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平成27年3月18日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成24年(ワ)第25935号補償金請求事件
口頭弁論終結日平成26年12月1日
判決
東京都江戸川区<以下略>
原告A
(以下「原告A」という。)
東京都中央区<以下略>
原告B
(以下「原告B」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士椙山敬士
同曽根翼
同片山史英
東京都千代田区<以下略>
被告日本ゼオン株式会社
同訴訟代理人弁護士日下部真治
同岩瀬吉和
同深津健
同訴訟復代理人弁護士別府里紗
同後藤未来
同補佐人弁理士重森一輝
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告Aに対し,1億円及びこれに対する平成24年3月22日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告は,原告Bに対し,1億円及びこれに対する平成24年3月22日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,被告の従業員であった原告らが,被告に対し,被告の保有又は出願
に係る別紙発明目録記載1ないし4の日本国特許又は日本国特許出願における
特許請求の範囲記載の各発明(以下,同目録記載の番号に対応して「本件発
明1」などという。ただし,複数の請求項があるものについて,そのうちの
一つの請求項に記載された発明のみをいうときは,当該請求項の番号に対応
して枝番を付ける。また,本件発明1ないし4を併せて「本件各発明」とい
うことがある。),及び,別紙外国特許発明目録記載の外国特許(原告らが
本件発明1及び3,本件発明2,又は本件発明4を基礎としたものである旨主
張する外国特許)の請求項に係る各発明に関し,原告Aは本件発明1ないし3
の共同発明者,本件発明4の単独発明者(少なくとも,共同発明者)であり,
原告Bは本件発明1ないし3の共同発明者であるとして,平成16年法律第7
9号による改正前の特許法35条3項及び4項(以下,同条について「特許
法」という場合,同改正前の特許法をいう。)並びに同条3項及び4項の類推
適用に基づき,原告Aについては本件各発明についての日本及び外国における
特許を受ける権利を被告が承継したことの相当の対価として算定した19億4
440万円の一部である1億円及びこれに対する請求の日の翌日である平成2
4年3月22日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の
支払を,原告Bについては本件発明1ないし3についての日本及び外国におけ
る特許を受ける権利を承継したことの相当の対価として算定した10億695
0万円の一部である1億円及びこれに対する同日から支払済みまでの上記割合
による遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。
2前提事実等(争いのない事実以外は,証拠等を末尾に記載する。)
(1)当事者
ア原告Aは,昭和55年4月に被告に入社し,平成17年7月31日に退
社するまでの間,被告の研究所において化学品事業に係る研究開発(香料,
医農薬中間体,フッ素系化学品等の新製品開発や新製造法,コストダウン
研究等)に従事しており,入社14年目からは,研究室長を務めていた。
イ原告Bは,昭和46年4月に被告に入社し,平成3年までは被告の研究
開発センターにおいて有機合成技術を活用した新製品の開発に,同年以降
は被告の本社において新事業の開発に従事した後,平成17年2月28日
に退職した。
ウ被告は,化学工業製品の製造,加工及び販売等を目的とする株式会社で
ある。
(2)本件発明1ないし3に係る出願の経過等
被告は,他の出願人(工業技術院長,財団法人機械システム振興協会,社
団法人日本電子機械工業会〔以下「EIAJ」という。〕)と共に,平成
8年10月30日にした各特許出願(特願平8-305818,特願平8-
305819,特願平8-305820)に基づく優先権をそれぞれ主張し
て,平成9年10月30日,発明者をC(以下「C」という。),原告A,
原告B及びD(以下「D」という。)として,本件発明1ないし3に係る
各特許出願(特願平9-312906,特願平9-312907,特願平9
-312908)をし,下記アに記載のとおり,本件発明1に係る出願につ
いては特許権の設定登録(以下,外国における類似の手続を含め,「特許
登録」という。)に至ったが,下記イ及びウに記載のとおり,本件発明2
及び3に係る各出願については,審査官から拒絶査定を受けて拒絶査定不服
審判を請求した後,平成19年8月10日にいずれの審判請求も取り下げた
ことにより,同査定が確定した(甲1~3,32~39,乙4,6,7,9,
10)。
ア本件発明1に係る出願(甲1,32~35,乙4)
出願公開平成10年7月21日
拒絶理由通知平成17年4月26日(発送日)
意見書提出平成17年6月27日
手続補正書提出平成17年6月27日
拒絶査定平成18年4月17日(起案日)
審判請求平成18年5月25日
手続補正書提出平成18年6月22日
特許審決平成20年10月2日
特許登録平成20年11月14日
イ本件発明2に係る出願(甲2,36,37,乙6)
出願公開平成10年7月31日
拒絶理由通知平成17年4月26日(発送日)
意見書提出平成17年6月27日
手続補正書提出平成17年6月27日
拒絶査定平成18年4月17日(起案日)
審判請求平成18年5月25日
手続補正書提出平成18年6月22日
請求取下げ平成19年8月10日
ウ本件発明3に係る出願(甲3,38,39,乙7,9,10)
出願公開平成10年7月31日
拒絶理由通知平成17年5月24日(発送日)
意見書提出平成17年7月25日
手続補正書提出平成17年7月25日
拒絶査定平成18年4月17日(起案日)
審判請求平成18年5月25日
手続補正書提出平成18年6月22日
請求取下げ平成19年8月10日
(3)本件発明4に係る出願の経過等
被告は,平成11年5月24日,発明者をE(以下「E」という。),
原告A,F(以下「F」という。)及びG(以下「G」という。)として,
本件発明4に係る特許出願(特願平11-143562)を行い,特許登録
を得た。本件発明4に係る出願の経過は,概ね以下のとおりである(甲4,
40~44,乙13,弁論の全趣旨)。
出願公開平成12年11月30日
拒絶理由通知平成20年7月16日(発送日)
意見書提出平成20年8月29日
拒絶査定平成21年6月11日(起案日)
審判請求平成21年9月10日(提出日)
手続補正書提出平成21年9月10日
特許査定平成22年3月3日(起案日)
特許登録平成22年4月16日
(4)半導体製造におけるドライエッチング
ア半導体の製造過程においては,回路パターンをシリコンウエハー(シリ
コンの薄い膜。実際は,シリコン表面にシリコン酸化膜,シリコン膜,シ
リコン窒化膜などが積層されている。)上に形成する必要があり,その形
成技術は主にリソグラフィー技術とエッチング技術からなる。
イリソグラフィー技術とは,シリコンウエハー表面に感光性樹脂(レジス
ト)を塗布した後,レジスト表面に回路パターンを露光することにより,
露光した部分だけを硬化させ,回路パターン状のレジスト膜を形成するも
のである。なお,レジストには露光した部分のみが硬化するもの(ネガ
型)のほかに,露光した部分のみを落とすことができるもの(ポジ型)も
存在する。
ウエッチング技術とは,回路パターンが形成されたレジスト膜をマスクと
して,レジスト膜に覆われていない部分において,シリコンウエハー上に
堆積されたシリコン酸化膜などの薄膜を除去し,回路パターンを形成する
ものである。シリコン酸化膜などを除去する方法として,反応性の気体
(ガス)やイオンをプラズマ化させて用いるものを「ドライエッチング」,
液体を用いるものを「ウェットエッチング」という。
エ集積度の高い半導体を製造する場合,エッチング速度が速いこと,シリ
コン酸化膜とシリコン窒化膜のエッチング選択性(シリコン酸化膜だけを
除去すること。)が高いこと,エッチングの方向安定性(除去した穴の入
口側(レジスト膜側)の大きさと,底側(シリコン窒化膜側)の大きさが
近いこと。)が高いことは,エッチング性能を決める上での重要な要素で
ある。
(5)被告の従業員発明取扱規程
被告の従業員発明取扱規程には,以下の規定がある(乙24)。
ア●(省略)●
イ●(省略)●
(6)ゼオローラの販売
被告は,平成10年から,ドライエッチングガス製品であるゼオローラZ
FL-58(以下「本件製品」という。)を製造,販売している。本件製
品の主成分はオクタフルオロシクロペンテン(C5F8)である。
3争点
(1)原告らは本件発明1ないし3の共同発明者といえるか,原告Aは本件発
明4の単独発明者又は共同発明者といえるか
(2)特許を受ける権利の譲渡の相当の対価の額
ア本件各発明に係る被告の独占の利益の有無
イ本件各発明に対する被告の貢献度
ウ本件発明4に対する原告Aの貢献
エ相当対価額の算定
4争点に対する当事者の主張
(1)争点(1)(原告らは本件発明1ないし3の共同発明者といえるか,原告A
は本件発明4の単独発明者又は共同発明者といえるか)について
(原告らの主張)
ア本件発明1ないし3について
本件発明1ないし3は,以下の経緯のとおり,いずれも原告らと工業技
術院化学技術研究所(以下「化学技術研究所」という。)のCが協力し
て発明したものである。
(ア)フッ素化の考案及びフッ素化技術の導入
本件発明1ないし3は,原告らが,昭和63年頃,オゾン層破壊物質
であるフロン類の規制開始に対し,被告の独自原料であるシクロペンタ
ンにフッ素を導入してフロン代替物質として事業化することを考えたこ
とに端を発している。被告には,従来全くフッ素化学の知識,経験,技
術がなかったことから,原告らは,この事業化に当たり,危険性の高い
特殊な技術であるフッ素化技術についてCから技術指導を受け,同時に
Cと共同研究を進めてきた。特に,原告Aは,平成元年9月から平成2
年6月までの間の平日,化学技術研究所にてフッ素化学を習得した。
(イ)フッ素化技術に関する研究
原告らは,共同研究の過程で,シクロペンタンの10個の水素のうち
5~8個をフッ素原子に置き換えたものが洗浄用溶剤として使用できる
こと,特に洗浄用溶剤としての沸点範囲等を考慮すれば7個か8個が適
していることを見出した上,その製造方法についても,シクロペンタン
を原料としてその水素原子をフッ素原子で置き換える方法よりも,フッ
素化合物(C5F8)を原料として水素化する方法の方が,単一物質の
製品を製造するという観点から優れているとの知見を得たものである。
また,原告Aは,費用削減の観点から,原料となるC5F8の製造方法
についても研究を進め,ヘキサクロロシクロペンタジエン(C5Cl
6)の塩素原子をフッ素原子に置換する方法を改良する発明も行った。
一方で,被告は,平成8年度までの間,フッ素化技術の研究に人員を割
いておらず,原告Aが中心となり研究を行っていたものである。原告ら
とCとの共同研究の中には,地球環境影響評価,特に地球温暖化能の明
確化も含まれており,この研究において,原告らは,Cの指導の下,オ
クタフルオロシクロペンタン,オクタフルオロシクロペンテン,ヘプタ
フルオロシクロペンタン等の物質につき,温暖化に関する知見を得るこ
とができた。
(ウ)ドライエッチングガスへの適用
原告らがCの指導を受け始めた平成元年当時,高密度プラズマエッチ
ング業界においては,ドライエッチングガスであるパーフルオロカーボ
ン(C4F8等)が,地球温暖化能が非常に大きいことを理由に近年使
用できなくなると見込まれていた。そこで,EIAJはエッチングガス
代替ガス探索プロジェクトを立ち上げた。原告らは,Cとの共同研究に
より,C5F8が上記プロジェクトの目的である「低温暖化物質」に該
当するとの成果を得ており,エッチング評価をするために十分な純度の
C5F8サンプルを確保していたことから,C5F8等をEIAJにサ
ンプルとして提出した。そして,上記プロジェクトの主要半導体製造装
置メーカーの性能評価実験により,C5F8は地球温暖化能が低いだけ
でなく,当時ドライエッチングガスとして最も優れているとされていた
C4F8よりも,エッチング速度,選択性ともに優れていると評価され
た。
(エ)特許化の検討
