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平成12年(ワ)第21863号 特許を受ける権利の確認請求事件
口頭弁論終結日 平成13年10月15日
              判       決  
  原         告    X
訴訟代理人弁護士    菊池祐司
  被         告    株式会社日本システムデザイン
  被         告    Y
被告ら訴訟代理人弁護士    辻     惠
同              藤田正人
同              三浦亜砂子
              主       文  
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
 原告が,別紙目録記載の発明について特許を受ける権利を有することを確認
する。
第2事案の概要
 原告は,被告らに対し,原告が後記「マイクロ波インダクタコイル」に係る
発明をし,被告らに特許を受ける権利を承継させたことはないとして,原告が特許
を受ける権利を有することの確認を求めた。
1前提となる事実(証拠を示した事実以外は当事者間に争いがない。)
(1) 原告は,平成2年1月から平成7年8月までの間,東芝ライテック株式会
社(以下「東芝ライテック」という。)に勤務し,コイル等の高周波部品の開発に
携わったが,その後退職し,現在は,電子回路,電子部品の開発,設計を業とする
会社の代表者である。
 被告株式会社日本システムデザイン(以下「被告会社」という。)は,電
子計算機の導入,運用,管理に関するコンサルテーション業務等を営む会社であ
り,被告Yはその代表者である。被告Yと原告とは大学時代に知り合い,原告は,
昭和63年の被告会社設立の際,被告Yの依頼によりその発起人の一人となり,そ
の後の増資の際にも出資をした。
 原告は,平成8年9月30日付けで被告会社の非常勤取締役に,平成9年
12月1日付けでその常勤取締役に就任して取締役の報酬を受領していたが,平成
10年9月25日に取締役を辞任し,同月30日に被告会社を退社した(原告が平
成8年9月30日より前に被告会社の嘱託としてその業務に従事し,報酬を受領し
たかについては争いがある。)。
(2) 別紙目録記載の発明(以下「本件発明」という。)について,以下の特許
出願(以下「本件特許出願」という。)がされた。
 発明の名称    マイクロ波インダクタコイル
 出願番号    特願平8-142773
 出 願 日  平成8年6月5日
 出 願 人    株式会社日本システムデザイン
 発 明 者    X
 発 明 者    Y
 特許請求の範囲
【請求項1】 線径が20~200μmの絶縁被覆金属導体細線を,隣接
する当該絶縁被覆金属導体細線同士が当接するようコイル状に密着巻回してなり,
両端に前記被覆絶縁金属導体細線の1又は数巻分被覆絶縁を剥離して形成された基
板実装用の半田付け端子部を有するコイル部本体と,磁性体からなり,前記コイル
部本体内に配設されたコア部とを具備したことを特徴とするマイクロ波インダクタ
コイル。
【請求項2】 請求項1記載のマイクロ波インダクタコイルにおいて,少
なくとも数十ナノヘンリのインダクタンスを有し,かつ,寄生成分のキャパシタン
スの増大を制御することにより,自己共振周波数が1GHz以上となるよう構成さ
れたことを特徴とするマイクロ波インダクタコイル。
【請求項3】 請求項1記載のマイクロ波インダクタコイルにおいて,前
記絶縁被覆金属導体細線の絶縁被覆材として,基板に実装する半田付けの際の温度
に応じた耐熱性を有する絶縁被覆材を選択することにより,基板に実装する半田付
けの際に,当該絶縁被覆材に,剥離,変形,炭化等の変化が生じないよう構成した
ことを特徴とするマイクロ波インダクタコイル。
【請求項4】 請求項1記載のマイクロ波インダクタコイルにおいて,前
記コア部が両端部より中央部の径が太くなるよう形成されていることを特徴とする
マイクロ波インダクタコイル。
【請求項5】 請求項1記載のマイクロ波インダクタコイルにおいて,前
記コア部の両端周縁の角部が,曲線状若しくは直線状に面取りされた形状とされて
いることを特徴とするマイクロ波インダクタコイル。
(3) 本件発明は,原告が発明した(ただし,原告が単独で発明したか,いつ発
明したかについては,争いがある。原告は,東芝ライテック在職中の遅くとも平成
5年5月ころまでに,デジタル携帯電話用の高周波ハイブリッドIC及びこれに必
