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平成29年(あ)第927号危険運転致死傷,道路交通法違反被告事件
平成30年10月23日第二小法廷決定
主文
本件上告を棄却する。
当審における未決勾留日数中430日を本刑に算入する。
理由
弁護人寺崎裕史の上告趣意は,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違
反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
所論に鑑み,本件における危険運転致死傷罪の共同正犯の成否について,職権で
判断する。
1第1審判決が認定した本件危険運転致死傷罪の犯罪事実の要旨は,以下のと
おりである。
被告人は,平成27年6月6日午後10時34分頃,北海道砂川市内の片側2車
線道路において,第1車線を進行するA運転の普通乗用自動車(以下「A車」とい
う。)のすぐ後方の第2車線を,普通貨物自動車(以下「被告人車」という。)を
運転して追走し,信号機により交通整理が行われている交差点(以下「本件交差
点」という。)を2台で直進するに当たり,互いの自動車の速度を競うように高速
度で走行するため,本件交差点に設置された対面信号機(以下「本件信号機」とい
う。)の表示を意に介することなく,本件信号機が赤色を表示していたとしてもこ
れを無視して進行しようと考え,Aと共謀の上,本件信号機が約32秒前から赤色
を表示していたのに,いずれもこれを殊更に無視し,Aが,重大な交通の危険を生
じさせる速度である時速約111kmで本件交差点内にA車を進入させ,その直後
に,被告人が,重大な交通の危険を生じさせる速度である時速100kmを超える
速度で本件交差点内に被告人車を進入させたことにより,左方道路から信号に従い
進行してきたB運転の普通貨物自動車(C,D,E及びF同乗)にAがA車を衝突
させて,C及びDを車外に放出させて路上に転倒させた上,被告人が被告人車でD
をれき跨し,そのまま車底部で引きずるなどし,よって,B,C,D及びEを死亡
させ,Fに加療期間不明のびまん性軸索損傷及び頭蓋底骨折等の傷害を負わせた。
2原判決は,被告人及びAが,いずれも,本件信号機の赤色表示を確定的に認
識し,又はそもそも信号機による交通規制に従うつもりがなくその赤色表示を意に
介することなく,自車を本件交差点に進入させたものとして,自動車の運転により
人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下「法」という。)2条5号にいう
赤色信号を「殊更に無視し」たことが推認できるとした上,被告人及びAは,本件
交差点に至るに先立ち,赤色信号を殊更に無視する意思で両車が本件交差点に進入
することを相互に認識し合い,そのような意思を暗黙に相通じて共謀を遂げた上,
各自が高速度による走行を継続して本件交差点に進入し,前記1の危険運転の実行
行為に及んだことが,優に肯認できるとして,前記1のとおりA車との衝突のみに
よって生じたB,C,E及びFに対する死傷結果を含む危険運転致死傷罪の共同正
犯の犯罪事実を認定した第1審判決を是認した。
3これに対し,所論は,本件のような事案においては,明示的な意思の連絡が
ない限り,危険運転致死傷罪の共謀は認められないというべきであり,原判決は刑
法60条の解釈を誤っているなどという。
4そこで検討すると,原判決が是認する第1審判決の認定及び記録によれば,
被告人とAは,本件交差点の2km以上手前の交差点において,赤色信号に従い停
止した第三者運転の自動車の後ろにそれぞれ自車を停止させた後,信号表示が青色
に変わると,共に自車を急激に加速させ,強引な車線変更により前記先行車両を追
い越し,制限時速60kmの道路を時速約130km以上の高速度で連なって走行
し続けた末,本件交差点において赤色信号を殊更に無視する意思で時速100km
を上回る高速度でA車,被告人車の順に連続して本件交差点に進入させ,前記1の
事故に至ったものと認められる。
上記の行為態様に照らせば,被告人とAは,互いに,相手が本件交差点において
赤色信号を殊更に無視する意思であることを認識しながら,相手の運転行為にも触
発され,速度を競うように高速度のまま本件交差点を通過する意図の下に赤色信号
を殊更に無視する意思を強め合い,時速100kmを上回る高速度で一体となって
自車を本件交差点に進入させたといえる。
以上の事実関係によれば,被告人とAは,赤色信号を殊更に無視し,かつ,重大
な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する意思を暗黙に相通じた上,共同
して危険運転行為を行ったものといえるから,被告人には,A車による死傷の結果
も含め,法2条5号の危険運転致死傷罪の共同正犯が成立するというべきである。
したがって,前記1の危険運転致死傷罪の共同正犯の成立を認めた第1審判決を是
認した原判断は,正当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21
条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官鬼丸かおる裁判官山本庸幸裁判官菅野博之)

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