弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
原判決を取り消す。
被控訴人が建築基準法第四二条第二項に基づき原判決添付図面一、二に赤斜線で表
示した土地につき昭和五二年五月二一日にした道の指定処分を取り消す。
訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。
○ 事実
控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張ならびに証拠関係は、控訴代理人において甲第一二号証の一ない
し四(昭和五七年二月一六日撮影の各種リヤカーの幅についての写真)、第一三号
証の一、二(一は昭和三六年ごろ、二は昭和四〇年ごろ各撮影の本件現地の写真)
を提出し、当審における証人Aの証言を援用し、被控訴代理人において「甲第一二
号証の一ないし四、第一三号証の一、二が控訴人主張の写真であることは不知。」
と陳述したほかは、原判決事実欄の「第二当事者の主張」および「第三証拠」に記
載のとおりであるから、これを引用する。
○ 理由
一 被控訴人が静岡県磐田市長の申請により、建築基準法第四二条第二項に基づい
て静岡県磐田市<地名略>、<地名略>の各土地の全部、<地名略>、<地名略
>、<地名略>の各土地の各一部(原判決添付図面一、二に赤斜線で表示した土
地)および<地名略>の土地(同じく青斜線で表示した土地)につき昭和五二年五
月二一日付で道の指定処分(本件道指定処分)をしたこと、控訴人は右<地名略
>、<地名略>の各土地および右指定対象地に隣接する<地名略>の土地を所有し
ており、本件道指定処分によりその各所有地の一部について建築物等の建築制限の
効果が生ずることになつたため、昭和五二年八月三〇日、静岡県建築審査会に対し
本件道指定処分につき審査請求をしたところ、同審査会は昭和五四年二月九日、本
件道指定処分のうち右<地名略>の土地にかかる部分のみを取り消し、その余の部
分についての請求を棄却する旨の裁決をしたこと、以上の事実はいずれも当事者間
に争いがない。
二 そして、当裁判所も被控訴人の本案前の抗弁はいずれも採用できないものと判
断するのであり、その理由は次のとおり付加・訂正するほかは、原判決理由説示
(原判決一〇丁表八行目から一丁表末行まで)のとおりであるから、これを引用す
る。
l原判決一〇丁表八行目に「本件道指定処分」とあるのを「本件道指定処分(前記
のとおり静岡県建築審査会により一部取り消された後のもの=原判決添付図面一、
二に赤斜線で表示した土地にかかるもの、以下同じ。)」と改める。
2 同一〇丁表一〇行目の「と主張するけれども、」から同裏四行目の「た場合に
は、」までを次のとおり改める。
「と主張する。確かに、特定行政庁によつては、建築基準法第四二条第二項の道の
指定を個別的・具体的には行なわず、一定の抽象的基準を定立し、これを告示する
ことによつて包括的に行つていることは周知のとおりであり、右道の指定について
このような包括指定の方式が採られた場合には、その指定は不特定多数人を対象と
したいわゆる一般処分であるといえるから、被控訴人主張のように、その取消しを
求める訴えは事件としの成熟性に欠けるものということができる。しかしながら、
本件道指定処分は右のような方式によつたものではなく、その対象となる土地を個
別具体的に特定してなされたものであり、」
3 同一〇丁裏末行の「原告所有地」から同一一丁表一行目の「建築し得」までを
「控訴人は本件道に沿つた土地を建築物の敷地として利用することができ」と改め
る。
4 同一一丁表三行目冒頭から五行目の「けれども、」までを次のとおり改める。
「確かに、本件道指定処分が取り消されれば、ほかに道路に二メートル以上接した
ところがない限り、そのままの状態では控訴人はその所有土地を建築物の敷地とし
て利用することはできなくなるけれども、」
三 そこで、本件道指定処分の適否について検討する。
(一) 建築基準法第四二条第二項本文は、同法第三章の規定が適用されるに至つ
た際現に建物が立ち並んでいる幅員四メートル未満の道で、特定行政庁の指定した
ものは、同条第一項の規定にかかわらず、同法上の道路とみなす旨を規定している
ところ、本件道指定地付近一帯が早くから都市計画区域に指定されていたことは弁
論の全趣旨に照らして明らかである。そして、一方、建築基準法が施行されたの
は、その後の昭和二五年一一月二三日のことであるから、本件道指定地が同法第四
二条第二項本文所定の要件を具備したものかどうかは、結局のところ、右建築基準
法施行の日を基準時として、当時の本件道指定地の現況をもとにして判断されるこ
とになる。
(二) そこで、右基準時における本件道指定地の現況をみるに、いずれも成立に
争いのない甲第一号証の一、二、第二号証の二ないし一五、乙第五号証の一のうち
Bの陳述を記載した部分、同じくCの陳述を記載した部分の一部、第九号証の一、
二、四、五、八、九、原審における証人Dの証言により真正に成立したと認められ
る甲第九号証、原審における証人Cの証言により真正に成立したと認められる乙第
五号証の二の記載の一部、原審における証人Bの証言により甲第五号証の一は昭和
二六年ごろの、同号証の二は昭和二五年ごろの本件道指定地付近の一部が撮影され
ている写真であることが認められる右各号証、原審における証人E、同B、当番に
おける証人Aの各証言および原審における証人C、同Dの各証言の一部を総合すれ
ば、次の事実が認められる。すなわち、
1 本件道指定地を含む一区画の土地(他の土地が分筆される以前の静岡県磐田市
<地名略>、<地名略>、<地名略>、<地名略>、<地名略>、<地名略>の各
土地)は、訴外Fが、昭和一〇・一一年代にそれぞれ前所有者からこれを買い受け
て取得したものであり、前記基準時においては、Fは既に亡く(昭和一八年九月戦
死)、右一区画の土地はその相続人の所有となつていたこと、
2 ところで、右一区画の土地は、もとはその全部が畑であつたが、Fはその生