要な小型のチョークコイルの開発の過程で,本件発明を完成したと主張し,被告ら
は,本件発明は,原告が被告会社に嘱託として就職した後に,被告Yと共同で発明
したと主張する。)。
(4) 原告は,平成9年10月20日,被告会社から200万円を受領した(金
員受領の趣旨については争いがある。)。また,被告らと原告は,平成11年6月
8日,被告Yは,原告が有する被告会社の株式を450万円で譲り受けること,原
告は被告会社の有する製品その他に関する正当な権利を侵害せず,被告会社は原告
に50万円を支払うこと,被告らと原告は他に一切の債権債務のないことを確認
し,相互に一切の請求をしないことなどを約する旨の合意書を作成した(乙5)。
2 争点(特許を受ける権利の承継の有無)
 本件発明は,原告が被告会社に嘱託として就職した後,その業務の過程で被
告Y及び原告が共同して発明した職務発明であり,被告会社は,特許を受ける権利
を,就業規則27条の規定により承継取得したか(抗弁)。
(被告らの主張)
(1) 原告は,平成7年10月1日以降,被告会社の嘱託として電子部品の開発
を行った。本件発明は,被告Yと原告が,被告会社の業務研究の過程で共同で発明
した職務発明であり,被告会社の就業規則27条2項に基づき,被告会社が,特許
を受ける権利(共有持分)を承継取得した。
(2) 原告は,平成9年10月20日,本件特許に関し,職務発明に対する報奨
金として200万円を受領した。また,被告会社を退社した後,平成11年6月8
日に,原告と被告らの間には他に一切の債権債務の存しないことを確認する合意書
を作成した。これらの事実からも,原告が特許を受ける権利(共有持分)を被告会
社に移転する意思が存在したことは明らかである。
(原告の反論)
(1) 否認する。
 本件発明は,原告が被告会社に就職する前の平成5年5月までに,単独で
発明した。被告Yは本件発明に関与していない。
 平成8年9月30日以前に原告が被告会社の役員,従業員又は嘱託となっ
たことはなく,特許を受ける権利を被告会社に譲渡したこともない。原告が平成9
年10月20日に被告会社から受領した200万円は,職務発明に対する報奨金で
はなく,役員賞与である。
(2) 本件特許出願の経緯は,以下のとおりである。原告は,東芝ライテック在
職中に本件発明をした。東芝ライテックは,本件発明について,その一部が他社の
特許出願に抵触するおそれがあることから,これを商品化しないことを決定した。
ところが,松下電子工業株式会社(以下「松下電子」という。)が,原告の開発し
た小型チョークコイルの購入を希望したので,原告は,東芝ライテック在勤中であ
るけれども,その製造を第三者に委託し,被告会社を通じてこれを松下電子に販売
するように図った。原告は,東芝ライテックを退職した後,本件発明に類似する発
明について特許出願が行われることを阻止する目的で,特許出願のみを行って審査
請求は留保することを考え,被告Yに説明して特許出願に必要な書類を作成した。
ところが被告らは,原告に無断で出願人を被告会社とし,被告Yを共同発明者に加
えて,平成8年6月5日に本件特許出願をした。
第3争点に対する判断
1 原告が本件発明をした(被告Yと共同で発明したか否かはさておき)ことに
ついては,当事者間に争いがない。そこで,本件発明は,原告が被告会社に嘱託と
して就職した後,原告が職務を行う過程で発明した職務発明であって,被告会社
は,就業規則27条の規定により,特許を受ける権利を承継取得したか否かについ
て検討する。
2 まず,本件発明がされた時期,経緯について検討する。
 前提となる事実,証拠(甲1ないし4,28,32,34ないし36,3
7,39ないし45,乙1ないし3,6ないし16,18ないし22及び本文中記
載のもの。ただし,甲28,32,34ないし36,37のうち下記認定事実に反
する部分は採用しない。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定すること
ができる。
(1) 東芝ライテック在職中の原告の就業状況
ア 原告は,大学卒業後,東京無線器材株式会社に就職し,約10年間電子
回路技術等の研究に従事した後,平成2年1月に東芝ライテックに転職し,同社に
おいて,小型チョークコイルや超小型ハイブリッドICの研究等に従事した。原告
が東芝ライテックに在職した期間中,東芝ライテックを出願人とし,原告を発明者
(共同発明を含む。)とする多数の特許出願がされた(甲5ないし13,20,2
1)。
