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平成13年(行ケ)第428号 審決取消請求事件(平成15年5月12日口頭弁
論終結)
          判         決
       原      告   日本エンヂニヤ株式会社
       訴訟代理人弁理士   松 波 祥 文
       被      告   株式会社黒岩設計事務所
       訴訟代理人弁理士   谷 山   守
同   片伯部   敏
          主         文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   特許庁が無効2000-35701号事件について平成13年8月15日に
した審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯等
   原告は,名称を「表流水の背面取水装置」とする特許第3075928号の
発明(平成6年9月7日出願,平成12年6月9日設定登録。以下,その特許を
「本件特許」という。)の特許権者である。被告は,平成12年12月25日,本
件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の
範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件発明」という。)について特許の無
効審判を請求し,同請求は,無効2000-35701号事件として特許庁に係属
した。原告は,平成13年4月23日,本件明細書の特許請求の範囲等の訂正(以
下「本件訂正」という。)を請求した。特許庁は,上記事件につき審理した結果,
同年8月15日,「訂正を認める。特許第3075928号の請求項1に記載され
た発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同月28日,
原告に送達された。
2 本件訂正に係る本件発明の要旨
  【請求項1】左右の側面板1,2と前面板3と後面板4と底面板5で形成した
ボックス形状の取水器本体Bであって,
   当該取水器本体Bの上面開口部8に取水スクリーンSを斜め後ろ下がりに支
持し,
   当該取水スクリーンSの上方部に臨ませた表流水の流入受け板10を,当該
表流水の流入側へ張り出し形成し,
   当該流入受け板10から流入する表流水を,取水器背面の取水スクリーンS
から取水するようにし,
   前記取水器本体Bへ流入した水の取水口17を,取水された水の導水管18
の配管方向によって,当該取水器本体Bの前面板3,左右の側面板1,2又は後面
板4のいずれかに形成し,
   前記取水口17に連結管19を取り付け,
   前記取水器本体Bを取水用堰提27の凹所に構成した
   ことを特徴とする表流水の背面取水装置。
 3 審決の理由
   審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件訂正を認め,本件発明の要旨
を上記2のとおり認定した上,本件発明は,特開平3-55309号公報(審判甲
1,本訴甲4,以下「引用例1」という。),農業土木学会論文集171号67~
73頁(1994年6月発行。審判甲2,本訴甲5,以下「引用例2」とい
う。),土地改良事業計画設計基準(農林水産省構造改善局昭和53年10月2日
改訂)14頁(審判甲3,本訴甲6,以下「引用例3」という。)及び論文集「水
と土」第22号(1975年)50~56頁(審判甲4,本訴甲7,以下「引用例
4」という。)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることがで
きたものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたもの
であり,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきであるとした。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決は,引用例1~4に記載された発明(以下「引用例発明1」~「引用例
発明4」という。)の認定を誤り(取消事由1),本件発明と引用例発明2との相
違点の判断を誤り(取消事由2),引用例発明1~4の組合せに係る容易想到性の
