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裁判例


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     主     文
1 原判決中,被控訴人A及び同Bに対する請求に係る部分を次のとおり変更する。
 (1) 被控訴人A及び同Bは,C株式会社に対し,各自1億8000万円及びこれに対する
平成11年3月20日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
 (2) 控訴人の被控訴人A及び同Bに対するその余の請求を棄却する。
2 控訴人のその余の控訴を棄却する。
3 控訴人と被控訴人A及び同Bとの間に生じた訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを10
分し,その9を控訴人の負担とし,その余を被控訴人A及び同Bの負担とし,その余の控訴
費用は,控訴人の負担とする。
4 この判決の1項の(1)は,仮に執行することができる。
     事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 1 原判決中,被控訴人らに対する請求に係る部分を取り消す。
 2 被控訴人Dは,C株式会社に対し,90億3957万円及びこれに対する平成11年3月
21日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
 3 被控訴人Aは,C株式会社に対し,86億5957万円及びこれに対する平成11年3月
20日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
 4 被控訴人Eは,C株式会社に対し,63億6830万円及びこれに対する平成11年3月
20日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
 5 被控訴人Bは,C株式会社に対し,83億2957万円及びこれに対する平成11年3月
20日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
 6 被控訴人Fは,C株式会社に対し,79億6957万円及びこれに対する平成11年3月
20日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
 7 仮執行宣言
第2 事案の概要
 1 本件は,G株式会社(平成11年4月1日にH株式会社と合併してC株式会社となっ
た。以下「G」という。)が,昭和62年12月ころから平成7年9月ころまでの間に,Iに対し,
業者間転売取引(以下「業転取引」という。)による石油製品の取引価格の上乗せあるいは
サイト差取引により,総額63億円以上の資金を違法かつ不当に供与し,この資金につき
必要経費として違法な所得隠しの税務申告をして,平成2年3月期から平成9年3月期ま
での所得につき重加算税を含め約27億6000万円を追徴課税されたと主張して,Gの株
主である控訴人が,取締役であった被控訴人らに対し,取締役の任務違反による損害賠
償として,業転取引を利用した価格上乗せによる損害約45億円,サイト差取引に関連して
生じた損害約18億円,追徴課税による損害約27億6000万円につき,各被控訴人の取
締役在任期間の行為と因果関係のある損害に相当する請求額及びこれに対する訴状送
達の翌日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金を連帯してGに支
払うよう求めた株主代表訴訟である。なお,控訴人は,原審において,被控訴人5名のほ
か42名の取締役であった者も被告とし,同様の請求をしていた。
 原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却した。
 控訴人は,被控訴人5名についてのみ控訴した。(他の42名についての棄却判決は確
定した。)
 2 前提となる事実関係,争点及び当事者の主張は,次のとおり付加訂正するほか,原
判決の「事実及び理由」の第1の3,第2,第3記載のとおりであるからこれを引用する。(た
だし,被控訴人5名を除く原審被告42名に対する請求に係る部分を除く。)
 (1) 原判決7頁13行目から18行目までを「これとは別に,Gは,業転取引の決済期の差
(サイト差)を利用してIに資金を滞留させて金融の利益を与えていた。平成7年8月末,Iは
代金決済ができず,Iと直接又はJ株式会社を介して取引をしていたKの有していた売掛代
金債権23億7895万9000円(うちIに対する売掛代金債権額17億7178万6494円)が
回収不能となった。(甲2)」に改める。
 (2) 原判決7頁の末尾に改行して次のとおり加える。
「 控訴人は,平成11年2月24日,本訴を提起した。
 Iは,上記サイト差取引におけるKとの取引が詐欺罪を構成するものとして起訴されたが,
平成10年10月13日,この詐欺被告事件について無罪(ただし,所得税法違反等他の被
告事件については有罪)判決を受けた。(甲1)
 Gは,Kから,前記売掛代金債権23億7895万9000円について保証債務の履行を求
める訴訟(東京地方裁判所平成8年(ワ)第12843号)を提起され,平成11年12月20
