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平成20年(ワ)第5921号損害賠償請求事件
判決
主文
1被告は,原告に対し,110万1360円及びこれに対する平成19年
9月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,5分の3を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,188万1360円及びこれに対する平成19年9
月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が,平成19年9月20日午前10時15分ころ,被告が設
置する名古屋市C1区所在の名古屋市立C2小学校(以下「本件小学校」と
いう)運動場において,組み立て体操(以下「組体操」という)の練習中。。
に,4段ピラミッドないし4段タワー(以下「4段ピラミッド」という)の。
,(「」最上位から落下し左上腕骨外顆骨折の傷害を負った事故以下本件事故
といい,これによって原告が負った傷害を「本件負傷」という)について,。
4段ピラミッドの練習に際し,指導及び監督に当たった教員らに過失があっ
たとして,原告が,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,188万1
360円の損害賠償及びこれに対する本件事故の日である平成19年9月2
0日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求
める事案である。
1前提事実(当事者間に争いがないか,括弧内に掲記の証拠及び弁論の全趣
旨により容易に認められる事実)
()当事者等1
ア原告は,本件事故当時,本件小学校の6年1組に在籍する児童であっ
た。
イ被告は,本件小学校を設置している普通地方公共団体である。
ウ本件事故当時の本件小学校の6年生は,児童70人が在籍し,1組と
2組の2クラス編成であった。
本件事故当時,本件小学校では,1クラスについて,1人の教員が担
,,,任を務めており原告の所属する6年1組のクラス担任はA1であり
6年2組のクラス担任は,A2であった(なお,A2は,原告が5年生
,。,「」のときの原告のクラス担任であった以下A1及びA2をA1ら
という(甲1の1。。))
A1らは,本件事故の際,6年生の組体操の練習を指導していた(乙
14。)
()運動会の実施2
ア本件小学校の平成19年度の運動会は,平成19年9月29日に予定
されていた(乙1,3。)
本件小学校では,同年の運動会において,5,6年生が合同で行う組
体操を実施する予定であり,その演目として,別紙1「一覧表」記載の
各技を,1人で行う技から始まり,順次,より人数の多い又はより難度
の高い技に移っていく予定であった。
本件小学校における組体操は,5,6年時を通じて,段階を負って指
導を行うように計画し,5年時には,最後の技までは行わず,組体操の
基本的事項を中心に指導し,6年時に,5年時で学習した技を再度復習
すると共に,より多人数で行う技を指導するというように,2年間を通
じて段階的に指導することとしていた。
イ4段ピラミッド
4段ピラミッドは,別紙1「一覧表」番号21,別紙2(乙4の1)
の「ト」及び別紙3「写真(甲16)のとおり,基本的に16人1組で」
行われ,まず,6人の児童(以下「土台の児童」という)が頭を外側に。
向けて放射状に並んで両手・両膝を地面について土台となり,次に,6
人の児童(以下「2段目の児童」という)が土台の児童の足下付近の地。
面に立って,それぞれ土台の児童の腰に両手をつき,3人の児童(以下
「3段目の児童」という)が,円の中心を向き,肩を組んで,2段目の。
児童の腰に片足ずつを乗せて立ち,1人の児童(以下「最上位の児童」
という)が3段目の児童のうち2人の肩に片足ずつを乗せて立つ技であ。
り(甲1の2,2,16,乙4の1ないし3,別紙1「一覧表」記載の)
とおり,組体操の最後の技で,6年生のみが実施する最も難易度が高い
技である。
4段ピラミッドの組立ては,A1らの合図に合わせて次の行動に移る
こととされており,具体的には,1回目の合図が鳴ると土台の児童が準
備をし,次に合図が鳴ると,2段目の児童が準備をし,次に合図が鳴る
と,3段目の児童が2段目の児童の上に乗ってしゃがみ,次に合図が鳴
ると最上位の児童が3段目の児童の上に乗ってしゃがみ,次に合図が鳴
ると3段目の児童がゆっくり立ち上がり,次に合図が鳴ると最上位の児
,,童がゆっくり立ち上がり最後の合図で最上位の児童が手を水平に挙げ
土台の児童が顔を上げるというようにされていた(甲1の2,11。)
()本件事故3
原告は,平成19年9月20日午前10時15分ころ,本件小学校運動
場において,組体操の練習中に,4段ピラミッドの最上位から落下したこ
と(本件事故)により,左上腕骨外顆骨折の傷害を負った(甲3,4。本
件負傷。)
本件事故時の4段ピラミッド(以下「本件4段ピラミッド」という)で。
は,原告が最上位の児童を担当し,3段目の児童は,いずれも6年1組に
在籍していたW,T及びH(これら3名を併せて「Wら」という)が担当。
し,別紙3「写真(甲16)の原告が左足を乗せていた番号④をWが,原」
告が右足を乗せていた番号③をTが,番号②をHが,それぞれ担当してい
た(乙20,23,証人W,証人T,証人H。)
()その後の経緯4
ア原告は,以下のとおり,本件負傷の治療のために病院などに通院し,
本件事故の日から平成19年11月2日までの44日間,左上腕をギブ
スで固定していた(甲20の1ないし3。)
(ア)B1病院
,,,,平成19年9月20日同月21日同年10月5日同月19日
同年11月2日,同月6日,同月16日
(イ)B2クリニック
平成19年11月7日
(ウ)B3病院
平成19年11月8日,同月16日,同月22日,同年12月27