原告らは,関係団体と調整し,本件発明1ないし3につき特許出願の
手続を行った。原告らは,出願手続をするに当たり,他社の特許を検討
することで,C5F8によるドライエッチングが,①特別に冷却装置を
強化することなく被エッチング基体の到達温度が60℃以上という高温
の条件においてエッチング性能と生産性が高いこと,②C5F8は酸素
あるいは酸素原子を含む新規な組合せにより高いエッチング性能を発揮
できること,③高密度プラズマによるエッチングを行うことで実現され
ることを見出し,この知見を本件発明1ないし3に具現化した。
(オ)以上によれば,本件発明1ないし3は原告らとCとの長年の研究の
成果として生み出されたものであり,EIAJは一定の条件を設定して
サンプルの性能を比較し,データを得たにすぎない。また,本件発明1
ないし3の共同発明者として記載のあるEIAJのDは,実際には発明
に関与していない。
イ本件発明4について
本件発明4は,ドライエッチングガス用オクタフルオロシクロペンテン
について,その純度や品質面に着目して出願された特許発明であり,以下
のとおり,原告Aが単独で考案したものである。
(ア)原告Aによる考案と発見
プラズマ反応用ガスは,最終的に酸素ガスや窒素ガスと併用して用い
られることから,当業者において,既に高純度化されたオクタフルオロ
シクロペンテンの残余ガス中の酸素ガスや窒素ガスを高度にコントロー
ルしようと考えることはなかったところ,原告Aは,オクタフルオロシ
クロペンテンの精製工程や分析工程の検証を通じて,液状のオクタフル
オロシクロペンテンには酸素や窒素が大量に溶解することに気が付き,
これを踏まえて精製方法や製品の分析方法を改善し,プラズマ反応用ガ
スの残余の不純物のうち,酸素ガスや窒素ガスの合計量を制限すること
により,安定したドライエッチング反応やCVDが実現されることを発
見したものである。すなわち,本件発明4の本質的特徴は,プラズマ反
応用ガスを単に高純度にすることではなく,経時的に混在量が変化して
いた酸素ガス及び窒素ガスの容量を制限することにあり,外部からもた
らされた純度や規格に関わる情報から着想を得たものではない。そして,
原告Aは,純度を99.9%,窒素ガスと酸素ガス及び窒素ガスの合計
量を200ppm以下というように,安定したエッチングが行えるしき
い値を規定することで,物質の特性を切り出し,権利範囲の広い物質発
明を完成させたものである。
(イ)原告Aによる他の従業員への指示
本件発明4の着想に至るには,オクタフルオロシクロペンテンに混在
する酸素及び窒素を正確に把握するため,その分析方法を確立する必要
があったところ,原告Aは,平成10年12月,L(以下「L」とい
う。)らに向けて,研究室の態勢をオクタフルオロシクロペンテンに
混在する酸素及び窒素の分析方法の確立とC5F8に対する窒素等の溶
解性の研究に重点化することを,また,安全性試験等の業務を担当して
いたEには,被告において酸素,窒素の分析ができるようにすること,
及び酸素,窒素の除去方法の確立をF及びGらに分担させることを指示
した。さらに,原告Aは,Eに対し,ガスクロマト装置を用いた窒素分
析法,並びに炊き上げによる方法及びそれ以外の窒素等の除去方法につ
いても分担して検討するよう具体的に指示し,その結果得られた窒素ガ
スや酸素ガスの容量を制限する具体的方法を提示したものである。
(ウ)以上によれば,原告Aは,本件発明4の本質的特徴を着想し,それ
を具現化したのであるから,本件発明4の唯一の発明者であり,E,F
及びGは,原告Aの具体的な指示に従って実験を行い,原告Aが本件発
明4の明細書案を作成する際に補助的役割を担った者にすぎないから,
本件発明4の発明者であるとはいえない。
なお,仮に,原告Aが本件発明4の単独発明者であるとはいえないと
しても,共同発明者であることは明らかである。
(被告の主張)
ア本件発明1ないし3について
(ア)本件発明1ないし3の特徴的部分
本件発明1の特徴的部分は,外部冷却装置に接続された内部冷却手段
により被エッチング基体を冷却せず,60℃~250℃という条件でエ
ッチングを行う点,本件発明2の特徴的部分は,パーフルオロシクロオ
レフィンを含むドライエッチングガス組成物中に1~40モル%の酸素
成分を含有させる点,本件発明3の特徴的部分は,高密度領域のプラズ
マを用いること,及び特定量の「酸素ガスおよび/または二酸化炭素ガ
ス」を含有させる点にある。
(イ)原告らは上記特徴的部分に係る着想,実験等を行っていない
本件発明1,本件発明2-2及び本件発明3は,いずれもドライエッ
チング方法に関する発明であり,また,本件発明2-1は組成物に係る
用途発明ではあるものの,実際にはドライエッチングを行う際のドライ
エッチング装置内における気体の構成比に係るものであるから,本件発
明1ないし3はいずれもドライエッチングを行う半導体製造業者におい
て実施されるものである。一方,被告は,化学工業品の製造,加工及び
販売を行う会社であって,半導体製造業者ではないから,本件発明1な
いし3を実施することはなく,ドライエッチングについての知見をほと
んど有しておらず,ドライエッチングを行うための装置も有していなか
った。そして,被告の従業員であった原告らも同様に,ドライエッチン
グに関する知見をほとんど有していなかったのであるから,原告らは本
件発明1ないし3の特徴的部分に係る着想を行っていない。原告らは,
EIAJの半導体製造用フロン代替ガスプロジェクトにC5F8を含む
いくつかの物質をドライエッチングガスのサンプルとして提供したにす
ぎず,本件発明1ないし3の特徴的部分に係る着想は,サンプルの提出
先においてなされたものといえる。
また,本件発明1ないし3は,いずれもドライエッチングの性能を向
上させるための発明であり,かかる発明につき技術的思想の創作を行っ
たといえるためには,着想では足りず,その有用性について実験等を通
して試行錯誤する過程に関与することが必要である。しかし,被告はド
ライエッチングを行うための装置を有しておらず,被告の従業員であっ
た原告らはC5F8のエッチング能力の評価又は実験を行っていない。
したがって,原告らは,本件発明1ないし3の特徴的部分につき,着
想したとはいえず,また,着想の有用性を確認するための実験を行った
ともいえないから,本件発明1ないし3の発明者ではない。原告らが発
明者性について主張するC5F8のサンプルを提供したことや,他社の
特許の検討をしたことなどはいずれも発明の創作行為ではない。
イ本件発明4について
原告Aは,本件発明4の単独発明者でも,共同発明者でもない。
(ア)本件発明4-1及び4-2について
a本件発明4-1及び4-2の特徴的部分
本件発明4-1の特徴的部分は,オクタフルオロシクロペンテンを
含む半導体装置製造用プラズマ反応用ガスにおいて,オクタフルオロ
シクロペンテンの純度が99.9容量%以上であり,かつ,当該プラ
ズマ反応用ガスに含まれる窒素ガスと酸素ガスの合計量を200容量
ppm以下とした点,本件発明4-2の特徴的部分は,これに加えて
水分含有量を20重量ppmとした点にある。
b原告Aは上記特徴的部分に係る着想,実験等を行っていない
原告Aは,本件発明4-1及び4-2の特徴的部分に係る着想を行
っていない。本件発明4-1及び4-2の特徴的部分に係る着想は,
窒素がドライエッチングに好ましい影響を及ぼさないとの●(省略)
●(以下「●(省略)●」という。)による指摘など,被告が本件
製品の事業化過程で関わった外部の関係各社からもたらされたもので
ある。原告Aは,本件発明4-1及び4-2を特許化する際に,この
着想をクレームに盛り込むことを提案したにすぎない。
また,本件発明4-1及び4-2はC5F8の純度及び不純物の含
有量を規定するものであるところ,このような発明は,その有用性を
明確にするための実験を繰り返し行い,有用性が認められる範囲を明
確にすることにより初めて完成し,技術的思想の創作がなされたとい
い得るが,被告自身はドライエッチングの実験を行うための装置を有
していないのであるから,被告の従業員であった原告Aが実験を行い,
本件発明4-1及び4-2を支える結果を得ることはない。
原告Aは,窒素ガスと酸素ガスの合計量を制限することがドライエ
ッチングに良い効果を及ぼすことを突きとめたと抽象的に主張するの
みで,何ら具体的な主張をせず,裏付ける証拠も提出していない。そ
して,本件発明4-1の「窒素ガスと酸素ガスの合計量」が「200
ppm」であることの意味も,明細書からは不明である。さらに,オ
クタフルオロシクロペンテンの純度についても,そもそも原告Aは,
99.95容量%以上ないし99.98容量%以上を提案していたの
であり,本件発明4-1の純度99.9%以上という数値は,競合他
社による本件発明4の回避を警戒し,権利範囲を広げることを意図し
た原告Bの要請に従ったものにすぎない。加えて,原告Aが,他の従
業員に事件に関する具体的な指示を行ったこともない。
cしたがって,原告Aは,本件発明4-1及び4-2の特徴的部分に
つき,着想したとはいえず,また,実験を通じて有用性を確認したも
のでもないから,本件発明4-1及び4-2の発明者ではない。
(イ)本件発明4-3及び4-4について
a本件発明4-3及び4-4の特徴的部分
本件発明4-3及び本件発明4-4の特徴的部分は,高純度のプラ
ズマ反応用ガスを得るために0属(18族)の不活性ガス中で精製す
る工程を含む手法を用いた点にある。
b原告Aは上記特徴的部分に係る着想,実験等を行っていない
原告Aは,本件発明4-3及び4-4の特徴的部分に係る着想を行
っていない。本件発明4-3及び4-4特徴的部分に係る着想は,外
部の関係各社からC5F8の純度を上げ,窒素等の不純物を除去する
ことを要求されたことに対して,被告の従業員であるFとGが協議し
て得られたものであり,2段階蒸留,減圧蒸留,ヘリウム中でのバブ
リング,モレキュラーシーブ等の吸着剤を用いる方法,加熱によって
蒸気とともに窒素等を除去する方法,真空引き(加温脱気),液体窒
素による凍結脱気,超音波脱気等も候補として提案された。
また,C5F8の純度を上げ,窒素等の不純物を除去する方法につ
いては,単にアイディアを出すだけではその効果が不確かであるため,
実験を通して有用性を見出すことが技術的思想の創作であるといえる
ところ,精製方法について様々な実験を行い,0属(18族)の不活
性ガス中で精製する工程を含む方法が効果的であることを見出したの
は被告の従業員であるFとGであり,原告A自身は一切実験を行って
いない。
cしたがって,原告Aは本件発明4-3及び4-4の発明者ではない。
(2)争点(2)ア(本件各発明に係る被告の独占の利益の有無)について
(原告らの主張)
ア本件各発明による独占の利益
本件発明1ないし3には競業他社の市場参入を抑止する効果があり,ま
た,被告は本件発明4を実施しているから,被告は本件各発明による独占
の利益を得ている。
(ア)本件発明1ないし3の抑止効果
被告は,本件発明1ないし3を実施していないと主張するが,本件発
明1,本件発明2-2及び本件発明3はドライエッチング方法に関する
ものであるから,被告が自己実施しないことは当然の前提である。本件
発明1ないし3に係る特許出願は,当初から,半導体メーカーに供給す
るエッチングガスについて,競合他社によるC5F8の製造,販売への
参入を抑止することが目的である。エッチングガス製造メーカーは,半
導体メーカーを通じての間接侵害をおそれ,市場への参入を躊躇せざる
を得なかったのであり,現に競合他社がC5F8の市場に参入していな
いことは被告も認めている。
被告は,本件発明1ないし3について,半導体メーカーから実施許諾
の問い合わせがないことも主張するが,半導体メーカーは,そもそも,
エッチングガスとして使用するために被告からゼオローラを購入してお
り,これを用いたドライエッチング方法を実施することが前提であるこ
とを考えれば,当然のことといえる。
(イ)本件各発明を基礎とする外国特許の禁止効果
本件各発明を基礎とする特許は,次のとおり,韓国を初めとする世界
各国で登録されている(本件各発明に係る出願との関係は,別紙特許出
願の流れ(①,③),別紙特許出願の流れ(②)及び別紙特許出願の流
れ(④)記載のとおりであり,対応する発明は,別紙外国特許発明目録
の請求項の欄に記載のとおりである(原告第5準備書面6頁~12
頁)。)。
a本件発明1及び3を基礎とした特許(別紙外国特許発明目録記載1
(1)ないし(4),別紙特許出願の流れ(①,③))
韓国特許KR10-0490968
米国特許US6,383,403
