弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
(当事者の求める裁判)
一 原告
(一) 被告が兵庫県地労委昭和四〇年第五、第六号不当労働行為申立事件につい
て昭和四〇年一一月二四日付でした命令の内主文第一項(原告は労働組合総評議会
全国金属労働組合兵庫地方本部大和製衡支部の組合員A、同B、同C、同D、同
E、同F、同Gが右大和製衡支部の組合大会及び青年婦人部大会に出席するため原
告会社構内に入場することを禁止してはならない。)を取消す。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文同旨。
(原告の請求原因)
一 被告は、申立人右大和製衡支部(以下訴外組合と称する)被申立人原告間の兵
庫県地労委昭和四〇年(不)第五、第六号不当労働行為申立事件について、昭和四
〇年一一月二四日付で前記のとおりの主文第一項を含む救済命令を発し、同命令書
は同月三〇日原告に交付された。
二 右事件は、原告が右Aら七名が職場における集団暴力行為のため懲戒解雇され
従業員たる身分を失つたことを理由として同人らの会社構内への入場を拒否したと
ころ、訴外組合は組合員である同人らが組合活動のために構内に入場するのを拒否
し構内における組合活動を妨害するのは組合運営に対する支配介入となり不当労働
行為であるとして被告に救済を申立てたものである。
三 被告は、右命令において解雇の理由の当否とは別に構内入場の当否を判断し得
るとして、次のとおり認定判断した。
(一) 日本的特殊事情として、使用者はその企業の経営管理上の秩序を害しない
限り従業員の事業所内における組合活動を認めなければならないという慣行が一般
に承認されている。
(二) 原告会社においても、従来より組合はその活動を会社構内で行ない、組合
大会その他組合の制度的会合を会社構内のホールや広場など一定の場所で開催し、
また休憩時間その他就業時間外に各職場で随時自由に職場集会を開く慣行がある。
(三) 解雇によつて従業員たる身分を失つた者であつても、組合の自主的規範に
より組合員たる資格が認められる限り組合活動のため会社構内に入場する権利を有
し、会社がこれを阻止するときは施設管理権の濫用であるのみならず組合への支配
介入となり不当労働行為を構成する。
四 しかしながら、右命令は組合規約及び労働組合法の基本的解釈、事実の認識を
誤つた不当かつ不法なものである。
(一) 右命令は、被解雇者の構内入場の当否を解雇の理由の当否ではなく組合員
たる資格の有無にかからせ、Aらの組合員資格を認めているが、それは誤つてい
る。
 命令のいう組合の自主的規範とは組合規約を指すものと解されるが、訴外組合の
組合規約第四条は、「組合は原告会社の従業員で構成する。」と定め、従業員であ
ることが組合員たる資格の唯一の要件であることを定めているのであるから、従業
員たる身分を喪失すれば同時に組合員たる資格をも失うのは当然の理であり、第九
条が退職したときは組合員たる資格を失う旨定めているのはそれを明確にしたもの
である。
 なお規約第八条は、「組合の認めない理由によつて資格を奪われることがな
い。」としているが、これは後に続く九条、一〇条の具体的規定の前文として、こ
れらの保証を理念的に宣言した抽象的規定にすぎない、すなわち、第九条によつて
認めた理由以外の理由により資格を奪われることはないという趣旨に解すべきであ
る。
 従つて訴外組合の組合員資格の有無は従業員たる身分の有無を離れて判断するこ
とはできないものと解されるから、組合員たる資格を構内入場の根拠とすることは
できない。
(二) 命令のいう労使慣行の意義が必ずしも明らかでないが、使用者のみが服従
しなければならない慣行という限り、それは慣習法の性質を指すものと言わねばな
らない。命令はこの慣行をいかなる根拠に基づいて認定したのか何も示しておら
ず、独断と解するほかない。
 また原告会社内の慣行を認定しているが、たまたまそのような事例があるとして
も、それが会社の義務として承認しなければならない慣行として成立していない。
 仮りに右の慣行が存するとしても、命令のいうのは、その文言にもあるとおり、