日,平成20年3月27日,同年5月15日,同年7月24日,同年
9月16日,同年12月25日,平成21年3月5日,同年8月6日
(エ)B4接骨院
平成20年1月8日,同月18日,同年2月1日
イ原告は,平成20年11月7日,本件訴えを提起した。
2原告の請求
原告は,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償として,以下
の損害の合計188万1360円及びこれに対する本件事故の日である平成
19年9月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害
金の支払を求めている。
①慰謝料173万円
②診断書作成料1360円
③弁護士費用15万円
3争点及び当事者の主張
(1)A1らの過失
(原告の主張)
4段ピラミッドは,上位の児童になるほどバランスを崩しやすいなどの
危険性を有する技であるから,指導に当たる教員には,児童に対して十分
な指導を行い,十分な監督及び補助の下で実施しなければならない注意義
務があった。
,,,ところがA1らは原告が最上位の児童を担当することになって以降
前日に体育館で練習をさせたのみの不十分な指導の状態で,すぐに屋外で
の練習を行い,しかも,本件4段ピラミッドの近くに補助する教員を配置
せずに練習を実施させた。
そのため,土台,2段目及び3段目の児童(以下「3段目以下の児童」
という)が安定しない状態で最上位の原告を立ち上がらせ,原告が転落し。
ても,これを補助する者がおらず,本件事故が生じたものであるから,A
1らには,本件4段ピラミッドの指導,監督等について過失がある。
(被告の主張)
原告の主張は,否認ないし争う。
,,,,.また本件事故は原告が本件4段ピラミッドの中心から直径約2
2mの外周よりさらに約1m離れた箇所まで,およそ2mの距離を跳躍す
るという突発的な行動に出たため生じたものであり,A1らには予見する
ことができなかった。したがって,過失の前提となる予見可能性を欠いた
ものであり,A1らに過失はない。
(2)損害及び損害額
(原告の主張)
ア慰謝料173万円
(ア)通院慰謝料
原告は,本件事故の日から平成19年11月2日までの44日間,
左上腕をギブスで固定しており,平成19年9月から11月までは1
か月間に複数回通院していることから,その通院慰謝料は,3か月間
の通院に相当する73万円を下ることはない。
(イ)その他の本件負傷による慰謝料
原告は,本件負傷により,日常生活で不便を強いられ,本件事故か
ら4年前の小学校2年生から始めた空手を止めざるを得なくなり,ま
た,虚偽の説明をして,法的責任を免れようとするA1教諭らの対応
に裏切られた気持ちになるなどの精神的苦痛を受けており,これを金
銭に見積もると,少なくとも100万円を下ることはない。
イ診断書作成料1360円
ウ弁護士費用15万円
(被告の主張)
原告の主張は,いずれも否認ないし争う。
()損益相殺3
(被告の主張)
,「」,上記(2)ア(ア)の通院慰謝料は療養に伴って要する費用であるから
独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下「センター」という)によ。
る災害共済給付として,原告が実際に負担した医療費3万7690円(医
療費総額(12万5635円)の10分の3)に加算して支給された1万
1407円及び支給が見込まれる1156円の合計1万2563円(医療
費総額の10分の1)は,通院慰謝料に填補されたので,当該部分は控除
されるべきである。
(原告の主張)
被告の主張は,否認する。
原告の母親の通院付添費として,6万2700円を要し(1日につき3
300円,通院日数19日,原告が受領した上記金額は「療養に伴って),
要する費用」のうち上記通院付添費に充当されたものである。
()過失相殺4
(被告の主張)
仮に,A1らに過失があったとしても,本件事故は,A1らの指示に従
わず跳躍したという原告の過失によって,発生しあるいは傷害の程度が拡
大したものであるから,大幅な過失相殺が認められるべきである。
(原告の主張)
被告の主張は,否認ないし争う。
第3当裁判所の判断
1前記前提事実のほか,証拠(甲1ないし8,10ないし20,乙1ないし
23(なお,枝番の付いている書証で個別に枝番を挙げていないものは,す
べて枝番を含む趣旨である。以下,同じ,証人A1,証人A2,証人W,。)
証人T,証人H,原告本人。ただし,以下の認定事実に反する部分は除く)。
及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)原告は,体重が軽く,サッカー部に所属し,空手を習っているなど,運
動能力に優れていた。
(2)A1は,昭和56年に名古屋市に採用され,平成19年4月から本件小
学校の教諭として勤務し,組体操の指導について約10年の経験があった
が,4段ピラミッドの指導は平成19年度が初めてであった(乙14。)
A2は,昭和45年に名古屋市に採用され,平成16年4月から本件小
学校に勤務し,組体操の指導について,29年間で20回程度の経験があ
った(乙15。)
(3)4段ピラミッド
4段ピラミッドは,15人の児童が3段となって,最上位の児童を支え
る技であり,4段ピラミッドの最上位の児童は,地上2m以上の高さで立
ち上がることとなる。
4段ピラミッドは,元々上の段になるほどバランスが悪い状態であるう
えに,土台の児童や2段目の児童の姿勢が悪い(背中が丸くなっているな
ど)場合や,土台の児童や2段目の児童がピラミッドの中心から等距離・
等角度に並んでいない「いびつな形」の場合には,3段目の児童の立つ位
置が安定しないなど,下の段の組立てが不安定になり,そうすると,上の
段はさらに不安定な状態となる(証人A1,証人A2。)
そして,4段ピラミッドは,最上位の児童が,立ち上がった際に,つか