判断を誤り(取消事由3),本件発明の顕著な作用効果を看過し(取消事由4),
本件発明の商業的成功を参酌しなかった(取消事由5)結果,本件発明が引用例発
明1~4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った判断をした
ものであるから,取り消されるべきである。
 1 取消事由1(引用例発明の認定の誤り)
  (1) 引用例1
    審決は,引用例1の実施例においては,透水フィルターが形成される取水
部はボックス形状となっていることが認められる(審決謄本4~5頁(1))と認定す
るが,誤りである。
    本件発明は,引用例発明1の「透水フィルター」ではなく,落ち葉や流木
等の異物を洗い流しながら背面取水に供される「取水スクリーン」による取水装置
であって,取水器本体が「取水用堰堤27の凹所に」構成されることで「流水受け
板」から流入する表流水の背面取水に供されるものであり,引用例発明1とは異な
る。
  (2) 引用例2
    審決は,引用例2に記載されている技術的な説明や施工事例等を公知技術
と認定するが(審決謄本5頁(2)),誤りである。
  (3) 引用例3
    審決は,引用例3について,バースクリーン構造の取水工の正面構造と断
面構造が記載されているとし,これを公知技術として認定するが(審決謄本6
頁(3)),誤りである。
  (4) 引用例4
    審決は,引用例4の認定(審決謄本6~7頁(4))を誤っており,その理由
として,審判における原告の主張を引用する。
 2 取消事由2(相違点の判断の誤り)
  (1) 相違点1
    審決は,本件発明がボックス形状の取水器本体を備えるのに対して,引用
例発明2がこれを備えるものではない点を[相違点1]とし(審決謄本7頁[相違
点1]),引用例1にこの相違点に係る構成が開示されているとした上,「一般に
構造物を設置するに際して,設置現場で施工工事して設置するか,前もって製造さ
れた構造物を現場に運んで設置するかは,当業者が構造物の形状・規模・設置個所
等に応じて適宜選択し得ることである」(同8頁[相違点1について])と判断す
るが,誤りである。
    本件発明のような取水装置は,相違点1に係る構成を具備するかどうかに
よって作用効果が異なるから,これを当業者が適宜選択し得る構成ということはで
きない。また,ボックス形状の取水器を設置するに際して,設置現場で施工工事し
て設置するか,前もって製造された構造物を現場に運んで設置するかも,当業者が
適宜選択し得ることではない。
  (2) 相違点2
    審決は,本件発明が上記第2の2の流入受け板を具備するのに対し,引用
例発明2がこれを具備しない点を[相違点2]とした上(審決謄本7頁[相違点
2]),これが表流水の案内において格別の作用効果を奏するとも認められないか
ら,当業者が適宜採用し得る設計上の事項であると判断したが(同8頁[相違点
2]について),誤りである。
    相違点2に係る構成が格別の作用効果を奏するかどうかは,本件発明の他
の構成と一体のものとして判断されるべきである。
  (3) 相違点3
    審決は,本件発明が上記第2の2のとおり取水口の設置個所及び連結管の
構成を具備するのに対し,引用例発明2がこれを明示するものでない点を[相違点
3]とした上(審決謄本7頁[相違点3]),取水部をボックス形状のものとすれ
ば,取水を利用するために取水口を取水部の周囲のいずれかに設けることは技術的
に自然なことであり,導水管の配管方向を考慮して取水口を設けることは当業者が
設計に際して当然考慮すべきであって,取水口に連結管を取り付けておくことも当
業者が必要に応じて適宜採用し得ると判断したが(同9頁[相違点3]につい
て),誤りである。
    引用例1の取水器は,コンクリート工事で施工されたものであり,これが
ボックス形状として同一の技術内容と理解されるのは,図面上でボックス形状及び
取水という原理が同じだけで,技術的に相違点3に係る技術事項を示すものではな
い。
  (4) 相違点4
    審決は,本件発明が取水器本体を取水用堰提の凹所に構成したのに対し,
引用例発明2は凹所に構成することを開示しない点を[相違点4]とした上(審決
謄本8頁[相違点4]),この構成を当業者であれば容易になし得る設計上の事項
であるとするが(同9頁[相違点4]について),誤りである。
    相違点4に係る構成が格別の作用効果を奏するかどうかは,本件発明の他