いずれも従業員たる身分を有する者が組合活動をする場合のことであつて、従業員
たる身分を失つた者が会社構内で組合活動をすることの根拠とすることはできな
い。
五 以上のとおり、被告はAらに対する解雇の理由の当否を判断したうえで命令を
出すべきであるにもかかわらず、その判断をすることなく、原告のなした被解雇者
の構内入場拒否を禁止した命令は不当かつ不法であるから、その取消を求める。
(被告の認否及び主張)
一 請求原因第一ないし第三項の事実は認める。
二 同第四項は争う。本件命令は適法である。
(一) 従業員たる身分と組合員たる資格とは本来別個のものであり、解雇により
従業員たる身分を失つた者であつても、組合員たる資格を有する限り、会社構内で
開催される制度的な組合の会合に参加することや、その者が組合役員であれば団体
交渉に出席するなどの組合活動をなし得るのは当然であるから、使用者がそれを妨
害すれば不当労働行為を構成するのはこれまた当然である。従つて組合員資格が認
められる限り、解雇の理由の当否を判断することなく構内入場の当否を判断でき
る。
(二) 訴外組合の規約第四、第九条を根拠にして従業員たる身分のあることを組
合員資格の必須の要件と解するのは、第八条を含めた同規約全体の合理的解釈とは
いえない。第八条は組合が認めない解雇すなわち従業員たる身分の喪失が当然に組
合員たる資格の喪失に結びつかないための予防手段とみるのが労働組合の本質から
みて素直な解釈である。従つて第四、第九条のような規約を有する訴外組合におい
ても、少くとも被解雇者や組合が当該解雇を不当労働行為として争つている限り、
被解雇者も組合員たる資格を失うものではないと解すべきである。けだし、そう解
さないと労働関係の終了という重大な結果を招来する解雇について、組合員として
組合の保護を受け得ないこととなり、労働組合の本質に反するばかりでなく、使用
者が解雇を利用して組合に対する支配介入ができることになる。また解雇が無効で
あれば従業員たる身分及び組合員たる資格を保有しているわけであるから、解雇の
効力の確定をまつて組合員資格を終了させることが法律関係を明確ならしめるから
である。
(三) 被解雇者が組合活動のために会社構内に入場できるかについては、従来の
組合活動が企業外で行われ、組合事務所も構内にない場合は別に考える余地があ
る。そのために労働慣行が判断の対象となるのである。我国のように企業別組合の
場合は、原則として、組合活動は企業施設を利用して行われるのが慣行となつてい
る。従つて会社はその従業員を中心として構成せられた組合が一定の範囲内におい
て企業施設を利用して組合活動をするのを認容すべきである。そうでないと組合活
動は停止し麻痺してしまうからである。
(四) 被告は原告会社においても従来から右のような慣行があるものと認めたの
であり、被解雇者の組合員資格が前述のごとく認められる以上、従来どおりの組合
活動は承認されるべきであると判断して、原告はAらが組合大会などに出席するた
め会社構内に入場するのを禁止してはならない旨の命令を発したものである。従つ
て本件命令には何ら不法不当なものはない。
(証拠省略)
       理   由
一 被告が訴外組合と原告間の兵庫県地労委昭和四〇年第五、第六号不当労働行為
申立事件について昭和四〇年一一月二四日付で救済命令を発し、右命令は同月三〇
日原告に交付されたこと、右事件は、原告がAら七名に対し、同人らが解雇された
ことを理由として会社構内への入場を拒否したので、訴外組合が被告に救済申立を
したものであること、被告は右命令において解雇の当否を判断することなく、被解
雇者であつても訴外組合の自主的規範により組合員たる資格が認められることを理
由として、原告はAらが組合大会等に出席するため会社構内に入場するのを禁止し
てはならない旨の命令を下したこと等の各事実は当事者間に争いがない。
二 被解雇者であつても、組合員たる資格を有する限り、組合活動に参加し得るこ
とは認められなければならない。原告は、Aら被解雇者の会社構内入場の当否を判
断するには解雇の当否を判断しなければならないと主張するが、その理由とすると
ころは、訴外組合の自主的規範である組合規約によれば、被解雇者は組合員たる資