まる物が何もないため,最も不安定な状態となり,落下する危険性を有す
る技である。
また,遅くとも平成16年ころには,組体操の指導に関する文献におい
ても,最近組体操の練習中のケガが多いとの指摘があることが記載されて
いた(乙16。)
(4)平成19年度の運動会の練習にあてた時間
アA1らは,平成19年度の6年生の運動会の練習として,本件事故後
のものも含め別紙4日程表記載のとおり29時限分をかけたな,「」,(
お,1時限は45分である(乙7の1・2,14。原告は,この練。))
習のうち,本件事故より前の練習には全て参加していた。
A1らは,組体操の練習に当たっては,5年時で学習したことの復習
から始め,段階を追って最後の技である4段ピラミッドの練習を行うよ
う計画し,手の伸ばし方や姿勢などの各技に共通する基本的な事項につ
いては,5年時から指導を行い,また,4段ピラミッドの練習に入る前
に,より単純な技について復習をさせて,繰り返し指導を行った(乙1
4。)
イ組体操に共通する事項
(ア)A1らは,組体操に取り組む際には,怪我をしないように,以下の
①ないし④の事項を守ることを児童に指導した(乙14,15,原告
本人。)
,。①女子児童について髪が長い場合は後ろで束ねてゴムで結ぶこと
ピンの使用は危ないので避けること。
②帽子(つばのある赤白帽子)は,視野を妨げる場合があるので,
かぶらないこと。
③つめを切ること。
④演技中はしゃべらないこと。
(イ)また,A1らは,複数の児童で取り組む技のうち,土台となる児童
の上に児童が乗るミニタワー(別紙1「一覧表」番号13)などの技
について,下の児童は,上の児童を支えるときは,腕・脚・背を伸ば
して体全体で支えること,上の児童は跳んで降りないこと,落ちそう
になったときはしゃがむことを指導していた(甲11,12,14,
乙14,原告本人。)
()平成19年9月18日の事故について5
ア平成19年9月18日の5,6限目は,別紙4「日程表」記載のとお
り,5,6年生が合同で組体操フィナーレの練習を行い,平成19年度
の初めての4段ピラミッドの練習をした。
これらの時限は,6年生の担任であるA1ら2人に加え,5年生の担
任であるA3教諭とA4教諭2人の計4人で指導に当たり,4段ピラミ
ッドを作る際は,1基につき1人の教員が補助につき,A1はステージ
又は指令台で,全体の進行を指揮していた(乙14。)
イ平成19年度の4段ピラミッド又は3段ピラミッドを行うグループの
振り分け等は以下のとおりであった。
(ア)6年1組の児童のみの4段ピラミッド1基
(イ)6年2組の児童のみの4段ピラミッド1基
(ウ)6年1組と6年2組の児童で混成の4段ピラミッド1基
(エ)6年1組の児童のみの3段ピラミッド1基
(オ)6年2組の児童のみの3段ピラミッド1基
同日の練習の際,6年1組の児童のみの4段ピラミッドの最上位を担
当していたのは,Iであった。
原告は,同日の練習の際には,4段ピラミッドの構成メンバーではな
く,3段ピラミッドを担当していた。
ウ同日の5限目は,別紙4「日程表」記載のとおり,体育館において,
4段ピラミッドの練習を行った。
4段ピラミッドにおいては,3段目の児童と最上位の児童とのコンビ
ネーションが重要となる。そのため,まず,3段目の児童と最上位の児
童だけでの練習を行い,3段目の児童と最上位の児童だけで安定した状
態で行うことができると確認したら,土台の児童と2段目の児童を合わ
せた4段ピラミッドに移行して,練習を行い,1∼2回,3基同時に,
4段ピラミッドを組み立てることに成功した(乙15。)
エ同日の6限目は,別紙4「日程表」記載のとおり,場所を運動場に移
動し,引き続き4段ピラミッドの練習を行い,3回ほど成功した。
再度,4段ピラミッドに取り組んだ際,6年1組の児童のみの4段ピ
ラミッドの最上位の児童を担当していたIが,最上位で立ち上がろうと
した際,足下の3段目の児童を担当したYの首の後ろが沈んだため,バ
ランスを崩し,しゃがむこともつかむこともできず,前方へ落下し,頭
を打つ事故(以下「I落下事故」という)が発生した(甲18,証人A。
1。)
A3教諭は,I落下事故の際,6年1組の児童のみの4段ピラミッド
を補助していたが,同ピラミッドから少し後ろに移動したときに,Iが
落下したため,Iを救助することができなかった(証人A1。)
A3教諭は,Iが落下した後,すぐにIに声をかけ,同日の6限目の
練習を休ませた。
オA1は,Iに対し,落下の原因などを尋ね,同日の練習を休ませ,帰
宅するように告げた。
,,(,Iは同日の夕方ころから具合が悪くなり病院で受診した甲18
乙14。)
また,Iは,翌日朝も,病院で受診したところ,I落下事故で腰を痛
めたYと病院で出会い,IもYも,同日,授業に遅刻した(甲18,乙
7の1(6枚目。))
カ原告は,Iの友人であり,Iが病院で頭部のレントゲン撮影等の診察
を受けたという話を聞き,Iは頭を打っていたので,大きなけがをして
しまったのではないかと思い,4段ピラミッドの最上位の児童は怖いの
で,なるべくならやりたくないと思った(甲10。)
キA1は,A3教諭にIの落下の原因を尋ねたところ,前方に落ちなが
ら,体の向きを横向きにねじる形で半回転して落下した旨の説明を受け
た(証人A1。)
A1らは,I落下事故を受けて,特に指導方法について変更すること
はなく,危なくなったらしゃがむようにとの従前の指導を続けることと
しただけで,補助に入る教員の位置や危なくなった際にしゃがまなかっ
た児童についての対処法等について具体的な検討をしなかった。
クなお,被告は,I落下事故の際,Wらは6年1組の児童のみの4段ピ
ラミッドの3段目を担当していた旨主張し,これに沿う内容のA1らの
証言及び陳述書(乙14,15(以下,これらを「A1らの証言等」と)
いう)がある。。
,,,しかしWらは3名とも明確にこれを否定する証言をしていること
被告が平成20年10月8日に本件事故についての聴き取り調査をした