欧州特許EP0964438B1
台湾特許TW403955
b本件発明2を基礎とした特許(別紙外国特許発明目録記載2(1)な
いし(4),別紙特許出願の流れ(②))
韓国特許KR10-0510158
米国特許US6,322,715
欧州特許EP0948033B1
台湾特許TW401602
c本件発明4を基礎とした特許(別紙外国特許発明目録記載3(1)な
いし(3),別紙特許出願の流れ(④))
米国特許US6,884,365(及びその分割であるUS
7,449,415)
欧州特許EP1186585B1
台湾特許TW492953
被告は,本件各発明を基礎とする外国特許により,極めて大きな権利
を得たものである。すなわち,本件発明1ないし3を基礎とする外国特
許は,その国の半導体製造メーカーにより不可避的に実施されることか
ら,当該国へC5F8ドライエッチングガスを販売(輸入又は譲渡)す
ることは当該特許の間接侵害又は共同不法行為に当たり,競合他社によ
る製造,販売は当然に禁止されるものであった。また,本件発明4を基
礎とする外国特許によってもC5F8ドライエッチングガスの製造,販
売,使用が禁止されたものである。
(ウ)特許出願中の抑止効果
本件発明2及び3に係る各出願は,日本において特許登録されなか
ったものの,出願公開から約9年にわたり,拒絶査定に対する反論等
を繰り返しながら,特許登録となる可能性を残し続け,他社の参入を
抑止したものである。一方,本件発明1及び4についても,出願公開
後,早期に特許請求の範囲を絞って特許登録をすると,権利の幅が狭
くなり,他社において被告の特許を回避しやすくなることから,原告
Aは公開状態をできるだけ長く維持するように被告の知的財産部に働
きかけ,他社の参入を抑止する効果を長く継続させたものである。
イ被告が主張する競業他社が市場に参入しなかった理由
被告は,競業他社がC5F8の市場に参入しなかった理由として,競合
品であるC4F6の方が優れていること,C5F8及びその原料であるC
5Cl6の毒性管理が障壁になったことを主張する。しかし,C4F6が
上市されたのはC5F8の上市よりも約7年も後のことであり,実際にC
4F6が本件製品の売上げに影響を与え始めたのはそれから約1年後であ
るから,C5F8は約8年間にわたり,次世代エッチング用ガスとしてデ
ファクトスタンダードの地位を得ていた。また,C5F8は毒性を持つが,
フッ素化合物において原材料や最終生成物に一定の毒性があることは珍し
いことではなく,C5F8が持つ程度の毒性であれば事業化の障壁になる
ものではないし,原材料であるC5Cl6についても,1988年当時,
全世界で年間約1万5000トンの生産量があり,汎用化学品として知ら
れていた。
ウ本件発明1は商業的に実施され得ること
被告は,オクタフルオロシクロペンテンをドライエッチングガスとして
用いることは,特開平4-258117号公報(乙1。以下「乙1文
献」という。)及び特開平6-338479号公報(乙2。以下「乙2
文献」という。)に開示されており,公知技術であったから,本件発明
1は内部冷却手段により被エッチング基体を冷却せずにドライエッチング
を行うことに特徴を有し,商業的に実施され得ない発明であると主張する。
しかし,乙1文献及び乙2文献には,オクタフルオロシクロペンテンを
用いてドライエッチングを行うことは,記載も示唆もされていない。また,
本件発明1は,エッチング時の急激な発熱に対応して急冷するような操作
を除外するものであり,通常の被エッチング基体を取り出すまでに徐冷す
る程度の操作が含まれることは明細書の記載から明らかであるから,商業
的に実施され得ないものではなく,半導体メーカーにより実施されている。
エ本件発明2ないし4の特許性について
被告は,本件発明2ないし4について,特許性を有しないとか,特許性
が脆弱であるなどと主張するが,いずれの発明も特許性を有する。そもそ
も,被告は,本件各発明に係る出願の過程において,本件各発明が格別の
効果と独創性を有することを認めていたのであるから,被告の主張は出願
過程での自身の主張と矛盾するものである。
(ア)本件発明2の特許性
本件発明2は特許性を有する。被告が挙げる公知文献から本件発明2
の特許性は否定されない。すなわち,乙1文献には,1~40モル%の
酸素成分を含むことが開示されていないし,特開平8-130211号
公報(乙5。以下「乙5文献」という。)には,オクタフルオロシク
ロペンテンについての記載はなく,添加するガスの割合についても「5
0%以下」とあるのみで,これが体積比であるのか重量比であるのか明
確ではない。また,特開平5-283374号公報(乙38。以下
「乙38文献」という。)にも,オクタフルオロシクロペンテンに1
0~50%の酸素系化合物を添加するとの記載はない。
したがって,ドライエッチングに関する技術分野において,酸素ガス
を添加することによって本件発明2の「薄膜状重合体析出物の生成を回
避しつつ,良好なエッチング特性が得られる」という効果が得られるこ
とは公知ではなく,また,上記発明の組合せにより容易に想到するもの
でもなかった。本件発明2が特許性を有することは,本件発明2につき,
PCT出願を経て,米国,欧州,韓国及び台湾において特許登録がされ
ていることから明らかである。本件発明2に係る出願につき日本におい
て特許登録がなされなかったのは,被告が審判請求を取り下げたからに
すぎない。
(イ)本件発明3の特許性
本件発明3は特許性を有する。本件発明3は,拒絶査定後に「パーフ
ルオロシクロオレフィン」を「オクタフルオロシクロペンテン」(C5
F8)に限定しているところ,被告が挙げる公知文献である特開平6-
275568号公報(乙8。以下「乙8文献」といい,これに記載さ
れた発明を「乙8発明」という。)に開示されているのは,「一般式
CxFy(ただし,x,yは自然数であり,y≦x+2の関係を満た
す。)で表されるフルオロカーボン系化合物を主体とするエッチング・
ガス」であって,オクタフルオロシクロペンテン(C5F8)は明らか
にこれに含まれていない。
本件発明3が特許性を有することは,本件発明1及び3を基礎として
なされたPCT出願により,韓国,米国及び欧州で特許登録がなされて
いること,本件発明1及び3を併合した発明につき,台湾において特許
登録がなされていることからも明らかである。本件発明3に係る出願に
つき日本において特許登録がなされなかったのは,被告が審判請求を取
り下げたからにすぎない。
(ウ)本件発明4の特許性
a本件発明4-1及び4-2について
本件発明4-1及び4-2は特許性を有する。本件発明4の特徴的
部分は,プラズマ反応用ガスを単に高純度にすることにあるのではな
く,経時的に混在量が変化していた酸素ガス及び窒素ガスの容量に着
目し,その容量を制限することにあるから,被告の主張は前提を欠く。
b本件発明4-3及び4-4について
本件発明4-3及び4-4の特許性は脆弱なものではない。このこ
とは,上記aのとおり,本件発明4-1には特許性があり,本件発明
4-3及び4-4がいずれも本件発明4-1の発明特定事項を引用す
る形式で表現されていることからも,明らかである。
被告は,本件発明4-3及び4-4を回避することが可能であると
主張するが,本件発明4-3及び4-4を回避できたとしても,本件
発明4-1によって規制される以上,被告の主張には意味がない。
(被告の主張)
ア被告の受けるべき利益は存在しないこと
(ア)本件発明1ないし3の不実施
本件発明1,本件発明2-2及び本件発明3は,いずれもドライエ
ッチング方法の発明であるところ,被告は,半導体製造業者ではなく,
ドライエッチング組成物である本件製品を製造,販売しているだけで
あるから,上記各発明を実施していない。また,本件発明2-1は,
オクタフルオロシクロペンテンと特定量の酸素成分を含むことを特徴
とするドライエッチングガス組成物に関する発明であるところ,本件
製品はガス組成物中の酸素ガスを可能な限り除去した高純度のオクタ
フルオロシクロペンテンを含む製品であって,本件発明2-1に係る
ガス組成物とは異なるから,被告は本件発明2-1を実施していない。
さらに被告は,本件発明1ないし3について,ライセンス許諾の問い
合わせを受けたこともないから,本件発明1ないし3につき,被告が受
けるべき利益は存在しない。
(イ)本件発明4による受けるべき利益の不存在
被告は本件発明4を実施しているが,下記ウ(ウ)記載のとおり,本件
発明4の特許性が脆弱なものであり,本件発明4の特徴的部分といえる
製造方法に特許性が認められるとしても,代替となる精製手段を用いて
第三者が発明の実施を回避することも不可能ではないから,その排他的
効力は極めて限定的であるといえる。また,本件発明4が他社に実施許
諾されたことはない。さらに,本件製品が平成10年度末に上市されて
間もなく,C4F6がドライエッチングガスとして有望であることが公
表され,その後,遅くとも平成14年頃までには,C4F6の方がC5
F8よりもドライエッチングガスとして高性能で,将来性があることが
認識されるようになったこと,本件製品の持つ強い毒性などの事情も考
慮すると,他社が本件発明4の実施許諾を求めてくることは考え難く,
実施許諾をする場合であっても,そのライセンス料は低廉にならざるを
得ないから,本件発明4に係る特許を受ける権利を譲り受けたことによ
り,被告が受けるべき利益は存在しないか,存在するとしても僅少であ
る。
イ本件発明1ないし3に禁止効果がないこと
(ア)本件発明1
オクタフルオロシクロペンテン等のパーフルオロシクロペンテンをド
ライエッチングガスとして用いることが,公知文献である乙1文献及び
乙2文献に開示されていること,本件発明1に係る出願の過程において,
特許庁によりCF系ガスによりプラズマエッチングする際の温度範囲と
して60℃~250℃とすることが周知技術であると認定されているこ
とからすれば,本件発明1は内部冷却手段により被エッチング基体を冷
却せずにドライエッチングを行うことに特徴を有する。しかし,半導体
製造業者が商業的にドライエッチングを行う場合,エッチング装置内に
次々とウエハーを送り込み連続的にエッチングを行う必要があるが,仮
に被エッチング基体を冷却せずに行えば,容易にレジストの融点を超え
る温度に達してしまい,被エッチング基体が損傷してしまうことから,
商業的には実施され得ない発明である。技術的理由により商業的に実施
されることのない発明については,競業他社はその影響を受けずに事業
活動を行うから,競業他社に対しその実施を禁止する効果は認められな
い。
原告らは,本件発明1に係る特許の明細書(以下,特許登録時の明
細書を「特許明細書」といい,出願時の明細書を「当初明細書」とい
う。)の記載を根拠に,エッチング時の急激な発熱に対応して急冷す
るような操作を除外するものであり,通常の被エッチング基体を取り出
すまでに徐冷する程度の操作は含まれると主張する。しかし,原告らの
指摘する本件発明1に係る特許明細書(甲1参照)の段落【0015】
における「被エッチング基体を取出すまでに徐冷する程度の操作は含ま
れる」という記載は,本件発明1に係る当初明細書(甲69参照)の段
落【0015】を見れば明らかなように,出願当初の請求項1の構成要
件であった「被エッチング基体の到達温度を実質的に制御することな
く」という文言の説明を意図したものであって,本件発明1の発明特定
事項である「外部冷却装置に接続された内部冷却手段により被エッチン
グ基体を冷却することなく」との文言に関するものではない。本件発明
1に係る特許明細書の段落【0015】において「外部冷却装置に接続
された内部冷却手段により被エッチング基体を冷却することなく」との
記載が存在するのは,拒絶査定不服審判中における補正によって請求項
1にかかる文言が追加された際に,これに伴って形式的に明細書の記載
が補正されたことによるものにすぎない。したがって,当該審判中にお
いて通知された拒絶理由を回避するために「外部冷却装置に接続された
内部冷却手段により被エッチング基体を冷却することなく」と請求項が
補正されたものである以上,急冷か徐冷かに関わらず,内部冷却手段に
より被エッチング基体を冷却することは,本件発明1の技術的範囲には
含まれない。
(イ)本件発明2
ドライエッチングを行う際の酸素流量は実際にドライエッチングを行
う者が適宜調整して定めるものであり,酸素流量を調整すること自体は
従前から自然に行われていたことであって,40モル%以下となれば特
許権に抵触してしまうなどと考える者はいなかった。したがって,本件
発明2に競業他社に対する事実上の禁止効果があったとはいえないから,