格を失うということであるから、被解雇者の組合員資格が問題である。
そこでまずその点を検討する。
(一) 訴外組合の組合規約(甲第一号証の一)には、第四条に、組合は原告会社
の従業員で構成する、第八条に、組合の認めない理由によつて資格を奪われること
はない、第九条に、組合員は次の各号の一に該当した時は資格を失う、(1)退職
した時、との規定があることは当事者間に争いがない。右第四条と第九条が表裏の
関係にあることは明らかで、それとの関係で第八条をいかに解するかが問題である
が、組合規約の形式、趣旨からみて、第八条は第九条と独立した規定ではなく、第
九条にかかる前文的抽象的規定と解するのが相当である。けだし、そう解しない
と、組合員資格の喪失には組合規約で定めた組合員資格の喪失事由に該当する他に
改めて組合の承認を必要とすることになり、その限りにおいて規約の具体的規定が
無意味になつてしまうばかりでなく、退職という資格喪失事由が確定した後におい
ても組合が不承諾を理由として組合員とすることもできることになつて、明らかに
規約第四条に反する結果となるからである。
(二) しかしながら規約第八条を右のように解するとしても、第四、第九条を解
雇の場合にそのまま適用することは問題である。被解雇者が解雇を承認している場
合は問題ないが、解雇を不当として争つている場合には、その者が組合員として組
合の保護を受ける最も大きな必要、利益があるにもかかわらずその保護を受けられ
なくなつてしまい、また組合もその解雇を不当と判断した場合にまでその者の組合
員資格を否定することは組合にとつて自縛行為となり、労働組合の本質に反するか
らである。組合規約のもつ自主的内部的規範たる性質からみて、右条項がそのよう
な結果を招来することを是認する趣旨とは解されない。まして解雇は告知により一
応その効力を生ずるが、不当労働行為として無効であることもあるのであるから、
少くとも解雇の効力が争われている場合には、その結論がでるまでの間組合員たる
資格を持ち得るとする趣旨を含むと解するのが相当である。従つてAらは訴外組合
の組合規約により組合員たる資格を認められる。
三 命令は、組合員資格の他に、労働組合は企業施設を利用して組合活動ができる
という労使の慣行及び原告会社においても訴外組合は従来より構内で組合大会など
を開いて来た慣行のあることを構内入場の当否の判断基準にしている。従来訴外組
合が会社構内で組合活動をしていなかつたのなら、組合活動をすることが構内入場
することに結びつかないからであるとしている。従来構内で企業施設を利用して組
合活動をして来たことは、特別の事情のない限り現在(判断の時点)においてもそ
の必要性があることを推測させるから、従来のやり方及び現在の必要性を考える意
味において妥当である。
 命令のいう「労使の慣行」は、それを使用者の義務とみるか、従来認容して来た
から暗黙の同意を与えたものと推定され理由なく破棄できないものと解するかは別
にして、企業内組合組織をとる我が国においては、原則として承認されているとい
えるし、「原告会社における慣行」も、それを慣行と呼ぶかどうかは別にして、そ
のようなことが行われていたことは成立に争いのない乙第八号証の三によつて認め
られるところである。
 従つて、解雇の当否を判断するまでもなく、訴外組合の組合員たる資格をもつA
らは組合大会などに出席するため原告会社構内に入場し得るものと認められるので
あり、原告においてそれを拒否することは、訴外組合に対する支配介入となり不当
労働行為を構成すると認められる。
四 以上のとおり、被告がAら七名の組合員資格を認め、訴外組合が従来原告会社
構内で組合大会など制度的会合を開いていたことを認定したうえで、従来どおりの
組合活動は認められるべきであると判断して発した本件命令には何ら違法不当は存
しない。
 よつて、原告の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事
訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 森本正 日野原昌 谷岡武教)

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