際にも,Wらは,I落下事故の際には6年1組の児童のみの4段ピラミ
ッドを構成していなかったと述べていること(乙20,仮に,Wらが,)
I落下事故の際も3段目を担当していたとすれば,2度にわたり自分た
ちの上に乗った最上位の児童が落下する事故を経験したことになり,極
めて印象的な出来事となるはずであるから,記憶違いがあるとは考えら
れないこと,これに,I自身も陳述書に,3段目の児童は全て男子で,
その1人は同じクラスのYであったと具体的に記載している(甲18)
ことをふまえると,A1らの証言等は信用することはできず,I落下事
故の際,Wらは6年1組の児童のみの4段ピラミッドの3段目を担当し
ていなかったと認められる。
(6)平成19年9月19日の練習
ア平成19年9月19日は,別紙4「日程表」記載のとおり,1ないし
3限目に運動会の練習を実施したが,そのうち,4段ピラミッドの練習
を行ったのは,3限目のみであった。
イA2は,Iが最上位の児童の担当を辞退することになったため,原告
がサッカー部に所属するなど運動能力に優れていたことや,体重が軽か
ったことから,Iの代わりの最上位の児童の担当に適任であると考え,
原告に対し,最上位の児童を担当するかどうか尋ねたところ,原告は,
これに応じた(乙14,証人A2,証人A1,原告本人。)
ウA1らは,6年1組の児童のみの4段ピラミッドの3段目の児童も,
他の児童から,Wらに変更した(乙20。Wらが,このときまで6年1
組の児童のみの4段ピラミッドの3段目を担当していなかったことにつ
いては前記のとおりである。。)
エA1らは,本件4段ピラミッドについて,土台の児童及び2段目の児
童を休ませて,原告が3段目の児童であるWらの上に乗る練習を,2∼
3回行わせた(乙20,原告本人。)
次に,土台の児童及び2段目の児童も加わって,本件4段ピラミッド
を作り,2回組み立てることに成功した(原告本人。)
A2は,3段目の児童が足を乗せる位置や3段目の児童が立ち上がる
ときなどには「せーの」と声をかけることを指導した(甲12,13,
証人W,証人T。)
()本件事故時の状況7
ア平成19年9月20日の2限目は,別紙4「日程表」記載のとおり,
運動場において,6年生のみで,組体操とは別の競技(跳んで回してリ「
レーして)の練習を行った後に,4段ピラミッドを含む組体操の練習を」
行った(乙14。)
同日は,6年生の担任であるA1ら2人だけで指導に当たり,組体操
の合図はA1が行っていた。
イA1らは,児童らを集合,整列させ,準備体操を行い(乙14「跳),
んで回してリレーして」の入場の練習,注意事項の確認,競技の実施,
退場までの練習を,25∼30分間実施した。
ウ次に,2限目の残りの15∼20分の間に,組体操の練習を実施する
こととし,フィナーレの位置の確認をしたうえ,4段ピラミッドの練習
を行い,原告が最上位を担当する本件4段ピラミッドは,1回組み立て
ることに成功した(乙20,証人A1)
エ引き続き,A1の合図に従って,本件4段ピラミッドを組み立てるこ
ととし,Wら3段目の児童の上に原告が乗って立ち上がったところで,
原告が最上位から地面に落下し,左手を負傷した(本件事故。原告が最)
上位で立ち上がったとき,原告は,左足をWの肩に,右足をTの肩に乗
せていた。
なお,本件事故時のA1らの位置や練習を行っていた4段ピラミッド
の個数,本件4段ピラミッドの組立ての状況,原告の落下の状況につい
ては,後記のとおりである。
オ本件事故の際,A2は,運動場中央付近の,6年1組と6年2組の児
童で混成の4段ピラミッドの補助に当たっており,本件4段ピラミッド
と異なる方向を見ていたため,原告が落下した瞬間は見ていなかった。
A2は,原告が落下した直後に,原告の声により落下に気付き,原告
に駆け寄り,原告を抱きかかえて保健室に運んだ。
A1は,A2が原告に駆け寄ったときには,組立ての合図を出してい
た位置から動いておらず,その後,本件4段ピラミッドの他の児童や他
の4段ピラミッドの児童に対し,4段ピラミッドを解体するよう指示を
した。
なお,A1は,とっさに助けようとしたが間に合わなかったとか,行
こうとしたが原告の声を聞いたA2がさっと入った旨証言する(証人A
1(17,36頁)が,A1自身,原告が落下する前に指示をしていた)
位置からは動いていないと述べているのであり(証人A1(37頁,))
上記のとおり,原告が落下した際,A1は,原告に全く駆け寄っていな
いのである。
カ養護教諭であるA5は,原告の受傷部位を固定・保護したうえ,当時
の教頭であったA6とともに,原告をB1病院に搬送した。
2争点()(過失)について1
()本件小学校を設置する被告は,本件小学校における学校教育の際に生じ1
うる危険から児童らの生命,身体の安全の確保のために必要な措置を講ず
る義務を負うところ,体育の授業は,積極的で活発な活動を通じて心身の
調和的発達を図るという教育効果を実現するものであり,授業内容それ自
体に必然的に危険性を内包する以上,それを実施・指導する教員には,起
こりうる危険を予見し,児童の能力を勘案して,適切な指導,監督等を行
うべき高度の注意義務があるというべきである。
3mそして,4段ピラミッドは,前記1()のとおり,最上位の児童は,2
以上の高い位置で立ち上がる動作を行い,かつ,安定するか否かは,3段
目以下の児童の状況にかかってくるもので,落下する危険性を有する技で
あるから,指導をする教員は,児童に対し,危険を回避・軽減するための
指導を十分に行う注意義務があると共に,最上位の児童を不安定な状況で
立たせることがないように,最上位の児童を立たせる合図をする前に,3
段目以下の児童が安定しているか否かを十分確認したり,不安定な場合に
は立つのを止めさせたりし,児童が自ら危険を回避・軽減する措置がとれ
,ない場合に補助する教員を配置するなどして児童を危険から回避させたり
危険を軽減したりする注意義務があり,これらの義務を怠った場合には過