被告が本件発明2により受けた独占の利益は存在しない。
(ウ)本件発明3
ドライエッチングを1010
cm-3
以上のプラズマ密度領域下で行う
ことは公知技術であり,酸素ガス等の流量を制御することも当業者にお
ける設計的事項であったから,1010
cm-3
以上のプラズマ密度領域
下において,酸素ガス又は二酸化炭素ガスを含有させてドライエッチン
グを行ったからといって特許権に抵触してしまうなどと考えるものはい
なかった。したがって,本件発明3に競業他社に対する事実上の禁止効
果があったとはいえないから,被告が本件発明3により受けた独占の利
益は存在しない。
ウ本件発明2ないし4に特許性がないこと
(ア)本件発明2
本件発明2の特徴的部分は,パーフルオロシクロオレフィンを含むド
ライエッチングガス組成物中に1~40モル%の酸素成分を含有させる
点にあるが,以下のとおり,同部分は特許性を有しない。なお,原告は,
被告が本件各発明の特許性を争うことは禁反言の原則に反し許されない
などと主張するが,出願過程において発明に特許性があると主張するこ
とは当然であり,このことにより,後の相当対価請求訴訟において,発
明の特許性を争えなくなるのであるとすれば,特許化しなかった発明に
ついても,特許登録された発明と同様に扱われることとなり,不合理で
ある。したがって,原告の主張は失当である。
公知文献である乙1文献及び乙2文献にはオクタフルオロシクロペン
テンをドライエッチングガスとして用いることが,乙5文献にはエッチ
ングレートを向上させるためにフルオロカーボン系ガスに酸素ガスを5
0%以下の割合で混合することが,乙38文献にはポリマー堆積物を回
避する目的で環状フルオロカーボンに10~50%の酸素系化合物を添
加してエッチングを行うことがそれぞれ開示されている。そして,上記
各文献は技術分野を共通にし,また,シリコン酸化膜等のドライエッチ
ングにおいて,高選択性及び高いエッチングレートを達成するという課
題を共通するものであるから,オクタフルオロシクロペンテンを用いて
エッチングを行う際に,上記のとおり酸素成分を添加することは,当業
者が容易になし得ることであったといえる。また,酸素流量の制御につ
いては実際にドライエッチングを行う者が調整して定めるものであるか
ら,本件発明2の特徴的部分は当業者の設計的事項にすぎず,進歩性が
認められないことは明らかである。
そして,職務発明が特許性を有しないのであれば,それを承継したこ
とに対する相当の対価を認め,発明に対するインセンティブを与える必
要はないから,特許性を有しない本件発明2に関して相当対価請求権は
発生しない。
(イ)本件発明3
本件発明3の特徴的部分は,パーフルオロシクロオレフィンを含むガ
スを用いたドライエッチングにおいて,高密度領域のプラズマを用いる
こと,及び特定量の「酸素ガスおよび/または二酸化炭素ガス」を含有
させる点にあるが,同部分は特許性を有しない。
公知文献である乙1文献及び2文献には,オクタフルオロシクロペン
テンをドライエッチングガスとして用いることが,乙8文献には,10
10
cm-3
以上のプラズマ密度を用いることが,特開平7-28320
6公報(乙45。以下「乙45文献」という。)には,高密度プラズ
マをフルオロカーボン系ガスによるシリコン酸化膜のドライエッチング
に適用した場合に,対Si選択比を大きく維持しながら高速異方性エッ
チングを行うことが可能となることがそれぞれ開示されている。また,
本件発明3に係る出願の過程において,特許庁によりパーフルオロオレ
フィン等のCF系ガスに「酸素ガスおよび/または二酸化炭素ガス」を
含ませることが周知技術であったと認定されている。したがって,オク
タフルオロシクロペンテンを用いてドライエッチングを行う際に,高密
度プラズマを適用することは当業者が容易になし得たことであり,本件
発明3には進歩性がない。そして,職務発明が特許性を有しないのであ
れば,それを承継したことに対する相当の対価を認め,発明に対するイ
ンセンティブを与える必要はないから,特許性を有しない本件発明3に
関して相当対価請求権は発生しない。
(ウ)本件発明4
オクタフルオロシクロペンテンは公知であり,これをドライエッチン
グに用いることも公知であったから,本件発明4の特徴的部分は,オク
タフルオロシクロペンテンを含むプラズマ反応用ガスにおいて,特定の
純度及び窒素ガス等の不純物含有量を規定した点,及びかかる高純度の
プラズマ反応用ガスを得るために0属の不活性ガス中で精留する手法を
用いた点にある。しかし,ドライエッチング用途等の半導体製造用プラ
ズマ反応用ガスにおいて,可能な限り高純度であることが望ましいこと
は当該技術分野において常識であり,オクタフルオロシクロペンテン以
外の従来製品や後続製品においても同様に求められている。また,純度
及び窒素ガス等含有量を本件発明4-1及び4-2の値に規定すること
により格別の効果が生じることも認められない。よって,本件発明4-
1及び4-2は,新規性又は進歩性を欠き,特許性がない。
また,本件発明4-3及び4-4についても,窒素雰囲気下における
精留によりオクタフルオロシクロペンテンを精製する手法は既に存在し
ており,かかる手法との相違点は窒素ガスに代えてヘリウム等の0属の
不活性ガスを用いた点にすぎないから,本件発明4-3及び4-4にお
いて特許性を有する部分は極めて限られた範囲のものである。
なお,純度99.9容量%並びに窒素ガス及び酸素ガスを特定濃度に
することは,通常の能力を有する合成研究員であれば,常識的手法を用
いて達成可能な課題である。そして,オクタフルオロシクロペンテンの
純度を高め,かつ,窒素ガス等の不純物を除去するための手段としては,
本件発明4以外にも代替手法が存在するため,第三者が本件発明4を回
避することも不可能ではなく,本件発明4に係る特許の独占排他的な機
能は限定的である。
エ本件各発明を基礎とする外国特許について
(ア)本件発明1及び3を基礎とする外国特許
a米国特許及び欧州特許
本件発明1及び3を基礎とする米国特許及び欧州特許に係る各発明
(別紙外国特許発明目録記載1(2)及び(3)の請求項欄記載の各発明)
は,本件発明1と同様に,「被エッチング基体を冷却せずに」ドライ
エッチングを行うものであるから,商業的に実施され得ないものであ
るから,半導体製造メーカーにより不可避的に実施されるものではな
い。
b韓国特許
本件発明1及び3を基礎とする韓国特許にかかる発明(別紙外国特
許発明目録記載1(1)の請求項欄記載の発明)は,「被エッチング基
体の到達温度60℃~250℃」でドライエッチングを行うものであ
るが,ドライエッチングにおいて被エッチング基体を冷却することは
技術常識であり,通常は所望の選択性を得るために60℃以下に制御
されるから,商業的に実施され得ないものである。また,上記発明は,
本件発明1とは異なり,「被エッチング基体の温度を,外部冷却装置
に接続された内部冷却手段により被エッチング基体を冷却することな
く」との要件を付さず,単に「被エッチング基体の到達60℃~25
0℃」としているが,かかる温度範囲においてエッチングを行うこと
が周知であったことは,本件発明1に係る出願の審査過程で指摘され
ている。そして,上記発明のうち圧力の範囲に係る要件は,一般的な
条件にすぎず,技術的特徴を提供するものではない。よって,上記発
明は進歩性を欠く。
c台湾特許
本件発明1及び3を基礎とする台湾特許に係る発明(別紙外国特許
発明目録記載1(4)の請求項欄記載の発明)は,本件発明1の特徴的
部分を有さず,本件発明3と同じである。本件発明1及び3を基礎と
するPCT出願の過程において,当該出願に係る請求項は,「オクタ
フルオロシクロペンテンを含むドライエッチング用ガスを用いて,1
010
cm-3
以上の高密度領域のプラズマを発生させて被エッチング
基体をドライエッチングすることを特徴とするドライエッチング方
法。」と補正されており,同請求項は,「パーフルオロシクロオレフ
ィン」が「オクタフルオロシクロペンテン」となっている点を除いて,
本件発明3と同じであった。その後,上記PCT出願の過程において
補正された請求項は,米国,欧州及び韓国において,乙1文献及び乙
45文献等の引用により進歩性が否定され,いずれも被エッチング基
体の温度に関する要件,すなわち,本件発明1の特徴的部分と同様の
要件が追加されている。このような経緯に鑑みれば,台湾特許に係る
上記発明が特許性を欠くことは明らかである。
d以上によれば,本件発明1及び3を基礎とする外国特許に係る各発
明のうち,米国特許,欧州特許及び韓国特許にかかる各発明は,商業
的に実施され得ないものであり,また,韓国特許及び台湾特許に係る
各発明は,進歩性を有しないから,これらにより被告が受けるべき利
益は存在しない。なお,本件発明3を基礎とする外国特許に関しては,
そもそも1010
cm-3
のプラズマ密度領域下でドライエッチングを
行うこと自体は,周知のものであったから,本件発明3を基礎とする
外国特許との抵触を懸念する者はおらず,事実上も,禁止効果がなか
った。
(イ)本件発明2を基礎とする外国特許
本件発明2を基礎とする米国特許,欧州特許及び韓国特許に係る各発
明(別紙外国特許発明目録記載2(1)ないし(3)の請求項欄記載の各発
明)は,酸素成分の含有に関する要件と,飽和ハイドロフルオロカーボ
ンの含有に関する要件を有するが,酸素成分の要件だけでは特許が成立
せず,飽和ハイドロフルオロカーボンの要件が追加されたものである。
しかし,酸素成分に関する要件は,乙1文献及び乙2文献に対応する米
国特許の公報並びに乙38文献等から当業者が容易になし得たものであ
るし,飽和ハイドロフルオロカーボンの要件も,乙45文献に記載され
ており,さらには,エッチング選択比の向上のために,飽和ハイドロフ
ルオロカーボンを含むエッチングガスを用いることは当該技術分野にお
いて周知の事項であったから(乙161〔枝番を含む。〕),当業者が
容易に採用し得たものである。また,飽和ハイドロフルオロカーボンの
上限値についても,飽和ハイドロフルオロカーボンの地球温暖化係数が
高いことは周知であり(乙28),このような添加成分が,可能な限り
少ないことが好ましいことは自明であった。よって,上記発明はいずれ
も進歩性に欠けるものである。
本件発明2を基礎とする台湾特許に係る発明(別紙外国特許発明目録
記載2(4)の請求項欄記載の発明)は,酸素成分の要件のみを有するも
のであるところ,本件発明2に係る出願,並びに上記米国特許,欧州特
許及び韓国特許の出願経過に鑑みても,進歩性に欠けるものといえる。
以上によれば,本件発明2を基礎とする外国特許に係る発明はいずれ
も進歩性を有しないから,これらにより被告が受けるべき利益は存在し
ない。なお,本件発明2を基礎とする外国特許に関しては,ドライエッ
チングを行う際の酸素流量の制御は実際にドライエッチングを行う者が
適宜調整するものであり,従前からごく当然に行われていたものである
から,酸素成分が40モル%以下になれば,特許権に抵触すると懸念す
る者はおらず,事実上も,禁止効果がなかった。
(ウ)本件発明4を基礎とする外国特許
本件発明4を基礎とする欧州特許及び台湾特許に係る各発明(別紙外
国特許目録記載3(2)及び(3)の請求項欄記載の各発明)は,本件発明4
-1と同じである。そして,C5F8の純度を99.9容量%以上とす
ることは公知文献(乙12)に開示されており,また,窒素ガス及び酸
素ガスの合計量を200容量ppmとすることも半導体業界では広く知
られていた技術的事項であった(乙32等)。また,エッチングガス中
に窒素が存在することにより,窒化ケイ素のエッチング速度が影響を受
け,選択比が変化することも既に報じられていたから(乙161の4),
個々のエッチングプロセスに応じて窒素ガスの含有量を適切な値に調節
するため,半導体メーカーにおいて購入するエッチングガスにおける窒
素ガスの含有量が,一定量であり,かつ可能な限り低量であることが好
ましいことは明らかであった。一方で,酸素の含有量に関しても,上記
窒素の場合と同様に,その含有量が一定量であり,かつ可能な限り低量
であることが好ましいことは当然であった。
本件発明4を基礎とする米国特許に係る発明(別紙外国特許目録記載
3(1)の請求項欄記載の発明)についても,窒素ガスと酸素ガスの合計
量が「150容量ppm以下」となっているが,当該数値に臨界的意義
は見出せないから,「200容量ppm以下」とすることと特段の相違
はない。
以上によれば,本件発明4を基礎とする外国特許に係る発明はいずれ
