弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告理由は別紙上告理由書と題する書面記載のとおりである。これに対し被上告
人は末綴の通り答弁書を提出した。
 上告理由第一、二点に対する判断。
 原判決は本件当事者間に争いのない身分関係として上告人はDの実子で被上告人
はDの実弟であることを判示し、その挙示する各証拠を綜合して、上告人先代Dは
他から債務を負担し、その所有であつた本件係争不動産である原判決別紙目録記載
の宅地百八十八坪建物二十六坪及び宅地十三坪について抵当権を設定していたとこ
ろ、債務の弁済ができなくて抵当不動産がいわゆる抵当流れとなり他人の手に渡つ
てしまうおそれがあつたので、昭和五年四月二日Dと親族関係にあるE、Fの両名
が各金三百円宛合計金六百円を出して本件係争不動産中宅地百八十八坪一筆をDか
ら買取り、便宜上Eの単独名義に登記をなし、それ以来Dはこの宅地を地料一箇年
坪当り米五合の約定で賃借していたこと、ところがDはその後本件係争不動産中建
物をも他人に売渡そうとしていたところ昭和十七年二月頃東京から帰郷していた被
上告人がこれを聞き知つて自分が買取ることを申し出で、右建物を本件係争不動産
中宅地十三坪一筆の分とともに代金五百円で買受け、且つこれと同時に先にE等が
Dから買取つた宅地百八十八坪一筆をも代金六百円で譲受け、かくして昭和十七年
二月十二日本件不動産全部について被上告人名義に所有権移転登記がなされたこと
を認定したのである。そして原判決の挙示している各証拠を綜合すればかような認
定がなし得ないことはない。もつとも原判決認定の右事実によると、(イ)本件係
争不動産のうち宅地百八十八坪一筆のDからE等への売買代金は坪当り金三円強と
なり、(ロ)E等は右宅地をその買受け後十数年を経て買受け代金と同じ金額で被
上告人に売渡したことになること、いずれも上告人主張のとおりである。しかし、
(イ)右売買の行われた昭和五年当時において、前示売買代が、その売買を売渡担
保であつて通常の売買ではないと認むべきである程に低廉であることは、本件の証
拠によつて認めなければならない事実ではなく、また実験則上右のような代金によ
る売買はこれを売渡担保と認むべきであるともいい得ない。また(ロ)右宅地をE
等が買受けた日は昭和五年四月二日でこれを同人等が被上告人に売渡したのは昭和
十七年二月頃で、その各売買代金は金六百円であつたことは原判決が前述のように
適法に認定しているところであり、この間土地について一般的に、又は本件宅地に
ついて特に、著しい価格騰貴のあつたことは上告人の立証しなかつたところである。
また右各売買の行われた時期及びその代金を考慮し、且つ原判決の認定しているよ
うに右宅地は年坪当り米五合(総坪数について合計年九斗四升)でDに賃貸されて
いたことをも併せて考えれば、本件宅地について買受け後十数年を経て買受け代金
と同じ金額を代金とする売却がなされたという事実によつて、原判決の認定が実験
則に反するともいうことはできない。その他上告理由中にいろいろと論議されてい
るが、これらは原審が証拠の適法な取捨選択にもとずいてなし得る範囲内でなした
事実認定を攻撃するに帰しこれを採用するに足らない。
 上告理由第三点に対する判断。
 原判決は所論甲第二号証だけではなくて、これと原判決の挙示する他の書証及び
人証を併せて、被上告人から上告人に対してなされた本件係争不動産の譲渡には原
判示のような停止条件が附いていたこと、しかるに上告人はこの不動産譲渡の前提
条件を履行しなかつたことを認定したのであつて、原判決の挙示する証拠を併せれ
ば原判示のような認定をなすこともできる。右の不動産譲渡契約が上告人の帰郷を
条件としてなされたからといつて、これにより上告人の個人的自由の拘束が余儀な
くされるとはいえないから、この条件を不法なものという論旨は理由がない。尚、
上告人は、この条件について、憲法違反を云為するけれども、原判決の確定すると
ころによれば、本件条件付譲戻契約は、昭和十七年二月中に締結せられたのである
が、上告人は、右契約成立の当時より引き続いて東京に居住し、Dの生存中ついに
本件家屋に帰住せず、結局、昭和二十年八月Dの死亡に至るまでに右条件を履行し
なかつたというのであり、しかも原判決認定の右条件の趣旨に従えば、この条件は
Dの生存中に履行せられることを必至とするのであるから、結局右条件は昭和二十
年八月Dの死亡と共に不成就に確定したものと云わなければならない。すなわち本
件条件は、憲法施行以前に既に不成就に確定したのであるからその条件の内容が憲
法に違法するかどうかの問題を生ずる余地はないのである。而して論旨援用の甲第
二号証中に原判示のようないとの点は、同号証と他の証拠とを併せて原判示の条件
の存在を認定することを妨げるものでないことは勿論であり、その他の論旨は原判
示に副わない上告人独自の見解に立脚し又は原審で主張しなかつた事実を基礎にし
て原判決を非難するもので、これまた採用に値いしない。
 上告理由第四点に対する判断。
 原審に於ける証人Gの再訊問は、上告人がこれによつて証明しようとした事実又
は重要な争点に関連する事実についての唯一の証拠方法ではないのであるから、そ
の証人訊問申出での採否は原審の裁量権に属することであり、原審が本件で右証人
の再訊問をしなかつたことを攻撃する本論旨も理由がない。
 上告理由第五点に対する判断。
 口頭弁論の方式に関する規定の遵守は調書によつてのみ証明し得るところで、原
審の昭和二十二年七月十六日の口頭弁論調書には上告人主張のような記載があるか
ら、判決言渡しが判決原本に基いてなされたことは明かである本上告理由は判決言
渡しの時原本が未完成であつたことを主張する趣旨であろうが、控訴審においては
上訴の有無にかかわらず訴訟記録には判決正本を綴り込むべきであるから(判決原
本は記録外に別に裁判所において保存するものである)上告代理人が記録を閲覧し
たという日に、判決原本でなくて正本が記録に綴り込んであつたとしてもそれはも
とより正当の措置であり正本である以上判事の捺印がないのは当然のことである。
記録を調査してもその他原判決の言渡しが完成された判決原本に基かないでなされ
たということを認める資料はないから本上告理由も採用し得ない。
 以上のように、本件上告理由はいずれも採用し得ないから、民事訴訟法第三百九
十六条第三百八十四条に則り本件上告を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につ
いては、同法第九十五条第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見によるものである。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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