失があるというべきである。
(2)A1らの指導について
ア被告は,4段ピラミッドに取り組むに当たって,4段ピラミッドの最
上位に立つ児童には,落ちそうになったときには,しゃがんで下の者に
しがみつくこと等の指示をしていた旨主張し,これに沿う内容のA1ら
の証言等(乙14,15,証人A1,証人A2)がある。
しかし,Wらの証言によれば,しゃがむよう指導があったことは認め
られるが,しがみつくように指導を受けたとの証言はない(Wらへの事
情聴取において,Hの母の「先生に危ない時は,しがみついていいよと
か言われなかったの」との質問に対し,Hは無言であった)し,A1。。
は,しゃがむことを必ずしも前提とせずに,しがみつけばよいと証言す
る(証人A1(44,45頁)のに対し,A2は,あくまでしゃがんで)
つかむことを前提として証言している(証人A2(7,8,39,40
頁)のであり,指導に当たるA1らの間においても,落ちそうになった)
ときの指導として述べるところが一致していない。
そして,I落下事故の際,Iは,しゃがんでしがみつくことができな
いまま落下している(証人A1(32,44頁)のであるから,口頭で)
の注意をしただけでは,児童の落下の危険を回避し,軽減するのに不十
分であることが明らかである。
ところが,A1は,I落下事故によって,しゃがまない,しがみつか
ない児童がいることを認識していたのに,IやA3教諭からI落下事故
について十分な聴き取りをしないまま,従前の指導方法を安易に継続し
ている。また,A1は,Iがしゃがまなかったのは,立ち上がろうとし
た際であるからしゃがむのは困難であると証言している証人A14,((
5頁)のに,その対策について,何ら講じていない。そして,A2にい)
たっては,IがしゃがんだのかなどI落下事故時の状況について全く認
識しないまま,安易に従前の指導を継続している(証人A2(22,2
3頁)のであり,I落下事故が発生した後も,児童に対して,落ちそう)
になった際の対応を十分に指導したり,教員の側で対処したりしたとは
認められない。
イ被告は,4段ピラミッドに取り組む際,教員の合図により一つの体勢
から次の体勢に移る際,バランスが悪かったり,無理な力が入ったと感
,,じたときは無理をしてそれ以上行わないことを指導していた旨主張し
これに沿う内容のA1らの証言等(乙14,15,証人A2)がある。
,,,しかしバランスが悪くても児童らは立ち上がることは可能であり
バランスの悪さは,4段ピラミッドを構成する児童に一律に生じるもの
ではないため,他の児童に合わせてバランスの悪い状態で立ち上がる児
(,(,童が生じることもあり得るところである乙17の2証人A254
55頁。))
そして,A1らは,3段目以下の児童のバランスが悪いことに気付か
ないまま,教員が合図をしてしまった場合に,児童らが教員に対してす
る合図や声の出し方を児童らに指導していなかったのであるから(証人
H,証人A1,児童らは,バランスが悪い状態でも,4段ピラミッドの)
組立てを続行せざるを得ない状況にあったのである(乙20。)
そうすると,4段ピラミッドにおいては,教員が少なくとも1人は補
助について,児童の様子を注視し,バランスが悪い場合には,その段階
で組立てを止めるよう指示することが必要であり,教員の補助がないま
ま,単に無理をしてやらないよう指導するだけでは,危険を回避・軽減
する指導として十分なものとはいえないのである。
(3)本件事故時の状況について
ア本件事故時におけるA1の位置について
被告は,本件事故の際,A1は,本件4段ピラミッドから1∼2mの
,。位置で補助していた旨主張しこれに沿う内容のA1らの証言等がある
しかし,Wら3名のほか,その他の児童も一致して,A1は指令台の
上にいた(甲13,14,証人W,証人T,証人H)と証言するなどし
ており,明らかにA1らの証言等と矛盾しており,Wらに,あえて虚偽
の証言をする動機は考えにくいのに対し,A1らは,自己の保身を図る
ために虚偽の証言をする動機が多分にあり,Wらの証言等に比べ,たや
すく信用することはできない。
加えて,A1は,原告が落ちる様子をはっきり見ていた旨証言してい
る(証人A1(17,34頁)が,もし,本件4段ピラミッドから1∼)
2mの位置で補助していたのであれば,A2より近くで,原告を見てい
たことになるのに,原告が落下する状況を全く見ていなかったA2の方
が早く原告に駆け寄っており,A1が全く駆け寄ってすらいないのは,
極めて不自然であり,本件事故発生時のA1の位置に関するA1らの証
言等は,信用することができない。
そして,A1らは,このような本件事故時の立ち位置という記憶違い
を生じるとは考えられない事項につき,事実と異なる内容を述べている
こと,A1らの報告に基づいて作成されたと考えられる本件事故に関す
る災害報告書(乙21)に,4段ピラミッドで生じた本件事故を「3段,
タワーの練習をしていた」際に生じた,と事実と異なる記載がされてい
,,,「,ることWらへの事情聴取においても教頭がバランスが悪いときは
どうしなさい。とか言われなかったかな。今年の組体操では,危ないと
きしゃがむように言われているんだけど」などと誘導し,また「A7。,
君が跳び降りたのは,立ってからか,しゃがんでからかどちらだったの
かな」などと,原告が跳び降りたか否かを聴き取ることなしに,これを。
前提として事情を聴いていること(乙20)などの事実からすると,本
件小学校は,教員らの保身のために,本件事故の状況について,学校側
の責任が軽くなるように意図的に工作していることがうかがわれ,本件
事故に関する部分のその他のA1らの証言等についても,信用性に疑問
が生じるものである。
,,(,,イそして本件事故時の状況については証拠甲210ないし15
乙20,証人W,証人T,証人H,原告本人)及び弁論の全趣旨によれ
ば,以下の事実が認められ,この点に関するA1らの証言等は,上記の