の構成と一体のものとして判断されるべきである。
 3 取消事由3(引用例の組合せに係る容易想到性の判断の誤り)
   複数の引用例に基づいて発明の容易想到性を判断する場合には,引用例を組
み合わせる起因ないし動機付けがあるかどうかを基準として判断されるべきである
が,引用例発明1~4は,公知の文献であっても,課題,作用効果等において本件
発明と全く異なり,これらを組み合わせて本件発明に想到する起因ないし動機付け
が存在しないから,当業者にとって,これらを組み合わせて本件発明に想到するこ
とが容易ではない。
 4 取消事由4(顕著な作用効果の看過)
   本件発明は,持ち運びが簡単で極めて容易であり,また,工場生産して現場
に持ち込んで容易に設置し得るため,小規模工事で済み,工事コストを低廉に抑え
得る,水田の水路の各部にも設置して水田ごとに水の供給が可能である等の本件発
明特有の顕著な作用効果を奏する。このような顕著な作用効果を参酌すると,本件
発明の進歩性が肯定されるべきである。
 5 取消事由5(商業的成功を参酌しない違法)
   審決は,本件発明の進歩性を判断するに際して,商業的成功の事実を参酌し
ない違法がある。
   本件発明の実施品のカタログ(甲11)には,本件特許出願時の技術水準で
は市場に提供されなかった技術的事項及び優れた技術的効果が説明されているが,
このような技術的効果を奏する競合製品は皆無であったため,当業界で歓迎され独
占的な商品となったという商業的成功は,本件発明の作用効果が顕著であることを
示すものである。
第4 被告の反論
 1 取消事由1(引用例発明の認定の誤り)について
  (1) 引用例1
    引用例1の実施例に「透水フィルター」が形成される取水部はボックス形
状となっているとする審決の認定は正当であり,原告の主張する認定の誤りはな
い。原告は,引用例1の「透水フィルター」が本件発明の「取水スクリーン」と異
なるとも主張するが,審決は,両構成を[相違点1]として認定しており,原告
は,この点を正解していない。
  (2) 引用例2
    審決は,引用例発明2を引用例2に記載された文言どおりに認定してお
り,その認定に誤りはない。
  (3) 引用例3
    引用例3の図-16には,バースクリーン構造の正面構造と断面構造が記
載されており,審決の認定に誤りはない。
  (4) 引用例4
    原告は,審判において,引用例4に係るまとまった主張をしておらず,こ
の主張を援用するという趣旨は不明である。
 2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について
  (1) 相違点1
    引用例1には,ボックス形状の取水器が示され,その第3図のものはコン
クリート製の取水器であることがうかがわれるから,審決の説示するとおり,引用
例1には相違点1に係る本件発明の構成が開示されている。
    一般に,構造物は,工場生産する部分が大きいほどコストを低減すること
ができ,取水器のような小型の構造物は,工場生産が望ましいことは当業者の常識
である。また,あらかじめ工場生産し得ることは,本件明細書に何ら記載はなく,
本件発明の作用効果ということはできない。
  (2) 相違点2
    本件発明の一体のものとしての作用効果とは別に「流入受け板」単独の作
用効果を判断する審決の判断は正当である。原告は,相違点2に係る構成が格別の
作用効果を奏するかどうかは,本件発明の他の構成と一体のものとして判断される
べきであると主張するが,そのような格別の作用効果も認められない。
  (3) 相違点3
    引用例1の取水器は,コンクリート製であることはうかがわれるが,コン
クリートのプレキャスト製の取水器を工場生産することも,当業者が容易に行う技
術であり,引用例1が相違点3に係る技術を示すものというべきである。
  (4) 相違点4
    本件発明の一体のものとしての作用効果とは別に「取水器本体を取水用堰
提の凹所に構成した」こと単独の作用効果を判断する審決の判断は正当である。原
告は,相違点4に係る構成が格別の作用効果を奏するかどうかは,本件発明の他の
構成と一体のものとして判断されるべきであると主張するが,そのような格別の作
用効果も認められない。
 3 取消事由3(引用例の組合せに係る容易想到性の判断の誤り)について
   原告は,複数の引用例を組み合わせる起因ないし動機付けを基準として本件