も,新規性又は進歩性を有しないから,これらにより被告が受けるべき
利益は存在しない。なお,本件発明4を基礎とする外国特許に関しては,
窒素ガスと酸素ガスの合計量が200容量ppmないし150容量pp
mを超える純度のC5F8を用いてエッチングすることは可能であり
(乙112),回避することができるから,事実上も,禁止効果がなか
った。
(3)争点(2)イ(本件各発明に対する被告の貢献度)について
(原告の主張)
ア被告の貢献度
被告が本件製品の販売により多額の利益を得られたのは,まさに本件各
発明により被告がC5F8の市場を独占できたからである。本件各発明は
被告のそれまでの事業活動と全く関係のない分野のものであり,原告らが
創設し,他企業との共同による試験,ビジネス構築,特許戦略及び公的融
資を取り付けたのであるから,原告らの本件各発明に対する貢献度は非常
に高く,被告の貢献度は80%を超えるものではない。
イ被告が主張する貢献について
(ア)本件各発明の創作への貢献
被告は,本件各発明の創作への貢献として,●(省略)●(以下
「●(省略)●」という。),化学技術研究所及び●(省略)●(以
下「●(省略)●」という。)との協働関係の構築を主張する。
しかし,被告と●(省略)●との交流は,フッ素化技術の導入を目的
としたものではなく,フッ素化自体は●(省略)●が行い,被告がフッ
素化されたモノマーを重合することや,被告が作成した合成ゴムなどの
ポリマーを●(省略)●がフッ素化することなどを目的としたものにす
ぎない。
また,Cが所属する化学技術研究所との関係についても,Cとの関係
を構築したのは原告らである。すなわち,原告らが,平成元年頃,フッ
素化技術を導入するため東京薬科大学のH教授や岡山大学のI教授に相
談し,紹介されたのがCであり,原告らがCとの関係を築きあげた結果
として,化学技術研究所から継続的に技術指導を受けることができた。
なお,被告が主張する被告と化学技術研究所の間の技術指導契約(乙5
7)は,原告らとCとの実質的な関係を形式的に整えるために,被告と
化学技術研究所との間で書類が交わされたにすぎない。
さらに,●(省略)●との協働関係を構築したのも原告らである。原
告Aは,C5F8のサンプルを,●(省略)●を含む評価会社各社に提
出し,原告Bは,被告の情報材料事業部が関与する以前に,原告Aの技
術的協力を得ながら,市場開発を協働で行うため,●(省略)●に個別
に接触し,交渉をしていた。
なお,被告は,設備や施設が原告らの提供によるものではない旨主張
するが,一従業員である原告らが提供しないのは通常である。
(イ)本件製品の事業化への貢献
被告は,本件製品の事業化への貢献につき,●(省略)●,●(省
略)●(以下「●(省略)●」という。),●(省略)●(以下「●
(省略)●」という。)との協働体制の構築を主張するが,そもそも,
他社との協働体制の確立を提案したのは原告Bである。原告Bは,原告
Aの技術的協力を得ながら,上記他社との協働体制をいち早く構築した。
被告は,その他,毒性への対処,生産設備への投資,資金調達など主張
するが,そもそも公的資金の確保に重要となる申請書の作成は原告Aが
行ったものである。そして,原告Aが獲得した公的資金は,C5F8の
毒性把握や,製品評価,工場対応のための分析,フッ素化技術の継続や
蓄積のために用いられた。
被告は,本件製品の事業化における原告Bの貢献は多大でないと主張
するが,原告Bが本件製品から離れたのは平成11年のことであり,原
告Bは,ゼオローラ事業の推進を行うことを決めた平成8年頃から平成
11年までの間に,経営陣への提案,報告を行い,常務会においてドラ
イエッチングガス事業の将来計画について説明するなど,ドライエッチ
ングガスの事業化推進当初から上市まで,本件製品の中心的推進者とし
て携わっており,その貢献は多大である。
(ウ)本件発明4固有の貢献
被告は,本件発明4に対する被告の貢献として,本件発明4の研究開
始の経緯,被告が蓄積していた技術(乙12)の応用,F及びGの果た
した役割,被告の知財部による権利化の主導を主張する。
しかし,本件発明4の研究開始の経緯につき,被告が行ったと主張す
る事項は,すべて原告らが行ったものであるし,上記技術は本件発明4
の本質と直接関係がない。そもそも,上記技術は原告Aが発明したもの
であり,その意味では原告Aの貢献が大きい。
また,FとGはいずれも原告Aの指示に従い作業を行っていた補助者
にすぎず,本件発明4の出願手続について,クレーム及び明細書の準備
及び記載を行ったのは原告Aであり,特許審査及び登録手続において被
告が行った対応は貢献とはいえない。
(被告の主張)
ア本件各発明の創作への貢献
被告には,従来,フッ化水素等の物質を扱う研究,開発部門は存在した
ものの,フッ素系化合物の合成に関する十分な技術は備わっていなかった。
そこで,フッ素化技術導入のため,●(省略)●との間では相互交流を,
Cが所属する化学技術研究所との間では技術指導契約を締結するなどして
いた。また,装置メーカーである●(省略)●とは,C5F8のドライエ
ッチングガスとしての販売事業化に向けて協働関係を築いていた。原告ら
は,被告にはフッ素化技術がなかったと主張するが,●(省略)●との交
流は昭和62年のことであるし,●(省略)●との協働関係も平成8年頃
に始まったものである。また,原告Aに業務命令を発し,化学技術研究所
で約1年間フッ素化技術を学ばせたのも被告である。さらに,本件各発明
の創作は,専ら被告の提供した設備,又は被告に協力する化学技術研究所
等の設備を用いて行われたものである。したがって,被告は,本件各発明
の創作について,基礎となる他社との協働関係を築き,人事面及び物的施
設面でも貢献している。
イ本件製品の事業化への貢献
(ア)ドライエッチングガスは,通常,半導体製造業者において,当該ガ
スの持つ特性を発揮できるように設計された装置と共に採用されること
から,新規のドライエッチングガスを半導体製造業者に採用してもらう
ためには,装置メーカーとの協働が不可欠であり,被告は,C5F8が
ドライエッチングガスとして有望であることが見出された平成8年頃か
ら,●(省略)●と協業してきた。そして,被告がC5F8に関する●
(省略)●のデータを利用して営業活動を行った結果として,C5F8
をドライエッチングガスとして使用する●(省略)●のエッチング装置
が,国内外の半導体製造業者に採用されたものである。また,被告は,
●(省略)●と共同開発契約を締結することにより,C5F8の原料と
なるC5Cl6の供給体制,及びC5F8の調達体制を確保し,●(省
略)●と協働することで,顧客への供給体制を確立した。
(イ)被告は,その他,C5F8の毒性への対処や,生産設備としての高
岡工場建設への約●(省略)●円もの投資,事業立上げのための資金調
達等,本件製品の事業化に貢献したものである。
(ウ)原告Bは,本件製品の事業化に貢献したと主張するが,平成10年
頃にC5H3F7を主成分とするゼオローラHの事業化に専念するよう
指示を受けた後は,本件製品の事業化には関与していないし,平成12
年頃には,自ら異動を申し出て,ゼオローラHの事業化の推進業務から
も離れたのであるから,本件製品の事業化や売上げ拡大に貢献していな
い。
ウ本件発明4固有の貢献
(ア)本件発明4は,平成10年にゼオローラ生産用の工場である高岡工
場が完成した際,被告が工場生産品を試験的に製造してみたところ,高
い純度を保てないことが判明したことに端を発する。業界では,フォー
ナイン(99.99%)以上の純度で顧客にガスを提供することが常識
となっており,被告が提示していた規格においても,高純度かつ不純物
である窒素,酸素,水分等を一定程度以下に収めることとされていたこ
とから,被告において,C5F8の純度を高めるためのドライエッチン
グガスの製造方法の模索が課題となり,研究が始まったものである。
(イ)本件発明4に際して行った実験に用いた装置や研究室等の設備は,
いずれも被告が元々備えていたものである。そして,C5F8の純度を
高めるための技術的基礎は既に被告において蓄積されていたものであり,
本件発明4はこれを応用したものである。
(ウ)本件発明4に係る研究作業等は,主にF及びGが実際の実験等の役
割を担い,データ等の収集を行ったものである。
(エ)本件発明4の権利化を主導したのは,被告の知的財産部の大仲であ
る。また,出願書類完成後は,外部の特許事務所に原稿の確認を依頼す
るなど,被告の尽力があった。本件発明4の第1回の拒絶理由通知書の
発送を受けた平成20年7月16日には,原告Aは既に退職しており,
被告の知的財産部の担当者及びFが協議して,対応を行ったものである。
(4)争点(2)ウ(本件発明4に対する原告Aの貢献)について
(原告Aの主張)
上記(1)及び(3)で述べたところによれば,原告Aの本件発明4に対する貢
献は極めて大きい。
(被告の主張)
仮に,原告Aが本件発明4の共同発明者であるとしても,原告Aは本件発
明4の特徴的部分の着想に関与しておらず,また,実験等にも関わっていな
いから,本件発明4の共同発明者間における原告Aの貢献は著しく低い。
(5)争点(2)エ(相当対価額の算定)について
(原告らの主張)
ア本件製品の売上額
(ア)平成10年度(上市)から平成12年11月30日(本件発明4の
出願公開日)まで
乙169の2によれば,上記期間の本件製品の売上額の合計は,以下
のとおりである。
合計額約●(省略)●円
●(省略)●円(平成10年度)
●(省略)●円(平成11年度)
●(省略)●円×8か月/12か月(平成12年度・同年11月3
0日まで)
(イ)平成12年12月1日から平成25年度末まで
乙169の2によれば,上記期間の本件製品の売上額の合計は,以下
のとおりである。
合計額約●(省略)●円
●(省略)●円(平成12年度)×4か月/12か月(平成12年
度・同年12月1日から)
●(省略)●円(平成13年度)
●(省略)●円(平成14年度)
●(省略)●円(平成15年度)
●(省略)●円(平成16年度)
●(省略)●円(平成17年度)
●(省略)●円(平成18年度)
●(省略)●円(平成19年度)
●(省略)●円(平成20年度)
●(省略)●円(平成21年度)
●(省略)●円(平成22年度)
●(省略)●円(平成23年度)
●(省略)●円(平成24年度)
●(省略)●円(平成25年度)
(ウ)平成26年度から平成29年10月30日(本件発明1ないし3の
出願日から20年後)まで
平成26年度以降の1年ごとの本件製品の売上額は,平成25年度の
売上額がそのまま推移すると考えるのが合理的であり,上記期間の本件
製品の売上額の合計は,以下のとおりである。
●(省略)●円×(3年度分+7か月/12か月)≒●(省略)●円
(エ)平成29年10月31日から平成31年5月24日(本件発明4の
出願日から20年後)まで
上述のとおり,1年ごとの本件製品の売上額は,●(省略)●円であ
るから,上記期間の本件製品の売上額の合計は,以下のとおりである。
●(省略)●円×(5か月/12か月+1年度+54日/365日)
≒●(省略)●円
イ超過利益率
(ア)平成25年度以前
ゼオローラが上市された平成11年から平成23年までの各年におけ
る,ゼオローラの1kg当たりの販売価格,及び売上数量は別紙ゼオー
ラ事業の利益表のとおりであり,総売上額は少なくとも●(省略)●円
である。ゼオローラの1kg当たりにかかる費用は●(省略)●円(原
料費●(省略)●円,精製費●(省略)●円)であるから,平成11年
から平成23年までの間に販売したゼオローラにかかる費用は,同別紙
のとおり●(省略)●であり,ゼオローラにかかる被告の粗利益は●
(省略)●円,粗利益率は●(省略)●%と算定される(なお,この数
値は,被告が本件製品の売上げ等に関する資料を提出する前のものであ
るが,本件製品にかかる部門別損益計算書(乙149の4によっても,
限界利益率は●(省略)●%(売上高●(省略)●円,変動費●(省
略)●円,限界利益●(省略)●)であり,乙149の3によっても限
界利益率●(省略)●%(売上高●(省略)●円,変動費●(省略)●
円,限界利益●(省略)●円)であるから,控えめに主張するものであ
る。)。
そして,被告事業における通常の利益率は,同別紙のとおり,平成1
1年度から平成23年度までの平均で,●(省略)●%である。よって,
上記粗利益率から上記通常の利益率との差●(省略)●%が,本件各発
明により得られた超過利益率となる。したがって,本件各発明により平
成23年度までに被告が得た独占的利益は,上記ゼオローラの売上高●