とおり,信用できない。
(ア)本件事故時において,本件4段ピラミッドだけではなく,少なくと
も他の2基の4段ピラミッドが組立てられており,A1は,指令台の
上で合図をし,A2は,運動場中央付近の,6年1組と6年2組の児
童で混成の4段ピラミッドの補助に当たっており,本件4段ピラミッ
ドと異なる方向を見ていた(甲11,12,14,証人W,証人T,
証人H。)
(イ)Wらが2段目の児童の上に乗る際,土台の児童の間隔などがいびつ
な形になっていたため,2段目の児童もきれいな形になっておらず,
足の置き場が以前と違っており,TやHは,足が開いたような状態に
なった(甲13,14,証人W,証人T,証人H。)
さらにWらが2段目の児童に乗ったところ2段目の児童は痛,,,「
い,痛い」などと述べていた(甲12,15,証人W,証人H。)
Wは,2段目の児童の体が動くため,足場が安定せず,バランスを
保つため,頭を上げたような態勢となった(甲12。)
Wらは,バランスが悪く危険なため,やり直した方がよいか話して
,,,いたがA1が合図を進めていったため途中でやめることができず
合図に合わせて,立ち上がった(甲13,証人W,証人T,証人H。)
(ウ)続いて,原告が,A1の合図で立ち上がったところ,Wらの体が揺
れて,足場が安定せず,原告はバランスを保てなくなり「おい,あぶ,
ねえ,あぶねえ」などと述べ,しゃがんだり,しがみついたりするこ。
となく,本件4段ピラミッドの南側に落下した(甲12,証人T。な)
お,原告が落下する際,他の本件4段ピラミッドを構成する児童の体
に触れることはなかった。
,,,ウ被告は本件4段ピラミッドにおいてはA1らの指導内容が守られ
土台の児童や2段目の児童は均等な間隔で一つの円を作っており,いび
つな形にはなく,3段目の児童もバランスを崩しておらず,原告も立ち
上がりポーズをとるまで安定した状態にあり,本件4段ピラミッドを構
成する児童の声は聞いていない旨主張し,これに沿う内容のA1の証言
等がある(乙14,証人A1。)
しかし,A1らの本件事故時の証言等は,前記のとおり,信用するこ
とができないし,A1は,原告の母に対して作成した書類(甲2)にお
いて「上から2段目(3人)がバランスを崩す」と記載し,その左側に,
記載した本件4段ピラミッドの絵にも3段目の児童の位置に「バランス
」。,,,を崩すとの記載をしているこれについてA1は認識と異なるが
本件事故が原告の責任であると述べることがしのびなかったため,原告
が本件事故後に話していた内容をそのまま記載した旨証言する(証人A
1(19,38頁)が,原告がバランスを崩したのであればそのとおり)
説明することができるはずであり,事件の詳しい説明を求める原告の母
に対して,あえて認識と異なる事実を話す理由は認められないから,こ
の点においても,A1の証言は,信用できない。
そして,A1が本件4段ピラミッドを構成する児童の声を聞いていな
いということは,A1が本件4段ピラミッドの付近にいなかったという
ことと整合するものである。
エまた,被告は,土台の円がいびつであると,3段目の児童が立ち上が
ることができないし,たとえ3段目の児童が無理に立ち上がっても3人
の肩の高さがずれてしまうので最上位の児童は立ち上がることができな
いので土台はいびつではなかった旨主張し,これに沿う内容のA2の陳
述書(乙15)がある。
しかし,A2自身が認めているように(証人A2(54,55頁,))
乙17号証の2の3枚目の写真のように,4段ピラミッドにおいて,バ
ランスが悪い状態であっても3段目の児童や最上位の児童は立ち上がる
ことは可能であるから,いびつであるからといって立ち上がることが不
可能とはいえず,被告の上記主張は理由がない。
オ被告は,原告がしゃがもうとした際にバランスを崩し,背中の方に,
跳躍した旨主張し,これに沿う内容のA1の陳述書(乙14)がある。
,,,A1は前記のとおり本件事故の際は指令台の上にいたと認められ
A1の原告が落下する状況についての証言等は信用できないし,もし原
告が意図的に跳躍したのであれば,原告が足を乗せていた3段目の児童
であるW及びTが原告の足で蹴られているはずであるが,WやTは,蹴
(,,),られた感じはしなかったと述べているのであり甲1213証人T
また,原告が落下した,土台の児童から1m程度の位置は,原告が意図
,(),的に跳躍しなければ届かない位置でもなく災害報告書乙21にも
「バランスを崩して落ちた」と記載されており,原告が跳躍したとは記。
載されておらず,他に原告が意図的に跳躍したことを認めるに足りる証
拠はない。
なお,被告は,原告の作文(乙10)を提出しているが,これには原
告が跳躍したことをうかがわせる記載はないし,かえって「下がぐらぐ
らして落ちてしまって骨折してしまいました」との前記認定事実と合致。
する記載もされているものであるから,上記作文は前記認定と齟齬する
ものではなく,被告の主張を裏付ける証拠とはいえない。
()被告は,本件事故は,原告が,およそ2mの距離を跳躍するという突発4
的な行動に出たため生じたものであり,A1らには予見することができな
かったから,過失の前提となる予見可能性を欠いている旨主張する。
しかし,本件事故において,原告が跳躍したと認められないことは前記
のとおりであり,被告の主張は,その前提を欠いたものである。
また,A1らが,落下する原告を受け止めようとしたが,原告が跳躍し
たため受け止めることができなかったというのであればともかく,A1ら
は,原告の落下に対して何らの対応もしていないのであるから,上記被告
の主張自体,A1らの責任を否定できるものではない。
,,,前記のとおり4段ピラミッドは最上位の児童が不安定な状況にあり
落下する危険性を有する技であるから,それを指導する教員は,最上位の
児童が不安定な状態になり,児童自ら危険を回避する措置をとることがで
きないまま,落下する事態は認識することができ,本件事故に際しては,
