分決定をえて、右抵当権設定の仮登記を経由した。上告人は、これより先、昭
和三〇年六月二三日、同訴外人に対する右貸金債権を被保全債権とし、本件建物に
対する仮差押決定をえて、その登記を経たが、同訴外人は、昭和三七年六月三〇日、
仮差押解放金二〇万円を供託し、右仮差押執行の取消決定をえて、その頃右仮差押
登記の抹消登記を経由した。そして、上告人は、右仮差押の本案訴訟である本件貸
金の支払を求める訴訟において、上告人勝訴の確定判決をえたので、これを債務名
義として、昭和三八年一月二四日、同訴外人の有する前記仮差押解放金の取戻請求
権(以下本件供託金返還請求権という。)につき、債権差押および転付命令をえた。
ところが、これに先だち、被上告人が、同訴外人に対する貸金一〇〇万円の強制執
行として、昭和三七年七月三日、本件供託金返還請求権につき債権差押および転付
命令をえていたため、右仮差押解放金につき配当手続が開始され、配当裁判所は、
上告人および被上告人が同訴外人に対して有する前記各貸金債権を平等の順位にあ
るものとして、第一審判決添付第一表記載のような配当表を作成するに至つた、と
いうのである。
 右事実関係のもとにおいては、上告人と被上告人のえた差押命令は競合しており、
従つて両者のえた転付命令は、いずれもその効力を有しないというべきところ、本
件供託金返還請求権は、本件仮差押の目的である本件抵当建物に代わるものである
から、民法三七二条、三〇四条の規定の趣旨に従い、上告人の有する本件抵当権は、
本件供託金返還請求権にその効力を及ぼすといわなければならない。もつとも、右
抵当権は、仮登記を経たにとどまり、本登記を経ていなかつたのであるが、仮登記
も本登記がなされた場合においては、仮登記の順位において第三者に優先する効力
を認められるのであるから、配当裁判所は、配当に際し、仮登記を有するにすぎな
い抵当権についても、その順位に応じた配当額を定め、民訴法六三〇条三項の規定
を類推して、その金額を供託すべく、右抵当権者において、後日、本登記手続をな
すにつき必要な条件を備えるに至つたときに、同人にこれを交付すべきである(大
審院大正一五年(オ)第六六一号、昭和二年五月二六日判決、民集六巻二九一頁参
照)。本件においては、上告人は、かねて同訴外人を相手方として本件建物につき
前記仮登記に基づく抵当権設定の本登記手続を訴求していたところ、上告人勝訴の
判決をえ、これが昭和三八年八月四日確定したことを原審が認定しているのである
から、上告人は、右判決の確定により、右抵当権につき本登記手続をなすに必要な
条件を備えるに至つたものというべく、したがつて、本件抵当権の順位に応じた配
当金の交付を受ける権利を有するに至つたものである。
 そして、上告人は、同訴外人の仮差押解放金の供託により、当初、本件建物に対
し抵当権を有するとともに、本件供託金返還請求権に対しても右抵当権と同様の優
先権を取得するに至つたのであるが、このような場合においては、上告人は、本件
建物に対し抵当権を実行するか、本件供託金返還請求権に対する執行に際し右優先
権を主張するか、いずれか一方を選択して行使することができるものというべきで
ある。もつとも、本件においては、本件建物は昭和三七年七月二四日までに滅失し
ていることを原審が認めているのであるから、右滅失後においては、上告人が右建
物に対する抵当権を実行することはできないのであるが、右建物に対する抵当権実
行が可能な場合においても、上告人は本件供託金返還請求権に対する執行に際し前
記優先権を選択行使することができるのである。上告人が、本件配当手続において
前記の優先権を主張したことは、記録上窺うことができないものではなく(甲一三
号証参照)、もしそうであるとすれば、配当裁判所は、右優先権に応じた順位によ
つて、配当表を作成すべきであつたものといわなければならない。しかるに、原審
は、上告人が本件供託金返還請求権に対し優先権を有しないことを前提として作成
された本件配当表を正当として是認したのであるから、原判決には、この点におい
て、法令の解釈適用を誤つた違法があるものというべく、論旨は理由があり、その
他の上告理由につき判断するまでもなく、原判決は破棄を免れず、本件配当に際し
何人にいかなる数額の支払をなすべきかを定めるにつき更に審理を尽くさせるため、
本件を仙台高等裁判所に差し戻すこととする。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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