(省略)●円に超過利益率●(省略)●%を乗じて得られる額であるか
ら,●(省略)●円となる。
(イ)平成26年度以降
平成26年度以降の1年ごとの本件製品の売上額,販売数量は,上記
ア(ウ)のとおり,平成25年度と同じであると考えられるから,売上額
●(省略)●円,販売数量●(省略)●トンである。本件製品1kg当
たりの変動費は,上記(ア)のとおり●(省略)●円(1トン当たり●
(省略)●円)であるから,利益率は,以下のとおりである。
(●(省略)●円-●(省略)●トン×●(省略)●円/トン)÷●
(省略)●円≒●(省略)●(=●(省略)●%)
そして,上記(ア)のとおり被告事業における通常の利益率は,●(省
略)●%であるから,平成26年度以降の本件製品の超過利益率は,以下
のとおりである。
●(省略)●%-●(省略)●%=●(省略)●%
ウ被告が受ける独占的利益
(ア)平成10年度から平成12年11月30日まで
●(省略)●円(売上額)×●(省略)●%(超過利益率)≒●(省
略)●円
(イ)平成12年12月1日から平成25年度末まで
●(省略)●円(売上額)×●(省略)●%(超過利益率)≒●(省
略)●円
(ウ)平成26年度から平成29年10月30日まで
●(省略)●円(売上額)×●(省略)●%(超過利益率)≒●(省
略)●円
(エ)平成29年10月31日から平成31年5月24日まで
●(省略)●円(売上額)×●(省略)●%(超過利益率)≒●(省
略)●円
エ本件各発明への独占的利益の振り分け及び原告らが受けるべき相当対価

本件各発明は,いずれも本件製品に係る独占的利益の源泉となるもので
あり,本件各発明に独占的利益を振り分けるのは無意味であると考えるが,
本件各発明はいずれも同程度の抑止力を有するものとして便宜上行うと,
原告らが受けるべき相当対価額は,以下のとおり算定される。
(ア)本件発明1
本件発明1に係る独占的利益は,平成10年度から平成12年11月
30日までの33.3%,平成12年12月1日から平成25年度末ま
での25%,平成26年度から平成29年10月30日までの25%で
あるから,以下のとおである。
●(省略)●円×33.3%+●(省略)●円×25%+●(省略)
●円×25%≒●(省略)●円
そして,被告の貢献度は80%を超えるものではないから,原告らが
本件発明1につき受けるべき相当対価額はそれぞれ,以下のとおりとな
る。
原告A:●(省略)●円×20%÷2≒●(省略)●円
原告B:●(省略)●円×20%÷2≒●(省略)●円
(イ)本件発明2
本件発明2に係る独占的利益及び原告らが受けるべき相当対価額は,
本件発明1の場合と同様に考えられるから,原告らが本件発明2につき
受けるべき相当対価額はそれぞれ,●(省略)●円である。
(ウ)本件発明3
本件発明3に係る独占的利益及び原告らが受けるべき相当対価額は,
本件発明1の場合と同様に考えられるから,原告らが本件発明3につき
受けるべき相当対価額はそれぞれ,●(省略)●円である。
(エ)本件発明4
本件発明4に係る独占的利益は,平成12年12月1日から平成25
年度末までの25%,平成26年度から平成29年10月30日までの
25%,平成29年10月31日から平成30年5月24日までの10
0%であるから,以下のとおりである。
●(省略)●円×25%+●(省略)●円×25%+●(省略)●円
≒●(省略)●円
そして,被告の貢献度は80%を超えるものではないから,原告Aが
本件発明4につき受けるべき相当対価額は,以下のとおりとなる。
●(省略)●円×20%≒●(省略)●円
オまとめ
以上によれば,原告Bが,被告に対し,本件発明1ないし3についての
日本及び外国における特許を受ける権利を被告が承継したことにより受け
るべき相当対価額は●(省略)●円である。また,原告Aが,被告に対し,
本件各発明についての日本及び外国における特許を受ける権利を被告が承
継したことにより受けるべき相当対価額は●(省略)●円である。なお,
本件各発明と外国の対応特許は協働して世界的な抑止力を発揮しているの
で,これを殊更に区分することは無理であり,実益もないが,便宜上,原
告らの相当対価請求権の根拠を,日本における特許を受ける権利と外国に
おける特許を受ける権利で分けるとすれば,形式的に50%ずつとなる。
(被告の主張)
否認ないし争う。
原告は,本件製品以外の被告製品の「通常の利益率」又は被告事業の「一
般的な利益率」というものを想定して,本件製品の利益率との差分を「超過
利益率」とし,これを本件製品の売上高に乗じて得られたものが本件各発明
による被告の独占的利益であると主張するが,独自の見解にすぎず,通常の
仮想実施料方式が採用されるべきである。そもそも,製品ごとに利益率が異
なるのは,原材料や販売管理の方法等,種々の要素によるものであるから,
上記差分がすべて特許によるものであるということはできない。また,原告
らは,本件製品の利益率を算定するに当たり,本件製品に係る費用につき,
本件製品の製造過程において生じる販売管理費等の費用を等閑視し,本件製
品の販売に係る費用として原料費と精製費しか想定しておらず失当である。
仮に,被告が,原告らに対し,本件各発明につき相当対価を支払う必要が
あるとしても,被告は,原告らに対し,既に十分な金銭を支給している。す
なわち,被告は,原告Aに対しては,本件発明1ないし3についての出願時
発明奨励金●(省略)●円及び優秀発明奨励金●(省略)●円,並びに本件
発明4についての出願時発明奨励金●(省略)●円及び優秀発明奨励金●
(省略)●円の合計●(省略)●円を,原告Bに対しては,本件発明1ない
し3についての出願時発明奨励金●(省略)●円,登録時補償金●(省略)
●円及び優秀発明奨励金●(省略)●円の合計●(省略)●円を支払った。
第3当裁判所の判断
1前記前提事実等,後掲の証拠(ただし,以下の認定に反する部分を除く。)
及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)本件発明1ないし3に至る経緯
ア被告は,昭和63年当時,合成ゴム原料からイソプレンを抽出した後の
副原料から製品を創出することを内容とするC5総合利用計画の一環とし
て,特にシクロペンタンの溶剤用途開発を検討しており,●(省略)●と
議論を重ねていたが,同社からシクロペンタンの持つ可燃性が指摘され,
そのことが開発に当たっての課題となっていた。被告の研究企画部長であ
ったJと原告らは,同社からの指摘を受け,シクロペンタンの持つ可燃性
への対処として,シクロペンタンをフッ素化することを発案し,その後,
被告においてシクロペンタンのフッ素化が正式な研究テーマとなった(原
告B本人,甲5,乙29)。
イシクロペンタンをフッ素化するに当たり,被告には実用レベルでのフッ
素化技術がなかったことから,通商産業省工業技術院の化学技術研究所の
フッ素化学研究室長であったCからフッ素化技術を指導してもらうことと
なり,原告Aが同研究所に派遣されることとなった。原告Aは,平成元年
9月から平成2年6月までの間,平日は同研究所で技術指導を受け,被告
には月に1度進捗状況の報告を行っていた。原告Aが被告に復帰した後の
平成3年からは,被告において,オクタフルオロシクロペンタンなどの合
成技術の開発など,溶剤用途としてのフッ素化合物の研究が重ねられた
(原告A本人,証人K,甲5,乙29)。
ウ被告では,主にフッ素化合物の溶剤用途としての事業化が検討されてい
たが,平成8年2月に,CからEIAJの半導体製造用フロン代替ガスプ
ロジェクトを紹介されたことから,被告の事業企画開発部は,被告におい
て扱っていた化合物の中から,オクタフルオロシクロペンタンの合成中間
体であったオクタフルオロシクロペンテンなどを選択し,サンプルとして
提供した(原告B本人,原告A本人,証人K,甲5,乙29)。
エ平成8年7月,被告において,事業企画開発部内にフッ素化C5事業開
発チームが立ち上げられ,原告Bは同チームのリーダーとなった。被告の
開発研究所の合成研究室の室長であった原告Aも,同チームの一員であっ
た(乙29)。
オ平成8年9月,上記プロジェクトのメンバーであった●(省略)●など
半導体製造メーカーによる性能評価の結果,オクタフルオロシクロペンテ
ンがエッチングガスとして有望であることが判明した(原告B本人,原告
A本人,乙28)。
カオクタフルオロシクロペンテンがエッチングガスとして有望であるとの
結果を受けて,被告においてこれを特許化することが検討された。エッチ
ングガスとしてのオクタフルオロシクロペンテンの特許化を目指すに当た
り,オクタフルオロシクロペンテンをエッチングガスに使用したものとし
て,既にソニー株式会社の特許出願(特願平3-40966)に係る発明
(以下「ソニー発明」という。)があったことから,原告らは,上記プ
ロジェクトにおいてオクタフルオロシクロペンテンの性能評価を行った●
(省略)●などの半導体製造メーカーの担当者からソニー発明との違いを
聴取した結果,被告の提供したオクタフルオロシクロペンテンによるエッ
チングは,①エッチングの開始直後に基体の温度が100℃を超えること,
②プラズマ密度が高いこと,③酸素等の混入が積極的に望まれることの点
で,ソニー発明と相違することが判明し,被告においてこれを出願するこ
ととした(原告B本人,原告A本人,甲5,87,乙1)。
(2)本件発明4に至る経緯
ア平成10年8月7日に行われた被告と●(省略)●の会議において,●
(省略)●から,C5F8を利用するに当たって要求されるスペックにつ
いて,従来使用してきたガスのスペックと同等,又は同スペックとは異な
るものであっても,問題ないことをデータで示すことができればよいとの
意見が述べられた。そして,●(省略)●からは,従来使用してきたガス
のスペックの例として,純度Five9(99.999%),水分100
0ppb以下,空気4000ppb以下のC4F8のスペックが挙げられ
るとともに,窒素がプラズマ中では不活性ガスではないとの見解が示され
た(証人K,被告代表者L,乙32)。
イLは,平成10年9月1日,被告の情報材料事業部ゼオローラ開発チー
ム長となり,エッチングガス用途のC5F8の事業化に専従するようにな
った(乙61,186)。
ウLは,平成10年9月24日,ゼオローラの事業化に関する報告におい
て,ゼオローラの規格については●(省略)●との間で取決めがあるとこ
ろ,混入してくる窒素の除去対策が必要であり,蒸留工程での除去と充填
時の除去の両方を検討していること,窒素含有量として100ppm以下
が必要であることを報告した(乙102)。
エLは,平成10年9月25日,C5F8からの窒素除去方法として,蒸
留時にヘリウムを使用する方法,及び窒素で蒸留し,その後,分離膜等を
使用して窒素を除去する方法が可能であるか,被告の生産技術部において
検討するよう要請した(甲61)。
オ原告Aは,平成10年9月28日,C5F8からの窒素除去方法として,
C5F8を蒸留後に沸騰させて窒素ガスを追い出し,冷却時にヘリウムガ
スを注入してする方法を提案した(甲61,乙104の1)。
カLは,平成10年10月5日,ゼオローラの規格として,純度を99.
99%以上,窒素含有率100ppm以下,酸素含有率20ppm以下,
類縁体(パーフルオロ1,3ブタジエン)含有量50ppm以下,水分含
有量10ppm以下を目標値として提案した(乙34)。
キF及びGは,平成10年9月からエッチングガスの純度を上げるための
技術開発への関与を開始し,その方法を検討した。そして,C5F8の精
製は,加圧も減圧も行えない被告の高岡工場の蒸留塔設備で行うことが決
まっていたことから,同年12月には,蒸留段階でヘリウムと置換するこ
とを基本として,還流法を検討することとなった。還流法としては,加熱
還流することと単蒸留することが候補となり,Fが加熱還流を,Gが単蒸
留を担当することとなった(証人F,証人G,乙23,30)。
ク原告Aは,平成11年2月26日,本件発明4に係る特許出願の明細書
の案文を作成するに当たり,E,F,G,及び鈴木健文に対し,それぞれ
が担当した部分の実施例を記載するように指示した。Fは,本件発明4に
係る特許明細書の実施例1ないし3を,Gは実施例4を担当した。同明細
書には,実施例1ないし13が存在するところ,実施例1ないし4は高純
度プラズマ反応用ガスの製造に関するもの,実施例5ないし13は高純度
プラズマ反応ガスによるドライエッチングに関するものである(証人F,
甲4,55)。
ケ被告は,当初,オクタフルオロシクロペンテンの純度を99.95容
量%として特許出願を行う予定であったが,原告Bが,競合他社が99.