前、家業である竹材の販売業を営んでいたことから、右一区画の土地を取得したあ
と、主としてその南側の部分(原判決添付図面一に「駐車場」と表示されている部
分付近)を竹材の置場として使用し、その北側、とくに西寄りの部分は畑のままの
状態にしておいたこと、
3 そして、第二次大戦後は、Fの実弟である訴外Eが竹材の販売業を受け継ぎ、
併せて右一区画の土地をも管理していたところ、Eは、戦時中、兵役に服している
間に知り合つた訴外Gが、戦後住居に困つていることを知り、同人に頼まれ右一区
画の土地のうち北側の東に寄つた一画(原判決添付図面一に「(旧G宅)」と表示
されている部分)を貸し与え、Gはここに住居用建物を築造し、昭和二四年一二月
二八日ごろからその家族とともに居住するようになつたこと、
4 また、訴外Hの父IはEに雇用され、竹材の買入れ・販売等の仕事に従事して
いたところ、家主にその住居からの立退きを求められ、移転先に窮する事態に立ち
至つたため、EはIに対して右一区画の土地のうち北側の中ほどの一画(原判決添
付図面一に「H宅」と表示されている部分)を貸し与え、Iはここに住居用建物を
築造し、昭和二五年七月一日ごろからその家族とともに居住するようになつたこ
と、
5 ところで、本件道指定地(原判決添付図面に赤斜線で表示されている部分)は
もともと空地になつていて、東側の県道磐田天龍線との間の、主としてリヤカーに
よる竹材の搬入・搬出のための通路として使用されていたものであり、GやHらも
ここに居住するようになつてからは県道との間の出入りのため右空地部分を通行
し、また、訴外Aは基準時当時、前記一区画の土地のうち畑となつている部分(主
として北側の西に寄つた部分)を借り受けて耕作していたことから畑へ至る通路と
して右空地部分を利用していたこと、
6 しかし、右空地部分はその西側の終端部で畑へ通じる畦道(原判決添付図面一
に青斜線で表示した部分)に接していたが、その先は畑であつてどこへも通じてい
なかつたため、右空地部分を通行するのは以上の関係者に限られ、他の者がここを
通行することはなかつたこと、
7 なお、基準時当時既に右一区画の土地の北寄りの東側に隣接する土地(原判決
添付図面一に「J宅」と表示されている土地)上には訴外J方の住居用建物が存在
していたが、その敷地と右空地部分との間には竹藪があつたため、基準時当時にお
いては、J方の者が右空地部分を通路としていた事実はなく、ここを自宅と県道と
の間の出入りのため通行するようになつたのは、その後、竹藪が取り払われてから
のことであること、
以上の事実が認められ、前示乙第五号証の一のうちCの陳述を記載した部分、同号
証の二、原審における証人C、同Dの各証言中、右認定に反する部分は前掲各証拠
に対比するとたやすく措信できず、ほかにこれを覆すに足りる証拠はない。そし
て、右空地部分(本件道指定地付近)が基準時当時において既に道路としての形態
を整え、その敷地が明確となつていたかどうか、また、その幅員が一・八メートル
を超えていたかどうかの点については、前示乙第五号証の一のうちCの陳述を記載
した部分、同号証の二および原審における証人Cの証言中にはこれを肯認する部分
があるけれども、前示乙第五号証の一のうちBの陳述を記載した部分、同甲第九号
証、原審における証人E、同B、当審における証人Aの各証言と対比すると、右各
証拠は基準時以降の状況を基準時当時の状況と混同している節もうかがわれるた
め、これをたやすく措信しがたく、ほかに右の点を肯認するに足りる証拠はない。
(三) ところで、特定行政庁による建築基準法第四二条第二項の規定に基づく道
の指定は、その対象となる土地の所有者その他の利害関係人の意思にかかわりな
く、特定行政庁がその職権により公権力をもつて一方的に行なうものであり、その
結果、一方で個人の財産権の内容に一定の制約を加えるという効果を生ずるのであ
るから、特定行政庁がこれを行なうには、そのようにするに足りる公益上の必要性
が存在することを要するものというべきである。このような見地に立つて考える
と、右条項にいう「現に建築物が立ち並んでいる(中略)道」というのは、ただ単
に建築物が道を中心に二個以上存在していることをいうのではなく、道を中心に建
築物が寄り集まつて市街の一画を形成し、道が一般の通行の用に供され、防災、消
防、衛生、採光、安全等の面で公益上重要な機能を果す状況にあることをいうもの
と解するのが相当である。これを本件についてみるに、前認定の事実によれば、基
準時当時においては、本件道指定地はいわば一つの屋敷内の道路様のものにすぎ
ず、特定の関係者以外にここを通行する者もなかつたのであるから、これが道とし
て一般の通行の用に供されていたとはいえず、ましてや公益上重要な機能を果たす
などという状況にあつたものとは、とうていいえない。そのうえ、当時、本件道指
定地との関係では、前認定のような状態で住居用建物が僅かに二戸(G宅とH宅)
存在したにすぎないのであり、以上のような事実関係のもとにおいては、本件道指
定地は基準時当時、建築基準法第四二条第二項にいう「現に建築物が立ち並んでい
る(中略)道」には該当していなかつたというべきである。そうすると、本件道指
定処分はその要件に該当する事実の存在がないのにされたものであるから、不適法
な処分として取消しを免れない。
四 よつて、控訴人の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由があ
り、右と結論を異にする原判決は失当であるからこれを取り消したうえ、控訴人の
請求を認容することとし訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法
第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 岡垣 学 磯部 喬 大塚一郎)

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