最上位の児童であったIが落下するI落下事故が生じているのであり,A
1らは,4段ピラミッドの最上位の児童が落下する事態が生じ得ることを
十分に認識していたのである。
そして,原告は,3段目の児童が動いたため,バランスを崩し,落下し
たのであるから,このような落下をA1らが予見することができないとは
到底認められず,被告の上記主張は理由がない。
()アそうすると,A1らは,本件4段ピラミッドの最上位の児童であった5
原告が落下する可能性があることを前提に,原告に対し,危険を回避・
軽減するための指導を十分に行うべき注意義務があった。
また,A1らは,3段目以下の児童が不安定な状況で,原告を立ち上
がらせないように,本件4段ピラミッドの状況を十分把握して合図を出
すべき注意義務があり,仮に3段目以下の児童が不安定な状況で合図が
出されてしまった場合であっても,本件4段ピラミッドの近くに教員を
配置して,本件4段ピラミッドの状況に応じ,3段目以下の児童が不安
定な場合には,その段階で組立てを止めるよう指示すべき注意義務があ
った。そして,A1らは,原告が自ら落下を回避することができずに落
下する事態に備えて,補助する教員を配置するなどして原告を危険から
回避・軽減させる注意義務があった。
それにもかかわらず,A1らは,原告に対し,危険を回避・軽減する
ための指導を十分に行っていないうえに,A1は,本件4段ピラミッド
の3段目以下の児童が不安定な状況にあったのに,これを把握しないま
ま漫然と合図を出し,また,A1らは,本件4段ピラミッドの状況を近
くで把握し,合図にかかわらず組立てを止めるよう指示することのでき
る教員を本件4段ピラミッドの近くに配置せず,さらに,原告の落下に
対して,補助する教員を本件4段ピラミッドの近くに配置していなかっ
,。たのであるから上記の注意義務を怠った過失があるというべきである
イ被告は,①運動会の競技は,体育的行事の一環として,児童による自
主的な活動が助長されることも求められている(乙2)のであるから,
段階的な練習を重ねてうまくできた後は,教員の複数の補助に頼らず,
自分たちで挑戦することも大事なものであるとか,②担任を持たず,学
校組織運営上の役職にもつかない教員が極めて少ない中で,1基のピラ
ミッドに対して,複数の教員を補助につけることは実際問題として著し
い困難を伴うものであるなどと主張する。
いずれも,複数の教員を補助につけられないことに関する主張である
が,本件事故時には,本件4段ピラミッドの付近に教員は1人も配置さ
れていなかったのであるし,上記①については,児童の自主性と児童の
安全とは別次元の問題であり,あくまで生じうる危険から児童の生命,
身体の安全の確保が図られていることが大前提であって,自主的な活動
の助長のため安全の確保を図る必要がなくなるわけではなく,上記②に
ついても,児童に4段ピラミッドのような転落の危険を内在する技を行
わせる場合,人員の不足のために安全の確保を図る必要がなくなるわけ
ではないのであるから,いずれも被告の責任を否定する理由になり得な
いことは明らかであり,被告の上記主張はいずれも理由がない。
()以上によれば,本件事故の際,A1が,本件4段ピラミッドの3段目以6
下の児童の不安定な状況を適確に把握して,合図を出すのを止め,あるい
は,A1らが,本件4段ピラミッドの付近に教員を配置し,上記の状況を
把握して組立てを途中で止めさせていれば,原告は,本件4段ピラミッド
から転落することはなかったものと認められるし,A1らが,本件4段ピ
ラミッドの付近に教員を配置していれば,落下する原告を受け止めたりす
ることによって,本件負傷を防ぐことができたものと認められる。
()以上のとおり,本件事故は,地方公共団体である被告の職員であるA17
らが,その職務を行うについて過失によって違法に原告に損害を生じさせ
たというべきであるから,被告は,原告に対し,国家賠償法1条1項に基
づき,本件事故による損害を賠償する責任を負う。
3争点()(損害及び損害額)について2
()慰謝料1
ア前記認定事実のほか,証拠(甲3,4,10,原告本人)及び弁論の
全趣旨によると,以下の事実が認められる。
原告は,本件負傷により,本件事故の日から平成19年11月2日ま
での44日間,左上腕をギブスで固定し,ギブスを外した後も,左腕が
曲がった状態になっており,日常生活で不便を強いられている。
また,原告は,小学校2年生のころから,C3の道場で空手を習って
おり,平成18年度,平成19年度の愛知県大会で空手の型の部門で優
勝するなどしていたが,本件負傷により,左腕が曲がっていることが型
,,の部門の判定において減点対象とされ級も上がることができないため
空手をやめざるを得なくなった。
さらに,原告は,野球やバスケットボールなど腕を使った競技をする
についても,左腕に痛みを感じている。
原告は,本件負傷について,傷が大きく残ることやA1らが事実と異
なる証言をすることなどから,左腕を手術することに対して,前向きな
気持ちになれず,症状が固定していない。
イ以上の事実に加え,本件においては,本来信用できる存在であるべき
学校側(被告)が,教員らの保身のために殊更に虚偽の事実を主張する
など誠意のない対応をとっているのであって,これらの一連の被告の対
,。応は本件負傷による原告の精神的苦痛を増大させたものと認められる
そうすると,本件負傷による慰謝料としては,通院慰謝料を含め10
0万円とするのが相当である。
()診断書作成料2
甲7号証の19及び弁論の全趣旨によると,原告は,B1病院での診断
書作成料として,1360円を支払ったことが認められ,これは,被告の
不法行為と相当因果関係にある損害というべきである。
()弁護士費用3
本件事案の内容,損害額,本件訴訟の経緯,その他諸般の事情を考慮す
ると,弁護士費用は,10万円が相当である。
4争点()(損益相殺)について3