95%をわずかに下回る製品を出してこないとも限らないとの理由で,純
度を99.90容量%と修正することを提案し,このとおり修正された。
純度99.90容量%のプラズマ反応用ガスの性能実験は行われていない
(原告A本人,甲53,乙103の1)。
2争点(1)(原告らは本件発明1ないし3の共同発明者といえるか,原告Aは
本件発明4の単独発明者又は共同発明者といえるか)について
(1)発明者について
発明とは,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」を
いい(特許法2条1項),「産業上利用することができる発明をした者
は,・・・その発明について特許を受けることができる」と規定されている
(同法29条1項柱書き)。そして,発明は,その技術内容が,当該の技術
分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙
げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されたときに,
完成したと解すべきである(最高裁昭和52年10月13日第一小法廷判決
民集31巻6号805頁参照)。したがって,発明者とは,自然法則を利用
した高度な技術的思想の創作に関与した者,すなわち,当該技術的思想を当
業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成するための創
作に関与した者を指すというべきであり,①部下の研究者に対し,具体的着
想を示さずに,単に研究テーマを与えたり,一般的な助言や指導を行ったに
すぎない者(単なる管理者),②研究者の指示に従い,単にデータをまとめ
た者や実験を行った者(単なる補助者),③発明者に資金や設備を提供する
などし,発明の完成を援助した者又は委託した者(単なる後援者・委託者)
は,発明者たり得ない。
発明者となるためには,一人の者がすべての過程に関与することが必要な
わけではなく,共同で関与することでも足りるというべきであるが,複数の
者が共同発明者となるためには,課題を解決するための着想及びその具体化
の過程において,発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与したことを要する。
そして,発明の特徴的部分とは,特許請求の範囲に記載された発明の構成の
うち,従来技術には見られない部分,すなわち,当該発明特有の課題解決手
段を基礎付ける部分を指すものと解すべきである。
(2)原告らは本件発明1ないし3の共同発明者といえるか
ア本件発明1ないし3への原告らの関与
本件発明1ないし3に至る経緯は,大要,前記1認定のとおりであると
ころ,原告らは,①シクロペンタンをフッ素化することを考えたこと,②
フッ素化技術の習得に当たりCとの関係を築いたこと,③化学技術研究所
に派遣する者を原告Aに決めたこと,④CからEIAJのプロジェクトを
紹介され,サンプルを選択し,提供したこと,⑤同プロジェクトの評価結
果を受けて,特許化することを検討し,関係者間での意見調整,先行技術
の調査,出願のための文案の作成等をしたことは,すべて原告ら二人で行
ったものであると主張し,その旨供述する。
しかし,証拠(原告B,原告A,証人K,甲5,乙29)によれば,原
告らが,被告の従業員として被告のC5総合利用計画に関与し,被告にお
けるフッ素化技術の導入とその後の研究に尽力したことは認められるもの
の,一つのプロジェクトの主要事項を,被告の一従業員である原告ら二人
だけで決定,実行し,被告の他の従業員はみなそれに追従したにすぎない
とはおよそ考え難く,この点に関する客観的裏付けに乏しい原告らの上記
供述は直ちに信用することができない。
イ本件発明1ないし3の特徴的部分への創作的寄与
発明者に当たるというためには,発明の特徴的部分の完成に創作的に寄
与したことが必要であることは,前記(1)説示のとおりである。
しかし,原告らが本件発明1ないし3の共同発明者であることの根拠と
して主張する,本件発明1ないし3に対する原告らの関与は,①シクロペ
ンタンをフッ素化することを考えたこと,②フッ素化技術の習得に当たり
Cとの関係を築いたこと,③化学技術研究所に派遣する者を原告Aに決め
たこと,④CからEIAJのプロジェクトを紹介され,サンプルを選択し,
提供したこと,⑤同プロジェクトの評価結果を受けて,特許化することを
検討し,関係者間での意見調整,先行技術の調査,出願のための文案の作
成等をしたことなどであり,これらすべてを原告ら二人で行ったと認めら
れないことは,上記アのとおりである。
また,仮に,本件発明1ないし3に対する原告らの関与が,原告らの主
張するとおりであったとしても,上記関与それ自体は,被告の事業に対す
る大きな貢献であると評価することができるものの,単なるビジネス面で
の貢献にすぎないものというべきである。
そして,原告らが,本人尋問において,EIAJの性能評価実験におけ
る条件の決定に関与したこともなければ,オクタフルオロシクロペンテン
の性能に関して,そのメカニズム等の解析も行っていないことを供述して
いることも考慮すれば,原告らは,本件発明1ないし3の発明の特徴的部
分の完成に創作的に寄与したものと到底認めることはできず,原告らの主
張はそれ自体失当であると言わざるを得ない。
ウ小括
以上によれば,原告らは,本件発明1ないし3特徴的部分に創作的に寄
与したとはいえず,本件発明1ないし3の共同発明者であると認めること
はできない。
(3)原告Aは本件発明4の単独発明者又は共同発明者といえるか
ア原告Aの関与
本件発明4に至る経緯は,大要,前記1認定のとおりである。
原告Aは,本件発明4は当業者の技術常識に反して原告Aが単独で考案
したものであり,プラズマ反応用ガスの残余の不純物のうち,酸素ガスや
窒素ガスの合計量を制限することにより,安定したドライエッチング反応
やCVDが実現されることを発見したと主張し,その旨供述する。しかし,
かかる原告Aの主張を客観的に裏付ける実験結果や実験結果の具体的な分
析などは提出されておらず,他に同主張を裏付ける証拠もない。
イ本件発明4の特徴的部分
(ア)公知文献について
本件発明4に係る特許出願前である平成4年9月14日に頒布された
刊行物である乙1文献には,以下の記載がある(乙1)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子構造の少なくとも一部に環状部を有する飽和フルオロカーボ
ン系化合物を含むエッチング・ガスを用いて被エッチング基体の温
度を50℃以下に制御しながら基板上に形成されたシリコン化合物
層のエッチングを行うことを特徴とするドライエッチング方法。」
「【0028】実施例3
本実施例は,本願の第2の発明をコンタクト・ホール加工に適用
し,・・・C5F8(オクタフルオロシクロペンテン・・・)を使
用して,酸化シリコンからなる層間絶縁膜をエッチングした例であ
る。・・・」
(イ)本件発明4に係る特許明細書には,以下の記載がある(甲4)。
「【0004】
・・・例えば,1,2-ジクロロヘキサフルオロシクロペンテンを
フッ化カリウムと反応させて得られた粗生成物を,工業的に通常用
いられる方法で精留したオクタフルオロシクロペンテンを,酸化シ
リコンに代表されるシリコン化合物層のドライエッチングに適用す
ると,エッチング条件によってはエッチング速度やフォトレジスト
およびポリシリコンなどの保護膜に対する選択性が十分満足できる
とは言い難く,さらにはエッチングが高速度で均一に行われないと
いう問題があった。」
「【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは,・・・ある種の不純物の存在がプラズマ反応に大き
く影響することを見出した。また,プラズマ反応に影響する特定の
不純物を効率よく除去して極めて高純度なオクタフルオロシクロペ
ンテンを得る方法の確立にも成功して,本発明を完成させるに到っ
た。」
(ウ)上記(ア)で認定したところによれば,乙1文献には,オクタフルオロ
シクロペンテンをドライエッチングに使用することが開示されており,
本件各発明の特許出願時点で公知技術であったことが認められる。そし
て,原告らも,陳述書(甲87)において,「従来技術の調査において
『問題特許』として発見されたのは乙第1号証のソニーの特許で,C5
F8を用いたエッチングについて書かれておりました。この特許のため,
当初原告Aらが企画したC5F8そのもの及びその上位概念(環状不飽
和フッ素化合物など)を特許化することは不可能になっただけでな
く,・・・」と述べていることからすれば,オクタフルオロシクロペン
テンをドライエッチングに使用すること自体は,本件発明4に係る特許
出願の時点で公知技術であったと認められる。そして,上記(イ)で認定
した特許明細書の記載からすれば,本件発明4は,従来のエッチング速
度及び選択性に係る問題に対する特定の不純物の影響を明らかにすると
ともに,不純物の効率的な除去により高純度のオクタフルオロシクロペ
ンテンを得る方法を確立したものであると認められるから,本件発明4
-1及び4-2の特徴的部分は,不純物の含有量及びオクタフルオロシ
クロペンテンの純度を規定した部分,すなわち,「オクタフルオロシク
ロペンテンの純度が99.9容量%以上であり,かつ残余の微量ガス成
分として含まれる窒素ガスと酸素ガスの合計量が200容量ppm以下
である」との部分,及び上記部分に加え,「水分含量が20重量ppm
以下である」との部分であり,本件発明4-3の特徴的部分は,「オク
タフルオロシクロペンテンを主成分とする反応粗生成物を0属の不活性
ガス中で精留する」との部分,本件発明4-4の特徴的部分は,「オク
タフルオロシクロペンテンを主成分とする反応粗生成物を,純度99.
9容量%以上に精留する第1工程,次いで残留する微量不純物を除去す
る第2工程」との部分であるというべきである。なお,本件発明4-3
及び4-4は,上記精製方法により,本件発明4-1及び4-2のプラ
ズマ反応用ガスを製造するものであり,上述した本件発明4-1及び4
-2の特徴的部分は,本件発明4-3及び4-4の特徴的部分でもある。
ウ本件発明4の特徴的部分への創作的寄与
(ア)本件発明4-1及び4-2の特徴的部分への創作的関与について
a本件発明4-1及び4-2に係る着想
前記1(2)カ認定のとおり,Lが,平成10年10月5日時点で,
ゼオローラの規格として,純度99.99%以上,窒素含有量100
ppm以下,酸素含有量20ppm以下との案を提示していたことか
ら,オクタフルオロシクロペンテンの純度を上げ,窒素及び酸素の含
有量を下げることは,被告内部の目標として掲げられていたものと認
められる。そして,前記1(2)ア認定のとおり,Lによる上記規格の
提案に先立ち,同年8月7日に行われた被告と●(省略)●との会議
において,●(省略)●から,C5F8のスペックについての要請と
共に,窒素がプラズマ中では不活性ガスではないとの見解が示された
こと,Lが,同年9月24日のゼオローラの事業化に関する報告にお
いて,ゼオローラの規格については●(省略)●との間で取決めがあ
るとして,混入してくる窒素の除去対策を検討しており,窒素含有量
として100ppm以下が必要であると報告していることに照らせば,
オクタフルオロシクロペンテンの純度を上げ,窒素及び酸素の含有量
を下げることは,少なくとも●(省略)●からの要請であって,原告
Aが着想したものと認めることはできない。
これに対し,原告Aは,エッチング業者による単なる純度を上げる
要請は,本件発明4-1及び4-2の着想には当たらない旨主張する。
しかし,前記1(2)ア認定のとおり,●(省略)●はC4F6と同等
のスペックとして具体的な数値を要求しているし,また,同スペック
とは異なるものであっても問題ないことをデータで示すことができれ
ばよいとの見解について,具体性に欠けるとしても,前記1(2)エ認
定のとおり,この見解を踏まえてゼオローラの規格の具体的な案を提
示しているのはLであって,原告Aがゼオローラの純度並びに窒素及
び酸素の含有量について,何らかの提案をしたとは認められない。
b本件発明4-1及び4-2の効果について
原告Aは,本件発明4につき,プラズマ反応用ガスの残余の不純物
のうち,酸素ガスや窒素ガスの合計量を制限することにより,安定し
たドライエッチング反応やCVDが実現されることを発見したと主張
しているところ,かかる効果の観点からも,以下のとおり,原告Aが
発明者であると認めることはできない。
本件発明4-1及び4-2のプラズマ反応用ガスは,オクタフルオ
ロシクロペンテンの純度が99.9容量%以上であり,窒素ガス及び
酸素ガスの合計量が200容量ppm以下であるところ,前記1(2)
ケで認定したところによれば,このようなスペックを持つガスについ
てのエッチング性能実験は行われておらず,オクタフルオロシクロペ
ンテンの純度99.9容量%以上というのは,当初99.95%以上
(なお,この数値についての性能実験が行われたことを示す証拠もな
い。)として出願しようとしていたところ,競合他社が99.95%
をわずかに下回る製品を出してこないとも限らないとの原告Bの進言
により,何ら根拠なく決められた数値である。また,証拠(原告A本
人)によれば,窒素ガス及び酸素ガスの合計量が200容量ppm以