日,敗訴判決(甲2)を受け,控訴審においてKとの間で和解金21億4106万3100円を
支払う旨の和解をし,平成13年1月31日,これをKに支払った。
 また,Gは,Iに対し,平成4年1月以降の報酬増額分につき損害賠償請求訴訟(東京地
方裁判所平成9年(ワ)第24374号)を提起したが,平成12年3月8日,敗訴判決(甲30)
を受けた。」
 (3) 原判決25頁18行目の次に改行して「Lを平成6年5月以後もIへの報酬支払いの担
当者にとどめておいたのは,本件報酬支払いがPQ違反に関連することであり,その事案
の性質上特定の担当者に委ねざるを得ず,事情を知ったうえで複雑な報酬支払いを実行
できる人材としてはLが適任であったからである。当時,Lは社内で優秀な社員としての評
価を受けており,Lが被控訴人らの指示を無視することは予測できなかった。」を加える。
第3 当裁判所の判断
 1 事実関係
 証拠(甲1~30,乙イ1~8,乙ハ1)及び弁論の全趣旨によって認定できる事実は,次
のとおり付加訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第4記載のとおりであるから,こ
れを引用する。
 (1) 原判決31頁15行目の「Gの負担で,Mの下に,30日間,販売代金相当の資金を滞
留させる」を「Mの下に,30日間,その間の金利をGの負担で,販売代金相当の資金を滞
留させる」に改める。
 (2) 原判決32頁13行目から14行目までを「(このサイト差取引を利用したIへの金融利
益の供与を開始するに当たって,Lが上司の了解を得たことを認めるに足りる証拠はな
い。)」に改める。
 (3) 原判決34頁12行目の「Lが」から13行目までを「(この新たなサイト差取引による金
融利益をIに供与するに当たってLが事前に上司の了解を得たことを認めるに足りる証拠
はない。)」に,17行目の「求められた」を「求めた」に改める。
 (4) 原判決35頁18行目の次に改行して「Lは,Iに対する報酬増額が上司の意向に反し
ているとの認識はなかったため,平成6年5月に被控訴人BからIに対する報酬増額につい
て叱責を受け驚いたが,それ以後は被控訴人Bや同AからIに対する利益供与の件で質問
があればいつでもこれに応じるつもりでいた。しかし,被控訴人A及び同Bは,平成6年5月
にIに対する報酬の減額をLに指示した後,平成7年8月末までの間に,それまでGがIに供
与していた利益について,利益供与の方法や供与した利益の総額を知ろうとせず,これに
ついてLに説明を求めることもなかった。」を加える。
 (5) 原判決36頁5行目の「また」の前に「このうちサイト差取引経費(金利負担分及び取
引当事者手数料)総額は5億8000万円であり,そのうち平成6年下期から平成7年上期
までの間のサイト差取引経費は1億8000万円であった。」を加える。
 (6) 原判決36頁5行目の「また」から10行目までを削除し,19行目の次に改行して「ま
た,Gは,サイト差取引によって発生したKのI及びJに対する売掛代金債権23億7895万
9000円(うちIに対する債権17億7178万6494円,Jに対する債権6億0717万2506
円)について,Kから保証債務履行請求訴訟(東京地方裁判所平成8年(ワ)第12843号)
を提起され,平成11年12月20日,敗訴判決(甲2)を受け,控訴審においてKとの間で和
解金21億4106万3100円を支払う旨の和解をし,平成13年1月31日,これをKに支払
った。」を加える。
 2 被控訴人らの責任に関する判断
 (1) Iに対する月額2000万円の報酬支払に関する責任について
 当裁判所も,Iに対して月額2000万円合計5億円の報酬を支払った点及びこの5億円を
支払った後も月額2000万円の範囲で報酬の支払いを継続した点について,被控訴人ら
の行為に法令違反,善管注意義務違反,忠実義務違反はないものと判断する。その理由
は,原判決の「事実及び理由」の第5の1記載のとおりであるから,これを引用する。
 (2) 報酬増額に関する責任について
 当裁判所も,被控訴人らが報酬増額の事実を知ったのは平成6年5月であり,これを知っ
た後の報酬減額に関する被控訴人らの行為に法令違反,義務違反はなく,また,平成6年
5月以前のLによる報酬増額について被控訴人らに善管注意義務違反があったとまでは
いえないものと判断する。その理由は,原判決の「事実及び理由」の第5の2記載のとおり
であるから,これを引用する。ただし,原判決39頁下から9行目に「なお,前述のとおり,G
は,Iに対し,平成4年1月以降の報酬増額分である23億円余について,詐欺による不法
行為に基づく損害賠償又は不当利得返還の請求訴訟を提起したが,東京地方裁判所は,
平成12年3月8日,いずれの請求も棄却する判決を言渡した。これに対してGは控訴しな
かったため,同判決は確定した。これにより,GはIに対して増額分の報酬について損害賠
償及び不当利得返還の各請求権を有しないことが確定した。」を加える。
 (3) サイト差取引に関する責任について
 ア 平成6年5月以前のサイト差取引に関する責任について
 前記のとおり,被控訴人らが,Lによる報酬増額の事実が発覚した平成6年5月より前
に,サイト差取引によってIに金融利益が供与されている事実を知っていたことを認めるに
足りる証拠はない。
 そして,平成6年5月以前のLによるサイト差取引に基づくIへの利益供与について被控訴
人らに善管注意義務違反があったか否かについては,平成6年5月以前のLによる報酬増