(1)センターは,独立行政法人日本スポーツ振興センター法に基づき,学校
の管理下で児童に傷病等の災害が発生したときに,学校の責任の有無にか
かわらず給付がなされる共済制度(災害共済給付制度)を実施している。
災害共済給付においては,負傷又は疾病の場合,医療保険並みの療養に
要する費用の額の10分の4の金額が児童又は生徒に対して支払われる。
すなわち,センターから児童又は生徒が支払を受ける金額には,各医療機
関で負担した医療費(医療費総額の10分の3)に加え「療養に伴って要,
する費用」として,医療保険並みの療養に要する費用の10分の1に当た
る額が上乗せされる(乙11の1,独立行政法人日本スポーツ振興センタ
ー法施行令3条1号ロ。)
そして,独立行政法人日本スポーツ振興センター法16条3項は「学校,
の管理下における児童生徒等の災害について学校の設置者の損害賠償責任
が発生した場合において,センターが災害共済給付を行うことによりその
価額の限度においてその責任を免れさせる旨の特約(以下「免責の特約」
という)を付することができる」と定めており,同法31条1項は「学。,
校の設置者が」国家賠償法等による「損害賠償の責めに任ずる場合におい
て,免責の特約を付した上記災害共済給付契約に基づき,センターが災害
共済給付を行ったときは,同一の事由について,学校の設置者は,その価
額の限度においてその損害賠償責任を免れる」と規定している(乙11の
2)。
,(,)()前記認定事実のほか証拠甲20の1ないし3乙13の1ないし32
及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
ア被告は,センターとの間で,災害共済給付契約を締結し,免責の特約
を付している。
イ原告は,本件負傷について,本件事故のあった平成19年9月20日
から平成20年3月末までの本件小学校に在学していた期間及び本件小
学校を卒業後,中学校に入学した平成20年4月から平成21年9月2
0日現在までの期間に,被告に対し,本件事故に関して,災害共済給付
の対象として申請をし,かつ,既に災害共済給付の受給が完了している
ものとして以下の①ないし⑤がある(なお,金額は当該通院治療に要し
た医療費総額を記した。。)
①B1病院計6万7490円
(平成19年9月分3万9420円,同年10月分2万1790円,
同年11月分6280円)
②B2クリニック5660円(平成19年11月分)
③B3病院計3万5940円
(平成19年11月分2万4760円,同年12月分5280円,平
成20年3月分4500円,同年7月分700円,同年9月分700
円)
④B4接骨院計3715円
(平成20年1月分2980円,同年2月分735円)
⑤B5薬局C4店1270円(平成19年9月分)
また,上記のほかに,受給が見込まれるものとして,B3病院での平
成20年12月分1410円,平成21年3月分1850円,同年8月
分210円がある(なお,金額は当該通院治療に要した窓口負担分(医
療費総額の10分の3)を記した。。)
(3)被告は,通院慰謝料は「療養に伴って要する費用」であるから,センタ,
ーによる災害共済給付として,原告が実際に負担した医療費(医療費総額
(12万5635円)の10分の3である3万7690円)に加算して支
給された1万1407円及び支給が見込まれる1156円の合計1万25
63円(医療費総額の10分の1)について,通院慰謝料に填補された旨
主張する。
前記認定事実及び弁論の全趣旨によると,平成20年11月7日現在で
原告の実通院日数は19日であるところ,近親者の通院付添費としては1
日につき3300円とするのが相当と解されるから,原告は,通院付添費
として,少なくとも6万2700円の損害を被ったことが認められる。
そうすると,原告が「療養に伴って要する費用」としてセンターから1
万2563円を支給されたないしは支給が見込まれていることから,直ち
に通院慰謝料が填補されたと解することはできず,他にこれを認めるに足
りる証拠はないから,被告の上記主張は理由がない。
5争点()(過失相殺)について4
被告は,本件事故は,A1らの指示に従わず跳躍したという原告の過失に
よって,発生しあるいは傷害の程度が拡大したものであるから,大幅な過失
相殺が認められるべきである旨主張する。
,,小学校の正規の授業は児童が担当教員の管理下にあってその指導に服し
担当教員の指示等を信頼して行動する関係にあり,担当教員の側も心身とも
に未発達な児童を指導するのであるから,4段ピラミッドのような元々事故
の危険を内在する技を行わせる場合には,児童に不注意や能力不足があるこ
とを考慮に入れて安全な指導,監督ないし補助を行うべきであって,児童が
故意に指示に違反した等特段の事情があればともかく,児童に通常の不注意
,。や能力不足があったからといって被害者の過失と評価することはできない
本件事故においては,被告が主張するような原告が跳躍したと認めるに足
りる証拠はないし,原告が故意にA1らの指示に違反したことを認めるに足
りる証拠もないから,本件事故について原告に過失があると評価することは
できず,被告の上記主張は理由がない。
6結論
したがって,被告は,原告に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償
として,110万1360円及びこれに対する本件事故の日である平成19
年9月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の
支払義務がある。
よって,原告の請求は,上記の限度で理由があり,その余は理由がなく,
主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第8部
裁判長裁判官長谷川恭弘
裁判官濱本章子
裁判官鈴木喬

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