下というのも,被告のユーザーにサンプルとして出荷していたC5F
8を測定したところ,窒素ガス及び酸素ガスの合計量が140ppm
であり,この数値を丸めたものにすぎないことが認められる。さらに,
本件発明4-2の水分の含有量についても,20重量ppm以下での
性能実験が行われたことを認めるに足りる証拠はない。したがって,
本件発明4-1及び4-2のプラズマ反応用ガスについてのエッチン
グ性能実験が行われていない以上,原告Aが自身の発明者性を裏付け
るべく主張する,安定したドライエッチング反応やCVDが実現され
るという効果を同プラズマ反応用ガスが有するか否かは不明であるか
ら,原告Aが同効果を発見したということはありえないというべきで
ある。
(イ)本件発明4-3及び4-4の特徴的部分への創作的関与について
証拠(証人F,証人G)及び上記1(2)エで認定したLによる窒素除
去方法の検討要請によれば,本件発明4-3及び4-4の精製方法を提
案したのはLであると認められる。前記1(2)オで認定したとおり,原
告Aも,窒素除去方法についての自身の案を提示しているが,証拠(証
人F,証人G,甲61,乙30)によれば,原告Aの提案が書かれた電
子メールの宛先に,FとGは入っておらず,エッチングガスの純度を高
める実験に携わっていたF及びGにおいて,原告Aの提案を把握してい
ないこと,原告Aの案は,窒素を除去する工程をヘリウム雰囲気下で行
うものではなく,本件発明4-3及び4-4の精製方法とは異なること
が認められるから,本件発明4-3及び4-4の精製方法に係る特徴部
分を原告Aが着想したとは認められない。なお,原告A自身が,本人尋
問において,本件発明4-3及び4-4の精製方法を提案していないこ
とを供述している。
もっとも,証拠(原告A本人,証人F及び被告代表者L)によれば,
本件発明4-3及び4-4の精製方法自体は,化学的知見を有するもの
であれば容易に思いつくものであることが認められるから,このような
精製方法を提案しただけでは本件発明4-3及び4-4の特徴的部分に
創作的に寄与したものとはいえず,発明者とはいえない。本件発明4-
3及び4-4においては,実験を繰り返し行い,上記精製方法により具
体的に本件発明4-1及び4-2のプラズマ反応用ガスを製造できるこ
とを見出してこそ,その発明の特徴的部分への創作的な寄与があったと
いうべきである。そして,証拠(原告A本人,証人F,証人G)及び前
記1(2)キ及びク認定の事実によれば,原告Aは直接実験を行っておら
ず,本件発明4-3及び4-4に係る実験を実際に行ったのはF及びG
であると認められるから,本件発明4-3及び4-4の共同発明者は,
F及びGであるというべきであり,原告Aは単独発明者とも,共同発明
者ともということができない。これに対し,原告Aは,F及びGが原告
Aの具体的な指示に従った補助者にすぎないと主張するが,原告AがF
及びGに対し行ったとする本件発明4-3及び4-4に関する具体的な
指示の内容を客観的に裏付ける的確な証拠はない。この点,被告の従業
員であったEの陳述書(甲71)には,オクタフルオロシクロペンテン
に混在する窒素及び酸素の濃度分析の確立につき,原告Aから具体的な
指示を受けたこと,原告Aの指示の下,F及びGらを指揮し,実験を分
担したことの記載があるが,オクタフルオロシクロペンテンに混在する
窒素及び酸素の濃度分析の確立は,前記イ(イ)で認定した本件発明4-
3及び4-4の特徴的部分に直接関係するものとは認められず,また,
F及びGに対して行ったとする指示の具体的な内容も明らかではないか
ら,上記陳述書をもって,本件発明4-3及び4-4の特徴的部分に関
し,原告AからF及びGに対して具体的な指示があったと認めることは
できない。その他,本件全証拠に照らしても,原告AがF及びGらに対
して具体的な指示を行い,本件発明4-3及び4-4の特徴的部分に創
作的に寄与したと認めることはできない。
(ウ)小括
以上によれば,原告Aは,本件発明4の特徴的部分に創作的に寄与し
たとはいえず,本件発明4の単独発明者であるとも,共同発明者である
とも認められない。
3まとめ
したがって,原告らはいずれも,本件各発明の発明者であるとは認められ
ない。
第4結論
以上によれば,その余の点について検討するまでもなく,原告らの請求はい
ずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
嶋末和秀
裁判官
鈴木千帆
裁判官
本井修平
発明目録
1発明の名称ドライエッチング方法
優先日平成8年10月30日
優先権主張番号特願平8-305818
出願日平成9年10月30日
出願番号特願平9-312906
公開日平成10年7月21日
公開番号特開平10-189553
登録日平成20年11月14日
特許番号特許第4215294号
特許請求の範囲
【請求項1】
オクタフルオロシクロペンテンを含むドライエッチングガスを用い,かつ,
エッチング時において,被エッチング基体の温度を,外部冷却装置に接続さ
れた内部冷却手段により被エッチング基体を冷却することなく,被エッチン
グ基体が到達する温度である60℃~250℃として,プラズマによりドラ
イエッチングすることを特徴とするドライエッチング方法。
2発明の名称ドライエッチング用ガス組成物およびドライエッチング方法
優先日平成8年10月30日
優先権主張番号特願平8-305819
出願日平成9年10月30日
出願番号特願平9-312907
公開日平成10年7月31日
公開番号特開平10-199865
特許請求の範囲
【請求項1】
パーフルオロシクロオレフィンと,該パーフルオロシクロオレフィンに基づ
き1~40モル%の酸素ガスおよびガス状酸素含有化合物の中から選ばれた少
なくとも一種の酸素成分を含んでなるドライエッチング用ガス組成物。
【請求項2】
パーフルオロシクロオレフィンと,該パーフルオロシクロオレフィンに基づ
き1~40モル%の酸素ガスおよびガス状酸素含有化合物の中から選ばれた少
なくとも一種の酸素成分を含んでなるガス組成物を用いてドライエッチングを
行うことを特徴とするドライエッチング方法。
3発明の名称ドライエッチング法
優先日平成8年10月30日
優先権主張番号特願平8-305820
出願日平成9年10月30日
出願番号特願平9-312908
公開日平成10年7月31日
公開番号特開平10-199866
特許請求の範囲
【請求項1】
パーフルオロシクロオレフィンを含むドライエッチング用ガスを用いて,1
010
cm-3
以上の高密度領域のプラズマを発生させて被エッチング基体をド
ライエッチングすることを特徴とするドライエッチング法。
4発明の名称プラズマ反応用ガス及びその製造方法
出願日平成11年5月24日
出願番号特願平11-143562
公開日平成12年11月30日
公開番号特開2000-332001
登録日平成22年4月16日
登録番号特許第4492764号
特許請求の範囲
【請求項1】
半導体装置製造時の,ドライエッチングまたはケミカル・ベーパー・デポジ
ッションに用いられる,オクタフルオロシクロペンテンからなる半導体装置製
造用プラズマ反応用ガスであって,該半導体装置製造用プラズマ反応用ガスの
全量に対して,オクタフルオロシクロペンテンの純度が99.9容量%以上で
あり,かつ残余の微量ガス成分として含まれる窒素ガスと酸素ガスの合計量が
200容量ppm以下であることを特徴とする,半導体装置製造用プラズマ反
応用ガス。
【請求項2】
水分含量が20重量ppm以下であることを特徴とする請求項1記載の半導
体装置製造用プラズマ反応用ガス。
【請求項3】
オクタフルオロシクロペンテンを主成分とする反応粗生成物を,0属の不活
性ガス中で精留することを特徴とする請求項1または2記載の半導体装置製造
用プラズマ反応用ガスの製造方法。
【請求項4】
オクタフルオロシクロペンテンを主成分とする反応粗生成物を,純度99.
9容量%以上に精留する第1工程,次いで残留する微量不純物を除去する第2
工程,からなることを特徴とする請求項1または2記載の半導体装置製造用プ
ラズマ反応用ガスの製造方法。」
外国特許発明目録
1本件発明1及び3を基礎とする特許
(1)韓国特許KR10-0490968
【請求項1】
オクタフルオロシクロペンテンを含有するドライエッチング用ガスを用い
て,プラズマガス組成物の圧力10torr~10-5
torrで,そして
被エッチング基体の到達温度60℃~250℃で1010
cm-3
以上の高密
度領域のプラズマを発生させて被エッチング基体をドライエッチングするこ
とを特徴とする,ドライエッチング方法。
(2)米国特許US6,383,403
【請求項1】
オクタフルオロシクロペンテンを含むドライエッチング用ガスを用いて,
ガスの圧力が10Torrから10-5
Torrの範囲で,基体の到達温度
を実質的に制御せずに,基体の到達温度60℃から250℃の範囲で,少な
くとも1010
イオン/cm3
の高密度領域のプラズマを発生させて被エッチ
ング基体をドライエッチングすることを特徴とするドライエッチング方法。
(3)欧州特許EP0964438B1
【請求項1】
オクタフルオロシクロペンテンを含むドライエッチング用ガスを用いて,
被エッチング基体をドライエッチングするドライエッチング方法において,
ガスの圧力が1333Pa(10Torr)から133.3.10-5
Pa
(10-5
Torr)の範囲で,基体の到達温度を制御せずに,基体の到達
温度60℃から250℃の範囲で,少なくとも1010
/cm3
の高密度領域
のプラズマを発生させることを特徴とするドライエッチング方法。
(4)台湾特許TW403955
【請求項1】
パーフルオロシクロオレフィンを含有するドライエッチング用ガスを用い,
1010
cm-3
以上の高密度領域のプラズマを発生させて,被エッチング基
体に対してドライエッチングを行うことを特徴とする,ドライエッチング法。
2本件発明2を基礎とする特許
(1)韓国特許KR10-0510158
【請求項12】
オクタフルオロシクロペンテンと,該オクタフルオロシクロペンテンに対
し1~40モル%の酸素ガス及びガス状酸素含有化合物の中から選択される
1種以上の酸素成分,そしてガス組成物合計重量に対し50モル%以下の飽
和ハイドロフルオロカーボンを含有するガス組成物を用いてドライエッチン
グを行うことを特徴とする,ドライエッチング方法。
(2)米国特許US6,322,715
【請求項8】
クレーム1(判決注:(i)オクタフルオロシクロペンテン,(ii)該オ
クタフルオロシクロペンテンに基づき1~40モル%の,酸素ガスおよびガ
ス状酸素含有化合物の中から選ばれた少なくとも一種の酸素成分,および
(iii)ドライエッチング用ガス組成物全体に基づき50モル%以下の飽和
ハイドロフルオロカーボンガスを含んでなるドライエッチング用ガス組成
物。)に記載のガス組成物を用いてドライエッチングを行うステップを含む
ドライエッチング方法。
(3)欧州特許EP0948033B1
【請求項8】
クレーム1(判決注:(i)オクタフルオロシクロペンテン,(ii)該オ
クタフルオロシクロペンテンに基づき1~40モル%の,酸素ガスおよびガ
ス状酸素含有化合物の中から選ばれた少なくとも一種の酸素成分,および
(iii)ドライエッチング用ガス組成物全体に基づき50モル%以下の飽和
ハイドロフルオロカーボンガスを含んでなるドライエッチング用ガス組成
物。)から7のいずれか一項に記載のガス組成物を用いてドライエッチング
を行うことを特徴とするドライエッチング方法。
(4)台湾特許TW401602
【請求項9】
オクタフルオロシクロペンテンと,該オクタフルオロシクロペンテンに対
して1~40モル%の酸素ガス及びガス状酸素含有化合物の中から選ばれた,
少なくとも1種の酸素成分とを含有することにより構成されるガス組成物を
用いてドライエッチングを行うことを特徴とする,ドライエッチング方法。
3本件発明4を基礎とする特許
(1)米国特許US6,884,365
【請求項1】
オクタフルオロシクロペンテンからなるプラズマ反応用ガスであって,該
オクタフルオロシクロペンテンは純度が99.9容量%以上であり,0.
1%未満の微量ガス不純物を有し,該微量ガス不純物における窒素ガスと酸
素ガスの合計量が150容量ppm以下であるプラズマ反応用ガス。
(2)欧州特許EP1186585B1
【請求項1】
オクタフルオロシクロペンテンからなるプラズマ反応用ガスにおいて,該
プラズマ反応用ガスの全量に対して,オクタフルオロシクロペンテンの純度
が99.9容量%以上であり,かつ残余の微量ガス成分として含まれる窒素
ガスと酸素ガスの合計量が200容量ppm以下であることを特徴とするプ
ラズマ反応用ガス。
(3)台湾特許TW492953
【請求項1】
オクタフルオロシクロペンテンからなるプラズマ反応用ガスであって,該
プラズマ反応用ガスの総量に対して,オクタフルオロシクロペンテンの純度
が99.9容量%であり,かつ残余の微量ガス成分として含まれる窒素ガス
と酸素ガスの合計量が200容量ppm以下であり,ドライエッチング,ケ
ミカルペーパーデポジッションまたはアッシングのいずれか1種のプラズマ
反応に用いられることを特徴とする,プラズマ反応用ガス。

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