額について被控訴人らに善管注意義務違反があるとはいえないのと同様の理由により,
善管注意義務違反があるとは認められないというべきである。
 イ 平成6年6月以降平成7年8月末までのサイト差取引に関する責任について
  (ア) 被控訴人A及び同Bの責任について
 被控訴人A(平成6年6月以降代表取締役社長)及び同B(平成6年6月以降代表取締役
副社長)は,Iに対する報酬の支払をLに命じたものであり,Lによる報酬の支払を直接監督
する立場にあったものであるが,報酬増額の事実が発覚した平成6年5月の段階で,Iに対
する報酬を月額2000万円に減額するようLに指示したものの,その後平成7年8月末まで
の間に,それまでのLによるIに対する利益供与の実態がどういうものであったかを知ろうと
せず,利益供与の方法や供与された利益の総額についてLに説明を求めたことはなかっ
た。
 また,月額2000万円を超える報酬をIに支払うことについて合理性がないことは,被控
訴人らも認めるところであり,被控訴人A及び同Bが,Iに対して月額2000万円の報酬を
支払ったうえで,これとは別にGの金利等の負担によってIに金融利益を与えることを決定
したとすれば,取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反するというべきである。
 前記アとおり,平成6年5月以前のLによるサイト差取引については被控訴人A及び同B
に善管注意義務違反があったとまではいえないのであるが,それはLの行為について綿密
な管理監督をしなけらばならないことを疑わせるような具体的事情が平成6年5月以前に
ついては認められないからである。しかし,平成6年6月以降については,平成6年5月にL
による無断報酬増額の事実が発覚したのであり,その際,被控訴人A及び同Bは,Lから
の報告によって,Iからの報酬増額の要求が並々ならぬことを認識したはずであるから,報
酬を大幅に減額するよう指示すれば,これに代わるものとしてIからいかなる要求が出てく
るか,それに対してLが断固としてこれを拒絶することができるか,といった点についても上
司として当然検討をし,その対策を講じておく義務があったというべきであり,Lの行為につ
いて綿密な管理監督をしなければならない具体的事情があったというほかない。したがっ
て,平成6年6月以降平成7年8月末までの間,Lがそれまでにした利益供与の実態を把握
しようとせず,そのため,サイト差取引によってIに利益供与をしていたことに気付かず,し
たがって,サイト差取引についての経営判断をせず,平成6年6月以降もLにサイト差取引
による利益供与を継続させたことについて,被控訴人A及び同Bには善管注意義務違反が
あったといわざるを得ない。
  (イ) 被控訴人D,同E,同Fの責任について
 被控訴人Dは,LからIに対する利益供与について直接報告を受ける立場になく,平成6
年5月にLによる報酬増額が発覚したことについても,被控訴人Aらから報告を受けていな
かった。したがって,被控訴人Dには,平成6年6月以降のLによるサイト差取引について
も,平成6年5月以前のLによるサイト差取引についてと同様に,善管注意義務違反は認
められないとするのが相当である。
 被控訴人Eは,平成6年6月の株主総会で取締役を退任しているから,平成6年6月以降
のサイト差取引について取締役としての責任を負うことはない。
 被控訴人Fは,LからIに対する利益供与について直接報告を受ける立場にないが,輸入
需給部門担当取締役として,需給取引を通じてIに対して支払われている報酬額が異常に
増えていることに気付いた平成6年5月の段階で,直ちに被控訴人Bに報告し,これに基づ
いてIに対する報酬が減額されており,Iに対する利益供与について担当取締役に対する監
視義務を尽くしていると認められる。したがって,被控訴人Fには,平成6年6月以降のLに
よるサイト差取引についても,善管注意義務違反はないというべきである。
  (ウ) 損害について
 平成6年6月以降平成7年8月末までのサイト差取引によってGが被った損害は,前記の
とおり,金利負担分及び取引当事者手数料の合計1億8000万円である。
 よって,被控訴人A及び同Bは,商法266条1項5号に基づき,Gに対し,連帯して1億8
000万円の損害を賠償する責めを負う。
 (4) 追徴課税に関する責任について
 当裁判所も,追徴課税に関する被控訴人らの責任は認められないものと判断する。その
理由は,原判決の「事実及び理由」の第5の4記載のとおりであるから,これを引用する。
 3 結論
 以上によれば,控訴人の本件請求は,被控訴人A及び同Bに対し,1億8000万円及び
これに対する訴状送達の翌日である平成11年3月20日から支払済みまで民法所定の年
5%の割合による遅延損害金を,連帯してGに支払うよう求める限度で理由がある。
 よって,原判決を一部変更することとし,主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第7民事部
          
        裁判長裁判官  奥   山   興   悦
            裁判官  杉   山   正   己
            裁判官  山   崎   ま さ よ

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