イ 原告は,平成3年11月ころまでに,円柱型のフェライトコア,メルフ
型抵抗又は円柱型のチップ抵抗に被覆銅線を巻回してその両端1ターン分の被覆を
剥離し,半田メッキをして電極を形成した高周波チョークコイルを発明した。原告
が,東芝ライテックの知的財産権の担当部署に,同発明が他社の特許に抵触するか
の確認を求めたところ,前記発明は,株式会社村田製作所(甲24)及び株式会社
東芝(甲25,26)が既に出願した特許発明に抵触する可能性があり得ると判断
された(甲22,23)。
 東芝ライテックは,ポリウレタンの被覆銅線又は高耐熱被覆銅線を用い
て形成したコイルにフェライトコア又はセラミックコアを内蔵し,コイルの両サイ
ドほぼ1ターン分を半田メッキの実装端子とした高周波チョークコイル(品番RF
CM332-11,RFM332-12,RFF602-12)を商品化し,平成
4年4月版及び平成5年7月版の同社のパンフレット(甲29,31)に掲載した
りした。しかし,その後,東芝ライテックは,前記高周波チョークコイル(品番R
FM332-12,RFF602-12)の販売を打ち切ることを決定した。
 原告は,被告Yに対し,東芝ライテックの替わりに被告会社が前記高周
波チョークコイルの製造販売を継続するよう要請した。被告会社は,原告の要請を
受けて,平成6年6月ころから,高周波チョークコイルの販売を行うための打合せ
を行い,東芝ライテックより製品カタログ,サンプル写真及び製品を受領し,東芝
ライテックのために製造を行っていた株式会社内田製作所(以下「内田製作所」と
いう。)に製造を委託して,高周波チョークコイル(品番RFM332-10-
2,RFF602-10-2)の販売を開始した。原告は,東芝ライテック在勤中
であったが,この事業の監修を行い,取引先の拡大や製造に関する打合せを行っ
て,被告会社に指示や助言を与えたり,販売活動を行ったりした。
ウ 前記高周波チョークコイルについては,東芝ライテックが販売していた
ころから,フェライトコアがコイルから抜けてしまう問題(以下「コア抜け」とい
う。)が指摘されていた。平成6年6月末ころから平成7年11月ころまでの間,
被告会社,内田製作所及び原告は,その解決策について検討を重ねた。コア抜けの
原因は,フェライトコアを固定する揮発性の接着剤が,フロン洗浄の際に消失する
ことであることなどが指摘され,内田製作所で解決を図ることとされた。平成6年
7月ころ,被告会社は,日本電子機材株式会社を介して,松下電子の使用する高周
波チョークコイルの注文を受けたが,依然としてコア抜けが解決されず,在庫品は
使用できなかった。
エ 平成6年7月ころの被告会社と原告との検討では,洗浄しても取れない
接着剤を使用する,コイルをきつく巻く,コイルの巻数を増やす,基盤に接着する
段階でハンダを多めに乗せ,コイルの両端を盛り上がらせて抜けないようにする,
コイルの両端を曲げて抜けないようにする,コイルの巻数を13回にし,両端の円
周の重なり部分を5分の1程度にすることなど,様々な方策が提案がされた。ま
た,同年10月の被告会社と内田製作所との検討では,フェライトコアの表面を滑
らかにすること,フェライトコアの形状を樽型にすることなどの方策が提案され
た。さらに,同年11月の検討では,フェライトコアの角取りを行ったところ,コ
イルに挿入しやすくなり,両側が削れた分,真ん中が盛り上がるので,多少抜けに
くくなったことが報告された。
オ 平成7年3月末ころ,松下電子から被告会社に対し,従来製品と比較し
て,直径及び長さをいずれも半分程度に縮めた小型の高周波チョークコイルの試作
及び量産化についての打診があった。原告は,被告会社に対し,ワイヤの径や製品
の用途を確認すべきこと,被告会社が製造元を決めるべきであることなど積極的な
助言をした。
 被告会社においては,同年4月以降,小型高周波チョークコイルについ
て,松下電子が要求する長さ,径,インダクタンス,自己共振周波数,抵抗値等を
実現できるかについての検討を行った。また原告は,技術的な事項について被告会
社と打合せをするほか,フェライトコアのメーカー等との交渉を行った。
カ 松下電子は,前記打診の際,被告会社に対し,洗浄工程でフェライトが
取れないようにする技術の完成時期を確認し,その技術を使用した量産化を希望し
た。被告会社は,平成7年4月ころ,中央を太くした樽型又はフットボール型のフ
ェライトコアの製造を検討したが,フェライトのメーカーから無理であるとの回答
を得た。同年6月ころには,コイルのメーカーとの間で,コア抜けを防止するため