発明の進歩性を判断すべきであると主張するが,本件発明及び引用例発明1~4に
係るどのような起因ないし動機付けを問題とするのかについて具体的主張がないか
ら,意味のない主張である。
 4 取消事由4(顕著な作用効果の看過)について
   原告は,本件発明の顕著な作用効果として,持ち運びが簡単で極めて容易で
あり,また,工場生産して現場に持ち込んで容易に設置し得るなどと主張するが,
従来のものに比べ,本件発明がこれらの点で顕著な作用効果を奏するものではな
い。
   また,取水器をボックス形状とすることは,本件特許出願時,既に公知の技
術的事項であり,本件発明の取水器がボックス形状であることは,その進歩性を肯
定する根拠とはなり得ない。
 5 取消事由5(商業的成功を参酌しない違法)について
   本件発明の実施品のカタログ(甲11)は,原告自身が作成したものであ
り,そこに記載された作用効果が実際に奏されることについて証明力は乏しい。
   商業的成功が発明の進歩性判断に当たり参酌されるためには,その構成及び
効果に特徴がある場合に限られるべきである。商業的成功は,発明の技術的思想の
ほか,宣伝活動,営業努力等,種々の要素により影響を受けるから,発明自体に特
徴がないときは,商業的成功を参酌する余地はない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(引用例発明の認定の誤り)について
  (1) 引用例1
   ア 原告は,引用例1(甲4)の実施例における「透水フィルター」が形成
される取水部はボックス形状となっているとする審決の認定が誤りであると主張す
る。
     ところで,「ボックス形状」とは,おおむね四角様の形であり壁を成す
部材で内空間を区画形成していることを意味するところ,引用例1には,審決認定
の上記構成が記載されており(特許請求の範囲,第2図),原告の主張は採用し得
ない。
   イ また,原告は,引用例発明1(甲4)の「透水フィルター」は,本件発
明における「取水スクリーン」とは異なる技術であると主張する。
     しかしながら,引用例発明1(甲4)の「透水フィルター」は土砂を除
去して背面取水を行うものであり(特許請求の範囲),一方,本件発明(甲2)に
おける「取水スクリーン」は落ち葉や流木等の異物を表流水の流勢により流出させ
ながら背面取水を行うものであるから(段落【0004】),いずれも異物を除去
して背面取水を行う機能において共通しており,本件発明の「取水スクリ-ン」が
引用例発明1の「透水フィルター」と一致すると認められる。
   ウ さらに,原告は,本件発明(甲2)では,取水器本体が「取水用堰堤
27の凹所」に構成されるのであるから,この構成を有しない引用例発明1(甲4)
のものとは異なると主張する。
     しかしながら,審決は,引用例発明1(甲4)がこの構成を具備すると
は認定しておらず,原告の主張は,その前提を欠く。
  (2) 引用例2
    引用例2(甲5)には,審決認定のとおりの記載があり(68頁「Ⅱ.取
水工の構造」,71~72頁「Ⅳ.構造上の留意点」,72頁「Ⅵ.施工事例」,
同頁「Ⅶ.あとがき」),これらが誤記であるなどの事情もうかがわれないから,
審決の上記認定は正当である。
  (3) 引用例3
    引用例3(甲6)には,審決認定のとおりの記載があり(図-16),こ
れが誤記であるなどの事情もうかがわれないから,審決の上記認定は正当である。
  (4) 引用例4
    引用例4(甲7)には,審決認定のとおりの記載があり(50頁「Ⅰ 渓
流取水工とその目的」,53頁「3 スクリーンの長さの計算」「図-4」,54
頁「1 スクリーンの構造上の問題」,56頁「9 あとがき」),これらが誤記
であるなどの事情もうかがわれないから,審決の上記認定は正当である。
 2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について
  (1) 相違点1
   ア 本件発明の要旨は上記第2の2のとおりであり,審決が相違点1におい
て指摘する本件発明の構成要件は,「ボックス形状の取水器本体」であって,これ
を限定する構成としては,「左右の側面板1,2と前面板3と後面板4と底面板5
で形成した」との要件が規定されているだけである。取水装置である本件発明にと
って,「取水器本体」は不可欠な基本的構成であり,また,これを限定する上記要