の工夫として,自己融着線を使うことや,コイルの巻終わり部分を少し内側へ入れ
込む方法等を検討した。同年9月には,コイルの製作を発注した西北電気機器株式
会社(以下「西北電気」という。)との間でも,コア抜けについて検討した。
 また,被告会社は,平成7年4月ころから,コイルの銅線被覆の材質に
ついても検討を行い,同年5月,被告会社が納品した小型高周波コイルの試作品に
ついて松下電子が検査を行ったところ,被覆が損傷したことから,ポリウレタン銅
線ではなく,耐熱性の高いポリエステル銅線を使用することとした。
(2) 被告会社在職中の原告の就業状況
ア 原告は,平成7年8月末,東芝ライテックを退職し,高周波機器及び部
品の設計販売等を業とする会社の業務に従事したが,これと並行して,同年10月
1日付けで被告会社の嘱託として勤務することとなり,システム営業部第1営業グ
ループのグループリーダーとして,月額30万9000円の報酬を受けるようにな
った(前記報酬は,平成8年3月分まで,原告の妻に対する外注加工費の名目で支
払われた。)。
 平成7年11月には,被告会社は,新たに開発した小型高周波チョーク
コイル(商品名RFチョークコイル601-9-4)が松下電子の携帯電話の回路
部品に採用され,販売数が増加したことなどから,西北電気に対して,コイル製作
の自動化を進めさせ,また,フェライトコアの精度上の問題から,製造メーカーの
変更を行うなどしたが,原告は,被告会社の営業部長の肩書きで,これらの業務を
行った。
イ 被告会社は,平成8年3月15日,東京都知事に対し,中小企業の創造
的事業活動の促進に関する臨時措置法に基づき,移動体通信市場向け「マイクロ波
インダクタ・コイル」の開発について,研究開発等事業計画の認定申請を行った。
同申請書中の技術的記載事項は,原告の知見に基づくものであり,研究開発等事業
の実施者として,原告らの名が記載されている。上記申請に対しては,同年4月2
6日付で,東京都知事の認定がされた。
 また,被告会社は,前記認定を受けて,同年5月9日,東京都知事に対
し,創造的技術助成金800万円の交付申請を行った。同申請書中の技術的記載事
項も,原告の知見に基づくものであり,同申請書中には,主任研究員として,原告
の名が記載され,平成7年より被告会社に在勤しているとされている。
ウ 被告会社は,前記助成金の交付を受けるためには,本件発明について特
許出願を行った方が有利であると考えた。平成8年4月ころから,原告は被告会社
のために,出願明細書の原案を作成したり,図面の下書きをするなどして出願の準
備を進めた。原告は,出願事務を担当するサクラ国際特許事務所との間で打合せを
行ったり,ファクシミリを交換するなどして明細書案の訂正,修正を重ね,同年6
月5日,本件特許を出願した。なお,原告は,サクラ国際特許事務所との打合せ等
において,被告会社の開発技術部長の肩書きを使用した。
 原告は,明細書案を作成するに当たり,東芝ライテックから問題視され
ることのないよう,発明の名称を「高周波チョークコイル」ではなく「マイクロ波
インダクタコイル」とし,特許請求の範囲の記載についても,東芝ライテックにお
ける出願と表現を変えた。
エ 原告は,平成8年9月30日付けで被告会社の取締役(非常勤)に就任
し,同年10月1日には,被告会社システム営業部技術担当部長を委嘱された。原
告は,被告会社の非常勤取締役として,平成8年10月分から平成9年6月分まで
は月15万円,同年7月分から同年11月分までは月20万円の報酬を受け,これ
とは別に同年10月20日に,200万円の支給を受けた。
 原告は,同年12月1日,被告会社の常勤取締役に就任し,同月分から
平成10年6月分までは月60万円,同年7月分から9月分までは月30万円の報
酬を受けたが,同年9月25日には被告会社の取締役を辞任し,同年10月1日付
けで被告会社を退職した。
 被告らと原告は,平成11年6月8日,原告の有する被告会社の株式の
譲渡及び被告らと原告の間の紛争の解決に関し,概要以下のとおり合意した。
① 原告は,被告Yに対し,原告の有する被告会社の株式(株式数合計9
0株)を金450万円で譲渡し,被告Yはこれを譲り受ける。
② 原告は,被告会社に対し,被告会社が有する製品その他に関する正当
な権利を侵害する行為を行わないことを約し,被告会社は,原告に対し金50万円
を支払う。
③ 被告らと原告は,被告らの業務,原告又は原告が従事する会社の業務
に関し,相互に相手方の営業上の信用を害する虚偽の事実告知等をしない。