件は,単に,取水器本体を側面板,前面板,後面板及び底面板で形成するという,
極めてありふれた構成であるから,このような要件の有無は,特段の作用効果を奏
するものではない。そして,本件発明の実施例等,本件明細書(甲2)の記載を参
酌しても,取水スクリーンが簀の子状断面を呈する溶接構造に形成されることが説
明されている(段落【0011】,【図2】)ものの,それ以外,取水器本体の大
きさ,材料,板部材の厚み等の限定は付されていない。
     したがって,相違点1に係る本件発明の構成について,当業者が適宜選
択し得る構成であるとした審決の判断は正当である。
   イ 原告は,ボックス形状の取水器を設置するに際して,設置現場で施工工
事して設置するか,前もって製造された構造物を現場に運んで設置するかも,当業
者が適宜選択し得ることではないと主張する。しかしながら,上記第2の2のとお
り,本件発明には,ボックス形状の取水器がコンクリート材料で製造されるものを
排除する限定はなく,一方,前もって製造された構造物を現場に運んで設置すると
の限定も付されていない。原告の主張は,本件発明の要旨に基づかない主張であ
り,採用することができない。
     審決は,上記のとおり,施工現場で施工工事して設置するか,前もって
製造された構造物を現場に運んで設置するかは,当業者が適宜選択し得ることであ
るとし,本件発明の要旨について,前もって製造された構造物を現場に運んで設置
することを要件としているかのように説示する部分があり,適切な説示とはいえな
いが,いずれにせよ,相違点1に係る本件発明の構成について,当業者が適宜選択
し得る構成であるとした審決の判断を左右するものではないから,原告の上記主張
は失当である。
  (2) 相違点2
    審決は,相違点2に係る本件発明の構成が格別の作用効果を奏するとも認
められないから,当業者が適宜採用し得る設計上の事項であると判断するところ,
本件発明の流入受け板の構成は,取水スクリーンとの関係において特段の限定が付
されていないから,これが格別の作用効果を奏すると認められない設計事項である
とする審決の判断は正当である。
    原告は,相違点2に係る構成が格別の作用効果を奏するかどうかは,本件
発明の他の構成と一体のものとして判断されるべきであると主張する。しかしなが
ら,他の構成と一体のものとして格別の作用効果を奏するかどうかは,取消事由4
(顕著な作用効果の看過)において検討されるべきものであって,相違点2の判断
において考慮されるべきものではないから,原告の主張は採用することができな
い。
  (3) 相違点3
    原告は,引用例1(甲4)の取水器はコンクリート工事で施工されたもの
であり,これがボックス形状として同一の技術内容と理解されるのは,図面上でボ
ックス形状及び取水という原理が同じだけで,技術的に相違点3に係る技術事項を
示すものではないと主張する。
    しかしながら,本件発明の取水器があらかじめ工場生産されたものに限定
されないことは上記(1)イのとおりであって,引用例1の取水器がコンクリート工事
で施工されたものであることは,これが相違点3に係る本件発明の構成につき開示
していることを,何ら否定するものではない。また,審決は,取水部の側面に取水
口を設ける構成を相違点3に係るものとするが,取水口がボックス形状である構成
を相違点3とするものではないから,引用例発明1(甲4)の取水部がボックス形
状かどうかを問題とする原告の主張は失当である。
  (4) 相違点4
    取水器を設置するに際しては,水利特性や規模等を考慮することは当然で
あり,これを河川幅全体ではなく取水用堰堤の凹所に設けて,河川幅の一部から取
水することは,当業者が適宜選択し得る設計事項であることは明らかであるから,
これと同旨をいう審決の判断は正当である。
    原告は,本件発明の相違点2に係る構成が格別の作用効果を奏するかどう
かは,本件発明の他の構成と一体のものとして判断されるべきであると主張する
が,相違点2と同様,相違点4についても,他の構成と一体のものとして格別の作
用効果を奏するかどうかは,取消事由4(顕著な作用効果の看過)において検討さ
れるべきものである。
 3 取消事由3(引用例の組合せに係る容易想到性の判断の誤り)について
   引用例発明1(甲4)は河床埋設型取水装置に係るもの,引用例発明2(甲
5)は渓流取水工に係るもの,引用例発明3(甲6)は河川からの取水工に係るも
の,引用例発明4(甲7)は渓流取水工に係るものであり,いずれも同一技術分野
の発明で,その技術事項を相互に適用可能なものであって,適用を阻害する要因も
うかがわれないから,引用例発明1~4を組み合わせることは,当業者にとって容
易に想到することができる。
   原告は,複数の引用例に基づいて発明の容易想到性を判断する場合には,引
用例を組み合わせる起因ないし動機付けがあるかどうかを基準とすべきであると主
張するところ,確かに,この主張は,一般論としては首肯することができる。しか
しながら,本件においては,上記のとおり,引用例発明1~4は,同一技術分野の
発明であり,その技術事項を相互に適用可能なものであるから,複数の引用例を組
み合わせる起因ないし動機付けがあるということができ,原告の主張は採用するこ
とができない。
   また,原告は,引用例発明1~4が課題,作用効果等において本件発明と全
く異なると主張するが,複数の引用例を組み合わせることが当業者にとって容易想
到かどうかは,引用例自体から判断されるべき事項であって,本件発明と課題,作
用効果等が共通するかどうかを問題とすべきではないし,仮に,これを問題とする
としても,本件発明は,表流水の背面取水装置であって,引用例発明1~4と同一
技術分野の発明であるから,課題等を共通にするというべきである。
 4 取消事由4(顕著な作用効果の看過)について
   原告は,本件発明について,持ち運びが簡単で極めて容易であり,また,工
場生産して現場に持ち込んで容易に設置し得るため,小規模工事で済み,工事コス
トを低廉に抑え得る,水田の水路の各部にも設置して水田毎に水の供給が可能であ
る等の本件発明特有の顕著な作用効果を奏すると主張する。しかしながら,本件発
明は,その構成上,取水装置の大きさ,重量等について何ら限定を付したものでは
ないから,持ち運びが簡単で極めて容易であることが本件発明の作用効果であると
いうことはできないし,工場生産して現場に持ち込んで容易に設置し得ることが本
件発明の構成から導かれないことも上記のとおりである。また,取水器をボックス
形状とすることにより,格別の作用効果が奏されるというべき根拠も見当たらな
い。したがって,原告の主張は採用の限りではない。
 5 取消事由5(商業的成功を参酌しない違法)について
   原告は,本件発明の実施品のカタログ(甲11)には,本件特許出願時の技
術水準では市場に提供されなかった技術的事項及び優れた技術的効果が説明されて
いるが,このような技術的効果を奏する競合製品は皆無であったため,当業界で歓
迎され独占的な商品となったという商業的成功は,本件発明の作用効果が顕著であ
ることを示すものであるとした上,審決は,本件発明の進歩性を判断するに際し
て,この商業的成功の事実を参酌しない違法があると主張する。
   しかしながら,上記のとおり,本件発明の奏する顕著な作用効果として原告
の主張するものは,いずれも,本件発明の構成が奏する効果とは認められない上,
原告が主張する本件発明の実施品のカタログ(甲11)には,流水受け板の左右両
側位置に跳水防止ガイドが設けられているなど,本件発明の改良発明である本件明
細書の特許請求の範囲【請求項2】~【請求項8】記載の発明の実施品である可能
性が高いのであるから,商業的成功を本件発明の進歩性の判断において参酌すべき
ことをいう原告の主張は採用することができない。
 6 そうすると,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消
すべき瑕疵は見当たらない。
   よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のと
おり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官   篠   原   勝   美
            裁判官   岡   本       岳
            裁判官   長   沢   幸   男

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我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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