④ 被告らと原告は,本合意書に定める事項により,被告らと原告との間
の諸問題はすべて解決されるものであり,他に一切の債権債務のないことを確認す
る。被告らと原告は,名目の如何を問わず,相互に一切の請求をしない。
(3) 本件発明と後記原告ライテック発明との対比
ア 前記(1)で認定したところによれば,原告が,東芝ライテック在職中,両
端の銅線の被覆を剥離して半田付け接続部を形成することで,そのまま基盤に実装
することのできる小型の高周波チョークコイルを開発し,RFCM332-11,
RFM332-12,RFF602-12として商品化したこと,その構成は,東
芝ライテックの知的財産権担当部署により先行発明に抵触するとされた甲22,2
3記載の高周波チョークコイルとほぼ同一であることが認められ,前掲各証拠によ
れば,原告を発明者とする東芝ライテックの特許出願のうち,高周波チョークコイ
ルに関係するものとしては,甲13,20及び21に記載されたものがあることが
認められる(これら,原告が東芝ライテック在職中にした発明を,以下「原告ライ
テック発明」と総称する。)。
イ 本件発明中請求項1の発明は,絶縁被覆銅線の両端の1又は数巻分の絶
縁被覆を剥離するものであり,また,絶縁被覆金属導体細線の線径を限定している
のに対し,原告ライテック発明は,おおむねコイル両端の1巻分の被覆を剥離して
半田付け部とすること,絶縁被覆金属導体細線の線径を限定していない点において
相違する。
ウ 請求項2の発明は,インダクタンス及び自己共振周波数に限定が加えら
れているのに対し,原告ライテック発明は,限定をしていない点において相違する
(この範囲に入る製品(RFF602-12),入らない製品(RFCM332-
11,RFM332-12)が存在する。)。なお,前記のとおり,被告会社と原
告は,平成7年4月以降においても,松下電子の依頼に基づいて,小型高周波チョ
ークコイルを開発する過程で,同社が要求するインダクタンス及び自己共振周波数
を実現するため,様々な検討を加えている。
エ 請求項3の発明は,半田付けの際の温度に応じた耐熱性を有する絶縁被
覆材を選択するものであるのに対し,原告ライテック発明には,同構成を採用した
ものはない(東芝ライテックの製品の一部には,高耐熱被覆の銅線が使用されてい
るが,これが「半田付けの際の温度に応じた耐熱性」を有するかは明らかでな
い。)。なお,前記のとおり,被告会社及び原告は,平成7年4月以降において
も,小型高周波チョークコイルの銅線被覆の材質についての検討を加えたり,検査
の際に被覆が損傷したことから,耐熱性の高いポリエステル銅線を使用するに至っ
たという経緯がある。
オ 請求項4の発明は,両端部よりも中央部の径が太くなるよう形成される
という構成を採用することにより,コアをコイル本体に挿入し易くし,かつ,コア
抜けを防止しようとするものであり,また,請求項5の発明は,コア部の両端周縁
の角部が,曲線状若しくは直線上に面取りされた形状とされるという構成を採用す
ることにより,コアをコイル本体に挿入し易くし,かつ,より確実に強固に半田付
けにより固着しようとするものである。これに対し,原告ライテック発明には,同
構成を採用したものは存在しない。
この点,甲34ないし甲37には,原告は,コア抜けを防止するため
に,フェライトコアを研磨して表面を滑らかにし,角の面取りをするという方法を
東芝ライテック在勤中に想到したこと,セラミック製のメルフ抵抗はそれ自体が樽
型になっているため,押し込むと抜けにくいことから,原告は,東芝ライテック在
勤中に,フェライトコアを樽型にできないかとメーカーと交渉したことが記載され
ている。しかし,前記のとおり,平成6年6月ころ,被告会社が高周波チョークコ
イルを販売するに当たり,依然としてコア抜けの問題点が存在し,その解決案とし
て,フェライトコアに研磨をかけることやコアの形状を樽型にすることなどの試み
がされていたことに照らすと,原告が,それ以前に,請求項4及び5の発明を完成
していたとする前記陳述記載は不自然であり,採用することはできない。
カ 以上のとおり,本件発明と原告ライテック発明とを対比すると,前者は
新たな構成を付加したりしている点で相違する。これは,被告会社の嘱託である原
告が,原告ライテック発明との抵触を回避するために限定を加えたり,被告会社で
検討をしている過程で解決手段に想到したためであると認められる。
(4) 総括
 以上の認定した事実を総合すると,本件発明は,原告が被告会社に嘱託と
して就職した後に,被告会社の業務である小型高周波チョークコイルの製造,販売
及び営業上の必要から発明したものであることが明らかであり,原告が,東芝ライ
テック在職中の遅くとも平成5年5月ころまでに,これを発明していたと認めるこ
とはできない。
3 次に,被告会社が特許を受ける権利を適法に承継したか否かについて検討す
る。
(1) 前掲各証拠及び前記認定事実によれば,以下のとおりの事実が認められ
る。
ア 被告会社の就業規則27条には,特許及び登録に関して,次のように規
定されている。
① 社員が特許・・・を受けようとするときは,予め会社に申し出て承認
を得なければならない。
② 前項の場合,その性質が会社の業務範囲または研究事項に属し,その
発明考案が業務上得られたものであるときは,その特許・・・を受ける権利は全て
会社に帰属するものとする。
③ 前項の規定により会社が特許・・・を受け,会社に顕著な利益を与え
たときは,相当の報奨金を支給する。
イ 原告は,平成7年10月1日付けで被告会社の嘱託として勤務したが,
システム営業部第1営業グループのグループリーダーとして,小型高周波チョーク
コイルの量産化のために,積極的な業務活動を行った。
ウ 被告会社は,平成8年4月ころ,東京都からの助成金を得るには,本件
発明について特許を出願することが有利であると判断したが,原告は,被告会社の
ために,開発技術部長の肩書きを使用して,自ら,出願明細書の原案を作成した
り,図面の下書きしたり,特許事務所と打合せを行ったりして,明細書案の訂正,
修正を重ね,本件特許出願の準備を積極的に行った。
エ 原告は,平成8年9月30日付けで被告会社の取締役(非常勤)に就任
し,同年10月1日には,被告会社システム営業部技術担当部長を委嘱された。原
告は,被告会社の非常勤取締役として,平成8年10月分から平成9年6月分まで
は月額15万円,同年7月分から同年11月分までは月額20万円の報酬を受け,
これとは別に同年10月20日に,200万円の支給を受けている。また,同年1
2月1日,被告会社の常勤取締役に就任し,同月分から平成10年6月分までは月
額60万円,同年7月分から9月分までは月額30万円の報酬を受けている。
 以上認定した事実を総合すれば,原告は,被告会社のために,本件発明に
ついて,明細書案を作成して特許事務所と打合せをするなど,本件特許出願手続を
中心的に進めていたと認められ,このことに照らすならば,原告は,平成8年4月
ころ,就業規則27条の規定により,本件発明に関する特許を受ける権利を,被告
会社に承継させることを承諾したと認めるのが相当である。
(2) 原告は,本件特許出願当時,被告会社の役員,従業員又は嘱託のいずれで
もなく,また,特許を受ける権利を被告会社に譲渡することを承諾したことはな
く,さらに,原告が平成9年10月20日に被告会社から受領した200万円は,
職務発明に対する報奨金ではなく,役員賞与である旨主張する。
 しかし,前記のとおり,本件特許出願当時,原告は,被告会社の嘱託とし
て(乙1によれば就業規則は嘱託にも準用される。),高周波チョークコイルの開
発,量産化という被告会社の業務に従事していたことが認められる。また,被告会
社から200万円の支給を受けたとき,原告は被告会社の非常勤取締役として月額
15万円の報酬を受けていたが,嘱託,非常勤取締役,常勤取締役の期間を通じ
て,原告が,特別の金員の支給を受けたことは,これ以外にはないのであって,こ
れを通常の役員賞与と解するのは不自然であり,本件発明について特許を受ける権
利を譲渡したことに対する対価と考えるのが合理的である。
4 結論
 以上のとおり,本件発明は,原告が被告会社に嘱託として就職した後,原告
が職務を行う過程で発明した職務発明であって,原告は,被告会社が,特許を受け
る権利を承継取得することを承諾していたと認めることができる。したがって,原
告の請求は理由がない。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官    飯村敏明
裁判官谷 有恒
裁判官佐野 信
目   録
発明の名称    マイクロ波インダクタコイル
出願番号    特願平8-142773
出 願 日  平成8年6月5日
公開番号    特開平9-326317
公 開 日    平成9年12月16日

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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